第79章  虚空の呼び声


 

 蒼穹の空の下で、今日も海鳴基地は騒がしかった。基地内の工廠は拡張され、1年戦争の頃のように各種兵器を生産している。特に連邦軍でもただ1つのジオンのMSMシリーズ機をコピー生産している工廠として機能している。これは元々は1年戦争の頃にジオンの手でキャリフォルニアベースで生産されていた物であるが、戦後は運用性の悪さから連邦軍には不要と判断され、工場を解体されてしまったのだ。その工場設備は梱包されて倉庫に仕舞い込まれていたのだが、それは廃棄される事もなく何時の頃からか田舎の基地である海鳴の倉庫に放り込まれていたのだ。
 それを確認したシアンはコーウェンの了解を取り付けてMSMシリーズ、ゴッグとアッガイの量産を行うべく生産ラインを再建したのである。ズゴックも生産する事は出来たのだが、連邦軍は大量の輸送機と揚陸艦を持っているので上陸作戦を重視したズゴックは不要と判断されたのだ。だから水中戦に高い性能を発揮するゴッグを配備し、浅海用としてザクのパーツで修理しやすいアッガイを配備して使っている。
 ここで生産されたアッガイとゴッグはそのままこの基地でパイロットの訓練に使用されており、多くの水中用MSパイロットが養成されている。最前線基地ですることでは無いのだが、後方で訓練する余裕が得られない事情もあり、仕方がなかった。
 マイベックはこの基地で生産されたゴッグとアッガイを基地の防衛に投入しつつ、一部を他の戦線に送っていた。その戦闘能力は水中においてはティターンズの所有するマリンハイザックやアクアジムを圧倒しており、海上戦力の優位も合わせて連邦軍の海洋支配に貢献している。ただ、生産速度は遅く、配備される機体はなかなか増えなかったが。


 この海鳴基地の責任者の地位をマイベックに譲ったシアンははというと、実戦部隊を纏める指揮官という立場でありながら現場で陣頭指揮をとるという困った部分は健在であり、マイベックをしばしば困らせていた。
 そのシアンは今は訓練の監督をすると称して練習場の傍にパラソルを立て、椅子に腰掛けてのんびりとしていた。実際に訓練を監督しているのは訓練生を鍛える教官たちや新兵に実戦に必要な事を叩き込むベテランたちの仕事であり、シアンがここに居る必要は余り無い。
 まあ、ようするにサボっているのだ。

「一昨日もティターンズの哨戒部隊を追い払ったんだ。少しくらいサボってても誰も何も言わないさ」

 そう言って手にしているファイルのページをめくる。そこには訓練生の評価が纏められていて、ここから次の過程に出せそうな人間をシアンが選別して実戦部隊に送ることになっているのだ。とはいえ素人をゼロから鍛えて半人前にするのは容易ではなく、現場の補充要請に答えてやるのは至難の業だった。

「とはいえ、仁川にいる部隊を見殺しにはできんしなあ。何とか都合をつけんと」

 先の上海攻略戦の失敗を反省し、マイベックはまず近くにある朝鮮半島の攻略を目論んだ。ここならば敵の援軍は一方向からだけに局限できるし、短い輸送ルートで補給と増援を送り込むことが出来る。ここを橋頭堡にして大陸反抗の足掛かりを築こうとしているのだ。
 だが、送り込んだ部隊の指揮官からはすぐに予定を超える物資の補給要請が届き、ミデア輸送機の運用サイクルの見直しを迫られる事になった。ミデア輸送機は世界中で大活躍している、200トンの物資を搭載して垂直離着陸できるという理想的な輸送機だが、1万トン近い物資を搭載できるガルダ級が登場してからは重要度が下がっている。本来なら海鳴にも1機配備されていたのだが、そのスードリが今は倉田大隊を乗せて欧州に行ってしまったのだ。
 スードリが抜けた穴は10機のミデアの補充で埋められたのだが、能力は20%程度でしかなく、極東の補給事情はかなり悪化していた。ただ、ここ最近はティターンズの補給事情もかなり悪化しているようで、ティターンズ側の攻勢が衰えている。だから極東連邦軍はゆっくりとだが確実に前に進めている。


 頭をボールペンで掻きながらページをめくるシアン。その時、不意にすぐ傍に気配を感じ、驚いてそちらを見る。まさか、自分がこの距離に入られるまで気づかなかったのか。そんなことが出来るのは自分が知る限りでは美沙斗くらいの筈。
 驚いてシアンが見た先には、予想もしなかった人間が佇んでいた。白いワンピースを着た少女だったのだ。

「な、なんでこんな所に女の子が?」

 戦時下の基地に関係者以外がそう簡単に立ち入れるはずが無い。だが、ではこの少女は誰なのだ、基地の関係者の家族か何かなのか。だが今日は出撃の予定はなく、家族の見送りは無いはずだ。

「君は、何処から入ってきたんだい?」
「良かった、私の姿、見えるんだ」
「見えるんだって……」
「あ、今日は声も聞こえるんだ。前は声は届かなかったのにね」
「届かなかった?」

