検波出力を負帰還に用いて歪の低減を図ったAMトランスミッタ(2017. 4. 2)


 高一ラジオを製作した後、AMトランスミッタで携帯音楽プレイヤーの音をこのラジオにと飛ばしてみたくなりました。以前製作したAMトランスミッタは、友人にプレゼントしてしまったので、新しいものを製作しました。どうせ作るのなら、前回とは違うものに挑戦してみました。

設計方針
 ウェブでいろいろな方の製作事例を勉強していたら、興味深いページが見つかりました。砂村さんという方のウェブサイトにある「AM送信機の音質改善に関する研究的製作」という記事です。AM送信機の高周波信号を検波して音声増幅回路の負帰還に使用し、歪率を低減する試みです。今回は、この記事を参考にAMトランスミッタを製作してみようと思いました。使用する真空管は、見た目を考慮してGT管としました。

回路について 回路図はこちら
低周波増幅回路
 低周波増幅には、6SL7GTを使用し、差動回路としました。入力信号と反対側のグリッドに負帰還信号を入力する形式とすれば、検波回路の信号を高い入力インピーダンスで受けることができると考えたためです。携帯音楽プレイヤーからのステレオ信号は、10kオームの抵抗を介して混合しています。本当は、もう一段ミキサ回路を用意するのが良いのかもしれませんが、スペースの制約から断念しました。また、AM放送の帯域幅を意識して発振・変調回路の音声入力にあたる6SA7GTの第3グリッドに680pFのコンデンサを接続してローパスフィルタとしています。このローパスフィルタは、負帰還を安定させるのにも役立つと考えられます。

発振・変調回路
 この部分は、前回製作したAMトランスミッタをGT管6SA7GTに置き換えたものです。アンテナ出力から390kΩの抵抗を介して負帰還用の検波回路を追加しています。また、ダイオードの向きを反対側にして、測定用の音声出力端子も設けてみました。発振用のコイルは、秋葉原で買ったNo88という発振用コイルを使用しました。このコイルはP・B・G・Eという四つの端子があります。接続のしかたはPockyさんのページを参考にしました。また、同ページを参考にP-B間のコイルを巻き足しています。参考にしたページでは巻き足しは20回でしたが、本機の場合、5回のほうが発振波形がきれいでした。巻き足しを行わない場合は、バリコンを回していくと高い周波数で発振が止まってしまいました。バリコンは300pFのポリバリコンを使用しています。

20回巻き足した場合

5回巻き足した場合

電源回路
 電源はトランスはB電源用とヒータ電源用の2個を使用しました。ともに、バンド型の小型のものです。6SL7GTのヒータは交流点火としたらハムが出たため直流点火としています。また、この直流電圧をマイナス電源としても使用しています。高一ラジオを製作した際に、モジュレーションハムが現れたため、AMトランスミッタでも同様のモジュレーションハム対策として、AC100Vを0.01μFのコンデンサでアースに落としてあります。トランスミッタ側でもこの回路を入れないとラジオで同調した際にブーンというハムが聞こえました。


ケースのデザイン
 最近製作した高一ラジオと並べて使用することを考慮し、高一ラジオと同じ15cm角の立方体の中に収め、同じ寸法の板材を使用しました。今回は正面から真空管が見えるデザインとし、開口部には黒く塗装したアルミ板の額縁をつけ、アクセントとしました。また、バリコンを調節するツマミは、使用頻度が少ないため、底面に配置しています。これにより、正面に真空管を見せるデザインが容易になりました。

外観

底面にバリコンのツマミを配置

背面にロッドアンテナを配置

6SA7GT(左)と6SL7GT(右)
測定結果

 測定は、モニタ用に設けた検波出力の音声信号を電子電圧計とパソコンで計測しました。周波数特性の計測には、低周波発振器AG-204Dと電子電圧計VT-181Eを使用し、歪率の測定はパソコンで、WaveGene と WaveSpectra を使用しました。

周波数特性
 AM放送の帯域幅を意識し、高域をカットしています。負帰還量を多くすることで、フラットな帯域幅が広がっています。12dBの負帰還をかけた状態で高域側で-6dB低下するのが8kHzあたりです。12dBの負帰還をかけた状態で、高域側の減衰カーブで20kHzあたりに変化が見られます。

歪率特性
 モニタ出力の電圧とTHD+Nの関係をグラフ化しました。負帰還がない状態では、THD+Nは最低1.36%でしたが、-12dBの負帰還がある状態では、THD+Nは最低で0.47%となりました。
使用してみて

 12dBの負帰還をかけた状態で、手持ちのwalkmanを接続して、先日製作した高一ラジオで受信してみました。6SL7GTによる低周波増幅部の利得が少ないのではないかと心配ましたが十分な音量で聞くことができました。いわゆる「昔のラジオの音」で、最新の音楽ソフトを聞くことができます。

高一ラジオと共通寸法の木製ケース

1kHzで振幅変調 (NFB:-12dB)
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