第11章  サイコガンダム


 出向するアウドムラ。だが、そのレーダーには既に数多くの反応が捉えられていた。

「MSです。香港島に向かってきています!」
「MSだと。連邦軍か?」
「分かりません!」
「奴ら、ここを戦場にするつもりなのか!?」

 ハヤトが怒りを露にして怒鳴った。まさか、都市部で戦闘を仕掛けてくるとは。とにかくこんな所で戦うわけにはいかないので、ハヤトは急いでアウドムラを香港から離そうとした。海上に出ればMSの追撃はなくなるからだ。
 だが、海上から迫る脅威とは正面からぶつからざるを得ない。

「正面、形式不明の巨大MAと思われます!」
「MAだと。どうやって浮いているんだ?」
「それは分かりませんが・・・・・・」

 流石にミノフスキークラフトの知識は持っていないようで、ハヤトも首を傾げてしまっている。しかし、敵であることは間違いなく、ハヤトは格納庫に内線を繋いだ。

「アムロ、MS隊を出す!」
「ああ、分かってる。だが、あれは一体なんなんだ?」
「分からん、こちらにもデータが無い。とにかく気をつけてくれ」
「気をつけられたらな」

 アムロはハヤトに言い返すと、ディジェを駆って出撃した。舞やトルクもドダイ改に乗って出撃していく。だが、3人の前に現れたのは本当に異形のMAであった。

「何なんだ、あれは?」
「アムロ、この不快感はなんだと思う?」

 トルクの問い掛けに、アムロは明快な答えを持たなかった。

「分からない。だが、その発生源はあのMAだろう」
「じゃあ、さっさと撃ち落して楽になるか」

 アムロが止める間もなくトルクがMAに突っかかった。だが、そこでアムロたちは驚愕する光景を目の当たりにしてしまう。トルクの百式改が放ったビームライフルは、そのMAに当たる前に空しく弾かれ、四散してしまったのだから。

「何だと!?」
「離れてトルク、あれはIフィールドで守られてる。ビームは効かない!」

 かつて自分が愛機としていたセレスティアにも同様の機能を持つ盾が装備されていた。あれがある限り、ビーム兵器での攻撃は無意味とさえ言っても良い。そして困った事に、百式改の武装はビーム兵器で固められていた。

「どうする舞?」
「アウドムラに戻ってバズーカでも持ってきた方が良い。私たちじゃ役に立たない」

 舞の返事を聞いてトルクは渋面を作ったが、代わりにアムロが前に出てきた。

「なら、早く戻ってくれ。ここは我々で押さえ込む」
「・・・・・・分かった」

 アムロにこの場を任せ、舞はアウドムラへと引き返して行った。僅かに遅れてトルクも反転していく。それを見送ったアムロはクレイバズーカを構えるとMS隊の先頭に自機を持っていった。

「ようし、やるぞ!」

 気合を込めて命令を下し、アムロはディジェを突入させた。その後に部下たちが続く。だが、彼らは知らなかった。彼らの前に立ちはだかる化け物、サイコガンダムがどれほど出鱈目な火力を持っているのかを。

 サイコガンダムの中にいる女性、黒髪の日本人形のような印象を与える女性は、些か焦点の合わない目でじっとモニターの中で迫ってくるカラバMSを見据えていた。

「・・・・・・敵?」

 分からない。あれは何なのだろうか。先ほど攻撃してきた金色のMSの姿は見えない。だが、通信機から聞こえてきた声は、あれが敵だといっていた。そして排除しろと。

「何をしているエディフェル、あれはお前の敵ですよ!」
「・・・・・・始末すれば、良いのか?」
「そうです、サイコガンダムの力をティターンズに見せ付けるのです!」
「分かった」

 エディフェルと呼ばれた女性は無造作にスティックのトリガーを引き絞った。機体に装備されている拡散メガ粒子砲が一斉に起動し、広域射界でビームを撃ちまくる。アムロはとっさにその攻撃を回避する事が出来たが、続いていた部下たちは4機が直撃を受けて撃ち落されてしまった。
 機体を上昇させながらアムロは舌打ちしてしまう。

