真空管式カーオーディオ計画 第3号 (2012.12.31)

ちょっとワイルドな外観

消費電力の問題で第2号の使用を断念

 2011年に製作した4チャンネルのアンプを使用して1年が経ちます。夏になりエアコンを使用する機会が多くなるとバッテリー電圧が低下する傾向がみられ、DC-ACインバータから電圧低下を知らせる警告音が頻繁に発生するようになりました。警告音は「ピー」という耳につく音でとてもカーオーディオを楽しんではいられません。どうやらバッテリーに比べてオーディオシステムの消費電力が大きすぎるのが問題であると考え、全く別のシステムを製作することにしました。思い立ったのは夏休みでしたが、完成したのは冬休みです。


設計方針

 消費電力を少なくするということを第1にし、効率を重視して5極管を出力管として使用する計画とします。規模の問題を考え2チャンネルアンプとし、片チャンネル10W程度の出力を目指しました。車載用なので、当然耐震性が求められます。そこで、今回はかつて車載用として用いられたというロクタル管で構成してみました。
 DC-ACインバータは、高価な正弦波出力の絶縁型を第2号のために購入してありましたので、これをそのまま使用し、絶縁型のメリットを出すために、AC100Vを倍電圧整流して得られる250V程度をB電圧として使用する計画としました。また、ヒータはロクタル管ですので、バッテリーの電圧変動(12V〜14V程度)
には耐えられると考えられますが、念のため、12.6Vの安定化電源を組むことにしました。


回路について

アンプ部
 上記の方針により、使用する真空管は、全てロクタル管とし、出力管は7C5(6V6相当管)、ドライバは14N7、初段は14F7を用いました。出力管にはカソード帰還をかけています。利得は、帰還のない状態で184倍(45.3dB)カソード帰還、オーバーオール帰還をかけた状態では21.8倍(26.8dB)となりました。iPodを音源とするのに過不足のない利得に仕上がっています。

アンプ部回路図

ヒータ電圧安定化回路
 車載バッテリーの電圧変動はいつも頭の痛い問題です。B電源については、DC-ACインバータのおかげで安定化できましたが、ヒータはバッテリーから電流を供給するため、別の手段が必要です。また、電圧が低い場合は12V程度になるので、なるべく電圧低下の少ない方式が望まれます。前回使用したDC-DCコンバータによる方式もよいですが、ノイズ対策が面倒です。そこで今回は、ON抵抗の低いFETを用いた安定化電源を製作しました。
 仮組して実験していた時に、電源ONのタイミングによって、出力電圧が0V近くになってしまうトラブルが発生したため、電圧検出用のOPAMPの電源回路の立ち上がり時間を少し遅らせる必要が生じ、抵抗とコンデンサで、ディレイ回路を構成してあります。このコンデンサに残った電荷が悪さをして、後述するリモート回路がOFFにならないトラブルがあったため、電源スイッチをOFFにするとコンデンサを放電するよう改造して対策をしました。

保護回路リモートON回路
 また、出力管を固定バイアスで使用していますので、万が一バイアス電圧が供給されない場合に過電流が流れてしまい、真空管の寿命を短くする危険があります。そこで保護回路として、C-電圧が供給されない場合にはヒータ回路を遮断する回路も併せて組み込みました。安定化電源と同じON抵抗の低いFETを用いています。C-電圧を検知するフォトカプラの手前に抵抗とコンデンサによるディレイ回路を設けた理由は、アンプ部のグリッドリーク抵抗につなげたバイパス用の100μFが大きすぎて、グリッドのマイナス電圧の立ち上がり時間が遅くなるのに合わせてヒータをONにするためです。ヒータが温まる時間がかかるので通常は問題にはならないと思いますが、念のためです。

 また、DC-ACインバータには、ON-OFFをリモート制御できる端子がついていたので、これを利用してコンソール側のスイッチでインバータの電源ON-OFFを制御するリモート回路も付属しています。

