第2章 ジオンの残党



 カノン隊がジオン残党と交戦しているころ、別の宙域でも激しい戦闘が行われていた。連邦軍第4、第6独立艦隊が待機していた宙域にジオン艦隊が現れ、激しい艦隊戦となったのだ。双方の戦力はほぼ拮抗しているものの、MS隊の質の差が大きく響いていた。連邦のMSパイロットはジオンに比べて錬度でかなり劣っており、しかも大半の者が1年戦争を経験していなかったのだ。それに対してジオンMSパイロットは大半が1年戦争、またはその後の小競り合いで実戦を経験しており、MSの性能では連邦側が勝っているにもかかわらずジオン側がMS戦で優勢に立っていた。
ザイドリッツで指揮をとっているアヤウラは上機嫌だった。1年戦争以来、久しぶりに連邦を叩きのめしているのだから無理もないのだが、その頬ははたから見ても緩んでおり、だらしなさを感じさせる。

「久しぶりの艦隊戦だが、なかなか上手くやれるもんだな」

 アヤウラの唯一の心配は訓練不足だ。1年戦争で敗北して以来、連邦の追撃をかわしながら海賊紛いの事をしてきたのだ。当然訓練などしている暇はなく、全体の錬度が低下していないかと思っていたのだ。
 だが、それも杞憂に終わった。部下たちは連邦のザコどもを一方的に叩きのめしている。もうしばらくすれば完全な勝利がものにできるだろう。
 そのとき、1機のリックドムがザイドリッツに着艦してきた。艦橋に接触通信が入る。

「中佐、エターナルがMSを引き上げた。じきに向こうに行っていた艦隊が戻ってくるぞ」

 その報告にアヤウラは苦々しげに顔を歪めた。

「ちっ、エターナルの奴らめ。まあいい、クルーガーも戦闘に参加しろ。増援が来る前に目の前の敵を片付けてとっとと逃げ出すぞ」

 アヤウラのクルーガー隊投入は勝利を決定的にするためのものだったが、結果としてこの命令が遅れてやってきた災厄を食い止めることになった。クルーガー隊が戦場に到着したとき、第4独立艦隊が放っていた迎撃隊もようやく戻ってきたのだ。


 遅れてやってきたシアン率いるMS隊6機が戦場に到着したとき、戦場は連邦MSと航宙機の墓場となっていた。艦艇もほとんどの艦が傷ついており、戦力は半分以下に落ち込んでいるようだ。

「ずいぶんと好き勝手にやってくれたものだな。しかしまあ、敵を誉めればいいのか、味方を貶せばいいのか・・・」

 シアンは味方の余りの不甲斐なさに情けなくなった。MSの性能ではジオン残党が所有するMSを上回っているはずなのにこうも一方的に負けているのだから。
 シアンはとりあえず手近なところにいる敵MSに目をつけると自分のジムを全速で突っ込ませた。その目標にされたザクUは直ぐにこちらに気付いてマシンガンを打ち上げてきたが、シアンはそんなものは無視して突っ込んでいく。実際のところ、高速で突入してくる目標に弾を当てるのは非常に難しいのだ。MS1機程度の弾幕などたいしたものではなく、当たっても1〜2発ではジムの装甲を打ち抜くことはできない。いともあっさりとザクUに近づいたシアンはビームスプレーガンの一撃でザクUを撃破してしまうと、素早く近くの敵に目を向けた。見方を撃破されたのに気付いたのだろう。近くにいた4機のザクUやリックドムがこちらに向かってくる。

「好都合だな」

 こちらに来るのを見たシアンは薄く笑った。彼にしてみれば敵からこちらに来てくれるのは余計な手間が省けてありがたいのだ。

「あいにくだがな、4機じゃ俺の相手はできんよ」

 そう呟いて機体を激しく蛇行させて突っ込んでいく。最初の犠牲者はリックドムだった。動きをまったく捉えられないまま懐に飛び込まれたリックドムは、すり抜けざまにビーム・サーベルで真二つにされてしまった。そして、残る3機が後を追ったのはその2分後だった。
 乱戦に加わろうとしていたクルーガーは味方の動きがおかしいことに気付いた。全体として浮き足立っているのだ。

「何かあったのか」

 不思議に思ったクルーガーは手じかにいたリックドムを捕まえると事情を問いただした。

「おい、何があった」
「あ、クルーガー大尉。それが、やたらと動きのいいジムを中心とする6機のジムが現れまして、その動きのいいジムにこちらは5機も落とされました」
「ばかな、たった1機のジムに5機のMSがか!!」

