恋人はサンタクロース
「アナライザー、ちゃんと守っておくれよ」
進は、アナライザーの、たぶん、耳あたり(音を聞き取るマイクあたり)に小さな声でつぶやいた。
「ワタシニハ、ワカリマセン。クウソウノジンブツヲ、アタカモイルヨウニ、コドモニハナスコト、キョウイクジョウヨクアリマセン」
「アナライザー」
進は、かたわらで遊ぶ子に笑顔を向けながら、アナライザーを小突いた。
「お前の言い分もわかるよ。でも、人は夢を見る必要があるんだ」
進はさらに声を小さくして、話した。その声は、少し離れた人には聞けぬほど、小さい声だったが、もともと情報分析を得意とするアナライザーには、充分過ぎる音量だった。進の手は、さっき小突いた辺りをやさしくなでていた。
「叩いてすまなかった。ほんとにお前だけがたよりだから……」
進は、奥の手を使った。人から頼られたアナライザーが、人を裏切ることはしないことを知っていて言うものだから、進も良心が痛んだが、もう、時間がない。
「じゃあ」
中腰だった進は立ち上がると、手招きをした。
「歩(あゆみ)、おいで」
「ひゅーんっどわっ」
子どもは、進に近寄るふりをして、進の脇をすり抜ける。
「こらこら、歩、話があるから、ちゃんと来なさい」
進は、フェイントをかけて、またすり抜けようとした子どもの体をぐいっと抱き寄せた。抵抗する子どもを体に抱き寄せると、両手で肩をつかんで目の前に立たせた。進は子どもと目が合うまで、何も言わずそのままでいた。
「ごめんなさい」
来年小学生の子どもは、いつもと違う進の反応に、やっと、ふざけてはいけないときだったと気づいたようだった。
進は、子どもの言葉に小さく頷いた。そして、トントンと二回肩を叩くと、もう一度目を合わせた。
「お留守番、できる?」
子どもは小さく頷く。
「アナダイザーがいるんでしょ」
「そうだよ。一人じゃないよ」
ウィキウィキウィキウィキ
アナライザーが音をたてて二人に近づいてきた。
「ワタシノナハ、あならいざーデス」
「アナナイザーだね」
進は笑った。ラの音ががきれいに発音できない息子が、まだ、幼児の域を出きらない様子はなんとも言えないかわいらしさがあった。だが、アナライザーは大いに不満そうで赤いライトが神経質そうにチカチカしていた。
子どもの後ろに置かれているクリスマスツリーを見ると、この幼子に、大きな試練をさせることが進には後ろめたく感じた。
「今日は、仕事があるから、帰りが遅くなるけれど、アナライザーと二人で留守番、できるかな」
子どもは口をとがらせた。
「いつ帰ってくるの?」
帰りが遅くなることを、もう何度も話してきた。それでも聞いてくるのは、やはり不安があるからだと進はわかっていた。
「遅くなるから、ちゃんと8時にはベッドに入っているんだよ」
「帰ってくる?」
「帰ってくるよ」
「サンタさん……」
「サンタさんと同じくらいだな、きっと」
その言葉に、歩は目をくるりと輝かせた。
「寝てなくていい?」
「ベッドにちゃんといるんだよ。サンタさんが来ても寝たふりできる?」
「できる! 寝たふりしていればいいんだよね」
進は大きく頷いた。
「じゃあ、アナライザー、歩をよろしく頼むよ」
かばんをつかむと、進は、ツリーの飾りをしきりに気にしている息子の様子をうかがった。目が合うと微笑み、手を振る。
「サンタさん、何くれるかな?」
歩の言葉に、進は、「行かないで」と直接駄々をこねられた方がどんなにか気が楽かと思った。
「何だろうね。楽しみだね
進は、だんだん歩の目が潤んでいるのに気づいていた。
普段頼むベビーシッターはすでに予定が入っていて、楽しみを削るようなお願いは進にはできなかった。かといって、仕事を放ってしまうこともできない。
「いってらっしゃーい」
歩は振り切れんばかりに手を振った。進は歩のその反応に感謝した。踏ん切りがつかなかったのは自分の心の方だったと気づいた。
アナライザーは、無言で二人のやり取りをただ見守っていた。