安定化電源・保護回路・回路図

電源部
 電源電圧は、家庭用電源を倍電圧整流した場合よりもなぜかDC-ACインバータ出力を倍電圧整流した方が少し高い電圧となり、264Vとなりました。当然ながら、絶縁型のインバータでない場合は絶縁トランスが必要になります。DC-ACインバータは、正弦波出力とはいえ、やはりノイズが含まれていますので、AC出力にノイズフィルタを挿入しました。負帰還なしで7mVも出ていたアンプの残留ノイズが1mV程度に減少する効果がありました。B電源の整流・平滑回路と、C電源のトランス及び整流・平滑回路をDC-ACインバータと共にアルミケースに入れ、助手席の足元に置く仕様としました。少し足元が邪魔ですが、なんとかなる大きさに収まりました。

電源部回路図

コンソール内にアンプ部を置く

 私が乗っているいすゞピアッツァは、ありがたいことにカーオーディオ用のスペースが3DINサイズ確保されています。今回の試みとして比較的大きなロクタル管を使用しますが、なんとか3DINサイズの中にアンプ部を納めてみようと挑戦してみました。放熱を十分確保するために、真空管がむき出しの状態となりましたが、なんとか収まっています。当初はDC-ACコンバータ以外の電源部分もこの中に納めてみたのですが、さすがにノイズが大きくなり無理があったので、電源部は別シャーシに移動しました。
 完成後もバイアス調整が簡単にできるよう、電圧測定端子とバイアス電圧調整用の半固定抵抗を外部に露出させています。
 通常の平たいシャーシに裏面から配線するのと異なり、立体的に配置された部品の間に配線を通すことになるので、部品の組み付けと配線の順序をよく考えて段取りよく配線する必要がありました。出力トランスは重さがあるので、両サイドの2mm厚のアルミ板に直接ねじ止めしています。抵抗やコンデンサは平ラグ及び穴あき基板に固定し、耐震性に配慮してあります。

シャーシ外観 
真空管むき出しの無骨なデザインです

ロクタル管7本が並ぶと壮観です。
縁がつくと無骨な印象も少し和らぎます
助手席足元に納める電源部

 DC-ACインバータと、ACラインフィルタ、B電源の整流、平滑回路と、C電源のトランス、整流平滑回路をアルミケースに納め、助手席の足元に置くようにしました。本当は後部座席後ろが望ましいのですが、バッテリーからの配線が長くなり、電圧低下の問題が起きることを防ぐために、助手席足元にしました。DC-ACインバータには、放熱用のファンが付いているため、通気用の穴をあけてあります。見た目はよくありませんが、助手席前のフロアマットに隠れて何とかなっています。問題は時折DC-ACインバータのファンが回転する際にファンの音がケースに共鳴して大きく聞こえる点です。ゴムで共振を抑えるという対策を考えています。

 

電源部シャーシ中身

電源部は助手席足元に置きます。
測定結果

 車に装着した状態では測定できないので、家の中で直流電源を使用して各種測定を行いました。残留雑音は0.77mVになりました。パソコンのFFTで観測するとハム成分は少なく高周波のノイズがまだ残っているようです。耳には全く聞こえません。周波数特性に関しては、位相補正なしの場合は140kHzあたりにピークがみられましたので、位相補正でピークをなくしてあります。歪率は、なんとか0.1%程度に納めることができました。ノイズが大きいのでこの辺が限界です。
ダンピング・ファクタは6.3を確保できました。クロストークに関しては、20Hzで-68.4dB、1kHzで-68.9dBでしたが20kHzで-54.9dB,100kHzでは、-43.6dBと悪化しています。初段管を左右チャンネルで共有しているため、やむをえません。

試聴運転

 カーオーディオは試聴は運転しながら行いました。12月31日に完成したので大晦日の試聴運転です。何よりも、運転席からのロクタル管の眺めが良いです。アンプの利得と音量は全く不足を感じませんでした。上述のDC-ACインバータのファンの騒音が気になりますので、何らかの対策を行う必要がありそうです。バッテリー電圧低下の問題はもう少し時間をかけてみないと検証できませんが、消費電力が減少しているので改善の方向には行っていると考えられます。続きはまた来年です。

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