第41章  反撃の狼煙




 地球で消耗戦が行われている頃になってくると、宇宙の状況はだんだんと落ち着きを取り戻してきた。元々数では連邦の方がまだまだ圧倒的に多く、初期の混乱からさえ立ち直ればティターンズに対抗するのは十分可能なのだ。既にリビックの主力艦隊はサイド1でルナツーのティターンズ主力艦隊と睨みあいを続けており、お互いに迂闊に動けない状態を作り上げている。
 この状況を最大限に利用する為に、秋子は多少の無理を承知で艦隊をコンペイトウに送ることにした。ここを攻略する事が出来ればサイド5の後方は安全地帯となり、ここに戦力を置く事でジオン共和国や月面の双方に圧力を加える事が出来るようになる。また恒久要塞でもあるので、環月方面艦隊司令部などとは異なり、孤立しても暫く持ちこたえる事が可能なのだ。ここを放置しておけば、ティターンズはここの戦力を増強して拠点化し、サイド5に対する包囲を強化してくるだろう。
 だが、問題は人材だった。極端な話、戦力は無理をすれば十分すぎる数を揃えることが出来る。サイド5にはそれだけの力がある。確かに戦力を大幅に磨り減らされているが、未だに稼動艦艇は60隻を数えるのだ。
 ただ、これらの全てをコンペイトウに送る事は出来ない。現在秋子にはサイド2、サイド4からの避難民を受け入れるための船団を運用する責任もあり、こちらにも護衛部隊を付けなくてはならないからだ。特にサイド4は急がなくてはならない。サイド6がティターンズに降伏した以上、同じラグランジュポイント周辺を回っているサイド4はティターンズの攻撃対象になったと見ていいからだ。
 サイド4守備隊とサイド4行政府はティターンズに対して徹底抗戦を叫んではいるが、サイド4守備隊は艦艇12隻、MS36機を保有するだけの弱小部隊でしかない。哨戒用の航宙機や作業用のボールなどは充実しているが、それらは現代戦では2線級装備でしかない。所詮は警備部隊なのだ。
 サイド4は各サイドの中でも再建の進んでいたサイドで、住人は1億にも達している。サイド5に次ぐ規模の住人数だ。その多くはサイド3から仕事を求めて渡ってきた移民で、居住者の半数近くが宇宙で掃宙やコロニー再建事業に従事している。移民当初は彼らはサイド3出身者ということで連邦政府はおろか、先の大戦で生き残ったコロニー市民達からも差別されていたが、彼らはそれに屈せずに頑張り続け、今ではサイド4市民として普通に受け入れられていたのだが、やっと生活が軌道に乗ってきた矢先にこのような事件が起きたという事で、運命というものに皮肉な感想を抱かずに入られなかった。

 秋子はサイド2からの避難船団には主力艦隊からも戦力を割いてもらうことで対処し、サイド4の方は自分の手持ち部隊だけで対処する事にした。ただし数を頼む事は出来ないので、秋子はこの護衛部隊にみさきの任務部隊を投入している。数は少ないが浩平や瑞佳、澪などの超エースを多数抱える歴戦の部隊であり、健在な部隊の中でも最強の一角を占めている部隊だ。
 このみさき隊を投入する事には艦隊内部からも異論があったのだが、みさきでなければ20隻は必要になるという現実を前にしては沈黙するしかなかった。勿論秋子とてできればみさきはコンペイトウに向けたかったのだが、手当てする戦力が無いのだからどうしようもない。

 かくしてみさきの任務部隊が外れたる事になった。そしてオスマイヤーやバーク、シドレといった提督たちは部隊の再建と各地から集結してきているボロボロの敗残部隊の再編成に追われていてそれどころではない。秋子が出撃するのは論外だ。実は一度口にしたのだが、部下全員の猛反対を受けて渋々取り下げている。この混沌とした情勢で秋子が指揮系統の中枢から抜けるのは許容できない事なので仕方ないのだが。
 これ等の事情を踏まえて、秋子は斉藤を中佐から大佐に昇進させ、攻略部隊の指揮を取らせる事にした。これは他に人が居ないという事情もあって誰も反対意見を出さなかったという稀有な人事となったが、言い換えるならそれほどまでに追い詰められていたという事である。
 攻略部隊にはノルマンディーを旗艦とする戦艦2隻、空母2隻、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、輸送艦6隻、揚陸艦2隻が参加する事になり、MS隊指揮官として祐一が加わる事になる。
 祐一の指揮下には天野大隊、久瀬大隊と再編成の完了している2個大隊がつく。更に中隊規模で多数の部隊が参加しており、数はかなり充実している。パイロットにはサイド5駐留軍の解散に伴って祐一の指揮下に組み込まれた七瀬と一弥をはじめ、名雪やあゆ、中崎、栞、葉子といったエースパイロット達が揃っている。MSも一部の試作機や超高級機を除けばゼク・アインとジムVで統一されており、名実共に打撃部隊と呼びうる戦力を誇っている。





