第72章  屈辱を忘れぬ男


 

 旧フランス地区南部にあるドルドーニュに装備と物資の降下を完了した祐一たちは、橋頭堡をしっかりと確保した後に反撃に転じていた。降下したのは祐一と北川のゼク・アイン2個大隊とジムV4個大隊の6個MS大隊である。このうち1割ほどが降下中に撃墜されているので実数は200機程度となっているが、それでもヨーロッパにおける最大のMS部隊といえる存在になっている。
 祐一は橋頭堡内に降下した補給物資の護衛にジムV1個大隊を残し、残る5個大隊でとりあえずパリへの道路が通っている街、リモージュの攻略に向かった。ティターンズ先鋒部隊は既にこの辺りにまで到達して降下してきた祐一たちと戦火を交えていたのだが、数も少なく旧式機が中心であった為に勝負になってはいなかった。また、ここに向かう途中で後退してきた連邦地上軍を糾合する事で装甲車両や歩兵部隊を加えることが出来ていた。当初の計画であった地上部隊と合流して作戦行動を行うというものとは些か違う気もするが、まあ結果良ければ全て良しだろう。
 リモージュの制圧も難なく終了し、祐一はここにあった市庁舎から回線を使ってブリテン島のベルファースト基地に連絡を取ったのだが、出たのは何故かシナプス准将で祐一は驚いてしまった。

「シナプス准将、ですか? あの、ヨーロッパ方面軍のシールズ中将はどうされたのですか?」
「残念だが、シールズ中将はパリからの脱出の際に輸送機が落とされてしまい、行方不明になっている。現在は私が司令官代行だよ」
「はあ、そうでしたか」

 まさか最高司令官がこうも簡単に戦死しているとは思わなかった。困り果ててしまった祐一はとりあえずシナプスに今後自分たちはどこに行けば良いのかと指示を求め、シナプスはそのまま北上してパリを奪還してくれと祐一たちに求めた。現在連邦軍はノルマンディーからロアール盆地にかけて展開してティターンズと交戦中であり、ベルファーストからカレーに逆上陸してティターンズの後方を遮断、包囲する作戦を展開している。これで祐一たちがパリを押さえてくれればティターンズの大部隊がノルマンディーとロアール盆地、そしてパリとの三角形の中に閉じ込められ、包囲殲滅する事が可能となる。これが成功すればティターンズのヨーロッパ侵攻は完全な失敗に終わるのだ。
 シナプスの要請を受けた祐一は物資をリモージュに集積させると、とりあえずオルレアンを目指して部隊を前進させる事にした。幸い連邦空軍の戦闘機と輸送機の支援を受けられる事になり、リモージュに集積した物資は空軍が定期的に祐一たちに送ってくれる事になっている。またベルファーストに降下したペガサス級強襲揚陸艦の部隊から大量の物資が現地に降ろされており、これも要請すれば送ってくれる事になっている。
 ただ、祐一はこの作戦に1つ大きな不満があった。それはMSの疲労の蓄積だ。1年戦争の頃に比べればMSも進歩しており、機械的にも頑丈になってはいるのだがやはり精密機械なのだ。地上を長時間歩行で移動するのは脚部への負担が大きく、故障して動けなくなる可能性が高いのだ。戦車でも足回りの負担から故障はかなり多い。

「まあ戦場がかなり広いから仕方ないのは分かるんだけどさ、トランスポーターくらい出してくれればなあ」
「そう言うなよ相沢、こんなところをトランスポーターでのろのろ動いてたら的になるぞ」

 祐一の愚痴に苦笑交じりに答えてやった北川は、そこまで贅沢も言ってられないと割り切っていた。故障したMSは後続部隊に回収を任せてとにかくパリを奪還するべきだと考えている。
 それに、パリを奪還すれば名雪や香里と一緒に三ツ星レストランで食事をするいう目的を達成する事が出来る。そう悪い事ばかりではないのだ。
 その事を言われた祐一はなるほどと頷き、再びやる気を出して前に行こうとしたのだが、2人の通信機になんだか物騒な声が入ってきた。

「ふふふふ、祐一さん、北川さん、私は仲間外れですか?」
「し、栞!?」
「聞いてたのか!?」

 栞のmk−Xからなんとも危険なオーラが漏れているのが何故かオールドタイプの筈の2人にもはっきりと感じ取れてしまった。ニュータイプのあゆは怯えたように栞の傍から離れている。

「こ、これがニュータイプの領域なのかな、栞から凄いプレッシャーを感じるぞ!?」
「ああ、知らなかったが俺たちもニュータイプだったんだな!?」

 栞の物理的な降下まで伴ったプレッシャーを受けた祐一と北川は、それでもボケる事だけは忘れていなかった。その芸人根性は大したものだと認めざるを得ないところだろう。勿論2人にはニュータイプ能力などありはしない。何故ならそのプレッシャーは2人だけではなく、周囲の全員が感じる事が出来たのだから。





 だが、この時祐一たちを追っているティターンズの部隊がいた。宇宙から降下したモンシアたちのバーザム隊だ。こちらも地上軍には行き渡っていない高性能機を装備しているのだが、どうも変な所に降りたようで自分たちの所在がどこかさえも良く分かっていなかったりする。
 降下部隊を指揮しているモンシアは苛立ちを声に乗せてばら撒きながら、山岳部で迷子になっている自分たちの境遇を嘆いていた。

