6EM7プッシュプル コンパクトアンプ(2007.3.25)(2007.4.14)(2007.11.3)

 このアンプは外観から先に発想したアンプです。自宅の机の上において音楽を楽しむために、重ね置きができるコンパクトな形状のアンプを目指しました。真空管アンプらしくない外観を目指して、高さ83mmにおさまるよう設計しました。使用するトランスは、この高さに収まることが与条件となりました。
 

使用する真空管
 コンパクトにする必要があったので、複合管である6EM7を選択しました。私が購入したSYLVANIAのものはゲッタがてっぺんになく横についていたので、本機のように横置きした場合に正面からヒータの輝きが良く見えるという利点もあります。6EM7だけでは利得が十分にとれないので、初段に6AU6を三極管接続にして使用しました。6AU6は外から見えない位置に配置しました。

回路(2007.4.1)(2007.11.3回路修正)
 回路構成は、三極管接続の6AU6の後ろに6EM7第1ユニットの差動増幅回路、第二ユニットによるプッシュプル出力段という構成です。いろいろと試しているうちに、浅野勇氏の名著「続 魅惑の真空管アンプ」の中に6EM7プッシュプルアンプ「試案」として掲載されている回路に構成が似てきました。入力にセレクタとボリウムを設け、このアンプ単体でソースを接続して使用できるよう構成しました。
 6EM7は、テレビ用の球とはいえ、現在製造されていない貴重な真空管なので、動作点は控えめとし、プレート損失は
6.5W程度として長寿命化を図っています。
回路図はこちら

 前述の通り、高さを83mm以内に収める必要から大きなトランスを使用できませんので、トランスはB電源用とヒータ用の二つを別々に設けました。B電源用は東栄のZT-05、ヒータ用は同じく東栄のJ-633Wという型番のものです。C電源はヒータ回路から得ることにしました。このため、C電源にはあまり高い電圧が得られないので、出力段は半固定バイアスとして、バイアス調整ができる程度のC電源としました。
B電源には、2SC5353と2SC5460をダーリントン接続としてトランジスタ式のリプルフィルタを構成しました。また、初段は、念のためヒータを直流点火しております。
 出力トランスも、シャーシの高さと、予算の関係から小型で安価な東栄のOPT-10P(5KΩ)を使用しました。なお、初段の6AU6の三極管接続で、第3グリッドをアースに落としていますが、これはぺるけさんのウェブサイトの記事を参考にさせていただきました。

正面から6EM7が見えます。幅400mm・奥行き260mm・高さ83mmです。

前面と上下に放熱用の穴をあけました。

サイドには、細かいパンチングメタルを用いて内部の放熱に役立てます。
製作
 このアンプの製作には、配線作業よりもケースの製作に時間がかかりました。アルミの板と既製品の弁当箱スタイルのシャーシを組み合わせて製作しました。400*250mm t=1.5mmのアルミ板を2枚天板と地板に用い、リードのS-31(200*150*80)を間にはさみこむ構造です。前後左右のパネルはアングルで地板から固定し、上のパネルは最後にとりつけ、完成後も簡単に取り外しができる構造としました。
 6AU6をケース内に入れるため、放熱用の穴を多く明け、サイドパネルは全面パンチングメタルとしました。タカチのPA-2というものを用いました。厚さは0.5mm,しかありませんので、荷重はすべて周囲のアルミアングルに受け持たせ、単なるスクリーンとして機能しています。0.9,mm*1mmピッチで大変細かい穴があいており、デザイン的に気に入っております。

上のパネルをはずすと簡単にメンテナンスができます。シャーシをひっくり返す必要が無いのは大変便利です。中央の箱の部分が既製品のアルミシャーシ(リード S-31)です。

サイドパネルのパンチングメタルの詳細です。

アルミアングルで板を組み合わせる構造としています。

フロントパネルは、構造から独立させ、化粧ネジで最後に取り付けるようにしています。フロントパネルまわりは、アングルを貼り付けてエッジを強調しています。
測定と調整 (2007.4.14修正)
 三段増幅のため、負帰還なしの状態でのゲインは108倍もありました。負帰還をかけ、最終的に23倍(27.2dB)のゲインとしました。負帰還量は-13.4dBとなります。このくらいゲインがあるとどんなソースを接続しても音量で不足を感じることはありません。
残留雑音は、左右とも0.12mV程度でした。初段の直流点火やトランジスタ式リプルフィルタのおかげで十分な静寂性が得られています。ダンピング・ファクタは以下の通りです。
Rch   10Hz 11.9   1KHz11.9   10KHz11.9
Lch   10Hz 10.0   1KHz10.0   10KHz10.0

 課題は、クロストークです。20Hzで-79.4dBでしたが、1KHzでは-64.2dB、20KHzでは-51.6dB 、100KHzでは-47.7dBと高域にいくに従って悪化しています。(RchからLchで測定)入力部の切り替えスイッチやボリウムまわりでの飛びつきが原因ではないかと考えられます。

 三段増幅で10dB以上の負帰還をかけると、いろいろと調整が必要になってきます。本機の場合、周波数特性で70KHz付近にピークがあったため、位相補正が必要と思われました。最近、USB接続の安いパソコンオシロを購入しましたので、位相補正の効果を波形から確認することができました。補正のない状態では大きなオーバーシュートが見られましたが、帰還抵抗に並列に6400pFのコンデンサをつけたことろ、ずいぶんとなめらかにすることができました。
また、出力トランス二次側に0.1μFのコンデンサと10オームの抵抗を直列につないだものを接続し、高域での不安定動作を防いでいます。これがない場合、負荷オープンで発振してしまいました。

 出力対歪特性は、真空管アンプらしいソフト・ディストーションの傾向が見られます。最低歪率は0.1%をなんとか下回ることができました。私の家にあるアンプの中ではダンピング・ファクタが比較的大きいためか、低音がしっかりした感じがするような気がします。






位相補正なし 10KHz
 NFB=12.7dB


位相補正後 10KHz NFB=13.4dB

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