第14章 シェイド  

 月やサイド3に近い宙域にまで進出していた宇宙要塞フォスターT、いま、この要塞に
はライトグリーンに塗装された連邦やジオンの艦艇が多数駐留していた。ファマス軍の最
前線基地であり、連邦軍の最初の目標となっているこの要塞には、ファマスの精鋭部隊が
多数配置されている。ここの指揮官であるチリアクス少将は手元にある精鋭の中でも特に
強力な部隊を使って連邦軍の補給線を寸断する作戦を取っており、すでにかなりの成果を
上げていた。
 そんな精鋭部隊の1つ、エターナル隊はザンジバル級1隻にムサイ後期型3隻という戦
力で4回の出撃ですでにサラミス3隻、コロンブス18隻撃沈、5隻拿捕という戦果を上
げていた。この戦果は数ある攻撃部隊の中でも群を抜くもので、指揮官の川名みさき中佐
の指揮能力と、所属するMS部隊の優秀振りを証明している。
 帰還したエターナル隊はフォスターTに駐留しているファマス部隊から盛大な歓迎を受
けていた。各部隊の指揮官達から次々とエターナル隊の戦果を称える通信がひっきりなし
に届き、立場上それを聞かないわけにはいかないみさきは笑顔を浮かべながら心の中で泣
いていた。これで何十件目か分からないが、ようやく通信が途切れてみさきは艦長席にド
サリと座り込んだ。
「はうううぅ、疲れたよう」
「ご苦労様♪」
 ぐったりするみさきに雪見がニコニコしながら労いの言葉をかける。
「う〜、人事だと思って」
「だって人事じゃない。まあ、これもお仕事だと思って頑張って頂戴」
 なぜか、雪見は妙に上機嫌だ。それを敏感に感じとったみさきは不思議そうに聞いた。
「雪ちゃん、何か良いことでも会ったの?」
「あ、分かった」
 雪見はすでに顔面崩壊を起こしている。その不気味なまでの機嫌のよさに艦橋にいる全
員が思わず身を引いた。
 そんなことはお構いなしに雪見は話を続けた。
「実はねえ、七瀬さんと長森さんに配備された2機のブレッタをベースにそれぞれの専用
機を造ってみたのよ」
「専用機って、どんなのを造ったの?」
 みさきが興味津々と言う顔で聞いてくる。雪見は自信を満面に称えて語り始めた。
「七瀬さんの機体は機動性と白兵戦性能に主眼を置いた改造をしたのよ。長森さんの機体
は全体の性能を向上させてあるわ。特に反応速度が優れてるわね。七瀬さんの機体は「タ
イラント」、長森さんの機体は「エトワール」と命名したわ」
「凄いね、雪ちゃん。でも、よく新鋭機をいきなり改造なんてできたね」
「簡単なことよ。タイラントとエトワールは、ブレッタにシェイド機で得られたデータを
フィードバックした機体なのよ」
「ゆ、雪ちゃん、そんなことして、2人は大丈夫なの?」
 みさきが焦って聞く。雪見は笑顔で頷いた。
「大丈夫よ、2人の体の事は考えてあるわ。そんな無茶なことはしないわよ」
 雪見の保証を聞いてみさきは安心した。そこに、また新しい通信が入ってきてみさきは
げんなりした顔になった。
「雪ちゃ〜ん、助けてよ〜」
「諦めるのね、司令官の義務よ」
 雪見が肩をすくめる。その顔には副長の余裕があった。


 フォスターTの宇宙港には多くの艦艇が入港している。特に輸送船の出入りが激しい。
参加したジオンや連邦の将兵の中にはMS−05ザクTやザクU、ジムといった旧式機に
乗るパイロットも多く、これらの旧式機をファマスで生産しているジオン系のMSに交換
しているのだ。輸送船からはファマスが生産しているMSで、主力MSのシュツーカから、
旧公国軍が開発した高性能MSのMS−11BアクトザクやMS−14Fゲルググマリー
ネ、MS−17Bガリバルディβ、MS−18Fケンプファー改。それに統合整備計画で
大量生産され、生産が終了した現在もなお多数が現役にあるMS−06FZザクU改やM
S−09R2リックドムUも送られてきている。反対に旧式機は輸送船に積まれて火星に
向かっていった。また、一部は残されて作業用MSとなっている。
 このファマスの量産機のうち、MS−17BガルバルディβやMS−18Fケンプファ
ーは試作機のみで終戦を迎えており、この量産型は脱出してきた技師達が再現した機体で
ある。
 これら旧公国軍製のMSの生産ラインは順次シュツーカに切り替えられており、近いう
ちにファマスのMSはシュツーカで統一されるだろう。
 これらに混じって、一際目立つ機体があった。MDF−03ブレッタと、MDF−05
ジャギュアーだ。前者はシュツーカの改良型。後者はエースパイロット用の機体で、両M
Sとも生産が始まったばかりの最新鋭機だ。しかし、開戦に合せて現行の量産機であるシ
ュツーカの生産が優先されているので、その配備数は少ない。
 このブレッタやジャギュアーを配備された数少ないパイロット達、戦績を評価された浩
平達が愛機を前に会話を弾ませていた。
「こいつが俺の機体かぁ」
 浩平がジャギュアーを前に感嘆の吐息を漏らす。その隣ではクラインがやはりジャギュ
アーを見上げている。
 だが、その2人よりも更に幸せそうな連中がいた。
「へっへー、どう、折原。私の新しい機体は?」
「・・・うるさい奴が来たな」
 浩平が恨めしそうに七瀬を見る。いつもの七瀬ならここで浩平に一発入れているところ
だが、今日はよほど機嫌が良いのだろう。にこやかに微笑んでいる。
「だいたい、何でお前が専用機で、俺が量産機なんだ?」
「分かってないわね折原、私の方が腕が良いからに決まってるじゃない」
「ぐっ!」
 流石にむっとしたが、専用機を持ってないので文句が言えない。そこに、やはりニコニ