 クルーガーには信じられなかった。ジムは決して弱くはない。こちらのザクUに比べれば全体的に勝っている。しかし、ジムは使いやすさを優先したために限界性能が低い。つまり、誰が乗っても使いこなせるが、凄腕のパイロットが乗っても一般兵と大して変わらなくなってしまうのだ。そのジムに5機のMSが落とされたというのだ。
新型なのか、それともジムの改造機か?
 クルーガーは迷ったが、すぐにその迷いを振り払った。ここで考えても仕方がない。戦ってみれば分かることだ。

「お前達は艦隊を叩け。私はその動きのいいジムの相手をする」
「分かりました。大尉なら安心ですね」
「おだてても何も出んぞ」

 そう部下に返すと、クルーガーはジムのいるらしい方向に向かった。そのジムは直ぐに見つかった。3機のリックドムやザクUを相手に立ち回っているジムがいる。周囲にもジムがいるが、こいつらは大した事はないらしく、味方のMSが押さえ込んでいる。

『厄介なのはあいつだけか』

 そう判断すると、クルーガーは機体を動きのいいジムにむけ、ジャイアント・バズを1発ぶっ放した。弾は狙いどおりにジムの未来予想位置に向かっていったが、あっさりとかわされてしまった。クルーガーも当てるつもりはなく、動きを止められればいいぐらいで撃ったので別に気にしなかった。
 シアンは新たな敵を視界に捉えたが直ぐにそれを無視した。リックドムが1機増えただけなら大した問題ではない。目の前の3機を片付けたら相手をしてやる。そう判断しての無視だったのだが、直ぐにその考えを改めさせられた。その新たなリックドムはシアンの予想を遥かに上回る動きで自分の進路に割り込んできたのだ。

「読まれたのか!」

 驚愕の叫びをあげて機体を上昇させる。その直後に今までいた所をシャイアント・バズの弾が貫いていく。ジムがあんなものを食らえばひとたまりもない。

「至近距離からのバズ、か。相当実戦馴れしたやつだな」

 そう呟くシアンだったが、別に焦りの色はない。勝てない相手ではないと瞬時に悟ったのだ。
 そのまま2機のMSはもつれ合うように激しいドッグファイトに突入していった。

「シアンはどうした!呼び戻して艦隊の直衛をさせなさい!」

 エニーの表情には余裕がない、すでに指揮下の艦艇のうち2隻が宇宙の塵と消え、残る3隻も無傷ではない。エニーの旗艦であるマゼラン級戦艦ルイジアナも中破といえる損害を受けている。何よりMS隊の損害が大きく、すでに数えるほどしか残っていない。ここまで追い詰められると、いかに旧式とはいえシアンに預けていたジム1個中隊が惜しいのだ。
 そのシアン隊が戻ってきたのに喜んだのも束の間。12機のジムを送ったはずなのに6機しか戻ってこない。しかも当のシアンは遠くのほうでリックドムと派手なドッグファイトを演じている。これではさすがに怒るのも仕方がない。

「シアンはどうやらエース級の奴と遣り合ってるようです。今こちらに来るのは無理です!」

 副官が意見を唱えるだが、エニーはそんな副官の顔を一瞥しただけで再度オペレーターにシアンを呼び戻すように指示した。
 呼び戻された方はそれどころではなかった。確かに負ける気はしないが、そう簡単に勝たせてもらえる相手でもないのだ。ちょっとでも油断すればたちまち致命的な一撃をもらいかねない、そんなギリギリの状態で戦っているのだか。

 



 第4、第6独立艦隊が苦戦しているころ、5隻の艦隊がようやくこの戦場に到着していた。サラミス4隻と、サラミスを圧倒する(サラミスの全長は223メートル)全長583メートルという巨体を持つ戦闘空母カノンがアヤウラ艦隊を補足したのだ。
 ジオン艦隊を補足した第8独立艦隊は慌しくMS隊を出し始めた。この艦隊は全艦がMS搭載能力をもっており、旗艦カノンの群を抜く搭載量と合わせると物凄い数のMSを出せることになる。満載時ならだが。
 戦闘を前にして秋子は珍しく引き締まった表情をしている。こういう時は秋子も司令官の顔になるのだ。

