第83章  エゥーゴの倒れる時


 

 月面を走る都市間を繋ぐ街道、重力がある為に月では車両という移動手段を使うことが出来る。それはシャトル便ほど速くも無いので不便ではあったが、安全という点で非常に優れていた。
 そして今、フォン・ブラウンなどのエゥーゴ寄りの都市から多数の車両が連邦側の都市へと移動していた。ブレックスの指示でエゥーゴ将兵にはそれぞれに自分の生きる道を選ぶ自由が与えられ、戦場から離れて都市部に逃れる事を選んだ者たちがこれに参加している。既にエアーズなどの親連邦の都市からは受け入れる用意が出来ているという返事も来ており、避難するという事への不安は無い。
 だが、彼らは一様に肩を落とし、どこか気落ちしているように見える。誰もが今までの自分たちのやってきたことを否定された無力感と、仲間を置いて逃げてしまったという罪悪感を拭えないでいたのだ。
 そしてその中にはデュラハン隊に属していたセルゲイとレベッカの姿もあった。エゥーゴのエースに名を連ねる2人がここに居るというのは違和感があったが、それがエゥーゴの崩壊を如実に示しているとも言える。
 レベッカはセルゲイの隣に腰掛けて月面の路面の振動に体を揺らせていたが、隣に座るセルゲイに本当にこれでよかったのかと問いかけた。

「軍曹、私たち、本当に逃げてきてよかったんでしょうか?」
「少佐が行けって言ったんだ」
「でも、残って一緒に戦えば……」
「残っても何も変わらない、もう俺たちの負けは確実なんだからな。だから少佐も俺たちを逃がしたんだって事は分かってるだろ?」
「分かってますよ、分かってますけど、納得出来ないんです。こんな負け方なんて」

 そう、2人が脱出組みに加わったのは上官であるデュラハンの薦めによるものだった。もう戦う価値の無い戦闘であり、まだ若い2人がこんなくだらない事で死ぬ事はないと脱出を薦めてきたのだ。
 だが、デュラハン自身はエゥーゴに残って最後まで戦う道を選んだ。彼はブレックスの呼びかけに答えて参加して初期のメンバーであり、彼が死に場所を求めるというのならせめてそれに付き合ってやろうと考えていたのだ。
 セルゲイもレベッカも最初は一緒に脱出する事を薦めたのだが、デュラハンは頑として聞かず2人を根負けさせている。
 そして2人は別の都市に脱出する地上車両のグループに加えてもらい、これまで稼いだ金と換金し易い貴金属などを手にここに来ていたのだ。

「でも、これからどうなっちゃうんでしょうね、私たち」
「まあとりあえずは仕事と住む場所を考えないとな。もう戦争では飯は食えない」
「連邦に戻れば食っていけますけどね」

 それも考えないではなかった。最初はブライトたちに加わって連邦へ脱出する事も考えたのだが、フェイを殺されたという恨みは今でも胸に燻っているのだ。結局2人は連邦への投降という道は諦め、代わりに他の月面都市への脱出を選んだのだ。
 これからどうなるのかは分からないが、暫くは戦争から遠ざかるか、あるいは都市防衛隊にでも参加して食い扶持を得るか、そんなところだろうとセルゲイは考えていた。
 だが、そんなことを考えていた時、いきなり騒がしくなった車内に意識を無理やり現実に引き戻された。レベッカも何事かとそちらを見て、そして息を呑む。宇宙の一角で見慣れた輝きが、戦闘の光が生まれていたのだ。

「軍曹、あれって……」
「始まったみたいだな」

 あれは侵攻してきたティターンズの先方隊とエゥーゴの迎撃部隊が激突している光に違いない。エゥーゴの最後の戦いが遂に始まったのだ。




「奴らを通すな、ここで必ず阻止しろ!」

 ティターンズの先鋒隊を迎撃に出てきたヘンケンがラーディッシュの艦橋から檄を飛ばすが、ラーディッシュ隊が巡洋艦3隻を伴っているだけなのに対して敵は巡洋艦と駆逐艦合わせて10隻以上にもなる。勝てる筈がなかった。
 ティターンズはエゥーゴの迎撃ラインに入る前にMS隊を出してきた。マラサイが主力のMS隊は艦隊の前に出てエゥーゴのネモ隊と激突している。互いに開戦時から両軍の主力を勤め、改良を繰り返されて性能を大きく向上させた歴戦のMSであり、これまでの戦いでも幾度となく見てきた光景だ。そして、恐らくは最後の光景となるだろう。
 30を越すネモに対してマラサイの数は40を越えている。性能差が余り無い両機の戦いは自然と数の勝負になりやすく、今回も数に勝るマラサイ隊がネモ隊を押し切ろうとしている。
 味方MS隊が苦戦しているという知らせはヘンケンを歯噛みさせていたが、もはや数で優越する事は不可能だ。しばしの戦闘の後、ヘンケンは残存のMSと共に後退せざるをえなかった。
 ティターンズの先鋒隊にラーディッシュ隊が敗走したという知らせはブレックスを僅かに動揺させていた。分かってはいたが、やはり勝てなかったかと。やはり月の上空で高性能なMSの支援を受けながら戦う他に手は無いようだ。
 エゥーゴはフォン・ブラウン上空にネェル・アーガマ級3番艦のルーファスを旗艦として展開している。その周辺には最新型のネロやガンキャノン・ディテクターといった高性能MSも居れば中盤の主力として大活躍したネモFやリックディアスの姿もある。それ以前の第1世代MSも多数見られ、まさにあるだけのMSを出してきた感があった。ファマス戦役時の主力だったジムカスタムやジムキャノンUまで居るくらいだ。

