第111章  転換点


 

 執務室で倒れた水瀬秋子大将は急いで軍病院に搬送されて精密検査が行われた結果、これまでの無理が積み重なった事による過労と心労による衰弱が原因だと診断された。グリプス戦争が始まって以来積み重なった疲労が秋子を蝕んでいたのだろう。
 重病で無かった事にフォスターUの高官達は揃って安堵の息を漏らし、フォスターUからの報告を受け取ったジャブローもまた張り詰めた空気が掻き消えた。もし秋子が重態で復帰の目処が立たないなどという事になれば宇宙軍の人事を根本から見直さなくてはならなくなるとゴップやコーウェン、コリニーは戦々恐々としていたのだから。
 連邦軍総司令部のオフィスでやれやれと肩の荷を降ろした顔でゴップがソファーに腰掛け、コーウェンがスコッチのボトルとグラスを手に向かい合うように腰を下ろす。

「水瀬は過労で倒れただけか、では暫くすれば復帰できるな」
「そのようで、ホッとしましたな。とりあえず水瀬には暫く養生してもらって、その間の長官代行にはレイナルド中将を回そうかと思っております」
「レイナルドはティターンズ方面の総指揮官だろう。そちらは如何するのだ?」
「ヘボン少将を中将に昇進させて任せようかと。彼も昇進が遅れている男ですし」
「ヘボンか」

 コーウェンがそういうのなら口を挟む気は無かったが、へボンで本当に大丈夫だろうかという一抹の不安があった。サイド6に対する輸送計画も再開される筈であるが、上手くやれれば良いのだが。
 スコッチを2度傾け、ゴップは表情を真面目なものに変えてコーウェンの顔を見た。

「ジョン、実は1つ面倒な話しがあるのだがな」
「面倒な話、と言いますと?」
「政府がこの戦争を終らせる事を考えているようなのだ。確かに長引きすぎているし、1年戦争から数えて3度目の戦争だ、政府に嫌気がさしてきたのも分からんではないな」
「終らせると言っても、どうやって。ティターンズやネオジオンが交渉に応じますかな?」

 ティターンズはこの戦争を始めた裏切り者で、ネオジオンはジオンの亡霊だ。どちらも不倶戴天の敵というべき存在であり、これまで妥協など考える余地も無いような戦いを繰り返してきた。
 だが確かに地球連邦も、そしてティターンズも疲弊しすぎている。このまま続ければティターンズを倒す事は出来るだろうが、連邦自体が崩壊してしまいかねない。
 この事態に対して、連邦政府内ではサイド7を独立自治領としてティターンズに割譲し、彼らを連邦内の自治州の1つとして受け入れてはどうかという意見が出始めている。ジオン共和国の誕生と似たような形となってしまうが、ティターンズにも同様の内政自治権を与え、ゆっくりと弱体化させる腹積もりであるらしかった。どうせティターンズには国内の統治など出来はしないという読みもあるのだろう。
 政府がそう決めたのならばそれに従うのが軍人だから、和平の方向に向かうのならばそれで構わない。しかしティターンズがそれを飲むだろうか。ジャミトフの絶大な権威だけが頼りの烏合の衆にも等しい集団のティターンズだが、それだけに全体が言う事を聞くとは考えにくい。下手をすればジャミトフを助けてティターンズ内の反対勢力を叩き潰すという仕事をしなくてはいけなくなる可能性すらある。

「ですが、まあまだこちらに命令が来た訳でもない。こちらは予定通り作戦を進めますよ。北米を落とし、キリマンジャロを落とさなくてはなりませんし」
「だが出来るかね、物資をサイド6に振り向けているこの状況で?」

 サイド6に大量の物資を振り向けている為に、地上の作戦も棚上げ状態になっている。この困窮した状態で北米やキリマンジャロを攻略できるのだろうか。このゴップの問いに、コーウェンは自信ありげに答えた。

「まあ、北米の方は何とかなると思います。キリマンジャロの方は宇宙軍との共同作戦になるとおもいますが」

 北米侵攻作戦はハワイ基地の海軍部隊とパナマの陸軍部隊が主力となる。海軍がティターンズに占領されているキャリフォルニアベースを奪還し、東海岸のニューヤークを奪還すれば北米の主要拠点の奪還は完了したと言える。残党が跳梁する事になるだろうが、それは支配権を奪還してから掃討すれば良い。
 キリマンジャロの方は既にアフリカ方面軍がアフリカ南部にまで侵攻していて、アフリカ中部のキリマンジャロ基地は宇宙との連絡を除いて孤立状態に置かれている。既にこのキリマンジャロ基地に対してはアフリカ方面軍が圧力をかけていて、地上部隊の威力偵察と定時爆撃、そして軌道上からの宇宙軍による軌道爆撃が行われている。
 キリマンジャロの抵抗も激しかったが、地上からの長距離砲撃と宇宙からの軌道爆撃、空軍による定時爆撃が繰り返されてその抵抗も少しずつ衰え始めている。ただ爆撃と砲撃のし過ぎでキリマンジャロ山の形が変わってしまい、写真に残るような雄大なキリマンジャロ山の姿は見る影も無くなっているが。

