「想人」第十八話 回想


(1)
「艦長」
 艦長席で指を組んで前方を見据えている進に、島次郎が声をかけた。
「航路設定、間に合ったようだな」
「はい、今、計測等の作業に入っています」
 次郎はそう進に報告すると、逃げるように席に向かった。
 進の言葉はねぎらいというより、「これだけなのか」と限界を突きつけられたように次郎には思えた。
(気持ちが途切れている……)
 次郎は自分の精神的な緊張がきりきりと悲鳴を上げているのを感じていた。それ故、仕事に対する投げやりな気持ちが去来していた。
 帰路の航路は、決して満足できるものではない。しかし、艦長である進が、あえて指摘しないのは、自分の気持ちを見越しているのだと次郎は感じていた。



「あっ」
 ユウは思わず声を上げた。
 サハラの木の向こうから、男と子どもが手をつないで歩いてくる。日を背に歩いてくるその二人は、最初はシルエットだけしか見えなかったが、次第に顔や服がはっきりしてきた。
(そうだよな)
 ユウはそれがたぶんウ・イーバンが言っていた、大木という男だろうと思った。ただ、先ほどの二人のシルエットが、幼い頃の記憶と重なったので、ユウはほんの少しどきりとしていた。男の姿はその頃の父の姿に見えたからだ。
「ユウ」
 子どもの方がユウに気づき、大きな声で叫んだ。
「チャチャン」
 ユウはその声に答えるように手を振った。

「君が古代さんの」
 そう話す男の顔を、ユウはしっかり見た。顎がしっかりした男の口元が笑っていた。チャチャンは、男の手をもう一度握り、ユウの近くに寄るように引っ張っていた。
「古代歩です。ユウって呼んでください」
 ユウが先にそう自己紹介をすると、男は少し首をかしげた。
「ユウ……か。ま、いいだろ。私は大木佳数(よしかず)。オーギと皆が呼んでいるので、そう呼んでくれ」
 チャチャンは地球の言葉がわからず二人の様子を見ていたが、同じ年頃の子どもがチャチャンに手を振ってくると、チャチャンは子どもたちの方へと走っていってしまった。その様子を見ていた大木佳数は、改めてユウの顔を見るとうんうんと頷いた。
「大きくなったな。初めて会った頃は小学校に入る前で、今のチャチャンと同じくらいだった」
 ユウは大木佳数の顔を見た。
「私は君のお父さん・古代さんの後輩さ。あの頃の古代さんは小さい君を連れて大学に通っていた。覚えてない? 結構遊んであげたんだけど」
 ユウは記憶の中をたどっていったが、その頃の若い大学生は複数おり、一人一人の顔まで思い出せなかった。
「そういや、君がおぼれたときは大変だったな」
「おぼれたとき?」
「それも覚えてない? 君が海でおぼれて、大変だったんだよ。あんなにあわてた古代さんはあの時だけだな」
 ユウは首を振った。
「そう。あまりいい思い出ではないからね。覚えていなくてもいいさ」
 大木佳数は、ユウの肩を軽く叩いた。
「私は大学卒業後、軍に入って、そして、古代さんとトナティカで再会したんだ。君がいた事も知っていた。けど、わざわざ声もかけることもしなかった。だから、君が私を忘れていても仕方がないことなんだ。でも、こんな風に会えるなんて、うれしいよ」
 大木佳数はその大きな手をユウの背に回した。そして、ウ・イーバンの住みかに向かうことを促した。
「日が傾く前にここから移動する予定だろう。歩きながら、地球や古代さんの話を聞かせておくれ」
 


(2)
 大木佳数一行が着いてから、サハラの木の周辺にいた者たちは、森の奥へと移動を開始した。この開始から、ユウはこの集団が30名近くいたことに気づき、驚いた。
 移動しながらも、また、いくつかのグループに分かれて進んだので、ユウと一緒に移動している者たちは15人ほどになっていた。夕暮れになり、火を炊き始め、夕食の支度をしていると、また、20人以上になっていた。ユウは、小さなグループが斥候の役割を交互にこなしているのではないかと思いながらも、おなかが脹れると、うとうとと眠ってしまった。

 大木佳数は、ユウが寝付いたのを見届けると、ウ・イーバンが番をしている火の側に向かった。少しずつ火の始末をしていたイーバンは、人の気配を感じて顔をもたげた。
「なんだ、オーギか。今日は、移動続きですまなかったな。けれど、雨が降らなければ、明日は更に奥へ行くつもりだ」
 佳数は頷いた。
「なんとか、移動しながらの生活のメドができてよかったな、イーバン」
「ああ」
 ウ・イーバンは木をのけて、火が消えたか確認している。大木佳数は、小さな声でイーバンに告げた。
「イーバン、約束を覚えているか。私たちがこの星に残るときに四人で話し合った約束を」
「情報の共有……の話か」
 イーバンは大木佳数にそう言うと、立ち上がった。
「ウ・イーバンよ、私たちは、いつかは地球へ帰るため、できるだけ皆で生き残る方法を考えた。その時に、どんなささいなことでも包み隠さず話し合おう、情報は共有しあおうと話したではないか」
「ああ」
 イーバンは、佳数に「静かに」と促すと、近くで寝ているチャチャンの肩まで毛布を引き上げた。
「なのに、なぜ、あの青年に、きちんと話していないのか」
 イーバンは佳数を睨んだ。
「オーギ、あの男は古代進の息子だ。そして、スヴァンホルムの側にもいた」
「だから?」
「彼はこの星の争いをやめさせたいと思っている。スヴァンホルムや賢者たちと掛け合って、この争いをやめさせたいと思っている」
 かすれた小さな声だが、イーバンの言葉には力がこもっていた。
「イーバン……」
「少なくとも、我々はこの争いを生き延びなければならないんだ、オーギ」
 ウ・イーバンは周りに誰もいないことを確認すると、言葉を続けた。
「地球は今、危機にある。だが、それを脱することができたなら、必ず我々を迎えに来てくれる。少なくとも、古代進は来る」
 大木佳数は口を閉ざした。
「オウルフも彼に自分の正体を明かさず、行ってしまった。オウルフにとってもユウは未知数。彼のやりたいことにどう反応するか、怖かったのだろう。そして、ユウにとっても、今起ころうとしている争いに巻き込まれずに生き残ることが一番大切だ。違うか、オーギ」
 佳数は、イーバンと目を合わせた。
「言ってはいけないのか」
 イーバンは頷いた。
「そうだ、シャフィークやアルフレッドにも、そう伝えてある」
 佳数は、ガサガサと頭をかくと、つぶやいた。
「生き残る……か」
 イーバンは大きく頷いた。
「そう、そして、地球へ帰る、皆で」
「地球へ帰る……」
 佳数は、イーバンの言葉を繰り返すと、目を閉じた。



