第70章  戦慄のジ・O


 

 東欧にあるティターンズのバイコヌール空軍基地の専用発射台から次々にブースター装備のギャプランが打ち上げられていく。ギャプラン隊はこのまま成層圏まで駆け上がり、弾道軌道で緩降下しながら旧フランス領に降下している連邦軍を迎撃するのだ。
 彼等は連邦軍の先鋒隊の降下は止められなかったが、第2波降下中にどうにか上空に辿り着く事ができた。戦場に到着したギャプラン隊は目の前で降下しているバリュートを狙って一斉に襲いかかろうとし、迎撃に出てきたダガーフィッシュと激突した。この戦いは空力特性に勝るダガーフィッシュが格闘戦に引き摺りこもうとし、パワーに勝るギャプランがダガーフィッシュを振り切ろうとする戦いとなる。
 これは数に勝るダガーフィッシュ隊があっさりとギャプラン隊の突破を許すという形でギャプランの勝利に終わった。ダガーフィッシュは慌てて反転してそれを追撃しようとしたのだが、流石のダガーフィッシュも高高度ではどうしても空戦性能が低下してしまう為、ギャプランにあっさり離されてしまう。まあギャプランはもっと運動性が悪いのだが、ブースターのパワーのおかげで加速性能だけは優れていたりする。
 しかし、このギャプラン隊の前にまったく別の敵が立ちはだかった。ガルダ級超大型輸送機のアウドムラだ。アウドムラの機長であるハヤトはこの高高度で迎撃の準備をしていたのだ。
 ギャプランがダガーフィッシュの迎撃をあっさり突破したのを見たハヤトは内線を取ると、搭載しているZプラス隊に出撃を命じた。

「マルセイユ、お客さんだぞ!」
「やっと出番か、待ちくたびれたぜ」
「分かってると思うが、目的は降下部隊に敵を近づかせない事で、スコアを稼ぐ事じゃないぞ」
「分かってますよ、そんな事は」

 ハヤトに釘を刺されたマルセイユは苦笑いをしてそう答えたが、ハヤトは不安そうだった。マルセイユは確かに腕は良いのだが、度々命令無視をする問題児だったからだ。しかも個人スコアを稼ぐ事に熱を上げる傾向があるため、作戦の足を引っ張る事がある。
 だが今はそれを問題にしている時ではない。ハヤトは内線を戻すとオペレーターに指示を出した。

「よし、後部格納庫ハッチを開放、Zプラス隊を出撃させろ」
「了解、後部ハッチ開放準備、作業員は退避を急げ!」

 警報が出され、格納庫の作業員達が急いで気密区画に退避していく。ここは高高度なので、ハッチが開放されればたちまち気圧が下がり、外に流出する空気にさらわれて放り出されかねない。それに耐えたとしても急激な減圧があるのでノーマルスーツでも着ていなければ失神するだろう。
 そしてハッチが開放され、アウドムラの格納庫から1機、また1機とZプラスが飛び出していく。ZプラスA1はギャプランとは異なり空力特性にも配慮された設計を持つ大気圏内専用の可変攻撃機で、ギャプランより空戦性能で勝っている。反面火力ではビームガン2門と今1つで、強力な火力を持つギャプランが相手だと分が悪い。ただし、対MS戦闘ならばそれほど問題視はされない程度の火力ではある。
 ギャプランを前に編隊を組んだZプラス隊は僅かずつ高度を下げてくるギャプラン隊を見て、その情報を取ろうと熱核ジェットエンジンを吹かせて高度を稼ごうとするが、それを見たギャプランはブースターを点火して再び高高度に駆け上がって立ち向かってくる。それを見たマルセイユは舌なめずりをした後、ギャプランの動きを賞賛した。

「良いねえ、空で戦う奴はそうでなくちゃいけない」

 挑まれたからには受けて立つ、それが空で戦う戦士の心構えだとマルセイユは考えている。それは古臭い考え方であり、作戦を狂わせかねない個人的な欲求であるのだが、マルセイユはそれを少しもおかしいとは思っておらず、むしろ当然の事だと考えている。
 これはマルセイユだけではなく、戦闘機のパイロット達が空の王者だった頃から受け継がれてきたポリシーのような物だ。パイロットの多くがエースと呼ばれるのを名誉とするのもそういった伝統があるからだ。パイロット達は戦争の中にあっても独特のポリシーを持って動くので、指揮官達からは癖が強くて扱い難いと言われるようになる。
 マルセイユはそんな古臭いポリシーを持って戦う空の戦士だったが、敵にもそういう奴は居るのだと彼は根拠も無く信じていた。

 加速性能に物を言わせたギャプランが上空から次々に落ちてくる、という表現が似合うような急降下で距離を詰めながらビームを放ってくる。それをZプラスが機体を捻って回避して行くが、回避できずに直撃を受けたZプラスが華奢な機体を砕かれて地上に残骸をばら撒いていく。
 この一撃を回避したZプラスが機体を翻してギャプランの背後を取り、ビームガンで狙いをつけようとするが、ギャプランは加速性能で振り切ろうとするか、あるいは急上昇に転じて再攻撃を仕掛けようとする。
 マルセイユは可動式ビームガンの利点を生かして近くを過ぎ去ろうとするギャプランを真横から撃ち、1機を撃墜していた。だが全体としてはZプラスはギャプランに対して不利らしく、ギャプランの距離で戦わされているという感を否めなかった。
 しかしZプラス隊が出てきたことで降下部隊がギャプランに襲われるという最悪の事態はどうにか回避する事が出来た。勿論全てを防げたわけではなく、何機かはZプラスの迎撃を突破してバリュート降下中の部隊に襲い掛かり、多少の損害を出してはいる。だがそれは予想の範囲内に収まるものであり、降下作戦は概ね順調に推移していると言えた。