 このコンペイトウ攻略部隊は指揮官の名をとって斉藤艦隊と呼ばれる事になり、斉藤は祐一や副長と早速部隊の訓練計画と補給計画の立案に入った。
 訓練計画は余り時間をかけてはいられないが、寄せ集めの急造部隊なので呼吸を合わせるためにも訓練が必要不可欠なのだ。部隊とはただ一箇所に集めれば出来るものではない。また艦隊は大量の物資を消耗する。それらの物資を調達し、輸送艦に載せて戦場まで運ばなくてはならないのだ。補給が切れれば戦闘は出来ない。
 MS部隊の運用は祐一に任されており、祐一は久瀬と天野、名雪と栞、七瀬を交えてMS隊の訓練を行いつつ、どうやってコンペイトウを攻略するかを話し合っていた。

「コンペイトウというか、まあソロモンだな。ソロモンには10の宇宙港があって、このうちのどれかを制圧して海兵隊を中に入れてしまうのが一番手っ取り早いんだな」

 祐一はコンペイトウの構造図を指で叩きながら全員の顔を見て言った。コンペイトウは自軍の基地なので内部の地図くらいは簡単に手に入る。だが問題なのは手元の戦力の少なさだ。1年戦争の星一号作戦では何百隻の艦艇と4千とも5千とも言われるMSやボール、航宙機が投入されたのだが、今回は戦闘艦艇22隻、MSや航宙機200機ほどに過ぎない。敵の戦力がどれだけ増えているか分からないのが痛い所だが、こっちと似たようなものだと推測している。元々の戦力は戦艦2隻、巡洋艦5隻、駆逐艦8隻の駐留艦隊が居る筈で、ここから巡洋艦2隻がこちらに投降して来ている。だから最低でもこれだけの部隊はいるということだ。せめてもの救いは全て旧式艦だということだろうか。
 この祐一の不安に対して、久瀬が自身の考えを提示してきた。

「コンペイトウの部隊は逃げ込んだ教導団残党のゼク・アインを除けばジムUとハイザック、ジム改の筈だから、MS戦では優位に立てると思う。ここは下手な小細工はせず、正面から正攻法で行くのが良いと思うんだが」
「正攻法か。まあ確実に勝てる手だが、こっちの消耗が大きくなったら後に響くぞ?」

 祐一はここで大きな損害を出す事を懸念していた。既に大きな損害を出しているところに更に損害が積み重なれば建て直しにどれだけ掛かるか分かったものではない。しかもこの斉藤艦隊は事実上秋子の持つ切り札なのだ。失えば補充は効かないのだ。
 祐一の言葉に久瀬は考え込んでしまった。こちらの損害を抑えつつ、敵に大打撃を与えるなどという虫のいい話が通じるのだろうかと考えているのだ。
 あれもが考え込んでしまった中で、栞が祐一に質問をしてきた。

「祐一さん、私の部隊は使えないんですか?」
「今回は駄目だ。使おうにも弾薬が無い」
「あれが使えれば簡単に敵を叩けるんですけどねえ」
「そりゃ、使えるならとっくに部隊に組み込んでるよ。使えないから悩んでるんだ」
「それじゃあ、サイレンを纏めて一箇所に叩き付けるのはどうです? あゆさんと七瀬さんが好き放題に暴れまわれば相当なダメージが与えられると思いますけど」
「……私はあの娘並みの化け物扱いなわけ?」

 あゆと同レベル扱いされた七瀬が不満そうな表情になる。あゆの強さは七瀬から見ても強いと思わせるレベルに達しており、緊急展開軍の中で彼女と戦えるのはもう七瀬と祐一の2人くらいになってしまっている。
 因みに、七瀬は自分があゆほど強くは無いと思っているので、あゆ並みと言われて心外だと感じていたりする。まあ周囲の評価はどっちも化け物なのだが。なお、みさきは比較対象外である。
 この栞の提案は祐一に考える価値があると思わせた。確かにあゆや七瀬、栞、一弥、中崎、葉子を纏めて投入すればかなりの戦果が見込めるはずだ。もしかしたらこの最初の激突で敵に致命的な打撃を与える事が出来るかもしれない。最初の衝突で敵を減らす事が出来れば後が随分楽になるからだ。

「核を大量に使えりゃ楽なんだけど、さすがにそうもいかんよな。ここは栞の案を取るか」
「じゃあ、サイレンを編成するの?」
「いや、もう再編成は終わってるよ。俺がアグレッサー部隊代わりに使おうと思って栞たちを纏めておいた。本当は折原たちも入ってるんだけどな」
「じゃあ、それを相沢君が率いて敵に突っ込むのね?」

 七瀬のこの問い掛けに祐一はそんなわけ無いだろと言いたそうに七瀬を睨んだ。

「あのな、俺がサイレンを連れて動けるわけ無いだろ。一応MS隊隊長なんだから」
「何でMS隊司令じゃないのかしら」
「MS隊司令が必要なほど大兵力じゃないからな。それに俺は、シアンさんみたいに後方から指揮を取るのは性に合わないさ」
「趣味で指揮されちゃたまらないけど、まあいいか」

 祐一がこういう奴だというのはこれまでの付き合いで分かっているので、七瀬は呆れはしても怒りはしなかった。他の者達も祐一らしいと頷いているくらいで、むしろ祐一が後方から指揮を取るといった場合の方が我が耳を疑っただろう。

