真空管式カーオーディオ計画 第4号 

その2 パワーアンプ編   (2014.1.28)

回路構成
 パワーアンプ部は、複合管6EM7を使用し、プッシュプル回路で構成します。この球は、電圧増幅管と電力増幅管が1本の管に収まっているので、2本で2段構成のプッシュプル増幅回路を構成することができ、2DINサイズという制約の中でパワーアンプを製作するのに適していると考えました。「その1」で述べたとおり、この構成では利得があまり多くとれませんが、プリアンプの出力が大きくとれるので、問題ないと考えます。負帰還を書けかけた状態で2倍程度の利得を目標としました。

  パワーアンプ部回路図はこちら

 出力段(Unit2)は、自己バイアスを基本とし、DCバランスを調整する分だけグリッドにかかるマイナス電圧を可変できるようにしました。カソード抵抗には、あえてバイパスコンデンサを付けず、A級プッシュプル動作としています。プレート損失は、7.2Wとし、最大定格である10Wに比べて控えめな値としました。これは、2DINサイズの小さなシャーシに4本もの6EM7を詰め込むことを考慮したためです。


6EM7 Unit2 ロードライン

電源部回路
 B電源は絶縁型のDC-ACインバータの出力を倍電圧整流して得られる260V程度の電源を利用します。C電源は、インバータ出力のAC100Vからトランスを介して-14Vを得ました。ヒータに関しては、バッテリ電圧の変動が12.6V程度から14.5V程度と想定し、ロードロップタイプの安定化電源を介してDC12.6Vを得ています。

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保護回路
 電源部とパワーアンプを長いコードで接続する場合、コネクタの接触不良や断線といったリスクがあります。万一C電源のみが供給されない事態になると、出力段に過剰な電流が生じて真空管を痛めます。これを防ぐために、保護回路をパワーアンプ部に設け、C電源が供給されない場合、ヒータがOFFになるようにしてあります。

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シャーシの製作
 夏休みにプリアンプを製作した後、なかなか時間が取れず、結局冬休みになってパワーアンプのシャーシが完成しました。アルファベットと数字の刻印セットを購入し、真空管の型番をアルミ板に刻印してみました。将来、使用した真空管を忘れてしまった際に役立つ点と、見た目のかっこよさからつけてみました。アルミ板の穴あけ完了後に刻印したので、ミスしないように気を付けました。

 また、出力段のカソード抵抗の排熱対策も工夫しました。カソード抵抗は1本あたり2.05Wの発熱がある計算です。これが2本あると結構な熱を出すことになります。カソード抵抗には10Wのメタルクラッド抵抗を用い放熱用のアルミ板に取り付け、これをシャーシ前面中央に配置して、シャーシ前面へ排熱するよう工夫しました。右下の写真で真空管の左側にある飛び出ている部分がカソード抵抗及び放熱板をカバーしたものです。側面をパンチングメタルにして通気を良くし、正面には電源スイッチと、出力段のカソード電流測定用のチップジャックを配置しました。
 なお、真空管左側にあけた穴は、バイアス調整のために半固定抵抗を調整するためのものです。部品を取り付ける平ラグの裏面に半固定抵抗を取り付けてあります。


刻印セット

真空管上部に見える刻印文字

電源部シャーシ


 電源部は前に製作した「真空管式カーオーディオ 第3号」と、ほぼ同じような形になりました。前作と異なる点は、今回は電源部筐体内にヒータ用安定化電源を組み込んだ点です。今回は電源部を後部荷物スペースに配置して4mほどのコードでコンソール部分まで電源を持ってくる計画です。



電源部シャーシ

内部 放熱器はヒータ用安定化電源のもの

特性を測定する

周波数特性

 車に積む前に、直流電源を使用して室内で周波数特性と出力対歪特性等を測定してみました負帰還をかけない状態での利得は、4Ω負荷で3.5倍ありました。これに5.6dBの負帰還をかけ、パワーアンプ部の利得は1.83倍となりました。負帰還のおかげでダンピングファクタは、4.6になりました。パワーアンプ部の周波数特性は下のとおりです。



 さらに、プリアンプ部と合わせた周波数特性は下のようになりました。バスブーストはフラットの状態です。総合利得は16.8倍で、当初の計画より少し少ないですが、なんとかがまんできる数値です。低域が低下しているのは、バスブーストを考慮してプリアンプ部の出力コンデンサの容量を少なめにした結果です。本機製作の動機が車載スピーカーの低域不足を補う目的でしたので、低域を少し上昇させた状態で丁度良い特性になり、かつ、20Hz以下の超低域でのゲインが上がりすぎないよう設定しました。

出力対歪率特性
 efuさん作のフリーウエアWaveGene とWaveSpectraを使用して出力対歪率特性も測定しました。入力をプリアンプから入れパワーアンプの出力を測定しました。プリアンプの入力ショートで残留雑音が0.2mVと、低雑音に仕上げられたおかげで、THD+Nの最小値が0.1%を切ることができました。1kHzで、5.8Wの時、THD+Nが3.32%でしたので、これくらいが実用出力でしょう。
 また、1kHzのほかに35Hzという超低域でも歪を測定してみました。35Hzの場合は、4Wの時にTHD+Nが3.12%でした。思いのほか良い結果で、プッシュプル回路の低域特性の優秀さが確認できました。



電源部の性能

 車載用アンプとして、バッテリー電圧の変動に対応できていなければなりません。本機では、ヒータ電圧には、ロードロップタイプの安定化電源をつけ、B+電源とC-電源については、DC-ACインバータの性能に依存する方式をとっています。完成した状態で、直流電源の電圧を変化させ、アンプ部分でヒータ電圧とB+電圧の変化を確認したところ、下記の通りとなりました。
 ヒータ電源については、供給電圧が高いときには安定していましたが、13Vを下回ると供給電圧から0.6Vほど電圧が低下した状態でヒータ電圧も低下します。これについては、実際の車内でのバッテリー電圧の最低値が12V程度と考えられ、その際のヒータ電圧が11.4Vとなり定格の90%になりますが、実用上は問題ないと思われます。B+電圧に関しては、10.6Vから14.5V程度まで供給電圧を変化させてもほぼ一定の電圧を保つことが確認できました。当然、C-電源も同様に安定していると考えられます。優秀な性能を持つDC-ACインバータ(DENRYO SK-120)のおかげです。





あとは、車への組み込みを残すだけです。
続く

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