「ティターンズの先鋒は巡洋艦と駆逐艦、出てきたMSはマラサイか。明らかにこちらの出方を伺っているな」
「こちらの抵抗の強さを試す為に押してみた、というところですか」
「そして奴らは緒戦に勝利してこちらを敗走させた。となれば、次に出てくるのは主力だぞ」

 恐らくはティターンズの誇る可変MSや可変MAが攻撃を仕掛けてこちらを突き崩しに来る筈だ。そう予想したブレックスはその一撃を受け止める為に精鋭MS隊を用意させて艦隊正面に展開させた。それはリックディアスやU、ネロで編成された強力な第2世代MSの部隊である。これに加えて少し離れた所をZUやメタス改の部隊が遊弋している。こちらの仕事は対艦攻撃なのだ。
 これに加えてメガバズーカランチャーを装備したネモ隊が艦隊と共に展開して砲力を補おうとしている。この強力なビーム砲の運用に一番熱心だったエゥーゴはSFSとランチャーを結合した機動砲台のメガライダーも完成させていた。
 そしてブレックスの予想したとおり、ティターンズは可変機を投入してきた。ミノフスキー粒子の濃度が高いのでレーダーは頼りにならないが、哨戒機からの報告と熱源観測で大雑把な戦力を把握して迎撃機をそちらに振り向ける。
 ティターンズは3波に及ぶMS隊を放ってきていた。第1波の主力はガブスレイで、フェダーインライフルによる長距離射撃で迎撃に出てきたMSの数を減らしにでてくる。どうやら迎撃機の数を減らす為の部隊のようで、対艦攻撃力の高いメッサーラや接近戦に優れるハンブラビなどは2波、3波に回っているようだ。
 フェダーインライフルから放たれたビームが長距離から向かってくるリックディアスを撃ち抜き、何機かを撃墜してしまう。この長射程ライフルは他勢力が持たない圧倒的な優位をティターンズにもたらす強力な火器であり、今回でもエゥーゴは反撃さえ許されずに犠牲を強いられていた。
 そして迎撃機が苦戦している間に続けて今度はメッサーラとがブスレイで編成された第2波が突入してきて、エゥーゴ側も更に迎撃機を繰り出す。この時点ではエゥーゴはまだ高性能な第3、第4世代の主力機を繰り出してはおらず、何かをじっと待っているようだった。



 この時エゥーゴ攻略の指揮を執っていたのはバスク中将で、重巡洋艦のロンバルディアを旗艦として月を遠くに見据えられる辺りに艦を置いている。
 バスクは可変MSによる波状攻撃を加えた後で主力MS隊を突入させ、一気にこれを片付けるつもりであったのだがエゥーゴの抵抗は思っていたよりも激しく、可変MS隊は敵艦隊に取り付けないでいた。

「思ったより粘るな、エゥーゴもまだ戦力を残していたか」
「連中はこれまでさほど積極的に動いていた訳ではありませんからな」
「……シロッコと来栖川は何処にいる?」
「木星師団は第2陣と共に展開しております。リーフ艦隊は遊撃として月重力圏外れ、エアーズ市上空にあります」
「よし、第2陣は前進だ。リーフにエアーズ市を攻撃させろ。それとグラナダの押さえに出しておいたジャマイカンにも動くように伝えろ」

 バスクの命令がティターンズ全体に伝達され、それを受け取ったシロッコはどうしたものかとロンバルディアの艦長を見た。

「バスク中将はやる気の様だな」
「まあ久しぶりの前線ですからな、気が昂ぶっておられるのでしょう」
「それで無理をされても困るのだが、まあ仕方が無いな。ナウメンコ少将は何か言ってきたかね?」
「いえ、今のところは何も」

 第2陣はティターンズ第3艦隊を主力とする部隊であり、指揮は第3艦隊司令官のナウメンコ少将が取っている。今回の作戦の実質的な主力部隊であり、エゥーゴを潰す為の打撃部隊だ。後詰めであるバスクの本隊は第3陣として後方に控えているが、これは寄せ集めの急造部隊でありお飾りでしかない。実戦に投入するには不安の大きな部隊なのだ。
 第1陣の先鋒隊は統一した指揮官をもたない、複数の戦闘集団の集合団でしかなく、現在もエゥーゴと交戦している。既に艦隊戦も始まっているようで猛烈なビームの応酬が始まっている。
 第2陣は前に出たとしても艦隊戦には参加できず、MSだけを発艦させての戦闘になりそうだ。それが分かるだけに、シロッコとしては第1陣に無理に割り込む必要はないと思うのだが、命令とあれば致し方ない。