「俺は直属の中隊を率いて陣頭指揮をするさ。サイレンは七瀬に任せる」
「まあ良いけどさ」
「天野はいつも通り好きに動いてくれれば良いだろ。お前の隊を叩くには3倍の数がいるし」
「……そう言われると、なんだか複雑です」
「久瀬は状況に応じて戦線参加してくれ。俺が何か言うよりその方が良いだろうし」
「自分の仕事を投げ捨ててないかい?」

 祐一の仕事は任せたという言い方に久瀬がシアンに向けていたような責める眼差しを向ける。別に完璧主義者ではないが、怠け者を見ると許せない性質なのだ。ついでに言うと無能な上官に使われるのも我慢できないタイプである。幸いにして彼は今の所、無能な上官とは巡りあっていないのだが、仕事を部下に押し付けるタイプの上官には恵まれているせいで苦労が耐えない。しかも真面目人間なので押し付けられた仕事でも手を抜く事が出来ない。
 この辺りはおなじ真面目系でも、付き合いの長い天野や香里などはもっと上手くやっている。久瀬も付き合いが長くなればそのうち慣れてくるのかも知れないが、その前に倒れてしまうかもしれない。

 これ等の祐一の指示に対して、それまで口を開かなかった名雪が資料を手に口を挟んできた。名雪は緊急展開軍のMS部隊にあって階級こそ低いものの、その影響力は絶大なものがある。秋子の娘で祐一の副官というのもあるが、この癖の強いメンバーを束ねる不思議な力強さがあるのだ。

「でも祐一、情報部からの報告だと、コンペイトウに入ってる教導団の戦力は巡洋艦4隻、ゼク・アイン28機だってあるよ。教導団はクリスタル・スノーと並ぶ精鋭部隊だって話だから、美汐ちゃんでもただじゃ済まないと思うんだけど」
「むう、28機も居るのか。そいつらは七瀬に任せた方が良いかな」
「あと、未確認情報だけど月から脱出したティターンズの艦隊の一部がコンペイトウに逃げ込んでるっていう情報もあるから、可変MSが居る可能性もあるけど」

 名雪の報告を聞いて、祐一を含む全員が露骨に嫌そうな顔をした。可変MS、MAの存在は祐一たちにとってもっとも頭の痛い問題のひとつだからだ。ティターンズが実戦配備してきたガブスレイ、ギャプラン、メッサーラといった機体群はいずれも恐ろしい機動性と作戦行動半径、従来機を圧倒する攻撃力を併せ持っている。
 連邦宇宙軍は第1艦隊がガブスレイを装備しているだけで、サイド5には可変機は存在しない。これは秋子の方針で、1機のガブスレイより3機のジムVというのがここの考えになっているからだ。実際、これ等の可変機はアレキサンドリア級などの第2世代艦以降の艦艇でしか運用できず、未だに主力を占めるサラミス級では使えないという欠点がある。また整備スペースの問題で駆逐艦にも搭載する事は出来ない。
 第1艦隊から送られてきた運用レポートにもガブスレイの稼働率はラザルス級正規空母で運用してさえ60パーセント程度であり、実戦で使うのは困難であるということが書かれている。これ等のデータも可変機の採用を困難な物へと変えてしまった。
 この件に関しては秋子曰く。

「いざという時に動かないMSに何の意味がありますか」

 という事らしい。実戦経験が豊富な秋子には、多少性能で劣っていても信頼性がある兵器の方が頼りがいがあるという事なのだろう。祐一が超高級機を余り使わないのもこの辺りに理由がある。
 だが、ガブスレイ1機はネモ4機に相当する戦力だという。これは自分達が現在少数生産を進めているガンダムmk−Xやゼク・ツヴァイに匹敵する戦闘力だ。メッサーラやギャプランはこれを超えるとさえ言われている。今回斉藤艦隊にはガンダムmk−Xが2機、ゼク・ツヴァイ4機が配備されているが、これ等の可変機が多数居ると対処しきれないかもしれない。
 渋い表情で名雪の話を聞いた祐一は、みさきたちが来れない事を今更ながらに残念がった。みさきや瑞佳ならばジムVでこれ等の可変機を撃破することも可能だからだ。みさきはあのシアンさえ勝てない強さを誇り、瑞佳は七瀬が自分より強いと言い切るNTパイロットである。彼女達が居てくれたらこの上なく心強かっただろうに。

「まあ、無いもの強請りをしてもはじまらないか。とりあえず、可変機が居たらそっちもサイレンに任せよう」
「相沢君。面倒なのは全部こっちに押し付けるつもり?」
「それがサイレンの仕事だろ?」

 七瀬の不満げな声に不思議そうに祐一が応じ、七瀬はグッと唸ってしまった。まさにサイレンとは面倒な敵を相手にするために編成された部隊なのだから、厄介な敵を祐一が押し付けてくるのはおかしな事ではない。
 反論できずに黙ってしまった七瀬を見て名雪がクスクスと小さな声で笑った後、助け舟を出してきた。

「祐一、何でもかんでもサイレンに押し付けるのは良くないよ」
「でもなあ。そういう事させるために再編成したんだぞ」
「それはそうだけど、祐一だって強いんだから、ね?」
「……月面で可変機撃墜3機を記録してるお前に言われたくは無いんだが」