「Iフィールドバリアをつけてて、あの火力とはな。ビグザム並か?」

 アムロは昔に戦った巨大MAを思い出した。たった1機で艦隊1つを潰したあの化け物にも迫る火力をこのMAは持っている。だが、腑に落ちないことがある。このMAは連邦軍の新兵器なのだろうか。もしそうなら、これはシアンが送り込んできたのだろうか。

「・・・・・・まさかな。あの人が市街地を戦場にしようとするはずが無い」

 アムロは頭を左右に振って嫌な想像を打ち消した。シアン中佐は確かに敵には容赦が無いが、非戦闘員を巻き込んでまで勝とうとするような人じゃない。第一、あの人ならそんな事しなくても普通に勝てる作戦を立てて戦力を揃えて来るはずだ。秋子の指揮下にいた幹部士官に敵より少数で戦おうと考える奴はいない。
 
アムロには予知能力があるのかもしれない。確かにこの時、シアンはハヤトが聞いたら首吊りそうなほどの戦力を揃えようとしていたのである。秋子の薫陶を受けた士官はみんな物量主義者になるのだろうか?


 アウドムラから指揮を執っていたハヤトは急いでアウドムラを香港から離そうとしていたのだが、完全に離れるよりも早く香港から火の手が上がった。

「どういう事だ、何故ティターンズが出てくる?」
「分かりません。現在香港の部隊が迎撃しているそうですが」
「ルオ商会は何と言っている?」
「こちらには構わず、アウドムラは戦線を離脱しろと言っています。アウドムラが離れればティターンズも退くだろうと」
「・・・・・・そうか、分かった」

 ハヤトは背後で燃えている香港を一瞥すると、それで香港への罪悪感を断ち切った。謝るのはいつでもできる。今はここを切り抜ける事だ。
 だが、それよりも早くレーダー手が大きな問題を告げてきた。

「キャプテン、後方から追撃機です。多分ティターンズでしょう」
「香港の部隊だけでは押さえられなかったか」

 まあそうだろうと思いつつ、ハヤトは格納庫に内線を繋いだ。

「残るドダイを全部出せ。乗れない機体はハッチから攻撃させるんだ。追撃が来るぞ!」

 ハヤトの命令を受けてネモやジムUが飛び出していく。ハッチからはザクやドムが顔を出して銃撃を加えだした。
 追撃してきたティターンズはベース・ジャバーに乗ったマラサイとハイザックだった。迎撃に出たネモとジムUがたちまち空中戦に突入する。そのエアカバーを突破した何機かがアウドムラに取り付いてきた。MSと対空機銃が迎撃の弾幕を張るが、撃墜は容易ではない。早くもビームの直撃を受けて損傷を受けていた。

 被弾の振動に揺さぶられながら、ハヤトはブリッジで叫んだ。

「アウドムラは最大戦速でこの空域を脱出する。対空砲火、もっとしっかり狙え!」
「やってますが、思ったより速くて!」
「ミサイル全門装填、あのデカブツに当てるんだ。正面を突破する!」
「無茶ですよ。MAに当てろなんて!」
「やってみなければ分からん!」

 ハヤトの命令を受けてアウドムラからミサイルが一斉に発射される。そのほとんどが拡散ビームに迎撃されて撃ち落されたが、一発が運良くサイコガンダムを捕らえた。流石のサイコガンダムも対艦ミサイルの直撃は洒落にならなかったらしく、飛行高度が僅かに落ちた。

「あ、当たった?」

 撃った射手が驚いてしまっている。まさか当たるとは思っていなかったのだ。逆にハヤトは得意顔で喜んでいる。

 直撃を受けたサイコガンダムではエディフェルが苦しみだしていた。

「くっ・・・・・・頭が・・・・・・サイコミュの調整が狂った?」

 エディフェルの予想は当たっていた。ただでさえ試作品で完調とは呼べないサイコガンダムだ。たった1発の直撃弾で容易く機体に狂いが出たのである。それは後方の司令機でも把握しており、技術者が焦った声でエディフェルに呼びかけていた。

「エディフェル、聞こえるか、エディフェル!」
「・・・・・・うう、頭が・・・・・・誰、貴方は・・・・・・・」
「エディフェル、もう良い、戻りなさい!」
「・・・・・・了解」

