レイニーには絶対の自信があった
最後のストレート…あのアジップカーブに向かうストレートで前に出れば絶対に勝てるという自信が…
2年前、このホッケンハイムでローソンとの熾烈な最終ラップバトルを制したレイニーには、たとえシュワンツが最後まで食らいついてきても、あのアジップカーブで前に出られるという勝算があった
レースはグランプリ記録となる超ハイスピードで進んでいく
500ccの新レギュラーのジョン・コシンスキーは1コーナーで壮絶なクラッシュを喫し、ミック・ドゥーハンのNSRはリアタイヤのトレッドを飛ばしてスローダウンした
数ラップを残し、レースはレイニーとシュワンツのマッチレースとなった。決して破綻を感じさせない力強く美しい走りのレイニーに対し、シケインやコーナーを直線的にカットしていく暴力的な走りのシュワンツ…89年以来、何度も世界中を沸かせてきた2人の宿命のバトルは、予想どおり最終ラップになっても続いてた
オストカーブを立ち上がり、先にストレートに現われたのはレイニーだった。しかし、続くシケインの進入でシュワンツが前に出る…このラップまで何度も繰り返されたシーンだが、この最終ラップではあきらかにレイニーが進入を”許した”結果だった
続くストレートでは、パワーに勝るレイニーのYZRが前に出るのは明らかだった
シュワンツが最後の勝負所であるアジップカーブで前に出るためには、シケインで前に出るのではなく、レイニーの後ろでスリップストリームを利用しなければならないはずだった…ちょうど2年前、レイニーがローソンのNSRのスリップを利用したように…
予想どおり、ストレートでレイニーがシュワンツをかわす。そして2年前に自らが飛び込んでいったラインをブロックするかのように、ややイン側のラインでブレーキングを開始した
そのとき、信じられないモノが彼のインをかすめていった。後輪、ときには前輪さえもロックさせ車体をスネーキングさせながらアジップカーブに進入していくシュワンツだった
そのままマシンをねじ伏せ、アジップカーブを曲がっていくシュワンツ
このとき、レイニーは本能的にマシンをシュワンツのマシンにかぶせにいった
300キロを超すスピードからのシュワンツの超人的なブレーキング、さらにわずか数センチ横で激しく暴れるマシンに対し、ためらわずにかぶせていくレイニー…フルバンクさせたままにらみ合う2人…
もし、レイニーが2年前のローソンのように最終コーナーに照準を絞っていれば逆転できたかもしれない。また、もしシュワンツがシケインでレイニーを抜かなければ、もっと楽に勝てただろう…
誰にも理解できない”狂気”がそこにあった
|