 ゼク・アインのビームスマートガンは連射が出来ない代わりに超射程・大威力を誇っている。これが美貌の死神、水瀬名雪の天性の射撃能力で運用された時、それはふざけた攻撃力を生み出してしまう。当たればどんな機体も一撃で破壊してしまうこのスマートガンを使って、名雪はグラナダからの対空射撃で3機のメッサーラやガブスレイを叩き落していたのである。この損害はティターンズにとって物凄く大きな物であったに違いない。
 この時の戦果で名雪は現在、サイド5の可変機撃墜王となっている。実は何気に凄いパイロットなのだ。

 この辺りのごちゃごちゃとした問題を名雪が調整した結果、コンペイトウ攻略部隊の先鋒はこれまでどおり天野大隊48機が勤め、七瀬率いるサイレン6機は天野と一緒に突入し、敵部隊を切り崩す最初の一撃を見舞う役を与えられた。結局一番危険な任務が最強の精鋭部隊に与えられたわけだ。
 これに続いて祐一がクリスタル・スノーで編成された直属の中隊を中心に5個MS中隊60機を率いる。これはまだ大隊レベルで再編成されておらず、中隊単位で動かすしかない部隊の集まりである。
 そして最後尾に着くのが艦隊の露払いも兼ねている久瀬大隊36機で、訓練度が足りないという理由で今回は後方に下げられている。まだ編成されたばかりの寄せ集めの1個大隊なので、訓練をしっかり行う余裕が無かったのだ。
 この3段構えの編成で祐一たちはコンペイトウに挑戦しようとしていた。かつて行われた星一号作戦に較べれば悲しくなるほどに少ない戦力であるが、敵もかつての宇宙機動軍主力のような大軍ではないので、勝ち目はそれなりにあると思われていた。

 もっとも、祐一たちの勝ち目はあるだろうという予想は余りにも控えめに過ぎたかもしれない。彼らはいずれも1年戦争やファマス戦役で功績を挙げた歴戦の指揮官やパイロットであり、その人材の豊富さでは並ぶ部隊は存在しない。教導団は確かに強い。エイノーは確かに歴戦の指揮官だ。だが、そんな彼らをして霞ませてしまうほどにこの斉藤艦隊の陣容は凄かったのだ。
 斉藤艦隊の主要メンバーの経歴を上げれば、逃げ出す部隊の方が多いだろう顔ぶれといえる。

 斉藤直樹大佐は1年戦争時代から実戦経験を重ねているベテランの艦隊指揮官で、ファマス戦役においては独立部隊を纏めて連邦軍と幾度も戦い、その都度多大な戦果を上げてきた。ファマス戦役ではもっとも活躍した指揮官の1人に数えられている。

 相沢祐一少佐も1年戦争から戦い続けているパイロットで、パイロットとしての戦闘経験は七瀬と並んで最高を誇る。撃墜王と言われるほどに有名ではないが、その実力はあのジョニー・ライデンとも対等に戦えるほどに物凄い。

 美貌の死神と呼ばれる水瀬名雪少尉はファマス戦役時代から一貫して祐一の補佐を続ける女性パイロット。狙撃手としては天才で、アムロやシアン、あゆといった最強レベルのパイロット達からさえ狙われるのを恐れられている。パイロット仲間では数少ない常識人で、誰もが逆らえない怒らすと怖い女性である。

 血塗られた戦乙女と呼ばれる七瀬留美大尉は元ジオン軍人で、数奇な運命を経て秋子の指揮下に加わっている。オールドタイプであるが、その実力は舞や茜、瑞佳とさえ互角と言われるほどに強い。指揮能力もあり、シアンにサイレンの副長に大抜擢されている。

 天駆けるうぐぅと呼ばれる月宮あゆ少尉は間違いなくサイド5で最高のパイロットの1人である。その実力はアムロやシアンと並ぶとされており、1対1なら七瀬や瑞佳、祐一も勝てない。自分の異名がカッコ良くないと不満を漏らしている。

 戦場の魔術師と呼ばれる久瀬隆之大尉はファマス戦役最高のMS隊指揮官と見られている。実戦の経験は必ずしも多い訳ではないが、常に圧倒的多数の敵を相手に戦い抜き、3倍の敵を支えられるとまで言われている。

 天野美汐大尉は祐一と同じくクリスタル・スノーを率いた4人の大隊長の1人で、4人の中では最も影が薄いのが幸いしてファマス戦役後も秋子の元に留まっていられた。MS隊指揮官として久瀬や北川、佐祐理には及ばないが一流である。実は退魔師という先祖代々の家業の仕事も受け継いでいるが、それが使用されるのは祐一たちへのお仕置きだったりする。祐一の仲間の中では一番規律に煩い人物。