「私もジ・Oで出るとしようか、エゥーゴの最後の戦いに対する私なりの敬意として」
「浪漫を戦場に持ち込むのはどうかと思いますが」

 艦長はシロッコの言葉に呆れたようであったが、止めはしなかった。シロッコは薄く笑って艦橋を去り、格納庫に向かった。ジ・Oは常に出撃可能な状態に置かれているのでいつでも出ることが出来るのだ。




 戦闘の開始は遠く、サイド3にも届いていた。ティターンズがエゥーゴに止めを刺そうとしているという情報は既に世界中に知れ渡っており、ネオジオンもそれに対応して動いていた。
 謁見の間で部下からその報告を受け取ったハマーンは頷くと、玉座に腰掛けているミネバに事の次第を伝えた。

「ミネバ様、どうやら月でエゥーゴとティターンズの戦いが始まったようでございます」
「ハマーン、そこにはきゃスバルが行ったのではなかったか?」
「左様ですが、ご心配には及びますまい。あの方も引き際は心得ております」
「そうか、ハマーンがそう言うなら大丈夫だな」

 ミネバはうんと頷いて前に向き直る。ハマーンもミネバの脇で姿勢を正したが、彼女はミネバのように素直にそれを信じることは出来なかった。現在グラナダに向かっているのは配備されたばかりのネオジオン軍総旗艦レウルーラと護衛のエンドラ級6隻が付いているだけだ。これにグラナダにある物資や資料、機材をサイド3に運ぶ為の輸送艦16隻が同行している。
 これはネオジオンとしては大規模な部隊であるが、現在月面で交戦しているエゥーゴとティターンズから見れば吹けば飛ぶような小部隊でしかない。もし敵が本腰を入れてグラナダ攻略に乗り出してきたら、最悪全滅しかねないのだ。キャスバルが1年戦争の赤い彗星のシャアだとは言っても物には限度というものがある。
 もしキャスバルを失えばネオジオンは間違いなく分裂する。元々ネオジオンとはミネバ・ザビへの忠誠心を拠り所に纏まっている脆い組織であり、それをジオン・ダイクンの遺児であるキャスバルが血筋の権威とミネバの名代という立場をもって指揮しているに過ぎない。そのキャスバルが失われればネオジオンはエギーユ・デラーズ率いるザビ派とハマーン率いるカーン派に間違いなく分裂し、激しくぶつかる事になるだろう。
 本来ならキャスバルの出撃など許される事ではないのだが、このネオジオンの複雑すぎる状態が彼に前線に赴く事を選択させていた。反キャスバル連合とも言うべきザビ派は前線に出ようとしないキャスバルを影で臆病者と呼んでおり、それが段々と関係ない者たちにまで広まりだしていたのだ。このままではキャスバル・ダイクンの権威に傷が付く。それを危惧したキャスバルは自ら陣頭指揮してこの難しい作戦に挑んだのだ。
 ハマーンはこの噂にデラーズの影を感じていた。デラーズが噂を流し、それを煽り立てる事でキャスバルを政治的に追い詰めていたのだろう。元ギレン・ザビ親衛隊長である彼からすればこの手の裏工作はお手の物だろうから。
 おそらく政治的な駆け引きではデラーズはキャスバルに勝る。この手の物は才能ではなく、経験が大きなウェイトを占める分野だからだ。キャスバルは指導者として天賦の才を持つ男であるが、政治家としてはまだまだ若造である。

 デラーズに対してハマーンは苛立っていたが、それ以上に忌々しいのがその影にいるグレミー・トトであった。デギン公王の隠し子だのギレン・ザビの実子だのと噂のある男で、デラーズが従っている事からほぼ事実であると見られている男だ。この男の存在はネオジオンにおける最大のガンであり、獅子身中の虫だとハマーンは見ている。

「デラーズ、貴様の好きにはさせんぞ」

 キャスバルが前線に出た間は補佐官の自分が奴らに目を光らせている。これを好機と好き勝手に出来ると思ったら大間違いだ。ハマーンは奴らの蠢動を許さないよう、全力で監視をするつもりでいた。
 