「各艦はMS発進後、敵艦隊に向けて牽制の砲撃を2分間行います。MS隊は斜線上に入らないように注意しなさい」

 そう言うと秋子はMSデッキに通信をつないだ。

「トルビアック中尉はそちらに居ますか?」

 呼びかけが聞こえたのか、直ぐにトルビアックが出る。

「なんですか准将?もう直ぐ発進なんですが」
「第4のMS隊と先鋒隊を率いて先行してください。スペース・ジャバーの使用も許可します」
「いいんですか?」
「かまいません。第4、第6独立艦隊がひどく叩かれています。助けがないと危ないかもしれません。それに、うちにはまだ十分な数のMSがありますから」

 そう言ってにっこりと微笑む。それを見て、トルビアックは小さく敬礼して通信を切った。

「先鋒隊、出撃します!!」

 オペレーターの報告に合わせるかのようにカノンに備わっている3基のMSカタパルトから次々とMS隊が発進していく。全機がスペース・ジャバーに乗っており、その姿はたちまち見えなくなった。
 続いて各艦が若干距離をとると、全力射撃が開始された。こうなるとMS隊は危険で戦艦の前には出られない。その一斉射撃は、勝ちに乗っているアヤウラ艦隊の出鼻をくじく一撃だった。
 アヤウラは連邦の増援が迫っていることは知っていたが、こんなに速く来るとは思っていなかった。だが、ジオン艦艇は正面の敵には強くても横や背後からの攻撃には脆い兵装配置になっている。つまり今のアヤウラには第8独立艦隊を迎撃するのは難しかったのだ。

「くそ!これまでだな。全艦撤退するぞ!」

 勝ち目がない以上ここに居ても仕方がない。そう決断したアヤウラは急いで戦場を離脱にかかった。それを追撃するべき第4、第6独立艦隊にはすでに戦闘能力はなく、これを追うことはできなかった。


 戦場の変化にはシアンもクルーガーも直ぐに気付いた。まったく別の方向からジオン艦隊に浴びせられる砲撃と、潮が引くように撤退していくジオンMS隊。ジオン艦隊は逃げに入ったのだ。

「味方の艦隊か!」
「エターナル隊にかまっていた艦隊が戻ってきたか!」

 シアンとクルーガーがほとんど同時に言う。こうなるとシアンは戦う気がなくなった。ここで無理をして追撃しても何の得もないのだからしょうがない。クルーガーのほうも目の前のジムが急に下がったのを不審に思ったが、直ぐに全速で逃げ出した。もしも置いていかれれば連邦の大群に包囲され、降伏か戦死かのどちらかしかなくなる。
 クルーガーが逃げていくのを見てシアンはようやく一息ついた。これだけの戦いは久しぶりだったので少し緊張していたのだ。ヘルメットを脱いで開放感を味わっていると、旗艦から通信が入ってきた。

「シアン、司令が呼んでいる。直ぐにルイジアナに来い」
「今からか?さすがに結構疲れてるんだが」
「今すぐにだ!!」

 参謀の叩きつけるような声に顔をしかめながら、シアンは自分の機体をマゼラン改級戦艦の艦橋に近い甲板に導いた。直ぐに甲板員が機体を艦橋の傍のMS用ラッチに固定してくれる。旧式のマゼランやサラミスにはMSを搭載できるタイプもあるが、整備、補給能力はないので、母艦機能をもつコロンブス改級MS母艦やペガサス級に着艦したほうが良い。しかし、連邦軍内部にはいまだに根強い大艦巨砲主義があり、マゼラン、サラミス共に砲戦能力を強化し、このマゼラン改のようなMS搭載能力を排除した新型艦が続々と就役している。シアンから見ればこれはあきらかな時代錯誤であり、大して役には立つまいと考えている。
 ジムを降りたシアンは甲板員に挨拶をすると、そのまま艦橋に向かった。しかし、その表情は暗いものだった。エニー司令は怒ると延々と怒鳴りつづけるのでうんざりするのだ。しかし、だからといって逃げるわけにもいかない。艦橋の手前まで来ると、シアンは深くため息を吐いて艦橋に入った。

「シアン・ビューフォート少佐、入ります」
「よく来たわねシアン」

 見たところ、エニーはまだキレてはいないらしい。

「それで大佐、私を呼んだ理由は何でしょうか?」
「そうね、単刀直入に聞くわ。あなたから見て、私達は暗礁宙域に向かうことができると思う?」
「暗礁宙域?あの逃げていったジオン残党を追撃するのですか」
「そう、あの久瀬中将が言い出したのよ。ルナツーを攻撃されたのは許しがたい恥辱であり、連邦軍の威信にかけてこれを殲滅するんですって」