「何で俺たちはこんな所に降りちまったんだ!?」
「仕方ないでしょう大尉、とにかく大急ぎで降下したんですから」
「アデルゥ、こんな山ん中に降りて何しろってんだよ。敵なんざどこにもいねえぞ!」
「海に落ちるよりはマシですよ。それより、とにかく今は友軍を探しましょう。このままだと本当に迷子ですよ」

 モンシアの文句を適当に流しながらアデルが全軍に前進を命じた。それに従ってバーザム隊が移動を開始するが、彼らも内心ではモンシアのように不満の塊と化していたりする。特に祐一への復讐に燃える男、ジェリドはかなり不満であった。

「くそ、どこだ、奴はどこに降りたんだ!?」
「落ち着きなさいジェリド少尉、このミノフスキー粒子の濃度ではバーザムのレーダーは役に立たないわ」
「エマ、俺はカクリコンの仇を取りたいんだ!」

 未だにカクリコンを目の前で落とされた恨みを忘れてはいないジェリド。まあそれは分からないでもないのだが、落としたのは祐一ではなく栞なのでこれは完全な逆恨みだろう。おそらくジェリドの頭の中では前に叩きのめされた祐一に対する劣等感にカクリコンを殺されたという悲しみがくっついてしまい、祐一がカクリコンを殺したと思い込んでしまっているらしい。

「見ていろ、俺はカクリコンの仇を取って、汚名挽回してやるぜ!」

 高らかに宣言するジェリド。だが、何故かそれを聞いていたエマとマゥアーは頭痛を覚えて頭を抱えてしまった。

「ジェリド少尉、汚名は挽回しない方がいいです。汚名は返上するものですよ」
「そ、そうだったか?」
「ジェリド、あなたそれでよくティターンズに入れたわね?」

 エマとマゥアーに思いっきり呆れられたジェリドは恥ずかしさの余り祐一への怒りを散々にぶちまけてますます呆れられるのであった。





 このモンシア隊の迷走は置いておいて、祐一たちの方はビエルゾン周辺の丘陵地帯でティターンズの部隊と激突していた。その主力はやはりハイザックやジムUといった旧式機か、もしくは1年戦争型の改修機であり、ゼク・アインとジムVで編成された祐一たちにはそれほど恐ろしい相手ではない。彼らが装備している武器の大半はジムライフルやザクマシンガン改であり、酷いものになると90mmマシンガンを装備している機体まである。宇宙では当の昔に時代遅れ扱いされて後方に下げられた機体であるが、地上では宇宙ほど性能差が出ないのでまだ前線で使えるようだ。現にこれらの旧式機は第2世代MSで統一された祐一たちを相手に果敢に応戦し、その進撃を食い止めている。
 ただ、それでも性能差は大きかった。ゼク・アインの重装甲にはジムライフルや90mmマシンガンは明らかな役不足であり、空しく兆弾となって火花を散らすだけに終わっている。ザクマシンガン改も旧式のマイナーチェンジであり、役不足も甚だしい。
 祐一たちは装甲の優位を生かしてゼク・アインを突撃させ、これらの型落ち機を蹂躙していた。大型マシンガンから放たれる大口径弾はジムUやハイザックの装甲をボール紙のように撃ちぬき、これを容易く撃破していく。ティターンズ機も反撃しているが、地上では威力の減衰が著しいビームライフルは嫌われているのか、装備している機体は余りにも少なかった。

 苦戦するティターンズはビエルゾンの街に立て篭もった市街戦を展開し、祐一たちはこれを街から叩きだす為に街にMS隊を突入させる事を強いられている。だが突入しようにも市街地で何も考えない戦闘をするわけにもいかず、郊外にMS隊を止めて一旦地上に降り、どうするかと北川たちと相談していた。

「北川、あいつら叩き出す良い手は無いか?」
「お前な、流石に立て篭もってるMS相手にこの戦力でそんな手があるわけ無いだろ」

 お前は俺を天才軍師とでも思ってるのか、ジト目で突っ込む北川に祐一は苦笑いを浮かべて引き下がり、さてどうしたものかと地図を睨んだ。この辺りはフランスではごく一般的な緩やかな丘陵地帯であり、森林を除けば目立った障害物は無い。つまり攻めるに易しく守るに難しい地形なのだ。となればティターンズが街に立て篭もって戦おうとするのも分からないではないのだが、これを受けて立つと市民に夥しい犠牲が出る事になってしまう。
 祐一としては余り非戦闘員を巻き込んだ戦いはしたくなかったのだが、事こうなっては致し方ない。下手に戦闘を長引かせず、短時間でケリをつける事が最善の策だろう。どれほど頑張っても犠牲をゼロにする事は出来ないのだ。