 ティターンズの主力が動く、その知らせを受けたブレックスは遂に全軍を動かす命令を下した。これまで苦戦しながら戦力を温存してきたのも、これを待っていたからだ。迫るティターンズ艦隊から次々に出撃してくるMSの大部隊に対してエゥーゴ艦隊からも主力MS隊が発進していく。それはネロやZU、リックディアスUを含むエゥーゴの精鋭部隊であった。
 だが、MSは艦隊からしか出てこなかった。かつての戦いでは各都市に配備されていたMS隊も上がってきて数の不足を補った物であったが、今回はフォン・ブラウンからの増援はない。
 迫り来る多数のMSに向けてスマートガンの長距離ビームが放たれる。フェダーインライフルほど強力ではないが、これがエゥーゴや連邦での一般的な長距離ライフルだ。
 スマートガンの射撃を受けて何機かのハイザックやマラサイが撃墜される。だが数のせいであまり減ったようには見えず、多数のMSがエゥーゴ艦隊に突入してくる。だが彼らが障害物として流されているダミーと思われる隕石の中に突入した時、いきなり多数のMSが何かに触れて爆発してしまった。どうやら隕石に混じって機雷が敷設されていたり、隕石の間にワイヤーが張られていたらしい。これに触れたMSが破壊されていたのだ。
 予め防御手段は講じていたらしいと分かった事でティターンズMS隊が慌てて突進を止めて退いていく。またトラップにかかってはたまらない。だがそれはエゥーゴの思惑に乗る選択であった。乱戦に持ち込まれなければエゥーゴのMSは数の差を補えるだけの火力を有している機体が多いからだ。
 距離が開いているのを見たガンキャノン・ディテクターが、ジムキャノンUが、メタス改がビームキャノンやハイメガ砲を発射する。それらの中でも一際派手なのがロンド・ベル隊の3機のFAZZのハイパーメガキャノンだろう。背負い式メガバズーカランチャーとでも呼ぶのが相応しい代物で、ハイパーメガ粒子砲級の強力なビームを連射してくる。当たればMS程度の装備では防ぐことは不可能だ威力を誇るそれが戦場を貫く度に何かしらの爆発が火線上を彩っており、ティターンズMS隊はパニックを起こしたように逃げ散り、四方に分散してエゥーゴに向かってきた。
 距離を詰められたら乱戦になる。そうなったら数の差が物を言うようになる。それが分かっていても、攻撃側のティターンズがそれを狙っている以上防御側のエゥーゴにそれを回避する術は無かった。それを避けようとすれば、艦隊への道を開ける事にある。
 迎え撃つ体勢をとったエゥーゴMS部隊に先頭を行くグーファーがビームライフルを向けてまさに発射しようとした時、いきなり飛来した2条のビームが正面に向けていたシールドを容易く叩き割って機体を吹き飛ばしてしまった。

「全軍、俺に続け。奴らを逆に押し返すんだ!」

 アムロのフルアーマーZZだった。この最後の戦いを前にZZは場当たり的な改修を受け、更にフルアーマーパックの装着を受ける事で弱点だった構造の脆さを補い、元々過剰だった火力を更に強化してきたのだ。
 先ほどのビームもZZのダブルビームライフルである。ZZ系だけあってビームライフルの威力も他のMSとは一線を画しているのだ。
 突入していくフルアーマーZZの背後を守るようにクラインのレッテンディアスが続く。そして舞とトルクの百式改も突入してきた。ロンド・ベル隊とラーディッシュ隊のエースパイロットたちが先陣を切ってティターンズMS隊の先鋒と激突し、これを打ち砕いていく。1年戦争の白い悪魔を筆頭とするエゥーゴのエースたちの実力は並のパイロットでどうにかできるレベルではないのだ。
 それでもアムロたちを押し返そうとティターンズのMSが集まってくる。それを見たアムロは迷うことなく頭部のハイメガ砲を使用した。MSの装備としては非常識なほどの威力を持つそれが額から放たれ、集まっていたMS隊をなぎ払った。10を越すMSが直撃を受けて吹き飛ばされ、あるいは余波を受けて機体の一部をもぎ取られる。
 ハイメガ砲の威力を見て再びティターンズのMSが散ってしまう。それを見て突っ込んだ舞がバーザムを容易くビームサーベルで串刺しにし、トルクが肩のパルサーガンで周囲を掃射する。

「……これがエゥーゴでの最後の戦い、でも手を抜くつもりはない」

 愛機を操りながら舞は全天周スクリーンを埋め尽くすような敵機を観察し、狙いやすそうな獲物を探す。その中から1機のマラサイを選ぶと舞はビームライフルを向けた。狙われている事に気付いたマラサイが機体を振って回避しようとするが、3度目の射撃で上半身を抉られてバランスを崩し、そのまま姿勢を立て直せずに彼方へと錐もみ状態で流されていってしまった。
 戦闘力を奪った敵になど用はないとばかりに次の目標を探す舞。その傍ではトルクが同じようにハイザックを仕留めて舞の背後に回る。

「舞、どれだけ頑張るつもりだ?」
「……やれるだけ」
「おいおい、何処かで線引きしておかないと退くタイミングを逃すぜ?」

 連邦軍に投降するんだろ、と聞いてくるトルクに、舞は何も答えなかった。舞にもまだ心の整理が完全には付いていなかったのだ。友人たちを捨ててまでエゥーゴに入り、親友に銃を突きつけてまで自分の覚悟を示し、過去と決別した筈なのに、その結果がこれなのか。自分のしてきたことは全て無駄だったのか。
 何に怒りを向ければ良い、誰にぶつければ良い、それが分からない舞は、ただ苛立ちを敵にぶつける事しか出来なかったのだ。


 無数の敵機の中を突き抜けていくのはアムロたちだけではない。カミーユもまたグラナダへと向かう部隊のMS隊と共に戦場を駆け抜けている。もはや何の意味もないことは承知しているが、これは彼らの最後の意地なのだ。
 この場にいる誰もが同じ気持ちだった。この戦いは負ける、これはエゥーゴの最後を飾る為の、言うなれば有終の美を飾る為の戦いなのだ。だがだからこそ退けなかった。これがエゥーゴ最後の戦いならば、なおの事何もせずに逃げる事は出来ないのだ。