 ティターンズと連邦の艦隊戦は簡単に決着がつきそうも無かった。双方とも数十隻の大艦隊であり、それが真っ向から陣形を広げた上でぶつかったので、お互いに中々消耗しなくなっているのだ。互いに防御スクリーンを展開し、防御を固めながらひたすらビームとミサイルの応酬を繰り返している。それは単純な砲撃戦であったが、交差するビームとミサイルの量が半端な物ではなかった。
 エレクドラの艦橋からこの砲火を見ていたダニガンは圧倒的な物量戦に感心しながらも、何処か余裕を持っていた。このまま物量戦が続けば数で勝るこちらがいずれ競り勝つと判断していたのだ。

「敵は50隻未満、こちらは70隻、このまま撃ち合えば必ず勝てるぞ」

 双方ともまだMSを展開させてはいない。距離が離れすぎていてMSを使えないのだ。そしてダニガンは自分から距離を詰める気はまったく無い。このまま時間を稼げばいずれ降下が終了し、この宙域から撤退が始まる。降下さえ完了すれば戦略的な勝利は連邦の手に渡るのだからダニガンは焦る必要など無いのだ。
 むしろ焦っているのはエイノーだった。自分の手勢は僅か46隻で、正面には70隻の大艦隊が展開している。これを突破して輸送船団を叩かなくてはいけないのだが、艦隊戦の前に先発させた一部の可変MS隊と地球降下部隊が突破しただけで後は全て阻まれてしまった。
 そしてこの膠着状態になったのだが、エイノーは判断を迷っていた。ここで目の前の艦隊を突破する自身はあったのだが、被害を押さえる自信は無い。ここで目の前の艦隊を相手に消耗してしまって良いのだろうかと考えていたのだ。生産力に優れるティターンズではあったが、連邦と消耗戦をすれば負けるのは分かりきっているのだから。

「バスクには荷が重かっただろうが、儂にも上手くやれるとは限らんぞ、ジャミトフ閣下」

 ジャミトフの命令だから引き受けたが、これは難儀な任務だとエイノーは愚痴らずにはいられなかった。しかも敵の指揮官は自分の仕事を良く理解しているようで、こちらの誘いに乗ってこようとしない。小癪だが流石は水瀬秋子の部下という事だろう。

「仕方が無い、艦隊を密集させろ、近接砲戦を挑むぞ。MS隊発進準備だ」

 エイノーは多少の損害を覚悟して目の前の敵を突破する道を選んだが、それは直後に届けられた通信によって止められる事になる。それは来栖川施設軍、リーフを束ねている藤田浩之からもたらされたものだった。だが、その通信を受けたエイノーは目を通したあと、苛立ちを見せて通信用紙を2つに割いてしまっている。
 このエイノーの感情を露にした行為に艦橋のスタッフが驚いてエイノーを見ている。普段から血の気の多い人物ではあるのだが、こうまで荒げた行動をとるのは珍しいからだ。そしてエイノーは不愉快そうに全艦に密集体系を維持したまま待機を命じて、参謀に苛立たしさを隠そうともせずに事情を話した。

「来栖川の艦隊がすぐ近くまで来ているそうだ」
「それが、何か問題でも?」

 援軍なら喜ぶべき事ではないかと参謀は思ったのだが、エイノーはそれに怒っていたのではないようだ。怒っていたのはその後のことだった。

「パプテマス・シロッコの木星師団も加わっているらしい。奴め、一体何時の間に来栖川と……」
「閣下は、シロッコがお嫌いのようですな」
「当り前だ。あのような得体の知れん奴、バスク以上に信用が置けん!」

 木星から帰還したジュピトリス船団の指揮官としてやってきた男、パプテマス・シロッコ。彼は木星師団の戦力を持ってティターンズに入り込み、その中で独自の派閥を形成している。木星師団の戦力は馬鹿に出来ないほど大きく、それだけにジャミトフも無下には扱えずティターンズの幹部の1人としている。階級が大尉であるのに将官級の動きを見せているのはジャミトフがそれだけの権限を与えたからに他ならない。代将に近い扱いをされていると言える。
 ただ、これはティターンズ内に不満の声を上げさせる待遇であった。ティターンズを支え、ここまで勢力を拡大させてきたのはバスクやアーカットを中心とするグループであり、ティターンズの元勲として権勢を振るうのは彼等である筈なのだ。なのに新参のシロッコが彼等と並ぶ重鎮として扱われているのだから、ティターンズ幹部の不満が溜まるのも無理は無い。
 エイノーもその例に漏れず、シロッコが嫌いだった。その言動の怪しさもあるが、木星師団という存在の不気味さもある。地球圏に帰還したジュピトリスは何処かで戦闘をしたようで護衛艦隊をかなり減らしていたのだが、なお強大な戦力を維持していたのだから。一体木星はどれだけの力を持つようになったのだと思うのも無理は無い。