(3)
 第一艦橋を後にした次郎は、柳原涼子の部屋の前で、ボタンを押していた。
<ERROR>
 島次郎は、何度パスワードを入れても扉が開かないので、とりあえず自室に戻る。それでも気持ちが収まらない次郎は、部屋に戻るとインターフォンに手を伸ばした。
「何?」
「涼子……部屋にいたのか」
「ええ」
 島次郎は、話そうとしていた言葉をすべて飲み込んだ。
「次郎」
 静かな受話器から、柳沢涼子の声が次郎の耳に届いた。
「うん?」
「私……前にも言ったよね。自分だけを見てくれる人に側にいて欲しいのよ」
「うん」
「次郎……必要な時だけ声をかけてくるのはやめて」
「……」
 涼子は何も言ってくれない次郎に最後の言葉を言おうと決意した。
「ごめんね。もう、私の所に来ないで」
 


 進は宇宙図を眺めながら、トナティカからずいぶん離れているヤマトの位置を表す光点を見つめていた。

 トナティカでの休日は、なるべく寝過ごすようにしていた。毎朝の日課の運動も休んだ。そして、遅くの朝食を妻と楽しんだ。

「歩は?」
「プファンと出掛けたわ。イシュタルムのお手伝いをするって」
「そう……」
「今日は運動はしないの? 前は、毎日欠かさなかったのに」
 進はわざと休日に運動していない事を雪には伝えていなかった。
「休みはのんびりすごしたいんだ」
 そう言いながら、進は外を見た。
「朝食が済んだら、外へ行こうか」
 雪はとてもうれしそうに微笑んだ。


 トナティカの木々は、常に手を入れていないと建物を覆ってしまうほどの勢いがあった。人が住むエリアであっても、うねるように建物の周りには草木が生えていた。
 進は住居からの距離と方向を端末で確認すると、トナティカの太陽を見上げた。
「雪、今日はこの辺りで戻ろうか。かなり奥へ来てしまった」
「了解。古代艦長」
 進は雪の顔をジッと見た。
「艦長じゃないよ」
「今、これ以上進むと帰りが遅くなって、皆が心配するかもしれないって考えたでしょ。亡くなられた藤堂長官がね、若いあなたを艦長にしたことを後悔なさっていたわ。あなたがいつもヤマトの艦長の目線で考えてるって」
「藤堂さんが?」
 雪は頷いた。
「でも、私、艦長だったあなたのこと、嫌いじゃなかった。みんなもそう。そして、いつかあなたがまた、ヤマトの艦長になる日を待っている」
「待っている? ヤマトはもうないよ」
「そう。でも、待っているのよ。あなたが艦長を務めるヤマトを」
 くすくす笑う雪を、進は見つめた。
 


 
 ぷっつり切れた電話の後、次郎は部屋のベッドに腰を下ろし、小さなため息をついた。その時、呼び出し音が鳴り、今すぐ艦長室に来るようにというメッセージが流れてきた。
 次郎はのっそり立ち上がると、部屋を出た。


(4)
「すまないな、遅い時間に」
 進は次郎にプリントアウトされた航路図の計算書を渡した。
「これは……」
「お前が決めた航路だそうだな」
「はい」
「こっちは航海班の有志たちによる、別の案だ」
 次郎の体が固くなった。
 進は次郎に、もう一枚、同じような用紙を差し出し、渡した。
「有志たち、ですか」
「ああ、お前が一つの案にこだわりが強いということで、不安に思った者が作った案だ。機関長や技師長にも見てもらったそうだ」
「機関長にもですか」
 次郎はもう一度二枚目の航路図を見た。
「お前の考えた航路は、安全性は高いが、時間がかかりすぎる。機関長によると、このワープのスケジュールだと、エンジンに異常が出たときに大きなロスが出て、間に合わない可能性もある……」
 進の言葉を聞きながら、次郎は紙を握り締めていた手に力を入れた。
「私は、どうすればいいのですか」
 次郎の震える声に、進はわざと次郎から離れた。そして、前面の窓の側へと移動した。
「次郎、お前は一人だと思っているのか」
 進は次郎の方を振り向くと、紙を握り締めて突っ立っている次郎を見た。
「お前は一人ではない。私もそうだ。私たちは地球で待っている多くの人々の心と繋がっている。ヤマトの帰りを待っている多くの人々を忘れてはならない。そして、ヤマトには仲間がいる。同じ思いを持って闘っているヤマトの仲間だ」
 次郎は進の視線から目をそらした。そして、目のそらした先にあった写真立てに目をやった。そこには雪と幼いユウが笑っている顔が並んでいた。
 次郎は、閉ざしていた口を開けた。
「私は子どもの頃、ヤマトがいつも地球を助けてくれると信じていました。兄や兄の仲間がヤマトでがんばっていると信じていました」
「そう」
 進は頷くと、体の向きを変えて、窓の外に視線を移した。
「艦長……艦長は雪さんやユウのことをどう思っていらっしゃるのですか」
「ヤマトが地球に戻り、地球の人々が安心して暮らせるようになったら、今度はトナティカやこの銀河系の人々が安心して暮らせるようになるためにどうしたらいいのか。それを考えるのが私の次の旅だ。地球の人々だけではない、宇宙の人々が幸せに暮らせるようにならなければ、本当の平和は来ない。それが無ければ、二人を探す事もできない。それどころか、探しにいくことすらできないだろう」
 進の視線が写真立てに向く。フレームの中の雪とユウの顔を見る進の横顔を、次郎はながめていた。
 すっと進の体が動く。進は次郎の真正面に対峙するように立った。
 次郎と目が合うと、進は微笑んだ。
「ついて来たかったら、ついて来てもいい。だが、その前に、この旅を無事に終わらせる。待っている地球の人々のところへ戻ろうじゃないか、島」
 次郎は「島」と呼ばれたことで、姿勢を正した。
「はい」
「第二艦橋で、航海班の有志たちや機関長たちがお前を待っている。行きなさい、彼らの所に」
 次郎は、無言で敬礼をすると、艦長室をあとにした。

「『多くの人々の心と繋がっている』……そうですね、沖田さん」
 そうつぶやいた進は、目を細めた。



(5)
「すみません、機関長」
「さあ、始めるか」
 島次郎が第二艦橋に下りていくと、徳川太助が大きな声で皆に声をかける。
 太助は次郎の背中をポンと軽く叩いた。
「すまないな。今日はどうしても、艦長抜きで、俺たちだけでやりたくて」
 次郎は太助の言葉の意味が解らず、首を傾げた。
「今日が何の日かわかるか」
 次郎はにやにやしている他の乗組員たちの顔を見ながら、更に困った顔になった。
「航海長」
 隣の坂上葵が小さい声でささやいた。
「航海長、今日は……」
 


 南部康雄は、窓の向こうに見える、水平線付近の緑の稜線に並ぶ無数の風車を眺めていた。
「本当にあなたはこの風景が好きなのね」
 康雄の妻はそう言って微笑んだ。
「この風景は子どもの頃からのあこがれだったからね。この風景を守るためなら、いくらかかってもいいと思っている」
 康雄はそう言いながら、先ほど流れたニュースを思い出していた。ヤマトが帰途にあるというニュースだった。
「豊かな自然に満ちた地球……あいつが守りたかったものだ。だから、必ず戻ってくる」
 康雄は立ち上がった。
「今日は雪さんがいなくても、歩くんが側にいなくても、あいつは一人で祝っているんだろうな」
「そうですね」
 康雄は妻の答えに、にっこりと笑みを返した。