 ただ、このまま力押しをしても天然の要害であるキリマンジャロは容易に落ちそうにはなく、コーウェンとしては他の戦線からの戦力の転用と宇宙軍の増援を加えて一気に勝負を決めたい意向だった。
 だが何処から戦力を引き抜くのか、この問題を問われたコーウェンはニヤリと笑った。

「海鳴のビューフォート中佐に働いてもらおうかと思っておりますよ」
「シアン・ビューフォートか。だが彼が抜けたらアジア戦線は大丈夫なのかジョン?」
「何、マドラスももう防戦一方で反撃に出る余裕は無いでしょうし、心配は無いでしょう。それにマドラスの反撃力も衰えてきております。やはりキリマンジャロ、マドラス、キャリフォルニアベースの間を完全に遮断されて必要な物資に不足をきたしておるようですな」
「ふむ、クルムキン准将の出した戦略プランが効果的だった、という事か。彼は今どうしている?」
「総司令部で作戦部部長をしています。兵站部としょっちゅう取っ組み合い寸前の激論を交わしていますよ」

 作戦部は戦略を立案する部署で、各方面を担当する部署と兵器の運用を研究する部署の2種類が存在する。当然ながら各戦線への補給計画を担当する兵站部とは仲が良い筈が無く、さらには新型兵器の開発を担当する技術科学部とも仲が悪い。まあ軍隊もお役所なので基本的に他部署とは仲が悪いのが普通なのだが。
 この作戦部と兵站部が必要な物資の量で激しくぶつかっている。サイド6に相当量の軍需物資を放出した為に他の戦線に回せる量が著しく減少した事が発端であたが、おかげでジャブローの本部ビルの中は戦場のようなピリピリした空気に包まれていて、調整しなくてはいけないコーウェンにとっては困った事態となっている。
 この事態を鎮める為に北米侵攻作戦を進めたというと聞こえは悪いが、自分が方向性を決めないと何も進まないので次の目標を定めたに過ぎない。ただ結果的に偵察を進めてみたら北米のティターンズの弱体化が著しい事が分かったので本当に攻略を考えたに過ぎない。つい半年前にはそんな事は無かったので、やはり孤立させられた影響は大きかったらという事だろう。

「北米はハワイの戦力とパナマの戦力で落とせるという算段がついています。ならば動かせる戦力はキリマンジャロにぶつけた方がいい。キリマンジャロが落ちれば地上のティターンズは脅威ではなくなりますからな」
「だが、落とせるかね。あそこにはサイコガンダムとかいう化け物も居るそうだが?」
「その件に関しては、情報部の方でなにやら考えがあるようですよ。バイエルライン中佐を中心としてサイコガンダムを一時的にでも無力化できないか研究をしているとかで」

 既に連邦情報部はサイコガンダムがキリマンジャロの何処にあるかまでは突き止めており、総攻撃に合わせて短時間だけでも行動不能に出来ないかの研究を進めている。もしこれが成功すればサイコガンダムという強大な敵を相手にせずに済む事になり、キリマンジャロ攻略作戦がかなり楽になるのだ。もしあれが基地の防衛に張り付いていたらどれだけの犠牲が出るか知れたものではない。
 宇宙ではアトラスとかいう量産型が出現して猛威を振るっているそうだが、幸い地上ではこのような化け物は確認されていない。グーファーまでが相手なら数で押し潰す事が可能な筈だった。


 最もコーウェンの知らないことであったが、このバイエルラインが進めているサイコガンダムの無力化計画は、実はサイコガンダムそのものをどうにかする計画ではなく、パイロットを誘拐する計画であった。
 実はシアンからバイエルラインに持ち掛けられた計画で、サイコガンダムの無力化と表向きの理由を付けての柏木楓の奪還作戦であった。これまで度々協力した事を盾にとってシアンがバイエルラインに居所を探させていたのだが、それが判明して助けに行く口実を探していたのだった。
 勿論バイエルラインはこんな事したくは無かったのだが、これまでの借りを返さないといけないという義務感とシアンを怒らせたらいろいろな意味で後が怖いので渋々協力していた。また、これらの工作に柚木詩子が一枚噛んでいる事は言うまでも無い。