 だが、不満ではあっても援軍はありがたいという事実に変わりは無く、エイノーは仕方なく全軍を待機させる事にしたのだ。来栖川にエイノーはさほど期待はしていない。民間人が組織した施設軍風情に何が出来るという嘲りが彼にはある。だがこの膠着状況を打開する程度の役には立つだろうと考えたのだ。



 目の前でティターンズ艦隊が密集隊形を組んだまま動こうとしないのを見たダニガンは首を捻っていた。てっきりあのまま突撃してくると思ったのだが、何を考えているのだろうか。

「奴等は何をする気だ?」
「艦を集中して、防御スクリーンの強度を上げたのではないでしょうか」
「そうなら良いのだが……」

 どうにも腑に落ちないと言ってダニガンは顎に手を当てて考え込んでしまった。自分なら当然突撃をかけるだろう状況なのに、何故エイノーは突っ込んでこないのだろう。戦いとは確かに奇策を取る事もあるが、大体は戦理に見合った物を使う筈である。戦術とは保守的なものであるのだから。だからエイノーがこのように戦いを不自然に長引かせるのが理解できないのだ。
 そして、その理由はすぐに明らかになった。周囲に放っていた早期警戒用のパブリク偵察艇の1隻が戦場に迫る大部隊を発見したのだ。その数は40隻前後にも達し、もうすぐ戦場に到達するという。エイノーがこれを待っていたのだ分かったダニガンは納得して頷いたが、分析された敵戦力には顔色を悪くせざるを得なかった。

「敵艦隊の主力はサラミス級とセプテネス級で、空母の姿は無いか」
「ですが、グエンディーナ級戦艦2隻が確認されています。提督、この部隊はっ」
「ああ、来栖川の私設軍だな。だが奴等に40隻も動かす力があったとは驚きだな」
「ティターンズの艦隊を加えているのではないでしょうか。アレキサンドリア級と思われる艦艇も確認されています」

 来栖川という存在は連邦には余り注目されてはいない。確かにかつては地球資本を支配したファイブ・シスターズの最後の生き残りであり、地球圏最大の財閥ではあるのだが、現在はティターンズの後援者として動いているに過ぎない。連邦に対する影響力は断たれている。私設軍のリーフの存在はあったが、連邦からは所詮は民間人と軽く見られている。秋子はサイド5を攻められた事もあって少しは警戒しているが、それでも脅威度はティターンズに遙かに劣っていると見ている。
 実際、来栖川の保有する艦艇は旧式艦が大半であり、新鋭MSのスティンガーもこれといった特徴を持たない凡庸な機体だからだ。ただ基本性能はバーザム並に高いので地味に厄介な相手ではある。

「しかし、40隻となるとこちらだけでは対応し切れんな。本隊に応援を要請するか」

 ダニガンは70隻を持っているので、目の前の敵が相手なら勝てる自信がある。だがここに更に40隻が加わるならこちらが数で不利になり、対応が難しくなってくる。ここは援軍を求めるしかない。


 だが、援軍を求められた秋子は渋い顔になった。40隻という新手は確かに脅威であり、援軍を出さなくてはいけないのは分かるのだが、これ以上本隊を薄くしては護衛に支障が出てしまう。今現在でもティターンズのMS隊と激しく戦っているのだから。
 突入してきたのはガブスレイを主力とする可変機部隊で、これに続いてスペース・ジャバーに乗ったバリュート装備のバーザムが突入してきている。彼等は祐一たちを追って地球に降下しようとしているのだ。これに対しては艦隊の直衛機が応戦していたのだが、輸送船団を狙うガブスレイの対応に追われていてバーザムを阻止できずにいた。まあ、大した数ではないから降下されても祐一たちが何とかしてしまうだろうが。
 そんな事を考えていると、3機のガブスレイが輸送船を狙って突入してくるのが発見された。それを聞いた秋子がデヴィソン艦長にカノンを盾にするよう指示を出す。

「艦長、カノンを割り込ませてください」
「提督、旗艦を盾にしろと!?」
「カノンはフェダーインライフルの一撃くらいではビクともしませんよ」

 これは誇張でも何でもない、事実だ。カノンの装甲は強力な対ビームコーティング処理が施されており、更に現用艦としては最強の防御スクリーン強度を誇る。ラーカイラムの艦砲でも撃ち抜くのは用意ではないほどの防御力を誇っているのだ。
 カノンが割り込んでくると、ガブスレイ対はたちまち浮き足立った。その巨体は無言の圧力を強要してくるし、対空火力はかなり充実しているので凄まじい弾幕を張ることが出来る。この弾幕を前にしたガブスレイは怯み、遠くからフェダーインライフルを発射して退避を図っている。だが放たれたビームは空しく防御スクリーンに逸らされて明後日の方向に流されてしまった。
 ガブスレイ隊は他にも直衛のMS隊を相手に獅子奮迅の活躍を見せていた。この船団を守っていたのは秋子の持つ最強のMS部隊である天野大隊だったが、流石の彼等もガブスレイが相手だとかなり梃子摺らされている。高価な可変機はそれだけに強力なのだ。天野はとにかく船団への接近を許さない事に重点を置いた指揮をしており、今の所船団には被害を出していないのだが、おかげで降下しようとしているバーザムには手を出せないでいた。