 何を言っているのだこの少女は。自分はこんな子供に会った事など無い筈だと暫し記憶の意図を手繰り、かなり悩んだ末にようやくあることに思い至った。そう、まだファマス戦役の真っ最中だったか、疲れている時に確かこの少女が見えたような覚えがある。

「あの時の、女の子?」

 カノンの中で見た少女の幻影が、今度ははっきりと自分の隣に居る。その事にシアンが驚いて立ち上がったが、女の子はシアンの動揺など全く意に介さない様に話をしてきた。

「私はミズカ、今はミズカと呼ばれている。今日はお願いがあって来たの」
「お願いだと。君は一体何者なんだ、どうしてここに居る?」
「それはまた今度話すよ、今は未悠を守ってあげて。あの子を狙ってる人たちが居るから」
「未悠を狙っている、何で?」

 何故未悠が狙われる。確かにあの娘はシェイドとしてみればこの世で最も高いポテンシャルと安定性を持っている。何しろ世界でただ1人の生まれながらのシェイドなのだから。未悠に限ってはシェイド特有の欠陥であるロスト体になる可能性も無いだろう。
 シェイドを欲するとすればシェイドを戦力化しているネオジオンだろう。未悠の安定した身体はシェイド研究にとっては最良のサンプルとなる筈だ。しかし、未悠の情報が何処から漏れたというのだろうか。秋子の情報操作で未悠は唯の子供とされているはずなのに。
 シアンの厳しい視線に晒されてもその少女、ミズカは全く動じた様子もなく、はにかんだ様な笑顔を残してスッと姿を消し始めた。

「待ってくれ、君は一体何なんだ。何故未悠の事を知ってる!?」
「知ってるよ、未悠は私に一番近い人間だから」

 それを最後に、ミズカと名乗った少女は消え去った。残されたシアンは呆然とミズカが消えた場所を瞬きもせずに見つめ続け、副官であり妻である郁未がやってくるまで微動だにしなかった。郁未は冷や汗すら浮かべて硬直している夫の様子にどうしたのかと問いかけたが、その声に我に返ったシアンは取り繕うように何でもないと答え、右腕で汗を拭った。

「なあ郁未、未悠はどうしてる?」
「高町さんの所で元気にしてるわ。あなたもたまには顔を出さないとそのうち顔を忘れられるわよ」
「そりゃ困るな、今度一度帰るとするか」

 妻の冗談にシアンは笑って答えたが、それは冗談と言い切ることは出来ないかもしれない。ここ最近の戦況はシアンに帰宅を許さず、1ヶ月に一度しか戻れないような状況が続いている。実戦部隊の責任者として海鳴基地を中心とした戦線全てに注意を払い、必要とあれば自ら部隊を率いて応援に駆けつける彼の忙しさはかなりの物なのだ。

「それで、何だ?」
「上海にティターンズの空軍機とMAが集まっているみたい。偵察機がシュツルムイェーガーの迎撃を受けたという報告もあるわ。輸送機が終結している事は航空写真で判明してるし、どうも大部隊を空路で運ぶつもりみたい」
「狙いは佐世保辺り、かな。あそこを押さえられると面倒な事になる」
「でも、佐世保にはこちらの基地があるわ。そんな所に空挺攻撃をかけられるほどティターンズに輸送機と戦闘機があるのかしら?」

 郁未は首を捻っていた。ティターンズにはそれほどの輸送能力は無いと郁未には思えたのだ。だがシアンはそれが不可能とは思っていなかった。シュツルムイェーガーが投入されれば制空権争いでこちらが不利になるのは確実なのだ。連邦軍の制空戦闘機は未だにダガーフィッシュであり、アッシマーは海軍向けが多い。海鳴にも数えるほどしか配備されていないのだ。期待の新星であるZプラスはまだ数が少なく、ガルダ級とジャブローくらいにしか配備されていない。
 シュツルムイェーガーに対してはダガーフィッシュではかなり苦戦を強いられる。新型機のワイバーンは万能機がゆえに使い勝っては良いのだが、制空戦闘機としてはダガーフィッシュと大して変わらず、攻撃機としてはアヴェンジャー攻撃機に及ばないという中途半端さから高性能機の筈なのに現場からは不評であった。
 しかし、それにしても……。

「仕事、増えたよなあ。俺はもう隠居したつもりだったのに」
「あなた、そんな年寄り臭い事言わないで」

 夫の情け無い言葉に、郁未は久しぶりに大きなため息をついてボードでその頭を思いっきり叩いていた。



 アレキサンドリアから少し南の盆地で包囲されてしまった祐一たちは、碌な遮蔽物もない状況で十字砲火を受けて壊滅の危機に晒されていた。祐一たちは必死の防戦を行っていたのだが、完全包囲された状況では不利は否めない。
 この包囲を崩して祐一たちを助けようと名雪がジムV隊と共に攻撃を加え続けたが、ティターンズの一部が此方の迎撃に回り、名雪たちは苦戦を強いられていた。名雪は狙撃専門なので切り込んで突破口を作るという戦い方は出来ないのだ。