 地上軍が粛々とティターンズを叩き潰す為の作戦を進めている頃、宇宙では大慌てで人事の刷新が行われていた。秋子が復帰するまでの間の司令長官代行としてエニー・レイナルド中将がフォスターUに赴任し、代わりに第4艦隊司令官のヘボン少将が中将に昇進してティターンズ方面軍を統括する事になる。エニー直卒の第3艦隊はエニーと共にサイド5に帰還し、ヘボン中将の第4艦隊がサイド6に入った
また第3艦隊が抜けた穴埋めとしてオスマイヤーの第6艦隊をこのまま同方面に残し、代替とする事となっている。
 これらの作業を行う為に宇宙艦隊司令部が大忙しで、エニー自身も秋子の病室に顔を出す事も出来ず、正式な引継ぎも行われないままに作業に没頭する羽目になっている。まあ宇宙軍総司令官であるコリニー提督からの正式な命令なので、病院でいまだ意識が戻らない秋子との引継ぎは事後という形でもしょうがないだろう。
 過労で倒れた秋子は結局2日たっても目を覚まさず、娘の名雪の見舞いを受けながらベッドで寝息を立てていた。医者の話では命には別状は無いという事なので安心はしたのだが、やはり倒れたまま目を覚まさないというのは不安になってしまう。それにこれまでは気付きもしなかったが、この戦争が始まる前に比べるとやはり秋子の体はやつれていて、顔には濃い疲労の影があった。
 心配そうにベッドの脇で椅子に腰掛けながら見守る名雪は、扉がノックされる音に反応して振り返る。扉を開けて入ってきたのは祐一だった。

「あ、祐一、もうお仕事の方は良いの?」
「ああ、忙しいのはもっと上の連中だからな。別に今すぐ第1艦隊のMS隊の再編成があるわけでもないし」

 元気の無い名雪の隣にたち、祐一はまだ目覚めぬ秋子の寝顔を見た。

「まだ目が覚める様子はないのか?」
「うん、霧島先生の話だと体の方は異常は無いらしいんだけど」
「まあ、秋子さんは働き過ぎてたしな。ここら辺で休息取るのも必要だったのさ」

 近くにあったパイプ椅子を掴んで名雪の隣に腰を下ろした祐一は、少し困った顔になった。

「だけど、宇宙艦隊司令部はまだ大騒ぎだよ。レイナルド中将が着任してきて多少落ち着いたけど、艦隊配置の再編成で上の連中は当分寝る暇も無さそうだ。これでサイド6の駐留部隊の編成って話が出てきたら俺も顔を出せなくなる」
「そっか、祐一も偉くなったんだから、しょうがないよね」
「ああ、ついでに天野の大隊の面倒まで見させられてるしな。あいつ俺に仕事を押し付けて無断欠勤しやがってな。困ったもんだ」
「祐一がそれ言うかなあ」

 散々仕事を天野に押し付けて楽していた祐一が、天野が仕事サボっていると愚痴るのは間違っていると名雪は思ったが、どうせ言っても欠片も堪えないのは分かっているので顔を引き攣らせるだけで済ませていた。
 フォックスティース隊が全機未帰還、あの真琴ですら帰ってこなかったという報告は宇宙軍の古参パイロットたちに衝撃を与えたが、特に大きなショックを受けたのは真琴の親友だった天野だった。親友の真琴だけではなく、フォックスティース隊は機動艦隊時代の天野大隊のパイロットたちで編成されており、彼女にとっては1個中隊分の仲間を纏めて失った事になる。
 ただ、この天野が抜けた事に対して怒る声は少なく、それまで彼女がやっていた仕事が祐一にそのまま横滑りした為に祐一はかなり忙しい事になっている。とりあえず天野大隊の指揮は暫定的にヘープナー大尉に任せ、補佐役として月宮あゆ中尉を付けている。小隊レベルの指揮しかした事の無いあゆにいきなりこんな仕事を任せて良いのかという不安はあったが、現在の祐一の手元にある士官で、猛者揃い天野大隊のパイロットたちを実力で捻じ伏せられるのはあゆしか残っていなかった。七瀬はサイレン隊の指揮官に取られているし、北川と香里は地球に残してきてしまった。
 あゆはこれでも名雪と同期の士官学校卒業生で、ファマス戦役を潜り抜けた歴戦のパイロットなのだ。戦時下という事とこれまでの経歴を考えれば本来なら中隊長くらい任されていても不思議ではないのだが、一貫して祐一の直属のような位置で便利屋の如く使われてきていた。
 とはいえ、あゆが補佐役として天野大隊に入ったとしても彼女が指揮を取る事は無いだろう。秋子が復帰するまでは連邦軍も積極的な攻勢には出ないだろうし、いずれ天野も復帰して元に戻る。そうすればあゆをまた直属に戻すつもりでいた。あゆは敵勢力の強力なNTに対抗できる貴重な存在なので、出来る限り自由に動かせる位置においておきたいのだ。

「あゆちゃん、上手くやれるかな?」
「大丈夫だろ、俺みたいな促成士官と違って、あいつはお前と一緒に士官学校出てるんだからな」
「士官学校上がりていう人も、少なくなったからねえ。私の同期なんて卒業から6年位なのに、もう数えるくらいしか残ってないんだ」

