第105章  連邦包囲網


 

 サイド6を陥落させた連邦軍はそこにエニーの第3艦隊を配置し、他の部隊を元の配置に戻して一度仕切り直しに入っていた。ティターンズがサイド6のインフラを徹底的に破壊し、更に物資まで引き揚げてくれたおかげで連邦軍は侵攻作戦どころではなくなってしまった。秋子は支援艦隊に積載されていた生活物資を放出する事で当面を凌ぐ事にしたが、同時に大規模な物資の輸送計画の立案とサイド6のインフラ再建計画の立案を迫られてしまったのだ。
 幾らなんでもサイド5にはそれだけの余力は無く、秋子はこの問題をジャブローのコリニー大将に押し付ける事にした。この問題を丸投げされたコリニーは断るわけにもいかず、仕方なく兵站部に物資の調達と宇宙への打ち上げを命じるが、それはジャブローに備蓄されている物資を大量に放出する事を意味している。
 だが恐ろしい事に、ジャブローはこの要請に答えるだけの余力を持っていた。地上での作戦の大半を白紙に戻さなくてはいけないだろうが、それだけの備蓄がジャブローにはある。そして宇宙軍にはそれをサイド6に運ぶだけの輸送船と護衛艦もあった。ティターンズやネオジオンには絶対に不可能な作戦であったが、それを実行できてしまうだけの圧倒的な物量と、それを動かすシステムこそが連邦を象徴する力なのだ。


 ジャミトフはこの連邦の力を知っていたからこそこの作戦を決行した。もし出来ないとなれば連邦軍はサイド6の市民を見殺しにして間を置かずにサイド7に、グリプスに侵攻してきたかもしれない。あるいはルナツーを全力で落とすか。いずれにせよ連邦は大損害を覚悟しての無理な力押しによる短期決戦を挑んできただろう。
 ジャミトフはこの無茶な賭けに勝利したと言えるだろう。彼は連邦に困難ではあるが、不可能ではない程度の障害を作る事に成功したのだ。おかげでティターンズが総力を上げても止められなかっただろう連邦軍の足は止まり、ティターンズは無傷の状態で遥かに有利な状況を作り上げる事が出来た。
 後はサイド6にやって来る輸送船団を狙って攻撃を繰り返せばいい。連邦軍は輸送船という無力な羊を守りながらの戦いを強いられるので、同数以下の戦力であってもかなり有利に戦える筈だ。


 この事態に対して大統領はやむを得ず地上軍で準備されていた作戦を全て中止させ、全力を挙げてサイド6の市民生活を支えるようにコーウェンに命令を出した。まさかサイド6の市民を見捨てて兵を引けなどと命令できるわけも無いし、サイド6の住人全てを短期間で脱出させる術も無いのだから。
 だが命令を受けた方は正直神を呪いたくなってしまった。余り仲が良いとは言えないコリニーやゴップらの連邦軍のTOPたちが会議室で顔を付き合わせ、この事態にどう対処したものかと会議を始めてはいるのだが、やはり物資の打ち上げ方法が問題となった。
 宇宙艦隊司令部から送られてきた必要な物資量の試算を前にゴップ大将がかなり渋い顔をして、人差し指で書面を叩き続けている。

「簡単に言ってくれるものだな、上も水瀬君も」
「ですが、大統領命令とあってはやるしかありますまい。ですが、物資打ち上げ用のコンテナや往還船を総動員しても必要量を絶えず送り続けられるかどうか」