 エアーズを含む連邦系の都市群は戦場になっていた。駐屯していた連邦軍と都市守備隊が攻撃してきたリーフの艦隊と激しくぶつかり、各地でMS戦が生起している。バスクの命令を受けて陽動作戦を開始したのだ。
 リーフは自社製のスティンガーを装備しており、これはネモやマラサイ、ジムVといった主力MSに対して概ね優位を保つ事が出来る。都市を守る部隊の主力がジムUやジムV、ハイザックである事を考えれば圧倒的に有利な戦いとなる筈であった。
 だが、リーフは当初の予想に反して苦戦を強いられた。なんとこれらの都市には予想外の強敵、ゼク・アインを有するMS隊が居たのだ。前から配備されていたのか、それとも感付かれて急ぎ送られてきたのかは分からない。
 今も低重力装備のスティンガーが月面への降下に入ろうとした所を月都市側から放たれたマシンガンの火線に絡めとられ、粉々に砕かれて月面へと墜落していく。ゼク・アインの大口径マシンガンは大概のMSの装甲をズタズタにしてしまう威力があるため、直撃を受けることは死を意味している。

 グエンディーナから指揮を執っていた藤田浩之は思っていたよりも善戦する都市の守備隊に苦々しい顔をしている。

「全く、誰が楽な仕事だなんて言ったんだよ。こいつら結構強いぞ」
「そりゃ藤田君が言ったんやろ、今更何言ってんねん」
「ああ、俺が悪かったよ委員長。あの時は都市守備隊くらい簡単に捻れると思ったんだ」

 浩之は参謀長である保科智子に鬱陶しげに右手を振ってそれ以上言うなと身振りで伝える。保科智子は来栖川グループの施設防衛組織リーフの軍事委員会の委員長を務めている事から委員長というあだ名を付けられているが、本来なら幕僚長なり議長と呼ばれる立場だ。リーフは軍隊ではない、という辻褄合わせでそう呼ばれているだけである。
 彼女は普段はリーフのオフィスで浩之に変わってリーフ全体の運営を取り仕切る立場であるが、必要に応じてこうして前線に出てくることもある。

「それで、どうするの。下手すると連邦の艦隊が来るけど」
「それだけは勘弁して欲しいんだけど、あいつらは今回は動いてないんだろ」
「そら今回は他人事やからな。でも、今うちらが攻撃しとるのは」
「連邦側の都市だな。水瀬秋子が援軍を出さないわけが無い、か」

 秋子は仲間が攻撃されたら必ず助けに来る。それはこれまでもそうだったし、これからもそうだろう。その信用があるからこそこの戦争下にあって多くの連邦市民がサイド5に保護を求め、エアーズなどの月面都市がエゥーゴから離反して連邦側に付いた。
 そしてもしここに連邦の艦隊が現れたら自分たちはかなり不利な状況に置かれる事になる。もしコンペイトウやサイド5から大部隊が出てきたら、あるいは幾つも動き回っている哨戒部隊や遊撃部隊がこちらに急行しているかもしれない。少なくとも月の近くにはフォレスタル級空母を含む哨戒部隊が複数展開しているのは確実だから。

「MSの半数は残しておいた方がいいな。それと駆逐艦を何隻かをピケットとして展開させるぞ」
「それが良いと思うわ。でも、連邦の都市まで叩く必要があったんかいな?」
「無視している間にちょっかいかけられたら面倒だ、というのが理由だそうだぞ。まあ本当は点数稼ぎだろうけどな」
「エイノー提督との功績争いにうちらを巻き込まんで欲しいわ」

 ティターンズはジャミトフ個人への忠誠という点では団結していたが、それ以外では横の繋がりというものが薄い。宇宙ではバスクとエイノーが激しく対立し、作戦行動にさえ影響を出している有様だ。これが無ければティターンズはもっと勢力を拡大できていただろうが、世の中そう簡単でもない。更に自分たち来栖川や木星師団などの勢力もあって余計にややこしくなっている。
 まあ今回の目的は都市の守備隊を押さえ込むことであって都市の破壊や攻略ではない。そのことを建前にして浩之たちは上がってきたMSを叩き落すだけに留める事にした。こんな作戦で無駄に戦力を消費する気にはなれなかったのだ。それに、攻略するとしたらどれだけの犠牲がでるのか見当も付かない。




 ティターンズの攻撃が月に加えられる少し前、サイド5では指揮下の提督や小部隊の指揮官が秋子に出撃許可を求めていた。月の友邦都市からティターンズの艦隊が迫っているという知らせを受け、これの防衛の為に部隊を出したいと申し入れてきたのだ。
 その数が数であっただけに秋子も無視は出来ず、仕方なく彼らを招いて話を聞いている。

「友邦の救出に反対する訳ではありませんが、既に折原さんと中崎さんのゼク・アイン2個中隊を送り込んでありますよ」
「それだけでは足りません、今回のティターンズは本気です」
「ではどうしろと?」
「私の第6艦隊を出させてください。ティターンズの矛先を逸らせてみせます」