 有名どころだけでもこれだけの顔ぶれである。他にも無名とはいえ栞や中崎、葉子、一弥といったサイレンのメンバーも恐ろしいまでの実力を持っている。特に葉子はA級シェイドであり、祐一と対等に戦えるほどに強い。
 これだけの人材を一箇所で集中的に運用している部隊は他には無いだろう。そして指揮下の部隊も3割ほどが教官レベルの熟練パイロットで占められるという豪華さだ。相手に教導団が加わっていると言っても恐れる必要は無い。
 むしろこの部隊の最大の懸念は、敵を招き寄せかねないということだ。これだけの部隊ともなれば当然注意を引く。出撃すれば直ぐにでもティターンズやエゥーゴが嗅ぎ付けて部隊を派遣してくる可能性はあるのだ。それらの部隊の動きが今の膠着した状態を動かす起爆剤ともなりかねないし、それらとの戦闘で大きな損害を受ける恐れもある。
 もっとも、エゥーゴがこの部隊と激突したら残り僅かな残存部隊を失う愚挙となる可能性が高いので、可能性があるとすればティターンズだろうか。それでもこの部隊に勝ちたかったら正規1個艦隊くらいは持ってくる必要があるだろうが。
 ただ、犠牲を恐れるというのは祐一たちも同じである。祐一たちはこれまでの戦いでは犠牲をある程度許容する事が可能であったのだが、今回は犠牲を最小限に抑えて勝つことが要求されている。斉藤が指揮官なのも、彼ならば多くの兵を連れ帰ってくれるだろうという秋子の期待の表れなのだ。





 今の話し合いも如何に犠牲を少なくして勝つかをテーマにして行われており、ファマス戦役時代の経験を生かして久瀬がさまざまな戦術を提案している。何と言っても彼はこういう状況で戦い抜いてきた無茶な戦いのエキスパートなのだ。
 そんな彼らからふと視線を天井の明かりに向けた祐一は、ここに来る前に秋子に提案し、却下された進言の事を思い出していた。秋子の執務室に赴いた祐一は、コンペイトウ攻略作戦に連邦軍の誇る対要塞攻撃用兵器、ソーラーシステムUの使用許可を求めていたのである。
 ソーラーシステムは別名アルキメデス・ミラーとも呼ばれ、何十万枚という巨大なアルミ蒸着ミラーを展開して太陽光を一点に集めるという単純な原理の兵器だ。だが、単純というのは恐ろしい。ビーム砲やレーザー砲、誘導弾、各種電波、放射線を利用した量子兵器などは確かに強力であるが、いずれも防御可能な兵器である。ビームはやレーザーは拡散したり、曲げればいい。誘導弾は妨害すればいい。電磁波兵器は遮蔽をしっかりすれば恐れる必要は無い。量子兵器などは放射線抵抗の大きい複合装甲を使用すれば対抗できる。矛と盾は常に存在する物であり、工夫を凝らした武器ほど相手の工夫に敗れ去ってしまう。
 厄介と言えるのは核兵器であるが、これとて破壊範囲は半径100メートルほどの範囲を巻き込むに過ぎない。そこから離れれば放射線や電磁パルスを受けるくらいで、こんなものは太陽から常時降り注いでいる放射線や直射日光に較べれば恐れるような物ではない。宇宙空間戦闘はお互いの距離が物凄く離れており、泊地で密集状態で停泊しているのでもない限り核攻撃でも艦艇1〜2隻を吹き飛ばす程度の武器でしかないのだ。大気中なら強烈な熱を伴った爆風と衝撃波が荒れ狂うのだが、宇宙では衝撃波はともかく、熱は赤外線なので遠くまで届かない。
 だが、ソーラーシステムにはそういった防御手段が存在しない。これはただ太陽光を反射しているだけであり、防御手段は装甲で受けるしかない。もっともスペースコロニーさえ数十秒の照射で気化してしまうという代物を防げるような装甲など存在する筈が無い。戦略核など玩具としか思えないような威力なのだ。
 星一号作戦で使用されたソーラーシステムはソロモンの第6宇宙港をそこに居た艦隊もろとも消滅させ、更に迎撃に出てきていたグワラン艦隊も壊滅状態に追い込んでいる。コストパフォーマンスを考えれば狙われ易く、再充電に時間が掛かるコロニーレーザーより有効かもしれないのだ。何しろこっちは輸送艦で運んで数時間で展開、何回か照射して目標を焼き払った後に輸送艦に積み直して逃げ出す事ができるからだ。逃げる暇が惜しければ破壊してしまってもいい。所詮はただのアルミ蒸着板なので、単価自体は大したものでもない。ソーラーシステムはソロモンで半数を破壊されているが、レビルがソロモンから艦隊を出撃させた時には補充を受け取って輸送艦に積み込んでア・バオア・クー戦に持っていっているくらいだ。

 ソーラーシステムUはソーラーシステムの制御技術を大幅に改善し、数万枚で同等以上の威力を出せるようになっている。これは移動、展開、撤収に掛かる時間がこれまでより遙かに短縮できる事を意味しており、まさに切り札と呼べる代物になっているのだ。これを使えればコンペイトウ攻略は一気に楽になるに違いないのだが、秋子はこれの使用を許可しなかった。

「駄目です」
「何でですか?」
「理由は2つあります。1つは単純にそれだけの輸送艦が揃えられません。現在出せる輸送艦は各地からの兵力や物資、民間人の輸送に出払っています。コンペイトウにそれだけの数は割けません」
「もう1つはなんです?」
「ソーラーシステムUは来るべきルナツー攻略戦の切り札です。出来れば壊されたくないのですよ。再生産は簡単ですが、今はそちらに物資と設備を持っていかれたくありませんから」

