31章 エゥーゴ壊滅



 リビックとぶつかったエゥーゴ主力艦隊はその圧倒的な圧力に屈しかけていた。艦艇数で2倍の差をつけられ、MSでも現在出しているだけで既に上回られている。ここにアムロとカミーユを含むアーガマ隊と、クラインとトルクの率いるラーディッシュ隊が突入してきたのだが、これには後方に無傷で待機していた第5艦隊が対応した。
 艦隊に取り付く前に盛大な艦砲射撃を受けた事でアムロの攻撃隊は突撃隊形を崩されてしまった。そこに第5艦隊の艦載機が突入してきてたちまち乱戦に巻き込まれてしまう。アムロは咄嗟に迎撃を指示したが、対艦攻撃を主目的とするZUやメタス改のパイロット達は咄嗟に気持ちの切り替えを行う事が出来ず、懸架してきた対艦ミサイルを抱えたままジムUやハイザック、ジムVに食われる機体が続出している。
 カミーユはWRモードからMSモードを切り替えて向かってくる敵機を迎え撃ったが、次々に味方が撃ち減らされていく現実に動揺してしまっていた。現代戦に対応できるようヴァージョンアップされたジムVならまだしも、ファマス戦役で使われた旧式のジムUやハイザックに最新のZUやメタス改が次々に撃ち落されているのだ。ミサイルを捨ててMSモードになればその圧倒的な性能を生かせるのに、当初の目的に拘った為にいいカモになってしまっている。
 この第1撃を逃れた機体は流石に対艦攻撃に固執する愚を悟って次々にミサイルを捨てたが、この時点でZUは5機、メタス改は10機を失っていた。実に半数近い数が何も得るところ無く失われた事になる。この時点でアーガマ隊の放った攻撃隊は事実上壊滅したと言えるのだが、今回はこれほどの損害を受けてもアムロたちは退こうとはしなかった。この戦いに負ければ後は無く、次の戦いに備えて戦力の保持するなんて事を考える意味はなかったのだ。

「数が多すぎる、これじゃあ……」

 アムロもZを駆って強行突破をかけていたが、デュラハンが突破できなかったようにアムロの突撃も連邦MS隊の分厚すぎる壁を突破することは叶わなかった。相手が片手で数えるくらいならアムロは機体性能と技量差で突破していただろうが、アムロの前には30を超すMSが立ちはだかっていたのだ。これでは手が出せるわけが無い。アムロを援護するべき僚機は全て連邦機との乱戦に巻き込まれ、1機も付いて来れてはいない。あのカミーユのZでさえ姿が見えないのだ。
 更に恐ろしい事に、このアムロたちの突撃を受け止めた第5艦隊はほとんど同時にクライフとトルクの率いるラーディッシュ隊の突撃も受け止めていたのだ。編成はアムロの率いるアーガマ隊ほど強力ではないが、第5艦隊は単独で最高性能の可変MS80機近くを相手取っていた事になる。
 これに対し、第5艦隊は保有する200機近いMSを全て投入して対抗した。作戦に従うならこの戦力は第1、第2艦隊がフォン・ブラウンを攻略する際に周辺の衛星都市を叩く任務を与えられていたのだが、司令官のデスタン少将はこの大半を迎撃に振り向けてしまった。この判断のおかげでエゥーゴの目論んだ連邦軍の混乱は防がれたのだが、第5艦隊も性能で遙かに勝る敵部隊との戦闘で大きな消耗を強いられることになり、月面都市への攻撃能力を失くしてしまっている。
 この時のアーガマ隊、ラーディッシュ隊は最初の攻撃で犠牲を出した以外では概ね圧倒的な戦いを展開しており、ZU1機に連邦はジムUやハイザック5機を引き換えにしたとまで言われる程の強さを見せている。だが、この奮戦も本隊の苦境の助けとはならなかった。本隊は第1、第2艦隊と交戦しており、現在アムロたちが戦っているのは第5艦隊だからだが、おかげでリビックは全力をエゥーゴ主力の壊滅に振り向ける事が可能になったのだ。

 アムロ率いるアーガマ隊に較べるとラーディッシュ隊は人材でも装備でも弱体と言えたが、ラーディッシュ隊はアーガマ隊よりも善戦していた。ラーディッシュ隊をまとめていたクラインとトルクは優れた指揮官と言う程ではないが、歴戦の指揮官ではある。指揮官としては凡庸としか言えないアムロより2人は有能な指揮官だったのだ。
 ZUとメタス改の数はアーガマ隊の半数程度であり、不足分はネモF型で補っているラーディッシュ隊は2機の百式改を先頭に連邦の直衛機の群れに突入し、これを自分達とネモ隊で引き受け、対艦攻撃能力に優れた可変機を艦隊に突入させる事に成功した。クラインとトルクの百式改、そして4機のネモF型がエゥーゴの切り札とも言えるメガバズーカランチャーを装備しており、この一斉射撃で迎撃機の防衛ラインに穴をこじ開けた。
 だが、この可変機部隊は猛烈な弾幕に出迎えられ、標的であった揚陸艦には辿りつけなかった。ZUは高い機動力で駆逐艦や巡洋艦の間を飛び回り、強力なメガビームライフルを撃ちまくる。メタス改はここまで苦労して懸架してきた対艦ミサイルを手近な艦に向けて発射し、一目散に遁走しようとする。逃げられないと悟れば最後の武器であるハイメガキャノンを使う事も躊躇わない。
 これらの可変機の攻撃でラーディッシュ隊は3隻の駆逐艦と1隻の巡洋艦を仕留めるという大戦果を上げたが、艦隊の直衛機を突破して離脱できたのは当初の7割程度であった。これでも乱戦に引き込まれて統制を回復出来ないでいるアーガマ隊に較べれば余程マシではあるのだが。
 部隊を下がらせたクラインとトルクは疲労の色は隠せなかったが、まだまだ戦意は旺盛だった。追撃してくる敵MSを見てもふてぶてしい笑みを浮かべている。