 オスマイヤー准将が身を乗り出して志願してきたが、秋子は一言でそれを駄目出ししてしまった。

「却下です」
「何故ですか!?」
「現在サイド5には健在な艦隊は第1艦隊と第6艦隊しかありません。ヘボン少将の第4艦隊は再編中、第5艦隊もサイド2に貼り付けている今、これ以上ここの守りを薄くするわけにはいきません」
「では私と斉藤さんを出させてよ。任務部隊2つなら問題ないでしょ?」

 みさきが胸を右拳で叩いて任せてよと言って来る。斉藤もその通りと頷いていて、ヘボン、シドレ、ダニガンといった諸将もそれを支持している。だが、それらの意見を聞き終えた秋子は困ったものだという顔で隣に立つ参謀長のジンナを見た。

「どうしましょうねえ、ジンナさん?」
「ジャブローからは防衛を除いて許可なく大規模な作戦行動を取らないよう要請が来ています。コーウェン将軍の命令を無視する訳にも参りますまい」
「そうなんですよねえ。それに元を辿ればジャブローの臨時政府の命令、それを軍部が無視する事は出来ません」

 コーウェンは職業軍人としての不器用さもあり、政府の命令を愚直に尊重する。秋子はコーウェンとは違い、政治にも深い関わりを持つジャミトフのような軍人であったが、だからといって軍閥政治を望むようなことは無かった。そんな思想を持っているなら彼女もティターンズに組していただろう。
 だが渋る秋子に対して斉藤が命令の穴を付くような事を言ってきた。

「つまり、大規模でなければ良いのですな?」
「何が言いたいのです、斉藤さん?」
「先の川名中佐の提案ですよ。小規模な部隊なら問題ないのではないですか?」
「……斉藤中佐、それは屁理屈ですよ?」
「ですが、他に援軍を出す方法が無いのでは仕方が無いのではないですか?」

 斉藤が語気を強めて説得してくる。秋子は少し不機嫌そうであったが、その内容には考えていたようだ。そして少し口元を緩めると、集まっている全員を困った子供を見るような目で見やった。

「皆さん、そんなにエゥーゴを叩きたいんですか?」
「い、いえ、そういう訳ではありません」
「そうです、エゥーゴなど眼中にはありません。我々の狙いはティターンズです!」
「分かっていますよ。友邦都市を救出し、可能ならエゥーゴを攻撃しているティターンズに一撃加えて戦力を削って月面の勢力範囲を確固たるものにしておきたい、と言うのでしょう?」
「あ……まあ、そうなんですが……」

 いきなり矛先を逸らされた一堂が面食らった顔になり、そして恨みがましい顔で上司を見てくる。遊ばれたのだと悟ったのだ。

「酷いよ秋子さん」
「うふふ、ご免なさいねみさきさん。ですが、出撃許可を出せないのは本当なんですよ」
「そんな、秋子さん!?」
「ですが、斉藤さんやみさきさんの言う事にも一理はあります。コーウェン将軍には私から言っておきましょう」
「それじゃあ!?」
「ただし、サイド5から出せるのは斉藤さんとみさきさんの隊だけです。それ以上は認めません、良いですね?」

 沸き立つ部下たちに釘を刺して、秋子はふうっと軽く息を漏らした。実のところ秋子も月面都市への援軍は考えないではなかったのだが、上層部の命令を考えると大規模に部隊を動かす事も出来ず、どうしたものかと悩んでいたのだ。
 確かにみさきの言うとおり少数の精鋭部隊を送り込むという手も考えたのであるが、不十分な戦力の投入は損害を増やすだけ、という常識に照らし合わせれば賢い選択とは言い難い。下手をすれば各個撃破の好餌を提供するだけに終わりかねない。
 早速準備をする為に出て行った部下たちを見送った秋子はもう一度ため息を漏らすと、宙域図に目をやった。

「未だにサイド6の奪還も出来ず、月宙域は新たな最前線になろうとしている。エゥーゴが居なくなる分だけ勢力関係は整理されますが、どうなるんでしょうね」

 そしてもう1つ、未だに動きが見えないネオジオンがどう出るかだ。今回はこちらの妨害に出てくるとは思えないが、万が一ということもある。それを考えてしまうとやはり出すべきではないのではと思う秋子であった。
 だが、そんな悩みを抱える秋子の元にジンナが出撃部隊の編成表を持って現れ、書類をデスクの上においてくる。それに目を通した秋子はもう一度見返し、そして呆れたような顔になった。

「確か、みさきさんと斉藤さんの部隊だけで、という話ではなかったですか?」
「はい、それに少々志願する者が加わったようですな」
「少々の志願者で空母が加わるんですか?」

 持ち込まれた編成表には主力であるラザルス級空母やカイラム級戦艦の姿があった。確かに加わった船の数は多くないが、集まっている連中が主力級揃いなのが問題だろう。中にはどう見ても私情で参加していると思われる連中の姿もある。
 それらに一通り目を通した秋子はしょうがないなあという顔でその書類にサインをしてジンナに返した。そして右手を頬に当てて、何処かくすぐったそうな顔になってこう呟いている。