コ笑顔の瑞佳がやってきた。
「どうしたの2人とも。また喧嘩?」
「あのね瑞佳、乙女のあたしがそんなことするわけないじゃない」
「・・・ほう・・・」
 七瀬の発言に浩平が目を細める。聞いていたクラインと瑞佳もなんとも答えられず、困
った顔を見合わせた。
「・・・何よ、何か文句でもあるの?」
 やばそうな気を放つ七瀬にクラインと瑞佳は首振り扇風機と化した。浩平は難しい顔を
している。
 首振りを止めたクラインが七瀬のタイラントと瑞佳のエトワールを見てぼやいた。
「でも、やっぱりうらやましいよな。深山少佐に頼んで俺のジャギュアーも改造してもら
おうかな」
「あ、それじゃ俺のもお願い」
「おい、自分で頼めよ」
 浩平の申し出をクラインはきっぱりと断った。情けない顔をする浩平を見て3人は楽し
そうに笑い出した。
 4人がわいわいやっていると、澪と繭が走ってきた。
「何してるのー?」
「<仲間に入れて欲しいの>」
「あ、繭ちゃん、澪ちゃん。期待の新鋭機はどうだった?」
 瑞佳が2人に聞くと、2人はとたんに満面の笑顔になった。
「みゅ―♪」
「<とっても凄いの>」
 2人はとても喜んでいる。2人に配備された機体はア・バオア・クーから持ち出したジ
オングの未完成品と、アクシズから送られてきたデータを参考に設計されたNT専用機M
SN−04テンペスト。エルメスに比べて各段に小型化されたビットを両肩に4基搭載し、
オールレンジ攻撃を可能としている。また、機体も並のMSサイズまで小型化されており、
MS−18Fケンプファーを範とした武装を持っている。そのスペックはファマスで開発
されたMSの中でも最高と言えるほどであり、現在までのNT専用機の中でも最強の機体
となっている。
 6人はなおも自分のMSを自慢しあっていたが、やがて皆で食堂に行った。みさきと雪
見はまだ仕事をしており、昼食を取れるかどうかも疑わしい。6人はみさきが空腹で暴れ
ださないかと心配しながらも、気楽な身分であることを喜び合いながら食堂に来た。
 食堂はなかなかに盛況であり、士官も兵士も同じ部屋で食べている。浩平達はとりあえ
ず開いた席を探したが、6人が座れそうな席は無かった。
「席、開いてないね」
「みゅ〜・・・」
 瑞佳と繭が残念そうに呟く。
「仕方ない。七瀬、座ってるやつらを蹴散らして席を作ってくれ」
「何で私がそんなことをしなくちゃいけないのよ!」
「大丈夫だ、七瀬なら海兵隊1個小隊にも勝てるぞ」
 浩平が親指を立てて片目をつぶって見せる。だが、七瀬は怒りを堪えるように肩を震わ
せていた。流石に、ここまで人目の多いところでぶっ飛ばしはしないらしい。
「しかし、どうする。分かれて座るか?」
 クラインが妥協案をだすが、澪と浩平が難色を示した。
「<皆一緒がいいの>」
「いや、ここで妥協しては男が廃る」
 なにやら、反対する理由に随分な差があるが、反対者が出たことでクラインは腕を組ん
で考え込んだ。
 6人で悩んでいると、いきなり食堂が喧騒に包まれた。何事かと見てみると、2つのグ
ループがなにやら対立している。一方はMSパイロットらしく、もう一方は基地の兵士の
ようだ。
 浩平達は事情を知ろうと手近な兵士を捕まえた。
「おい、何があったんだ?」
「ああ、基地の兵士があの女パイロットに絡んだんだが、女の方があっさりと振ってらし
くてね。それで基地の連中が意地になってしつこく絡んでたら、パイロットの仲間らしい
連中が来て、あの通りさ」
 兵士はどうやら浩平達を知らないらしく、普通に返してくる。別に階級を意識していな
いので浩平も特に気にはせず、視線を騒ぎの方に戻した。
 兵士達の方は若い男が10人ほど。対してパイロットの方は男が1人に女が4人。現在
兵士達と向かい合っている女パイロットはなかなかに気が強そうだ。10人の兵士を前に
してもまるで気後れしていない。
 野次馬が見守る中で兵士達が喋りだした。
「なんだよ、俺達はそこのお姉ちゃんと遊ぼうとしてるだけだぜ。それとも、あんたが相
手をしてくれるってのかい?」
「はん、馬鹿言ってんじゃないわよ。あんた達なんか相手にするほど落ちぶれちゃいない
わ」
 晴香は平然と言い返した。かなり不機嫌そうだ。両腕を胸の前で組み、威嚇するような
視線を兵士達に向けている。
 兵士達は晴香の返事に怒りをあらわにしてきた。後ろの方で由衣が兵士の剣幕に怯えて
久瀬の背中に隠れている。
「なんだよ、そりゃどういう意味だ」
「頭も悪いみたいね。そんなんで、よく葉子さんを口説こうなんて考えたわね。身の程を
知りなさいよ」
「てめえ、馬鹿にしてんのかっ!」
 兵士達が殺気立つ。晴香はなおも何かを言おうとしたが、それより先に郁美が口を開い
た。
「無駄よ晴香、こんな馬鹿面したに連中に何を言っても聞きゃしないって」
「郁美、あんたも言うわね」
 やれやれと言う感じで加わってきた郁美をジト目でみる晴香。だが、兵士達の方はいよ
いよ頭に血が上ったらしい。1人が殴りかかってきた。晴香がそれをかわそうとした時、
後ろから出てきた久瀬がその兵士をカウンターで殴り飛ばした。殴られた兵士は吹っ飛ん
でテーブルに叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
 郁美と晴香は久瀬を驚きの目で見ていた。
「た、大尉、どうして?」
「君達が殴りあうと、相手は怪我じゃすまないだろ?」
 晴香に久瀬が答える。いわれて晴香と郁美は顔を見合わせた。
「まあ、ここは任せてくれ。隊長の実力をその目で確かめるのもいいだろ」