「 HAPPY BIRTHDAY TO YOU. HAPPY BIRTHDAY TO YOU.」
 進は写真に向かって、小さな声でつぶやくように口ずさんだ。
「 HAPPY BIRTHDAY DEAR 歩. HAPPY BIRTHDAY TO YOU.」
 

 
(6)
「三枝先生、あなたの予測した数値はかなり正確でした。さすがですね」
 真田志郎は会議終了後、三枝幹夫に手を差し伸べた。
「ありがとう。古代の役に立てたかな。ところで、君はヤマトに乗っていなくてよかったのかい?」
 三枝にそう言われた真田志郎は、返事に窮した。
 ふと志郎の脳裏に二つの進の顔が浮かんだ。
「これが今の自分の役割なんです」
 志郎はそう言いながら、思い出していた。
 それはイカルスから発進したヤマトで、暗黒星団帝国の母星へ向かっている途中、ミスの多い古代進を艦長である山南が艦長室に呼んだ。志郎はその場に同席していた。
 山南は進に対して大きな期待をしていたが、恋人と生き別れた進は、集中力を欠き、闘志がなえていた。艦長である山南は、多くの乗組員にその影響ができることを気にして、進に何かを伝えようとしていた。
「古代、君は子どものときに両親を亡くしているそうだね。生き残った人々の辛さを、君はよくわかっている」
 山南の言葉に、進は顔をもたげた。
「生き残った者には、生き残った者としての役割がある。古代、そう思わないか」
「役割ですか?」
「そうだ、役割だ」
 進は、その言葉の意味を考えているようだった。
「役割……」
 考えている進を山南は優しいまなざしで見守っていた。山南は結局、進にその解答を教えたわけでもなかった。

 そして、志郎は、もう一つの進の顔も思い出していた。
 トナティカから帰還した進は、病院のベッドにいた。志郎は、ベッドの真上の天井をじっと見ている進をみつめていた。
「……地球艦隊を立て直すつもりです」
「軍に戻ると?」
 進は頷きもせず、瞬きもせず、ずっと天井を見ていた。
「闘うことがいい事だと思っていません。力でどうにかしたいとも思っていません」
(それがお前の……)
 志郎はそれ以上何も言わず、進を見守っていた。昔の進とは違い、強い意志を感じていた。
「真田さん、力を貸してください。あなたのサポートが必要なんです」
 
(あいつは必ず戻ってくる。だから、帰ってくる場所を守らないと)
 志郎はそう思うと、先に部屋を出て行った三枝幹夫を追いかけた。そして、幹夫に追いつくと、手に持っていた紙の束を差し出した。
「三枝先生、最新の計測データから計算すると、ホンの少し誤差が出ています。その検証をお願いします」
 三枝はため息をついた。
「了解。できるだけ早く再計算と再検証しておくよ。まったく君たちは……」
 三枝幹夫は小さく笑った。
「真田さん」
 廊下の二人の側に一人の男が駆け寄ってきた。相原義一だった。
「真田さん、ヤマトから通信が入りました」
「古代からか」
「はい。受け取り完了と帰路についていることが暗号で」
「大きい動きがあるな」
「はい」
 志郎の言葉に義一は三枝を意識して、小さく頷いた。
「では、私も自分の仕事を急いで取り掛かるよ」
 三枝幹夫は二人に笑顔で手を振った。



(7)
「艦長、すみません。コック長に教えてもらったんですけど、うまくできなくて」
 艦長室にやってきた澪は、下を向いた。
 澪が持ってきたケーキを見ていた進は、目を細めた。
「おかしい形ですよね」
 澪は少しゆがんだケーキのことで、進が笑ったのだと思って、更に下を向いた。
「違うんだ、サーシャ。昔、こういうケーキを作ってもらったことがあったから……」
 澪は、鼻をすすった。
「ありがとう。歩がここにいたら、喜ぶよ。絶対」
「ホントですか」
「ああ。ケーキを食べるのは、私でいいのかな」
「はい、もちろんです」
 澪はにこりとした。
「じゃあ。いただきます」
 ケーキと紅茶が用意されたテーブルに、澪と向かい合うように座った進は、ケーキを一口、口に運んだ。
「おいしい」
 進の言葉がはずみになって、澪の目からポロリと雫が落ちた。
「どうした? ホントに味はいいぞ」
 進の手が澪の頭に伸び、澪の頭を撫でると、澪の頬からぽとりぽとりと涙が落ちた。
「サーシャ、ありがとう。一緒に祝ってくれて」
 澪は顔をもたげると、瞳を輝かせ微笑んだ。



「おはよう、ユウ」
 朝目覚めると、大木佳数がユウに大きな声をかけた。
「おはようございます。あれ、あの」
 ユウは、ほとんど周りが荷造りを始めている事に驚いた。
「今年の雨季は短いらしい。今日も昼間は雨は降りそうもないから、移動するそうだ」
「あ、はい」
 ユウは寝ているときに使っていた毛布をくるくると片付け始めた。
「これ、朝ご飯。イーバンが夜に作ってくれたものだ。あいつはおにぎりのつもりで作ったらしい。まあ、ムニはお米に似ているから、丸めて焼き目をつけると焼きおにぎりみたいなものになる」
 大木はユウに手の平に、おにぎりらしきものを一つトンと置いた。ユウの手の中に、おにぎりの重さがしっかり主張していた。ユウは笑顔で答えた。
「ありがとうございます」
 大木は、ユウに、肩にかけていた荷物の一つを渡した。
「すまないな。大人中心で荷物を運ぶから、君も一つ運んでくれ。気づいているかもしれないけれど、いくつかのグループがそれぞれのルートで移動している。君は私と一緒のグループだ。子どもが3人いるから、休憩が多い。荷物も多いけど」
「はい」
 ユウの返事を確認すると、大木はトナティカの水筒をカバンの中から出した。
「今日は、水があまりないルートを通るから、君が飲む水はこれだからね」
「わかりました」
 ユウは水筒を受け取ると、大木から受け取った荷物の入ったカバンに突っ込んだ。
「おはよう、ユウ」
 声の方を見ると、すっかり支度を整えて出掛けるアルフレッドたちが手を振っていた。ユウはアルフレッドとシャフィークに手を振ったが、ユウの支度を待っている大木佳数の視線を感じると、声を出さずに丸めた毛布をカバンにくくりつけた。
 キィー
 鳥の声がどこからか響き、ユウは空を見上げた。木々の間から、青い空が見える。その小さな空に、ユウはトナティカの月を見た。
「もうすぐ出発するから」
 大木の言葉に頷くと、ユウは手に持っていたおにぎりをほおばった。