「このままじゃ祐一たちが……でも、突破するだけの数が無いよ!」

 沿岸の確保に半数を残してきた為、ジムV隊は20機程度しか居ない。これに名雪の小隊が加わっても20機を超えた程度だ。とてもではないが40機を超えているだろう目の前の迎撃部隊を叩く力はなかった。
 スマートガンを手に岩場の影から足の速いストライク・マラサイやグーファーを狙って狙撃を繰り返す名雪であったが、これでは埒が明かないと考えて別の手に出た。祐一の許可は無いが、後方からこちらに向かっている筈の北川たちに救援を求める事にしたのだ。まだ少し遠い筈だが、北川や佐祐理なら何とかしてくれると名雪は淡い期待を抱いていた。いや、そう思うしかなかったのだ。



 名雪の救援要請を受けた北川と佐祐理は、正直困ってしまった。幾らなんでもここからでは遠すぎる。SFSを使えば出せるだろうが、生憎と沢山は持ってきていない。揚陸艦で直接アフリカ北岸に乗り上げる予定だったのだ。

「はえ〜、祐一さんが包囲下ですか。どうしましょう北川さん?」
「どうしましょうって言われても、援軍を出すしかないでしょう。問題は出せる数ですけど」
「そうですよねえ、せいぜい1個中隊が良いところです」
「しっかし、水瀬から聞いた話じゃ相沢の奴、見え見えの罠に飛び込んだらしいな。全く相変わらず考えるより先に動く奴だ」
「確かに総指揮官としては思慮が足りませんねえ。やっぱり先鋒は北川さんの方が良かったのではないですか?」
「俺でも良かったかもしれないけど、俺じゃ宣伝に箔がつかないですから」
「コーウェン将軍も余計な欲かきましたねえ」

 あの相沢祐一がアレクサンドリアを奪還したというニュースが連邦軍の士気を上げるのに役立つのだ。そうコーウェンは説明していて、その有効性は北川にも佐祐理にも理解はできた。だが、祐一は1人にすると何処かでポカをしかねない危うさがある。冷静に判断しないといけない局面でしばしば勢いに流されてしまう事がある祐一はそういう意味では指揮官向きとは言えないだろう。
 だがこうなった以上は助けに行かないといけないのだが、流石にゼク・アインやジムVではここから飛んではいけない。SFSは全部使っても大した数を運べない。でも祐一たちを見捨てる訳にはいかず、2人は暫し考え込んでしまう。するとそこにコーヒーを持ってきた香里が恐るべきアイデアを出してきた。

「だったら、ガルダとスードリを呼び寄せれば良いじゃない。あれならSFSも沢山積んでるでしょう?」
「…………」
「…………」

 あっさりと出てきた解決案に、北川と佐祐理はぽかんとした顔で香里を見ている。香里は2人の視線など気にする事もなくコーヒーを啜っており、どうするのかと問いかけた。それで我に返った北川が慌てて艦橋に内線を繋いで指示を出し、佐祐理がはええええ〜と妙な声で驚きを表している。

「凄いです香里さん、よく気がつきましたね」
「別に、資料に一通り目を通しておいただけですよ。これでももう4年も北川君の副官をやってますから」
「それでも凄いですよ、資料の内容を全部覚えているんですか?」
「要点だけなら、ですけどね」
「はええ〜」

 香里の記憶力は物凄いとは聞いていたが、これほどとは。北川が彼女を副官にと望んだのは色恋だけではなかったということだ。祐一の副官である名雪は地味だが全ての能力が優れているという万能超人だが、その親友も負けず劣らずのようだ。
 こうして北川はガルダとスードリを呼び寄せる事にしたのだが、それに先行する形で自ら率いる1個中隊をSFSで送り込むことにした。後続部隊は2個大隊が2機のガルダ級に移って続くという形になる。
 北川は急いで自分の中隊に招集をかけ、香里に後を頼むといった。

「美坂、俺の代わりに大隊を頼んだぞ!」
「何言ってるのよ、私も行くわよ」
「いや、それじゃ誰が大隊の指揮代行をするんだよ?」
「バークランド大尉が居るじゃない。それに1個中隊で先行するなら精鋭の方が良いでしょ」

 香里の主張を崩せなかった北川は悔しそうに唸った後、分かったと頷いて渋々と歩いて行ってしまった。それを見送った香里はやれやれと残りのコーヒーを飲み干して立ち上がり、それに続こうとしたのだが、そこに佐祐理が1つ質問をぶつけてきた。

「香里さん、香里さんはどうして北川さんのことを潤さんとは呼ばないんですか?」
「またいきなりですね、何でそんな事を?」
「いえ、ただ興味が湧いただけです。もう何年も一緒に居るのにちっとも進展しないなあって、皆さん不思議がってますから」
「……別に特別な理由はありませんよ。それに、あたしよりも倉田さんの方こそどうなんですか?」
「あははは〜、私には相手がいませんから〜」
「ふ〜ん、そうですか」