「トルク、残弾はどれ位残ってる?」
「ライフルに7発、バルカンも5秒撃ったらお終いよ!」
「結構、もう一戦いくか!」

 クラインは自分に向ってきたジムVをビームライフル2発で中破させると、勢いのままに圧倒的多数の連邦MSに挑んでいった。その隣にトルクが立ち、傷口を拡大していく。2人の作り上げた穴から部下達が飛び込んでいく。その勢いに連邦MSパイロット達は怯み、後ろに下がっていく。
 だが、トルクたちの突撃は勇敢なものではあったが、全滅への道を突き進むだけの意味の無い突撃であった。この戦いには勝利は無く、自分達には敗北しか残されていない。だが、ならば逃げるかという選択は出来ない。それをするには2人ともパイロットとしてのプライドがありすぎる。そして何より、ここで生き残ってももう2人には行く所は無いのだ。




 別働隊が連邦軍に攻撃を仕掛けた事はすぐにアイリッシュのカニンガムの知る所となったが、それが現在の戦闘に何の影響も及ぼしていない事に失望を禁じえなかった。せめて敵部隊の一割もここから引き剥がしてくれればと淡い期待を抱いていたので、それが何の役にもたたない事に腹立たしささえ覚えている。もっとも、アムロたちは必死に頑張っており、決して手を抜いているわけではないのだが。
 当初は60隻居たエゥーゴ艦隊はこれまでの砲戦で12隻を失い、連邦艦隊の圧力に抗し得なくなってきていた。戦艦や巡洋艦の防御スクリーンはある程度数が纏まれば強力な盾となり、後方に小型艦を守る事が可能になる。だがその守りが崩れた今、被害は駆逐艦部隊に及びだしていた。

「防御スクリーンの密度が下がっています。駆逐艦ロー被弾!」
「……」
「カウス被弾、大破!」

 次々に増える駆逐艦の被害にカニンガムはだんだん表情を引き攣らせ出した。駆逐艦は戦線に開いた穴を即座に補強する即応戦力として重要であり、その快速を生かして戦場の足軽として活躍する艦だが、これが減ると敵駆逐艦が好き勝手に暴れ回るようになるのだ。幸い連邦軍は駆逐艦を突撃させようとはしていないが、決着を付ける気になれば突撃させてくるだろう。
 この時リビックが駆逐艦を突撃させず、MSにMSをぶつけて艦隊は砲撃戦のみを行わせているのは、被害が増える近接戦をせずとも敵を圧倒できる自身があったからだ。戦艦の数では圧倒的に引き離してひるので砲力で負ける事はありえず、ただ撃ち合っていれば敵は勝手に消耗してくれるからだ。補給力も比較できないほどの差があり、エゥーゴは本拠地のすぐ傍でありながら補給艦不足で補給に苦しんでいるのに、連邦は遠征地で全軍を十分に戦わせられる物資を持ってきている。
この辺りは正面戦力に全てを注ぐしかなかったエゥーゴと、後方部隊も完全に整備している連邦軍の地力の差がまともに出てしまっているが、これは連邦の国力が隔絶しているから出来る金持ちの特権であり、同じ事をエゥーゴがやるには人も金も時間も設備も足りなかったのだ。
連邦がここまで後方支援を充実させているのは、ファマス戦役が大きく影響している。火星まであれだけの大軍を送り込むには想像も付かないほどの物資と、それを輸送する船舶、そして護衛部隊が必要となる。連邦軍は身内の裏切り者を叩き潰す為にそれを全て満たしてしまったのだ。
ファマスが地球に侵攻した時は補給ルートの維持が出来ず、そこで失った船舶量がファマスの作戦行動を著しく制限し、最後まで補給不足に喘ぐ事になったのとは対照的に、連邦はファマスの執拗な通商破壊戦に大量の船舶やコンテナを喪失し、膨大な物資を宇宙の塵と変えられながらも作戦を継続できた。
連邦は1年戦争のダメージから未だに立ち直ってはいなかったが、軍と政府は反逆者を打倒する為にコロニー再建計画を初めとする復興事業を棚上げにしてまで軍備増強に努め、火星攻略艦隊とそれを維持する輸送部隊を作り上げたのだ。この時は工廠だけでは能力が足りず、アナハイムや来栖川、ゴータといった軍需産業も大量発注を受けて大いに潤っている。また、ファマス戦役そのものは地球圏には全くダメージを及ぼさなかったので、結果として復興事業を棚上げにしたのに地球圏企業の再建が進んでいるのは皮肉な話ではある。
 ただデラーズ戦役だけは地球圏に多大な被害を及ぼしたが、これはジオン残党の脅威を市民に印象付ける事になり、ティターンズの地盤を確固たる物にしてしまっただけでデラーズが目論んだコロニーへの食糧生産依存度の向上によるスペースノイドの立場向上とは全く逆の結果をもたらしている。

