序章 新たなる潮流 

 

 宇宙世紀0079年、ジオンの宣戦布告によって始まった戦争は全人口の半数近くを失わせるという、史上に類を見ない最悪の結果に終わった。結局、この戦いで人類が得たものはあったのだろうか?
 新たなる殺戮の道具、MSとMA。
 ジオン・ダイクンが存在を主張し、歪んだ形で証明されたニュータイプ。
 そして、スペースノイドとアースノイドという新たな対立の図式。
 これらを得た代償に人類はおよそ50億の人命と、コロニー落としとそれに続く地上での戦闘による環境破壊。そして、平和である。この戦い以降、人類は20年にも及ぶ泥沼の戦争状態を迎えるのだ。

 連邦軍本部、ジャブロー。1年戦争以降、その権限を著しく拡大した軍部は莫大な軍事予算を得て連邦軍を再建していた。あれだけの損害を出した連邦軍は2年と経たずに再建してしまったのだ。その為の予算は本来なら救済されるべき戦争被害者達に当てられる予算を削って回されたものだ。連邦市民、特に冷遇されているスペースノイドの反感は大きく、いつ大規模な暴動が怒ってもおかしくない現状なのだが、ジャブローの会議室ではコロニーに対する締め付けを強化する提案が承認されようとしていた。

「このような事をすれば、スペースノイドの連邦への反感を高めるだけですよ!」

 連邦軍第2艦隊司令官である久瀬中将が真っ先に反対する。だが、久瀬中将に対する周囲の視線は冷たかった。

「分かってくれんかね、久瀬提督。コロニーに必要以上の余裕を与えてはならないのだ」
「その通り、奴らを下手に増徴させれば第2のジオンを生みかねん」
「毒蛾は卵のうちに潰しておくべきだ。被害が出ないうちにな」

 連邦軍の高官達は口々にこの処置の必要性を説く。そのどれもが久瀬には苦々しく思えた。

「しかし、これ以上厳しくすれば、コロニーの経済が破綻しかねません。そうなれば、かえって反抗の火種に油を注ぐことになります」

 それくらいのことがどうしてわからんのだ!久世の心中に激情が吹き荒れていたが、表には出さず、必死に参列者を説得しようとしている。だが、そこで久瀬が最も警戒している人物が口を開いた。

「久瀬君、君の言うことも最もだ。しかし、我々は新たな艦隊再建計画を発動している。新造戦艦バーミンガムの建造も始まっている。我々には更なる予算が必要なのだよ」

 宇宙艦隊司令長官ワイアット大将が宇宙艦隊の意見を代弁するかのように言う。

「しかも、ジオンの残党はなおも跳梁し続けている。これらを掃討するためにも艦隊戦力の充実は必要不可欠なのだ。スペースノイドどもが少々の苦しみを味わおうとも、それはもともとは奴らが独立などと言う戯けた妄想を抱いた報いではないか。その妄想のために今、我々がこうして苦労しているのだ」
「それはザビ家の犯した過ちです。スペースノイド全体の罪ではありません」
「同じ事だ。現に今も連中は声高に独立をうたい、反地球的な言論を繰り返している!」
「それは一部の思想家達です。スペースノイド全体がそういう考えを持っているとは思えません!」

 久瀬は必死に食い下がるが、その言葉の説得力は薄かった。実際には多くのコロニーで地球連邦に対する抗議集会が開かれ、中にはジオン残党をコロニーぐるみで支援している所まである。その証拠に、拠点を失って衰退していくはずのジオン残党は今でも元気に活動を続けている。どこからか、彼らに物資が流れているのだ。久瀬も必死にその流れをつかもうと努力し、実際に幾つかのルートを摘発したが、その中にはコロニーの自治政府丸々一つ、などというものまであったのだ。
 それらの実情を知っているだけに久瀬に味方するものは少ない。この場に参加を許されている中将以上のメンバーの中で、久瀬の主張に理解の色を見せているのはコーウェン将軍だけだ。他のメンバーは全員非難の視線を向けている。
 そして、これ以上の議論は無駄と判断したのだろう。宇宙軍総司令官ゴップ大将が口を開く。