 香里はからかう様な笑みを浮かべて部屋から出て行った。それを見送った佐祐理はまだ笑顔を浮かべていたが、1人になるとその笑顔を消して少し気落ちしてしまった。香里が何を言いたいのか、分かっていたのだ。

「香里さん、政治家の娘というのは、簡単には人生を決められないんですよ」

 佐祐理は連邦上院議員の倉田幸三の娘なのだ。そして久瀬はファマス戦役の反逆者であり、そしてファマスの首謀者であった久瀬提督の息子でもある。そんな男との関係が発覚したとなれば父の体面に傷がつくだけでは済まず、事は政界の勢力図の変化にまで及びかねない。倉田幸三といえばアルバート・クリステラと並んで中道派の中心的な人物であり、そんな人物が万が一にも失脚すればどうなるか。
 今は情勢が変わっているからそういう問題が大きくなる事は無いだろうが、ひょっとしたら事件解決後にまた騒がれるかもしれない。馬鹿馬鹿しく思う人も多いだろうが、政治家とは人気が落ちたらそれまでだからだ。
 ただ、その前にそもそも乳は何処に行ってしまったのだろうか。アルバート・クリステラは必ず生きていると言っていたが、ダカール陥落後は消息不明であり、アフリカの何処かでのたれ進でいても何の不思議も無い。

「本当に、お父様は何処をほっつき歩いてるんでしょうねえ」

 娘に連絡の1つも寄越さないとは放蕩にも程がある呟いて、佐祐理も席を立った。出撃させる部隊を選抜しなくてはいけないのだ。

「とりあえず、本隊はケース3に移行してベンガジに向かう事にしますか。祐一さんの救援は北川さんに任せましょう」

 一応作戦はアレクサンドリアの防御が硬く、先発部隊が取り付けなかったり攻撃に失敗した場合の事も考慮されていた。今の状況はその中の1つ、先発部隊が敵に撃退されてしまった状況に該当している。ならばここは予定通りに第2目標であるベンガジ攻略を目指すべきだろう。アレクサンドリアには劣るが、ここも要港の1つには違いない。
 これとは別に、佐祐理はガルダは祐一たちの救出に向かわせたが、スードリの目標をスエズ運河の出入り口、ポートサイドに変更していた。ここを狙うと見せかければティターンズも平静ではいられないと佐祐理は考えたのだ。
 それに、佐祐理は自分たちが助けなくても祐一は自力で何とかしてしまうのではないかとも思っていた。これまで彼と一緒に戦ってきた経験から、佐祐理は祐一が時折常識を無視したような強さを見せる事を、異常な強運を引き寄せる事を良く知っていたのだ。人はそういう事態を時として奇跡と呼ぶ。




 包囲下に置かれている祐一たちはかなり苦戦していた。最新鋭のストライカーを主力としている祐一の大隊は極めて強力で、マラサイの扱える程度の火器では容易には撃破されないとはいえ、四方からの十字砲火を受けてはは無事では済まない。包囲されて僅か1時間で祐一たちは戦力の3割を失っていた。
 包囲下で祐一は比較的遮蔽物が多く、身を守りやすい場所を見つけてそこに部隊を移動させて円陣を組ませ、シールドを前に立てて防御を固める手に出た。被弾した機体を円陣の内側に入れて守り、とにかく持ち堪える体勢を整える。そして包囲を破ろうと周囲に探りの攻勢を仕掛けて抜き易そうな場所を探り出した。
 四方から襲い繰る銃弾やビームを砲弾の穴に身を潜めて回避していた栞であったが、もう数える気にもならなくなった幾度めかの直撃弾にたまりかね、祐一に突入の許可を求めた。

「祐一さん、このままじゃ全滅です。何とかして突破口を切り開いて脱出しないと!」
「分かってるが、どうやって作る!?」
「私とあゆさんと祐一さんで突っ込めば破れますよ!」
「その前に蜂の巣だと思うがな。あゆはともかく、俺と栞はあそこまで行けるか?」

 祐一も腕には相当の自身があるが、流石のこの十字砲火の中を突っ切れるとは思わない。ここを突っ切れるとしたらアムロ級の化け物であるあゆくらいだろう。そういえばシアンやみさきは本気を出すと訳分からないバリアーのような物を作ってMS戦で身を守れたりするそうだが、自分は普通の人間なのでそんな芸当は出来ない。
 そこまで考えて、ふと祐一は思い出した。そうだ、あゆもシェイドとしてはシアン並みではなかったかと。

「そうだあゆ、ちょっと良いか?」
「後にして、今忙しいんだよ!」

 少し離れたところでビームライフルを撃ちまくっているあゆ。狙っているのはバーザムのようで、数発の至近弾を出した後に右肩に直撃をくれて派手に後ろに倒している。

「あゆ、お前シアンさんみたいにあの真っ黒なバリアーみたいなの出せ!」
「あんなの出来るのシアンさんだけだよ!」
「いや、お前なら出来る。タイヤキうぐぅと呼ばれるお前ならきっと!」
「誰がタイヤキうぐぅ何だよ!」