 呆れたわ。とでも言いたげにエニーは肩をすくめて見せる。

「それで、ルナツーに駐留している艦隊も含めて、現在行動可能なほとんどの艦艇が動員されるそうよ」
「それはそれは、星一号作戦以来の規模ですな」

 シアンの口調もどこかふざけたような物になっている。

「それで、わが艦隊が動けるか?と聞いたわけですか」
「そう、どう思う?」
「無理ですね。このルイジアナにしてみても損害中破といった所ですし、他の艦も似たり寄ったりでしょう。これで出撃しても沈められに行くようなものですよ」

 シアンは呆れ顔で言う。エニーの方も同感だといいたげに頷いた。

「そうね。やはり久瀬中将には第4独立艦隊は参加不可能と具申しておくわ」
「問題があるのでしたら、MS隊だけでも出したらどうです」
「MS隊だけを?」

 シアンは頷いた。

「そうです。健在なMSを別の艦隊に預けて参加させるんです。これなら久瀬中将も受け入れるでしょう。どのみち、艦隊は戦闘不能なんですから」
「それで、誰を出すつもりなの?言っておくけれど、あなたは駄目よ。MS隊再建にはあなたが必要なんだから」

 さらりと釘をさすエニー、自分が行こうと思っていたシアンは思わず一歩引いた。

「わ、分かってますよ」
「・・・それにしては、口調がどもってるわね」

 鋭い突っ込みにシアンはさらに追い込まれてしまった。
「は、ははは。まあ、アルハンブル中尉に半個中隊を預けて出す。というところでしょう。どうせ動けるMSもそれくらいしか残ってないですから」

 そう、第4独立艦隊はもともと5隻で20機のMSを持っているが、この戦いで半数近い数が落とされ、残りの多くが被弾している。直ぐに動けるのは数えるほどでしかないのだ。

「だけど、半個中隊じゃ中尉がかわいそうね。何とかもう6機まわしてみましょう」

 シアンの判断を聞いたエニーは溜息をついて艦長シートに座った。

「それにしても、久瀬中将は何を考えているのかしら」
「・・・どういうことです?」

 エニーの呟きを聞いて、シアンが問いただす。

「さっきの戦い、私は久瀬中将に増援を要請したわ。でも、中将は何故か増援を回さなかった。おかげでこっちはこのありさまよ。第6独立艦隊はほとんど全滅といっていいでしょうね」

 悪夢を見るような思いでエニーは友軍艦艇の残骸を見つめた。かつて、1年戦争最大の艦隊戦となったルウム戦役で彼女は嫌というほどこのような光景を目にしている。

「少佐、あなたはルウム戦役に参加していた?」
「いえ、私はあの戦いには参加していませんが」
「そう、あの時もね、こうだったのよ。ジオンのMSに味方の戦闘機が駆逐されてね。裸になった艦隊に次々とMSが取り付いて、私は第3艦隊のサラミスの艦長をしていたんだけど、次々と僚艦が沈められていったわ。生き残れたのは運が良かったのね。あれだけいた艦隊が、ルナツーにたどり着いた頃には2割に減っていたのよ」

 エニーの目には2年前の激戦が映っているのだろう。シアンの方を見ていない。シアンも何も言わず、エニーの言うことに黙って耳を傾けていた。



 アヤウラ艦隊がルナツー宙域を離脱した頃、やはりルナツー宙域から脱出してきたジオン艦隊があった。ザンジバル級巡洋艦1隻にムサイ後期型3隻の編成の艦隊だ。規模としてはそこそこだが、この艦隊こそルナツーに奇襲をかけ、アヤウラ艦隊の襲撃を成功に導いた影の功労者である。ザンジバル級巡洋艦エターナルの艦名からエターナル艦隊と呼ばれている。
 エターナルの艦橋では2人の女性士官が何かを話し合っていた。

「それでみさき、これからどうするつもり?一度オスローに戻る?それともルナツー航路に張り込んで連邦の補給艦でも襲う?」
「そうだね、雪ちゃんの言うとおり一度帰ったほうがいいかもね。多分、これからしばらくうるさくなると思うから」

 緩やかなウェーブのかかった髪の女性仕官、深山雪見少佐の質問に、艦長席に座っていた長いストレートの髪を持つ女性士官、川名みさき中佐が答えた。

「うるさくなる?」
「うん、連邦だって馬鹿じゃないからね。多分私達を探し回るよ。あのぐらいの被害じゃ、連邦にはなんでもないと思うから」

 みさきは何でもないように言うが、それはきわめて重要なことである。もし連邦軍が本気で捜索すれば航路なんかにいればたちまち発見され、殲滅されてしまうだろう。まだサイド5の暗礁宙域にある拠点、オスローに戻ったほうが発見されにくいだろう。

