MS-Excelを用いたプッシュプル出力段のシミュレーション(2006.2.5)

  
目次

1.はじめに
2.ロードラインひく
3.近似関数を算出する
4.結果
5.まとめ


1.はじめに

 これまでは、シングル回路のみを取り扱ってきましたが、今回は出力トランスを用いたプッシュプル回路のシミュレーションをMS-Excelを用いておこなってみます。シングル回路の動作は自分なりに理解できていたのですが、プッシュプル回路となるとロードラインの引き方からして複雑で、よく理解できず、シミュレーションも手付かずでした。

 そんな折、このページを見てやっとプッシュプル出力段の動作が理解できた気がしました。あれこれと書店で探した電子工学の入門書でも、B級プッシュプル回路の説明くらいまではあるのですが、出力トランスを介した場合の曲がったロードラインの描き方がこれだけ丁寧に説明してあるものは見つけられませんでした。インターネットで公開してくださったAyumi氏に感謝いたします。


 
この例では、すでに完成しているアンプですが、カーオーディオで用いた5687のパラレルプッシュプル出力段を例にとってシミュレーションをおこなってみました。
 

2.ロードラインをひく


 プッシュプルのロードラインのひき方については、上述の通りこちらのサイトをご参照ください。大変丁寧な説明があります。まずは、プッシュプルの2本分の合成Ep-Ip特性図を作成し、その後、ロードラインからシミュレーションに必要なデータを読み取ります。
 下図は、5687をパラレルプッシュプルとし、動作点をEp0=265V、Ip0=10mA、Eg0=-14Vとした場合の合成Ep-Ip特性図です。作図するためには、非常に多くのポイントを読みとる必要があり、根気を要しますが、
MS-Excelの作図機能を用いることで、多少は手間が省けます。



 次に2本分合成のロードラインをひきます。シミュレーションには、合成のロードラインだけで十分ですが、下図では上下の各真空管の曲がったロードラインも記入してあります。パラレルなので、実際に用いた出力トランスは8KΩですが、RL=16KΩ(P−P)として計算してあります。



3.近似関数を算出する


 ロードラインまでひくことができれば、あとはシングルアンプと同様にロードラインからEgに対応するEpを読み取り、近似関数を得ることができます。読み取りには、エクセルで長方形を作成して定規として用い、「オートシェイプの書式設定」から「サイズ」と進むと長さの表示があるので、グラフからの数値の読み取りに重宝します。

ロードラインから読み取ったデータ

読み取ったデータを以前シングルアンプで作成した計算表にあてはめ、近似関数を得ました。偶数の次数の係数が0になっています。

近似関数とそのグラフ


4.結果

 シミュレーションの結果を以下のグラフでご覧ください。プッシュプルアンプについて、偶数次の高調波が少ないとよく言われますが、計算上は偶数次の高調波は全くでないことが確認できました。また、最大出力時には3次歪よりも5次歪のほうが多いという結果になっています。残念ながら5687アンプは車の中にあり、測定が困難です。従って実測データとの比較はできません。いずれ時間ができたら、他の真空管で比較をしてみたいと思います。

出力波形のシミュレーション結果



最大出力時の高調波歪成分のシミュレーション結果


5.まとめ


 合成ロードラインができてしまえばあとは簡単ですが、合成ロードラインを作成するのは、結構手間がかかります。手間がかかる割りに、実際どの程度当てになるのかよくわかりませんが、最大出力は、実際のアンプとほぼ一致しました。また、合成ロードラインだけでなく、上下の各球の曲がったロードラインも描くことができるようになり、プッシュプル出力段に関して今までよくわからずにもやもやしていた点がすっきりしました。実用にするというより、理解を深めるという点で、やってみた意味はあると思いました。
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