(8)
(木々がだんだん密集している?)
 空を見上げたユウは、空が小さくなっていくような気がした。
「ユウ、少し休むか」
 チャチャンを抱っこしながら歩いていた大木佳数の声が後ろから届く。ユウは、先行して他の二人の子どもと歩いていたが、大木がかなり遅れている事に気づいていなかった。
「すみません。大丈夫でしたか?」
 ユウは走って、大木の側に駆け寄った。
「大丈夫……と言いたい所だが、ちょっと不安になった。すまないな」
「いえ、子どもたちがどんどん森の奥へ行くので、このルートでよかったのか、少し心配になりました」
「大丈夫さ、ムロとアカは、仲間の声が聞こえる……聞こえるっていうのか、感じる事ができるっていうか」
「誰かが呼んでいるんですか?」
 ユウの質問の答えを探しているのか、大木は口を閉ざした。
「オーギ、おりる」
 抱っこされていたチャチャンは目を覚まし、木の枝から垂れているツタを引っ張って遊んでいるムロとアカの方へ行きたがった。
「行っておいで」
 大木はチャチャンを見送ると、ユウの前に立った。大木は近くの大きな木の側に座るように、ユウに手で合図を送った。
「ああ」
 大木はごろんと地面に大の字になると、大きく手足を伸ばした。ユウも荷を降ろし、背伸びをした。
「すまないな、気を使わせて」
 大木はそう言って上半身を起こすと、胡坐をかいた。
「いえ」
「そういうところは、親子そっくりだな」
「?」
「さりげなく周りに気を使っているところ」
 ユウはニコリとした。
「私は古代進に憧れていた……」
 チャチャンたちが声を立てて遊ぶ様子を眺めながら、大木は話し始めた。
「彼は伝説的な宇宙戦士であり、若くしてヤマトの責任者として、艦長として、地球を守るために闘ってくれた人だったから」
 ユウも無邪気な声にも耳を傾けながら、大木の話を聞いていた。
「私が子どもの頃、何度も地球はもう駄目だって状態が続いた。そんな時代に、日本から何人かの優れた宇宙戦士とイスカンダルからの技術を応用する兵器を開発する者が現れて、地球を守るために闘っていた。日本人としての私の誇りだ。相変わらず、いい政治家は輩出できなかったけれどね」
 大木は肩をすくめた。
「だからね、私もなりたかった。宇宙戦士か科学者。なのに、私が君ぐらいのとき、古代進は宇宙戦士を辞めてしまって、大学に行くんだから」
 ユウは小さく頷いた。
「古代進に会いたい……私が大学に入った理由は、そんな不純な理由だった。残念ながらそこで会った古代進は伝説的な宇宙戦士ではなかった。大型哺乳類が自然に暮らせることをずっと考えているただの研究者だった。そして、息子のことをとても大事にしている、やさしい父親だった」
 大木はくすくすと笑った。ユウには、それがどうしてなのかわからなかった。
「古代さんは時折長期休暇を取っていた。そして、その後戻ってくると、いつもの彼と少し違っていた」
 ユウは大木の話の行方を探るため、ずっと黙っていた。
「皆、言葉にはしなかったが、気づいていた。古代進は、好きなことをして幸せそうに暮らしている、というより、そういう生き方を強いられていた……」
 ユウは進の笑顔を思い出した。南十字島にいたころの、明るい日差しの中での優しい笑みを。
「父は、強いられて生きてはいません。むしろ、そういうことを嫌がっていました」
「確かに、そうかもしれない。しかし、古代進は、我々地球人にとって、希望だ。彼もそのことを知っていた。彼はできるだけ長い間、元気で幸せに生きていかなければならないと自分に強いていのではないか」
「そんな……そんなことはないです。今だって、父はトナティカの平和を望んでいる。地球も、この銀河系にも平和が来なければ、トナティカにも平和が来ないことを知っている。そのために、父は自分の力でできる方法で、どうしたらそんな世界を作れるかを模索しているんです。より多くの人の幸せを願って、そして、母と再び会えることを願って」
 大木佳数は目を瞑って、考えていた。
「身近にいた君の、地球での彼とヤマト艦長である彼の両方を知っている君の言うとおりかもしれない」
 ユウは大きく頷いた。
 キュー、キュウーン
 鳥の声に反応した二人は空を見上げた。だが、空は綿あめのような雲がゆっくりと流れていくだけだった。
 ユウは大木に詰め寄った。
「あの……私たちは一体どこへ行くんですか」
 ユウは誰も教えてくれない疑問を口にした。
「チャチャンたち子どもを戦いから遠ざけることの必要性は僕にだってわかります。でも、大きな戦いが起こるのは時間の問題です。戦いになれば、攻撃される地域はどんどん拡大していくでしょう」
 大木は首をひねった。
「何がしたいんだ? その前にボラーのやつらと話し合いをするというのか」
「やってみる価値があります。戦いが泥沼化したとき、ボラーが圧倒的な兵器で、この星全土を攻撃することも、この星自体を滅ぼす事も可能なんです」
 ユウは更ににじり寄った。
「大木さん、一体、これから何が起こるんですか、教えてください」
 ユウは大きく頭を下げた。
 ユウが顔を上げると、目の前に大木佳数の笑顔があった。
「君は古代さんに似ているね」


(9)
 大木はそうユウに言うと、ユウの肩に軽く手を置いた。
「だからこそ、言えないな」
 ユウの目は大きく開いた。
「そ、そんな」
 大木はポンポンとユウの背中を叩くと、そのまま立ち上がった。そして、荷物を背負った。
「君たち親子は、他の人に影響を与えすぎる」
 大木は振り返ることなく、子どもたちが遊んでいる方向へ進んでいった。
「ムロ、アカ、チャチャン。出発するぞ」
 カラカラと荷物を鳴らし、チャチャンたちの走ってくる。ユウも降ろしていた荷物を持ち上げた。
「すまないな」
 ユウの耳に大木の呟きが届いた。
 ユウは皆が自分に対して、これから何が起きるかを秘匿しており、戦場から自分は遠ざけられていることを確認した。
「ムロ、アカ、川のにおいはまだしないか?」
 大木は子どもたちに声をかける。
 背の高いアカが、太陽を背にして指を伸ばす。
「川のにおいはわからないけど、あっちから人が呼んでいた」
「あっちか」
 大木はユウに苦笑いをして見せた。
「川まで進めば人がいる。この子たちを連れてってくれるかもしれない」
 ユウは大木の言葉を繰り返した。
「連れて行ってくれるかもしれない……」
 大木は小さく頷くとアカが指差した方へ歩を進めた。ユウはハッとし、前を歩いている大木佳数の背中を見た。
(子どもたちさえ送り届ければ、自由になれるってことなのか)
 ユウはチャチャンたちのカラカラと鳴る音について歩き出した。
(今、自分がどこにいるかわからないんだ。とにかくついていくしかない)
 


 艦長室のドアが鳴る。
 ベッドに横たわっていた進は起き上がり、上着を羽織った。
「すみません。艦長」
 島次郎が桜内真理を伴ってやってきた。
「艦長、新しい航海計画ができました」
 「そう」と進は微笑んだ。
「艦長、それで申し訳ないのですが、ワープを三十分後にしたいのですが」
「わかった。大事なワープなんだろう」
「はい」
 桜内真理が元気に答えた。
「なら、第一艦橋に急いで向かおう。艦内放送も緊急だが入れておきなさい。他の準備は?」
「機関長がエンジンのチェックを、技師長がワープ先の障害物の確認をしてくださっています」
 次郎たちの退室を進は見送ると、進は帽子を被った。
 