 ルナツーはサイド7攻略の拠点となる巨大な要塞だ。逆に言うならばここさえ守ればティターンズの本拠地であるグリプスの安泰は保たれる事になる。大きく迂回してサイド7を直撃するという手もあるにはあるが、もし負けたら退路を断たれて殲滅される事にもなりかねない。一足飛びの攻略作戦とはギャンブルの様子がかなり強い作戦なのだ。
 秋子としては難攻不落と名高いルナツーの攻略にソーラーシステムUを使うつもりでいたので、出来ればコンペイトウで破壊される危険に晒したくは無かったのだ。
 ルナツー攻略のためにソーラーシステムUを温存したいという秋子の考えは分からないでもなかったのだが、祐一としては戦力を不足を補う為にも使わせて欲しいと食い下がった。この戦力では下手をすれば相打ちになってしまいかねないと祐一は危惧したのだ。
 だが、結局秋子は首を縦には振らず、祐一はソーラーシステムU抜きでコンペイトウに挑戦する事になってしまった。少しでも味方の犠牲を少なくしたかった祐一は確実に勝てる武器を使って一気に勝負を決めたかったのであるが、こうなっては仕方が無く、仲間を集めてどうやって要塞を攻略するかを話し合う事にしたのである。


 ここでソーラーシステムUを使うと言えればどれだけ楽になるか。そう思うと祐一は明子を説得できなかった事を悔やんでしまう。その悔しさが顔に出ていたのを栞が気付いてしまい、どうしたのかと聞いてきた。

「どうしました祐一さん。怖い顔して?」
「む、俺なんか変な顔してたか?」
「はい。むっつりして、凄く不満そうでした」

 栞に指摘された事で祐一は自分が知らず知らずの内に碇を顔に出していたのだと知り、慌てていつもの曖昧な笑みを浮かべて誤魔化した。
最近ではこういう苛立ちが表に出ることが多くなってきている。秋子が言うには指揮官らしくなってきたかららしいが、シアンはそんな素振りを見せた事は無かった事を聞くと、秋子は笑って教えてくれた。

「それは経験と覚悟の差ですよ。祐一さんはこれまで気楽な仕事をやってきたということです」
「そんなつもりは無いんですけど」
「機動艦隊時代のシアンさんに較べたら、随分と気楽ですよ。それに、シアンさんも愚痴を言ったり苛立ちを見せる事はありました。ただ、それを部下には見せていなかっただけです」
「そう、だったんですか?」
「それが指揮官というものです。指揮官の不安は部下に伝染しますから、祐一さんも気を付けて下さいね。吐き出したくなったら私にぶつけるようにしてください」
「秋子さんに?」
「部下の不満を受け止めるのも上官の給料の内でしてね。私以外なら、名雪くらいになら弱さを見せてもいいでしょうけどね」

 どんなに不満を持っていても、指揮官はそれを部下の前で見せてはならない。指揮官が不満を抱きながら作戦を遂行しているなどという事が知られれば部隊全体の指揮に関わってしまう。ファマス戦役時代の大隊長の頃ならば作戦に不満を漏らす事も許されたが、部隊全体を纏める指揮官には許されないのだ。
 どちらかというと自分の感情に素直に動く傾向のある祐一にはきついアドバイスであったが、祐一にはこれを受け入れる義務と責任があった。おかげで祐一は色々と溜め込むようになってしまっているのだが、今のところ何とか自分を抑えていられるが、それも何時まで持つかは怪しい所であった。






 この出撃の決定によってフォスターU周辺では斉藤艦隊の猛訓練が連日行われる事になった。フォスターUに所属する部隊の最精鋭部隊といえるこの艦隊の訓練の様子は各地から集ってきた通常の連邦部隊の将兵を唖然とさせるに足るだけの物で、見事な編隊行動の様は同じ連邦軍なのかと彼らに疑いを抱かせるほどに見事で、小隊、中隊単位での連携行動は信じ難いほどの連携の良さを見せ付けている。
 この辺りの集団戦闘能力は機動艦隊の頃から続く水瀬艦隊のお家芸で、大隊レベルでの戦闘訓練を執拗に繰り返す事で過剰とも言われるほどの連携の良さを作り上げている。特に天野大隊の動きは一線を画しており、宇宙軍最強のMS部隊という呼び名が正しい事を知らしめている。
 特に衆目を集めたのが模擬戦闘で、連邦軍の中でも良く知られている水瀬艦隊独特の3機一組での編隊戦闘機動を見た諸部隊のパイロット達はどうしてあんな動きをして連携を保てるのかと首を捻っていた。
 また、この訓練の場で天野大隊が採用している4機1個小隊制もここで始めてお披露目されたとも言える。この場で天野大隊だけが2機1個分隊を最小単位とした新しい編成を採用しており、テストに励んでいたのである。既にグラナダ侵攻作戦で実戦での有効性も証明されており、他部隊も徐々にこの形に改変されていく事になると見られている。ただ、現在の天野大隊は3個中隊を維持している為に48機という大兵力になっており、指揮系統に掛かる負担が大き過ぎるという問題が発生しており、中隊編成を4個小隊から3個小隊12機に改変する事も検討されていた。