進が閉めるドアに掛かっていたリースの鈴の音がチリンとした後、部屋の中は急に静かになった。
ウィキウィキウィキウィキ
アナライザーの足のキャタピラが小さな音だけが部屋に響いていた。
「ドウシマシタ?」
アナライザーは硬い体を最大限にくねらせ、歩の顔を覗き込んだ。
「何でもない」
そう答えた歩は、手に持っていた球体の飾りを木につけようとして、落としてしまった。
カリーン
硬い音がして、球体はいくつかに割れてしまった。薄いガラスの破片が辺りに飛び散った。
「ダメデス」
アナライザーは、ひょいと歩を抱き上げた。
「ワタシガソウジヲシマス」
アナライザーは、歩をソファの上に降ろすと、部屋を右往左往しだした。
「そこのドアをあけると、ほうきが入っているよ」
歩の言葉に、アナライザーは扉を開け、ほうきを出すが、どうもうまくはくことができない。
「僕がやるよ。僕の方が上手だもん」
歩は、アナライザーに手を差し出した。
「大丈夫だよ。靴もはいているから」
アナライザーは、チカチカ顔を光らせて、歩の上から下をチェックした。
「ワカリマシタ」
アナライザーがほうきを差し出すと、歩は、得意がって、ほうきでこなごなになったガラスの破片を集めだした。
「床の掃除は、僕の担当だから、うまいでしょ。ちりとり持ってきて」
アナライザーの動きが止まってしまった。歩は、手を動かして、ちりとりの形を空に書いた。
「こんな形のだよ。さっきのところに入っている」
アナライザーは、ウィキウィキと音を鳴らし、行ったり来たりした。そして、歩からちりとりの使い方を教わると、ちりとりを持つ役を受け持った。
ちりとりの中は、ガラスの破片や、細かいカスできらきらしていた。
「お母さんがくれた玉だったのに……」
その言葉にアナライザーの体はチカっと光った。
ツリーには、いくつかの球体がついていた。高い位置は進がつけたらしかったが、低い位置は歩がつけているようで、かたわらのカゴには、まだいくつか残っていた。
「お母さん……」
大粒の涙が目からあふれ、ぽろり、ぽろりと頬を流れていった。アナライザーは、人間の目から排出するこの不可思議な水分は得意ではなかったが、歩の気持ちを少しで察しようと、あらゆる機能をフルに使って、一つの結論を出した。
(モラッタモノヲコワシテシマッタ。ユエニ、モウシワケナイトイウキモチニナリ、ナミダヲナガシタ。コレヲカイショウスルニハ、コレヲワスレサセルヨウナ、タイケンヲ、スルシカナイ)
「ノコリヲ、ツケマショウ」
今度は少年の瞳がきらりと光った
「うん!」
ウィキウィキウィキ
アナライザーは、何度も離れては、飾りのバランスを見る。
「アユミ、モウスコシ、ミギ」
指示は出すが、手をだすことはなかった。出来上がると、アナライザーは、おやつを食べることを提案した。
「アナナイザーは食べることできないんでしょ」
「コドモハ、ヨケイナシンパイヲ、シナイ。コドモハ、タベルコトガ、シゴト」
「アナナイザー、南十字島は暑いから、ミルクは冷たいのがいい」
「ダメデス。ツメタイモノバカリ、ノンデイルト、イガ、ツカレマス」
歩は、すっかりアナライザーの言うことを聞き、アナライザーが出したホットミルクを飲んだ。アナライザーは、テーブルに積まれた、進がセレクトした絵本を一冊ずつ読み上げた。
「……ソコヘ、オジイサンガ、ヤッテキテ、テブクロヲ、ヒロイマシタ」
積み上げられた本を読み終わると、本を片付け、日が落ちてくると、テーブルの上のろうそくをつけた。
「ねえねえ、アナナイザー。ゲームしよう」
「ショクジヲシマショウ。チャント、ショクジヲタベルコトガデキタラ、げーむシテモイイデショウ」
アナライザーは、進から言われた通りのスケジュールを次々こなしていった。
「ナンデスカ、コレハ。テブクロノナカニハ、ドウブツハハイリマセン」
「これは絵本だから。子どもは大人とは違って、いろんなことを空想するのさ」