 敵の攻撃に反撃しながら文句も言ってくるという器用な芸当をしつつ、あゆはまた1機敵を仕留めていた。その強さに祐一が感心していると、栞のmk−Xが何時の間にか祐一の傍に来ていた。

「なるほど、確かにあゆさんならやれそうですね」
「おいおい栞、あゆはさっき無理だって言ってたぞ?」
「ふっ、甘いですよ祐一さん。確かにあの状態じゃ出せないかもしれませんが、彼女なら出せる筈です」
「……ま、待て、それはまさかアレか?」
「ええ、アレです。あゆさんには悪いですが、ここは彼女の力を是非とも借りるしか」

 くっくっくとわざとらしく悪人風に笑ってみせる栞。どうやら何かのスイッチが入ってしまったらしいが、やられる方はたまった物ではあるまい。だが、どうやって栞はあゆのダークサイド、ツクミヤアユを呼び出すつもりなのだろうか。
 この疑問に対し、栞は恐るべき回答を示してきた。

「いや、頭を後ろからぶっ叩けば出てきますよ」
「んなバカな、それなら俺が何時もやってるぞ?」
「いえ、こう角度と力加減が重要でして。慣れると簡単に出し入れできたりするんです」
「マジでか?」

 まさかそんな裏技があったとは、恐るべし栞。なんともアホな理由で感心していた祐一であったが、ふと彼はあることに思い至った。まさか一時期多発したツクミヤ騒動は栞が原因だったのだろうかと。
 その事を問うよりも先に栞はさっさとあゆの元に行ってしまい、祐一は仕方なく援護射撃を開始したが、いきなり通信機からうぐぅ〜〜という気の抜けるような怒鳴り声が飛び込んできた。

「だ、駄目だよ栞ちゃん。もうボク、絶対にやらないからね!」
「お願いですあゆさん、このピンチを切り抜けられるのはあゆさんだけなんです!」
「駄目ったら駄目、それならボクが突っ込むよ!」
「いえ、でもあゆさんよりツクミヤさんの方が……」
「もうボクは包丁もって暴れたりなんかしたくないの!」

 どうやらツクミヤ特攻作戦は失敗したらしい。ならばしょうがないと、祐一は作戦案を栞の提案に沿う事にした。

「よおし、あゆと栞、こっちにこい。他の奴らも聞け!」

 祐一は部下たちに作戦を説明した。まあ作戦というほどの物でもないのだが、この状況では他に手はなかった。

「俺と栞とあゆが西に向けて突っ込む。上空の空軍にも対地支援をしてもらうが、他の奴らも援護しろ!」
「でも祐一さん、こちら側からだけで破れますかね?」
「まあ攻撃しだせば名雪が気付くだろ、何とかなるさ。それじゃ信号弾でも打つぞ。それと、他の奴らはスラスター吹かせて砂煙を上げろ。砂塵で視界を遮れるし、ビームも減衰するから持ち堪えるには丁度良い!」

 栞の疑問に気軽に答えて、祐一はランチャーから信号弾を発射した。それは放物線を描いて攻撃予定の辺りに着弾し、そこから紫色の煙を上げだす。それを見た空軍機の一部が空戦から抜けて発煙弾の周辺の地上を掃射したり爆撃を開始しだした。これは空軍機に呼攻撃目標を指示するマーカーだったのだ。
 これを見て空軍機が予定されていた攻撃を開始し、ティターンズのセイバーフィッシュやギャプラン、シュツルムイェーガーがこれを落とそうと低空に入ろうとしたが、それをZプラスやダガーフィッシュ、ワイバーンが妨害する。中高度域から急降下をかけようとしたギャプランが横合いから突入してきたワイバーンの放ったミサイルの直撃を受けてバランスを崩し、砂漠に突っ込んでいく。横旋回でセイバーフィッシュを振り切ろうとしているダガーフィッシュもいる。Zプラスとシュツルムイェーガーが低空でMS形態に変形して激突している。
 そしてこの空戦を抜けた何機かのギャプランが低空を飛ぶ連邦のアヴェンジャーやデブロッグ、ダガーフィッシュ、ワイバーンに襲い掛かり、これを後方からの射撃で何機か撃墜してしまう。だがギャプランの接近に気付いた6機のダガーフィッシュが反転してこれに立ち向かい、ここでも空戦が開始された。
 低空からの空襲を受けたティターンズのMS隊は隊列を乱して逃げ回っていた。アヴェンジャーから投下されたレーザー誘導爆弾はMSの至近に着弾して爆発し、衝撃波でMSを擱座させてしまう。ワイバーンが放ってきた対MSミサイルに狙われたマラサイが逃げ回っているが、全部をかわし切れずに左腕を吹き飛ばされて横転してしまう。そしてデプロッグの編隊は公算絨毯爆撃によって盤の目を刻むように爆弾を降らせ、隠れているMSも動き回っているMSも訳隔てなく吹き飛ばしてしまう。
 だがティターンズもやられっぱなしではない。マシンガンやビームライフルを空に向け、爆撃してくる敵機に向けて弾幕を張り巡らしている。それに絡めとられて数機が機体を砕かれて落ちていった。