 このファマス戦役の遺産がエゥーゴをここまで追い詰めている。エゥーゴがここまで正面対決を避け、ひたすら補給路を狙ったゲリラ戦を繰り返したのも補給力の差が隔絶している事を理解していたからで、言ってしまえばエゥーゴは大軍を月から離れた所で運用するだけの能力を持たないのだ。地球降下作戦では大軍を派遣していたが、あれはエゥーゴにとって自分たちの総力を傾けた一大作戦であり、秋子に追い返されたことで回復不可能なほどの損害を受けた。
 この作戦で足の遅い輸送船や仮装巡洋艦が次々に食われてしまい、深刻な船舶不足に陥った事が現在までエゥーゴを蝕んでいるのである。勿論輸送船の新規建造は行われていたが、連邦がその戦力をエゥーゴに向けてきた時、輸送船を建造していたドックの多くが損傷艦の修理に回され、あるいは軍艦の建造施設へと変わった。資材も優先的に軍艦に向けられ、新鋭のグラース級巡洋艦が何隻も建造されたのだ。
 正面戦力を充実させなければ連邦軍の侵攻に対処できないから仕方ないと言えるのだが、これがエゥーゴの質の低下を招いた。連邦からエゥーゴに来た将兵は高い訓練度と高度な教育を受けていたのだが、補充は全て志願兵だから自然と艦の乗組員は少数のベテランと多数の新兵となってしまう。この比率は消耗を重ねる度に変わっていき、艦長でさえ経験が足りない者があてがわれる様になってしまっている。予備を持たない軍隊の悲しさである。

 色々と不利な条件が重なったエゥーゴは少ない艦艇に経験不足の兵士を乗せて連邦艦隊に立ち向かったわけだが、結果は意外と健闘している。母都市防衛の情熱が過剰なまでに士気を高めたおかげで絶望的に不利な状況でもその場に踏み止まっていられたのだ。艦の数も少なく、司令官の指示が伝達し易いという利点もあった。
 元々カニンガムとリビックでは指揮官としての格が違いすぎる。いや、エゥーゴにはリビックや秋子、クライフ、エニーといった名将と渡りあえるような指揮官は1人も居ないのだ。その事を考えればカニンガムは寧ろこの戦いで信じ難いほどの健闘を見せているといえるのだが、結果は残酷なもので、健闘は勝利には結びつきそうも無かった。
 この中でエゥーゴ部隊を支えていたのはエゥーゴの前勢力圏から掻き集められたエースパイロット達であったといえるかもしれない。デュラハンを中心とするD小隊やライデンを中心とする旧ジオンエース部隊などはその最もたる物で、連邦機に隔絶する性能を持った新鋭機に乗ったこれらのエースは自分たちの数倍の敵部隊を引き受けて奮戦しており、連邦部隊に無視できない犠牲を強要している。これは個人レベルの活躍でしかないが、それが連邦部隊の攻勢を食い止めているのは確かだ。
 これはジオン末期の状況と酷似しており、特に突撃機動軍と同じ道を歩んでいる。まあ物量で勝てないから超兵器やエースに頼って一発逆転というのは昔から何処の国も考えるものだが、それが戦局を逆転させた例は1つも無かったりする。
 




 旗艦であるアイリッシュも防御スクリーンを展開して最前線で砲撃を行っていたが、僚艦が沈むに連れて砲撃がアイリッシュに集中されるようになった。迎撃機を突破した連邦MSも襲い掛かってくるようになったので対空砲火も四方八方に撃ちまくっている。その様は刀を出鱈目に振り回す落ち武者のようであり、制宙権を失った艦隊がいかに無力化を雄弁に語っている。
 距離を詰めてきたMSが対艦用に担いできたバズーカを放って離脱していく。艦を直撃したバズーカ弾体がカタパルトに穴を穿ち、装甲に穴を開け、銃座を吹き飛ばしていく。その衝撃は艦を激しく揺るがし、カニンガムも危うく指揮官用の椅子から振り飛ばされるところだった。
 カニンガムは椅子にしがみ付いて振動が納まるまで耐え凌ぐと、全軍を叱咤するように大声を張り上げた。

「怯むな、我々の意地を見せてやれ!」

 カニンガムに言われるまでも無く将兵は怯んだりせず果敢に圧倒的な敵に挑んでいたが、精神力や士気だけでは物量の差は補えない。何より連邦軍もリビック自ら率いてるとあって将兵の士気は高かった。よく反連邦系の組織は連邦兵士は士気が低いとか規律がなっていないなどと詰るが、本当にそうなら1年戦争で連邦はジオンに負けている。確かにエゥーゴに較べれば低いかもしれないが、これは寧ろエゥーゴが都市防衛の熱に突き動かされた狂気に近いものであったので、連邦兵士の士気は十分に高かった。緊急展開軍に至っては司令官に個人的に忠誠を誓ってる連中が集団で存在しているので、こっちもまた危険な集団と言えるかもしれない。
 この敵機に集られて苦戦しているアイリッシュを救ったのがカミーユのZガンダムだった。この時既にジェラルド・サカイ大尉の率いるMS小隊がアイリッシュを守っていたのだが、敵は10機を越えていたために対処し切れなかったのである。
 この連邦機に駆けつけてきたZガンダムが襲い掛かった。ロングビームライフルはスマートガンを除けば最高の射程と精度を持つライフルであり、これに撃たれて2機のジムUが破壊された。残りのMSがカミーユに気付いて迎撃しようとしたのだが、この時のカミーユは平静を失っており、見つけた敵を手当たり次第に破壊して回る危険な存在と化していた。パイロットとしては未だに未熟な筈のカミーユがこの時ばかりはアムロと並ぶのではと思うような強さで敵を駆逐していたのだ。
 襲い掛かってきたハイザックやジムVを次々に返り討ちにし、余りの強さに逃げ出そうとした機体まで仕留めたカミーユはすぐさま別の敵へと向かっていく。それを見たサカイは感心するよりも違和感を感じていた。