(10)
「ワープ」
 島次郎の声が響く。南部ヤストは目を一瞬閉じた。空間を移動する、嫌な瞬間を、ヤストは一瞬目を閉じる事で解消していた。
「ワープ終了」
 その言葉で、皆が目の前の計器類の確認をする。ヤストもいつものように計器の確認をし、戦闘班長の席に座る澪に異常なしのメッセージを送る。澪はそのメッセージを確認したのか、にこりとした。
(さ、これで眠れるか)
 他のメインスタッフたちが確認をしている中、ヤストは席を立った。一応は艦長の解散の言葉を聞かなければと、ふと左後ろの艦長席を見た。
「艦長」
 ヤストは叫んだ。
 かろうじて体を支えている進の姿がヤストの視界にあった。ヤストの声で、他のメインスタッフも気づいたようだった。
「艦長」
 一番すばやく艦長席に駆けつけたのは、機関長だった。
「大丈夫だ、徳川。少しめまいがしただけだ。それより、エンジンの調子は?」
「は、はい。エンジンには異常ありません」
 進は体を起こすと、徳川太助の報告に微笑んだ。
「少し気流がある宙域だ。エンジンの管理、頼むぞ」
 ヤストも遅ればせながら、進のすぐ横に駆けつけた。
「心配ない。疲れが出ただけだ。遅い時間だが佐渡先生に連絡をとってくれないか。私は艦長室に戻る」
 進が素直に疲れを認め、艦長室に戻っていくさまを、メインスタッフは皆黙って見送った。
「すいません。私が艦長に心配かけることばかりしてしまって」
 島次郎が太助に頭を下げた。
 太助は次郎の肩を叩いた。
「気にするな。私だって変わらんさ。我々は古代進にはなれない。せめて、自分の持ち場だけはきちんと管理しておこう」
「はい」
 次郎は返事をしながらも、目を伏せた。
「さ、後は佐渡先生にお任せしよう。各班のスケジュール通り、航路チェックする者、システム管理する者などの仕事の予定がない者はすぐ休息を、仕事がまだの者は早く片付けて、今後のために早めに休息を」
 そう言いながら、徳川太助は近くにいたヤストの背中をぽんぽんと叩く。
「今が一番皆の疲れが出るときだ。それは艦長も我々も一緒。気は抜けんが、休む事は必要だ、南部」
「はい」
 ヤストは小気味よい返事を返した。


「佐渡先生、すみません。こんな時間に」
「なあに、最近は柳原くん中心で仕事を進めていってくれるんでね。体がなまってしかたないんですよ、艦長」
 佐渡酒造はそう笑って進のバイタルの表示を確認した。
「何も病気まで似なくても……」
 進の言葉に酒造は眉間にシワを寄せた。
「艦長」
 叱責するような語気で叫んだ佐渡酒造は、何も言わずに口を閉じた。進もそれ以上言葉を続けなかった。
「すみません、先生」
 佐渡はその言葉が聞こえなかったのか、返事をしなかった。
 点滴の用意をする佐渡の背中に、進はゆっくり話し始めた。
「ヤマトの最初の航海は、圧倒的な敵を前にしてた未知な世界への航海でした。それでも沖田艦長はあきらめなかった。最後まであきらめなかった」
「艦長、針を刺しますよ」
 佐渡は進の腕に点滴用の針を刺すと、そのまま手際よくテープで止めていった。
「だから私もあきらめたくないんです。地球のことも、雪のことも、歩のことも」
「ああ。……沖田艦長にも昔言ったよ。自分の体のことを第一に考える必要がある……古代艦長、あんたもだ」
 進は指先にあたるシーツの表面をぎゅっとつかんだ。
「今夜はゆっくり休んでください。あんたの部下は、ちゃんとやっとるよ」
「ええ」
 進はぼんやりしている意識に逆らおうとせず、そのまま、眠りに入っていった。
「おやすみなさい、古代艦長。あんたは死なせん。わしも雪やユウの悲しい顔を見たくないからの。わしも……」
 佐渡は小さくつぶやいた。



(11)
「川……」
 ユウは目の前の状況を見て、息を大きく吐いた。
「我々が見たことある川は南十字島や日本の川だったから。普通、川って言ったらこんなもんさ」
 向こう岸が霞むほどの川幅の広さはユウの予想以上だった。
「川岸を歩きますか」
 ユウの質問を受けた大木は、しばらく考えていた。
「やめておこう。空から丸見え、無防備だ。ボラーには人工衛星もあるし、監視で飛行艇を飛ばすことだってあるだろう」
 「それにしても」と言いながら、大木は目の前に広がる大河を見た。
「おーい、ムロ、アカ。俺たちはどっちに進んだらいいんだ」
「あっち」 
 チャチャンがその質問に一番に答えた。指先は川の向こう岸である。
 ムロもアカも、どうも頼りにしていた声を見失っているようで、明確に答えを見つけることができないようだった。
「よし、今日はここまでにしよう」
 日はまだ高い位置にあったが、大木は子どもたちに乾いた小枝や木を集めるように声をかけると、火の支度をしだした。
「ユウ、お前は川へ行って、水がくめるかどうかを見に行ってくれないか」
 カバンから調理器具を出しながら大木はユウに声をかけた。
「わかりました」
「これを持っていけ」
 ロープと取ってのついた小さいバケツ型の入れ物を大木はユウに見せた。
「無理はするな。見つかることが一番怖い。子どもたちは何も感じないみたいだが、それが逆に怖い」
 大木からロープなどが入ったカバンを受け取ると、ユウは小さな声で大木にささやいた。
「何かの前触れですか」
 大木は作業している手を止め、ユウの顔を見上げた。
「そういうこともある。少なくとも、子どもたちだけは巻き込みたくない」
 ユウはその言葉を聞き、二コリとした。
「わかりました。気をつけます」
 大木は満足したのか、小さく頷くと、作業の続きを始めた。

 ユウは少し下流の方へ向かって歩いていた。大木が火の支度をしている所は、傾斜が急な崖になっている河岸段丘の段丘崖であったので、少し下れば平坦な部分に出るだろうと予想して、歩いていた。
「この辺りで川岸へ下りてみるか」
 草木が生えているので、空からは見にくいだろうと確認すると、大木から借りたロープを木にしっかりとくくりつけ、足場を確かめた。
 ガシガシ
 足の裏で土の固さを感じながら、ユウはゆっくり崖を下って行った。
 ゴオォーン
 ユウは空からの音に気づき、体を草むらに寄せ、見上げた。川に沿って飛んでいるのか、飛行艇が飛んでいく。
(ボラーの機体か)
 ユウは音が聞こえなくなると、崖を下りるのをやめ、登り始めた。
(大木さんの火が気づかれていませんように)
 木からはずしたロープをまとめながら、ユウは空を見上げた。