「ゲームは、簡単に負けちゃだめだし、勝ちすぎてもだめだからね」
それから……と進が言葉を続けようと思ったとき、アナライザーは、紙に書かれているスケジュールとその注意点を読んでいた。
「さんたサンガイナイ、コナイトイウコトヲ、ゼッタイイッテハイケナイ」
「アナナイザー、ブロッコリー少し残してもいい?」
歩は、アナライザーが取り分けた皿の上のサラダを指して言った。
「モウスコシ、タベマショウ。キョウハ、ヤサイガスクナイリョウリナノデ、スープヤサラダヲチャントタベマショウ」
そう言いながらも、アナライザーは少し迷って、予定よりほんの少しだけ多く、皿から取り除いた。
「アナナイザー、アナナイザーは、サンタさんを見たことがある?」
「ワタシハミタコトガアリマセン。イママデ、ミタイトオモッテイナカッタノデ」
「今日は、絶対来るよ。だから、二人でサンタさんを待とうよ」
アナライザーは黙ってしまったが、体の表面のいくつかのメーターだけはチカチカと光っていた。
「イイデショウ」
「わあ」
歓声を聞きながら、アナライザーはホッとしていた。そして、進の言葉を思い出した。」
「大丈夫だよ。歩は9時ぐらいになると、寝むたくなるから」
「ケーキ、ボクが切るよ」
歩は顔より大きなケーキに、大きなケーキ用のナイフで切り込みを入れ始めた。表面近くの切り込みでは、ケーキはうまく切れておらず、フォークや別のナイフを使って、塊となったケーキのかけらを皿へ何度も移動させていた。ケーキは、4つの皿に盛られた。
「一つはアナナイザーの分だからね」
「ワタシハタベラレマセン」
「いいの。今日は、みんなでクリスマスなんだから」
「デハ」
アナライザーは、ケーキを前にして、指先から細い針を出し、差し込んだ。体をチカチカさせ、このケーキの分析をしだした。
「ワタシハタベラレマセンカラ、ブンセキシテ、キロクニノコシテオキマス」
「すごいね、アナナイザー」
「スゴクナイデス」
「こんなこともできないのか」
アナライザーは、昨日の仕事の失敗を思い出していた。もう、ずいぶん旧式のアナライザーは、計算速度も分析の精密度も最新のロボットより、ずいぶん劣っていた。それでも、自分は、経験でカバーできると思っていた。補助のコンピューターを接続すれば、計算能力だって、情報量だって、最新のものと同じことができるはずであった。
「遅すぎるんだよ。やっぱ旧式だから」
古いことを言われると、アナライザーは弁解できなかった。そういうことがあると、アナライザーには、皆から頼りにされたヤマトに乗艦していたときのことが懐かしく思えた。いたずらでよくスカートめくりをしていたが、ものすごくとがめられたことも、しかられたこともなかった。皆が自分を認めていてくれたことに安心していた。
「コレダケデ470かろりーアリマス。6サイノコドモニハオオスギマス。キョウハコノハンブンノリョウデジュウブンデス」
「じゃあ、半分にする。明日、お父さんと食べる」
歩の両手にはクリームがついており、歩は、ぺろりと指の先のクリームをなめた。
「これはお父さんの分、で、これが、サンタさんの分。こっちが……もしかしたらお母さんが来るかもしれないから、これ、お母さんの分にするね」
歩はそれぞれの名前を書いた紙をケーキの皿につけるとラップをかけて、冷蔵庫にしまった。
食事が終わると、ゲームをした。トランプのババ抜きやジジ抜きはどきどきしながらした。アナライザーの動揺は、体の点滅の様子でばれてしまい、ほとんど歩の勝ちだった。
「九時に、ベッドだよね」
歩は進が言っていたことを覚えていて、パジャマに着替えると、ケーキを持ってベッドルームの中に入った。
「アナナイザーもいっしょだよ」
「ワタシガ、ベッドニハイッタラ、ベッドガコワレマス」
アナライザーは、ベッドのかたわらにぺたんと座ると、体のメーターを点滅させた。
「寝ちゃだめだよ。もし、ぼくが寝ていたら、絶対、起こしてね」