 寂しそうに笑う名雪。士官学校は世界に沢山あり、名雪はデンバー士官学校の卒業生で、1年戦争後に再建された同校の初めての卒業生グループであった。その後デンバーはコロニー落としの余波で壊滅し、士官学校も再びスクラップへと変えられてしまっている。その後再建が始まってはいたのだが、この戦争の勃発でそれも棚上げにされてしまっている。
 士官が足りないと戦争が遂行出来ないどころか軍組織の維持も出来ないので、ファマス戦役後は士官学校を出ていない現場叩き上げの士官たちに士官学校の卒業資格を得られる短期プログラムを課したり、参謀教育などの高等教育を施して佐官以上に上る道を開いている。祐一などがこの類で少佐になったのだ。この処置で士官不足を多少は補えたのだが、グリプス戦争の勃発でまた慢性的な士官不足に陥っている。
 祐一が直接人事に携わるのは第1艦隊や幾つかの特別編成された独立MS隊だけだが、それでさえも指揮官の割り当てに難儀しているのだから彼が愚痴るのも仕方が無いだろう。
 祐一の周りでもきちんと教育課程を終えて軍に入った士官はそう多くは無く、名雪たちを除けば佐祐理や久瀬、舞くらいだ。今の連邦軍の現場を支えているのは1年戦争やファマス戦役を生き抜いた下士官上がりの促成士官達だと言っても過言ではない状況なのだ。MSのパイロットも自動的に士官なのだが、これも指揮官不足の問題から少尉以上を割り当てる余裕が無く、昔のように下士官でもMSに乗れるように制度を戻してくれという声がある。

 連邦は既に限界を超えてしまった。これは軍民問わずに共通した認識となっていたが、しかしそれでも負けると考えている者は少ない。苦戦が続いてはいるが連邦軍は確実にティターンズに追い詰めており、ティターンズの反撃も少しずつ弱体化してきている。地上ではティターンズははっきりと劣勢に立たされていて、すでにキリマンジャロ基地が連邦軍アフリカ方面軍の攻勢に晒されている。遠からずキリマンジャロは落ちるだろう。
 そして宇宙でも秋子が復帰すればルナツー攻略作戦が発動し、ルナツーを奪還する事になる。それは連邦宇宙軍の誰もが予想している近い将来であった。

「地球の方も今年中にはケリが付きそうだし、来年にはティターンズもネオジオンも綺麗さっぱり無くなって平和が戻ってくるさ」
「本当にそうなるかな?」
「そうなるだろ、もう一度戦争やる余力を残してる勢力なんてもう残ってないんだぜ」

 アナハイムはティターンズの手で解体され、幾つかの企業に分割されてしまったからもうエゥーゴのような私兵を持つことは出来ない。ティターンズが片付けば連邦内の過激な勢力の一掃にもなるし、ネオジオンを叩き潰せばジオン残党も力を失う。今度こそ完膚なきまでに奴らを叩き潰し、1年戦争の後始末をするのだ。
 祐一のように1年戦争でサイド3に侵攻せず、ジオンの処理を中途半端に終らせた事に不満を抱いている者は多い。その中で最も急進的だったのがバスクたちティターンズ結成期のメンバーたちだろう。祐一やシアンも秋子の派閥に属していなければ参加の誘いがあった事だろう。
 祐一は今度こそサイド3に侵攻し、あの戦いの決着を付ける事を望んでいたのだ。しかし、そんな祐一の願いに水を差す者が居た。

「残念ですけど、それは無理でしょうね」
「お母さんっ!?」
「秋子さん、気が付いたんですか!?」

 何時頃から話を聞いていたのか、秋子は疲労の色が濃い顔に笑みを浮かべて祐一達を見ていた。そして秋子は上半身をベッドから起そうとしたが、慌てて名雪が押し留めてベッドに戻している。秋子は少し困った顔をしていたが、心配する娘にどくようにも言えなかったのか仕方なさそうにベッドに戻った。

「私は執務室に居た筈なんですが、何故ここに?」
「お母さん、ペズンの陥落と真琴の戦死を聞いて倒れちゃったんだよ。おかげで今大騒ぎだよ」
「……そうでしたね。それで、今の指揮はジンナさんが?」
「ううん、臨時でレイナルド提督が来てくれて長官代理をやってるよ。お母さんはしっかり療養して完全に治してから復帰してくれってコリニー提督から見舞いの連絡が来てたよ」
「あらあら、コリニー提督にしては気がきいていますね。この分だとジャブローの方はパニック状態だったのかしら?」
「笑い事じゃありませんよ、フォスターUは冗談抜きでパニック起したんですから」

 あらあらと何時もの笑顔を見せる秋子に、祐一はドッと疲れた顔になった。流石の名雪もこれには困った顔になっている。秋子が倒れた後のジンナたちのパニックぶりは凄い物で、それが波及して宇宙艦隊司令部全体が右往左往する羽目になったのだ。ジャブローでもペズン陥落と秋子倒れるの報を受けたコリニーが驚いて飲んでいたコーヒーを噴出し、ゴップが椅子から転げ落ちるほどの大騒ぎになったのだから。

「宇宙軍は完全に守りに入って動きを止めています。今動いてるのは輸送船団くらいですよ」
「あらあら、船団が届くようになったんですか?」
「襲撃が無くなった訳じゃないですが、届くようにはなりましたね。被害が堪えられる程度に収まるようになりましたから」
「前の作戦が効きましたかね」

