RAW ORE

  

 『はかなきこの世を過ぐすとて』

  2200年 ヤマト、地球に帰還後

「沖田は?」
「沖田艦長は残念ですが……」
 土方竜は質問したものの、その答えを聞く気にはなれなかった。騒然としている周りの者たちの様子を見ていれば、察することができたからである。
(約束は守ったのだな)
「誰が沖田の代わりにヤマトの指揮をしていたのだ」
「戦闘班長の古代進が艦長代理として指揮をしていたのだそうです」
「古代が?」 
「はい。沖田艦長自身が指名したそうです」
「そうか」
 土方は目を伏せた。
「沖田を失って、古代は辛いだろうな」
 山南修は土方竜の呟きを聞き逃さなかった。
 そして、土方は、一つの歌を口ずさんだ。
「はかなきこの世を過ぐすとて 海山稼(うみやまかせ)ぐとせしほどに 万(よろづ)の仏に疎(うと)まれて 後生この身をいかにせん」
(お前がこの先の古代を導かねば、誰がするのだ)
 土方は沖田十三が死後にすぐ入ったというカプセルを見つめながら、心の中でつぶやいた。
(お前は今、どこにいるのだ)
 土方竜は、国連の科学局が地球防衛軍という組織を作ろうかどうかという十年ほど前を思い出していた。
「はかなきこの世を過ぐすとて 海山稼ぐとせしほどに 万の仏に疎まれて 後生この身をいかにせん」
 友の読んでいた本の栞に書かれた言葉を、土方竜は読んだ。
「相変わらず、難しい言葉が好きなのだな。ところで、お前はどうするのだ」
 土方は、沖田十三に訊ねた。今まで科学局での宇宙開発、宇宙飛行士だったことが、軍として立ち上げるというとき、もともと軍人だった土方は抵抗がなかった。
「沖田、お前は、宇宙に出たいからという理由で、軍人になって、宇宙飛行士になったのだろう。戦うことが目的ではなかろう」
 学校でも同期だった二人は、その後はその目標の違いからたどった道は別であったが、火星開発で再び同じ釜の飯を食う仲となった。
「土方、そういうお前はどうなのか。お前は、もともと危機感を持っていたから、関わりたいのであろう」
「ああ」
「私は、この宇宙をもっと見てみたい。ここまで来てしまったのだから、戻る事もできないだろう。それに、我々は『海山稼ぐ者』たちよりも、もっとひどい事もやっている」
 沖田は、土方が持っていた栞を見つめていた。
「宇宙開発といって、地球以外の惑星などの天体の資源をどんどん使い、人類にとって使いやすいように星を改造している我々は、きっと仏に見捨てられて地獄に落ちるだろう」
 そう沖田はつぶやいて、土方の手から栞を取り上げると、本の中に挟み込んだ。沖田は笑みを浮かべた。
「だからといって、誰かがやらなければならない」
 沖田の唇がきりりと閉じた。
 土方は知っていた。沖田が青い地球だけでなく、その他の惑星や小惑星、衛星などを形を崩すほど開発している人類の姿を良しとしていないことを。
(他人任せにもしたくない……お前らしい)

「土方くん、地球の艦隊の再編成を進めていってくれ」
 防衛軍の長官である藤堂の言葉に土方は頷いた。
「古代たちヤマトの乗組員は、その中心ですね」
 山南の言葉に、土方は首を振った。
「いいや、古代たちは沖田の純粋培養だ。今後の地球の道にそぐわないだろう」
(それに……)
 土方の中には、一人の青年の姿があった。
(古代、お前はもともと沖田に似ていた。お前も沖田と同じ道を行くのか……)
「沖田は残念ながら再び目覚めることがないのかもしれない。だが、山南、君は新しい人材を育てろ。そして、古代たちにその若者を育てさせろ。沖田がヤマトで古代たちを育てたように、古代たちは自分も育ちながら、人を育てるだろう」
「人を育てる」
 山南修はその言葉を繰り返した。


なぜ、この話を書いたのか、知りたい方はこちらを読んでください。
SORAMIMI


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