負帰還をかけた真空管増幅器のシミュレーション
2005年2月5日
2005年2月7日修正
2006年8月21日修正
HARU@豊橋
1.はじめに
2.無帰還状態の多項式を得る
3.多項式を元にExcelの表を作成する

4.負帰還をかけた場合の多項式を得る
5.出力波形と高調波歪率を計算する
1.はじめに
 入力電圧をx、出力電圧をf(x)としたとき、で近似される特性を持つ増幅器に負帰還をかける場合の入力電圧と出力電圧の関係を示す近似数式の求め方を考えてみます。
 素人の考えた自己流ですので、考え違いなどあるかも知れません。お気づきの際はご教示願いたいと存じます。

 負帰還をかける割合(出力電圧を入力に逆相で加える電圧の出力電圧に対する割合)をt(t>0)とします。負帰還をかけた時の出力電圧がy、入力電圧をx' 、負帰還をかけない場合に出力電圧がyとなる入力電圧をxとすると、x'とyには以下の関係が成立しています。
y=f(x'+ty)  y=f(x)  したがって、 x=x'+ty
従って、x'とx,y,tの関係は、
x'=x-ty・・・@
(2006.8.21: tの値をt>0とすることで数式を修正)
 すでに、無帰還状態での数式f(x)から、入力電圧として想定される範囲の任意のxについて無帰還時の出力電圧f(x)を得ることができます。これをもとにして、負帰還をかけた場合の入力x’と出力の関係式g(x’)を求めることとします。
 x'とyの関係を示す方程式を導く方法を考えようとしたのですが、難しくて手におえません。そこで、今回もExcelのグラフから近似多項式を得る方法を応用します。

 無帰還時の入力と出力の関係を示すグラフ上のいくつかの点について、出力電圧yが得られていれば、負帰還をかけた場合にyを得るために必要な入力電圧x’を得ることは、@式を用いて簡単にできます。

 すでに、f(x)については、グラフを得ることができていますので、グラフ上のいくつかの点(なるべく広い範囲かつ多くの点が望ましいです。)について、負帰還をかけた場合の入力電圧変化x'と対応するプレート電圧の変化yの組を得ることができます。
 そして、MS-Excelの機能を活用して、これらの点から散布図を作成し、近時多項式を得ることができます。この近時多項式が負帰還をかけた場合の入力x'と出力yの関係式y=g(x’)ということになります。

 以下、設計・製作中の45シングルアンプの例を題材に、負帰還をかけてみた場合の入力電圧と出力電圧の関係式を求めてみます。


2.無帰還状態の多項式を得る

 45シングルアンプ(設計編)より、76-76-45の三段増幅のアンプ(無帰還)の初段入力と出力段のプレート電圧の関係は、
となります。(出力段RL=3.5KΩの場合)
 この式を得る方法については、こちらこちらをご参照ください。


3.多項式をもとにExceiの表を作成する 

 この表のように、入力(76初段への入力電圧の変化)と出力(45のプレート電圧の変化)の関係をExcelの表に入力します。出力電圧の変化を示す関数は、2.で得られた多項式の係数を用いれば、・・・A ということになります。

 A式を用いて、入力電圧xを-0.46Vから+0.46Vの範囲で変化させた表をExcelを用いて作成します。ポイントは多いほうがより正確な近似式が得られるはずです。(この例では38ポイント)各々のxに対してyはA式で求めることができます。また、x'も@式により計算できます。従って、Excelの機能を用いることにより、定数tを定め、xを入力すれば、x'とyは自動的に入力できます。

 下の表で、定数tは、45のプレート電圧の変化に対する帰還電圧の割合をあらわします。tの値は出力トランスによる変圧の値と帰還抵抗による分圧で決まります。この場合、出力トランスは3.5KΩ:8オームなので、3500/8=437.5。=約20.9ですので、、出力トランスにより、20.9分の1に変圧され、さらに帰還抵抗によって9.56分の1に分圧されると仮定してt=0.005という値をとりました。




4.負帰還をかけた場合の多項式を得る

 3.で得られた表から、x'とyの相関図をExcelのグラフウィザードを用いて散布図を作成し、このグラフを元に近似多項式を得ます。



得られた散布図から近似曲線を得ます。

多項式近似を選択し、次数を最大の6とします。


「オプション」タブをクリックし、近似曲線の多項式を得ます。

これで完成です。



5.出力波形と高調波歪率を計算する

 4.で得られた6次の多項式は、負帰還をかけた場合のこのアンプ(76-76-45の総合特性)の初段76への入力信号と45のプレート電圧の変化の関係を示した多項式ということになります。

 なお、この式は、あくまで近似式ですので、ポイントのとりかたによって多少の誤差を生じます。2通り(もう一方は19点で計算しました。)のやりかたで試してみたところ、6次関数の各係数の違いが最大で3.36%生じましたが、高調波歪率の計算結果の差は、0.001%でしたので、実用上は問題ないと考えています。

 この式があれば、あとは、別掲「MS-Excelを用いて真空管のEp-Ip特性図から出力波形と高調波歪率を計算する」に記載した手法を用いて、出力波形と高調波歪率を計算することができます。以下結果のみをご覧ください。







 ご参考までに、同じ回路で負帰還をかけない場合の高調波歪率と出力波形のグラフは以下のようになりました。どちらも出力が約2Wとなる入力電圧での比較です。
 NFBをかけることで、ゲインが約半分になっていますが、その分、高調波歪率は2.448%から1.187%に減少することがわかります。実際の製作でこのような結果がえられるかどうか楽しみです。






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