(12)
 澪は眠れず、艦橋後部の展望室に向かった。
(そういえば、二人で写真を撮ろうとしたんだっけ)
 澪は思い出し、くすりと笑った。

「えっ、どうしたの」
 澪は先客がいたことに驚きの声をあげた。
「何でもない」
 桜内真理はそう言って、目をこすった。
 澪はそれ以上、何も言わずに、真理の横に並んだ。
 二人はそのまま、言葉を交わすわけでもなく、煌めく星を眺めていた。
 沈黙に耐えかねたのか、口火を切ったのは真理だった。
「あなたのこと……何て呼んだらいいの」
「何でもいいよ」
「私、あなたのことをきちんと呼んだことがなかったことに気がついたの。艦長や戦闘班長は、あなたのことをサーシャって呼んでるでしょ。でもそれは特別で、みんなの前じゃ迷惑よね」
「迷惑じゃないよ。気になるなら、みんなの前では『澪』でいい。真理だったら、サーシャっていうのもOKだよ」
 真理は澪の腕を掴んだ。
「何で、OKなの」
「だって、真理ならOKだもん」
「だから、何で」
「真理は私の家族だもの。初めての家族。あのあと、真田のお父さまの養女になったり、艦長と血が繋がっていることを知ったけれど、真理が一番最初に私を守ってくれた。何もしらなくて、お人形のようだった私が、初めて見た人間、笑ったり泣いたりの自分の感情を持った人間が真理だった」
 真理は澪の腕から手を離した。そして、窓の外に視線を向けた。
「じゃあ、二人っきりの時は『おねえちゃん』って呼ぶのを許す」
「いいの?」
 澪は真理の腕をさすった。
「許すって言っているでしょ」
 澪は真理の腕に自分の腕を絡ませた。
「うん……それから、おねえちゃん、泣かないで」
 真理は澪の顔を見て、まばたきをした。
「おねえちゃん、さっき泣いてたでしょ」
 真理は澪の腕に顔を寄せた。
「泣きたいときもあるのよ」
「うん……」
「あんたも……サーシャも泣きたいときは泣いていいから」
「うん」
 澪は小さく頷いた。


(13)
 ユウは空を何度か見上げながら、大木と分かれたポイント目指して歩いた。
 ヤァーオ、ヤァーオ
 始めは動物の鳴き声かと思っていたが、近づくにしたがって、子どもの泣き声だと気づく。ユウは走り出した。
 大木が泣いている三人を抱きかかえていた。
「助かった……」
 大木の片手はチャチャンの口を押さえていた。
「チャチャン、おいで」
 チャチャンにはユウの声が聞こえていないようで、大木は首を振った。
「子どもたちは何かを感じてしまったようだ」
 腕を伸ばして、ユウは大木からチャチャンの体を抱き寄せた。
「大木さん、ボラーの機体を見ましたか?」
「いや、子どもたちでてんやわんやになっていて、それどころではなかった。ユウ、お前さん見たのか」
 ユウは頷いた。
 チャチャンを体にぎゅっと抱き寄せると、ユウはチャチャンの背中を「よしよし」とさする。
「銃の音や爆発音は聴こえなかった。ただ、哨戒で飛ばしていたのかもしれん」
 大木もムロとアカを片手ずつで抱きかかえ、二人の背中をさすっていた。
 ユウの胸元のチャチャンは落ち着いたのか、声が止まり、肩を上下させてしゃくりあげていた。
「大木さん、子どもたちは……チャチャン、大丈夫、大丈夫だよ……」
「よしよし、みんないい子だ……わからん、何か感じたのかもしれん。とにかく、落ち着かせないと」
「そうですね」
「おい、ユウ。これを使え」
 チャチャンの鼻水やよだれで、ユウの胸が濡れているのに気づいた大木が、布のタオルをユウに投げてきた。
「ありがとうございます……チャチャン、顔をちょっと上げて…」
 ユウはチャチャンの顔を覗き込んだ。ユウは、チャチャンの鼻の下を拭いた。
「グフン。あゆみ、にげろって」
 チャチャンの言葉に、ユウの手が止まった。
 大木の胸に顔を埋めていたムロがむくりと顔を上げる。
「遠くから、鳥の声に乗った、『あゆみ、にげろ』って声がした。その後、いろんな人の悲鳴がたくさん聞こえてきた」
 ムロの言葉を聞き、大木とユウは顔を合わせる。
「『あゆみ』って言葉には、友だちの意味があるので、それかもしれません」
 ユウの言葉に大木も同意した。
「誰かが襲われた、又は仲間に知らせるために送ったか……」
「ええ」
 ユウはそう答えながら、誰かが自分に送ったメッセージだったのかもしれないとも思った。
「とりあえず、移動しましょう」
 ユウが大木にタオルを返す。
「そうだな、雲行きもあやしくなってきた」
 大木が顎をしゃくって、空を指した。いつの間にか、厚い雲が空を覆っている。
「まだ、雨季も完全に終わっていない。今夜は大雨になるかもしれん。川から少しはなれるぞ」
「はい」
 


(14)
(君はどこにいる?)
 ユウは雨音を聞きながら、その他の音を聞き取ろうと耳をすませていた。
 バチャ、バチャ
 ユウはいつでも飛び出せるように、左足に力を入れて、身を乗り出していた。
「俺だ」
 その言葉でユウは、胸をなでおろす。斥候で出ていた大木佳数だった。
 大木はユウたちがぎゅっと押し込められているように入っている小さな横穴の入り口に立っていた。
「気にするな。いい場所はない。ここで今夜はすごせ」
 ユウは完全に濡れている大木の姿を見て、腰を上げかけたが、大木は、ユウの体を押さえた。
「大丈夫だ、君はこの子たちとここにいてくれ。俺は、あそこの木の下にいる……」
「途中で代わります」
「こんな狭い所だ、濡れた俺が入ったら、子どもたちも濡れてしまう。君はここで子どもたちを見ていてくれ」
 そう言い終わると、大木は大股で走り去って行った。ユウは大木の後姿が見えなくなるまで見送ると、子どもたちに声をかけた。
「チャチャン、ムロ、アカ、今夜はこのまま寝るよ」
 
 ユウは、揺れながら、夢の中と雨の激しい音の中をうつらうつらしていた。
(君はどこにいる? プファン……)
 空を見上げると青い空に一羽の鳥が飛んでいる。太陽の光を受けて青くキラリと光る。ユウは、自分が夢の中にであることを自覚しながらも、空を飛ぶ鳥に手を伸ばした。そして、いつの間にかユウは空を飛んでいる鳥と同化したように、森を俯瞰していた。
 ドオンという音と共に、遠くの森が燃えてるのが見える。
(プファン、君は戦っているのか……)
「あゆみ、逃げろ」
 その声で、ユウが同化していた鳥は、大きく弧を描いて、飛んでいる向きを変えた。
(待って……)
「わあぁ」
 チャチャンの声でユウは目を覚ました。
 ムロとアカも驚いた顔で震えている。
「みんな、見たのか。森が燃えているのを」
 ユウが声をかけると、アカが小さく口を動かした。
「誰かが、苦しい、助けてって……」
 ユウはアカの体を揺さぶった。
「誰かの声が聞こえたのか、どっちから聴こえた?」
 アカとムロの指は同じ方向を指していた。
 ユウは横穴から飛び出して、二人の指先の方角を見た。外はいつの間にか雨が上がっていた。
 木々の欠けた部分に月が見えている。
(月が沈む方向か?)
 