 技術者の指示に従って後退しようとしたエディフェルだったが、黙って返してくれるアムロではなかった。クレイバズーカを手に攻撃を加えてくる。

「故障したようだが、折角のチャンスを逃すつもりは無いんだ」
「・・・・・・しつこい」

 蹴散らすように拡散ビームを放つが、ディジェは器用にビームを回避して距離を詰めてくる。エディフェルはこれまで相手をしてきた敵とはこのMSは違うという事を認めるしかなかった。

「しつこい上に強い、まるでダリエリのような奴」

 その時、脳裏に一瞬だけ奇妙な景色が浮かんだ。時折見える不思議な景色。私を囲む3人の女性と、どこか惚けた感じの男性がその中に入る。時々角が生えたりキャラが変わったりしている事もあるが、今もまたそういう景色が一瞬浮かんだ。
 そして、その景色が浮かぶと必ず襲ってくる激しい頭痛がまた襲ってくる。右手で額を押さえ、その頭痛に顔を顰める。

「くううぅぅ、また、この頭痛・・・・・・」

 サイコガンダムの不完全なサイコミュがエディフェルの苦痛を拾い、周囲へと広げてしまう。その影響を受けたアムロとトルクは強烈な頭痛と不快感に顔を顰めた。

「な、なんだ、これは・・・・・・」

 アムロが余りの苦しさにディジェを上昇させて離れていく。なまじ感受性が強い事が仇となったのだ。

 去っていくサイコガンダムを見送りながら、アムロは全身を濡らす汗の冷たさをようやく感じていた。

「なんだったんだ、あれは。あのパイロットは?」

 あの苦痛はあの機体のパイロットが感じているものだったのだろう。もしあんな苦痛を恒常的に感じているのだとしたら、発狂してもおかしくは無い。だがあれが何なのかは分からない。
 同じ頃、アウドムラではトルクが頭を抱えて蹲っていた。

「ぐううう、なんだこの頭痛は・・・・・・」
「トルク、二日酔い?」

 NTではない舞にはトルクの苦痛は分からないので、トルクの苦痛をいきなり二日酔い扱いしていた。酷い話である。


 司令機でデーターを取っていた技術者たちは、エディフェルを襲った現象に頭を顰めていた。

「どういう事なの。何故エディフェルの精神はこうも乱れているわけ?」
「おそらく、記憶の消去が完全ではないのでしょう」
「有り得ないわ。これまでの実験では被験者の記憶は全て消去できていた。それが何故彼女には効果が無いの?」
「分かりません。そういう体質なのでしょうか?」
「そんな事で記憶処理に対抗できるわけ無いでしょう」

 技術者たちはエディフェルの記憶が消せない事に悩んでいた。何故か彼女はいかなる薬物にも電気処理にも抵抗している。今は洗脳によって記憶を上書きした状態だが、この状態は好ましくは無い。
 そもそもエディフェルという呼び名も彼女が言い出した名前なのだ。何で洗脳したはずなのにどうして自分の記憶のようなものが出てくるのかが謎ではある。研究者の中からは第二人格ではないかと言い出す者もいたのだが、そういう訳でもないらしい。
 結局、サイコガンダムを動かす事はできるという事でこうして使っているのだが、本当に良く分からない実験体。それがエディフェルであった。

 

 アウドムラに帰還したアムロは、舞に締め上げられているトルクを見て目を丸くした。

「・・・・・・なにをしているんだ、2人とも?」

 問われた舞はトルクの胸倉から手を離してアムロを見た。

「トルクが戦闘中にお酒を飲んでた」
「・・・・・・は?」
「トルクはMSから下りてきたら蒼い顔をして頭を押さえて吐きそうだった。これは二日酔いの症状」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「仕事中に酒を飲んでるトルクは悪い人。だから叱ってた」

 アムロはどう説明したものかと蒼い顔でのびているトルクを見やり、そして今度は違う理由で感じた頭痛に頭を押さえた。

「ララァ、人が分かり合える日は遠いのかもしれないよ」

 

 


 アウドムラを取り逃したティターンズはこれ以上戦う理由を無くしてしまった。隊長はビームサーベルでジムUの頭部を切り落として擱座させ、周囲を見渡した。出てきたMSや戦車は大体破壊され、香港側の抵抗は大体終わっていた。香港市街は2割ほどが被害を受け、周囲にあった建造物も大体が破壊されている。