 この混乱を見た祐一とあゆ、栞は一斉に突撃を開始し、何機かのストライカーがビームライフルで支援を開始する。それを見て空に撃っていたバーザムやマラサイ、ハイザックが攻撃を水平に向けてきたのだが、そのうちの3機が瞬く間に火を噴いた。祐一たちの突撃を見て部下たちが一斉にスラスターを吹かせ、砂塵が舞い上がって視界を遮ってしまう。放たれたビームは砂塵で急激に減衰してしまい、威力を確かに減じていた。
 祐一のG−9は全身に近接戦闘オプションをつけており、距離を詰めて周囲にガトリングガンやグレネードを放って薙ぎ払うことが出来る。照準は正確とは言えないが、元々のコンセプトは弾数で命中率を稼ぐというミノフスキー粒子下での戦闘を考慮した物なので、大して問題視はされなかった。
 G−9から放たれた多数のグレネードやミサイルが次々に着弾し、至近に居たMSが爆風で姿勢を崩され、あるいは機体の一部を砕かれて擱座していく。そして大量の砂煙を抜けてビームサーベルを抜いたG−9が襲い掛かってきた。

「あゆ、右に行け、栞は左だ。俺は中央を抜ける!」
「ええ――、無茶苦茶だよお!」
「無茶でも何でもやるんですよあゆさん!」
「うぐぅぅぅぅっ!?」

 泣きそうな声を上げてあゆのmk−Xが右に動き、栞のmk−Xが左に動いて傷口を拡大していく。祐一もビームライフルで近くに居るハイザックを仕留め、突破口を開こうとしている。だが自分たちだけでは突破は出来ない、ここを抜けるには反対側からの圧力が必要なのだ。

「頼むぞ名雪、気付いてくれ」

 反対側に居る名雪が此方に呼応してくれる事を祐一は祈るしかなかった。だが、例え名雪が気付いたとしても敵の守りが想像以上に厚ければ突破できないどころか、名雪たちも跳ね返されてしまう。これは奇跡に頼った戦いだった。ただ、祐一たちは幾度かその奇跡を起こして勝利してきた部隊である。





 名雪は祐一の期待通り、過ぎに敵の変化に気付いた。発煙弾の煙が上がり、空軍機が爆撃を加えているのを見てそこを突破しようとしているとすぐに把握したのだ。この辺りの能力は名雪は1級の指揮官並の物を持っている。

「マシャフ中尉、一緒に来てください。味方の突破を援護します!」
「水瀬中尉、相沢大佐が突破してくるって言うのか?!」
「発煙弾が見えないの、あそこに来るよ。ほら、敵が乱れてる!」

 言われて見れば何時の間にか紫の煙が上がっている。それを見たマシャフ中尉は大隊長に伝えて名雪の小隊と共に移動を開始した。名雪は中隊の後方に位置し、スマートガンで支援砲撃を行う事にする。しかし、ジムV隊は名雪の護衛のストライカー2機と共に前に出て敵に圧力を加えだしたが、敵は崩れなかった。祐一がここを狙ったのは地形的に周囲との連携が取り難く、アレクサンドリアから離れる方向になるので敵の追撃も少ないと考えたからだ。だがそれはアーカットも分かっていたようで、多めの兵力が配置されていたらしい。
 包囲網の少し後方車両から指揮をとっていたアーカットは祐一の戦場での艦の良さを褒めていた。この包囲下で正確に効果的なポイントを突く戦術勘というか、嗅覚の良さは実戦部隊の指揮官としては得がたい天賦の物だといえる。

「なるほどな、囮に引っ掛かったのは愚かだと思ったが、咄嗟の判断と勘の良さは侮れんな。彼は理論ではなく勘で戦うタイプか」

 こういう指揮官は敵に回すと意外と厄介な相手となる。予定された戦略を崩しかねない危険なイレギュラーとなるのはこういう指揮官だからだ。加えてこれまでの戦歴を見る限り、非常に運の良い男のようでもある。だが、水瀬秋子の秘蔵っ子と言われるほどの指揮官とは思えない。ただ、ひとつの噂が祐一にはあった。

「相沢祐一は奇跡を起こす、か」
「は、何の事でありますか、司令官?」
「相沢祐一少佐の噂だよ。彼は幸運の女神に愛された、奇跡を呼ぶ男だという噂がある。彼の戦歴にはしばしば常軌を逸した戦いと、勝利が刻まれているのだよ」

