カーバッテリー電源で動作する真空管式AMトランスミッタの製作

(2019.8.28)


 B電源を自動車のシガーライターソケットから直接接続して使用できるコンパクトなAMトランスミッタを製作しました。車内でウォークマン等の携 帯用音楽再生機器を接続してAM電波を飛ばし、カーラジオで受信させて使用します。ウェブで探すと本機のようにDC12V程度の低電圧で通常の真 空管を動作させている作例がいくつか見つかります。自家用車のバッテリー電圧はエンジンが回っている状態では13Vから14Vくらいあるので、B 電圧13.5Vを設計の目安としました。

本機の外観

使用した真空管9A8(東芝製)

使用する真空管

 6BL8の同等管で、ヒータ電圧を9Vとした9A8という真空管を使用しました。理由は、カーバッテリー電源から3端子レギュレータで降圧して ヒータ電源を得られるためです。メーカーのデータシートでは、こんな低電圧の動作は読み取りにくいので、このような回路の試験装置を製作し、低電圧でのデータを測定してみました。数種類のメーカーの 9A8を測定しましたが、一番特性がきれいだった東芝製のものを掲載します。グラフをクリックすると拡大します。
 
東芝製9A8 三極管部 Ep-Ip特性
 
東芝製9A8 五極管部 Ep-Ip特性
 メーカーによる差が大きかったのは、五極管部のEg=0Vから+6Vにかけての領域で す。東芝のものは上のグラフのように、Eg > +0.3Vの領域は重なって見えますが、他のものはEg > +0.3Vの領域のグラフの位置がばらけています。日立製とSYLVANIA製の例を示します。通常の使用であれば誤差のうちかも知れませんが、低電圧動作では大きな差に 見えます。

日立製9A8 五極管部 Ep-Ip特性

SYLVANIA製9A8 五極管部 Ep-Ip特性

回路について

 LC発振回路では周波数が時間とともに変動して実用性に劣るため、水晶発振子を使用します。発振周波数は1MHzとし ました。三極管部で発振し、五極管部でグリッド変調する回路を採用しました。12V程度の低電圧でも立派に動作します。試行錯誤したのは、五 極管部のグリッド抵抗です。抵抗値を大きくすると出力が増えて歪が増し、小さくすると出力が減って歪が減少する傾向にありました。最終的に 82Ωとしました。

ケースの製作

 ケースについては、一番外側のアルミ板(t=1.5mm)を曲げ加工し、すっきりとした外観を目指しました。精度の高い曲げ加工は自宅の工具では難しかったので、こちらの会社に お願いして製作してもらいました。ケースの両端はアルミパンチングメタルでふたをしました。ケース上面に開けた丸穴から真空管をのぞいて悦に 入ることもできます。部品の取り付けに穴あき基板などを使用すればさらに小型化できると思いますが、今回は回路の試行錯誤を行うために平ラグ を使用しています。平ラグの下に三端子レギュレータを取り付けています。

内部

自動車の中で使用する様子

歪率の測定

 検波回路を接続して検波出力と歪率の関係を グラフにしてみました。低電圧動作(測定時は13.5V)ですが、最低歪率は0.73%(東芝製)とすることができました。負帰還をかけてい ない割には良い数値となっています。他のメーカーの9A8を使用した場合のデータも掲載します。Ep-Ip特性図があまりきれいではなかった SYLVANIA製も良い数値になっています。
   
   

 オシロスコープでの観測

 1kHzの信号500mV(RMS)を入力して、五極管部のグリッドとプレートの波形を観測してみました。入力端子で500mVあっても抵抗で分圧されるので、9A8の グリッドでは225mV程度になっている計算です。

1kHz 500mV(RMS)入力の場合のグリッド波形
X軸:5ms/div Y軸:200mV/div

1kHz 500mV(RMS)入力の場合のプレート波形
X軸:5ms/div Y軸:5V/div

使用してみて

 自分の車にはラジオか付いていないので、妻の車に乗せて使用してみました。豊橋から長野県までドライブしました。愛知県内では問題になり ませんでしたが、長野県では1MHz近くにAM放送局の電波があり、ビート音を感じました。水晶発振のため同調のずれは一切気になりません が、周波数を変えられないのは欠点です。車以外でも、DC12VのACアダプタを使用して、室内で使用することもできます。18歳のころ使っ ていたラジカセが手元に残っており、ラジオ部分は使えたので、当時の音楽をAM電波に乗せて聴いてみました。40年前にタイムスリップした感 覚を味わえました。
 長さ1mほどのコードをアンテナとし、室内で使用していてラジオと本機の距離が3m程度を超えると音声が聞こえなくなるので、電波法には違 反していないと考えます。

 
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