 コーウェンが眉間に皺を作っている。確かに物資はあるが、突然計画を変更させられる方の身にもなってくれと言いたいのだろう。地上軍総司令官も兼任しているコーウェンとしては、それまでの準備が全て無駄になったのだから内心穏やかでないのも当然と言えるだろう。
 とにかく、政府の決定なのだから仕方が無い。将軍たちは急いで抽出する輸送機や物資の割り当て分担を取り決め、それぞれの戦線からジャブローに送る手配をする為に受け持っている戦線に命令を伝達するべくそれぞれの司令部へと戻っていった。特に今回の輸送作戦ではガルダ級超大型輸送機全てが動員される事が決まっていて、各戦線から大量の物資を運ぶ仕事に従事する事となる。
 ただ問題は打ち上げ能力で、ミノフスキークラフト搭載型の艦艇全てを動員しなければ到底不可能な量だ。この為にジャブローは宇宙軍にミノフスキークラフト搭載型の最新鋭戦艦であるカイラム級戦艦全てをこちらに回すよう要請している。
 この要請にフォスターUは難色を示したが、こちらは秋子が有無を言わせず承諾させている。こちらが先に無茶を通させたのだから、このくらいしないと悪いと思っていたのだろう。それにもし断れば地上軍との亀裂が更に拡大しかねない。

 このサイド6への輸送作戦はかつての西暦の時代における冷戦の緒戦とも言える東側のベルリン封鎖に対して、輸送機だけで孤立した都市を支え続けたという故事にちなんでベルリン作戦と命名された。
 それは宇宙世紀史上に残る壮大な大規模輸送作戦であったが、同時にかつてのファマス戦役と並ぶ困難な作戦でもあった。何しろ輸送路のすぐ傍に敵の一大拠点があるという、とてつもない不利を抱え込んでいるのだから。




 上層部でベルリン作戦が決定されていた頃、サイド6では支援艦隊が物資をサイド6に運び込み、工作艦が宇宙港の修理を行っていた。本来なら宇宙港の中に入港して物資を降ろせばいいのだが、ティターンズは簡単には直せないようにキッチリと破壊していってくれたのでとても使い物にならない。中には破壊が間に合わなかったのか、主砲を打ち込んだ上に破壊した民間船を港を塞ぐように座礁させるという荒っぽい手段で封鎖してある所もある。
 これらの船を撤去し、破壊された港を工作艦だけで修復するのは容易ではなく、サイド6内の民間業者、とりわけコロニー開発公社の手助けが不可欠であった。だがコロニー公社は健在でも作業をする為の船や資材が無ければどうしようもなく、そして支援艦隊も艦隊を支える物資は持っていたがコロニーを直すような資材の用意はさすがに無い。だからまずそれらの物資をサイド5から運んでこなくてはならなかった。
 幸い、サイド5は急増する人口受け入れの為にコロニーの再建ラッシュ状態であり、コロニー修復用の資材には余裕があった。


 これらの輸送に責任を持つ事になった秋子は頭痛の余り官舎に帰って不貞寝したくなる衝動を覚えたが、それを押さえ込んでランベルツ少将に輸送計画の目処を尋ねた。

「ランベルツさん、第1次計画分の物資はどれくらいで送れそうですか?」
「はあ、とりあえず緊急用の食料と水、そして湾口施設の復旧資材だけですから、攻略作戦に参加している第9、第10支援艦隊を3回も往復させれば何とかなるかと。問題はジャブローから上げられて来る方です。とりあえずコンボイを編成しますが、護衛艦も足りませんが輸送艦も足りません。こちらは臨時に民間船を徴用して補う予定です」
「コロンブスの数が足りないと?」
「元々、現在の各方面への輸送計画でも不足気味だったのです。地球との航路にソロモン、ペズン、月面、サイド2、そしてティターンズ方面軍と、輸送する先が多岐に渡っていますからな。これだけの航路に割り振るのですから船は幾らあっても足りません。距離は遠かったですが、一本に絞れたファマス戦役の方が楽でしたよ」

