マッキントッシュMA6100真空管化計画 (2008.8.21)
製作の経緯
 友人のFさんに頼まれて途中から製作したものです。往年の名機マッキントッシュMA6100のシャーシ(ジャンク)を改造して真空管式フォノイコライザとラインアンプを組み込むというものです。雑誌に上杉佳朗氏が発表した「ディスク中心型プリアンプ」の回路を用い、ベーク板の配線も実体配線図を参考に製作しています。回路構成は、フォノイコライザを12AX7の2段増幅(NF型イコライザ)+カソードフォロワ、ラインアンプを12AU7の2段増幅というものです。Fさんは基板の製作(これがいちばん面倒だと思うのですが)を終えたところで力が尽きてしまったようです。その後の部品組付けやシャーシ加工、別シャーシの電源部の製作は私が引き継がせていただきました。

 シャーシはジャンク品らしくあちこちサビが浮いていましたが、フロントパネルは非常にによい状態でした。入力端子や入力セレクタ周りの配線は残っており、そのまま使用することにしました。

引き継いだときの状態

Fさん力作の基板

金色に渋く輝くマッキントッシュロゴ
電源部の製作
 最初に、手付かずであった電源部の製作に取りかかりました。ケースはLEADのPS-5を使用しています。元の色はブルーだったのですが、本体に合わせてつや消し黒の塗装をおこなっています。このケースは、安いのはよいのですが、パネル面の支持方法が底面からのみであるため、ソケットの抜き差しを繰り返す今回の用途では強度に不安があったので、アルミの三角板で補強をしています。
 オリジナルの設計では電源スイッチは、トランスにつながるAC100VをON-OFFする配線をプリアンプ本体まで引っ張る仕様になっていましたが、ノイズ混入の可能性を低くするため、リレーを使用し、電流の少ないリレーコイルのON-OFFをプリアンプ側でおこなうようにしました。また、オリジナル設計ではプリアンプ本体内部にあったヒータの整流、平滑回路も本体側から電源部に移動させています。
 MA6100のフロントパネルの美しさは背面からの豆電球照明によるところが大きいと思います。全部で7個の豆電球が点灯するようになっており、調べたところ、1本あたり6.3V0.15Aの電源が必要であることがわかりました。並列つなぎなので全部で1.05A必要です。ヒータ用の巻き線の余裕ではカバーできないので、少々もったいないですが豆電球専用のトランスを別途設置しました。MA6100の配線を見てびっくりしたのですが、この豆電球はマイナス側をシャーシに接続してあるだけで、プラス側の配線のみで電源を供給していました。DCで点灯ならば問題ないのかもしれませんが、ノイズに気を使うプリアンプとしては大胆な配線だと思います。電球の配線は既存のスイッチと連動して複雑なので、あえて新規には配線せず、既存の配線を使用しますので、豆電球電源は直流とし、ノイズの低減を図ります。


電源部内部

塗装した状態

USプラグで接続
本体の配線とカバー製作
 Fさんが記事に倣って製作された基板は、厚手のベーク板に2.5mmビスをネジ止めして端子として使用するもので、初めて目にするものでした。いつもアドバイスをいただいている隣の田原市のKさんにご助言をいただき、真鍮製ならば問題なくハンダ付けできることがわかりました。一部鉄製のビスは取り替えて使用しました。基板上面に部品をとりつけ、下面で配線をおこなう仕様になっておりました。完成してみると基板上からの眺めは壮観であります。チューブラー式のコンデンサを好む真空管ファンが多いのもうなづけます。
 基板がむき出しでは感電の危険があり、ノイズ対策上も好ましくないので、アルミ板を曲げてカバーを製作しました。運良く電気工作仲間のIさんが折り機のキットを購入したというので折り機の組み立てからお手伝いさせていただき、使用第1号作品として無事1mm厚のアルミ板を折り曲げることができました。アルミ色のままで本体と調和しないので、つや消し黒で塗装しました。カバー上部に真空管のシールドケースが少しだけ頭を出すようにし、真空管アンプであることを主張するデザインとしました。