「結論は出たようだな。コロニー自治政府のコロニー管理税を引き上げる。合わせて、コロニー間の移動に使われる船舶の管理を強化する。また、コロニーに駐留する連邦軍を増強する。異論はないかな?」

 無い筈がない。久瀬はそう思ったが口には出さなかった。言ったところで、結果が変わるわけではない。この会議とて、民主主義の建前を守るためであって、実際には何の意味もない。現に、参列していた連邦政府の高官は一言も発言していない。彼らは、ここに参列していたという事実のためにここに居るのだから。
 参列者が退席した後、会議室には久瀬とコーウェン将軍だけが残っていた。

「悔しいかね、久瀬提督」

 久瀬は答えなかった。ただ俯いて何かに耐えるように両手をテーブルの上で握り締めている。久瀬の返事がないのを見てコーウェンは続けた。

「これが連邦の現状だよ。彼らはスペースノイドを押さえつけることしか頭にない。ザビ家を生んだ真の理由も考えず、力だけで解決しようとする。民族独立の気運は力だけでは抑えきれない。そのことは歴史が証明している」

 コーウェンはAD20世紀の半ばに起こった植民地の解放の故事を持ち出した。あの時、軍事力で圧倒的に勝っていた支配者達は無力とも言える現地人の反抗を抑えきれず、独立を承認するしかなかった。歴史の流れは軍事力だけでは抑えられない。そうコーウェンは言っているのだ。

「そうなら、これからも地球と宇宙の対立は続くのでしょうか?」
「続くだろうな。連邦が今の姿勢を改めない限り、この問題が消えることはあるまい。だが、それで一番被害を受けるのは民間人だ。我々ではない」

 コーウェンが苦々しげに言う。

「あるいは、新たな勢力が誕生し、地球連邦と同等の力を持てば連邦も代わらざるをえなくなるかもしれん。現にジオンとの戦争の時は連邦は今より遥かにましに動いていた」

 どこか懐かしむようなコーウェンだった。その目にはジオンと戦っていた頃が映っているのかもしれない。だが、その一言が与えた影響の大きさにコーウェンは気付いていなかった。その時、久瀬の脳裏には一つの考えが浮かんでいたのだ。新たな勢力という考えが。




 ジャブローの決定に伴い、連邦宇宙軍は多くの艦艇をコロニー防衛に割いた。しかし、ジオンが崩壊した今、何故これほどの防衛艦隊が必要なのか。その事実を知るものは現場にはほとんどいなかった。ただ、彼らが知っているのは連邦軍がさらに強力なものになっていくという事だ。





 そして宇宙世紀0081年、新たな流れが宇宙を激流へと導いていく。





 新編成された第4独立艦隊では問題が発生していた。1年戦争を戦い抜いた歴戦のエース、黒い雷トルビアック・アルハンブル中尉が上司となったシアン・ビューフォート少佐に食って掛かっていたのだ。

「俺は、実力が無ければ上官とは認めないからな」
「・・・なるほど。戦争で武勲を立てたことで天狗になってるのか」

 シアン少佐はやれやれと頭を振る。その態度にトルビアックは激怒した。

「天狗になってるかどうか、教えてやろうか!」
「ふん、言っても分からんか。いいだろう。相手をしてやる」
「なら、MSで勝負だ!!」

 そう言うと、トルビアックは愛機のヘビーガンダムに乗り込んでいく。苦笑しながらシアンも自分のジムに向かっていった。
 この模擬戦は誰もがトルビアックの勝利を信じていた。無名のシアンに対して、トルビアックは黒い雷と呼ばれるほどの凄腕だからだ。だが、勝負は誰もが予想しなかった形、トルビアックの完敗で終わった。
 ヘビーガンダムにペイントライフルを突きつけてシアンはトルクに笑いかけた。

「これでいいのかな、中尉」
「・・・な、なんでジムでヘビーガンダムに勝てるんだ?」

 惚けたような顔でトルビアックが聞く。

「実力の差って奴だ。まあ、これで文句は無いんだろう?」
「・・・分かったよ、隊長・・・」





 士官学校では新しい士官達が卒業していった。1年戦争の影響で教育期間を短縮され、中には半年で卒業した者もいるが、その能力は従来の卒業生を上回るとさえ言われている。そんな新米士官達の中に際立った容姿を持つ2人組がいた。