「分かった。じゃあオスローに戻るわよ。あと、みんながこっちに上がってきてるみたいだけど、どうする?」
「浩平君たちが?うん、会うよ」

 みさきの返事を聞いて雪見は航法士官に次の目標を伝えに言った。
 やがて、艦橋のハッチのほうから人の話し声が聞こえてきた。そして、ハッチの開く音と共にたくさんの人が入ってくる。

「折原浩平中尉、入ります」
「フレデリック・クライン大尉、入ります」
「長森瑞佳少尉、入ります」
「七瀬留美曹長、入ります」
「みゅ〜〜、入るよ」
「・・・<入るの>・・・」

 最後の2人は椎名繭軍曹と上月澪軍曹で、エターナル隊のマスコット的存在である。
 ここでエターナル隊の編成を説明しよう。エターナル隊はサイド5の損傷したコロニー、オスローにある連邦軍の軍港跡を修理して拠点としており、ザンジバル級巡洋艦エターナルを中心としてムサイ後期型4隻、ムサイ最終型2隻、輸送艦パゾク3隻を持っている。MSは各種多数を保有しており、中には試作機までがある。
この残党としてはかなり大規模な集団を統率しているのが川名みさき中佐で、艦長、艦隊司令、MSパイロットを兼任している。1年戦争時代は地球で、宇宙で活躍したエースパイロットだった。しかし、彼女は盲目であり、何故目が見えない彼女がMSを操縦できたり、艦隊を指揮できるのかは大きな謎である。
それを補佐しているのが深山雪見少佐、艦隊副指令、メカニックチーフを担当し、艦隊の運用はほとんど彼女が行っている。メカニックの天才であり、MSの改造や新装備の開発だけでなく、新型機の開発まで行っている。
 MS隊を掌握しているのがフレデリック・クライン大尉で、エターナル隊の双璧の片割れである。1年戦争時にはフラナガン機関にいたことがあり、ニュータイプとして覚醒している。
 双璧のもう片割れが折原浩平中尉。1年戦争を戦い抜いたトップエースで、ニュータイプではないがクライン大尉と互角に戦えるほどの実力を持っている。
 浩平と共に戦い続けてきたのが長森瑞佳少尉。浩平の幼馴染で、浩平が最も信頼する仲間でもある。非常に穏やかな性格で、揉め事の仲裁などもやっている。特に浩平の尻拭いに忙殺されている。
 七瀬留美曹長は接近戦の天才で、ザク改をカスタム化したスペシャルメイド機に乗っている。エターナル隊の切り込み隊長で、いつも先陣を切って突入している。彼女の大型ヒートホークを防ぐにはよほどの実力が必要となる。また、指揮官としても優れている。何故か乙女に憧れており、ことあるごとに乙女を強調する。
 椎名繭軍曹は一見お子様だが中身もお子様。しかし、クラインと同じくニュータイプで、戦いでは恐ろしい存在となる。フェレットのミューを飼っており、みゅ〜と言うのが口癖となっている。また、何故か七瀬になついており、七瀬のことをみゅ〜と呼ぶ。
 上月澪軍曹もまたニュータイプである。戦闘では射撃能力を生かして後方支援をすることが多い。生来言葉が話せず、常に携帯しているスケッチブックで相手と会話を行う。また、クラインや繭とはニュータイプの感応能力で会話を行うことができる。何故かみさきも澪の言いたいことが分かるらしく、目が見えないのに澪と会話が成立している。
 ほかに、今回の作戦には参加していないが、オスローで帰りを待っている里村茜少尉と雪見の片腕的存在の住井中尉がいる。茜はMSの操縦ができるらしいが、何故か後方勤務に徹している。戦後になってみさきが連れて来た少女で、エターナル隊の中では新顔になる。住井は雪見と共にさまざまな機体の改造、設計を行っている。茜同様みさきが連れて来た男で、オスローに自分専用の工房すら持っている。どこからか持ち出したパーツで高機動型ギャンを4機組み上げている。
 このエターナル隊の主要メンバーはジオン残党でも最高のものであり、これだけの人材と装備を抱えている部隊はほとんどないだろう。みさきはブリッジに入ってきたこの頼れる仲間たちの方を向いて微笑んで見せた。