「良し、俺と北川の部隊で突入する。ジムVとジムキャノンVは街を包囲し、逃げ出す敵を叩いてくれ。名雪は狙撃で敵の数を減らしてくれ。お前なら建物の被害を最小限に出来るだろ」
「任せてよ祐一、それが私の本職だよ」
「よし、香里とあゆ、栞も俺たちと一緒に来てもらうぞ。精鋭で一気にケリを付ける。先頭は悪いがあゆと栞のmk−Xにやってもらう」
「まあ仕方ないかな、ボクたちが一番頑丈だし」
「そうですね、一応ガンダムですしね」

 mk−Xは専用の推進器付きシールドではなく、ジムVが装備している連邦軍汎用シールドを装備している。これは専用シールドが地上で取り回すには余りにも重過ぎる上、推進器が付いてても地上では使い道が無いという理由で軽量で取り回しに便利な汎用シールドに持ち替えたのだ。これに伴ってハードポイントも汎用型に改造されていた。



 作戦が決定され、まずあゆと栞のmk−Xが突っ込んでいく。これに砲火が集中されるが、ニュータイプである2人の反応速度は凄まじく、機体性能もあって容易には捉えられない。加えて重装甲、さらにシールドまで付けるという反則振りを誇り、簡単に街に近づいてしまう。
 これに焦ったティターンズのMSが向けられる全ての砲を向けようとしたのだが、その時いきなり1機のマラサイが頭をビームに吹き飛ばされ、その場に転がってしまった。長距離からのビームだという事はすぐに分かったのだが、MS用で大気圏内で有効な長距離ビーム砲があるのかとティターンズの兵士たちは我が目を疑っている。
 これは丘陵の上に陣取り、ビームスマートガンを二脚に乗せて運用している名雪のゼク・アインの仕事だった。流石のゼク・アインもこんなデカブツを重力下で振り回すのは容易ではなく、名雪も地上ではマシンガンを使う事が多い。だがこういう狙撃任務でならこのデカブツも威力を発揮できるのだ。もっとも、名雪は乱戦にはほとんど加わらないので大抵スマートガンを装備しているのだが。
 このスマートガンの狙撃で顔を出したマラサイやハイザック、ジムUが1機、また1機と上半身を、腕を吹き飛ばされて擱座していく。MSであれ歩兵であれ、戦場で最も忌み嫌われるのはスナイパーなのだ。どこから飛んでくるか分からない銃弾というものは恐怖を駆り立てる。故にスナイパーは卑怯な奴と言われ、捕虜となった場合は殺される事が多い。いや、そもそも降伏を認められない事も多い。それほど憎まれているのだ。
 もっともMSでスナイパーのような芸当が出来るパイロットは極めて珍しく、その中でも天賦の才を持つと言われる名雪は異色のパイロットと言える。ファマス戦役時代に機動艦隊が腕利きを集めて狙撃専門の部隊を編成した事があったが、結局大して役にも立たず解散している。レーダーが頼りにならないこの時代では狙撃を成功させるには天性の才能が必要だという事だ。アムロのような高レベルニュータイプならば可能だろう。
 狙撃で数を減らされたティターンズのMSは慌てて建物の影に逃げ込み、突入した連邦MSへの攻撃は止んだ。この機を逃さず祐一は突撃を命じ、一斉に街に突っ込んでいく。これを見て銃を向けようとしたハイザックがたちまち名雪に仕留められてしまい、他は慌てて隠れてしまう。

 そして、祐一たちより先行していたあゆと栞が真っ先に突っ込んできた。突っ込んできたmk−Xに近くのジムUが90mmマシンガンを向けるが、それが火を噴くより早くmk−Xのビームライフルがビームを叩き出し、ジムUを撃破してしまう。その隣ではハイザックの右腕をmk−Xがビームサーベルで切り落としていた。

「あゆさん、このまま中央まで切り込みますよ!」
「うん、祐一君たちなんかに負けてられないよね!」
「そうです、今度こそ見返してやるんです!」

 突入してきたあゆと栞は真っ先に街の中央に到達して祐一を相手にふんぞり返ってやろうという子供っぽい野心を抱いて勇んで突っ込んでいき、結果としてティターンズMSの注意を引きつける囮の役割を果たしてしまった。おかげでこの2機を狙って四方八方からティターンズMSの十字砲火が加えられる事になり、あゆと栞の足は止められることになる。

「えうう、あゆさん、なんかうじゃうじゃ出てきましたよ!」
「ガッツだよ栞ちゃん、ここを突破すれば祐一君を見返してやれるのは間違いなしだよ!」
「そ、そうですね。お姉ちゃんを見返すチャンスです!」
「ついでに祐一君に思いっきり威張り散らせるよ!」
「なるほど、なんだか急にやる気が出てきました!」

 背部から2門のビームキャノンが前を向き、強力なビームが進路上をなぎ払う。12MWというこの時代のMS用兵装としてはかなり強力なビームが道路上を走り、瓦礫を吹き飛ばして途中のMSを撃破する。
 それで一瞬だけ開けた空間を2機のmk−Xがスラスターを前回にしてホバーで駆け抜け、それぞれが左右を分担してMSの相手をしだした。ハイザックやジムUに容赦なくビームライフルを向けて撃破していくが、それでもやはり2機では相手の数が多すぎて手が回らなくなってしまう。
 懐にジャンプで飛び込んできたハイザックがヒートホークを取り出して叩きつけてきて、あゆがシールドでそれを受け止める。ハイザックはそのまま重量を乗せてシールドを焼ききろうとするが、その前にライフルを捨てたあゆが肩のビームサーベルを抜き、ハイザックを横薙ぎに両断してしまった。
 だが、これであゆの足が止まった。栞も1機では前に進む事が出来ず立ち往生してしまう。そこに間の悪い事に地上には珍しいバーザムが複数姿を現し、mk−Uが使っているビームライフルと同系のライフルとシールドを装備してあゆたちに攻撃を加えてきたのだ。マシンガンには十分な防御力を見せた装甲も同世代のビームライフルが相手では危険が大きいので2機のmk−Xは遮蔽に身を隠すことを余儀なくされてしまう。