 そう言って片目をつぶって見せる。晴香と郁美はどうしようかと顔を見合わせていたが、
後ろから葉子が2人を引っ張った。
「2人とも、大尉がああ言ってるんですから、任せましょう」
「葉子さん、当事者が人事みたいに言わないで」
 郁美が疲れた声で言う。だが、葉子は堪えた様子も見せずに久瀬を見ていた。
 久瀬は兵士達を見据えた。兵士達は相手が大尉と知って手を出しかねていた。
「どうした、かかって来い。今なら無礼講ということで報告はせんぞ」
「・・・本当か?」
「ああ、その代わり、病院送りは覚悟しておけ」
 久瀬の挑発に3人が同時にかかってきた。3人とも腕に覚えがあるらしく、真っ直ぐ突
っ込んでくる。だが、久瀬は3人が同時に殴りかかっているのに、余裕でその攻撃をかわ
していた。そればかりか、反撃で相手を一撃で沈めていた。
「遅いよ、川澄さんに比べれば亀みたいだ」
 3人があっさりと沈んだのを見て残る6人がひるんだ様子を見せる。久瀬はそんな6人
を見て不敵に笑って見せた。
「どうした、怖気づいたか?」
「ふざけるんじゃねえ!」
 6人が同時にかかってくる。どうやら、6人なら勝てると考えたらしい。流石の久瀬も
6人同時に相手にするのは辛く、何発かもらう覚悟を決めた。だが、最初の1人は横から
の一撃で吹っ飛ばされた。
「え!?」 
 久瀬が驚いていると、2人の男が参戦してきた。
「6対1ってのは卑怯すぎるぜ。加勢するよ」
「ああ、やっぱり喧嘩は1対1が基本だよな」
 久瀬はなおも呆然としていたが、小さく苦笑すると2人に礼を言った。
「後で昼食を奢らせてもらうよ」
「お、忘れるなよ」
 それが合図となり、8人は乱戦に入り、そしてすぐに終わった。兵士達は全員がのされ、
だらしなく転がっている。対する久瀬たちは何発かもらったぐらいで、大きなダメージは
無い。
 兵士達を叩き伏せた久瀬たちは12人用のテーブルを占領して食事をしていた。喧嘩が
終わる頃には席も空いていたのだ。
 久瀬は加勢してくれた2人に頭を下げた。
「すまなかったな。おかげで助かった」
「いや、あんたもたいした腕だよ。ああ、俺は折原浩平中尉だ」
「俺はフレデリック・クライン大尉、エターナル隊のMS隊隊長を務めてる」
「私は七瀬留美少尉です」
「同じく、長森瑞佳少尉です」
「みゅ―、椎名繭なの」
「<上月澪曹長なの>」
 エターナル隊の面々が挨拶をする。久瀬は頷くと自分も自己紹介をした。
「僕は久瀬隆之大尉、リシュリュー隊のMS隊隊長だ」
「私は天沢郁美少尉、久瀬大尉の直属の部下よ」
「私は巳間晴香、後は郁美と一緒ね」
「鹿沼葉子、少尉です」
「名倉由衣です、階級は軍曹待遇です」
 双方の挨拶が終わったところでわいわいと雑談が始まった。やっぱり、年が近いだけに
話題は尽きないのだろう。
「へー、長森さんは折原中尉の幼馴染なんだ」
「そうなんだよ。でも、浩平ったらいつも私を困らせるんだよ」
「まあ、男の子なんてそんなものよ」
 郁美と瑞佳が浩平のことで話している。その隣では七瀬と晴香、葉子がなにやら乙女談
義をしている。
「だからね、私は理想の乙女を目指しているの」
「は、はあ、乙女ねえ」
 晴香が少し引きつる。だが、葉子は平然としていた。
「目標を持つのはいいことです。それがどのようなものであれ、努力をしなければ辿りつ
けません」
「貴女もそう思うわよね」
 七瀬は理解者を得て嬉しそうだ。晴香は葉子を見てぽかんと口を開いている。葉子はそ
んな晴香を気にすることなく紅茶を口に運んでいた。
 一方、由衣と繭、澪の会話はなにやら怪しげなものだった。
「みゅ―♪」
「<それで、艦長のせいで家の台所はいつも火の車なの>」
「ふーん、人間離れしてるんですねぇ」
 1人はみゅ―みゅ―と喚き、1人はスケッチブック、1人はそれにきちんと応じている。
しかも、由衣はみさきの話を聞いても驚いていない。
「だって、私の周りって人外ばっかりですから」
・・・郁美、晴香、葉子、確かにそうだな。
 男達が少々気まずそうにコーヒーをすする中、話は恋愛談義に進んでいった。
「えー! 久瀬大尉って連邦軍に彼女を残して来てるの?」
「それなら、郁美さんは片思いの相手を残してきてます」
 晴香の話を聞いて七瀬が驚くと、葉子が郁美のことを話す。それを聞いて郁美が飲んで
いたコーヒーを噴出した。
「ちょ、ちょっと葉子さん! 何言ってるのよ!」
 郁美が喚く。ちなみに、彼女の前にはクラインがいて、まともにコーヒーを浴びている
のだが気付いてすらいない。よほど動転しているのだろう。だが、葉子はくすりと笑うと
ちらりと郁美を見た。
「すいません、相思相愛でしたか?」
「い、いえ、その、だから・・・えっと・・・」
「・・・そこまで慌てるということは、かなり本気ですね?」
「ちっ、ちっ、違うわよ! 私は別に、シアン少佐が好きって訳じゃ」
「では、特に気にしてはいない、と言うんですか?」
 葉子の鋭い突っ込みに郁美は口をぱくぱくしている。どうやら、いいたいことが纏まら
ず、言葉にならないらしい。葉子はティーカップを口に運んだ。
「・・・今更恥ずかしがらなくてもいいと思います」
「なっ!」
 郁美は真っ赤になって硬直してしまった。どうやら、口では葉子のほうが数枚上手らし
い。そんな郁美を見て由衣が愚痴る。
「う〜、郁美さんがうらやましいです。私も彼氏が欲しいです」
「<私もなの>」
 澪までがしょんぼりする。いや、瑞佳や七瀬、晴香までもがうらやましそうな顔をして