「カミーユの奴、何かおかしいぞ。何時もの奴じゃない」

 幾度もカミーユと肩を並べて戦ったサカイには、カミーユの戦い方が異常だと察していた。実は経験の浅いカミーユは、初めてとも言える大規模消耗戦に神経を磨り減らしてしまったのだ。強力なNTゆえの強い感応力もこの場合はマイナス要素でしかなく、カミーユは暴走したままに敵に襲い掛かっていた。
 だが、このカミーユの暴走はエゥーゴ艦隊の正面を切り開くほどの戦果を上げるに至った。それまで敵MSに集られ、後退を重ねていたアイリッシュと直衛艦はカミーユが切り開いた空間を前進することが出来たのだ。
 このZガンダムの活躍は凄まじいの一言に尽きたが、それがカミーユ機だと知ったカニンガムは驚きを隠せなかった。エゥーゴ内においてカミーユはNTとして知られていたが、その実力はエゥーゴ内でキラ星の如く輝く超エースたちに較べられるものではないと言われていたからだ。

「カミーユ・ビダン、あの少年が?」
「はい、間違いありません。あれはカミーユのZです!」

 オペレーターの報告にもう一度カニンガムは目前で頑張るZをみた。確かにそこには青と白に塗り分けられたZガンダムが居る。アムロやライデンは赤と白なので見分けは簡単につく。
 カミーユのこの活躍を見たカニンガムは口元に笑みを浮かべ、全軍に嗾けるような指示を出した。

「みんな、カミーユに続け。敵を押し返すんだ!」

 この指示は確かに効果があり、カミーユの切り開いた正面に押し出したエゥーゴ艦隊は主砲が過負荷で焼き切れるのではと思うような連続射撃を繰り返し、この絶対不利という状況で正面にいる第1艦隊を押し返したのだ。
 このエゥーゴの反撃で第1艦隊はマゼラン1隻を撃沈され、1隻が中破して後退させられるほどの大損害を受けている。だが、この反撃に対してリビックは最大級の力で答えて見せた。ここまで温存してきた3隻のプロメテウス砲艦が戦艦部隊の横に付いて一斉にプロメテウスを放ったのだ。プロメテウスはエネルギー効率こそハイパーメガ粒子砲に劣るものの、単純な破壊力では今尚最強の艦載砲として君臨しており、防御手段も存在していない。
 これを見たカニンガムは何が起きたのか分からぬままにアイリッシュと共に蒸発してしまった。ファマス戦役で使われたプロメテウス砲艦とは違い、現在のプロメテウス砲艦は新規に設計された新造艦で、先代の欠点が大方克服されている。そのエネルギーロスの問題も大分解決されており、破壊力も向上しているのだ。その威力は一撃でアイリッシュ級戦艦を完全破壊してしまうほどになっている。

 3本の光の柱はエゥーゴ艦隊を貫いて2隻を完全破壊し、6隻を損傷させた。この砲撃は、同時にこの戦いの趨勢も決してしまった。旗艦を失ったエゥーゴ艦隊は指揮系統が崩壊し、組織的抵抗は不可能になったからだ。
 光の柱に瞬時に打ち砕かれたアイリッシュを見たカミーユは呆然としてしまった。

「カ、カニンガム提督?」

 信じられない、いや、信じたくない思いでカミーユはその名を呟いた。また味方が散っていってしまった。それも瞬時に旗艦が沈むという最悪の事態だ。
 だが、この僅かな隙は戦場では致命傷となってしまう。動きを止めたカミーユのZに向かって仲間の復讐を果そうと2機のジムVが襲い掛かってきた。それにカミーユが気付いた時にはもう回避も防御も間に合わない所まで詰められていた。
 抜かれたビームサーベルを見てカミーユは殺されるのを覚悟したが、そのジムVとZの間に1機のリックディアスUが割り込んできた。そのリックディアスUはビームサーベルを構えていたジムVにクレイバズーカを押し付けるようにして放ってこれを破壊した。更にもう1機を咄嗟に引き抜いたビームサーベルで擦れ違い様に切裂いた。

「馬鹿野郎、何止まってやがる!」

 サカイのリックディアスUだ。咄嗟にカミーユのカバーに入ってくれたらしい。カミーユは怒鳴られたことでやっと相手が誰だか気付く事が出来た。

「サ、サカイ大尉?」
「たく、最後まで余計な手間かけてくれるな」

 それだけ言うと、サカイはいきなりカミーユのZを突き飛ばした。それで僅かに距離が離れたカミーユは、サカイのリックディアスUが損傷している事に気付いた。さっきのジムVとの戦闘でサカイも被弾していたのだ。

「た、大尉!?」
「子供を道連れにするほど、落ちぶれちゃ無いんでね」

 その言葉を最後に、サカイのリックディアスUは爆発した。その爆発の衝撃波に弾かれたカミーユはコクピットの中で絶叫した。サカイはライデンと共に自分を鍛えてくれた恩人で、カミーユにとってはもっとも身近な人だったのだ。
 カミーユは激情のままに接近してくる連邦軍の戦艦を睨んだ。それが連邦総旗艦バーミンガムである事をカミーユは知らなかったし、知っていても関係は無かった。とにかく今はこの怒りをぶつける相手がほしかった。
 絶叫とさえ言える金切り声を上げてカミーユはZをバーミンガムへと向ける。だが、幾らなんでも1機で戦艦を狙うのは余りにも無謀すぎる。一週間戦争ではないのだ。すでに戦艦も対MS戦を考えて十分な対空火器を装備し、濃密な対空砲火を放つことが出来る。バーミンガムも突入してくるZを見て向けられる砲と機銃を全てZに向けて一斉に放ってきた。
 カミーユにはバーミンガムが光ったように見えた。その巨大な艦隊に装備されている全ての砲が自分に向けて撃って来る様な錯覚にとらわれたカミーユは、押し寄せる光に飲まれて意識を失ってしまった。