「くうう、まさかバーザムまで居たなんて。あれは近づかないと一撃じゃ撃破できないかもしれませんよ。どうしますあゆさん?」
「ゼク・アインの大型マシンガンでも何発か撃ち込まないと壊せないもんね。この距離のビームじゃ撃っても弾かれるよねえ」

 バーザムの装甲は非常に頑丈だ。宇宙での戦闘でもマシンガンの砲弾を弾き返し、ビームに持ち堪えたという記録が幾らでもある。その基本性能は高過ぎると言われるほどで、未熟な兵には扱い辛いほどの性能を持っている。何しろガンダムmk−Uと同等ともそれ以上とも言われるほどの高性能機だ。パイロットさえ良ければゼク・アインにも勝ちうる性能を秘めているが、その扱い難さゆえにこの機体を好むパイロットけして多くはない。つまりエースが駆ればバーザムはゼク・アイン以上のMSとなるが、平凡なパイロットには扱い難いMSなのだ。
 だが、幾ら扱いにくかろうがその装甲はやはり脅威だ。名雪が装備するビームスマートガンなら一撃だが、流石にそんなものは持ってきていない。そうなるとビームキャノンで狙い撃つのが一番となる。
 しかし、2人がここに足止めされた間にまた敵が増えたようで、隠れている建物の周囲に無数の着弾が起きている。その敵の数を見て、あゆと栞は流石に不味いかなあと考え出していた。
 



 この2機の活躍で祐一たちは大した抵抗も受けずに街に突入する事ができた。何故か敵の抵抗は微弱で、姿を見せるMSの数は少ない。その抵抗の弱さに祐一と北川は顔を見合わせ、拍子抜けしてしまった。

「あれ、なんだか思ってたより敵の数が少ないな」
「というか、敵の反応は別の方に集中してるぞ。俺たちとは別のところで戦ってるみたいだが」
「別の所って、ひょっとしてあゆか?」
「みたいだが、何で2機で突っ込んでるんだ、あの2人?」

 自分たちを待たずにどうしてあゆと栞の2機で突っ込んだのだろうか。祐一と北川は首を捻っていたが、栞の姉である香里は何となく分かってしまった。右手で額を押さえ、頭痛を堪えるような顔をしている。

「あの娘、どうせまた馬鹿なこと考えたのね。相沢君たちの悪い影響受けてるんじゃないかしら」

 多分それは香里の妹贔屓な判断だろう。栞は元からお馬鹿に分類される部分があった。ただ、香里の中でお馬鹿に分類される友人たちにそれを伝えれば、その多くがあいつらと一緒にするなと憤慨する事だろう。みんな自分だけは常識人だと確信していて、周囲の人間を変人だと理解しているから。まあ中には変人である事をむしろ名誉と思う浩平のような奴もいるのだが。

「で、どうする相沢?」
「……この敵の動きを見る限りだと、どうもあゆたちの方に敵機の大半が向かったみたいだな」
「なあ……今なら一気に中央の市庁舎を押さえられるんじゃないか?」
「……北川屋、おぬしも悪よのう」
「いえいえ、お代官様ほどでは」

 祐一と北川は、あの2人がmk−Xを使っているのだから放っておいても大丈夫だろうと判断し、このまま市街の中央めがけて部隊を前進させる事にした。どうせ市街地の制圧は歩兵に任せるしかないので、MSは途中の障害物や砲、車両やMSを破壊する事が仕事だ。ただ、この決定を聞かされた香里を含む部下たちは「良いのかそれで?」と突っ込んでいた。まあ誰も決定を覆そうとはしなかったので、全員があの2人なら大丈夫だろうと思っていたようだが。
 突入してきたゼク・アインを狙って建物や瓦礫で遮蔽を取ったハイザックやジムUが銃撃を加えてくるが、ビームライフルやバズーカならまだしもマシンガンでは役不足も甚だしい。だがそれは敵も承知しているようで、市街の十字路を生かした十字砲火を形成して連邦軍MS隊を食い止めている。流石に四方から無数の砲弾を撃ち込まれれば重装甲も撃ち抜かれてしまう。どうやらMS用の大型重火器も持ち込んでいるようだ。
しかし、この銃火の中を無謀にもホバーで駆け抜けた祐一のゼク・アインが多少の被弾を無視して十字砲火を駆け抜け、MS用重機関銃を使っているハイザックが隠れている瓦礫にマシンガンを叩き込んでいく。祐一に狙われたハイザックは叩きつけられた弾量によって遮蔽を取っていた瓦礫ごと粉砕されてしまった。
 そして北川は大きく跳躍し、一度ビルの上に出た。これで上方から撃ち降ろし射界を確保して隠れているMSを次々に狙い撃ちにしていた。時々ビルの上をジャンプで移動しながら正確な銃撃を叩き込んでくるので、こちらも非常に嫌な相手である。