(15)
「大丈夫でしたか」
 ユウはまだしっかり濡れている服を着ている大木佳数に声をかけた。
「気にするな。それより、大きい声を出したのは誰だ?」
 大木が横穴から出てきたチャチャンたち三人を見ていた。
「皆で同じ夢を見たんです。<あゆみ、逃げろ>って」
 ユウの言葉に、大木は首をひねった。
「昨日もそんなこと言っていたな」
「ええ、昨日の声の主の夢です」
 大木は両手を挙げた。
「俺にはさっぱりだ。君もその夢を見たのか」
 ユウは頷いた。
「トナティカの友だちのことを思っていたんです。そうしたら、燃える森が見えて、<あゆみ、逃げろ>という声がしました」
「よくわからんが、昨日の声の主の送ってくれた映像を、君たち四人が夢で見た……そんな解釈でいいのか」
「はい、たぶん」
 「うーん」と大木は大きく息を吐いた。
「あの、お願いがあります」
 ユウは静かに話し始めた。
「声は月が沈む方向からでした。僕はそこへ行きます」
 大木はユウから顔を背けた。
「行かせてください」
 ユウは叫んだ。
 もう一度、ユウが言葉にしようとしたとき、ユウは自分をじっと見ている大木佳数の目と目があった。
 大木は首を振った。
「君が無事地球に帰れるようにしたいんだ。君のお父さんが君のことを中心に生活していたことを知っているから……どんなに君を大切にしていたか」
 ユウは乗り出し、大木の腕を掴んだ。
「どういうことですか」
「君たちが南十字島にいた理由を、君は知っているかい」
「大学があったからじゃないですか」
「大学なんて選べばどこにでもある」
 ユウは呆然とした。なぜ母と離れて、南十字島で暮らしていたのか、それまで考えたことがなかった。
 大木は小さなため息をついた。
「あの島は、出入りのチェックが厳しい……軍事施設と大学の研究施設が中心の島だったからね。君のお父さんは英雄だ。だが、敵もいた……ヤマトの戦いに不満を持つ者、ヤマトの戦いで家族を失った者……君たち家族の周りには常にSPがいて守られていた……」 
「そんな……」
 大木は、「うおお」と小さくほえた。
 息を整えると、大木は横穴に向かって、ざっざと歩いていった。大木のただならぬ様子にチャチャンたちは大木の通る道を開けて、その動きを見守っていた。
 大木は、また、ユウのところに戻ってきた。そして、ユウの手をつかみ、手のひらをユウの手のひらに重ねた。
 ユウは手のひらの中に小さな物の感触を感じ、中の物を自分の目で確かめた。
(コンパス……)
 それは方位を確認する、地球の方位磁石のようなものだと、ユウは気付いた。
「さっきは余計なことを言った。だが、君は死ぬな。これは俺の気持ちだ」
「大木さん……」
「君のお父さんを悲しませるな」
 そう言うと、大木は荷物を取りに横穴へ向かっていった。
 大木は皆の荷物を穴の外の乾いたところに出すと、荷物の中のものをいくつか取り出した。
「こっちが君の荷物だ。少し多めに食料を入れておいた」
 大木はユウに、つめ直したカバンを渡した。
「雨が上がっているうちに、できるだけ進むんだ」
「はい」
「いいか、死ぬな。必ず地球に戻るんだぞ」
 ユウはできる限りできる笑顔で、大木の言葉に答えた。



(16)
 大木佳数は、子どもたちとボラーの直接統治のエリアからさらに離れた方向へ行くため川を下って行くと言い、出発をしていった。
 ユウはムロたちが指差した方向へ進むことにした。大木の話では、スヴァンホルムの館や湖のある方向より、やや北よりだろうということであった。
 しかし、道はあるといえ、森の中を進むことだけは避けられず、時折、左手に見える山脈と、大木佳数からもらったコンパスを頼りに進むしかなかった。
「何日かかることやら」
 ユウは歩きながら、不確かな旅に不安を覚え、つい声を出した。
「自分で選んだんだぞ」
 夜は、大木から教えられた簡単な計測法を用いて、自分の進んできた方向を確認し、眠りに入った。大木が気をきかせてか、ハンモックにもなる寝具を入れてくれていたため、枝に引っ掛け地面から浮いた状態で寝ることができた。
 翌日も森の中の道を通る。木が倒された跡があり、時折、建物らしきものもある。昔は人の往来もあっただろうが、ここ数年は手入れがされておらず、草も生え放題になっている。古びた建物の中には、たいてい井戸があり、水の確保は容易にできていた。
 日が真上にかかる頃に見つかった建物にも、古い井戸があった。しかし、建物自体今まで見てきたものより新しく、床も小奇麗である。
「久々に床に寝るか」
 暖かい食事も懐かしくなってきた。
「スープでも作るか」
 薪を拾い集め、火をおこした。小さな鍋に手でちぎった干し肉を入れ、水を入れる。そして、たぶん食用として食べられるだろう草も入れる。
「そういや、よく父さんとキャンプをしたな。庭とか、海辺で」
 静かな空に、焚いた火の煙がするするとあがっていくのを見上げながら、ユウは子どもの頃を思い出していた。
 ガサガサ
 ユウは耳を澄ました。
(動物の足音……)
 ユウは音の方へ、物陰に隠れながら近づいていった。
(サグ?)
 長距離を移動する時に使う、サグという動物とそれより大きい動物の二匹が、ユウの方へ向かってくるのが見えた。
(荷物が載っている……誰かが使用している……人は……)
 ユウは更に身をかがめ、物音を聞いた。
 息を潜めているユウの背中に、汗が流れる。
(どっちから来る? これだけ気配がないということはたぶん相手は一人……)
 次の身を隠す所めがけて、ユウが飛び出すと、布が左から舞うように動く。
(来る)
 ユウは身を深くかがめ、最初の一振りを交わした。小刀のようなものがユウの横をかする。
「レスタ ダルトゥ(敵じゃない)」
 ユウは、回転して離れ、体制を整える。
 相手はマントを被って、子どもであるのか小柄である。
 ユウは息を整え、もう一度叫んだ。
「レスタ ダルトゥ」
 相手は小さく一歩一歩ユウに近づいて来た。
(だが、友好って感じじゃない)
 マントが目の前を覆う。ユウは相手が飛び掛ってきたと察し、逆に相手の体に手を伸ばした。
 しかし、マントの布端に触れただけだった。
 次の瞬間、ユウはのどに小刀を突きつけられた。ユウは、体を後退させたが、刀との距離は変わらなかった。
「ヤン グァ(誰だ)?」
 刀はユウの喉元のまま、相手は頭を覆っていたマントの一部をはずした。
(青い肌……ガルマン・ガミラスの人?)