 祐一たちはこの訓練で新規に編入されている隊員の技量向上と、これまでジムUやハイザックを使っていたパイロットの機種転換を進めていたが、合わせて模擬戦闘も繰り返していた。この仮想敵部隊には怪我もあってサイド5防衛のために残留する北川の部隊が当てられており、北川の指揮の下で攻略部隊のMS隊を散々に苦しめていた。この部隊には香里とみさおが含まれており、敵に回るとかなり厄介な相手でもある。北川自身は先のリーフとの戦闘での無理を周囲から窘められた事もあり、後方の情報収集艦からMS部隊の指揮を取っている。
 なお、天野大隊は強すぎるということで今回の訓練からは外されている。

 北川の指揮は防御重視の佐祐理や久瀬に較べると攻撃重視型であり、また小数部隊を使う戦闘にも長けている。これ等の特徴は北川をバランスの良い指揮官としており、今回の敵役として存分に腕を振るってくれていた。
 もっとも、北川に存分に腕を振るわれた祐一たちはたまった物ではなかった。北川は最初から久瀬とサイレンの相手を避けて通常部隊を狙い続け、少数部隊を動かして各所で戦闘を発生させて指揮系統を圧迫する作戦に出てきた。
 これに対して祐一は部下を掌握しようと躍起になったのだが、これは流石に指揮能力の限界を超えていた。また、久瀬の大隊もまだまだ久瀬の指揮に慣れておらず、戦闘行動中に部隊の動きがしばしば乱れていた。祐一の部隊は言うまでも無い。
 そして艦隊の直衛機もまた未熟振りを露呈してしまっている。相手が悪かったという言い訳も出来るだろうが、みさおを含む第2中隊の攻撃を受け、簡単に突破を許してしまっているのだ。

 結局、指揮官が良くても急造部隊では数ほどの戦力にはならないということだ。これ等の問題点を再確認した祐一は更なる訓練を課してパイロット連中からブーイングの嵐を受けることになる。
 しかしまあ、グラナダ侵攻前から編成されていた北川大隊を相手にして急造のコンペイトウ攻略部隊が引っ掻き回されたのは仕方が無いと同情する者も多い。この部隊に対抗できたはずの天野大隊は高見の見物をしていたので、北川大隊に対抗できる部隊はなかったのだから。






 この秋子のコンペイトウ攻略作戦は直ぐにジャミトフの知るところとなった。どの勢力も敵の情報収集には余念が無く、相手が大規模な作戦の準備を進めていれば直ぐに察知されたのである。奇襲など成功すると思う方が間違っている。
 この報せを受けたジャミトフはグリプスの司令部にあって不機嫌そうに呻いた。

「そうか、水瀬が動くか」
「どうされますか閣下。コンペイトウに救援を出すなら、急ぎませんと」

 実戦部隊の総指揮を取るバスク中将はジャミトフに援軍の出撃を提案した。彼は反乱前は大佐であったのだが、決起に伴ってジャミトフから中将に任じられていた。ジャミトフはバスクの忠誠心はともかく能力は必ずしも頼りにしていたわけではないのだが、反乱軍という事情もあって忠誠面では疑う必要の無いバスクに実戦部隊の指揮を任せるしかなかったのだ。
 この男、実戦部隊を任せればそれなりに働いてくれる。恐らく連邦軍の第一線級の指揮官達とぶつかっても簡単に倒される事は無いだろう。だが政治的な才能は欠如しているようで、物事は全て武力で解決できると考えている節がある。おかげでジャミトフは政治的な問題を全て自分が片付けなくてはならなかったのだ。

「簡単に言ってくれるなバスク。艦隊の主力はルナツーから動かせんのだぞ」
「ですが、コンペイトウは月面とサイド1への牽制には最適です。失えば色々と痛いのでは?」
「それは分かっている。だが何処から援軍を工面するのだ? 相手が水瀬では生半可な部隊では勝てん」

 秋子率いる緊急展開軍の強さは凄まじい。同数でぶつかったらまず間違いなく敗北するだろう。そして今のティターンズには緊急展開軍の部隊を圧倒できるだけの戦力を割く余裕は無い。あるならリーフが叩いたフォスターUをとっくに攻略している。リーフが撤退した後のフォスターUは戦闘力を喪失しており、帰還してきた緊急展開軍主力もボロボロの状態で到底戦う事など出来なかったのだから。
 ジャミトフはフォスターUで緊急展開軍が少しずつ回復し、更に各地から敗残兵が大量に流れ込んで再編成されているのを歯噛みして見ている事しか出来なかったのである。それもこれもサイド1にリビックがいるせいなのだが、今の所ジャミトフにはリビックを倒す妙案は無い。サイド1とサイド5の生産力は戦時体制への移行が進んでおり、軍需物資の生産を始めているのも頭の痛いところだ。せっかくフォスターUの生産設備を叩いても、これでは連邦軍はやがて動けるようになってしまう。
 出来るならジャミトフもコンペイトウを救いたいのだが、バスクには戦力の当てがあるというのだろうか。その事をジャミトフが問うと、バスクはリーフの存在を挙げた。