 祐一と北川の攻撃で十字砲火が崩れ、ゼク・アインが戦場に雪崩れ込んでくる。これにティターンズが銃を向けてくるが、その効果は十字砲火の時に比べると著しく減じていてゼク・アインの脅威となるようなものではなかった。
 この十字路を突破した連邦軍はその勢いで一気に市街の中心まで駆け抜け、市庁舎を制圧して周辺への展開を開始した。これと呼吸を合わせて街の周辺に展開していたジムV隊も突入を開始し、市街地に立て篭もっていたティターンズ部隊は中と外の両方から圧倒的な物量を叩きつけられた事で戦意を喪失し、降伏する事になる。
 ただ、この作戦でおそらく最大の功労者と言えるあゆと栞は、四方八方から叩き込まれる十字砲火の仲で文字通り獅子奮迅の働きを見せており、ティターンズMSの大半を引き受けて戦い続けていたのだが、突然周囲から沸いて出た味方のMSに敵が次々に降伏していくのを見て吃驚していた。

「あ、あれ、何で、どうして?」
「何で前から味方が来るんですか?」
「そうだよ、ボクたちが真っ先に突っ込んでいたんだよ!?」

 自分たちがあれほど猛烈な敵の抵抗を受けながら足を止めずに前進し続けていたというのに、どうして前から味方機の群れが出てくるのだ。しかも周辺に歩兵部隊が展開して降伏したティターンズ部隊の捕獲を始めており、戦闘が終結したことを教えている。
 そしてそこに、やめておけば良いのに祐一がやってきて余計なことを言ってくれた。

「よお2人とも、囮ご苦労!」
「……うぐぅ?」
「囮って?」

 言われた2人は訳が判らないという顔をしていたが、そこに香里が的確な説明を入れてくれた。

「つまり相沢君はね、あなた達の方に敵が集中してるのを見て、そっちを囮にしてさっさと市街の制圧をしちゃったのよ。おかげでもう戦闘が終わったわ」
「…………」
「…………」

 事情を聞かされた2人はなんとも荒みきった目で祐一のゼク・アインのほうを見た。その視線に殺気を感じた祐一は身の危険を感じとってすばやく逃げにかかろうとしたが、その眼前を一条のビームが貫いていった。

「何処に行くのかな、祐一君?」
「あ、あの〜あゆさん、ビームはすっごく危ないと思うんですけど?」
「すいませんねえ祐一さん、mk−Xには頭部バルカンなんて小火器は付いてないんですよ」

 逃げようとする祐一にあゆと栞が迫ってくる。その2人からじりじりと遠ざかろうとする祐一。そして、その緊張に堪えられなくなった祐一のゼク・アインが脱兎の如く逃げていき、それを2機のmk−Xが攻撃しながら追っていった。勿論模擬弾なんて生易しいものは装備していない。
 2機に追い立てられていく祐一を見送った香里は、まあ良いかと頭を切り替えて占領の指揮に戻る事にした。今頃北川が要所にMSを配置して残敵掃討を進めているだろう。
 そしてそこにジムVを連れて名雪のゼク・アインがやってきた。

「あれ、ねえ香里、祐一は?」
「ああ、相沢君だったら、栞たちと鬼ごっこしてるわよ」
「鬼ごっこって、今度は祐一何したの?」
「栞たちを囮にしてさっさと市街を制圧しちゃったのよ。おかげで作戦は簡単に成功したんだけど、栞たちは怒っちゃってね」
「祐一ったらまたあゆちゃん苛めて」

 名雪はぷんぷんと怒っていたが、香里は祐一の判断をそれほど悪いとは思っていなかった。あゆたちの腕を一応信じての判断だったのだし、現に作戦はこんな短時間で集結した。被害もゼロに近く、まさに完勝といえる勝利を挙げたのだ。損得勘定で言えば祐一と北川が即行で立てた作戦はまさに図に当たったといえる。

「何だかんだ言って、相沢君って勝負勘は良いのよね。相沢君の思い付きを私たちが作戦にして、これが結構上手くいくんだから世の中分からないわ」

 軍事とは経験だけではなく、才能の比重も大きい分野だといわれる。技量は経験をつめば誰でもそれなりのものになるが、指揮官には天性の閃きが必要な場面が多い。これは状況判断能力といわれるものだが、祐一はこれが極端に優れている。普通に考えればその場の思いつきで動く行き当たりばったりな男にしか見えないのだが、何でかそれが結果的に状況を的確に捉えて上手く作戦として成立するのだから、どちらかというと理詰めで考える香里には天敵にも等しい。
 ようするに祐一は数学で計算式での計算は出来ないが、何故か答えは分かってしまうという変則型なのだ。これは教師泣かせであり、何でその答えに行き着いたのか本人にも説明できないのだがとにかく出た答えは正しい。


 こんな友人に香里は困ったものだわと苦笑をするくらいしか出来ない。それに昔は呆れる事もあったのだが、今ではすっかり慣れてしまって怒る気にもならない。これは進歩なのだろうか、それとも堕落なのだろうかと考えてしまう、香里にも答えは出なかったりする。ただ1つ言える事は、香里はこんな日常を結構気に入っているということだ。





