それは、ほんの一瞬のささいなミス…いや、そう言うにはあまりにも酷なシーンだった
このシーズン、何度も繰り返された3人(エディ・ローソン、ケビン・シュワンツ、ウェイン・レイニー)のバトルの最中、大きな右カーブを立ち上がっていくときの出来事だった
激しいレースの終盤、前に出て一気にペースを上げようとするエディ。しかし開発を進めてきたはずの彼のNSRは思うように向きを変えてはくれない
アクセルを開けると同時にNSRは、ガレ岩の点在するリエカサーキットのラフエリアに向かってゆるやかにはらんでいった
ヒザを激しく路面に擦りつけ、マシンのバンク角とトラクションをコントロールするエディ。彼の超人的なマシンコントロールにより、NSRはゼブラゾーンをわずかに越えたところで体勢を持ち直し、コースに復帰した
その一部始終を真後ろで見ていたのがレイニーだった
危険なアウトエリアに向かって滑っていくNSR、必死でコントロールするエディ…レイニーはAMA時代からの友人であり、尊敬すべき先輩の姿を思わず目で追ってしまった…自らのすぐ背後にシュワンツがいることも一瞬忘れて…
コーナーを立ち上がったとき、すでにシュワンツはレイニーのインをすり抜けていた
限界域で走っている最中、自ら走行ライン以外、それもアウト側を注視することがいかに致命的なことであるかなど、十分に知り尽くしていたはずだった
それでも、彼はローソンを目で追わずにはいられなかった。いや、”目を奪われた”という方が正しいのかもしれない
「すごいマシンコントロールだった」
レース後、自らの敗因となったシーンを振り返ったレイニーが語った言葉だ
アンダーストープでのハイサイドを待つまでもなく、このときタイトル争いは決着していたのかもしれない…
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