 連邦軍は船を沢山持っているが、それでも無限に出てくるわけではない。広がった戦線を支える為には常に大量の輸送艦が必要だが、これの消耗も中々に大きく、新規建造する船は消耗を埋めるので精一杯という有様なのだ。特にソロモンへの輸送路はネオジオンの妨害を受けやすく、多くの船が沈められている。他にも過去に幾度か行われた大規模な作戦の折に失われた船も多い。
 更にこれを守る護衛艦の数も足りない。何百隻という戦闘艦を有する連邦軍でも、各地に分散してしまえば個々の数はさほど多くは無い。しかも新鋭艦はティターンズやネオジオンとの最前線で必要とされているので、護衛に回されるのは旧式艦と旧式MSが相変わらず多勢を占めている。サラミスはマシな方で、ファマス戦役時に大量に建造されたフリゲートが未だに中心となっているくらいだ。フリゲートはファマス戦役後も改修は受けず、旧来のまま使用され続けている船だ。

「水瀬長官には、護衛艦の増勢をお願いしたいのですがな」
「……クラップ級をそちらに回せと?」
「現場からは新鋭艦の配備の要望が寄せられておりまして。現在の損害を押さえ込むには新型艦と新鋭MSの護衛部隊への配備が必要であると」
「……それについてはコリニー総司令と協議してから、ですね。善処はしてみます。とりあえずは第1次計画の方を進めてください。必要があれば第1艦隊から護衛艦を出しますから」
「それはありがたい、護衛艦は1隻でも多い方が良いですからな」

 元々支援艦隊は打撃艦隊と共に戦場に赴く部隊なので、専属の護衛艦が配備されている。そこに第1艦隊から空母や巡洋艦が加われば輸送艦の安全は飛躍的に増す事になるだろう。
 だが、連邦軍がティターンズの執拗な妨害を予想して護衛を準備していたのだが、ティターンズ側の覚悟は連邦の予想を超える物であった。ランベルツが送り出した第1次計画部隊は、その往路でいきなりティターンズの波状攻撃に晒されたのだ。





 サイド6戦から僅か一週間後、第9、第10支援艦隊を統合した第1次輸送船団を編成した。指揮官は第9支援艦隊司令官のチャイコフスキー少将が任じられ、第1艦隊から20隻の護衛艦の追加と、更に前衛として斉藤大佐が指揮する第35任務部隊が編成され、船団の前方を航行して警戒に当たる。


 この連邦の輸送計画はティターンズによって監視されていた。いや、ティターンズだけではない。この作戦にはネオジオンの支援もあった。連邦の力を削いでおきたいのはネオジオンも同じで、現状を打破する手立てを講じられずにいたデラーズはティターンズから持ちかけられた話に乗ったのである。


 連邦が動き出す前に、ネオジオン指導部とティターンズの指導部はフォン・ブラウンを中継地としたレーザー回線による会談を行い、今後の対連邦戦略に関して意見をすり合わせていた。ネオジオンからはキャスバルやハマーン、デラーズといった面々が参加し、ティターンズからはジャミトフやバスク、エイノーといった実戦部隊の長達が顔を出している。
 この場でジャミトフはネオジオンに対して連邦軍の輸送線寸断に力を貸すように求めたのだ。その為に補給や整備はティターンズ側が提供する、その代わりにこちらの指揮下に部隊を置き、指揮系統の統一を図りたいという。だがこれにはデラーズら軍部が難色を示した。ティターンズと共同作戦など出来る訳もないし、彼らの指揮下に入るのも御免蒙るというのが彼らの主張である。下手をしなくても盾代わりに使われ、使い捨てられる様が想像できてしまう。
 これにはキャスバルらも同調し、援軍を出す事は考えても良いがティターンズの指揮下に加わるのは到底受け容れられないと拒否の姿勢をみせた。
 この反応にバスクらは不快げに舌打ちして見せたが、ジャミトフは表情を動かす事もなくどういう条件なら飲めるのかを問う。

「そちらの条件を聞かせてもらおうか、キャスバル総帥?」
「ネオジオンとしては、こちらはこちらだけでやらせて頂きたい。そちらからは食料と推進剤の補給だけ行ってもらえれば良いでしょう」
「ルナツーに寄港はしない、と言われるのか?」
「乗員の休養はこちらで行います。なに、小惑星帯からの航海に比べれば大した距離ではありません」
「……分かりました、そう言われるのでしたら。作戦はお互いに不干渉、情報のみ共有という事で宜しいかな?」