 サイド6への補給が無事に届くようになったという知らせに秋子は顔を綻ばせている。そして名雪に何か飲み物を持ってきて欲しいと頼み、名雪は売店で何か買ってくると言って部屋から出て行った。
 その扉が閉まるのを確かめて、秋子は表情を改めて祐一を見た。

「それで祐一さん、ペズン基地はどうなってます?」
「守備隊は真琴たちが命懸けで脱出させてくれましたから、大半は無事です。ペズンはネオジオンが占領した後、爆破して引き揚げていきました。多分占領しても維持できなかったんでしょうね」
「……人だけでも残せましたか、真琴ちゃんのおかげですね」

 真琴の顔を思い浮かべて、悲しげな顔で視線を落とす秋子。機動艦隊の頃はカノンの中で何かと騒動を起していた真琴はムードメーカーで、彼女の事を秋子も何かと可愛がっていた。その真琴を失った秋子の喪失感は想像を絶しただろう。
 だが秋子はそれ以上真琴の事を口にはせず、司令長官の顔に戻って祐一を見た。

「ペズンが無くなりましたか。これでサイド5の守りに大きな穴が開きましたね」
「今の所、ネオジオンに大きな動きは無いですがペズン方向から巡洋艦がこちらに向かう動きをしたりしていて、クライフ提督を苛立たせてるみたいです」
「まあ、それくらいですんでいるなら良いでしょう。細かい事はクライフさんに任せておけば大丈夫でしょうし」

 秋子はエニーとクライフに関しては全面的に信頼しているらしい。あの2人にそれぞれの方面を任せて以降は基本的に2人に任せ、口を出す事は無かったが、それは今でも健在らしい。ペズンを失った事は失態の筈だが、それでクライフの責任を問うつもりも無いようだ。まあ彼を更迭して誰を後任に据えるのかという問題があるので更迭できないのだが。
 そして秋子はちょっとだけ口元を綻ばせると、教師口調で祐一に駄目出しをしてきた。

「祐一さん、来年にはこの戦争が終ると思いますか?」
「秋子さん、聞いてたんですか?」
「ええまあ、祐一さんも考えているようですけど、見通しがまだ甘いですよ」
「甘い、ですかね」
「はい、今の状況が続くなら来年にも決着が付くという見通しは正しいんですけど、問題は連邦軍がそんなに長く戦えないという事です」

 あっさりとした秋子の口調に祐一は何を言われたのか暫く理解できなかったが、それが理解出来てくると今度はゆっくりと驚きが祐一の中に広がっていった。秋子は連邦がもう戦えないというのか。

「あ、秋子さん?」
「連邦軍がというより、連邦という組織そのものがなんですけどね。もう国力の限界を超えてるんですよ。多分ティターンズもそうでしょうね、サイド6を失って戦争遂行に必要な人口も無くしてますし」

 1年戦争で地球圏の人口は半数以下に激減し、その多くはサイド3と月面、サイド6、そして地球にいたが、サイド3の住人からは希望者を募って再建中の他のサイドへの移住が行われていた。これは暗黙の敵性勢力であるジオン共和国の力を削ぎ落とす事と、コロニー再建計画の一環として労働力を確保する理由がある。サイド3で修復されたコロニーは各サイドに送られ、そこで居住用コロニーとしての仕上げが行われるがその為に人手は必要だった。また地球からも更なる宇宙への移住が半ば強制的に行われ、多くのアースノイドがスペースコロニーの住人となっている。
 幸いにしてファマス戦役では戦いの規模の割にそれほど大きな犠牲は出なかった。戦場が地球と火星の間だったので巻き込まれる民間人が出なかったおかげだ。だがグリプス戦争は再び地球圏が戦場となり、1年戦争の傷が癒えていない連邦を完全に叩きのめしている。その国力はもうサイド61つを支えるのに悲鳴を上げている体たらくなのだ。

 だが、祐一は苦しい状況だとは思っていてもまだ戦えると思っていた。他の将兵も同様だろう。今連邦軍は確実に勝利に向かっているのに、また中途半端に手を引く事になるのだろうか。
 悔しそうな祐一を秋子は微笑ましそうに見つめ、そして諭すように祐一を窘めた。

「祐一さん、軍事というのは所詮は政治の一手段でしかありませんよ。政治的に無理となれば軍隊には如何する事も出来ませんよ」
「でも秋子さん、それじゃ1年戦争と同じじゃないですか。そんな中途半端な事をするからこんな状況に!」
「祐一さん、それを我慢出来なかった人たちがこの戦争を起したという事は、分かっている筈ですよね。祐一さんはティターンズと同じになりたいですか?」
「冗談はよしてくださいよ秋子さん、俺は軍事政権なんて御免です」
「ならいいです。これからの祐一さんのお仕事には不満を燻らせるだろう部下を宥めたり黙らせたりするのが加わる筈ですから、今の内から覚悟しておいて下さいね」