「・・・・・・アウドムラを取り逃したか。仕方ないな、撤退だ」

 目標がいなくなったことで、ティターンズも仕方なく引き上げた。海上で行われていた空中戦も地上部隊の撤退と共に終結し、双方とも大した損害も出さずに撤退を完了している。
 アウドムラは無事にティターンズの追撃を振り切ったものの、戦場となった香港はその保有戦力の大半を失うという甚大な損害をこうむり、カラバの受けた痛手はかなりのものとなってしまった。宇宙のエゥーゴとは異なり、カラバは装備と人材で劣る為か、ティターンズには劣勢を強いられている。少なくともアジア地区のカラバは向こう暫くの間、補給に苦しむ事になるだろう。

 戦場から少し離れたところにある丘陵からこの戦いを眺めていたアヤウラは、満足そうに頷いていた。

「あれほどに巨大なMAを飛ばすか。連邦の技術力も侮れんな」
「准将、これからどうしますか?」

 カーナが隣から問いかける。彼女が持っているのは高倍率の光学望遠鏡だ。

「・・・・・・そうだな。次は北京宇宙港で一仕事する事になるだろう。中尉にも久しぶりに働いてもらう事になりそうだ」
「MS戦、でしょうか?」
「たぶんな。誰が出てくるのかはまだ分からないが、そのあたりの情報は集まっているのか?」
「ある程度は。連邦はどうやら海鳴基地に機動部隊を集結させているようです」

 海鳴基地の名を聞いた途端、アヤウラの様子が一変した。禁煙パイポを噛み砕き、露骨に表情が引き攣る。

「う、海鳴基地、にか?」
「はい。現在入っている情報ではスードリとアジア地区の北川大隊が集まっているようですが、更にジャブローからも増援が出ているようです。最終的な戦力規模は不明ですが、連隊規模にはなるのではないかと」

 カーナの報告に、アヤウラは胃が痛くなってくるのを感じた。またなのか、またあいつと戦うのか。

「・・・・・・手を貸すべきか、貸さざるべきか」
「あの、准将?」

 いきなり悩みだした上官にカーナが戸惑った声をかける。アヤウラはなにやら頬を引き攣らせてカーナを見た。

「君は、ファマス戦役には参加していたのか?」
「いえ、当時は私はアクシズで新兵訓練をしていました」
「そうか、ならば奴の事は知らないだろうな」

 納得して頷くアヤウラ。しかし、カーナには訳が分からない。ただ1つ言えるとすれば、この上官にも恐怖を感じる神経があったのかという驚きがあったことだろう。何しろこの准将、砲火の中をジープで突っ切っても眉1つ動かさないのだ。そのアヤウラ准将が、なんと冷や汗をかいて表情を引き攣らせているのだから。

「海鳴か。奴が動くのか。あのシアン・ビューフォートが」
「シアン・ビューフォート・・・・・・海鳴基地の司令官ですね。ですが、それほどに恐ろしい人物なのですか?」
「・・・・・・かなり手強い男だ。奴が出てくるという事は、こちらは奴1人に2個小隊をぶつける必要があるということだ」
「人間ですか、その男は?」
「一応人間だが、人間とは思うな。あれはもう化け物だ」

 アヤウラの脅しの様な説明に、カーナは生唾を飲み込んでしまった。一体どういう男なのだ、そのシアン・ビューフォートというのは。
 そしてアヤウラは、自分のジンクスを呪いたくなっていた。何と言うか、なんでこう何処に行ってもシェイドとぶつかるのだろう。しかも、先ほどから嫌な予感が頭の中で大合唱しているのだ。

『また、大損害を覚悟しなくちゃいかんのか?』

 頭の中で手持ちの戦力と補給物資の残りを勘定したアヤウラは、溜まりに溜まった心労と最近感じるようになってきた年齢による身体のガタののだプルパンチからくる胃痛に顔を顰めた。


 香港でティターンズとカラバが戦闘。香港市街に大きな被害が出たという報告は近隣の連邦軍をいたく刺激した。ただでさえティターンズの動向は周囲の注目を引いているのに、まさか、市街地で戦闘を行うとは。
 勿論カラバへの非難もあったのだが、今回は守る側であるはずのティターンズが香港で戦闘を起こしたという事なので、ティターンズへの非難が集中している。結果的にティターンズはこの方面で大きな顔がしにくくなり、カラバを利する事になっている。
 そして、連邦部隊の一部がカラバに流れるという結果を招いてしまった。結局ティターンズの攻撃は何も得ることの無いまま、多くを失う事になたのだ。全てはアヤウラに操られた結果であろう。