 お互いを敵としないだけで手を組むわけではない、この点では互いの考えは共通しているらしかった。ジャミトフとキャスバルの間にあるのは打算と互いへの不信感であり、信頼などという物は無い。
 だが打算というのは厄介な物で、これがあると嫌いな相手と協力する事が出来るようになる。キャスバルの主義主張から考えればジャミトフなど受け入れられる相手ではない筈なのだが、これまでも両者は度々協力しあい、色々な取引もやってきた。ネオジオンが不要になった新兵器をティターンズに譲り、見返りに技術や資源を回してもらった事もあるのだ。
 その意味ではザビズムへの妄信だけで動いているデラーズの方が遥かに厄介な相手だろう。彼はキャスバルの命令だからここに居るだけで、本来ならティターンズと話し合うような人物ではない。それは彼が多くの軍人に支持される理由ではあったが、同時に彼を厄介な存在にもしていた。
 この会談の前にもデラーズははっきりとキャスバルに反対している。ティターンズと連邦の争いなどに首を突っ込むべきではないと。このデラーズの反対にキャスバルは苛立ちを隠しきれないようになってきていて、間に立っているカーン派のTOPであるハマーンの心労を増やし続けていた。

 結局、ネオジオンとティターンズが共通の敵に手を組んで当たるなど夢物語とでも言うか、元々が不倶戴天の敵同士である事を考えれば仕方ないのだろうが、最後まで両者の意見が折り合う事は無く、双方がそれぞれに独自に部隊を出して連邦軍を叩くという当たり障りの無い取り決めが行われるだけに留まった。
 連邦という強大な敵に当たるには両者が手を組んでも足りないのだが、やはりジオンと反ジオンという両者が手を組むというのはありえない選択なのだろう。多少なりとも妥協できる人間は連邦に流れてしまっているのだから。
 

 ただネオジオンにはティターンズの援護に大規模な艦隊を送るような余裕などは無く、支援はもっぱら潜宙艦によるサイド5とフォスターU、そして航路上の監視程度であったが。
 しかしこの潜宙艦による監視はティターンズにとってはありがたいもので、ティターンズはルナツーやデブリに隠してある艦隊を潜宙艦からの情報を待ってから動かせば良くなった。
 そして、遂に連邦軍の大船団がフォスターUを出たという情報がグリプスに届いた。これを受けたバスクは全力を持ってこれを阻止しろと各所に配置してあった部隊に命令を下した。

「あらゆる手段を持って奴らを阻止しろ、1隻たりともサイド6には辿り着かせるな!」

 この激を受けてサイド6との航路上に伏せていたティターンズ艦隊が動き出した。それはそれまでのような大艦隊ではなく多くても数隻、多くは1隻の単独行動で動き出していた。
 これはある意味でティターンズらしさを取り戻した戦い方でもあった。元々ティターンズは対ジオン残党部隊であり、対エゥーゴ部隊である。何処かに隠れている敵を探し出して叩き潰すという少数精鋭部隊での遊撃戦こそが彼らの本来の姿なのだ。
 




 サイド5を出撃した船団が最初の襲撃を受けたのは、サイド6との中間宙域においてであった。周囲に展開する連邦の護衛艦から敵艦を発見という知らせが入ったのだ。
 知らせを受けた船団は対処を護衛艦に任せて予定の航路を進む事にしたのだが、襲撃してきたティターンズのMSはかなり厄介な相手であった。程なくして届けられた続報は船団司令官の期待を裏切る物だったのだ。
 通信を受け取った参謀が顔色を蒼白にし、司令官にそれを持ってくる。

「閣下、大変です。襲撃してきた敵艦は戦場を離脱した物の、MS隊は味方MS対を突破し、こちらに向かっているそうです。敵機は全て可変機との事」
「何だと、機種は!?」
「今、送られてきた機体データを解析中です」