 何故か面白そうに言う秋子に、祐一は憮然としてそっぽを向いてしまった。なんだか大人にからかわれる子供のようで微笑ましいが、実際に秋子から見れば子供の1人という意識なのだろう。
 秋子がこんな話をしたのは、近いうちに連邦はティターンズとネオジオンのどちらかと講和するだろうという確信があるからだ。これまでも表沙汰にはなっていなかったがネオジオンとティターンズの双方から講和の打診は来ており、それぞれに秘密の交渉ルートを作って条件交渉を続けている。これまでは条件が折り合わなくて話にならなかったが、このルートでの交渉が本格化する可能性もあった。少なくとも自分を通じて他勢力との交渉を担当している倉田対外交渉担当官からの話では政府はどちらかとの戦いを打ち切って片方に全力を投入する考えでいるらしい。
 倉田議員は連邦議会に無事に復帰した数少ない政治家であったが、復帰後は議会活動をしたくてもその議会が活動停止状態で有名無実化していたので、政府から臨時の官職を与えられて活動していたのだ。クリステラ議員が国務長官に臨時で就任していたので倉田議員も相応の職を与えられると思われたのだが、彼は大統領の提示した職を全て断り、自由な立場に身を置きたがった。
 そんな倉田議員に対して盟友アルバート・クリステラが頼んだのが極秘裏に進められていたティターンズ、ネオジオンとの講和交渉の窓口であった。これは秋子を通じて倉田議員から政府へと繋がるパイプで、連邦軍上層部にもまだ発覚してはいない交渉ルートである。
 実の所、この交渉ルートは完全に信頼出来る人間以外は一切関わらせられない危険な物だ。連邦内部にもティターンズやネオジオンとの講和など望まない勢力は当然存在しており、誰が何を考えているのかはさっぱり分からない。コーウェンは軍人としては信頼出来る人物であるが、1年戦争ではレビル将軍の閥に属して戦争を指導したバリバリのタカ派でもある。どちらかとの妥協に賛成するかどうかは微妙だった。
 ゴップたちはゴップたちで戦後に軍の影響力を拡大し、軍閥政治化を目論んだ過去があるのでこちらも信用出来るとは言い難い。



 元々はアヤウラがキャスバルの求めに応じて交渉ルートの構築に乗り出し、私的な人材を通じてバイエルラインに申し入れたのがこのルートの始まりで、途中からティターンズのジャミトフがクリステラに接触してきたのでこのルートもバイエルラインに回されてきた。
 最初はバイエルラインも懇意にしていたシアンなどの協力を受けながら交渉を続けていたのだが、それにも限界が来たので遂にシアンを通じて秋子に協力を打診、秋子も快諾して他の誰も知らない交渉ルートが確立する事になる。
3つの勢力はもっぱら月面都市で接触して交渉を繰り返しており、連邦はこの交渉を通じてどちらかとの戦いにケリをつけようとしている。そしてそれは恐らく、ティターンズとの講和という形になるだろう。

 しかし、祐一には秋子が何でこんな話をしたのか分からなかった。秋子が言うのだから上の方でそんな動きがあるのかもしれないが、そんな事は自分のような一介の少佐が考えるような事ではないはずなのだが。

「まあ、そういう流れになったら俺は部下たちを黙らせるだけですよ。講和に反対してクーデター起そうなんて馬鹿を出しゃしませんから、安心してください」
「それが、同士討ちという事態になってもですか?」
「……やりたくはないですが、そういう事態になったら実力で黙らせますよ。あらかじめ全てのMSをこっちで使えなくしておく手もありますから」

 これが本題かと祐一は納得し、その可能性を否定する事は出来ないという現実に改めて気付かされた。もしティターンズと講和すれば、エゥーゴから流れてきた連中は当然反発するだろう。舞辺りが暴走してMSを持ち出してクーデター騒ぎになるかもしれない。また逆にネオジオンと講和すればジオン共和国軍が黙ってはいないだろう。
 連邦は他勢力のように過激な思想に特化した組織ではないので他勢力を容易に受け入れる下地があるが、それはこういう場合には欠点となってしまう。その曖昧さの中からティターンズやエゥーゴという過激な集団が現れてしまったのだから。
 とはいえその懐の広さが無ければ地球圏を緩やかに統治する事は出来なかっただろう。特定の思想に固まらない曖昧な存在で連邦軍は丁度良いのだ。

「もしそれが現実の事になるなら、なるべく早く教えてください。こっちでも先手を打ってやる事やっておかなくちゃいけないですから」
「祐一さん、余り過激な事は駄目ですよ?」
「内戦覚悟するよりは穏便にやりますよ」

 身内で殺し合いをするよりは、恨まれてでも余計な事をされる前に拘束してしまった方が良い。秋子がこんな話をしたのもいざという時に絶対に信頼出来る実働部隊を確保する考えがあったのだろう。
 もし拘束に失敗して武力蜂起されるような事態が起きれば、祐一は信頼出来る部隊を率いて即座にこれを鎮圧しなければならない。だがそれはしたくないから、出来る限り早く情報を貰って行動に移さなくてはいけない。
 秋子が笑顔で祐一に頷き、そして何かを言おうと口を開こうとした時、扉に何かが当たる音がして痛いよ〜という何処か間延びした声が聞こえてきた。