 


 そして、海鳴基地にはスードリがやってきていた。穏やかな海にスードリが着水し、そのままそこに停泊する。直ちに防潜網が張り巡らされ、潜水艦の攻撃に備える作業が開始される。そして、ランチでクルーが海鳴基地へとやってきた。その先頭になっているのは指揮官の佐祐理だ。

「あははは〜、観光地ですよ〜、バカンスですよ〜、遊びますよ〜!」
「一体誰の真似ですか!」
「グハァ!」

 ランチの舳先に立って大声で馬鹿な事を言い出した浩平を佐祐理が後ろから蹴り落とした。水柱を上げて浩平が海に落ちてしまう。それを見た名雪が珍しくアグレッシブな佐祐理に恐る恐るこえをかけた。

「あ、あの、倉田先輩、いきなり蹴るのは不味いんじゃあ?」
「言って分からない人には身体で分からせるに限りますよ」

 あはは〜と笑顔の中に十字マークを浮かべる佐祐理。どうやらこの短い期間で浩平の扱いに付いて色々学ぶ所があったらしい。同じ船にいる瑞佳がすまなそうに頭を下げる。

「すいません、うちの浩平が馬鹿な事ばかりして」
「いいですよ。もう慣れてきましたから」

 あはは〜と笑って水に流してくれる佐祐理は良い人だ。浮かんでる青筋は消えてないのだが。ちなみに船の後ろの方では祐一が必死に手を伸ばしている。浩平も必死に手を伸ばしてその手を掴もうとする。

「ファイトオオオッ!!」
「いっぱああああああつ!!」

 がっしりと繋ぎあう右手と右手、その瞬間、祐一と浩平はなんとも言えない笑顔を浮かべた。浩平を引っ張り上げた祐一が爽やか過ぎる笑顔で親指を立てる。

「決まったな」
「ああ、完璧だ」

 浩平も親指を立ててそれに返す。何と言うか、この話は何時からスポコン物に? と錯覚させるようなワンシーンだ。
 だが、その直後に名雪と栞に蹴落とされてしまった。

「祐一、いい加減にしなさい」
「折原さん、何時まで馬鹿やってる気ですか?」

 なにやら水面でもがいている2人を残し、ランチは海鳴基地へと進んでいく。

「助けてくれ――――!」
「足が、足がああああっ!」

 背後から何やらわりと切羽つまった悲鳴が飛んできたが、誰も彼らを振り返らなかった。ただ、佐祐理と瑞佳と名雪が「はあっ」と重苦しい溜息をついただけである。
 そして、その様子を屋上から眺めていたシアンは腹を抱えて大笑いをし、久瀬は額を押さえていた。その口から漏れ出た呟きが彼の内心を如実に教えている。

「・・・・・・恥をかかせおって」

 

 海鳴基地の埠頭に接岸したランチを出迎えたのは茜であった。

「ようこそ、海鳴基地へ」
「茜ちゃん、お久しぶり!」
「(久しぶりなの!)」

 瑞佳と澪が嬉しそうに茜の下に駆け寄る。茜も珍しく表情を緩めて2人を向かえている。エターナル隊の仲間が久しぶりに顔を会わせた瞬間であった。

「ところで瑞佳、澪さん、浩平は何処ですか。あと相沢少佐も来ていると聞いていたのですが?」
「あ、あの2人は、今頃泳いでると思うよ」
「(ギャグで死んだ人はいないから、ほっとけば良いの)」
「・・・・・・雪見さんから浩平の魂の双子を見つけたと聞かされていましたが、どうやら本当のようですね」

 茜が表情を呆れの形に歪め、何やら横を見ている。茜の視線を追ってみると、なにやら埠頭の外れ、磯になっている所に2人の男が立っているではないか。

「うむ、やはり海といえば岩の上で波飛沫を浴びながら腕を組む。これだな」
「ああ、流石は相沢だ。美学というものを分かっている!」

 2人で岩の上で高笑いをしている。その余りに非常識な光景に、その場にいる全員が頭を抱えてしまった。こいつら、何時の間に上陸したのだろうか。
 だが、この世界はギャグキャラが決めたままラストを迎えさせてくれるような世界ではないらしく、祐一と浩平はまた誰かに後ろから蹴られ、岩から海へと落ちてしまった。