「相沢さんに後を任されたのに、不甲斐ない事ですね」

 天野大隊の隊長として、そして祐一の代理としてMS隊隊長を務める事になった天野だが、バーザム隊の降下を阻止できない自分の力の無さが正直悔しかった。祐一や秋子の信頼に答えられなかったという思いがある。
 このガブスレイ隊はベイトが率いていた部隊で、モンシアとアデルのバーザム隊が降下するまで直衛機を引き受けていた。

「モンシア、まだ降りれないのか!?」
「もうすぐ降下軌道に入れる、あと少し頑張ってくれ!」

 バリュートを使えても突入は命懸けだ。降下できる突入角度もきちんと計算しなくてはならず、簡単に降りられるものではない。だからモンシアが梃子摺るのも仕方が無いのだが、ベイトにしてみれば早く降りてくれと言うのも仕方が無いだろう。
 バーザム隊がどうにか降下軌道に入り、何機かがバリューとを開いて降下していく。それをアデルが先導し、殿をモンシアが務める形を取っているのだが、そこにゼク・アインが何機か襲い掛かってきた。それを見たモンシアが舌打ちしてビームライフルとシールドを構える。

「ちっ、来やがったか!」
「モンシア大尉、ここは我々が!」
「お前等は先に降りろ、あいつ等は俺が止めてやる!」

 モンシアは前に出ようとする部下に早く降りるように言い、自ら迎撃に出ようとするモンシア。だが、彼が出るよりも先にベイトが部下2機を連れて戻ってきた。

「モンシア、お前は下りろって言っただろうが!」
「けっ、お前が無様に突破されるからだろうが!」
「カバーが間に合ったんだから良いんだよ!」

 MA形態でゼク・アインに襲い掛かるベイト。それを相手にする羽目になった天野は彼女にしては珍しく舌打ちなどをして苛立ちを表している。そして降下部隊を阻止するのは無理だと諦めると、全力を目の前の敵機に向けるよう指示した。

「ガブスレイを叩きます。各機、逃げ道を塞ぎなさい!」

 天野の指示で7機の部下が散り、3機のガブスレイの頭を押さえるように動き出す。高機動のMAは行き足を止めて落とすのが最上の手段となるので、自然と頭を押さえるようにMSは動くようになる。とはいえ加速性能に優れるMAの頭を押さえるのは容易ではなく、やれるのは一部の熟練パイロットに限られるのだが、天野大隊は全員がそれが出来てしまう熟練パイロット揃いだったりする。
 ベイトたちはこのまま離脱しようと考えていたのだが、退路を次々にゼク・アインに塞がれてマシンガンの弾幕を張られてしまい、速度を落として急旋回を繰り返す事になってしまった。ガブスレイは可変機にしては重装甲に分類されるが、それでも所詮は可変機なのだ。装甲は同世代の第2世代MSに較べるとどうしても薄く、機体強度にも劣ってしまう。頑丈なバーザムを容易く破壊してしまうゼク・アインのマシンガンなど受ければ一撃で機体を破壊されてしまうだろう。
 ベイトは懸命に機体を操ってゼク・アインを振り切ろうとしたのだが、部下の1機が回避し損ねて直撃を食らい、吹き飛ばされるのを見て一瞬動きを止めてしまったのが致命傷となった。一瞬とはいえ無防備な直線機動をゼク・アインの目の前で数秒続けてしまったベイトが自分のミスに気づいた時には、既に隊長機らしいゼク・アインが自分に砲を向けていたのだ。
 しまった、と口に出す間も無く放たれた大口径砲弾が続けて機体を抉り、スクラップへと変えてしまう。中のベイトは悲鳴を上げる間さえ与えられずに引き裂かれた融合炉からのエネルギーで蒸発し、爆発した機体の中に消えてしまった。

「ベイト、おいベイト!?」

 降下に入った直後にベイトのガブスレイが爆発したのを見たモンシアはそれを否定したくて必死に通信機に呼びかけたのだが、勿論通信機から聞きなれたベイトの声が戻ってくる事はなかった。モンシアは大声で罵声を上げ、コンソールに力任せに拳を叩きつけて怒りと苦痛を見せ、死んだ戦友の名を呼び続けていた。




 降下して行ったバーザム隊を悔しそうに見送った天野は仕方なく部下を集結させた。既にガブスレイの大半は撃墜し、生き残りは撤退してしまったから一度補給に戻ろうと考えたのだ。だが、そこに秋子から通信が入ってきた。

「美汐ちゃん、すいませんが、新手の迎撃に出てください」
「新手、ですか?」
「ええ、リーフが出てきました。40隻ほどの大部隊ですので、美汐ちゃんの部隊が必要でしょう。斉藤さんの指揮で20隻くらいを出します」
「斉藤艦長だけですか。川名さんは出ないのですか?」
「みさきさんの隊はダニガン中将と一緒にエイノー提督の迎撃に出ていますから、連絡はしますが動けるかどうかは分かりません」
「そうでしたか」

 エイノーの方にいっているのでは仕方が無い。だが、20隻も割いてしまって大丈夫なのだろうかと天野は思ってしまった。そんなに出せば、輸送船団は丸裸とは言わないが護衛はかなり薄くならざるを得ない。それに40隻相手に20隻では少な過ぎないだろうか。その疑問に対して、秋子は切り札を使うと答えた。