「リーフだと。だが奴らにそれほどの戦力があるのか?」
「はい。フォスターUとサイド6で損害を受けてはいますが、まだ4個戦隊程度の戦力は動かせる筈です」
「だが、あの藤田浩之に借りを作ると、後が面倒だぞ」
「その点は大丈夫でしょう。奴とて我らが倒れれば自分たちの身が危うい事くらいは承知しているでしょうから。それに、奴らの戦力も多少は殺いでおきませんと、後で厄介になります」

 そう言ってバスクは自身ありげに笑い出したが、ジャミトフはバスクの自身を素直に信じる事は出来なかった。彼の知る限り、藤田博之という男はそう簡単にこちらの掌で踊るような男ではない。時代を代表するほど偉大な男ではないが、時代の波を泳ぎきるくらいの才幹は持っている男なのだ。

「こちらでも手を回しておく必要があるか」

 大笑いしているバスクを無視して、ジャミトフは今後の予定に付いて幾つかの事を考え、部下に指示を出す事にした。コンペイトウのエイノーには無理をせず、勝てないと考えればコンペイトウを放棄してグリプスまで退くようにとも通達を出している。コンペイトウは大事な拠点ではあるが、勇将ブライアン・エイノーの指揮能力と人望はそれに勝る価値がある。ただでさえ人材不足のジャミトフにしてみれば、ここで秋子やリビックとさえ戦う事が出来るエイノーを失う事だけは避けたかったのだ。






 この2日後、グリプスからジャマイカン中佐率いる巡洋艦4隻、駆逐艦10隻の艦隊が出撃する事になる。これにはリーフから提供させた巡洋艦1隻、駆逐艦4隻が含まれている。バスクとしてはジャマイカンに月面での敗戦の雪辱をさせてやりたいという気持ちもあっての人事であったのだが、ジャマイカンを指揮官に仰ぐ羽目になったアレキサンドリアのガディ・ギンゼー中佐は己が運命の不条理を多いに呪ったものであった。彼はジャマイカンでは役不足も甚だしい事を良く知っていたのだ。
 ただ、MS隊にはそれなりに満足できる陣容が揃っているのが救いだったろう。主力は相変わらずハイザックとマラサイであるが、リーフは新鋭機のスティンガーを装備している。更に精鋭ということで知られているヤザン・ゲーブル大尉の中隊もギャプランとバーザムを装備して参加しており、敵の人外魔境なエースパイロット達への対抗馬として期待されている。また、リーフのパイロットにもエース級が幾人か参加していた。リーフ部隊の指揮官は元ティターンズであった長瀬源三郎司令である。
 ガディはこの戦力ならば敵に一矢報いる事も可能だろうと考えていたが、まさか敵がゼク・アインとジムVでMS隊を固め、更に次世代量産型機の候補であるストライカーまで持ってきていようとは流石に想像できないでいた。ジムVはともかく、ゼク・アインは生産ラインがまだ復旧していない現状では貴重品であり、こんなに一箇所に集中配備して遠征軍に使わせるとは思えなかったのだ。

 こうして、久しぶりに水瀬艦隊とティターンズの激突が起きようとしていた。戦場となるのはかつての激戦場であるコンペイトウ、旧ソロモン。この海に漂う死者たちの亡霊は、今尚道連れを望んでいるのであろうか。




後書き

ジム改 いよいよ祐一たちが本格始動。最初の目標はソロモンだ。
栞   ソーラ―システム使えないんですね
ジム改 今回はパス。アレ使うと一発でケリが付くし、運べるだけの船も無いから。
栞   でも、ソーラーシステムってそんなに凄いんですか?
ジム改 ブリティッシュ作戦で連邦軍は大型戦略核まで使って阻止しようとしたが失敗したのは知ってるな。
栞   それはまあ、有名な話ですし。
ジム改 ソーラーシステムは数十秒の照射でコロニーを気化してしまえるのだ。
栞   そういえば、0083でそれで阻止しようとしてましたね。
ジム改 この威力を考えると、歴代ガンダム作品では最強無比の兵器ではないかと思う。
栞   コロニーレーザーやジェネシスは?
ジム改 コロニーレーザーとジェネシスは撃つまでの時間が長い上に移動できんからな。
栞   サテライトキャノンは?
ジム改 月が見えないと撃てないのがネックだが、あれも無茶な武器だよな。俺は好きだけど。
栞   お手軽なわりに強力なんですね。あの鏡。
ジム改 最大のメリットはコストの安さかもな。所詮はただのアルミ蒸着板だし。
栞   コロニーレーザー1基作る予算で何千万枚作れますとか?
ジム改 そんな感じだな。実に安価な超兵器だ。
栞   塵も積もれば山となるとはこの事ですね。恐ろしい。
ジム改 何時でも何処でも展開して攻撃できる点も大きいな。デプリの中で展開、照射したら回収して逃げるなんて事も出来るし。
栞   原作ではサイド1の残骸の中から照射したんですよね。
ジム改 実に便利だろ。反射しないよう角度変えとけば見つからないし。
栞   ……でもなんか地味ですね。