 相沢祐一は1年戦争の前半に志願兵として宇宙軍に入り、戦闘機パイロットとして戦ってきたのだが、この1年戦争の間に際立った活躍という訳ではないが、しばしば不可能としか思えない任務を成功させて無事に帰還してきている。撃墜スコアも決して超エースの仲間入りが出来るほどではないのだが、幾度か勝利に決定的な貢献を果たしていた。
 その目立たないが、だが信じ難い戦歴から彼は当時のルナツーのパイロットたちから奇跡を起こす男と噂されていた。まあ白い悪魔や踊る黒い死神などといった大仰な異名は持たないのであるが。
 

 その噂を思い出したアーカットは背筋に薄ら寒い何かを感じていた。相沢祐一が本当に幸運の女神に愛された奇跡を呼ぶ男なら、ここでもまた奇跡が起こるかもしれないのだから。
 そして程なくして、そのアーカットの悪寒は現実の物となった。




 名雪たちが賢明の攻撃を加えてもなかなか崩れない鉄壁の守りを前に、流石に疲れが見え始める。弾は無限ではなく、こうも延々と戦い続ければいい加減残弾が乏しくなってくる。祐一たちも突破してこないし、これまでかと名雪の顔に絶望の色が見え出した時、いきなり上空から炎上したシュツルムイェーガーが落ちてきた。

「わっ、危ないよ!」

 近くに落ちてきたシュツルムイェーガーを慌てて回避する名雪。そして名雪は空からそこに居る筈の無い味方が来ている事に気付いた。そう、ドダイ改に乗った12機のゼク・アインの姿を。

「え、ゼク・アイン、もしかして北川君たち!?」
「水瀬、まだ相沢たちは無事か!?」

 それは名雪の予想したとおり北川たちであった。彼らは次々にドダイ改を降りて地上に着地すると、ホバーを吹かせながら左右に駆け回ってマシンガンによる掃射を加えて発煙弾周辺の敵を掃討しだす。
 この強力な新手を見たティターンズは慌てて背後の敵への反撃を強化しようとしたが、ゼク・アインの中でも特に動きが良い1機が高速で走り回りながら連続の射撃を加えてきて続けて3機のマラサイとハイザックを撃破してしまうのを見て怯えたように少し下がった。それは北川の芸当である。
 北川の射撃で崩れた敵の隊列にマシンガンとビームサーベルを持った香里のゼク・アインが突っ込み、1機のバーザムをすり抜けざまに切りつけ、正面のマラサイの頭部にマシンガンの銃口を突きこんでトリガーを引き、これを吹き飛ばしてしまう。
 北川の突然の加入に最初呆然としていた名雪であったが、すぐに我に返るとマシャフ中尉に声をかけて一緒に突撃を開始した。今が敵を崩す絶好のチャンスなのだ。

「祐一たちを助けるよ、突撃〜〜!」
「水瀬中尉、なんか気合が入らないんですけど」

 リーダーシップはあるがその気の抜けるぽややんとした声は変わらず、付いていく部下たちは気合が入るどころかむしろ気合という袋に穴が開けけられたかのような脱力感に襲われるのであった。
 だが、それでもティターンズの防衛線には確かに穴が開いた。ホバーで駆け抜けながらマシンガンを叩き込んでハイザックやマラサイを容易くスクラップへと変えていくゼク・アイン隊の突入で混乱したティターンズ部隊は遂に統制を保ちきれなくなり、崩れて逃げ出したのだ。その隙を突くようにして祐一たちも突出し、遂に北川たちと合流できたのである。

「ああ、何で北川が居るんだ!?」
「水瀬さんに呼ばれたんだよ、お前が間抜けにも敵の罠に嵌ったから助けてくれって!」
「んだとお、あれくらい自力で突破できたぞ!」
「ああそうかい、そりゃ悪かったな!」

 北川のゼク・アインがその場で膝を突いて包囲網の片方の頭に向けて弾幕を張り、祐一のG−9がそちらに向けて突撃し、接近戦で1機ずつ仕留めていく。そして北川に倣ってゼク・アインやジムVが傷口を確保しようと同じように左右に弾幕を張り巡らし、脱出路を確保しようとする。
 そして彼らが確保した通路を取って生き残っていたストライカーが脱出してきた。中には機体を放棄したパイロットを抱えている機体や被弾して動きの鈍い物もあり、包囲下での戦いの酷さを感じさせる。ゼク・アイン以上の装甲に大型シールドまで装備している重防御のストライカーでなかったら全滅していたかもしれない。
 そして驚いた事に、脱出してきたストライカーは20機に届かなかった、2時間に満たぬ戦闘で実に半数以上の機体を失っていたのだ。

「たったこれだけか、相沢、もう残ってないな!?」
「返事を返してくる奴は居ない、動く機体も無い!」
「良し、じゃあ長居は無用だな。全軍撤退するぞ!」

 北川が撤退の信号弾を打ち上げ、傷ついた機体を庇うようにして西へと退いていく。それをティターンズは追撃しようとしたが、アーカットの元に厄介な情報が飛び込んできた。

「ポートサイドにガルダ級が向かっているだと?」
「哨戒機からの連絡です。どうなさいますか?」
「援軍を出すしかあるまい、あそこを落とされたら中東との連絡通路を遮断されてしまう」