「本当に困ったものですねえ」





 フォン・ブラウン上空で行われる戦いは既に佳境を過ぎてエゥーゴの敗北への道をひた走っていた。可変MSやMAの攻撃を凌いだ後に襲い掛かってきたのは数え切れないほどのハイザックやマラサイ、バーザム、スティンガー、グーファーといった主力MSが押し寄せてきたのだ。
 これに対してエゥーゴももてる力の全てを叩きつけて必至に抵抗したが、ぶつけられた数と勢いでティターンズは勝っていた。加えてエゥーゴには士気という面で明らかな低下が見られている。これだけ差をつけられては勝てる道理がなかった。
 エゥーゴは一部の超高性能機とエースパイロットが必至に頑張っていたが、それももう先が見えていた。各部隊の指揮官たちはもはや潮時だと感じ取り、各々に脱出を考えた動きを見せている。
 ブライトもネェル・アーガマの艦橋から指示を飛ばしながらも、艦隊を少しずつ月から離す方向にもってきていた。

「もう十分だ、各艦は予定通りに月を離れ、サイド5に向けて脱出しろ!」
「ですが艦長、それじゃブレックス准将が!」
「分かってる、全部分かってるんだよそんな事はな!」

 分かっていてもどうしようもないんだ。無言の苛立ちをぶつけてくるブライトにオペレーターは黙り込み、自分の仕事に戻っていく。
 これは所定の作戦行動なのだ。各部隊の指揮官はこれまでだと判断した所で戦線を離脱し、各々の意思に従って戦場を離脱して新たな場所を目指す事になっている。ブライトは連邦に投降する事にしているのでサイド5を目指すのだ。
各部隊が徐々に戦線から離れだしたのはイリアスからも確認できたが、ブレックスは何も言わなかった。最初から各自の判断でいつでも戦闘を放棄して目的地を目指せという命令が出されていたからだ。
 離れていくネェル・アーガマやラーディッシュ、カルデラなどを見ながら、ブレックスは寂しげに敬礼を送っていた。

「エゥーゴの構想を抱いて5年か、長いようで短い戦いだったな」
「准将、まだ一部の艦が残っていますが?」
「逃げるように言ったのかね?」
「言いましたが、退く気はないようです」

 まだ何隻かのサラミスやグラースの姿がある。どうやら最後までブレックスと共にあろうとしているようだ。MSもまだ残っており、デュラハン・カニンガム少佐のリックディアスUの姿もある。
 エゥーゴ艦隊が散りだした為に防衛線が崩壊し、ティターンズのMSが雪崩れ込んでくる。その大軍に対してブレックスに殉じようとする者、あるいはもう戦いに疲れた者たちが最後の戦いへと身を投じていく。最後まで残ろうとしたパイロットには優先的に良い機体が与えられていたのか、大半がリックディアスやネロ、またはガンダムタイプのMSを使っている。
 それらに対してティターンズのMSが襲い掛かり、数に物を言わせて押し込んでいく。エゥーゴ側も死兵と化して最後の抵抗を試みたが、数で遥かに勝るティターンズMSを止める事は叶わない。
 ネロをウミヘビで仕留めたヤザンが部下2機を連れて遂にMS隊を突破し、ルーファスに迫る。それを防ごうとサラミスが間に割って入ろうとするが、ヤザンは楽々とそれを迂回してルーファスの側面に回り込み、背負っている2門のビーム砲を発射した。

「ラムセス、ダンケル、俺に続いてあの艦を撃て!」
「了解隊長!」
「ネェル・アーガマを沈めれば大金星ですよ!」

 対空砲火をものともせずにルーファスに迫り、次々にビームを着弾させていく。直撃したビームに艦首を、カタパルトを、砲を、艦橋を次々に破壊されていき、艦橋への直撃弾がブレックスを吹き飛ばした。
 ルーファスは3機のハンムラビの攻撃を受けても頑なに沈没しようとはしなかった。その耐久力は流石はエゥーゴ最強のネェル・アーガマ級だろう。攻撃を終えて一航過したヤザンが悔しげに舌打ちして反転、再攻撃を仕掛けようとしたが、それは下方から打ち込まれたバズーカ弾に阻まれた。

「ぬっ。ちぃ、何処のどいつだ邪魔しやがったのは!?」
「隊長、リックディアスU1機来ます!」
「ああ、舐めた真似しやがって。お前ら、アレをやるぞ!」

 3機のハンムラビが散っていく。それを見たデュラハンはクレイバズーカを適当に選んだ1機に向けて連射する。その1発がハンムラビの右足を捕らえて爆発し、吹き飛ばした。

「よし、あと2機!」

 1機を大破させたデュラハンは次を狙おうとしたが、その時ハンムラビが放ってきたウミヘビの推進器が左腕に当たり、そのまま絡んできた。そして今度は右足にも同じようにワイヤーが絡み付いてくる。それが何かと理解する間もなく高圧電流がリックディアスUを襲い、パイロットスーツを通してデュラハン本人にもダメージを与えていく。
 電撃のショックを受けたデュラハンが一瞬悲鳴を上げる。こうなっては指も動かす事が出来ず、回避行動も出来ない。動きを封じられた所にハンムラビのビームが直撃し、リックディアスUは火球へと変わっていった。