(17) 
 ヤマトの艦長室で休息を取っていた進のもとに、技師長である坂上葵が訪ねてきた。進は葵の具申書を読むと、葵にその紙をつき返した。
 そして、進は体を起こすと、帽子を深く被った。葵はその様子を無言で見守っていた。
「うぬぼれているわけではない」
「わかっています。しかし……」
 進は窓を見上げた。いつになく葵から覇気を感じるため、進は葵の顔を見るのを避けた。
「波動砲の砲手を育てる……簡単ではないぞ」
 葵は進の要求をすべて飲む様子もなく、自ら作成した具申書をぎゅっと握った。
「撃った者しかわからないことがあると思います。多くの人の命や運命を変えてしまう可能性のある波動砲を、ただ撃つだけのことだと思っていません。それは今回のガミラスからの技術供与品も同じです」
 進は暗い宇宙を、ただじっと見ていた。
 小さく息を吐き、葵の方に振り返った。
「私が撃つ」
 葵は唇をぎゅっと閉じ、一呼吸おき、
「確かにそれが最善だと思います。しかし……」
 葵は更に言葉を続けようとした。それをさえぎるように進は葵に近づき、肩を一度軽く叩いた。
「ありがとう。この件は、徳川機関長にも話しておこう。彼には今後、副長を兼任してもらうつもりだ」
「艦長……」
 進は葵に笑顔をで頷いた。



 ユウは青い肌の人物に刀を突きつけられたまま、それ以上動けなかった。
(身体能力が自分より上だ。動きについていけない……)
 ユウは息を整えながら、相手の出方をうかがった。
 キィーイ、キィー 
 鳥の声と共に羽音がする。一瞬、相手の体がぴんとその音に反応するのをユウは見た。
 ユウはその機をいかし、一旦身を低くすると、青い肌の人物に飛びついた。ユウは刀を握っている右手首をしっかりつかみ、体の力を集中してゆさぶった。
 相手の足の蹴りが入るが、とにかく、体を押し付けようと、ユウは相手の両手首をしっかり握った。もみ合ってバランスを崩し、二人が倒れても、ユウは手だけは握り続けた。そして、ユウの体が上から押さえる形になると、ユウは「レスタ ダルトゥ(敵じゃない)」ともう一度叫んだ。
「うう」
 相手はユウの手を払おうと必死になっていた。
 ユウは思ったより細い腕から、青い肌の人物が子どもではなく、女性である事に気づいた。
 ユウは必要以上の力をかけることをやめ、言葉を続けた。
「ヤン グァ(誰だ)?」
「はあ……エリシュカ……」
 ユウは微笑んだ。
「エリシュカ、ウウダ レスタ ダルトゥ(私は敵ではない)」
 エリシュカと名乗った青い肌の少女の握っていた手をユウははずした。



(18)
「私は地球人だ」
 ユウは相手が『地球人』という言葉を知っていることを祈りつつ、叫んだ。
 ユウの祈りが通じたのか、突きつけられていた刃物の先は、少しユウから遠ざかった。マントのフード部分は、引いた体とともに、するりと頭から外れていった。
(若い……)
 相手は自分より若い少女だった。後ろに束ねられた柔らかな亜麻色の髪は、青い肌に添うようにまとまっている。肌の色さえ、肌色に近ければ、トナティカの少年と見まごう姿であった。
「地球人?」
 エリシュカは姿勢を崩さず、何かの弾みで、もう一撃を加えることができる状態はそのままであった。
「そう。私は、トナティカの子どもと地球人の仲間五人で、トナティカの人たちと合流できる場所に移動していた。北東の方向から、大勢の声と燃える森のメッセージを受けたので、一人、その森へ行く途中なんだ」
 エリシュカは、話しているユウの様子を瞬きもせず聞いていた。そして、話を聞き終わると、手に持っていた刀を腰のホルダーに戻した。
 その動作が終わると、また、ユウをじっと見た。
「その森周辺の人々は、もう移動した」
 少し低めな声で、少女は独り言のようにつぶやいた。
「アダマック山脈の一の谷の方へ逃げていった」
「アダマック山脈……」
 ユウは聞き覚えのある言葉を繰り返した。
 少女はそれにかまわず、ユウが作ったカマの方へ歩いていった。火はほとんど消えかけている。ユウは食事を作っていたことを思い出し、火にかかっていた小さななべを覗き込んだ。
(ああ)
 ほとんど汁気がなくなっていた。
 原始的な料理の残骸を見られたことが恥ずかしかったが、少女はそんなことに興味を示さず、カマの近くに集められていた木の枝の中の一つをつかみ、ユウの目の前の地面に、絵を描きだした。
「アダマック山脈、一の谷、森、二の谷」
 エリシュカはそう言って描いた絵を説明した。
 ユウは自分の記憶をたどって、彼女の絵を見た。
(昔住んでいた外来者の居住区域は、一の谷から流れている川の下流域だったはず)
 その住んでいたあたりの、より山脈から更に離れたところに、スヴァンホルムの館はあった。
「二の谷」
 少女はそういうと、二の谷の位置をトントンともう一度指し示した。
「ありがとう。森に人がいないのなら、僕は一の谷の下流へ行くよ」
「だめだ」
 ユウの言葉は間髪をいれずに否定をされた。
「ボラーも海岸へ移動している。一の谷は戦場になる。私と二の谷へ行こう。人を集めている。空を飛ぶ船を操れる、ガミラス人や地球人を集めている」
「空を飛ぶ船?」
 少女は頷いた。
「そう、空と飛ぶ船……私はこの星で生まれ育ったから、空飛ぶ船のことはよくわからない。私の父は元ガルマン・ガミラスのエンジニア。何人かの仲間とともに、今、船を作っている。だが、人が足らない。地球人が何人かいるうわさを聞いた。ずっと会えなかったが、父との約束の日が近いので帰る途中だった。これから二の谷に帰る。お前も来い」
 たどたどしい言葉を聞きながら、このトナティカでは珍しい肌の少女は、他の子どもたちとは暮らしていなかったのだろうかなどとユウは想像していた。
 ユウは地面に描かれた二の谷をもう一度見た。
 そこは、ユウの行きたい方向と、ま逆である。
「空を飛ぶ船を使って、我々は一の谷へ向かう。だから、お前も二の谷に来い」
(空を飛ぶ船……)
 それはただ大気圏内を飛ぶだけの船なのか、宇宙も航行可能なのか。
 少女は考えあぐねているユウをそっちのけで、カマに木の枝を入れだした。荷物を積んだサグの方に戻り、いくつか荷物を持ってきていた。どうやらユウの返事を待ちきれず、食事の支度に入ったようだった。
 そのうち、少女の使っている調味料のおかげか、ユウのスープの残骸がはいった鍋から、食欲が増すような香りが漂い始めた。
 ユウは相変わらず、少女が描いた地図を見ていた。
(二の谷……)
「さあ、食べよう」
 ユウは不意に椀を差し出された。
「あ、ありがとう」
 ユウは手を差し出し、椀を受け取った。 
 椀を差し出す少女は微笑んだ。
 その少女の恥ずかしそうな笑顔で、ユウは揺れていた気持ちを決めた。
「エリシュカ、二の谷に行くよ。君と」
 エリシュカはユウの笑顔に迷い、ただ、小さくこくりと頷いた。
「僕の名前はユウ。よろしく、エリシュカ」
 ユウは手を差し出した。
 エリシュカはどう対処したらいいのか迷っていた。ユウはエリシュカの空いている手を握った。
 エリシュカはびくりとする。
 エリシュカの人に対しての姿を見て、ユウは澪のことを思い出した。
(サーシャ、君は元気にやっているか。僕は元気だ。そして、必ず君の元へ帰るよ)


第18話 『回想』 おわり
第19話 『星が永遠に照らしてる』へつづく



なぜ、この話を書いたのか、知りたい方はこちらを読んでね
SORAMIMI 

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