いる。してないのはよく分かってない繭だけだ。
「くぅ、片思いの相手と敵味方に引き裂かれるなんて、乙女にしかできない高等技術ね」
 七瀬がなにやら的の外れた悔しさを見せる。
「はー、1人身は寂しいね」
 瑞佳が溜息交じりに言う。それを聞いて七瀬がジト目になった。
「何よ、瑞佳には折原がいるじゃない」
「べべ、別に浩平はそんなんじゃないもん・・・」
 真っ赤になってパニックに陥る瑞佳だったが、その態度ですでに脈があるといっていた。
瑞佳が真っ赤になったのを見た晴香が視線を浩平の方に向ける。浩平はその視線に気付か
ない振りをしていた。
「で、折原中尉の方はどうなのかしら?」
「・・・・・・」
 浩平は無言であさっての方を見ていたが、頬を伝う汗が焦りを示していた。それを見た
晴香がにやりとする。
「ふーん、こっちの方もまんざらじゃない、か」
 楽しげな晴香の台詞に更に焦りの色を濃くする浩平。クラインと久瀬は自分に飛び火し
ないよう祈るばかりで、浩平のことは見捨てていた。
 みんなで騒いでいると、ようやく仕事が終わったのか、みさきと雪見がやってきた。
「みんな、なんだか楽しそうだね」
 みさきに声をかけられて全員が振り向いた。
「あ、艦長、仕事はもう終わったんですか?」
「うん、やっとね」
 安堵の表情で近付こうとし、不意に厳しい顔つきになって郁美たちの方に顔を向けた。
「・・・・・・」
「艦長、どうかしましたか?」
「・・ううん、なんでもないよ」
 突然厳しい表情をしたみさきに心配そうに声をかける瑞佳。瑞佳の問いかけに笑顔で答
えるみさき。そのまま歩いていって女性人の端に座った。持ってきたトレイがドンという
音を立ててテーブルに置かれる。その量に久瀬や郁美、晴香、葉子、由衣は呆然となった。
 5人を代表して久瀬が質問した。
「あ、あの、中佐?」
「ん、え〜と、御免ね、誰かな?」
「あ、自分は久瀬隆之大尉といいます。こちらが部下の天沢郁美少尉に、巳間晴香少尉、
鹿沼葉子少尉、名倉由衣軍曹待遇です」
「そうなんだ、私は川名みさき中佐。エターナル隊の司令官なんだ。でも、1つお願いし
ていいかな」
「なんですか?」
「郁美さん達、自分で自己紹介してくれないかな。声を聞かないと分かんないから、私は」
 久瀬は、みさきの言うことを理解するのに数秒かかった。そして、理解できると驚いて
みさきを見た。
「ですが、中佐はさっき司令官だって?」
「うん、そうだよ。あ、私のことはみさきでいいから。どうも中佐って言われてもしっく
りこないんだよね」
 笑顔で的外れな答えを返すみさき。その状況に雪見が助け舟を出してきた。
「みさき、大尉はあなたが目が見えないのにどうして指揮が取れるのかを不思議がってる
のよ」
「あ、そうなんだ」
「そうよ、普通は盲目じゃ指揮なんかとれないわよ」
「う〜ん、やっぱり、馴れかな」
 みさきの答えを聞いてそんなもんなのか? と本気で久瀬達は考えてしまったが、みさ
きは気にすることも無くテーブルに並べられた昼食を食べ始めた。その、自分達なら何日
分? という量を平らげていくみさきに、久瀬たちは何やら化け物でも見るかのような視
線を向けていた。
 郁美が小声で七瀬に訪ねる。
「ね、ねえ、みさきさんっていつもあんなに食べるの?」
「そうよ」
 それが普通な七瀬は当然という感じで答える。だが、郁美は放心したように呟いた。
「・・・世の中には、私達より凄い人っていっぱいいるのねえ・・・」
「何のこと?」
 郁美の呟きを聞いて七瀬が聞き返す。
「・・・ここに来る前にもシアン少佐と戦ったんだけど、コテンパンに負けちゃったのよ」
 郁美がシアンの名を出した途端、雪見がコーヒーカップを落とし、みさきがうどんをす
するのを止めた。みさきが郁美に話し掛ける。
「郁美ちゃん、今、誰に負けたって言ったの?」
「え? その、シアン少佐ですけど」
 郁美が答える。みさきはしばらくの間身動ぎもしなかった。
「・・・シアン・ビューフォートって人かな?」
「え、ええ、そうですけど。それが、なにか」
「・・・シアン兄さんが、連邦にいる・・・」
 呆然と呟くみさき。だが、その一言は周囲に物凄い波紋を呼んだ。
「て、みさきさん、シアン少佐を知ってるんですか?」
「なにい、兄さんだとう!」
 郁美が驚いて聞き返し、浩平が爆弾発言に驚愕した。
「あんたは黙ってなさい!」
 七瀬の一撃が決まり、浩平は低い呻き声を上げてテーブルの下に崩れ落ちた。そんな浩
平に一瞥もせず(まあ、見えないから気付きようも無いが)にみさきが頷く。
「うん、昔に世話になったことがあるんだよ」
「少佐が? みさきさんはサイド3出身じゃなかったんですか?」
「そうだよ・・・ああ、そういうこと」
 みさきは、郁美の疑問に気付いた。
「違うよ、シアン兄さんもサイド3出身なんだよ」
 この一言は、シアンを知っている久瀬と郁美の度肝を抜いた。
「少佐が、サイド3出身。でも、少佐は1年戦争に参加していたのよ。亡命者だとしても、
早すぎない?」
 郁美の疑問は久瀬の疑問でもあった。シアンがジオンから連邦に亡命したとしても、戦
争前に亡命してきた兵士がいたという話は聞かない。一体、どういうことなのか。
 みさきは、そして雪見はその答えを知っているだろうが、何故か口をつぐんでいた。や
がて、雪見がみさきに囁きかける。
「みさき・・・あの事は・・・」
「うん、雪ちゃん・・・確かにシアン兄さんが出てくるなら・・・話した方がいいと思う」
「・・・私はいいけど、みさきは大丈夫なの?」