「Zガンダム、撃破しました!」

 バーミンガムの艦橋でオペレーターが機械的に報告する。友軍機を瞬く間に殲滅した悪鬼のようなMSはこれで無力化された。リビックは頷くとエゥーゴに止めを刺すために艦隊を前進させた。先のプロメテウスでアイリッシュが撃沈した事を確認しており、エゥーゴ艦隊の指揮系統は完全に崩壊した事は分かっている。もはや目の前の艦隊は集団として機能しないだろう。
 バーミンガムを含む集団を先頭に急進してきた連邦艦隊はエゥーゴ艦隊を蹂躙し始めた。旗艦を失ったエゥーゴ艦隊はそれまでの統制を失い、個艦、もしくは戦隊でバラバラの動きを始めており、集団戦力としての意味を喪失したのだ。こうなれば後は戦闘ではなく敗残兵の処理で、リビックはこれまで殆ど無傷で温存されていた駆逐艦部隊を投入した。駆逐艦は防御が弱く、敵が落ち着いて迎撃してきたら容易く沈められてしまうのだが、強力な対艦ミサイルを装備しており、ミノフスキー粒子の影響で誘導兵器が無力化された現在では駆逐艦の突撃戦法はそれなりに有効となっている。
 エゥーゴ艦隊は高速で突入してくる旧式のセプテネス級駆逐艦や新型のマエストラーレ級駆逐艦の群れにエゥーゴ艦隊は全ての砲を撃ちまくった。駆逐艦部隊が迎え撃つ為に突入していく。だが、連邦がマエストラーレ級に更新しているのに対してエゥーゴは未だに旧式のセプテネス級を使用しており、駆逐艦同士の戦いでは圧倒的に不利を強いられている。マエストラーレ級はメガ粒子砲を連装で砲塔式に装備しているのに対してセプテネス級は艦首に固定式でレーザー砲を装備している。これは砲数だけはセプテネス級が勝っているが、一発あたりの威力と射程、射界はマエストラーレ級が勝っている。
 駆逐艦部隊は殴り合いとしか例えようのない近接砲戦を行い、たがいに次々に被弾して落伍、運の悪いものは轟沈していく。だが所詮は多勢に無勢で、エゥーゴ駆逐艦は連邦駆逐艦に滅多打ちにされて全滅する以外の道は無かった。

 この乱戦に巻き込まれなかった連邦駆逐艦がエゥーゴ巡洋艦や戦艦へと突撃してくる。エゥーゴ艦はこれに対して必死に撃ちまくったが、統制されていない砲撃では駆逐艦の突撃を食い止める事は出来ない。何隻かの犠牲を出しながらも懐に飛び込んだ駆逐艦部隊は次々に対艦ミサイルを放って離脱していく。エゥーゴ艦隊は一斉に回避運動に入ったが、直撃を受けて爆発する艦が続出した。駆逐艦のミサイル攻撃は回避が非常に困難で、撃たれる前に沈めろが対駆逐艦戦の常道となっている。懐に入られたら巡洋艦や戦艦では駆逐艦から逃げられないのだ。
 次々に撃沈、あるいは大破していくエゥーゴ艦を見てリビックは艦隊に集結を命じた。残敵掃討に部隊を残しはするが、リビックたちの仕事はエゥーゴ艦隊を殲滅する事ではない。リビックの仕事はフォン・ブラウンの占領と、エゥーゴ幹部と後援者たちを捕縛する事である。
 残敵掃討を第5艦隊に任せ、第1、第2艦隊を纏め上げたリビックは、環月方面軍司令部への侵攻を再開した。すでに戦力と呼べるほどの部隊も無く、僅かな旧式MSを残すのみとなった要塞にはこれに対抗する力などは無かった。
 要塞司令のベーダーはそれでも諦めずに要塞残存戦力で抵抗を試みたが、僅かな要塞砲とジム改などの二線級部隊では連邦正規軍に対抗できるはずもなく、筈かな抵抗の後に撃砕されてしまった。要塞守備隊も突入してきたMSと陸戦隊によって壊滅し、司令官ダグラス・ベーダー中将は司令室で拳銃自殺を遂げている。




 