「う〜、頭ぶった〜」
「お前、何やってんだ?」
「飲み物持ってきたんだよ。それで扉開けようとしたら上手く開けられなくて、少し開いたから右足で開けようとしたら勢い良く開いて私のおでこに〜」
「あらあら、そんな横着するからよ名雪」
「う〜、お母さんまで〜」

 う〜う〜唸る名雪はそれでも律儀に持ってきた3つの紅茶をサイドテーブルに置き、秋子と祐一に手渡した。それを2人は礼を言って受け取り、そして無言のまま視線でこの話はここまでと合図しあう。そんな2人の間に走った微妙な空気を敏感に察したのか、名雪が不思議そうな顔で2人の顔を交互に見ている。

「どうしたの2人とも、真剣な顔して?」
「いいえ、ちょっとお仕事の話をしてただけよ」
「ああ、秋子さんが休んでる間にやっとかないといけない事が増えちまった」
「ふうん、そうなんだ。私には聞かせられない話なの?」
「ごめんなさいね名雪」

 秋子や祐一のような上級士官、それも司令部に関わる人間と名雪のような一介の将校では得られる情報が違う。2人が知る事を許されても名雪には許されない情報がある。それは軍人なら誰でも叩き込まれている常識なので、名雪もそれ以上聞いたりはしなかった。話してくれないという事は自分が知る必要の無い情報だという事なのだ。もし必要な時がくれば祐一が話してくれるだろう。
 ただ、そんなときが来なければいいと名雪は思っていた。自分の前でベッドの上で半身を起している母と、隣に座っている恋人の表情に僅かに残る違和感を彼女は見逃していなかったから。こういう顔をする時の2人は大抵悪い話をした後だから。




 その頃、天野大隊に臨時で配属されたあゆはというと、何故か自分を見て残念そうにうな垂れてしまったパイロットたちを前に困った顔をしていた。

「う、ぐぅ……幾らなんでもそんなに残念そうにしなくても良いと思うんだよ」
「ああいや、月宮中尉に不満があるわけじゃないんですよ。ただなんて言いますかねえ……」
「ぼ、ぼくは天野さんと違って駄目な指揮官だけど、頑張るからさ」
「……ふう、中尉は素直で良い人ですねえ」
「せめて七瀬大尉だったらなあ」

 天野隊長でないと駄目なんだというパイロットたちにあゆはショックで涙目になっていたが、そのあゆの頭にぽんと右手を置いてヘープナー大尉が気にするなと慰めてくれた。

「気にするな中尉、こいつらは一種の変態だから」
「へ、変態?」
「ああ、俺が隊長を任された時もこうだったからな。理由を聞いたら天野隊長に詰られないとどうにもやる気が出ないんだとさ」
「うぐぅぅぅ!?」

 基本的に善人でお人好しのあゆに天野のようなきつい台詞をマシンガンのように飛ばすような芸当が出来る筈も無く、あゆは違う意味で悲鳴を上げながら天野大隊を引っ張っていく事になる。そしてこの間中、あゆは祐一に延々と愚痴を言い続けた挙句たかり続けて祐一の懐に甚大な被害を与えたとか。





 戦争の裏側で全ての勢力が講和の交渉を進めている。戦いの成果は戦後に向けた力関係を決める為の道具に過ぎない。連邦としては地上でティターンズを粉砕した後に講和に持ち込めばティターンズをジオン共和国状態に追い込む事も可能だろうが、ティターンズが宇宙でサイド6を奪還したりサイド5を攻略したりすれば逆に連邦に対して有利な交渉を行うことが出来る。
 ネオジオンも同じようにコンペイトウやサイド5の攻略を成功させ、自分たちの独立を認めさせる材料にしたいところだろうが、ティターンズはともかくネオジオンは単独でそれを達成するのはかなり困難だろう。兵力の都合が付かないのもあるが、それ以上にそこまで侵攻を続けられるだけの物資が用意できないし、後方が不安すぎて大部隊を本国から離せないという事情がある。
 ネオジオン内部の情勢不安に関しては連邦の情報機関がレジスタンスに支援を行ったり、政府と反キャスバル勢力に対して離間を仕掛けているという噂もあり、それはほぼ事実だと見られている。ネオジオンが地球圏に帰還する前にティターンズへの対抗組織としてエゥーゴの結成を支援したのも連邦の分裂を目論んだアヤウラが進めていた工作だったが、今はそれを連邦にやり返されている。
 アヤウラは連邦の工作活動を封じ込める為に部下を使って妨害を行っていたのだが、同時に講和の為の防諜もしなくてはならず、更に他の派閥との抗争やら身内の要人の警護などにも人を振り向けなくてはいけないので、個々の任務に回せる人員の数はどうしても少なくなってしまうという悩みがった。他勢力と違って身内に寝首をかかれる不安を常に抱えるネオジオンでは下手に人員の増強も出来ない。もし新規に加わった人員の中に他勢力のスパイが紛れ込んでいたら大変な事になってしまう。
 この状況には流石のアヤウラも匙を投げ気味で、いっその事エゥーゴから流れてきた人員を集めて仕事を任せようかなどという無茶な事も考えていた。身内より新参の連中の方がまだ信用できるというのも困った状況であるが、それほどにネオジオン内部が危険であるという事でもある。
 ワイヤーロープ製の神経と鋼鉄の胃を持つアヤウラでも流石にこれは参るようで、大量のタバコと酒に加えて胃腸薬と栄養剤の助けを借りる事が増えるようになっていた。表向き彼のオフィスとなっている情報部の一室で彼は今も頭を抱えていたのだ。