「Gレイヤーを準備させています。これが整うまで持たせてくれれば十分ですよ」
「Gレイヤーをですか」

 あれが出てきてくれるなら、確かに勝てるかもしれないと思って天野は頷いた。この戦場には3機を持ってきているはずなので、上手くやればこれ3機で相手を撤退させられるかもしれない。
 天野は頷いて一度空母に戻り、補給を受けて再出撃すると秋子に伝えて通信をきり、ふっと小さく息を吐いてヘルメットのバイザーを上げた。

「今回の戦いは、長引きそうですね」

 まだMSの降下も終わっていないし、その後に物資の投下もあるのだ。一体後どれだけかかるのだろうか。作業に従事しているボール部隊や旧式化して2線級任務に回されたジム改などが投下ポッドを輸送船から運び出して投下軌道に展開させているが、これもまだまだ長引きそうだ。
 そして天野は部隊を纏めて空母に戻った。とりあえず補給を受けなければこれ以上の戦闘継続は困難だから。だが天野が到着するより早く、事態は急激に悪化する事となる。




 戦場に到着したリーフは、連邦の迎撃部隊を見ても足を止めずに突入してきた。リーフは最初から速攻に出てきたのだ。ラーカイラム級にも引けを取らないグエンディーナ級戦艦2隻の砲力は中々のもので、ノルマンディーに乗る斉藤もその火力には感心しているくらいだ。

「たいしたものだな、ドゴス・ギアより上ではないのか?」
「艦長、MS隊が出てきました」
「MS隊に迎撃させろ」

 リース艦隊から次々にスティンガーやマラサイ、バーザムが出撃し、連邦艦隊からはジムVやゼク・アインが出てくる。それはいつも通りの光景であったのだが、今回は些か様子が違う部分があった。リーフ艦隊に混じっているティターンズ艦隊の旗艦ロンバルディアが抱えている巨大な物体がそれだ。MS甲板に収まりきらないそれは船体下部に牽引された状態で運ばれており、ティターンズが生み出している強化人間によって操縦されている。
 ロンバルディアの艦橋から出撃していくMS隊を見ていたシロッコは面白そうに戦場を眺めていた。

「リーフのお手並み拝見、と行きたいところだな」
「シロッコ様、それでは後で面倒になりませんか?」
「まあな、今は手を抜くわけにもいかんか。私もジ・Oで出るとしよう。それと、サイコガンダムmk−Uを露払いに突撃させろ」
「1機でですか。幾らなんでも無茶では?」
「何、所詮は試作機だ。データさえ取れれば壊しても惜しくは無いさ。それにだ、私は強化人間というのが嫌いでね。あの雑念はどうにも癪に障る」

 シロッコは強化人間を語るとき、どうしても不快そうな顔をする。彼はNTという存在に独自の考えを持つ人物ではあるが、同時に強化人間を嫌悪している。彼にとっては強化人間などという紛い物がNT扱いされるのは容認できない事であるし、そのようなものは早急に排除するべきだと考えているのだ。
 NTは世界を導く存在である。これはシロッコだけではなく、エゥーゴやネオジオンに共通する思想だ。逆に連邦やティターンズはこういう考えを否定している。秋子などはNTであるがティターンズ以上にこういった考えに否定的だ。

 シロッコの命令を受けてロンバルディアからサイコガンダムmk−Uが出撃した。それに続くようにバーザム隊が出撃し、連邦艦隊に向かっていく。この巨大なMAを見た斉藤たちは最初面くらい、そして動揺してしまった。まさかティターンズがあんな巨大なMAを用意していたとは思わなかったのだ。

「な、何だあの化物は!?」
「形状を照合しましたが、地上で確認されたサイコガンダムのMA形態に近いですな。系列機ではないかと思われます」

 副長が斉藤の問いにコンピューターの検索結果を伝えたが、それを聞いた斉藤は表情を強張らせてしまった。サイコガンダムの凄まじい性能は地上軍から送られてきた戦闘レポートである程度は知っており、かなり厄介な敵である事を知っていたのだ。

「不味いな、情報どおりならIフィールドバリアを装備して重装甲、全身メガ粒子砲だらけだと聞くぞ」
「水瀬提督にGレイヤーを回してもらうしかないのではないでしょうか」
「確かに、あれしかないだろうな」

 化物には化物をぶつけるのが一番だ。連邦軍で唯一正式採用された量産型の超大型MAGレイヤー、その戦闘力は脅威の一言に尽き、これまでに幾度も投入されて敵の大軍を蹂躙し、理不尽なまでの強さを見せ付けたのだ。あれはミサイル主体の兵器なので、Iフィールドのような対ビーム防御主体の兵器相手にはかなり有効な攻撃が出来る。自身もIフィールドで身を守っているので、ビーム主体のサイコガンダムには有利な筈だ。
 斉藤が急いで秋子に要請を出すと、秋子からすぐに出撃準備中という返事が帰って来て僅かに安堵した斉藤だったが、例の大型MAがMS隊の乱戦に突入するのを見て再び心配そうな顔になってしまった。MS隊は持ち堪えてくれるのだろうかと思ってしまったのだ。


 迎撃に出た久瀬率いるMS隊はスティンガー主体の敵を相手に優勢に勝負を進めていた。やはりリーフのパイロット達は全体的にティターンズの平均的なレベルよりも弱く、機体が高性能であってもジムVで対抗できてしまう。むしろスティンガーに混じって出てくるティターンズのバーザムの方が脅威だった。
 これなら勝てると久瀬が考えたのも束の間、いきなり強力な拡散ビームの掃射が戦場を薙ぎ払った。それは連邦軍機のみを狙った物ではなく、乱戦下にあったリーフ機やティターンズ機も巻き込んで吹き飛ばしていく。その無茶苦茶な戦い方に敵も味方も慌てふためいて逃げ出していた。久瀬も部隊に小隊単位で散るように指示し、自らも直属部隊を連れて急いでその砲撃から逃げている。