「みんな、ご苦労様だったね」
「ご苦労様といっても、働いたのは俺と、クライン、長森だけですよ、艦長」

 浩平が肩をすくめて疲れを声に乗せて言う。

「何よ、私たちが遊んでいたって言うの?」

 七瀬が食って掛かる。

「いやいや、七瀬が戦いのチャンスを見逃すはずがないからな。そんなことは思ってないさ」
「どういう意味よ!」
「まあまあ七瀬、昔ストリートファイトで鳴らしたお前だ。戦えなかったことの悔しさは分かるが、そう荒れるな」
「するか!そんなこと!!」

 七瀬のこぶしがうなりを上げて浩平の鳩尾に刺さる。うめき声すらあげられずに体を折った浩平の顎に止めとばかりに強烈なアッパーが入り、宙を舞って2メートルほど向こうに転がっていった。

「さすがに今のは浩平が悪いと思うよ」
「みゅ〜、強いのぉ〜」
「<きれいなフォームで入ったの>」

 瑞佳、繭、澪が三者三様の感想を口にする。それをクラインは冷や汗をかきながらみていたが、何も口にはしなかった。言えば次はわが身、というのが分かっているのだろう。
 しかし、浩平は転がったまま時々痙攣しているんだが、誰も助けに行かなくていいのだろうか。

「それで、何の用なのかな?」

 みさきが何事もなかったかのように聞く。

「あ、そうでした。実はこれ、浩平の発案なんですけど・・・」 

 そう前置きして瑞佳が話し始める。当の浩平は痙攣していて動くことすらできないようだから仕方がない。

「最近、物資の不足が目立ってくるようになったんです。特に食料が心もとなくなってます」
「食料が、それは深刻だね」

 みさきの顔色が変わる。

「分かったよ、それで、浩平君はどうしようと言っていたのかな?」
「それが、連邦の輸送艦隊を襲って奪おうって」
「俺は反対なんですがね」

 クラインが横から口をはさむ。堅実な手段を好む彼はこういう博打的な要素を含む作戦は好きではないのだ。逆に、ギャンブラーな所のある浩平はこういう作戦が大好きなのだが。

「長森も折原を止めないんだからな」
「だって、しょうがないんだもん。私が言ったって浩平は聞かないんだよ」
「だからっていってもな、この作戦は危険すぎるぞ」
「じゃあ、クラインさんならどうするの?食べ物が無いのは事実なんだよ」
「・・・艦長の割り当てを減らす・・・」
「「「「なるほど!」」」」
「<なるほどなの>」

 瑞佳、七瀬、繭、雪見が口をそろえて頷く。ついで澪がスケッチブックを見せた。

「・・・みんなひどいよ・・・」

 そう言ってみさきが悲しそうに俯く。

「・・・分かったよ・・・」
「「「「「へ!」」」」」
「ご飯を減らすよ」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「「「「エ―――――!!!」」」」」

 全員が同時に驚いて絶叫する。

「み、みさき、そんなに気にしなくても大丈夫よ」
「そうだよ、浩平の分を削るから先輩はいいんだよ」
「そうよ、川名先輩がそんなことを気にすることは無いですよ」
「みゅー、気にしない」
「艦長、早まってはいけませんよ」

 口々にまくし立てる。みんな良心が咎めたのだろう。1人だけひどい事をいっているが。

「いいんだよ。私が我慢すればいいんだから」
「「「「「みさき(先輩)(艦長)」」」」」

 みんなが感動しまくった視線をみさきに向ける。

「明日からは、ご飯7杯で我慢するよ」
「「「「「7杯かい!!!」」」」」

 全員の声が艦橋を揺るがした。そんな5人、澪はまだスケッチブックに書いている、を悲しそうな顔でみさきが見回す。みさきにとって、ご飯7杯(丼飯大盛り)はかなり頑張っているほうだ。いつもなら10杯は軽い。食べることが生きる目的とも言ってもいい彼女にとって、食事が減るというのは耐えがたい苦痛だろう。それをあえて耐えたのだ。みさきは自分の決断をみんなが誉めてくれると確信していたのだが、何故かみんなは怒っている。それが彼女には不思議であった。

「浩平君、みんながいじめるんだよ〜」

 やむなくみさきは浩平に助けを求めた。が、彼女は忘れていた。いや、知らなかったというべきか、七瀬によって彼が三途の川を渡る半歩手前に追い込まれていることを。

「浩平君?」

 不信そうに顔をきょろきょろさせる。見えていないのだから余り意味はなさそうだが、本人の気分の問題なのだろう。そのみさきの様子に深雪が仕方なく状況を説明する。それを聞いたみさきは頷いて七瀬に視線を向けた。

「駄目だよ留美ちゃん。女の子がそんな事しちゃ」
「でも艦長、浩平があんなこと言うからっ!」
「う〜ん、浩平君の悪い癖なんだよね。こればっかりは私が言っても直らないかな」