「う・・・ん、大丈夫じゃないけど、戦うからには、知る権利があると思うよ」
「そう、ね」
 雪見はまだ気が進まないようだったが、みさきは少し厳しい顔になってみんなを見た。
「ここで話すようなことじゃないから、エターナルに来てくれるかな?」
 いつに無いみさきの厳しい表情にエターナル隊のメンバーは気圧され、久瀬たちは顔を
見合わせた。そして、全員が頷く。雰囲気でそれを感じたのか、みさきが笑顔になった。
「よかった、それじゃあ、お昼食べ終わるまで待っててね」
 うれしそうに食事を再開したみさきに、その場にいる全員が突っ伏した。


 フォスターTの宇宙港に1隻の商船が入港してきた。時期としては少々遅いが、まだフ
ァマスに参加しようとやって来るものがいなくなった訳ではない。この商船もその類だろ
うと思って警戒機が近付いて通信を送る。
「そこの商船、こちらの誘導に従い、目的を告げよ」
 通信に応じたのは若い男女だった。
「俺はファマスに所属しているエターナル隊のメカニックで住井護中尉。司令官川名みさ
き中佐に命じられていた任務を完了、帰還してきた。エターナルに確認を取ってもらえば
分かる」
「了解、確認するまで同宙域にて待機されたし」
 そう言って、パイロットは一時通信を切った。そのまましばし待っていると、また通信
してきた。
「確認しました。エターナルは第2宇宙港内に入港しています」
「そうか、すまない」
 住井は教えてもらった宇宙港に向かい、エターナルの格納庫に入った。格納庫には多く
の整備兵たちが出迎えており、住井が下りてくると歓声を上げて駆け寄ってきた。
「住井さん、お疲れでした」
「住井さん、待ってましたよお〜」
「仕事が溜まってしょうがないっす」
 あまりの歓迎振りに住井は驚いていた。後ろから茜の笑いをかみ殺したような声が聞こ
えてくる。
「ふふふ、人気者ですね、住井さん」
「・・・こんなことで人気が出てもな」
 少し憮然として言い返す。だが、すぐに部下達に向き直った。
「それで、何があったんだ?」
「あ、はい。ファマスから新型機が入ったんですが、そいつの整備がちょっと」
「新型機?」
 言われて住井は整備台の方を見た。そこには、通常12機のMSが置かれているのだが、
今は定数を上回る16機が置かれていた。そのうち、みさきのリヴァークを除くほとんどが
見慣れぬ機体になっている。その機体は住井が始めてみるシュツーカとジャギュアー、あ
と、瑞佳のエトワールと七瀬のタイラントだ。ほかに、こちらは住井もデータで知ってい
るガルバルディβが3機ある。
「こいつは、凄いな」
 今まで一部の試作機を除けば旧式機の寄せ集めで戦っていたエターナル隊のメンバーに
してみれば、全機が新品という光景は目を奪われるものがあった。住井だけでなく、茜ま
でもが驚いている。
 住井や茜がデッキで整備兵と戯れていると、連絡用のランチが入ってきた。ランチから
はみさき達が下りてくる。それを見た住井たちはみさきに敬礼を送った。
「艦長、ただいま戻りました」
「あ、住井君、茜ちゃん、帰ってきたんだ」
 2人を見てみさきが駆け寄ってくる。その後もランチから続々と人が降りてきた。
「丁度いいよ、2人も来てくれるかな?」
「は、何処にです」
「作戦室だよ。そこで、私達の事を説明するんだよ」
 みさきの回答に2人の顔色が変わった。茜が詰め寄ってくる。
「みさきさん、どういうつもりですか?」
「・・・舞ちゃんが連邦にいる。そして、シアン兄さんも・・・」
 みさきの返事に茜が驚く。
「どうして兄さんの事を・・・」
「そのことも、作戦室で話すよ」
 そう言うと、みさきは作戦室に向かって歩き出した。茜と住井も顔を見合わせ、後に続
く。
 エターナルは出撃していないので、作戦室には誰もいなかった。もともとこの部屋は広
いので、14人が入っても十分な余裕がある。それぞれが思い思いの席につくと、まず住
井が口を開いた。
「艦長、まず聞きたいんですが?」
「何かな、住井君」
「この人たちは、誰です?」
 久瀬達を見て聞く。聞かれたみさきは納得して説明した。
 説明を受けた住井と茜はとりあえず納得したが、久瀬たち、いや、郁美を見る住井たち
の視線は厳しさを増した。
 とりあえず、2人が納得したのを感じたみさきは説明を始めた。
「まず、私達のことから話すよ。いいよね、茜ちゃん」
「・・・はい・・・」
 流石に、この状況で「嫌です」とは言えないらしい。茜の了解を得てみさきは話し始め
た。
「私と茜ちゃんはジオン軍の研究機関、FARGOで造られた存在なんだよ。コードネー
ム、シェイドに従って造られた試作品。それが私達」
 みさきの説明に郁美、晴香、葉子が椅子から立ち上がった。顔が驚愕に歪んでいる。そ
んな3人にみさきは聞かせるように話し掛ける。
「3人がシェイドだっていうのもなんとなく気付いていたよ。始めて会ったときにね」
「それじゃ、あの時厳しい顔になったのは」
「うん、3人の力を感じたからだよ」
 瑞佳の問いに答える。
「シェイドがどういうものなのか、ということについては、私も茜ちゃんも散々調べたん
だけど、結局全てを知ることはできなかったよ。せめて、アーセン博士か、巳間さんがい
れば聞くこともできたんだけど」
 みさきが巳間の名を出した時、晴香の表情が曇った。それを見て七瀬が声をかける。
「どうかしたの?」
「・・・何でもないわ、気にしないで」
 七瀬はまだ心配そうだったが、晴香の目があまりに真剣だったので口をつぐんだ。みさ
きの話は続く。
