「昭和の音」を聴く。 AMトランスミッタの製作(2007.8.5)

 もの好きな人向けの工作です。現代の音源を用いて、わざわざ中波ラジオ周波数帯の微弱電波に変換し、ラジオで音を聞くためのAMトランスミッタです。CDプレーヤーやiPodからの音楽を5球スーパーやトランジスタラジオで聞くことができます。

回路の設計

 
秋葉原のジャンク屋さんで東芝の12BE6を購入することができたので、これを使うことを第一に考えました。中学生の時に購入した「実用真空管ハンドブック」(誠文堂新光社)の6BE6のページに掲載されていたAMワイヤレスマイクの回路を参考に考えました。

 ライン入力からどの程度増幅する必要があるのかを確認するために、実験回路を作成し、予備実験をおこないました。第3グリッドに入力される電圧を変化させながら、検波された信号の歪率を測定し、許容される最大入力信号の値を測定してみました。

 グリッド変調であるため、あまり深く変調はかけられないようです。1KHzの正弦波を入力し、アナログオシロで出力波形を観察してみました。変調を深めていくと、波形が歪んでいくのが観測できました。




 検波信号の歪率の測定結果は上のグラフの通りでしした。10%程度の歪を許容すると考えた場合、12BE6の第3グリッドには約2.5V(RMS)の信号入力が必要となることがわかります。従って、ライン入力を2.5V程度まで増幅できるアンプを設ける必要があります。今回はヒータが12Vであることから、入手の容易な12AX7を用いて、音声信号の増幅回路を設けることにしました。12AX7は双三極管ですので、二つのユニットを用いることができます。以前、Podのライン出力のレベルを測定してみたところ、最大で560mVであったことから、目標とする利得は少し余裕をみて5倍とします。5倍であれば、1段増幅で十分なので、1段増幅+カソードフォロワの構成とし、負帰還を用いて利得を調整するとともに、特性の向上を図ります。また、AM放送らしく高域をカットする目的で、12BE6の第3グリッド手前にローパスフィルタを挿入してみました。このフィルタは、あわせて12BE6から12AX7に発振している高周波が回り込まないという効果も期待しています。手持ちの再生装置はすべてステレオですので、ステレオ信号をモノラルに混合する回路を入力に備えました。
音声信号増幅部の歪率は10V出力時でも0.126%(1KHz)であり、12BE6の歪と比較して全く問題ありません。



B電源のトランスは以前、iPod用のプリアンプで用いのと同じバンド型の小型のものを使用しました。B電源とヒータ電源にそれぞれひとつ使用しています。回路図はこちら


製作
 ケースは、以前iPod用のプリアンプでも使用したTAKACHIのYM-250というケースを使用しました。寸法は、250mm(幅)*170mm(奥行き)*50mm(高さ)です。微弱ながら電波を出すので、ロッドアンテナを購入して、ケースの後ろにつけてみました。当然ながらロッドアンテナはケースと絶縁して取り付ける必要がありますので、絶縁スペーサとゴムプッシュを用いて取り付けました。
 高周波関係の真空管向け部品はオーディオ以上に入手が難しくなっています。やっと見つけた5球スーパー用の局発コイルはアンテナコイルとセットで売られており、高価で購入をためらいました。エアーバリコンも非常に高価です。そこでトランジスタ用の局発コイルとポリバリコンを使用してみましたが、何ら問題はないことがわかりました。

ロッドアンテナ取付部詳細             

トランジスタ用部品でも発振しました。
使用してみて

 アンテナが短いためか、非常に近くでないと安定して受信できません。我が家のトランジスタラジオを使用して、室内で3mくらいが受信限界でした。ノイズが少なく安定して受信できるのは1m以内でしょうか。発振周波数が高いほうが遠くまで飛ぶようでした。
 
 本機にiPodを接続し、トランジスタラジオで受信して坂本九の「見上げてごらん夜の星を」を聴いてみました。昭和の音がよみがえる思いであります。平成生まれの娘に聴かせたところ、「もっといい音が出るようにすればいいのに」と言われました。「昭和の音」はなかなか理解されません。


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