 迎撃に出ていた艦隊から送られてきたデータが示した機体は、メッサーラとガブスレイであった。いずれも長距離巡航性能に長けた攻撃型MAで、長射程大火力を有している。対艦攻撃にはうってつけの機体と言えるだろう。ギャプランは巡航性能に難がある為か、確認されていない。連邦はそういった仕事を全て戦闘機に任せているが、対MS戦も出来る可変MAや可変MSの優位性はこういう時にはやはり物を言う。
 迫る可変機の編隊、その数12機に対して艦隊からはジムVやゼク・アインが迎撃に出て、更に直衛にジムU部隊が展開して守りを固めたのだが、可変機の群れはMS戦など最初からする気はないとばかりに大きく散開して迎撃機を振り切りにかかってきた。
 邪魔なプロペラントタンクを捨て、圧倒的な加速力で距離を稼ぐ可変機やMAに追随出来るMSは存在しない。一度距離が開けばMSにはMAに追いつけない。それを知っているメッサーラやガブスレイのパイロットたちは大きくMS対と距離をとった後、思い思いの方向から輸送艦目掛けて一直線に突っ込んだ。メッサーラのメガ粒子砲が、ガブスレイのフェダインライフルがコロンブスの船体に穴を穿ち、放たれたミサイルが直撃して大爆発を起こした。
 運良く格納庫に穴が開いただけで済んだ船もあるが、機関部や艦橋を撃ち抜かれて停止する船、積荷に引火して火災を起す船、ミサイルを受けて大穴を開けられ漂流する船が続出していた。流石に戦闘艦と違って誘爆を起こすような物は積んでいないが、中には積荷が蒸発爆発を起こして内側から爆発四散してしまう船もあった。
 これが装甲の厚い戦闘艦であったら装甲で食い止め、表面が蒸発爆発を起こす程度で済んだかもしれないが、紙のような輸送艦にそれを求めるのは酷と言うものだ。

 この攻撃で8隻のコロンブスが航行不能となり、乗員を救助後に放棄されている。その後船団を組み直してサイド6を目指したのだが、この攻撃から2時間もたたずに次の襲撃に晒されてしまう。
 今度襲い掛かってきたのはアレキサンドリア級重巡洋艦のアレキサンドリアで、今度は撤退せずに迎撃に出てきた護衛艦隊相手に砲撃戦を挑んでくる。迎え撃った3隻のサラミスは敵重巡を通すまいと壁を作るように展開してジムVを出撃させたのだが、アレキサンドリアの方はガンダムmk−Vとバーザムを出してこれを迎え撃ってくる。
 船団に突入される事を警戒して直衛部隊は動こうとはしなかった、今度の敵は迎撃部隊を削るのが目的なのか、3隻のサラミスを突破しようとはせず本格的な砲撃戦を繰り返した。
 アレキサンドリアの砲撃は3射目で直撃を出して防御スクリーンに防がれたものの、5射目でスクリーンを貫いて有効打を出し、6射目で更に3発の直撃を与えて敵の1隻を大破させて脱落させた。
 残り2隻に減らされたサラミスはMS隊の苦戦もあって流石に不味いと判断し、援軍を求めた。それを受けて近くの警戒部隊がこちらに向かってきたのだが、彼らが到着する頃には更に1隻のサラミスが砲撃戦の末に撃沈され、MSも半数が落とされているという惨憺たる有様となっていた。
 連邦側の増援を見たアレキサンドリアはこれ以上戦えないと判断したのか、増援部隊が交戦距離に入る前に撤退して行ってしまった。