 これでエゥーゴは保有している実働戦力の大半を喪失し、アーガマ隊とヘンケン隊を除けば事実上壊滅した事になる。その2艦隊も友軍が壊滅したのを見て接近を躊躇っている。助けに来たいのだろうが、来ても殲滅されるだけと分かりきっているだけに戻れないのだ。
 ただ、ショウの率いるアクシズ艦隊だけは未だに健在で、消耗を重ねながらも何とか指揮系統を維持している。もっとも、それも第5艦隊の猛攻で何時まで持つかという状況にまで追い込まれているのだが。
 ショウは第5艦隊に対して持ち前の機動力を生かした戦い方で挑み、不断に位置を変えて相手を振り回そうとした。元々アクシズ艦は長大な航続距離を持っており、推進剤の補給無しで長距離を移動できる。その特性は連邦艦艇に対する大きなアドバンテージの1つで、この手の機動戦をやれば間違いなく連邦が先に推進剤切れをおこす。
 だが、アクシズ艦隊の残存が12隻と余りにも少なすぎた。対する第5艦隊は60隻で、アムロたちとの戦闘でMSを消耗した以外はほとんど無傷なのだ。そのMSも消耗したとはいえ、まだまだ数が多い。そして何より、戦い所を与えられなかった第1艦隊所属の2機のGレイヤーがここに来てアクシズ艦隊に襲い掛かってきたことが致命的だった。頼みのガザC、ガザDは連邦軍のジムUやハイザックには十分だったが、ジムVやゼク・アイン、バーザムには不利を強いられている。加えてパイロットの技量差も問題だった。アクシズのパイロットは1年戦争生え抜きの古参パイロットを除けば、終戦間際に軍に入った志願兵が大半を占めている。古参兵は連邦パイロットに引けを取らなかったのだが、大半を占めるのは実戦経験がない、あっても数回という者ばかりなのだ。
 アクシズMS隊を率いていたのは1年戦争の英雄、白狼ことシン・マツナガ大尉だったが、彼が駆る白いジャギュアーはファマス戦役の生き残りをアクシズで改良した強化型で、彼を中心に編成されているジャギュアーとシュツーカ部隊だけは高性能な連邦MS部隊に対抗できている。皮肉な事に、アクシズの古参兵たちはアクシズ製のMSよりもファマス製のMSを好んだのだ。
 ファマスとアクシズではイデオロギーで決して相容れない部分がある。特にファマスは連邦の技術を積極的にジオンの技術に取り入れて融合させ、強力なシュツーカ系列機を完成させたのだ。この機体群が非常に優れている事は多少の改良で現代戦にも通用するという事実がはっきりと示している。この機体に散々苦戦させられた連邦では終戦後にその遺産を積極的に取り入れ、ゼク系列機を初めとしてさまざまな後継機を生み出している。
 ただ、アクシズではイデオロギー問題があってファマスの技術は軽視されており、ガザ系が主力として採用されたのだ。

 このジオンの亡霊が巡り巡ってショウたちアクシズ先遣艦隊を窮地に立たせている。この先遣艦隊はエゥーゴの援軍といえば聞こえは良いが、その実体はアクシズ内の対立構造から弾き出された鼻つまみ者の集団なのである。ショウはファマス出身者で宇宙攻撃軍上がりだ。アクシズの主流からすれば彼のような者は邪魔者でしかないのだが、不幸な事にファマス出身者は有能で経験豊富であり、アクシズ内の実戦部隊は事実上ファマス出身者とデラーズフリート出身者を中心に再編成される事になった。
 ただ、実戦部隊を指揮していたファマス出身者達は悲しい事に軍人の枠に嵌りすぎていて、アクシズ内の政治闘争にはまるで付いていけなかった。エギーユ・デラーズがこのアクシズ内で独自の勢力を築いたのとは対照的であり、ファマス出身者たちのリーダーであるチリアクス中将はアクシズ指導部の無茶な要求に逆らえなかったのだ。
 シン・マツナガもドズル配下の兵であった為、さまざまな派閥が凌ぎを削るアクシズでは浮いた存在であった為にこの部隊に回されている。ドズルの妻、ゼナから死に際にミネバを託されるほどの信頼を得ていた事もマイナス要素となった。

 しかし、アクシズから摘み出されたファマス出身者と派閥抗争から弾き出された不器用な奴らは、戦場ではアクシズに残っているどの部隊よりも強力だった。ショウはファマスにおいて最強部隊の1つに数えられたアリシューザ隊の指揮官であり、連邦軍に幾度も苦杯を舐めさせた勇将である。そしてその指揮下にはファマス戦役や1年戦争を生き抜いた生え抜きの古参の艦長が揃い、アクシズにとっては宝石よりも貴重なベテランパイロット達もいる。このベテラン達が新兵を引っ張り、ショウの指揮に何とか艦隊を従わせたのだ。
 ショウの指揮に艦隊がついてこれたという事は、連邦艦隊から見れば物凄い速さで動き回っているようなものだ。第5艦隊司令官のデスタン少将は有能な指揮官であったが、ショウの動きに付いていけるほどの高速機動戦を経験した事などはない。これは寧ろバークやモースブラッカーのような人物が相手をするべきだったろう。
 結局ショウの動きに振り回された第5艦隊は弾薬と推進剤の浪費を積み重ね、補給の為に後退を余儀なくされてしまった。ファマス時代に培われた逃げ足の速さはこの時代でも健在だということを見事に証明したショウは、これ幸いとばかりに第5艦隊を振り切って逃げ出し、第4艦隊の封鎖を破って月周辺から脱出数するとに成功した。だが、その過程でショウは更に3隻を失い、残存艦は9隻にまで減らされてしまっていた。
 連邦艦隊をどうにか振り切ったショウは近くのゴミの中に逃げ込み、ようやく一息つくことが出来た。

「ふう、相変わらず連邦は強いな」
「艦長、残存艦は9隻、すべてが損傷しています。MSは52機が帰還しましたが、うち22機が修理を必要としています」
「使えるのは30機か」
「連邦の第5艦隊はエゥーゴの別働隊相手に消耗したようですが、まだ100機は使えるでしょうな」
「……トップ、お前、今更だが性格悪いな」

 情け容赦ない副官の報告にショウは肩を落として長年の相棒を睨んだ。しかしまあ、それらは全て事実であり、この戦力で態勢を立て直した第5艦隊に挑めば一蹴されてしまうのは確実だ。
 それが分かっているからこそ、トップはショウに今後の方針を問うた。

「どうします艦長、やれるだけの修理を施して再突入しますか?」
「それをやって勝算は?」
「実家のお家騒動が円満解決して一丸になる確率と、月周辺の連邦軍に勝てる確立。艦長ならどっちに賭けますか?」
「……俺は負けると分かりきってる賭けはしないんだよ」
「はぁ? それでは艦長はこれまで勝てると思って戦ってきたのですか?」

