90's Memory  


#3

2人の狂気(91' ドイツGP) 

featuring, Kevin schwantz
Wayne Rainey


 
 レイニーには絶対の自信があった

 最後のストレート…あのアジップカーブに向かうストレートで前に出れば絶対に勝てるという自信が…

 2年前、このホッケンハイムでローソンとの熾烈な最終ラップバトルを制したレイニーには、たとえシュワンツが最後まで食らいついてきても、あのアジップカーブで前に出られるという勝算があった

 レースはグランプリ記録となる超ハイスピードで進んでいく
 500ccの新レギュラーのジョン・コシンスキーは1コーナーで壮絶なクラッシュを喫し、ミック・ドゥーハンのNSRはリアタイヤのトレッドを飛ばしてスローダウンした

 数ラップを残し、レースはレイニーとシュワンツのマッチレースとなった。決して破綻を感じさせない力強く美しい走りのレイニーに対し、シケインやコーナーを直線的にカットしていく暴力的な走りのシュワンツ…89年以来、何度も世界中を沸かせてきた2人の宿命のバトルは、予想どおり最終ラップになっても続いてた

 オストカーブを立ち上がり、先にストレートに現われたのはレイニーだった。しかし、続くシケインの進入でシュワンツが前に出る…このラップまで何度も繰り返されたシーンだが、この最終ラップではあきらかにレイニーが進入を”許した”結果だった

 続くストレートでは、パワーに勝るレイニーのYZRが前に出るのは明らかだった
 シュワンツが最後
の勝負所であるアジップカーブで前に出るためには、シケインで前に出るのではなく、レイニーの後ろでスリップストリームを利用しなければならないはずだった…ちょうど2年前、レイニーがローソンのNSRのスリップを利用したように…

 予想どおり、ストレートでレイニーがシュワンツをかわす。そして2年前に自らが飛び込んでいったラインをブロックするかのように、ややイン側のラインでブレーキングを開始した

 そのとき、信じられないモノが彼のインをかすめていった。後輪、ときには前輪さえもロックさせ車体をスネーキングさせながらアジップカーブに進入していくシュワンツだった
 そのままマシンをねじ伏せ、アジップカーブを曲がっていくシュワンツ

 このとき、レイニーは本能的にマシンをシュワンツのマシンにかぶせにいった

 300キロを超すスピードからのシュワンツの超人的なブレーキング、さらにわずか数センチ横で激しく暴れるマシンに対し、ためらわずにかぶせていくレイニー…フルバンクさせたままにらみ合う2人…

 もし、レイニーが2年前のローソンのように最終コーナーに照準を絞っていれば逆転できたかもしれない。また、もしシュワンツがシケインでレイニーを抜かなければ、もっと楽に勝てただろう…

 誰にも理解できない”狂気”がそこにあった

 

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