 船団はこの後更に3度の襲撃を受ける羽目になった。いや、事前に警戒網に引っかかって警戒部隊に追い払われた物も含めれば5度に渡る襲撃を受けた事になる。





 輸送船団が襲撃を受けた、この報告は宇宙艦隊司令部に大きな衝撃を与えた。十分な護衛を付けて出したと思っていたのに、まさか最初の一歩から躓くとは思わなかったのだ。しかも受けた被害が大きい。2個支援艦隊合わせて80隻のコロンブスが参加していたのに、サイド6に到着したのは60隻に満たないのだ。しかも10隻以上の船大きな損傷を受けて現地の工作艦の修理を受けているという。
 この大損害に眩暈を起した秋子は一体何があったのかとサイド6にいる指揮官に説明を求め、ティターンズが可変MSやMAを大量に投入している事が明らかとなった。更にそれらとは別に、潜宙艦によるものと思われるいきなりのミサイル攻撃も受けたという。
 潜宙艦は主にネオジオンが使用する奇襲用の艦艇だが、ティターンズも使うようになったのだろうか。それともネオジオンが艦艇をこちらにまで進出させてきたのだろうか。

 襲撃を受ける事は予想していたが、これほどの大損害は予想していなかったランベルツは慌てて計画の建て直しに躍起になった。失った船の分だけ輸送計画に支障が出るからだ。そして護衛部隊にとってショックだったのは、迎撃機が可変MSやMAに対して無力だったことである。
 これまでもティターンズの可変機には手を焼いていたが、数で対抗出来ないという事はなかった。ただそれはあくまで自衛が出来る戦闘艦艇の話で、これらの強力な機体が本格的に輸送船を狙ってくるとなれば話が変わるようだ。これまでコロンブスは非武装であったが、自衛用の対空砲を積むか、強力な防空艦を随伴させなくてはいけないのかもしれない。

「まあ、護衛の方はクラップ級が回されれば何とかなるだろう。問題はジムUが役に立たなかったという事だが、その辺はどうなのかね天野中佐?」
「はあ……」

 ランベルツに問われて天野は立ち上がり、説明を始めた。サイド6攻略戦の後フォスターUに戻っていた彼女であったが、この事態に対処する為にランベルツに呼ばれたのだ。

「まず可変機への有効な対処ですが、MSでは相手をするのは困難だと言うしかありません。火力と加速性能が違いすぎますから」
「では、これまではどうしていたのかね?」
「MSの数に物を言わた壁を何枚も作って迎撃していました。前進して迎撃した部隊が抜かれても次の壁、その次の壁が抜けてきた敵機を迎え撃ちます」

 それは数に物を言わせた宇宙の縦深陣地とでも言うべき物だった。そしてこの迎撃網を突破したとしても、今度は対空砲火がこれを迎え撃つ。MAの機動力を相手にするなら追ってはいけないのというのが連邦軍がこれまでの戦いで得た結論であった。
 ただこれをコンボイで再現するのは困難と言わざるをえない。これだけ重厚な壁を張るには多数のMSが必要で、それだけの艦載機を一度に運べるのは連邦軍ではラザルス級正規空母だけだからだ。

「つまり、迎撃には多数のMSが必要だという事です。あるいは対抗できるような超高性能機がです。残念ながら連邦の現用主力機はメッサーラやガブスレイを相手にイニシアチブを握る事は不可能ですから」
「だが、流石に大型空母を回せとは言えん。何か他の方法はないかね?」
「あるにはあるのですが、少々乱暴な手ですよ?」
「というと?」
「敵の策源地を発見して、叩き潰します」
「それは……」

 それは、ルナツーを叩けと言っているにも等しい事であった。考えられる限り、敵の策源地はルナツー以外にはありえない。いかに第4艦隊が押さえ込んでいるとはいえ、60隻程度の艦隊がルナツーの全てを封じ込める事は出来ない。少数で封鎖を突破してきたティターンズ艦隊が船団を襲ってきたのだろう。
 ルナツーの敵を完全に封じ込める事は出来ない。増援を送れば不可能ではないだろうが、交代を考えればそんなに多数の艦を常時貼り付ける事も出来ない。それにそんな多数の艦をルナツーに向けたりすればグリプスが空になってしまうし、他の戦線にも影響が出てしまう。第4艦隊とてこのベルリン作戦の為に暫く無理をしてルナツーに張り続けて貰っているのだ。いずれ第6艦隊と交代させる予定ではあるが、それまでは頑張ってもらわなくてはけないのだ。