「シェイドっていうのは、簡単に言うと、異常な反応速度と肉体強度を持つ兵士。パイロ
ットとしてみるならニュータイプにも匹敵するかやや上回る強さを持ってて、シェイド専
用の機体に乗った時には無類の強さを発揮できるの」
「それじゃ、茜も、みさきさんも化け物のように強いって事なのか?」
 浩平が聞いてくる。みさきも茜も頷いた。
「うん、浩平君も見たでしょ。格納庫にあった普通のMSよりも二回り大きい、漆黒のM
Sを」
「ああ、じゃあ、あれが」
「そう、私の専用機、リヴァーク。それに、茜ちゃんのイリーズがエターナルにはあるの」
 みさきの説明に何人かが頷いた。そして、今度はクラインが質問してくる。
「それで、シェイドっていうのは、艦長と里村のほかに、一体何人いるんですか。それに、
シェイドってのは全員専用機を持ってるんですか?」
「私の知ってる限りでは、私と茜ちゃん、それに連邦にいる川澄舞ちゃんにシアン・ビュ
ーフォート兄さん。それに、私達の次の世代が何人かいたよ。でも、現にここに私の知ら
ない3人のシェイドがいるんだから、どれ位いるのかはよく分からないな。でも2人にも
専用機はあるよ。ただ、実際に作られたのかどうかはわかんないけど」
 すまなそうにみさきが答える。それを聞いてクラインは落胆したが、すぐに気を持ち直
した。
 みさきはここで一旦話を切り、全員を見渡した。
「それで、ここからがシェイドのもつ最大の恐ろしさだけど」
 そう言って、みさきは目を閉じた。それを見て茜と雪見、住井が立ち上がったが、みさ
きはかまわずに目を開けた。その目を見て、事情を知らない全員が驚いた。なんと、みさ
きの目が金色に輝き、髪が不自然にふわりと浮いた。
「これがシェイド能力。シェイドは能力に個人差はあるけど、みんな不思議な力を持って
るの。その能力を使うとき、こんな風に目が光るんだけどね」
「・・・そうなると、どういうことができるようになるんです?」
 恐る恐る、といった感じで瑞佳が聞いてくる。
「うん、私は心眼に未来視、瞬間移動だよ」
「・・・あの、よく分からないんですけど?」
「心眼は全てを知る力。これを使ってる間は私も目が見えるようになるし、ニュータイプ
並の知覚領域をもてるようになるの。未来視は瞬間的に直後に起きる事が見えるの。これ
を使うと、戦闘なんかで相手がどっちに避けるかが分かるんだよ。瞬間移動っていうのは、
知ってるところや、知っている人の持つ力を目標にして一瞬で移動する能力。でも、あん
まり遠くには無理なんだけどね。ほかのものを送ることもできるけど、移動距離は重さに
反比例するよ」
 そう言った瞬間、みさきの姿がみんなの視界から消えた。驚くまもなく入り口の方から
みさきが声をかける。
「どうかな、これが瞬間移動だよ」
 実践してみせたみさきにその場にいる者は言葉も無かった。いや、ただ1人、葉子だけ
が震える声で呟いた。
「・・・CALSS−SS能力」
「CALSS−SSって、なんなの、葉子さん?」
 郁美が聞く。
「FARGOではCALSS−Aが最高とされていましたが、記録上ではAを超えるS級、
SS級が存在していました。それが誰なのかは私にも分かりませんでしたが、どうやらみ
さきさんのおっしゃっていた4人の試作機というのが、その超級シェイドのようですね」
 そう言って、葉子が立ち上がる。
「みさきさん、私のこの「不可視の力」、受けられますか?」
「不可視の力?」
 みさきが首を捻る。だが、葉子はかまわずに目を金色に輝かした。金色の髪が怪しく踊
る。その瞬間、みさきと葉子の間の空間が揺らぎ、周囲の椅子が粉々に吹き飛んだ。
「ちょ、ちょっとお、何が起こってるのよ!」
「<びっくりなの>」
 七瀬と澪がそれを見てコメントしている。他のメンバーは声も無いようだ。全員が見守
る中、2人はほとんど同時に力を消した。それと同時に怪現象も収まった。
 怪現象が収まったのを知って瑞佳がペタンと床に座り込んだ。
「は〜、怖かったよ」
 瑞佳の漏らした安堵の呟きは全員の呟きだったかもしれない。ただ、それを聞いたシェ
イド関係者の表情は暗かった。茜がぼそっと呟く。
「・・・やっぱり、怖いですよね」
「え!」
 瑞佳が驚いて茜を見る。
「里村さん」
「私達がこの力を隠してきたのは、みんなに怖がられるのを恐れていたからです・・・化
け物と、思われたくは無かったんです」
 茜が涙声になる。その肩を雪見が抱いて慰めていた。代りに住井が説明する。
「そういうことだ。俺と深山さんはFARGOでシェイド専用機の設計に加わっていた技
術者だったんだ。ま、ほとんど終戦間際だったけどね」
 そう言って肩をすくめて見せる。だが、すぐに真面目な顔に戻った。
「だけど、シェイドが4人以外にもいるなんてのは始めて知った。君達は、連邦軍が造っ
たのかい?」
 住井の質問に郁美、晴香、葉子は表情を曇らせた。特に晴香は蒼白になっている。
 やがて、郁美が話し始めた。
「私達は、ジオンのシェイド量産計画、ラスト・バタリオンに基づいて造られた、量産型
シェイドよ」
「・・・ラスト・バタリオン?」
 住井は腕を組んで考えるが、すぐに頭を振った。やっぱり知らないのだ。
「なんだい、それは?」
「ラスト・バタリオン計画。ギレン総帥の直属部隊として編成されるシェイドだけの部隊。
そのために、私達みたいにさらわれて来た人たちは数え切れないというわ。そして、その
中で運良くシェイド化に成功したのが私達。もちろん、他にもいたけど、今はどうなった
のか、分からないわ」