 トップの驚きに満ちた質問に、ショウは渋面を作ってしまった。アクシズでこんな事を言えば敗北主義者と罵られるだろうが、幸いここはアクシズではない。言論の自由は最前線においてはそれなりに保障されているのだ。
 まあ、2人の漫才はともかく、ショウはここに隠れて事態の推移を見守ることにした。彼はエゥーゴ上層部が前線部隊に隠しているもう一つの作戦案を知っていたので、それが動いてから動いても遅くはないと判断したのだ。しかし、この計画はショウには面白くないものに思えている。物量差に対抗のしようがない以上仕方が無いといえば仕方が無いのだろうが、これは明らかに前線で戦っている将兵を裏切る行為だからだ。上層部にはそれなりの思惑があるだろうし、前線の兵士の思想で組織の方針が決定されるわけではないことくらい十分に承知しているのだが、その一言で納得できるなら彼はまだアクシズにいただろう。



 フォン・ブラウンが壊滅の危機に直面している頃には、グラナダの戦闘も終息に向おうとしていた。圧倒的な物量を前に天蓋部を守り切れなくなった舞は全軍を第1階層に下がらせ、ゲートを爆破して突入を防ごうとしたのだが、連邦軍は艦砲で天蓋部に大穴を開けて突入口を作り上げて進入してきた。
 この降下で第1階層を部隊とした市街戦が行われたのだが、ここで祐一は月面と市街化に攻め難いのかを肌で実感することになる。低い天井はMSの活動を制限し、天井まで聳え立つビルは遮蔽物として機能する。ここではMSは足手纏いでしかなく、主役は歩兵とミドルMSとなってしまう。MSは歩兵の要請に応じて支援攻撃をするくらいしか出来ないのだ。
 これを察した祐一は中距離戦に向くジムVを天野の指揮で歩兵の援護に繰り出し、自らは艦砲で破られた天蓋部周辺のMS隊を指揮することにした。そこでは少数のエゥーゴ機が多数の連邦機を相手に奮戦していたのだが、その中でも一際凄かったのは舞の百式改とあゆのガンダムmk−Xの戦闘だったろう。
 舞は地下に降りた際に僅かなりとも補給を行ったらしく、かなり装備が強力になっている。恐らくオプションを全て付け替えたのだろう。祐一は知らなかったが、それは百式改の為に開発されていたフルアーマーオプションだったのだ。結局ジェネレーターの出力不足や機体バランスの問題で未だに本格採用されていなかった。それを持ち出してきたという事は、舞もいよいよ形振り構わなくなったということなのだろう。
 あゆのmk−Xもこの狭い空間ではインコムを使うことができず、舞の得意な接近戦を余儀なくされていた。近距離で放たれた炸裂ボルトが機体に傷を付け、ビームサーベルが機体の一部を削り取っていく。
 だが、祐一から見てもこの勝負は舞に不利だった。確かに舞は接近戦においては無類の強さを見せるが、あゆも桁外れたパイロットだ。これが同格の機体であればあゆは舞に押し切られたかもしれないが、mk−Xと百式改では性能に差がありすぎる。百式改は余りにも過敏な反応を見せるために余程の実力者でなければ乗りこなせないが、乗りこなせればワンランク上のZやガブスレイのような機体にも対抗可能である。しかし、mk−Xは2ランクは上の機体であり、パイロットの技量もさほど差が無いとなれば結果は見えている。
 運動性以外は劣る機体を必死に操って舞はmk−Xを押し切ろうと激しくビームサーベルを振るう。その技は祐一でも及ばない領域にあったが、あゆはそれを全て凌いでいる。装甲も厚いので一撃で無力化されることも無い。
 立て続けの連続攻撃を凌がれた舞は一度後ろに飛んで距離をとった。既に息があがり、汗に濡れた髪が額に張り付いている。機体を素早くチェックし、駆動系がボロボロ、ジェネレーターも悲鳴を上げているのを確認するが、今更なので気にも留めない。

「……桁違いに強い。タイヤキのマークだからあゆなんだろうけど」

 正直言って、接近戦でここまで苦戦するとは思っていなかった。市街地のような遮蔽物が多くて自由に動けない場所は自分の独壇場だと自負していただけにこの衝撃は大きかった。もっとも、あゆはあゆで舞の強さに弱音を吐きまくっていたりする。舞が思っていたほどあゆは余裕で対処しているわけではない。

「うぐぅ〜、無茶苦茶速いよ〜」

 相手から感じる気配で舞だとはすぐに分かったのだが、舞の百式改は速過ぎるとあゆは感じていた。実際無茶苦茶に速く動いているのだが、それに対応できるあゆも無茶苦茶である。ただ、mk−Xは百式改と違って一般兵士が使う事を想定されているので百式改ほどの機械応答速度は持っていない。それで舞並みの動きをしているのだから、mk−Xの機体に蓄積されたダメージもまた計り知れないものがあった。
 この時、あゆの近くには祐一の他にも多数の味方がいたのだが、誰もこの戦いには割って入れなかった。動きに付いていけないのだ。

 祐一はこっちはあゆに任せると決めて部隊をまとめようとしたのだが、その時いきなり建物の壁をぶち抜いてビームが部隊を襲った。そんなものが当たる筈も無いのだが、いきなりの攻撃は祐一たちを驚かせた。

「何だ、何が撃ってきた!?」
「少佐、なんか変なMSが出てきました!」

 建物の壁を破って出てきたのは見たことも無い、妙に鈍重そうなMSであった。右手には連装型のビームライフルを持っている。それがエゥーゴの新型機であることを悟った祐一はすぐに味方機を散開させたのだが、途中でなにやらそのMSの様子がおかしいことに気付いた。

