坐 禅

1.はじめに

 みなさんは「坐禅」と聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

 「足が痛くなってつらいもの」「じっとしていないと棒でたたかれる」「すわっている間は何も考えてはいけない」というように考えてはいませんか。確かに坐禅にはそういう一面もあります。しかし、それらは、あくまでも坐禅の一面でしかありません。

 お釈迦さまは、坐禅をしてさとりを開いたといわれています。臨済宗や曹洞宗などの禅宗では、そのさとりを自分で体験することを目的として坐禅をします。ただ、みなさんは「さとり」などと大げさなことは考えないで、自分を見つめたり、心を落ち着けたりする方法として、気楽に始めていただければよいと思います。


2.坐禅の心得

 「同じ水でも、牛が飲めば乳となり、ヘビが飲めば毒になる」という言葉があります。この場合、「水」は坐禅そのもの、「牛やヘビ」は坐禅をする人にたとえられます。同じ坐禅でも、人によっては心の栄養になったり、逆に心に害をおよぼしてしまったりするということです。「発心(ほっしん)正しからざれば、万行(まんぎょう)むなしく施(ほどこ)す」(物事を始める心が正しくなければ、どんな行いでも成果が期待できない)とは坐禅にもいえることです。ですから、坐禅を始める目的は、人それぞれではありますが、おおよその方向性を示しておきたいと思います。

 坐禅について、昔から多くの人が言葉を残しています。その中で、中国の名僧、慧能(えのう)という方の言葉が、坐禅の目的を教えてくれます。慧能禅師は「さまざまな環境によって、気持ちが左右されたり、とらわれたりしない心を『坐』といい、私たち自身にも、そういった周りの環境やその場の感情に左右されない真実の心といったものがある、と信じることを『禅』というのである」、と言っています。つまり、坐禅とは、自分の中にある真実の心に気づくための方法、ということができます。

 むずかしいとは思いますが、今の段階では坐禅とはそういうものか、という程度でかまいません。頭で理解するのではなく、実際に坐禅をしてみて、学んでいただきたいと思います。


3.坐禅の前に

 坐禅の前に確認しておきましょう。

 まず、体調はどうでしょうか。お腹がすいていると集中できませんし、食後すぐでは眠くなります。疲れがたまっていると感じたら、無理をしないのも大切なことです。坐禅は健康管理から始まります。

 次に服装です。基本的に洋服でもかまいません。しかし、できればゆったりしたものを身につけましょう。ベルトや時計、ネックレスなどははずし、くつ下もぬぎます。

 すわる場所は、なるべく静かなところを選びます。強い風や直射日光はさけるようにします。

 すわる場所が決まったら、座布団を1~2枚用意します。平べったい座布団のほうがよいでしょう。ふかふかする座布団ではすわりづらいです。座布団は、1枚の場合はそのまま敷きます。2枚の場合は、1枚は広げて敷き、もう1枚は2つ折りにしてその上におきます。この2つ折りの座布団に腰かけて坐禅します。


4.坐禅の流れ

 それでは、実際に坐禅をしましょう。坐禅のポイントは、姿勢をととのえ、呼吸をととのえ、心をととのえることの3つです。細かいことを見ていく前に、全体の流れを見ていきます。

― 坐禅の流れ ―

(1)坐禅を始める。(合掌)

(2)足を組む。

(3)手を組む。

(4)全体の姿勢をととのえる。

(5)呼吸をととのえる。

(6)心をととのえる。

(7)坐禅を終える。(合掌)

 それでは、坐禅の流れにしたがって説明していきます。


5.足の組み方

 坐禅を始める前に、座布団に正座をして合掌します。その後、あぐらをかきます。

 足を組みます。まず、右足をぬいて左のももに深くのせます。これを「半跏趺坐(はんかふざ)」といいます。足の左右は反対でもよく、坐禅の途中で組みかえてもよいです。

 もう1つ、「結跏趺坐(けっかふざ)」というすわり方もあります。これは、右足をぬいて左ももに深くのせ(つまり半跏趺坐(はんかふざ)です)、さらに左足をその上から右のももにのせるすわり方です。

 正式な坐禅は、この結跏趺坐(けっかふざ)ですわりますが、体のかたい人や坐禅をはじめたばかりの人には、半跏趺坐(はんかふざ)をおすすめします。

 また、半跏趺坐も結跏趺坐もできないという方は、正座でも、イスにすわった坐禅でもよいです。最初のうちは、坐禅の形式にこだわらないで5分間だけすわってみて下さい。



<結跏趺坐(けっかふざ)>


<半跏趺坐(はんかふざ)>

 ちなみに、正座の場合、両足の親指が少しだけ重なるようにすわり、背すじを伸ばします。足がしびれるのを防ぐため、座布団をはさんでもよいです。


6.手の組み方

 足を組んだら、今度は手を組みます。こちらも2通りの組み方があり、「法界定印(ほっかいじょういん)」と「白隠流(はくいんりゅう)」といいます。初心者の方には「白隠流」をすすめますが、自分のやりやすい方を選んでください。