「あはははは〜、舞、私達もこれで軍人さんですね」
「・・・うん・・・」
「はえ、舞は嬉しくないんですか」
「・・・佐祐理と違う部隊かもしれないから・・・」

 舞は佐祐理と離れるのが嫌らしい。2人は士官学校の親友同士で、MSパイロットとしては常にトップ3に入るほどの腕前をしている。ちなみにトップは常に舞だ。佐祐理が2位を争っていたのが久瀬という自分達より1歳年下の男だ。このうち、久瀬と舞は半年で卒業した組である。実は佐祐理と久瀬は親が付き合いがあり、知り合いである。また、久瀬は佐祐理に気があるらしいが、佐祐理がどう思っているかは不明である。

「あはは、はあ。そうですねぇ」
 佐祐理も少し困った表情になる。だが、すぐに明るさを取り戻した。
「大丈夫ですよ。きっと一緒の部隊になれます」
「・・・うん・・・」

 だが、舞は不安げだった。
 結局、佐祐理の予感は当たり、2人でおなじMS隊に配属されることになる。それを知らされた舞と佐祐理は大いに喜んだ。




 そして、1人の男が久瀬中将に接触してくる。

「中将、私の話を聞いていただき、ありがとうございます」
「・・・ジオンの残党が、私に何の用があるというのだ?」

 久瀬は不機嫌さを隠さずに言う。彼も連邦の軍人であり、ジオンを快く思っていない。

「お分かりだと思いましたが。貴方は現在の連邦に絶望しているはずだ。そして、どうにかして現状を変えたいと思っている。違いますか?」
「どうしてそれを知ったかは聞かないことにしよう。それで、私に何を望んでいるのだ?」
「私はある組織に所属しています。そして、我々はその協力者として貴方を選んだのですよ」

 そう言って男は薄く笑った。その笑いに久瀬は嫌悪感を覚えたが口にはしなかった。

「協力者?」
「そう、我ら火星ジオンは貴方を指導者として向かえる用意があります。貴方は連邦軍の実戦部隊に人望がある。貴方が反旗を翻せば従う部隊も多いはずだ。それらと我々が協力すれば火星の独立も夢ではない。そうは思われませんか?」

 男の話に久瀬は考え込んだ。確かに私が反旗を翻せば私の第2艦隊にもう2,3個艦隊、さらに独立艦隊もある程度は付いて来てくれるだろう。それにジオンの火星拠点の戦力と生産力を合わせれば、そして火星と地球の距離を考えれば連邦軍と互角に戦うことも可能かもしれない。久瀬は去年の会議の後、コーウェン将軍が言っていたことを思い出した。

(新たな勢力が誕生し、連邦と対等の力を持てば……)

 久瀬は決意を秘めた顔で男を見返した。

「分かった。やってみよう。だが、君達がどれほどの実力を持っているのかが分からんな。一つ、君達の力を見せてくれるか?」
「どのようにして?」
「・・・ルナツーを攻めてくれるか?それが成功すれば、君達を信じよう」
「ルナツーをですか?それは難問ですな。しかし、やれるでしょう。貴方の息のかかっている部隊は動かないでいただけますか?」
「いいだろう。ルナツー直衛艦隊と主力艦隊は動かさずに置こう。だが、独立艦隊は無理だぞ」
「かまいません。それくらいは叩いて見せますよ」
「たいした自信だな。まあいい。期待させてもらおう、アヤウラ中佐」
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。久瀬中将」