 自身なさげに言う。他のメンバーも難しい顔をしている。そこに、疲れたようなクラインの声が入ってきた。

「それで、どうするんです艦長?輸送船を襲うんですか?それとも月面都市あたりで買い込みますか?」
「・・・あ、そうだったね。そういえばそんな話だったね」
「艦長〜〜〜」

 クラインの情けない声が空しく響いた。

「でもそうだね、輸送船を襲うのは危ないかな。それじゃ、この艦でフォン・ブラウンに行こうか」
「フォン・ブラウンへ?」
「うん、あそこなら自由都市だし、艦を隠してシャトルで行けば問題ないからね」

 みさきはそう言って雪見のほうを見た。

「雪ちゃんはムサイを連れてオスローに帰ってくれるかな。私達は月によってから帰るから」
「私はいいけど、月に行くならついでに買ってきてほしいものがあるんだけど」

 そう言うと雪見は端末から何かのデータを出してきた。それをプリントアウトして持ってくる。

「整備用のパーツだけど。オスローで生産できるものなら問題ないんだけど、さすがに何でもそろうって言うわけじゃないから」

 反政府ゲリラの悲しいところである。補給などというものは当然ない。いや、エターナル隊は旧連邦軍の生産設備をそのまま利用しているからそのあたりは遥かにましなだが、それでも足りないものが出てくるのは避けられない。そういったものを調達する必要があるのだが、ゲリラなのでこの艦では正規の港を利用できないのだ。もしザンジバル級で近づけば駐留している連邦軍に攻撃されてしまう。そのため、ジオン残党がこれらの都市に入港するには管理局や権力者に金を払うか、さもなければ民間船に偽装するしかない。一番多いのがみさきのように暗礁に艦を隠してシャトルで港に入ることだ。これなら民間船と区別がつかないので怪しまれることがない。入ってしまえば後はどうにでもなる。
 しかし、クラインは難しい顔をしていた。

「その手のものを入手するならフォン・ブラウンよりもグラナダのほうが良くはありませんか?あそこならジオン系の地下組織もありますし」
「私はどこでもいいわよ。買ってきてくれれば」

 雪見はあっさりといいかえした。雪見のこの一言で目的地がグラナダに決定された。この決定が後に一つの事件を誘発することになる。


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<人物紹介>

エニー・レイナルド 40歳 女性 大佐
 連邦軍の生粋の戦艦乗りで、秋子同様実戦部隊上がりの司令官。しかし、エニーは野戦上がりの秋子を信用しておらず、エリートというだけで出世したお嬢さんだと思っている。その為か、エニーは秋子に異常なライバル心を持っており、事あるごとに秋子を罵倒する。少々出世欲が強いが、実力はあり、部下からの信頼もある。

シアン・ビューフォート 22歳 男性 少佐
 連邦軍のMSパイロットで、でたらめに強い。あのトルビアックが子ども扱いされるほどで、ほとんど化け物である。過去を語らないので、士官学校以前は全く不明。彼は多彩な才能を持ており、パイロットとしてだけでなく、指揮官としても、そして戦術家としても優れていた。特に、1対1でもドックファイトが主流のこの時代に、3機一体の集団戦術を持ち込んだことで知られている。この戦術は物量を生かした戦術と考えられているが、実は自軍のパイロットの技量が総じて低いという欠点を3機の相互支援で補うために研究した苦肉の戦術である。

アヤウラ・イスタス 33歳 男性 中佐
 ジオンの国家秘密警察に所属していた男で、ギレン・ザビの命令でさまざまな任務をこなした。国防軍にも所属しており、中佐という階級も持っていた。ジオンの裏方的な仕事をこなし、ジオンの為にはどんなことでもする狂信的なところがある。カノン隊のメンバーとは不倶戴天の敵といえる存在となり、あらゆる卑劣な手を使ってカノン隊を追い詰めてくるが、彼にしてみればカノン隊の実力を正当に評価した上で、自分のもつ戦力で取れる最良の手を打っているに過ぎない。ただ、その手段が周囲からは卑劣に映るだけである。

フォーレン・クルーガー 28歳 男性 大尉
 ジオン国防軍のMSパイロットだったが、終戦と共にアクシズに逃亡した。後にアヤウラの元に配属され、彼の優秀な右腕としてMS隊を率いて活躍する。陰謀などには疎く、その方面には使えないという問題はあるが、現在のところ、アヤウラの手元にある唯一のエースパイロットであり、その存在は貴重である。