「くそう、どいつもこいつも信用出来ない奴らばっかりだ。何で世の中こんなに悪党が蔓延ってるんだか」
「いやいや、閣下がそれ言いますか?」

 部下たちが悪人の代表格みたいなあんたが何言ってんだ、という顔でアヤウラを見ている。勿論そんな視線など微塵も気にしないアヤウラは部下たちの呆れ顔を完璧に無視して今の問題を部下に尋ねた。

「それで、デラーズ総長の動きはどうなってる。こちらの動きを妨害に出ているのか?」
「いえ、未だにこちらの動きに対応して何かをしているという様子はありません」
「未だに気付いていないという事は無いと思うのだが、何か面倒な事をしでかさないだろうな。まあ良い、ハマーン殿の方はどうなってる?」
「それが、またキャスバル総帥と喧嘩をしたらしく、総帥府ではなく宮殿の方にてミネバ様の相手をされているようなのです」
「またか、全く、総帥の趣味にも困った物だ」

 キャスバルとハマーンの喧嘩は今に始まった事でもない。キャスバルはどうにもマザコンの気があるのか、女性に母性を求める傾向がある。簡単に言えば甘えさせてくれる女性が好みという事で、この点で気が強いというよりも少し怖いハマーンは彼の好みから外れるのだろう。いや、キャスバルの性癖に苦労した為にハマーンが怖くなってしまったのかもしれないが。
 おかげでキャスバルとハマーンの関係は冷え込んでいる。まだ世間体を気にして関係断絶はしていないが、恋人とは言い難い状態で完全に仕事上のパートナーという感じだ。まあそれで当人たちが収まってくれているのなら問題は無いのだが、中途半端にハマーンの方が情を残しているので今回のような喧嘩が発生する事になる。
 何で痴話喧嘩の事まで悩みの種になるのだと頭を抱えるアヤウラに、部下が新たな情報を報告してきた。

「閣下、またテロです。軍の貨物輸送用リニアトレインの線路が爆破され、大騒ぎになっています!」
「そっちは憲兵に任せろ。たく、何で俺がこんなに抱え込まなくちゃいけないんだ!?」

 身内が信用出来ないから本来なら関係ない仕事を抱え込む羽目になっただけなので、アヤウラとしては誰に怒りをぶつける事も出来ずにここで愚痴っているのだった。アヤウラの所属する軍情報部も多くの派閥に分かれているので、協力を頼むに頼めない。
 こんな状況下でアヤウラがどの勢力からも味方と看做されていないファマス系に接近するのも致し方のない事だろう。彼らは何処からも疎まれている分、何処の息もかかっていないから。そしてそれなりの実働部隊を持っているし、優秀な人材も多い。拘りが無ければ何処でも欲しがる彼らが冷遇されているのはアヤウラにとっては僥倖だった。これまでに物資や装備や情報を横流ししてチリアクスに恩を売り続けたのも一重に味方に引き入れるためだったのだから。
 ただ、もし本当にあのグレミー・トトがギレン・ザビの忘れ形見であったら、その時自分はどうするのか。その答えは未だにアヤウラの中には出来ていなかった。ザビ家への忠誠心よりもネオジオンの勝利と連邦の妥当を優先してきたアヤウラであるが、その彼をしてもギレン・ザビの名は無視しえない影響力を持っているのは確かなのだ。だが同時にジオン・ダイクンの名を背負うキャスバルの事もある。これはアヤウラだけではなく、ネオジオンの古参軍人全般に言える問題であった。


 


後書き

ジム改 戦争の行く末は外交交渉に移ったようです。
栞   まあ、何処かが1人勝ち出来るとは読者さんも思ってはいなかったでしょうけど。
ジム改 秋子さんまで倒れて遂に連邦が弱気になった瞬間でした。
栞   このまま戦い続けたらどうなったんでしょうね?
ジム改 多分、ジャミトフ閣下の希望通りの地球圏の経済が完全に破壊されて人口激減かと。
栞   何ですかその世紀末ENDは?
ジム改 この短い期間に2度も全面戦争すればそうもなるって。
栞   こんな情けない連邦で将来海賊と戦えるんでしょうかねえ。
ジム改 敵が存在するから、案外強くなってたりして。
栞   ヘビーガンとGキャノンじゃなくてジャベリンとキャノンガンダムが量産されてる連邦軍ですか。
ジム改 ゼク系の新世代機になってるかもしれんけどね。