「何だあれは? バランサーでもいかれてるのか?」

 その新型機、祐一は知らなかったが、それはエゥーゴが開発している汎用攻撃型MS、ZZガンダムのプロトタイプだった。ここまで追い込まれたことでアナハイムはとうとうこんな代物まで繰り出してきたのだ。ここ以外でもグラナダのあちこちでレイピアやプロトZなどの試作機が現れている。だが、これらはそこそこの性能はあるものの、実用性に欠けるので採用されなかった機体であり、しかもごく少数だ。彼らは出て来た傍からゼク・アインやジムVに包囲されて1機づつ倒されていく運命にある。
 このプロトZZガンダムも例外ではなく、動きが鈍いのを見た祐一は部下に命じて火力を集中し、これをいとも容易く撃破している。試作機を失ったZZ開発計画は遅れをきたすことになってしまったが、そんな事は祐一の知った事ではない。

 

 


 この時、天蓋部で周辺都市からの増援部隊を警戒して配置している部隊を指揮していた名雪は暇そうに宇宙を見上げていた。上空には艦隊が張り付いているので見張りをしなくても敵が来ればすぐに連絡が入るので、ここまで気が抜けてしまっているのだ。

「ふう、暇だよ〜〜」

 眠そうに目を擦る名雪。だがまあ、狭い月都市の地下ではMSの狙撃兵など出番は無いので仕方が無い。既にエゥーゴの守備隊は壊滅したも同じで、名雪たちに挑んでくるものなど居はしない。仮に居たとしても、第二種兵装のゼク・アイン8機と護衛機4機の守りを突破してグラナダに突入など出来るものではないだろう。すでにペガサス級強襲揚陸艦がグラナダに着陸して物資も降ろしている。

 だが、その時いきなり異変が起こった。それまで明瞭に聞こえていた上空の警戒艦との交信が乱れ、レーダー照準がおかしくなった。名雪はそれがすぐにミノフスキー粒子の影響だと察したが、誰が散布したというのだろう。

「ちょっと、勝手にミノフスキー粒子を散布したのは誰?」
「いえ、我々ではありませんよ。イルニードも散布はしていないと思いますが」
「じゃあ上の艦隊って事になるけど、敵でも来たのかな?」

 エゥーゴ艦隊でも現れて迎撃態勢にでも入ったのだろうかと思ったのだが、艦隊にはそれらしい動きはない。ただ、後方に居たティターンズ艦隊がなにやら陣形を横に開いている。まるで攻撃態勢だ。

「……まるでじゃなくて、間違いなく攻撃態勢だよね、あれ」

 何でティターンズだけが攻撃態勢をとっているのか名雪には分からなかったが、すぐにその答えは出た。名雪の見ている前で、いきなりティターンズ艦隊は砲撃を開始したのだ。そう、目の前の友軍に向けて。




機体解説

MSZ−009 プロイトタイプZZガンダム
兵装 ダブルビームライフル
   ハイパービームサーベル兼用ダブルキャノン
<解説>
 Z計画を発展させた新世代MS、ZZガンダム開発計画によって作り上げられた試作機の1つ。2型にはハイメガキャノンまで装備されている。これらの機体のデータをフィードバックしたZZガンダムは驚異的な攻撃力を持つ最強のMSとなる筈で、開発チームからは要塞攻撃用MSとまで揶揄されるほどに過剰な攻撃力を与えられる予定である。
 ただ、祐一たちに試作機を全て破壊されたため、その開発計画が遅れるのは確実となってしまった。エゥーゴ内には本機の計画そのものを疑問視する声もあり、方向性が修正される可能性もある。



プロメテウス砲艦
兵装 プロメテウス艦体砲
   単装砲×3
   連装レーザー機銃×6
<解説>
 ファマス戦役で大口径エネルギー兵器の有用性を確認した連邦軍が1から再設計したプロメテウス砲艦。ファマス戦役で使われた急造艦とは異なり、発射の反動やエネルギーリバースにも耐えられる艦となっている。所謂最後の切り札、もしくは一発逆転用の兵器であり、連邦軍のような金持ちでなければ建造できない贅沢品と言えよう。
 しかし、エゥーゴやアクシズで使われだしているハイパーメガ粒子砲に較べてエネルギー効率では劣るものの、防御手段が存在せず、直進性も高く、破壊力もハイパーメガ粒子砲を遙かに上回るこの砲の価値は大きく、一撃で戦場の流れを変えてしまう事もある。



後書き

ジム改 エゥーゴ壊滅しました。
栞   私が出てないじゃないですか!
ジム改 うむ、出そうと思ったのだが、出すまでも無かった。
栞   これは虐殺です、一方的な破壊と殺戮ですよ!
ジム改 当り前だ。地球圏最大最強の武力集団が全力で地方反乱を制圧しに来たんだぞ。
栞   でも酷いです。エゥーゴの犠牲者は物凄い数ですよ。
ジム改 その代わり、連邦軍は大した犠牲も無い。
栞   ファマス戦役でもここまで酷くは無かったですよね?
ジム改 あの時とは少し事情が異なる。ファマスには優れた指揮官が揃っていて、久瀬中将とサンデッカー代表の元で概ね1つに纏まっていた。
栞   エゥーゴには優れた指揮官はいないんですか?
ジム改 居ない。ブライトやヘンケンは優れてるけど、ファマスの提督には及ばない。
栞   言い切りましたね。
ジム改 所詮は理想だけが先走った反乱軍だからな。しかも企業に逆らえないし。そのせいで派閥争いも激しいし、意見も纏まらない。
栞   舞さんも大変ですね。