 連邦軍の艦隊再建計画によって多くの新造艦が完成し、やはり多くの旧式艦の改装が行われた。これにより連邦軍宇宙艦隊は戦争前を上回る規模にまで再建され、その威風はかつての連邦軍を圧倒している。
 そして、ルナツーでは今、新たな時代を担うであろう超大型艦艇が完成していた。ジオン軍の技術と連邦の技術が融合した新世代の超大型戦闘空母、カノンである。設計の土台となったドロス級空母に連邦の技術の結晶であるペガサス級で培われた技術が用いられ、さらにそれを連邦艦らしいスマートな船体に纏め上げた優美な船だ。
 しかし、このカノンは連邦軍の技術の結晶であると同時に、連邦の腐敗をも象徴していた。これほどの艦艇なら当然主力艦隊である第1艦隊か、第2艦隊、もしくは第3艦隊に配属されるはずだが、軍上層部でさまざまな足の引っ張り合いがあり、巡りめぐって第8独立艦隊の旗艦として配備されることとなったのだ。カノンを受け取った第8独立艦隊水瀬秋子准将は大いに喜んだが、残念ながらカノンはその戦闘能力を100パーセント発揮することはできない状態だった。なぜなら、戦闘空母という艦種でありながら、搭載されているMSは僅か16機、1個中隊+1個小隊程度でしかなかったのだ。
 しかし、カノンは配備されて僅か2ヶ月で輝かしいとも言える戦果を上げていた。司令官である秋子の能力もあるだろうが、カノンの戦闘能力は1艦で1個戦隊に相当するとまで言われており、敵対するジオン残党を圧倒してきたのだ。だが、その活躍は同僚の妬みを誘い、またカノンの戦闘能力が秋子の能力への評価を曇らせたともいえる。特に第4独立艦隊のエニー・レイナルド大佐は秋子をライバル視しており、事あるごとに彼女を卑下していた。
 そんな秋子とカノンだったが、悪い事ばかりだった訳ではない。新兵が多い連邦軍MSパイロットだが、カノンもようやく歴戦のパイロットを迎えることができた。
 カノンの格納庫に新たに1個中隊相当のMSが搬入されてくる。さらにルナツーからシャトルが何機も進入してくる。カノンに配属される新しいクルーがやってきたのだ。秋子はその新たなクルーを自らで迎え、労いの言葉をかけていったが、2人の士官を前に足を止めた。嬉しさを隠さずに微笑む。

「お久しぶりですね、祐一さん、北川さん」
「お久しぶりです、秋子さん」
「司令官就任、おめでとうございます」

 祐一と北川も笑顔で挨拶する。秋子が待っていたのはこの1年戦争を戦った歴戦のパイロットである2人だったのだ。2人とも自分の小隊を持つことになっている。

「祐一さんと北川さんの率いる小隊ですが、すでに部下になる人たちは乗艦して待っていますよ」

 そう言って秋子がくすくす笑う。その様子に祐一の背中を不吉な予感が駆け抜けた。

「あ、あの、水瀬司令?」
「いやですよ祐一さん。秋子でかまいません」
「はあ、じゃあ秋子さん。一体、何を企んでるんですか?」

 祐一に聞かれたが秋子は笑顔を崩さない。

「会ってみれば分かりますよ」

 こうなったら秋子は絶対に何も言わない。祐一は嘆息すると北川と始めての部下の顔を拝みにいった。

「でも相沢、一体どんな奴だろうな?俺達の部下になる奴って」
「俺に分かるわけないだろう。でもなんか嫌な予感がするんだよな」
「ああ、秋子さんのあの態度だとな」

 2人は秋子の性格を良く知っている。それは一言で言えば、謎である。ただ、面白くなりそうな事なら手を出してくる。それは間違いない。そのことを良く知っているだけに、2人は不安になるのだ。
 2人の予感は的中した。いや、正確には祐一だけだが。

「うぐぅ!!祐一君!!」
「・・・へ?」

 祐一は反射的に横によけた。片足だけ残して。そこに衝撃が来て、背中に羽付きリュックを背負った少女がもんどりうって転んだ。そのまま動かなくなる。

「・・・え〜と、今のは俺が悪いのかな?」
「ああ、相沢が悪いと思うぞ」
「そうか、俺が悪いのか」
「ああ、」
「しかし、謝ろうにもすでに息絶えてるしなぁ」

 祐一が深刻そうに呟く、その時、息絶えたはずの少女が勢いよく立ち上がった。

「おわ、ゾンビか!?」
「違うよ!!」

 少女は打ちつけたのであろう。真っ赤になった鼻を抑えて涙を浮かべている。

「うぐぅ!祐一君がよけたぁ!しかも足までかけておまけに死んだことにして済ませようとしたぁ!」

 大声でまくし立てる。

「ああ、すまないあゆあゆ。ついいつもの癖で」
「あゆあゆじゃないもん!しかもいつもの癖にしないでよ!」
「とわ言われても、これは俺の体に条件反射として組み込まれてるしな」
「うぐぅ、祐一君の意地悪」