 まず、「白隠流」ですが、両手を軽くにぎり合わせます。かならず左手で右手をにぎりますが、イメージとしては、左手の親指を、右手の人さし指以下4本と、親指ではさむようににぎります。ポイントは力を入れないことと、なるべく爪を見せないことです。

<白隠流(はくいんりゅう)>


 一方、「法界定印」ですが、こちらは仏像に見られる手のかたちです。右手を下に、左手を上にして重ね、両手の親指をあわせて卵形の輪をつくります。

<法界定印(ほっかいじょういん)>

 白隠流も法界定印も、力を入れず、手の位置は下腹のほうへ引きよせておきましょう。結跏趺坐(けっかふざ)で足を組み、法界定印で手を組めば、お釈迦さまの坐禅の姿になります。


7.姿勢を正し、呼吸をととのえる

 すわり方が決まったら、全体の姿勢をととのえます。まず、体を振り子のように軽く左右にゆすり、自然に中心になる感じで止めます。それから、上体を前方に倒し、お尻をうしろに軽くひきます。そして、そのまま上体だけをおこし、全身の力をぬきます。

 口はしっかりと結び、歯を食いしばらないようにします。あごをひき、目はつぶらないで自然に軽くあけておき、1メートルくらい前方に定めます。

 坐禅の姿勢がととのったら、呼吸をととのえます。口をあけて深呼吸をゆっくりします。深呼吸は、先に体の中の空気をはき出して、はきつくしたところで下腹の筋肉をゆるめます。そうすると、自然に空気が入ってきますから、口を閉じ、しばらくは鼻で呼吸をしてととのえます。

 イライラすると呼吸がはやくなりませんか。気持ちを落ち着けるためにゆっくり呼吸しましょう。また、あまり呼吸に意識をしすぎますと、息苦しくなったり、頭がボーとなったりするので、そのときは無理をせず、自然な呼吸にまかせます。ポイントは、口を閉じ、鼻でゆっくり息をはき、ゆっくり息をすうことです。


8.心をととのえる

 坐禅をしていると、普段は考えてもみなかったことが次々と思い浮かんできます。静かなところで座っていると、他にすることがないですから、当然といえば当然です。坐禅を、なぜするのでしょうか。坐禅は、真実の自分を見つめるための方法です。

 真実の自分とは何でしょうか。真実の自分とは、ありのままの自分のことです。「ありのまま」は決して「このままでいい」というような消極的なものではありません。仏教では、「こうなりたい」という願いをかなえるために努力する、その努力をし続けていくことが、本来の人間の姿なのだ、と考えます。自分の可能性と向き合うことを「自分を見つめる」というのです。

 自分とはどういう存在なのか、どのようにしたら社会の役に立つことができるだろうか。そんなことを考えるために、日常とは少し離れた気持ちで坐禅をするのです。何も考えないのではありません。他の人には、ただじっと座っているように見えても、その頭の中では、充実した人生を生きるためにはどうしたらよいか、はげしく思いがめぐっているのです。

 とはいっても、余計なことも考えてしまいます。今日の夕飯は何だろう。そういえば、3日前に貸したお金を返してもらってないなあ、というふうです。そこで、昔から精神を集中させるために、さまざまな方法が考えられてきました。ここでは、数息観(すそくかん)と現成公案(げんじょうこうあん)を紹介します。


9.数息観と現成公案

 数息観(すそくかん)とは、息を数えることです。「ひとーつ(1つ)」、「ふたーつ(2つ)」と数えていき、「ここのーつ(9つ)」、「とーお(10)」まで数えます。「とーお(10)」まで数えたら、また「ひとーつ」「ふたーつ」「みっーつ」……と続けていきます。

 数え方は、「ひとー」で息をすいながら、「つー」で今度は息をはきます。途中でどこまで数えたか分からなくなったら、またはじめから「ひとーつ」「ふたーつ」とします。姿勢を保ったまま、全身の力をぬいて、腹式呼吸を心がけ、ゆっくり行うことが大切です。

 心をととのえる、もうひとつの方法は、現成公案(げんじょうこうあん)です。これは、たとえば、今かかえている人間関係や、家庭や学校、職場での悩みなど、生活の中で自分が直面している問題をテーマにし、問題の表や裏、中身を点検していくというものです。

