バトル、ドッグファイト、テール・トゥ・ノーズ・・・レースの激しさを表現するどんな言葉も、この日の2人の走りを言い尽くせない
すでに金曜日の予選初日から”ショー”が始まっていた
レイニーがコースインするや、すぐにシュワンツが後ろに張り付く。2人はあらゆるコーナーで抜きつ抜かれつを繰り返し、周回を重ねていく。まるでラップタイムなどお構いなしであるかのように…いや、それでも2人のタイムは、83年から前年88年まで、6年間のタイトルを分け合った3人のチャンプ(フレディー・スペンサー、エディ・ローソン、ワイン・ガードナー)よりもはるかに速いのである
通り雨を挟んだセッションでレイニーが記録した2分12秒420…驚異的と言われたニール・マッケンジーのレコードに対しても2秒、故高井幾次郎の絶対レコードさえも1秒以上上回るタイムを、バトルをしながらたたき出した
2日目こそ、日本のエース平忠彦の入魂のスーパーラップによるポール・ポジションが注目を集めたが、決勝レースはシュワンツ・レイニーの”2人だけのショー”となった
レース9周目のシケインで、ショーのクライマックスを告げる”ゴング”は鳴った
トップを走っていたレイニーを接触覚悟のオーバーテイクでシュワンツがかわす
そのままストレートで後ろのレイニーに軽く手を振るシュワンツ。しかしその行為はレイニーを激しく挑発しただけだった。ペースアップしたレイニーは13周目の裏ストレートでシュワンツを抜くときには大きく手を伸ばし、シュワンツのマシンを叩くように抜き去っていった
シュワンツも黙っていない。すぐさまシケインでレイニーをパス、しかしレイニーが最終コーナーで再び抜きかえす。ストレートではにらみ合ったまま併走し、1コーナーで前に出たシュワンツを2コーナーでレイニーが差し返す…2台はフルカウンターをあてながらダンロップコーナーを駆け上がり、デグナーの立ち上がりから110Rまでウィリーしながら走り、スプーンでは2度ラインをクロスさせ順位を入れ替える…
おとなしいと言われる日本のレースファンが立ち上がって拳を振り上げ、悲鳴にも似た歓声を上げる。そしてそれははまるでウェーブのように、2人がコースを周回していくのと一緒にサーキットをまわっていった
勝負を分けたのは鈴鹿のコントロールライン横のラップカウンターだった
最終ラップに入ろうとするレイニーの目に「2」という数字が見えていた。「残り2ラップ」と判断し、この日初めて冷静に戦略を計算したレイニーの横をシュワンツが猛然と抜いていった
実は、2台がコントロールラインを通過すると同時に、表示が「1」に変るようになっていた
勝負をかけるべく、最終コーナーを立ち上がったレイニーの目に、今度はチェッカーフラッグが見えた…
「レース中、『オレたちはなんてクレイジーなショーをしてるんだ』って思ったよ」
レース後のインタービューで笑顔で答える2人
その後ろで、2人から30秒以上遅れて3位表彰台に滑り込んだ前年のチャンピオンは、憔悴しきった表情を浮かべていた…
最高の役者たちによるクレイジーはショーは、93年のイタリアGPまで毎レースのように続いた…
|