 あゆが涙目で祐一を見上げる。その様子を見て祐一が噴出した。

「ははははは、すまんすまん、久しぶりだなあゆ!」
「・・・調子がいいよ、祐一君」

 あゆは拗ねている。まあ無理もないだろう。そこに、別の人物がやってきた。

「祐一、やっと会えたよ!」

 祐一が声のした方を向くと、見慣れた女性が立っていた。いや、2年近くも見ていなかったためか、自分の知っていた頃よりも大人という感じがした。

「・・・ひょっとして、名雪か?」
「そうだよ、どうしたの祐一?」
「・・・いや、なんていうか、そのな・・・」

 まさか、綺麗になったなどと言える訳がない。祐一が困っていると、後ろから北川が前に出てきた。

「よう、久しぶりだな水瀬さん。昔よりもずいぶんと美人になったな」
「え、そ、そんなことないよ。お世辞が過ぎるよ、北川君」
「いやいや、お世辞じゃないさ。なあ相沢」

 北川に聞かれても祐一は答えなかった。祐一は北川を恨めしげににらんでいたのだ。北川め、俺が恥ずかしくて言えなかった台詞をあっさりと言いやがった。やはり只者じゃないな。
 祐一の考えが分かるはずもなく、北川は祐一の厳しい視線に戸惑っていた。

「どうしたの祐一、そんな悔しそうな顔して?」

 名雪が不思議そうに聞いてくる。

「いや、気にしないでくれ、これは俺のプライドの問題なんだ」
「・・・そう?」

 祐一の台詞はかなり変なものだったが、名雪は気にした風でもない。ただ、少し嬉しそうになった。

「・・・どうした?」
「ううん、祐一が相変わらず変で嬉しいだけだよ」
「・・・そんなことで喜ばれても嬉しくないぞ」
「私は嬉しいよー」

 名雪の本当に嬉しそうな表情に祐一は苦笑して肩をすくめた。

「それで、どうして2人がいるんだ」

 祐一が疑問に思ったことを口にする。2人は意外そうに顔を見合わせた。

「どうしてって、祐一の小隊に配属されたからだよ」
「うん、そうだよ」
「・・・はい?」

 2人の返事に祐一は頭が真っ白になる。

「うそだろう?」
「ううん、うそじゃないよ」
「うん、秋子さんに言われたもん」

 その返事に祐一は全てを理解した。あの秋子の微笑みの意味を。あの嫌な予感をそして、この2人がここにいるわけも。

「秋子さん!何考えてるんだ――!!」

 祐一、心からの絶叫である。
 その祐一の肩を北川が叩いた。

「ところで相沢、感動の再会中悪いんだが」
「これのどこが感動の再会なんだ?」
「気にするな、それより、その子は誰なんだ?」

 北川があゆを見ながら言う。北川は祐一と1年戦争が始まる半年前に出会い、親友と言える仲になっている。祐一の縁で秋子や名雪とも知り合いである。開戦と同時に2人は連邦軍に志願したから、それ以後のことは知らないが。少なくとも、北川はあゆに会ったことは無い。

「月宮あゆだ。俺が知る限り前科2犯の食い逃げ犯だ」
「食い逃げ?」
「うぐぅ、食い逃げじゃないもん。後でちゃんとお金を払ったもん」
「金を払わずに食べ物を持ち逃げするのを食い逃げというんだ」
「・・・うぐぅ・・・」

 祐一の反撃であゆが黙り込む。それを見て祐一は話を変えた。

「まあ、それは置いといて。こいつは俺の幼馴染でな。まあ話せば長くなるんだが、いろんな事情があって入院していてな。退院したのはいいんだが、身寄りがなくてな、秋子さんが引き取ったんだ」
「俺は見たことないぞ」
「ああ、その頃はあゆは病院でリハビリをしていたからな。北川が出て行った頃にあゆが帰ってきたんだ」