 問題を見つけるのもあなた自身なら、相談するのもあなた自身です。自分に都合のいい考えはとりあえずやめて、自分のおかれている状況を「他人の問題」として考えることで冷静に解決できるようになる、という方法です。


10.坐禅を終える

 坐禅を終えるときは、始めるときと同じように、座ったまま合掌して足をときます。そして、ゆっくりと立ち上がります。足が痛い場合は、少し歩きまわるとよいでしょう。

 坐禅中だけでなく、坐禅のあとも同じ心でいるように努めましょう。「せぬときの坐禅が大事」といいます。くり返しになりますが、坐禅とは、世の中に役立ててこそ活きるものです。石や草になるために坐禅をするのではありません。

 普段からアンテナをはりめぐらせて、結果よりも、なぜそうなったのかという原因(仏教では、これを「因縁(いんねん)」といいます)を考えるようにしましょう。自分を見つめることも忘れないようにします。


11.坐禅の応用

 坐禅で学んだことを応用して、学校や職場、寝る前などに心を落ち着かせましょう。すべて基本は、姿勢を正し、数息観(すそくかん)でゆっくり呼吸することです。

(1)立禅(りつぜん)……立ってする禅
 足を肩幅に開き、肩の力をぬいて、両手は自然にぶら下げます。背すじを伸ばして、目は半眼に開きます。意識をおへその下、3センチあたり(臍下丹田(せいかたんでん)といいます)において、数息観で呼吸します。

(2)仰臥禅(ぎょうがぜん)……横になってする禅
 寝る前によい禅です。あお向けに寝て、手は軽くにぎり、おへそに置きます。肩の力をぬいて、足は少し開きます。目線は半眼で、天井(てんじょう)の一点を見つめますが、真上よりは前方45度あたりを見るほうがよいようです。この状態で数息観をします。

(3)一息禅(ひといきぜん)
 ちょっとした空き時間にできる禅です。立っていても、座っていても、姿勢を正し、おへその下、3センチあたりの臍下丹田(せいかたんでん)に意識を集中します。肩の力をぬき、息をゆっくりはき、ゆっくりすいます。これをしばらく続けます。

(4)歩行禅……歩きながらする禅
 歩きながら数息観をします。背すじを伸ばし、できるだけゆっくり歩きます。公園などを散歩する場合におすすめです。

(5)いす禅……いすに座ってする禅
 いすは、ソファーのようにやわらかいものより、かためのいすにします。背もたれを使わないで、背すじをまっすぐにします。いすには浅すぎず、深すぎず腰をかけ、足の裏はしっかりと床につけます。ひざは少し開きます。足にも肩にも力を入れないで、上体をまっすぐ、手は坐禅の白隠流(はくいんりゅう)か法界定印(ほっかいじょういん)で軽くにぎります。


12.合掌の意味

 坐禅のはじめと終わりは合掌です。

 合掌は、インドに古くからあった風習で、仏教にとり入れられたといわれます。インドでは、右手を「浄の手」、左手を「不浄の手」と考えます。つまり、両の手のひらを合わせる合掌の形は、清浄な仏の世界と、私たちの迷いの世界がひとつになるという、仏教の理想の姿なのです。

 私たちの心も、きれいな部分と、きたない部分があります。それをしっかり自覚することが大切です。


13.坐禅のお経

 坐禅会などでは、「般若心経」や「白隠禅師坐禅和讃」、「四弘請願文(しぐせいがんもん)」というお経がよく読まれています。とくに、「坐禅和讃」は江戸時代の禅僧、白隠慧鶴(はくいんえかく)が一般の人々に、坐禅の本質を分かりやすく説いたお経として知られています。

 余裕のある方は、ご自宅で坐禅をする前に、お経をあげてみてください。「般若心経」だけで十分です。はじめのうちは、木魚を鳴らさないで、棒読みするとよいでしょう。

 経本は両手で持ち、目の高さまで持ち上げます。親指を内側にし、残り4本の指で外側を持ちます。ページをめくるときは、親指を使います。


14.おわりに

 以上、坐禅について説明してきました。坐禅とは、いそがしい日常を少しだけ離れて、冷静に自分を見つめるものでした。そして、非日常で考えたことを、日常の生活の中に活かしていくことが、坐禅の目的でした。

 足が痛いのを我慢することが修行なのではありません。それでは、ただ苦しいだけで何の役にも立ちません。坐禅の形式にとらわれないで、「坐禅の心」を意識して実践してみてください。

 禅宗は無門(むもん)、つまり「門がない」といわれています。「禅」を学ぶことや、坐禅をすることには、資格も知識も必要ありません。誰でも、自由に、禅門の出入りができるのです。この「坐禅のはなし」が、みなさんにとって、禅への門になることを願ってやみません。