「ヤザン大尉、やりましたね!」
「それよりラムサスだ、大丈夫か!?」

 ヤザンはさっき仕留めたリックディアスUには興味を示さず、攻撃を受けたハンムラビを捕まえて安否を問う。幸いにしてすぐに答えは返ってきたが、戦闘続行は不可能だった。

「自分は大丈夫ですが、脚部は完全に駄目です。推進器も半分は死んで、ジャイロもやられました。自力行動不能です!」
「ちっ、仕方ない、こっちに移れラムサス。ダンケル、一度艦に戻るぞ!」

 大破した機体を捨てさせてラムサスをコクピットに入れると、ヤザンは自分の艦へと戻っていった。このデュラハン機の撃墜が彼の対エゥーゴ戦における最後の撃墜記録となる。



 ブレックスの戦死はエゥーゴの敗北を印象付ける決定的な出来事であった。既にそれぞれの目的地に向けて移動を始めていたエゥーゴの各部隊もイリアスの撃沈を聞かされたときは誰もが意気消沈し、自分たちの中心人物であった不器用な提督の死を悼んでいる。
 だが彼らに喪に服する余裕は無かった。最後までフォン・ブラウン上空にあったエゥーゴ部隊を撃砕したティターンズは一部の部隊を残し、逃げ散ったエゥーゴの追撃を開始したのだ。


 エゥーゴ艦隊を叩いたティターンズは周辺を征圧し、バスクのロンバルディアをフォン・ブラウン上空へと招き入れた。戦後フォン・ブラウンに入港する初めてのティターンズ艦艇という栄誉をロンバルディアが与えられたのだ。
 眼下に広がるフォン・ブラウンの街を見下ろしながら、バスクは満足そうであった。長年の宿敵とも言えるエゥーゴを遂に叩き潰し、月をその掌中に収めたのだから。

「遂にここに来たか。エゥーゴとの戦いがここまで長引くとは思わなかった」
「まだ終わった訳ではありません。残存部隊は散り散りになって逃亡中ですし、従わぬ月面都市も出てきましょう」
「そうだな。それで、他はどうなっておるのか?」
「グラナダはネオジオン艦隊が入っており、未だに戦闘中のようです。エアーズに向かったリーフは優勢でしたが、連邦軍の増援が到着したようで押されているようです」

 秋子が許可した斉藤とみさきの援軍は確かにエアーズ市を巡る戦いに間に合っていたのだ。背後から奇襲を受けたリーフ艦隊は混乱を来たし、浩之は戦場を放棄して後退し、態勢を立て直すしかなくなった。そして陣形を立て直して再侵攻しようとしたリーフは、それまでのエアーズ市守備隊とは比較にならない強敵を相手に苦戦を強いられていたのだ。
 だが、リーフは知らなかったが、この時エアーズ市上空に現れた艦隊には空母の姿は無く、出撃時よりも少し艦艇数が少なくなっていた。
 それに気付かなかったリーフは何の疑問も抱かずに斉藤とみさきに立ち向かい、戦巧者を相手に大苦戦をする羽目になったのだ。


 そしてバスクは、ロンバルディアを含む艦隊の一部をフォン・ブラウンに降下させ、周辺を征圧するのに十分なだけの戦力を残して残りはエゥーゴ残存部隊への追撃に振り向けた。彼らが何処に行くにせよ、自分たちの害にしかならないことは確実なのだ。ジオン残党のように後々まで祟る事が無いよう、ここで徹底的に掃討しようと彼は考えていたのだ。



後書き

ジム改 エゥーゴあっさり崩壊。
栞   脆すぎます、本当に一瞬ですよ!?
ジム改 孤立無援で数も少なく、士気も低いという状態じゃこんな物だよ。
栞   最初から負ける前提の戦いでしたからねえ。
ジム改 エゥーゴの敗因は戦う意義を見失った事だな。
栞   グリプス戦争開始した時点で連邦に恭順していれば良かったのに。
ジム改 それをやるとアナハイムが潰されてしまうのだよ。
栞   まあ命運尽きた組織の末路なんてこんな物かもしれませんねえ。
ジム改 末路は自滅か、嫌な最後だな。
栞   でもその点連邦軍は大丈夫ですね。
ジム改 何故に?
栞   我の強い人たちは皆敵になっちゃったじゃないですか。
ジム改 ……そういえば既に連邦軍は内部分裂状態だったな。
栞   忘れられがちですけど、エゥーゴもティターンズも元は連邦軍なんですよねえ。
ジム改 これで月は連邦とティターンズの新たな最前線になった訳だ。これから大変だぞ。
栞   一度は連邦の総攻撃を受けてますし、月面都市ってこの話だとかなり酷い目にあいますね。
ジム改 それでは次回、逃げるエゥーゴを追撃するティターンズ。グラナダに姿を現すキャスバル。シロッコの存在を感じ取ったアムロが彼を食い止めようと殿に付く。アムロたちが時間を稼ぐ間にサイド5へと逃げるブライトたちであったが、その進路上に臨戦態勢の連邦艦隊が姿を現し、砲を向けてきた。次回「前門の虎、後門の狼」でお会いしましょう。