「船がない、か。観艦式の時はあれだけあったというのに、割り振ってみればこうも足りないものか。前線も後方もやり繰りに頭を痛めるのは同じだな」
「はい、MSも足りていません。消耗に対して補充するのが精一杯で、更新が中々進みません。もっとゼク・アイン、いえ、ゼク・ツヴァイがあれば良いんですが」

 ゼク・ツヴァイの火力なら可変機を叩き落す事も不可能ではないのだが、少数機を作っただけでラインを閉じられてしまっている。このような高級重MSは連邦の運用には適さなかったのだ。だがティターンズやネオジオンの重MSや可変機に対してはゼク・アインでさえ力不足となり、ゼク・ツヴァイやガンダムmk−Xの再生産を求める声が上がってきている。
 この声に対して宇宙軍総司令部は今のところ回答を保留している。すでにジェダやゼク・ドライといった次世代汎用機の完成の目処も立ってきているので、こちらを急いだ方が良いという判断もあるのだ。既にジェダに関しては実戦テストも行われていて、そのデータを元に改修作業が行われている。これが終れば正式採用となるだろう。
 だが今すぐジェダやドライが湧いてくるわけではない。となれば、ほかの手を考える必要がある。このことに関して、天野は1つの提案を持っていた。

「少将、1つ提案があるのですが」
「何かね、この際どんなアイデアでも聞くぞ」
「可変MSやMAの迎撃には優秀なパイロットが必要です」
「ちょっと待て、まさか君のクリスタル・スノーを出せと言うのか。それは流石に水瀬長官が頷かないぞ」
「いえ、そうではありません。丁度使い勝手の良くて手が空いている、優秀な歴戦のパイロットが沢山居る部隊があるんですよ」
「……ちょっと待ちたまえ中佐、まさか君が言いたいのは」
「はい、ロンド・ベル隊です。何処にも行き場がない厄介者ですが、アムロ大尉や川澄中尉をはじめとするエースがゴロゴロしています。それと低軌道艦隊からZプラス隊をこちらに回すよう手配できませんか?」
「Zプラス隊をかね、そうか、それがあったか」

 Zプラスは連邦軍が本格的に採用された2機目の可変機で、アッシマーに続く連邦空海軍の期待の星でる。だがとりあえずは地球軌道を守る低軌道艦隊に優先配備されている。この部隊を一時的にこちらに借り受ければメッサーラやガブスレイに十分対抗出来るはずなのだ。
 それなら空母や天野大隊を借り受けるよりは上も納得させやすい、ランベルツはなるほどと頷き、秋子に進言してみようと約束した。



 その後も会議は続けられ、護衛部隊の配置の変更や輸送部隊の輸送船の陣形の組み方、予想されるティターンズへの対応などが協議され続けた。この会議が終ったとで天野は疲れた体を引き摺りながら執務室に戻り、机に向かって積み上がっている書類の山に溜息を漏らす。

「やれやれ、相沢さんではありませんが流石に嫌になってきます。あの人が私たちに仕事を押し付けたがるのも無理無いかもしれませんね」

 祐一が戻るまで代理を任された天野であったが、その仕事量の多さには正直辟易していた。宇宙軍第1艦隊MS隊隊長が本来の仕事ではあるが、同時に宇宙軍総司令部のMSや戦闘機を統括する航宙参謀とでも言うべき仕事も任されているからだ。これはMSという新たな主力兵器の登場に伴って生まれた部署であるが、まだ人材が十分に育ってはおらず、参謀クラスにはそれを任せられる知識や経験を持った者がほとんど居ない。昔はシアンがそれをやっていたのだが、その仕事を引き継ぐには祐一や天野では色々と足りない物がある。何しろ元々志願兵で、戦後に短期士官教育を受けて今の地位にあるに過ぎない。教育が決定的に不足しているのだ。
 そういう意味ではシアンの跡を継ぐべきなのは必要な教育を履修している佐祐理などが適任であっただろうが、シアンや秋子は祐一を後任に選んでしまった。おかげで今自分がこうして苦労しているのだと、あの地上でサボっていたという憎たらしい不良元上司の顔を思い浮かべては愚痴を漏らして天野は書類整理を始めた。