 ビエルゾンを短時間で突破した祐一たちは勢いに任せてオルレアンを制圧し、周辺のティターンズ部隊を撃破しながらパリを目指した。ルアンからルマンにかけての広い戦域で連邦軍を攻撃し、これを海に追い落とそうとしていたティターンズ部隊はいきなり南の方に出現した新手の連邦部隊が短時間でパリに迫っているという報告を受けて仰天し、慌てて後退を開始した。パリ北部にあるルアンの部隊はともかく、パリ西部にあるルマン方向の部隊はパリが落ちると退路を断たれ、完全に孤立してしまうのだ。
 さらに悪い事にブリテン島のドーバーから直接重砲の支援を受けた連邦軍がカレーに逆上陸を果たし、2個師団の大軍がアルトワ丘陵に展開を始めている。ティターンズはこれを撃破するためにブリュッセルに部隊を集めようとしていたが、連邦軍ほどには輸送能力を持たないので広範囲に展開した部隊を一箇所にすばやく集める事が難しかった。そういう部分は可変機に頼っていたのだ。
 また、カレーに上陸した連邦軍を海に叩き落そうとルアンから後退していた部隊の一部が襲い掛かったのだが、これはスードリによってはるばるヨーロッパに運ばれてきた「あはは〜」というねじ一本抜け……とても朗らかな笑い方をする指揮官に率いられた陸戦型ジムV部隊に撃破されてしまったようだ。

 ただ、カレーに上陸した連邦軍もアルトワ丘陵から先には展開できなかった。所詮は2個師団であり、ルアンから東に脱出しようとするティターンズ部隊との戦闘で手一杯になってしまい、パリに進撃している祐一たちと連携する事が出来なかったのだ。
 ルマンを中心に展開している西方のティターンズはノルマンディーとブルターニュから反撃に転じた連邦軍の逆襲を受けており、こちらはパリに戻る余力を無くしていた。
 そしてパリに突入しようとしていた祐一たちであったが、ティターンズはパリの南方50キロのところで頑強な防衛線を敷いており、これとぶつかった祐一たちは前進を阻まれていた。ティターンズもパリを戦場にする事は忍びなかったようで、全力でパリの手前で迎撃する道を選んだようだ。
 ここでの戦いは開けたパリ盆地での正面決戦となり、文字通りの殴り合いとなっている。互いに大した遮蔽物もない場所で銃を向け合い、走りながら弾を叩き込み合う戦闘となり、技術よりも数と気力の勝負といえる戦いとなっている。
 祐一と北川は装甲に優れるゼク・アインを前に出し、ミサイル装備のジムVとジムキャノンVを後方に回して支援攻撃を行わせ、両翼に通常装備のジムVを配置するというオーソドックスな陣形を作り上げ、ティターンズの防衛線に攻撃を仕掛けたのだが、ここは流石に要衝だけあってバーザムやマラサイだけではなくグーファーまでもが配備されていて連邦軍を苦戦させていた。

「これじゃ被害が増えちまう。下がって迂回するか、相沢!?」

 移動射撃を繰り返しながら祐一の隣に機体を付けた北川が正面突破は被害が大きすぎると進言してくる。これを受けて祐一はどうしたもんかと考えてサブパネルに地図を表示させたのだが、何処も似たような平坦な地形が続くのを見て北川の進言を退けてしまった。

「何処から攻めても一緒だ北川!」
「だが、正面から力技じゃ被害がでか過ぎるぞ。ここを突破する事が出来ても、その後に響く!」
「なら俺たちが突破口を開くまでだ。行くぞ北川!」
「結局またこれかよ、進歩がねえぞ!」
「じゃあまたあゆたちを突っ込ませるか?」

 さっきもその手で勝ったのだが、代わりにあゆたちを怒らせてしまった。これでまた突破口を切り開いてくれなんて言った日には背後からビームが飛んできかねない。だが自分たちだけでは無理があるからまたあの2人に手を貸してもらう必要がある。さてどうするかと考え込んだ2人は、結局何時もの手で行くという結論に達した。

「相沢、お前幾らある?」
「とりあえず、どっちか一方なら何とか」
「分かった、お前はあゆちゃんを、俺は栞ちゃんを」
「よし、それで行こう」

 即行で取り決めを交わした祐一と北川は、それぞれにあゆと栞に通信を入れた。

「あゆ、ちょっと頼みがあるんだが」
「祐一君なんて知らないよ。もう頼みなんて聞いてあげないもん!」

 もはや取り付くシマもないほどご機嫌斜めなあゆ。だがこれは当然予想された反応であり、祐一は取り乱したりはしなかった。ただ用意していた切り札を使うのみなのだから。

「あゆ、パリを開放したら、俺が奢ってやろうかと思ってたんだけどな」
「……え?」
「何時もの給料じゃ雑誌で羨ましがるくらいしか出来ないような店で食事をしようかな〜と思ってたんだが、残念だなあ〜」
「えっと、あの……」