「ハイ、ワカリマシタ。けーきハドウシマスカ」
「それはサンタさん用だから。今から手紙を書くね」
歩は、この日のためにとっておいたのか、机の中からきれいな小さな紙を一枚出してきた。
『さんたさんへ これはさんたさんのけーきです。たべていってください。』
机の上には、小さなツリーの形をしたガラス製のライトがあって、歩は、そのライトをつけると、紙とケーキをライトの近くに置いた。
「サンタさんはたくさんの家を回っているから、お腹がすいているときがあるんだって。だから、ケーキを置いておくんだよ。毎年、ちゃんと、一口食べているんだ」
アナライザーは進が、毎年、食べているのだと思った。
「でも、今年は、プレゼントより、サンタさんに会いたいんだ。起きていると、サンタさんはプレゼントを置いていってくれないって言うけど」
「ドウシテ、サンタサンニ、アイタイノデスカ」
「あのね、サンタさんは子どもにしかプレゼントを持ってきてくれないってお父さんは言っていたけど、そんなことないと思うんだ。大人にも来てくれると思うんだ。もし、だめなら、今年は、ボクの分、お父さんに何かプレゼントをあげてくださいって、言いたいんだ」
「オトナハ、ヨロコビマセン」
「そんなことないよ。それでね、ぼくがおとなになった時に、一回は来てねって、お願いするの」
歩はベッドにのると、アナライザーの方を振り向いた。
「アナライザーも何かお願いしたら」
「ぷれぜんと、イリマセン」
「プレゼントじゃなくて、誰かに会いたいとか、こんな風になりたいとか」
(ダレカニアイタイ……)
歩はベッドの中にもぐっても、ずっとアナライザーに話しかけていた。
「ボクはひとりで留守番できるんだよ。だって、家に来るのはサンタさんだけだし、ボクはサンタさんをひとりで待つことはできるんだ」
かぶっていたふとんをトンとけって、ふとんから顔を出すと、歩はアナライザーの様子を見ていた。チカチカ光る頭がくるりと動くと、安心するのか、歩はふとんの中にまた頭を引っ込めた。
「サンタさんは赤い服を着ているんだ。遠くから来るんだって。今年はいい子だったから、絶対来るんだ」
今度は手がふとんからにゅっと出てきて、アナライザーの頭部を確かめるように触れた。
「アナナイザーは絶対寝ちゃだめだよ。だって、サンタさんは玄関から来るかもしれないじゃない? お父さんは、窓をあけちゃだめっていうから。窓は全部しまってるし。ボクは約束で、ベッドから出ちゃだめって言われているから、アナナイザーが、ここまでつれて来ないと、ボク、サンタさんに会えない」
「ワカリマシタ。オキテイマス」
アナライザーの言葉で安心したのか、手はふとんの中に引っ込んでいった。
「サンタさんは、たくさんのプレゼントを持っているから、手伝ってあげてね、アナナイザー」
「ワカリマシタ」
「サンタさんが来たら、アナナイザーが玄関へ行って、この部屋につれてくるんだよ。それで、ぼくが、ふとんからバッと出るんだ。サンタさん、お願いします。今年はボクじゃなくて、お父さんにプレゼントを持っていってくださいって言うんだ」
アナライザーは、ただ、聞いていた。話はだんだんぐるぐるして、歩は同じことを何度も繰り返すようになっていった。
(さんたサン、さんたサン。アカイフクヲキタさんたサン。ぷれぜんとヲタクサン、カカエテヤッテクル)
「わがままかな?」
「イイエ」
「よかった……」
その後、ふとんの中からは、声が聞こえてこなかった。
アナライザーは、自分で休眠状態にセットした。何か音がした場合、玄関に誰かが来たときだけに目覚めるようにすると、体の光が一つ、また一つと消していった。。
グゥーン
アナライザーの音声感知装置が何かをキャッチした。アナライザーは、休眠状態から一気に通常モードへ戻った。
「オト、ゲンカンカラダ」
ベッドを見ると、歩はふとんにくるまったままだった。アナライザーは、玄関のカメラのデータを見るために、インターフォンのスイッチを押した。そこには、赤い服を着た人物がごそごそしていた。うつむいていたのもあり、人物を特定できなかった。