完成した基板

製作したカバー(塗装前)

カバーを塗装
ボリウムの工夫
 なるべくオリジナルのMA6100の部品を活用しようと思い、ボリウムはMA6100のものを使用しました。MA6100はボリウムと電源スイッチが同じつまみで操作するようになっており、一番左にまわすとパッチンと電源が切れるというレトロな仕様になっています。また、ボリウムの抵抗値が700kΩと非常に高いという問題がありました。このままでは、シールド線の容量の影響でボリウムを絞るとローパスフィルタになってしまします。配線の容量を下げようにも、ボリウムが電源スイッチに隣接しているので、シールド線を使用しないとノイズを拾ってしまいます。ためしにボリウム50%で周波数特性を測定したところ、20kHzで-9dBという恐ろしい特性になってしまいました。
 そこで、ボリウムの真ん中の端子とと両側の端子の間に100kΩの抵抗を接続して回路のインピーダンスを下げたところ、ボリウム50%で20kHzの値は-2dBまで改善しました。これでもまだ少し不満が残る特性ですが、オリジナルの操作性を重視し、妥協しました。今日では、スイッチ付きの2連ボリウムを入手するのは非常に困難ですので、やむを得ません。抵抗を接続したので本来のA型カーブとは異なるはずですが、使用上の違和感はそんなにありません。


バランス調整も可能にする
 当初は、高域特性の悪化を懸念してバランス調整ボリウムは省略したのですが、Fさんの希望によりバランス調整用ボリウムウムも追加しました。部品としてついていた2連ボリウムは500kΩのB型でした。このまま使用するとインピーダンスが高く、高域特性が悪化する恐れがあったので、下の回路図のように低い抵抗値をかませて回路インピーダンスを低下させました。バランスつまみを操作した場合の音像の変化が通常とは異なりますが、あまりバランスを調整することは通常では少ないので、高域特性を優先して考えました。
 またバランスボリウムは電源スイッチからは離れているので、バランスボリウムからグリッドまでの配線はシールド線をやめ、通常の配線として入力容量の低減を図りました結果としては、シールド線廃止の効果も大きかったようで、バランス調整ボリウムを追加し、シールド線を廃止した後の周波数特性は、ボリウム50%でも20kHzで-0.33dBと高域特性が大幅に改善しました。

バランス調整ボリウムを追加し、シールド線を一部中止
諸特性の測定

 プリアンプはメインアンプに比べて出力インピーダンスが高くて信号レベルが小さいため、周波数特性や歪率特性の測定には、測定装置の性能の限界から正確な数値でないと思われますが、一応の測定結果を以下に示します。




 3番目のおそろしく高域の低下したグラフは、一番最初にボリウム700kΩのまま、ボリウム50%でシールド線を使用した場合のものです。その後、ボリウムのインピーダンス低下やシールド線の廃止で上のグラフのような特性に改善されました。プリアンプでの低インピーダンス化と配線のひきまわしの重要性を再認識させるグラフです。


 RIAA偏差も測定しました。やや低域が不足気味であることがわかります左右とも同じ傾向ですので、オリジナルの回路定数によるものと推察しています。


 ラインアンプ部の出力対歪率特性です。通常のメインアンプの入力として必要とされる1V前後の歪率は0.1%を下回っています。また、各周波数のカーブもほぼ揃っており問題ない特性だと思います。小音量で歪率が増加しているのはノイズの影響で、測定側の問題もあると思われます。
 納品前1週間ほど自宅で試聴していましたが、小音量時もノイズが気になるようなこともなく、実用上問題ないレベルに仕上がったと思います。あまり手元においておくと情がうつって納品したくなくなりそうなのでそろそろFさんの家にもって行きます。


納品
 無事納品しました。下の写真はFさんのオーディオルームです。このように置いてみるとやっぱりかっこいいです。パワーアンプは300Bシングルです。


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