川名みさき 19歳 女性 中佐
 19歳で中佐という、いくらジオンでも異常な階級にいる女性。彼女は士官学校上がりではなく、ギレン直属の特殊部隊に配属されていたらしい。終戦間際には1個艦隊の指揮をとっており、ザンジバル級巡洋艦エターナルと共に今日まで宇宙を駆け巡ってきた。謎の多い女性で、盲目なのにどうして艦隊の指揮が取れるのか、どうしてMSが動かせるのか、どうやったらあの体であんなに食べられるのか、などのさまざまな疑問がある。しかし、そのやさしい性格と、優れた指揮能力に疑いを持つ者は無く、多くの者が彼女を慕って戦後もついて来てくれた。隠してはいるが、彼女には不思議な力がある。

深山雪見 19歳 女性 少佐
 昔からみさきを補佐してきた女性で、エターナル隊の副指令であり、エターナルの副長である。また、エターナルのメカニックチーフも兼任している。優れた才女だが、彼女の最大の能力はみさきを押さえ込めることである。実際、彼女がいなければみさきは能力の半分も発揮できず、特に事務仕事は全て彼女がこなしている。その為、みさきは彼女に頭が上がらないのだ。

フレデリック・クライン 23歳 男性 大尉
 戦後、みさきの所に転がり込んできた男で、ニュータイプに覚醒している。エターナル隊のMSを率いており、エターナル隊の双璧の片割れである。エターナル隊では珍しい軍人堅気な男でもある。

折原浩平 18歳 男性 中尉
 エターナル隊創設時からのメンバーで、クラインと並ぶエターナル隊の双璧である。エターナル隊のムードメーカー的な存在で、友人が多い。ニュータイプではないが、ニュータイプとも渡り合えるだけの実力を持つ。カノン隊の祐一とはよきライバルとなり、幾度も戦いを繰り広げる。

長森瑞佳 18歳 女性 少尉
 浩平の幼馴染で、浩平と常に一緒に行動している。実力は浩平が背中を任せるほどで、エターナル隊でもかなり上位に入る。性格は非常に温厚で、よく揉め事の仲裁などを頼まれている。特に、浩平の起す問題を仲裁するのに走り回っている。意外なことに、ニュータイプの素質がある。

七瀬留美 18歳 女性 曹長
 接近戦の天才で、接近戦なら浩平やクラインをも圧倒する。自称乙女で、そのことで浩平に良くからかわれている。もっとも、その報いはすぐにくるのだが。また、意外に指揮能力も優れており、中隊指揮官として多くの戦果を上げている。

上月澪 17歳 女性 軍曹
 エターナル隊のお子様ニュータイプで、エターナル隊では繭と組んで独立部隊となっている。これは、彼女達を指揮できる人材がいないこともあるが、それ以上に彼女達の実力についていけるのはごく僅かのエースぐらいだからだ。彼女は言葉が離せないというハンデを持っており、常にスケッチブックを抱えている。また、ニュータイプ能力者とは精神感応で話すことも出来る。

椎名繭 16歳 女性 軍曹 
 澪と並ぶお子様ニュータイプ。澪と組んでニュータイプ部隊を組み、エターナル隊の主力として活躍してきた。しかし、精神年齢は澪よりも低いかもしれない。昔に飼っていたフェレットのみゅ―を今でも忘れられず、みゅ―というのが口癖になっている。何故かみゅ―と言って七瀬のお下げにぶら下がろうとする


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後書き
ジム改 毎度おなじみ、ジム改です
名雪  カノンのメインヒロイン、名雪だよ
ジム改 あれ、今日は祐一じゃないのか?
名雪  祐一だったら、寝たりないって言ってまだ寝てるよ
ジム改 むう、その台詞は君の台詞だと思うんだが?
名雪  そんなことないよ
ジム改 まさか、出番欲しさに祐一を亡き者にした、なんて言わないよね?
名雪  そ、そんなことしてないよ。ただ、ちょっとクロロフォルムを使っただけだよ
ジム改 ・・・・・・
名雪  そ、それより、今回は私たちの出番が無いけど、どうして?
ジム改 うむ、それは簡単だ。この話はカノンと銘打ってるが、実際には複数の作品のキャラが混在する予定なのだ
名雪  ということは、もしかして私の出番が少なくなる?
ジム改 と言うより、最初から少ないな
名雪  ガーン!
ジム改 あれ、うーん、どうやら助手氏はショックのあまり永遠の世界に行ってしまったようです。それでは、今日はこれで


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