「な、何なんだあれは。見境無しか!?」

 突っ込んできたのは巨大なMAだった。恐らくこれが斉藤が知らせてきたサイコガンダムなのだろう。だが、それは進路上にある全てを攻撃している。敵も味方も無い、完全な無差別攻撃だ。むしろ警戒していなかった敵の方が落とされた数は多いのではないのだろうか。
 久瀬がどうしたものかと悩んでいると、傍にゼク・ツヴァイの巨体がつけてきた。特徴的な乙女の文字がこの機体が七瀬のものである事をしえている。

「ちょっと、どうするのよあれ!?」
「いや、僕に聞かれても困るんだが、ビームは効かないようだからそっちのマシンガンでどうにかできないかい?」
「やってみたんだけど、弾き返されたわ。あれ出鱈目な装甲張ってるわよ」
「……まあ、地上ではスピアフィッシュ直撃させても落とせなかったらしいからね、マシンガンじゃ無理かも」
「スピアフィッシュでも駄目って、どういう化物よ!?」

 スピアフィッシュは対要塞ミサイルなどという物騒な名前で呼ばれる最強の対装甲貫通力を秘めたミサイルだ。元々はソロモン戦、ア・バオア・クー戦で自然岩の防御固められた防御砲台が非常に優れた防御力を発揮し、無力化するにはMSが直接突入して潰すしかなかったという戦訓から開発されたミサイルだ。MSで潰していくのは確実なのだが犠牲も大きく、周囲の岩ごと砲台を吹き飛ばしてしまえるだけの貫通力と破壊力を持つミサイルが要求され、生み出されたのがスピアフィッシュだった。これはファマス戦役においてフォスターU攻略戦、フォボス攻略戦で使用され、アヴェンジャー攻撃機による要塞砲台制圧に大きな威力を発揮した。特に艦砲でなければ破壊不可能と言われていた岩塊レベルの小惑星を丸ごと利用した砲台衛星を数初の直撃弾で粉々に破壊可能なのは大きかった。
 この強力なミサイルを食らっても持ち堪えてしまうとは、どういう装甲をしているのだと七瀬は怒りを露にしている。久瀬もそれには賛成なのだが、彼はとりあえずスピアフィッシュをぶち込めば効くのだという事を重視していた。全く対処法が無いという訳ではないのだから。

「とりあえず、アヴァンジャーにスピアフィッシュを搭載して回してもらおう。あれなら効くんだからな」
「でも、アヴェンジャーであれの間合に入れるかしら?」
「でもそれ以外に手が無い。後はGレイヤーくらいしかあれは使えない。まさか駆逐艦で突撃するのかい?」
「それも手な気がするけどね」

 スピアフィッシュは艦載型も存在する。その破壊力に目を付けた連邦軍は駆逐艦の対艦ミサイルとして改造したのだ。駆逐艦で使えるので全長を伸ばして推進剤を多く搭載し、射程を延ばしている。
 この駆逐艦の肉薄ミサイル攻撃ならあれを落とす事も可能だろうが、防御スクリーンを持たない駆逐艦であれに近づけるのだろうか。そこが問題だった。

 だが悩んでいても始まらない。フォレスタル級空母から次々にスピアフィッシュを抱いたアヴェンジャーが発進してサイコガンダムmk−U撃破に向い、更にIフィールドなどの対ビーム防御に対して効果的な火器を持つセプテネス級駆逐艦が突撃してくる。これに対してサイコガンダムmk−Uは拡散ビームの弾幕を張って迎撃し、これを撃退しようとする。アヴェンジャー隊はこの弾幕を前に中々近づけず、仕方なく駆逐艦がレーザーを乱射しながら突入してきた。
 駆逐艦は対ビーム榴散弾でビームを防ぎながら、レーザー砲とスピアフィッシュを発射して突撃していく。サイコガンダムmk−Uは暫く駆逐艦をビームで撃っていたが、効かないのを見るといきなりビームを明後日の方向に発射した。それが何を意味するのか理解できなかった駆逐艦は構わず突っ込んで装填されたミサイルを全弾発射して離脱しようとしたのだが、離脱しようとした所でいきなり予期しない方向からビームが飛んできて船体を撃ち抜かれ、そのまま爆発してしまった。
 それを見ていた久瀬は、サイコガンダムmk−Uが放ったビームがいきなり曲がって駆逐艦を襲ったのを見て驚いていた。まさかビームが曲がるとはおもわなかったのだ。

「何だ、何がある!?」

 急いでその空間を走査した久瀬は、程なくしてその宙域に変な物を見つけることが出来た。それが何であるのかは久瀬には分からなかったが、これがビームを反射したのだという事くらいは容易く想像することが出来る。恐らくはIフィールドを応用した反射衛星か何かなのだろう。
 厄介ではあったが、ネタさえ分かれば何とかなる類の代物だ。インコムやビットのように攻撃してくるわけではないのだから、対応は可能だろう。それに、先程の駆逐艦の攻撃はあの化物を確実に捕らえたのだから。あれだけの攻撃を受ければ無傷では済まないだろうと期待した久瀬であったが、ミサイルの爆発の中から現れた巨大なMSを見て、すっかり声を無くしてしまった。それはMSと呼ぶには余りにも巨大で、おかしいとしか思えなかったのだ。
 