 降下したときに冗談で奢る約束をさせていたりしたが、まさか本当に奢ってくれるなどと言い出すとは思わなかったあゆは動転してしまっていた。軍人、それも中尉の給料などたかが知れている。それに対して佐官であり、しかもMS隊隊長という地位にある祐一はかなり多くの給料を貰っているので、あゆに奢ろうと思えば奢るくらいの余裕はあるのだ。
 これは北川も同様で、階級こそ大尉だが大隊長を任されており、さらに様々な任務を請け負うことの多い彼の給与もまたかなり多い。2人が選択したのはある意味常套手段で、そして最も有効な物で釣るという作戦であった。
 そしてあゆが悩んでいる間に、栞の方はあっさりと陥落してしまった。

「栞ちゃん、俺の頼み聞いてくれたら最高級のバニラアイスは君の物だ!」
「もう何でも言ってください、袖の下次第で何でも聞きますよ!」

 美坂栞、バニラアイスの為ならプライドさえあっさり売り払う女であった。まあ北川は祐一と違って日頃から恨みを買っていなかったという事情もあるが。そして先に栞が堕ちたのを見たあゆは、これが止めだったかのようにあっさりと陥落してしまった。

「しょ、しょうがないなあ、祐一君は」
「やってくれるか、さすが天駆けるうぐぅだな!」
「それは言わないで!」

 余程この二つ名が嫌いらしいあゆであった。実は祐一の仲間だとあゆは本当に数少ない二つ名を送られたパイロットなので、周囲はわりと羨ましがっているのだが。
 あゆと栞を懐柔した祐一と北川は、ジムV隊の援護を受けながらまず4機で突入を開始した。これが近づくのを阻止しようとティターンズがビームと銃弾を集中しようとしてくるが、香里の指示の元一斉に放たれたミサイルのシャワーが祐一たちが突入しようとしているポイントに向けて驟雨の如く降り注ぎ、その辺りを吹き飛ばしてしまった。吹き上がる粉塵が一瞬4機のMSの姿を隠し、そして粉塵を突っ切るようにして飛び出してきたゼク・アインが混乱しているマラサイの懐に飛び込み、左腕に持っていたビームサーベルを横一閃した。その一撃で胴体を両断されたマラサイが崩れ落ち、右腕のマシンガンが傍のバーザムに無照準で放たれ、大量の命中弾で粉々に粉砕してしまう。
 突入してきたのは祐一のゼク・アインだった。接近戦に限定すれば舞やシアンにさえ対抗できる実力を持つエースに懐に飛び込まれたMSは不幸としか言いようがないだろう。

「邪魔だああああ!」

 足を止めずにティターンズMSの群れに襲い掛かっていく祐一のゼク・アイン。その進路上から逃げようとしたハイザックの上半身が放たれたマシンガンに砕かれてその場に崩れ落ち、さらに祐一を迎撃しようとしたマラサイも立て続けの被弾で撃破されてしまう。
 それは祐一の後ろをカバーするように動く北川の攻撃だった。ホバーで地上を滑るように動きながら両手で保持したマシンガンを立て続けに放ち、周囲のMSを次々に擱座していく。到底照準を付けている様には見えないのに、その射撃はことごとくが正確にMSの胴体に、足に、腕に、頭に吸い込まれていく。まるで相手のほうが弾に当たりに行っているかのような見越し射撃を見せられたティターンズのパイロットたちに動揺が走る。

「こいつら、化け物か!?」
「落ち着け、火力を集中しろ!」

 崩壊しかける指揮系統を立て直そうと隊長たちが声を上げているが、そこにさらに栞とあゆのmk−Xが飛び込んできて混乱がさらに広がっていく。そして彼らの何人かは、目の前のMSに特徴的なマークが描かれている事に気づいてしまった。

「クリスタルスノーに緊急展開軍のマークと赤い3本線!。こ、こいつは相沢祐一だぞ!?」
「それに八木アンテナにタイヤキにアイスまで。冗談じゃないぞ、化け物だらけだ!」

 アムロほどではないとはいえ、祐一たちの名は恐怖と共に伝わっている。ファマス戦役で名を馳せた白い雪の紋章をつけた死神たち。クリスタル・スノーと呼ばれた化け物たちは、戦場のにおける1つの神話となっているのだ。その名を聞くだけで敵は士気を挫かれ、味方は意気揚々となる。
 祐一たちの存在が恐怖と共に周囲に伝播し、パイロットたちが逃げ腰になる。幾らなんでもこんな連中に勝てると言えるようなパイロットは滅多にはいない。確かに勝てれば名を上げる事が出来るだろうが、勝ち目のある勝負ではない。ここは無理をせず、距離をとって集中砲火を加えて撃破するのが確実なのだ。
 だが、今はそれは出来ない相談だった。祐一に指揮を任された香里は祐一たちが突入して敵が混乱するのを確かめると、迷わず全軍を前進させて距離を詰めたのだ。この圧力にティターンズも応戦を強いられ、祐一たちを包囲するだけの戦力が集まらなかったのだ。そしてこの祐一たちが周囲から撃ち込まれる砲弾に耐えながら中央の陣形をかき乱し、ティターンズの戦線に致命的な穴を開けることに成功してしまった。