 祐一の説明に北川が納得して頷く。

「なるほど、そういうことか」

 そう言って改めてあゆに向き直る。

「改めてよろしく、あゆちゃん。俺は北川だ。」
「うん、よろしく!」

 そう言ってあゆも元気に返す。どうやら2人は仲良くなれそうだ。




 サイド6には嵐が吹き荒れていた。正確には食い物屋に吹き荒れていた。

「う〜ん、ここの特製カレーはおいしいよ〜」

 そう言ってスプーンを口に運ぶ黒髪の女性。その表情は幸せそうに緩んでいる。その傍らには今までの戦果だろうか。5つの皿が積まれている。そう、この女性は「30分以内に食べたらタダ」なカレーをすでに6杯目に取り掛かっていたのだ。奥の方では店員と店長がなにやら泣き崩れている。
 そんな様子を同席している2人は困り果てた表情で見ていた。

「あ、あの、みさき先輩。今日はもうこれくらいでいいでしょう」
「そ、そうだよみさき先輩。これ以上は体に悪いよ」

 2人に言われたみさきという女性は考え込むようにスプーンを加えて宙を見ている。だが、その瞳には光が無い。彼女は盲目なのだ。もっとも、そんな苦難を背負っているとはかけらも感じられないが。

「う〜ん、まだおなかいっぱいじゃないけど2人がそう言うんならやめておくよ」
「まだ入るんかい!!!」

 と2人は叫びたかったが、流石にそれはできない。引きつりまくった笑顔で2人は店の外を眺めやる。そこには物凄い人だかりができていた。無理も無い。みさきが食べまくっているのはこれで5軒目なのだから。
 店を出た後、3人は宇宙港に向かって歩き出した。

「でも艦長、いいんですか。こんな目立つことをしても?」

 隣で瑞佳も大きく頷いている。

「大丈夫だよ。私達私服だし、見たって正体はばれっこないよ」

 自信ありげにみさきが断言する。まあ、こいちらを見て私服の軍人とは誰も思うまい。せいぜい仲のいい高校生か大学生だ。
 そこで、不意にみさきの表情が厳しくなる。

「でも、次の目標は手強いよ。油断したら帰ってこれないと思う」
「は、分かってます」
「でも、きっとまた皆で帰ってくるもん」

 浩平が頷き、瑞佳が笑顔で返す。それにつられてみさきも笑顔に戻った。

「そうだね。また帰ってきて、一緒にお昼を食べ歩かないとね」
「「それだけは勘弁してください!」」

 みさきの返事に2人が涙ながらに訴える。だが、すぐに3人とも噴出した。

「それじゃ、行こうか。ルナツーへ」




 こうして、時代の新たな主役達はそれぞれに動き出し、周囲を巻き込んで新たな悲劇を生もうとしていた。多くの者は歴史の影で蠢く淀んだ悪意に操られていることを知らず、己が理想と信念、そして夢をかけて若者達は戦場に赴く。そして、その戦いは歴史の中に封印されていた、ジオンの生み出した最悪の悲劇の一つ、消え去ったはずの亡霊を呼び覚ましてしまう。戦争という狂気は、全てを残酷に、そして正確に人々につきつけてくる。それでも人は戦い続けてしまう。自分の信じる何かの為に。そして、自分の答えを得るために。




後書き
 
ジム改  ガンダム好きが高じて、遂にこんな駄作を生み出してしまいました。やりたい事が多いので、しばらくお付き合いしてくださると嬉しいです。
祐一  何を畏まってんだか。どうせすぐに地が出るぞ。
ジム改 うるさいやい。
祐一  ふ、まともなSSなど書けんくせに、連載作品など作ろうとするからだ。身の程を知れ。
ジム改 ……祐一君、覚悟しておけよ。貴様は北川以下の扱いにしてやる。
祐一  なにい! そんな事を、KANONファンが許すと思っているのか!
ジム改 だって俺、北川ファン、と言うか、脇役を愛する男だもん。
祐一  この外道作者が!。
ジム改 ふっ、所詮は主役の道を外れた男の遠吠えか。もう聞くに堪えんな。連れて行け。

どこからとも無く現れた男たちによって祐一君は連れて行かれてしまった。

ジム改 さてと、静かになったところで、このお話はどこまで続くのか、本当の完結するのか。正直言って作者である私にもはっきりしていません。いえ、大体の流れは作ってあるんですけどね。あと、登場キャラクター作成に協力してくれた皆様に、ここで感謝させてもらいます。

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