 郁美の投げやりな答えに住井は深刻な表情をした。しばし考えをまとめるように悩み、
おもむろに口を開いた。
「その、量産シェイドの能力と、専用機の性能を教えてくれ」
「ええ、私達はCALSS−AからCALSS−Cの3段階に分けられるの。ランクが上
がるほどに大きな力が使えて、私達CALSS−Aは完全な不可視の力が仕えるわ。逆に
CALSS−Cの晴香は相手を破壊することしかできないの。と言っても、CALSS−
Aなんて私と葉子さんくらいだったけどね」
 郁美の説明に晴香と葉子が頷く。
「そして、私達に渡された機体、ヴァルキューレはそれなりの数があったわ。私達の乗っ
てるディバイナーはヴァルキューレを連邦の技術を加えて改装したものよ」
「連邦の技術で改装した? そいつは凄いが、それじゃあ、シェイド専用機の技術は連邦
に流れてるのか」
 住井が苦々しそうに言う。自分が開発に関わっていただけに、その凄まじさはよく分か
っているのだ。
「それで、その不可視の力って言うのは?」
「さっき葉子さんが見せた力のことよ。同じ力を持つものならぶつけ合って相殺すること
ができるわ。でも、そんな器用なことができるのは私と葉子さん。つまりCALSS−A
だけなのよ。他にも、肉体能力を引き出したり、傷口を抑えて出血を止めたりなんてこと
もできるわ。まあ、SFにでてくるサイコキネシスみたいなものね。もっとも、こっちの
方が遥かに用途が広いわ。強さや使い方はにもよるけど、慣れてくれば折れた骨を繋ぐな
んてこともできるもの」
 郁美の説明にみんなが感心する。て言うか、みさきや茜も感心している。それを見て郁
美がつっこんだ。
「てっ、なんであなたたちまで感心してるの!?」
「だって、私達はそんなこと考えずに使ってたから。これって不可視の力って言うんだ」
「てっきり、シェイドなら誰でも使えるおまけみたいな力だとばかり思ってました」
 みさきと茜の返事を聞いて郁美と葉子、晴香は頭を抑えた。
「超級って、やっぱり凄いのね」
「私達よりは凄い力を持ってるとは思ってましたが、ここまでとは」
「なんだか、私達が馬鹿みたい」
 3人の漏らす呟きを聞いて、その場にいる全員が笑い出した。
 ひときしり笑い終わった後、みさきが恐る恐るといった感じで聞いてきた。
「それで、みんなはどうする。私みたいな化け物と一緒にいるのが嫌なら、他の艦隊に転
属させてあげるけど」
 みさきの質問を受けたエターナル隊のメンバーは一様に顔を見合わせ、ついでまた笑い
出した。
「みさきさんが、今更化け物だって言われてもなあ」
 浩平が笑いながら話す。
「そうよね、私達、今までずっと一緒にいたんだし、今更言われてもピンとこないわよ」
「そうだよ。何が変わったわけでもないもん」
 七瀬と瑞佳も笑いながら答える。それを聞いて茜が聞いた。
「それでは、私達とは今まで通りでいいと言うんですか?」
 茜の問いに浩平達は笑顔で大きく頷いた。
「だってなあ、今まで艦長の食いっぷりを見てきて化け物だと思ってたからなあ」
 クラインの本音な一言にその場にいる全員が頷き、また爆笑の渦に包まれた。ただ1人、
みさきだけが拗ねていたが。
「酷いよ、わたし、そんなに食べてないよ〜」
 みさきの反論は誰も聞いてくれなかった。
 エターナル隊があっさりとみさきたちを受け入れたのを見て、郁美たちはどこかうらや
ましそうだった。
 葉子が久瀬に聞いてくる。
「それで、大尉はどうしますか?」
 聞かれた久瀬は頭を掻いて答えた。
「いや、実は、僕もシェイドについてはある程度知ってたんだ。父さんに資料をもらって
たからね」
 久瀬の答えを聞いて郁美と晴香、葉子は固まった。代わりに由衣が聞いてくる。
「えー、それじゃあ、知ってて隠してたんですか?」
「ま、まあね。父さんにも、3人は結構気にしてるから、必要以上にそのことには触れる
なって言われてたし」
 久瀬が仕方ない、といった感じで答える。だが、そのことは3人には何の慰めにもなら
なかった。
「酷いです。私達、ずっと気にしてたんですよ」
「知ってて黙ってるなんて、趣味が悪いです」
「今まで悩んでた私達の苦労をなんだと思ってるのよ」
 3人が目を金色に輝かせて詰め寄ってくる。それを見て久瀬は焦りまくって後ずさった。
「ま、待って、落ち着いて!」
「「「問答無用(です)!」」」
 3人の瞳が一際輝き、久瀬の背後で何かがつぶれる音がした。みれば、置いてあった机
と椅子がひしゃげて丸くなっている。その威力に久瀬は文字通り青ざめた。だが、3人は
目から金色を消すと笑顔に戻った。
「まあ、これで許してあげます」
「大尉、これからもよろしく」
「まあ、しょうがないか」
 3人のそれぞれの答えを聞いて、久瀬は思いっきり安堵の溜息を漏らした。それを見て
由衣も含めた4人が楽しそうに笑う。
 かくして、シェイドはエターナル隊と久瀬小隊の間では公認となり、3人の3機のディ
バイナーは雪見と住井が全力をあげて改造してくれることになった。この部隊がファマス
でも最強の戦闘部隊となったのは言うまでもなく、以後、連邦軍に膨大な犠牲を払わせる
ことになる。


機体解説

MS―11B アクト・ザク
兵装 ビームライフル
   ヒートホーク
<説明>
 ペズン計画で開発されたザクで、機体の特性としてはジオンと言うよりもむしろ連邦系。
極めて高性能な機体で、1年戦争中に開発された機体としては屈指の強さを持つ。その高
性能を買われて戦後は連邦軍でも量産されていた。このタイプはファマス火星基地で生産
されていたタイプで、すでに生産は中止されている。