 恐らくこれは敵の陽動だろうが、無視する事の出来ない陽動だ。アレクサンドリアの守りが堅いと見て狙いを変えたとも考えられるが、ガルダ級1機で運べる程度の数では攻略は出来ても維持は出来まい。破壊だけして逃げる事も考えられるが、それも困るのでアーカットとしては援軍を出すしかない。
 仕方なく祐一の追撃を諦めて部隊に後退と再編成を命じて、アーカットは改めて地図に目を落とした。既に別の哨戒機から連邦の船団が進路を変えて西に向かっている事が分かっている。恐らくはベンガジかトリポリに目標を変えたのだろうが、此方に援軍を出す余力は無かった。

「アフリカ北岸に橋頭堡を築かれる事は防ぎようが無い、か。カサブランカにも敵の艦隊が迫っているし、北アフリカを何処まで支えられるかが問題だな」

 連邦の多方向同時攻勢に対処する術がティターンズには無い。アーカットが率いているのはアフリカ方面軍が主力となっているが、これが全力を挙げてもバルカンで敵を食い止めるのが精一杯だ。それ以外の場所を守るほどの力は無い。
 ただ連邦軍も無限の戦力を持っているわけではなく、主力はあくまでコーウェンが率いているウクライナ方面軍とバルカン方面軍で、地中海を渡った祐一の部隊とカサブランカを狙っている海軍部隊は助攻に過ぎない。彼らが目標地点の制圧に成功しても、そこから占領地域を拡大する事は出来ないのだ。それをするには大規模な地上兵力の投入が必要となる。


 結局、祐一たちはアレクサンドリアの攻略に失敗し、途中で現れたガルダの部隊と合流して戦力を立て直し、海岸道路を抜けてベンガジで佐祐理率いる本隊と合流した。相沢大隊の稼動機は5割以下まで落ち込み、パイロットの2割を失うという甚大な被害を受けている。パイロットの生存率の高さがストライカーの防御力の高さを証明しているのだが、それは慰めとは言えないだろう。
 ベンガジに到着した祐一はそこからコーウェンに状況を伝え、攻撃隊指揮官からの解任を求めた。1個大隊の指揮官としての自分には自信があったが、複数の部隊を纏める司令官としての能力には自信を無くしてしまったのだ。
 これに対してコーウェンは祐一の申し出を却下し、当面は指揮官としての任務を続けるように命令をした。ただし祐一には陣頭指揮を控え、後方から部隊全体を統括するようにという命令を出した。後続の地上部隊と参謀を加えて旅団として兵力を再編生後、改めてアレクサンドリア攻略を行うようにと。
 これを受けた祐一は敬礼を返して通信を切った後、困り果てた顔で隣の名雪を見た。

「名雪、俺に旅団長なんて勤まると思うか?」
「参謀も来るんだし、何とかなるよきっと。祐一の実力はお母さんやシアンさんのお墨付きなんだし」
「買いかぶりさ、俺は相手の誘いに乗って部下を死なせるような男だぜ?」
「分かってるなら反省しなよ祐一。反省して直さないと、また同じ事しちゃうよ」

 祐一に必要なのは失敗を反省して直す事、向上心を持つ事だと名雪は思っている。ちゃんと勉強してもっと指揮官としての能力を高めようとすれば立派な指揮官になれると名雪は信じていたのだ。
 しかし、これから祐一がどういう方向に行くのか、それは誰にも分からなかった。




後書き

ジム改 祐一たちは結局撤退。
栞   佐祐理さんが尻拭いしてくれて良かったですねえ。
ジム改 祐一は迷ったら前に出るタイプだから、指揮官としてはまだまだだな。
栞   名雪さんって参謀向きじゃないんでしょうか?
ジム改 いや、補佐役としては十分以上に有能なんだが、1人では祐一を止められない。
栞   私たちじゃ駄目なんですか?
ジム改 栞は陰謀家だし、あゆは参謀なぞできん。
栞   誰が陰険魔女オタクですか!
ジム改 誰もそこまで言っとらんぞ。
栞   いいえ、目が言ってました!
ジム改 まあ否定はしないでおこうか。
栞   くううう、今度儀式の生贄にしてやります!
ジム改 儀式?
栞   い、いえ、何でもありません。ああ、それじゃ次回、アレクサンドリアを守りきったものの、東欧からウクライナ、そしてバルカン半島に対する連邦軍の攻勢は熾烈を極め、このままではオデッサのジオンの二の舞になると察したアーカットは戦線を下げる決断をします。膨大な犠牲を支払って後退していくティターンズでしたが、連邦も相応の代価を支払わされていて、予定されていたラインで追撃を中止、両軍は新たな戦線の構築に入ることになります。この戦いの結果は、全ての勢力に戦略の建て直しを迫る重要な戦いとなりました。次回「塗り変わる地図」で会いましょう。
ジム改 まさか栞、最近巷で噂のヒンニュー教に入信して無いよな?
栞   そんなもの入ってるわけ無いでしょう!