(アンゼンカ、アンゼンデハナイノカ)
この家には、子どもがいるので、なるべく危険は避けたい。アナライザーは、玄関へ向かった。向かいながらも、体の計器はすべて玄関の外の様子を得るために動くよう、微調整していった。
最大限急いで玄関に向かったアナライザーよりほんの少し早く、相手の方がドアを開けることに成功したようだった。アナライザーは、ドアの隙間に手を伸ばした。
「アナライザー?」
聞き覚えのあるその声でアナライザーは手を離した。
(さんたサン、さんたサン。アカイフクヲキタさんたサン。ぷれぜんとヲタクサン、カカエテヤッテクル)
「アナタガ、さんたサンデスカ?」
アナライザーは、そうであって欲しかった。
サンタに会ったアナライザーは、幸せな気持ちで朝を迎えた。
「アノママデ、イイノデスカ?」
「プレゼントをつかんだままだけど、それはそれでいいんじゃない」
アナライザーは、歩との約束が守れなくなってしまったのが、唯一の心残りだった。
(デモ、さんたサンニ、アエタ)
アナライザーの心は昔のように、心がウキウキなった。
ふとんにもぐっていた歩は、目が覚めるとふとんをはねのけた。しかし、ふとんの上には何かがのっており、安易にふとんは動かなかった。
「アナナイザー、どいてよ」
重いものがアナライザーの体の一部だと思っていた歩は、足まで使ってはねのけようとした。
「いたっ」
明らかに、人の声だとわかる声がし、「いたたた」と歩の横でうずくまっている者がいた。
「お父さん!」
わき腹を押さえている進が横にいた。歩がふとんから飛び出したときに、何かがベッドから落ちた。
ガタンと大きなものが落ちる音。
「どうしたの?」
「お母さん」
歩は部屋に入ってきた人物を見て、叫んだ。
「お母さん、いつ、帰ってきたの? お父さんも」
「ごめんなさいね。夜、遅かったから、朝、説明しようと思っていたのよ」
「お父さんは?」
「お父さんも遅くに帰ってきたの。アナライザーと交代で、あなたの横で寝ちゃったみたいね」
「アナナイザーは?」
「帰っちゃったわ。今日は仕事があるからって。サンタさんが来るまで一緒にいられなくてごめんなさいって言っていたわよ」
「ごめんね、歩。眠ってしまって、サンタさんが来たときに気づけなくて」
「いいよ。ボク、サンタさんより、お父さんとお母さんが来てくれたのがうれしいもん」
アナライザーは、時々くるりとターンをしながら、来た道を帰っていた。指には、小さなベルの飾りが揺れていた。
「アナライザー、わたしよ」
赤い半そでのセーターを着ていた雪であった。
「仕事先から、直接来たから、荷物整頓してなくて、荷物がドアの外でこぼれちゃったの。お留守番、大変だったでしょ」
「イイエ、トテモタノシカッタデス。ユキサンガ、さんたサンでヨカッタ」
「えっ、わたしじゃないわよ」
「イインデス。ワタシノナカデハ、アナタガさんたサンデスカラ」
「アナライザー、これ、ちょっともって」
雪は、手に持っていた、いくつかのクリスマスオーナメントの一つをアナライザーに渡した。
「コレ、モラッテイイデスカ?」
「他にもたくさんあるわよ。好きなのを選んでいいわよ」
「イエ、コレデイイデス」
アナライザーは、その後帰ってきた進を迎える雪を見ていた。うれしそうに笑って、二人が歩が盛り付けたケーキを食べている姿を見ているだけで、いつもより、早く計算できそうな気持ちになった。
歩が欲しかったのは、お父さん、お母さんと一緒のクリスマスだと、アナライザーは分析していた。
(キョウハナンダカ、アタマノカイテンソクドガモノスゴクアルゾ)
チリン、チリン
雪にもらったベルがアナライザーの動きに合わせて鳴っていた。
(おわり)
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