「しかし、ロンド・ベルを回してもらったとしてもMSの問題はどうしましょう。エゥーゴ製の高性能機は全て技術部に持っていかれてバラバラですし、ゼク・ツヴァイやガンダムmk−Xに乗り換えてもらう暇も無いですし」

 もし敵があのジ・Oのような超高性能機を繰り出してきたら、幾らアムロでもジムVでは対抗は難しいだろう。これまでの戦いでティターンズがエゥーゴ系とは別の、木星師団の系譜に属するMSの量産化を考えている事は判明している。ジ・O系と思われるテスト機の類との交戦報告も幾度か寄せられており、遠からずこれらが戦場に出てくる事は疑いようも無い。加えてエゥーゴから流れたジェガンと来栖川製のスティンガーの改良型の事もある。もう性能が頭打ちのジムでは対抗しきれないのは確実という状況であった。

「まあジェガンやスティンガーはジェダでどうにかなるでしょうが、問題はジ・Oとグーファーですよね。いっその事月面にある施設でネロの再生産でもしてもらいましょうか」

 ネロはゼク・アインすら凌ぐ高級量産機で、グーファーにすら対抗する事が可能というもの凄いMSだ。投降してきたエゥーゴ部隊からも10機以上が接収されており、そのテストを行った際には本当にこんな化け物を量産してたのかと疑いたくなるような性能に誰もが声を無くしたものだった。
 だがネモ系はともかく、ネロは連邦規格とは大分離れていた上に予備部品のストックも無く、実戦には使えないという事で他の機体と共に技術部に回されてしまった。唯一鹵獲数が多く、ジムの部品で代替可能だったネモ系列機だけは後方部隊などで再利用されている。
 急場を凌ぐという意味で考えればこのネロを回してもらうのも手ではないか。ZやZZは無理だろうが、ネロならある程度の数があるし、使い潰しても惜しくは無い。部品などは無駄が多いが月面で接収したアナハイムの施設で作ってもらうという手がある。

これは良い考えだと思った天野は早速上申書の作成に入った。無い物強請りをするのは無理だろうが、倉庫に余ってる機材を使わせてくれと頼むだけならばランベルツも秋子も嫌とは言うまい。これをアムロたちに回せばお手軽に戦力を強化する事も出来るのだ。


 しかし、天野の進言やランベルツたちの努力が形になるよりも早く、惨劇は起きてしまった。2度目の船団がティターンズの襲撃を受け、壊滅的な大損害を蒙ったという知らせが届いたのだ。そしてそれは、宇宙軍総司令部の最悪の想像が現実になったということを教えてくれた戦いでもあった。



後書き

ジム改 サイド6までの輸送にかなり苦労してる連邦軍でした。
栞   こんな時こそデンドロビウムですよ!
ジム改 あんなの滅多に出せるか!
栞   でもあれならメッサーラもガブスレイも余裕で叩けますよ。
ジム改 だから出せないんだろ。
栞   私が言うのもなんですが、どう考えてもオーバーテクノロジーの産物ですよね。
ジム改 まあ、後出しの作品だから仕方が無いさ。
栞   でもまあ、これで夢のZプラス対ガブスレイがやれるわけですね。パイロットはアムロさんですか?
ジム改 多分アムロはZプラスだろうな、原作的に考えて。
栞   でも幾らZプラスでもジ・Oには勝てないと思うんですけど。
ジム改 シロッコが乗ってたら苦しいよなあ。ZZやスペリオルでなくちゃ。
栞   舞さんはネロですか?
ジム改 それしかないだろ。