真空管式トーンコントロール付きプリアンプの製作(2022.7.24)

 加齢とともに高音域が聞こえづらくなってきました。また、左右の耳で高音の聞こえ具合が違ってきています。そこで、左右独立のトーンコントロール 回路を持 つプリアンプを真空管回路で製作してみようと思いました。


トーンコントロール回路について

 トーンコントロール回路については、ぺ るけさんのウェブサイトにわかりやすい解説がありました。また、長真弓著 『真空管アンプ設計自由自在』の58ページから63ページにもトーンコントロールの解説があります。ぺるけさんの解説はCR型トーンコントロールについて でしたが、これを負帰還回路に挿入す ればNF型トーンコントロール回路になります。NF型の場合、増幅回路の出力インピーダンスはなるべく低くするのが望ましく、また負帰還を受ける回路の入力イ ンピーダンスはなるべく高いことが求められます。真空管を用いてこの条件を満たすために、初段を12AX7の作動増幅回路とし、 2段目は 12AU6(6AU6のヒータ電圧が12.6Vになったもの)の三極管接続とました。古の真空管式オペアンプに近い考え方です。

Excelを用いてトーンコントロール回路をシミュレーションしてみる

 ぺるけさんや長真弓さん解説文を読むと、なんとなく理解できたような気がするのですが、実際の回路を設計しだすと入力インピーダンスの周波数特性や 負荷抵抗が変化した場合の特性など、実際に数値計算してみないとわからないものが出てきました。特に、BASS回路とTREBLE回路の間に抵抗を挟んだ 場合、理解しやすいインピーダンスの並列計算では解くことができません。(下図)


R9(Z5) が入ると並列計算では解けなくなる

 基本に立ち返って電気工学の入門書を読み、回路R9の両端の電圧を未知数とする連立方程式をたてて解を求めました。シミュレーションソフトを使用す ればすぐに 結果は出ますが、理解を深めるために自分で数式をたててExcelで計算してみました。詳細はこちら。不勉強のため、これまでエクセルには複素数の加減乗除の関数がある ことを知らなかったのですが、今回初めて使用てみて大変便利でした。計算の解説はこ ちら 

 シミュレーションの結果、回路の入力インピーダンスは、高域で低下する傾向にあり、R6を0にした場合に、80kHz以上の周波数で32kΩに なることがわかりました。この値であれば、大丈夫と考えました。


回路設計

 フォノイコライザの回路は、ぺるけさんのページ からのコピーです。2段目がSRPPになっており、上側の三極管が左右チャンネル共通になっています が、プレートが交流的にアースされているので、クロストークに問題はないとの記載がありました。

 ラインアンプ部は、前述の通り差動入力を用いたNF型トーンコントロールを持つ回路を採用しました。トーンコントロールにはボリウムではなく、各 チャンネル独立して1回路12接点のロータリースイッチを使用しました。中間点から上に5ポジション、下に5ポジション変化させます。12接点なので、中 間点から180度回った接点が余りますが、この接点は+5番目の接点に接続してあります。接点間の抵抗値はおおよそ3dBごとに変化するよう、エクセルで 計算して選びました。

 また、電源は、手持ちのプリアンプ用パワートランス(TANGO ST-30S)を使用することを前提に設計しました。ヒータはプリアンプなので直流点火としました。フォノイコライザを使用しないときは、入力セレクタと連動したスイッチ 回路でフォノイコライザのヒータをOFFにしています。このため、ヒータ回路の電流が2通りになってしまう問題があり、ヒータ電圧を一定に保つために三端 子レギュレータを使用しています。12.6Vという中途半端な電圧に合わせるために、12V用の三端子レギュレータのGND端子とアースの間のダイオード を入れて電圧をかさ上げしています。

 ヒータ回路には+50Vにバイアスがかけられています。ヒータ回路を交流的にアー ス電位にするためのコンデンサ(47μF)がないと、雑音が発生しました。

回路図はこのようになりました。

増幅部回路図


電源部回路図

ケースの製作    

 ケースはホームセンターで売っているアルミ平板を加工して自作しました。正面パネルだけは厚さが3mmあるので、指定寸法に切り出したも のを通販で購入し ました。増幅部は左 右 チャンネルを2階建て構造にしてあります。左右チャンネルの間に床板が入るので、チャンネルセパレーションの向上が期待できます。側面にはヒノキの板材をねじ 止めしまし た。ホームセンターで指定の寸法に加工してもらいました。紙やすりで表面を磨いた後、植物性のワックスを塗って仕上げてあります。


シャーシ内部図面

外観 真空管上下に換気用の開口を設けました

内部 増幅部は2層構造。上段はLch

下から見たところ 下段Rchはシャーシ下から配線

背面

測定

THD+N

 周波数特性の測定には苦労しませんでしたが、THD+Nの測定は、工夫が必要でした。本格的な計測装置を持っていないので、パソコンを用い、 USB接続の サウンドデバイスを使用し、フリーソフトのWaveSpectraとWaveGeneを用いて測定を行いました。こちらのサイトの情報を参考にさせていただきました。サウンドデバイスの入力インピーダンスが低いと思われ るた め、オペアンプを用いたバッファを使用して歪を測定しました。測定装置の関係で、歪率0.01%以下は測定が困難でした。なお、ラインアンプ部の残留雑音は左右チャンネル ともに0.2mVでした。

トーンコントロール特性

 トーンコントロールをフラットにした場合と、コントロールを聞かせた場合の周波数特性は、下記のとおりです。おおよそ±15dBコントロールできていま す。BASSやTREBLEの一方をフラットにし、一方を最大や最小にした場合、フラット部分の出力レベルが1dBくらい上下するのが課題ですが、大きな値で はないので、気にしないことにしました。




RIAA偏差

 フォノイコライザのRIAA偏差も測定しました。左右チャンネルともに+0.2dB、-0.6dBの範囲内に収まっていました。


チャンネル間クロストーク

 ラインアンプ部についてチャンネル間のクロストークも測定してみました。Lchの出力が10Vの時に、Rchの出力にどれだけ信号が漏れてくるのか を測定しました。Rchの入力はショートしています。その結果、20Hzと1kHzでは測定限界以下、10kHzでは0.2mV(-94dB)、 100kHzでは5mV(-69dB)でした。中間のシャーシ板を挟んで左右のチャンネルを区画したので、良好な結果を得ることができました。


使用してみて

 私の場合、右耳の高音域の感度が低下しているので、右チャンネルのTREBLEを少し持ち上げて聞いてみました。今まで聞こえにくかったシンバルの 音がより鮮明に聞こえるようになりました。原音忠実再生の考え方からすると邪道かもしれませんが、個人向けの特殊解としては、よいのではないかと思いまし た。


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