「あれは、正気とは思えんな」
「でも、行き足は鈍った。ビーム砲も幾つか潰させたみたいだし、あれなら懐に入り込めるわ!」
「待て七瀬大尉、まさか接近戦を仕掛ける気か。無謀だ!」
「無謀な仕事をするのがサイレンよ!」

 サイコガンダムmk−Uの懐に飛び込もうとするゼク・ツヴァイ。だが相手の火力も凄まじく、中々取り付けないでいた。それを見て久瀬も援護に入ろうと思ったのだが、通信機から聞こえてきた声にそれを止められてしまった。

「久瀬大尉、援護に来ましたよ」
「うん、長森さんか?」
「俺も居るぜ」
「何だ、折原君まで、なんでこっちに?」

 確認してみれば、みさきの隊のエースたち、浩平、瑞佳、澪が揃ってこっちに来ているようだ。

「どうしたんだい?」
「みさきさんの指示だよ。何でか知らないけど、こっちの援護に回ってくれって言ったんだよ」
「あの人は突然訳の分からない事をいうけど、大抵当たるからなあ」
「……ふむ」

 みさきが何かを感じたと言うのだろうか。あのサイコガンダムを感じたのか、それとも他に何かあるのか。そんな事を考えていると、いきなり葉子から悲鳴交じりの助けを求める通信が届いた。

「く、久瀬大尉、今すぐ救援を、歯が立ちません!」
「葉子、どうした、何があった!?」
「新型です、桁違いに速くて、ゼク・アインでは付いていけません。パイロットも強い!」
「何だと。分かった、すぐに行く!」

 葉子の助けを求める声に応じて、久瀬は浩平たちにこちらに行くよう頼んだ。

「折原君、どうやら川名大佐の悪い予想は当たったようだ。すぐに葉子の救援に行ってくれ」
「あの洋子が歯が立たないって、どんな奴だよ?」

 浩平が焦りを込めて呟く。葉子は仲間内でもかなりの実力を持つエースだ。自分や祐一と対等に戦える腕を持つA級シェイドである葉子がゼク・アインを使って歯が立たない相手となると、それはもうアムロやあゆ、シアン級の化物が使う強力なMSという事になる。

「よし、行くぞ長森、澪」
「…………」
(瑞佳さん、これって)
「どうしたんだ?」

 なにやら様子がおかしい2人に浩平がどうしたのかと首を捻っているが、それに対して瑞佳は酷く不安そうな声で答えた。いや、澪はモニター上に文字を表示させているだけなのだが。

「浩平、この感じ、多分NTだよ。それも凄く強い力を持ってる」
「NTって言われてもな、俺はそんな力無いし」
「ううん、多分、近くに行けば浩平でも感じれると思う。こんなに強い力を持ってるのは、私の知る人じゃあゆちゃんくらいだもん。でもあゆちゃんとは全く違う、もっとずっと嫌な感じがする」
(そうなの、これは絶対にヤバイなの!)

 葉子を苦戦させている新手の危険さを訴える瑞佳と澪。だが逃げる訳にもいかず、3機は急いで戦場に向った。だが、急行した先で3人が目にしたのは、10機分ほどのMSの残骸と、まだ交戦している4機のMSがいる。それは葉子と由衣、友里のゼク・アインと、見たことも無い大型MSが交戦している。

「いたよ浩平!」
「でも3機だけか。確か、こいつら1個中隊で動いてた筈なのに」
(多分、あの残骸がそうなの!)
「おいおい、それじゃ何か、あの3人が居て他の9機全部が殺られたってのか!?」

 無茶苦茶な話だ、あの3人は全員がエース級の力を持ったパイロットなのに、その状況で他のMSを全部仕留めたというのだろうか。そんな事が出来るのは、あゆやシアン、みさきといった人外魔境な力を持つ連中くらいだ。舞や茜でも困難な芸当だろう。そうなると、あれはそのクラスのパイロットなのだろうか。

「くっそお、貧乏くじ引いちまった!」
「こ、浩平、いきなり怒らないでよ!」
「八つ当たりだよ。とりあえず行くぞ瑞佳、澪!」

 浩平のゼク・アインが突っ込み、瑞佳のストライカーと澪のゼク・アインが左右から襲い掛かっていく。それを見たシロッコは不敵に笑いながらそれを迎え撃とうとしたが、それから感じる気配に驚きを浮かべていた。

「この感じは、私と同じ者がいるのか。それも2人も!」

 NT同士は深層部分で意識を共有する事が可能だと言われている。だがそれを実際に体感できるのはNTだけなのだ。そしてシロッコは、それを感じる事が出来る人間だった。左右から迫ってくるその気配に軽い焦りを見せ、両手に持つビームライフルを左右に向けて発射し、その2機を牽制する。
 それでゼク・アインは退いたのだが、もう一方のストライカーは回避しつつ更に距離を詰めてきた。こちらの方が強い力を感じていたシロッコは、自分の感覚の確かさに満足しつつ機体を素早く操作してライフルをラッチに固定し、ビームサーベルを抜いてストライカーの一撃を受け止めた。
 ストライカーの一撃を容易く受け止めた新型に瑞佳は驚いた。接近戦では他のMSの追随を許さないストライカーの一撃を受け止め、しかもパワー勝負で押し返してきている。