「「うわああああああ!」」
「いい加減にしてくれないかい。まったく、世の中右を見ても左を見ても馬鹿ばかりだ。頼むからこれ以上僕の心労を増やさないでくれ」
「「分かったから助けろおお!」」

 磯の荒波に揉まれて溺れている2人を見下ろしながらがっくりと肩を落とす久瀬に、2人は悲鳴を上げながら助けを請うている。しかし、久瀬には助ける気は欠片も無さそうだ。というか、むしろここで死んでくれれば馬鹿が減って良いかもとか思ってるかもしれない。
 
 そんな光景を目の当たりにして、名雪と瑞佳はとぼとぼと久瀬に謝るために歩き出した。とりあえず保護者とは謝る為にいるのである。そして茜は雪見の教えてくれた話が正しかった事を知ったのである。

「・・・・・・こんな人たちが兄さんの部下に、ですか。類は友を呼ぶといいますが」

 茜も久瀬と同じ感想を抱いていた。本当に世の中、馬鹿ばっかりだ。だが、最近それを楽しいと感じる自分がいるのにも気付いており、些か心中複雑な茜であった。

「とりあえず、葉子さんに久瀬中尉が心労で倒れる前にカウセリングをしてもらうよう頼みますか。あの人に倒れられると、仕事が私に集中しますし」

 何となく久世のことは心配していない台詞を吐いて、茜はまぶしそうに空を見上げた。海鳴の空は今日も綺麗である。



機体解説
MRX−009 サイコガンダム
兵装 拡散メガ粒子砲×3
   ビーム砲×10
   小型メガビーム砲×2
<説明>
 ムラサメ研究所が完成させた試作9号機にして実戦1号機。Iフィールド発生器によるバリアを張り、クレイバズーカにさえ持ち堪える堅牢な装甲を持ち、変形機構を有し、ミノフスキークラフトにより飛行する。まさに究極無比の機動兵器だが、サイコミュが不完全な為に搭乗者の精神を破壊してしまう欠点がある。
 連邦のNT研究の到達点とも言える凶悪な兵器だが、運用には色々と制限が多く、人間を強化する技術も未完成な為にまだまだ実用化の道は遠い。サイコガンダムの開発にはアナハイム第2開発局も関わっており、アナハイムとティターンズの繋がりを示す機体でもある。
 一応、改良型と共に量産型の開発も進められている。



人物紹介
エディフェル 女性 少尉  10代後半
 ムラサメ研究所の強化人間であるらしい。実際には何処からか攫われてきた少女なのだが、記憶を操作されて現在はムラサメ研究所にいる。だが、記憶操作そのものが効果を発揮しなかったらしく、彼女のは現在誰も知らない記憶を持っている。
 その余りに非常識な実験結果に研究所の職員もパニックに陥り、現在は彼女そのものの研究も進められようとしている。



後書き
ジム改 ふう、やっとスードリが海鳴に来たぞ
栞   世の中馬鹿ばっかりです
ジム改 うむ、俺も書いてて馬鹿ばっかだと思ったw
栞   馬鹿筆頭が何を言っていますか?
ジム改 グサッ!
栞   不死身なんですからこれくらいで倒れないでください
ジム改 まあ良いけどね
栞   でも、良いんですか、エディフェルさんって・・・・・・
ジム改 うむ、この人もかなり電波だし
栞   つまり、攫われて記憶を弄られたら前世が出てきたと?
ジム改 うむ。研究員も混乱するよなあw
栞   無茶苦茶ですね。しかもサイコミュ動かしてますし
ジム改 ふっふっふ、彼女は暫く頑張ってもらわなくては
栞   そのうち次郎衛門も出てくるんですか?
ジム改 さあ、どうだろう。子孫が攫われれば出てくるかも
栞   とりあえず、お姉さんの怒りが怖そうですね
ジム改 うむ。素手戦闘では最強だろうな
栞   これって、ガンダムですよねえ?
ジム改 そうだが?
栞   なんで前世なんて言葉が出てくるんでしょうね?
ジム改 気にするなw