「よし、来てくれ香里!」

 ここがチャンスだと見た祐一が信号弾を打ち上げる。それを見た香里が表情を引き締めて全軍突撃を命じ、ゼク・アインとジムVの群れがティターンズの防衛線になだれ込んで来る。これを食い止める筈のティターンズの反撃は祐一たちのもたらした混乱で密度を欠いており、連邦MS隊を食い止めるには至らなかった。
 突入してきたゼク・アインやジムVとティターンズのMSが激しい接近戦を演じ、各所で格闘戦や近接射撃戦が繰り広げられる。こうなると戦闘は個々の技量と機体性能に委ねられることになるが、ここで意外にも連邦軍は苦戦を強いられた。ティターンズが投入しているグーファーは基本性能がmk−Xと同等レベルという高性能機であり、これを与えられているパイロットは一流と呼びうる技量を持っている。これが連邦軍にかなりの被害を与えていたのだ。
 祐一たちも当然これの相手をしていたのだが、mk−Xを駆るあゆや栞はともかく、ゼク・アインの祐一や北川は結構苦戦していた。

「くそっ、こいつらかなり速いぞ。百式より速いんじゃないか!?」

 ゼク・アインもパワーだけなら負けてはいないのだが、機体の反応速度と基本的な速さで負けている。そのため力勝負では互角でも動きの速さでは祐一は完全に押されていた。祐一が有利な点はその技量と経験くらいだろうか。
 正面からでは押し切れないと悟ったのか、グーファーが側面に回りこもうと左右に動き出す。こういう勝負に出られるとゼク・アインは不利だった。それでも祐一は相手の動きを読んで機体を動かし、容易には側面を取らせない。それに業を煮やしたグーファーが背中のビームキャノンを向けてこようと一瞬足を止めた瞬間、祐一の放ったマシンガンの砲弾に右足を砕かれて擱座してしまった。

「接近戦の最中は、一撃の威力よりも手数が決めてだ。覚えておけ!」

 倒れたグーファーにそう叩きつけて祐一はマシンガンを無造作に正面に撃ちまくった。放たれた砲弾が正面を横切ろうとしていたバーザムを側面から襲い、これを撃破してしまう。
 そして次の敵に行こうとしたとき、北川のゼク・アインが背中につけてきた。

「相沢、不味いぞ。思っていたより敵の守りが厚い!」
「ああ、甘かったみたいだな。左右の部隊が来る前に一度退くか。今ならまだ退けそうだし」
「ああ、包囲されたら逃げるのも大変だからな」

 これ以上頑張っても突破するのは容易ではない。そう判断した2人はこれ以上の無理攻めを避けて一度後退し、体制を立て直すことにした。こうなった以上は増援を受けてじっくり攻めたほうがいいだろう。
 祐一が撤退の信号弾を打ち上げ、それを見た連邦MS隊が次々に来た方向に戻っていく。それを追撃しようとティターンズMS隊が前に出ようとするが、それはホバーで平野を駆け回るゼク・アイン隊のマシンガンの掃射に阻まれた。ゼク・アイン隊は祐一と北川に鍛えられた精鋭なので動きが良く、もたついているジムV隊の後方を良く守っていた。
 ティターンズの中央は連邦軍が離れた事で体勢を立て直して反撃に出るチャンスであったのだが、実のところ旧式機が多かった為にかなりの被害を出していて追撃どころでは無かった。そのおかげで祐一たちは後退出来たのだが、これを努力の成果と見るか運と見るかは微妙なところだろう。ただ、これに少し遅れて両翼のティターンズ部隊がやってきたので、祐一たちの決断のタイミングはかなり際どかったと言える。



 この後退で祐一たちの進撃の足は完全に止まり、一度体勢を立て直すためにオルレアンに後退する事になった。そこで補給と再編成を受け、可能であれば増援を受けてもう一度パリを攻撃するつもりなのだ。
 この祐一たちの足が止まった事で、ティターンズのヨーロッパ侵攻作戦に伴う戦いは一息つくこととなった。連邦軍はフランス北部を取り返したものの、ティターンズはフランス中央部に深く切り込んでいて連邦軍を南北に分断しており、依然としてパリやブリュッセルといった要衝を押さえている。
 ベルファーストのシナプスは指揮系統を立て直しつつ増援部隊を次々にフランス北部に送り込み、再反撃の準備を整えていたが、この時ティターンズもロシア方面から増援を受けて連邦と雌雄を決するべく準備に入っていた。


 

 そしてその頃、ジェリドたちはまだ迷子を続けていた。





後書き

ジム改 降下した祐一たちでした。
栞   私の大活躍シーンは何処ですか!?
ジム改 いろんな意味で大活躍していたと思うが。
栞   祐一さんに利用されただけじゃないですか!
ジム改 でも無茶苦茶強いぞ。
栞   しかもパリまで突入できませんでしたし。
ジム改 そりゃティターンズの大部隊が展開してるんだもの。君らだけじゃ力不足だ。
栞   あんな程度、昔の私たちなら行けました!
ジム改 昔のカノン隊と今の連中を較べるなよ。
栞   これだから今時の若い人たちは。
ジム改 ほう、それじゃあ君は今時の若い人じゃないわけだな?
栞   何ですって?
ジム改 い、いえ、何でもありません。
栞   それでは次回、再度攻勢に出るティターンズと、それを迎え撃つ連邦。祐一たちも敗残部隊を糾合してティターンズの大軍に立ち向かう事に。再び始まる消耗戦、ジェリドたちの襲撃、我慢較べの時間が続く中で、祐一の耳にあはは〜という笑い声が届いた。次回「天使のような悪魔」でお会いしましょう!