「嘘、ストライカーが負けてるの!?」
「残念だったな、このジ・Oに、そのようなMSは通用しないのだよ!」
「誰なの、ジ・Oって!?」
「私はパプテマス・シロッコ、これは私が作り上げたMSだ。君の名は?」
「な、長森瑞佳だよ」
「ふむ、長森瑞佳、か」

 瑞佳の名を呟くと同時にいきなりスカートの下からサブアームが出てきて、小型のビームサーベルを振るってきた。それに反応した瑞佳はシールドでサブアームを押しとめたが、ビームサーベルでシールドを半分にされてしまった。
 それを見た瑞佳が不味いと感じて鍔迫り合いを止め、急いで後退する。それをシロッコは追おうとはせず、面白そうに通信を繋いできた。

「ほぉう、あれに反応できるのか。良い物を持っているな、君は」
「何が言いたいんだよ?」
「君は実に良い感じ方をしている。良い力だ」

 シロッコの話を聞いた瑞佳は怖くなってきてしまった。何が言いたいのかは分からないのだが、シロッコが嘘をついていない事は分かる。そしてこの男が自分に興味を持っていることも理解できた。だが、その言い知れぬ不気味さも感じられてしまい、瑞佳は怯えたように更に距離を取る。
 シロッコはそれを追おうとしたが、そこに浩平と葉子のゼク・アインが迫ってきた。

「こいつ、俺たちが居る事を!」
「忘れないで下さい!」

 2機のゼク・アインがマシンガンを向けて攻撃したのだが、ジ・Oは驚くべき機動性を見せてこの銃撃を回避して見せ、逆にビームライフルを撃ち返してきて浩平のゼク・アインの左腕を破壊してしまった。

「なんだっ!?」
「折原さん、下がってください!」

 まぐれ当たり、という感じではなく、狙って放った射撃だったのだろう。だが、そうなるとこのジ・Oとかいう新型は浩平の回避を見切って撃ってきた事になる。秋子の部下でもかなり上位に来る浩平を雑魚扱いしたというのだろうか。
 そしてシロッコは、後退していくゼク・アインを詰らなさそうに見ていた。

「邪魔をしないで貰おうか。オールドタイプやシェイド風情が出る幕ではないのだよ!」
「オールドタイプだと?」
「シェイド風情って、貴方は一体何者ですか?」

 NTの優越性を誇示されて浩平が不快感を示し、葉子がシェイドの事を知っているような口ぶりを見せるシロッコに警戒感を持つ。だがシロッコはそれには答えず、ビームライフルをゆっくりとゼク・アインに向けてきた。

「まあ、このジ・Oの性能テストにはなるか。良いだろう、来たまえシェイドたち、戦う為に作られた君たちの力を私に見せてみるのだな」
「あなたは、シェイドの何を知っているというのです!?」
「答える義理は無いのだが、聞きたければ力づくで来るのだな」

 それを聞いた葉子が機体を加速させる。そのらしくない動きに浩平が危うさを見て仲間に助けに入るように指示した。それを見たシロッコが楽しそうにジ・Oを動かす。それは遊んでいるような動きであった。そう、シロッコにとってこれは機体のテストを兼ねたハンティングのようなものだったのだ。




後書き

ジム改 遂にジ・Oが登場。何気に機体性能では第2世代MSとしては最強と言える機体の1つだ。
栞   これといった特徴は無いんですけどねえ。
ジム改 地味だが基本性能が無茶苦茶高いんだよなあ。キュベレイがファンネル全開で来ても戦えるし。
栞   強いて言えばバイオセンサー積んでる事と隠し腕くらいですかねえ。
ジム改 これでハマーンのオールレンジ攻撃に対抗できるんだよなあ。
栞   シロッコが凄いのか、ジ・Oが凄いのか。両方ですかね?
ジム改 両方だと思うが、MSとしては普通だから一般兵でも使えるんだよな。
栞   でもまあ、シロッコ製だから量産性はアレですけどね。
ジム改 まあな。でもティターンズにとっては魅力的なMSだったりする。
栞   ところで、サイコガンダムmk−Uはどうするんです?
ジム改 アレよりジ・Oの方が怖いだろ。
栞   サイコガンダムmk−Uの立場って一体?
ジム改 巨大ロボットの仕事は前座だろ。
栞   まあ、そうなんですけどね。でもアレどうやって落とすんです?
ジム改 実はプロメテウスで撃てば一発だったりするが。
栞   Iフィールドじゃレーザーは止まらないんでしたね。なんか卑怯ですが。
ジム改 サイコガンダムmk−Uとプロメテウスって、どっちが卑怯なんだ?
栞   ……どっちも卑怯です。
ジム改 それでは次回、戦力の一部を斉藤の援護に持っていかれ、苦戦をするダニガン。猛威を振るうサイコガンダムmk−Uに対して連邦軍はGレイヤー部隊を投入して対抗する。そしてジ・Oに苦戦する瑞佳たち。この事態に秋子は七瀬を向わせる。そして降下が完了した連邦軍は撤退を開始するが、秋子は一部の部隊を伴って斉藤の援護に向った。次回「雪の女王」でお会いしましょう。