MS−14F ゲルググ・マリーネ
兵装 90mmマシンガン
   110ミリ速射砲×2
   ビームサーベル
   スパイクシールド
<説明>
 海兵用に生産されたゲルググで、装甲を犠牲にして機動性と運動性の強化を図っている。
コスト的に同時期に開発されたゲルググ・イエーガーよりも安価だったためか、かなりの
数が生産されている。ファマスでもその使い易さを買われて大量生産され、かなりの機数
が配備されている。

MS−09R2 リックドムU
兵装 ジャイアント・バズ
   シュツルムファウスト
   ビーム砲
   ヒートサーベル
<説明>
 統合整備計画で開発されたリックドムの改良型。癖の無い高性能機だが、ややコストが
高い機体。背中にドロップタンクを標準装備させるなど、細かな改良が施されている。ち
なみに、ビーム砲というのは拡散ビームを収束したもので、多少威力が上がっているがや
はり使えない。

MS−17B ガルバルディβ
兵装 ビームライフル
   ビームサーベル×2
   シールド
<説明>
 1年戦争末期に開発されたMS−17Aガルバルディαの改良型。後に連邦でもRMS
−117ガルバルディβが生産されるが、この2つは同型と言うよりは兄弟機であり、随
所に差が見られる。性能的には1流で、シュツーカと比較しても引けを取らない高性能機
である。ただ、コスト的にはやはり折り合いが点けにくく、シュツーカの就役と同時に生
産が止められた。

MS−18F ケンプファー
兵装 ビームラーフル
   ジャイアントバズーカ×2
   シュツルムファウスト×2
   ビームサーベル×2
   チェーンマイン
<説明>
 MS−18Eケンプファーの改良型。ショットガンをビームライフルに変更し、火力の
強化と継戦能力の向上を図った。強襲機という特異な性格の機体として考えるとこれらの
強化は的を得たものであり、F型は絶賛を持って迎えられた。しかし、その性格上あまり
必要とする任務も部隊も無く、結果として少数生産で終わっている。また、生産された機
体も強襲機ゆえの防御力の低さから生存率は低く、現存する数は少ない。

MDF−05 ジャギュアー
兵装 ビームライフル
   110mm速射砲×2
   ビームサーベル×2
   シールド
<説明>
 ファマス最強の量産機。ガンダリウムβ製の装甲、驚異的な1800KW級のジェネレ
ーター、ビームライフルとビームサーベルの標準装備など、あらゆる面で82年代のMS
の水準を大きく超えたMSである。ただ、その超高性能ゆえか生産された数は少なく、事
実上エース専用機となっている。同時期に開発された連邦MSで、これと戦えるMSは存
在しない。

MDF−03N タイラント
兵装 90mmマシンガン
有線式ビームトマホーク
   110mm速射砲×2
   ビームサーベル
<説明>
 ブレッタを改造した七瀬留美専用機。とにかくパワーとスピードに重点がおかれており、
近接戦ならいかなるMSをも凌駕する戦闘能力を発揮する。この機体が持つビームトマホ
ークは驚異的な武器で、ヴァルキューレの持つビームグレイブを改良したものであり、現
行のMSのもつビームサーベルでは斬り合えないほどの威力を持っている。まさに闘将七
瀬留美のためのMSと言えるだろう。

MDF−03M エトワール
兵装 ビームライフル
   110mm速射砲×2
   ビームサーベル×2
   シールド
<説明>
 長森瑞佳専用機、ニュータイプである瑞佳の為に反応速度を特に強化した機体。他の能
力も全体的に向上しており、七瀬のタイラントよりもバランスがいい機体となっている。
装甲もチタン・セラミック複合材からガンダリウムβ製に換えられており、総合的にはジ
ャギュアーを凌ぐ超高性能MSとなっている。

MSN−04 テンペスト
兵装 ビームライフル
   ジャイアントバズーカ×2
   ビームサーベル
   ビット×4
<説明>
 澪と繭が使用するNT専用機。ファマスで開発された機体で、両肩に2基ずつビットを
搭載している。また、背中には2つのジャイアントバズーカを背負っており、なかなか迫
力ある機体となっている。しかし、所詮はビットによる長距離戦闘に主眼を置いて開発さ
れた機体なので、接近されるとこれといった特徴が無いMSに成り下がってしまう。



後書き
ジム改 やっと、ファマスのメンバーを書けました
謎の男 ふふふふふ、ようやく俺の時代が来たか
ジム改 だ、誰だ貴様!?
謎の男 ふははははははは、我は折原浩平、後書きの主となる男!
ジム改 なんだ、出番のない脇役か
浩平  誰がだ!? それに、何で俺より強い奴がこんなに多い? 普通なら俺がエース
           じゃないのか
ジム改 君も強いんだよ。単純なパイロットとしての技量で見るなら屈指のものだからね
浩平  でも、郁美たちには勝てないんだろう?
ジム改 何なら、君も強化されるか? 高槻式なら生存率は数百分の一まで上がってるぞ
浩平  いや、遠慮しておく
ジム改 そうか(すこし残念そう)
浩平  ところで、俺たちファマスのパイロットの中では誰が一番強いんだ?
ジム改 現時点でなら氷上
浩平  てことは、茜やみさき先輩は氷上より弱いと?
ジム改 うむ、氷上はああ見えても実は(以下検閲)だからな
浩平  むう、納得できるような、できないような・・・
ジム改 では、次回辺りから連邦軍とファマスの大決戦が始まります。御期待ください
浩平  さらば!