第16章 要塞攻防戦

 連邦軍第1艦隊旗艦であるマゼラン改級戦艦ペンシルヴァニアの艦橋でワイアット大将は全軍に演説をしていた。艦隊間の距離が詰まったことでようやく音信不通だった第4、第5艦隊と連絡が取れたのだ。ただ、何故か第6艦隊は未だに現れず、艦隊司令部を不安にさせていたが。
「連邦の兵士諸君、遂に、我々はコロネット作戦の最終段階、フォスターTに対する直接攻撃を開始する。我々の戦力はフォスターTに展開するファマス軍の3倍以上にもなる。我々が負ける要素は何処にも無い。諸君、連邦に反旗を翻し、独立などという妄想を掲げてこの宇宙を再び戦乱をもたらしたファマスを殲滅するための第1歩を今、我々が踏み出すのだ。ここでファマスを倒さなくては、彼らは増長し、第2のジオンとなって地球に攻め込んでくるだろう。この戦いは、ファマスとの戦いにおける重要な一戦となる。兵士諸君にはこれまで以上の奮闘を期待するものである。以上だ」
 しばしの静寂が訪れ、ついで艦隊が爆発的な歓声に包まれた。ほとんどの艦で将兵が一斉に歓呼の叫びを上げ、軍帽が宙を舞う。だが、中には冷めた者たちもいた。
 第1艦隊の分艦隊を預かるクライフ・オーエンス准将はワイアットの演説を聞いて苦々しそうに呟いた。
「3倍だと? 確かに数だけならな。だが、MSの性能差と人材の差を考えればそこまであるものか」
 また、機動艦隊司令官の水瀬秋子は笑顔で演説をするワイアットを見ていた。
「あらあら、もう勝った気でいるんですね、ワイアット長官は」
 秋子の笑顔を見てマイベックは慌てて姿勢を正した。そこに座っているのはいつもの温厚な秋子さんではなく、諜報部の局員すらも震え上がらせる水瀬准将だった。
 幾人かの優れた指揮官達はワイアットの演説に憤りを覚えていたが、それで作戦が中止される訳でもなく、各艦隊はMSや戦闘機の発進準備に入った。
 カノンの艦内も例外ではなく、格納庫ではシアンが檄を飛ばしていた。
「各中隊は出撃準備を急げ。戦闘機隊は増槽を搭載、航続距離を伸ばせ。今回は大規模艦隊戦だ。今までみたいに1対1に持ち込めるとは思うな、常に味方と行動を共にしろ。目標はフォスターTの防御施設の破壊と、宇宙港の制圧だ。我々は第2波として突入することになるから、そのつもりで待機してろ!」
 シアンが指示を飛ばしながら格納庫を歩き回る。すると、トルビアックが自分に与えられた機体の足元でしょげていた。
「なんだ、まだ気にしてるのか?」
「・・・俺のヘビーガンダムがぁ〜」
 そう、あのエアーズ市上空戦でヘビーガンダムは大破してしまい、残骸は回収されたのだが、必至に修理してくれと訴えるトルビアックに石橋整備長は残酷な答えを伝えた。
「すまんな、もう、こいつを直せるだけのパーツがないんだ」
 こうして、ヘビーガンダムは廃棄処分となり、代わりにトルビアックに与えられたのはジムキャノンUだった。
「せめてジムカスタムにしてくださいよ〜」
 こう言ってトルビアックはシアンに泣きついたが、シアンは冷たく言い切った。
「すまんが、あまってるジムカスタムは無いんだ」
 シアンは嘘は言っていない。カノンにはもうジムカスタムは無かったのだ。ただ、まだジムキャノンUが2機残っていたので、そのうちの1機がトルビアックに回されたのだ。だが、どちらかと言うと接近戦を得意とするトルビアックには、中距離での砲撃戦に主眼を置いて開発されたジムキャノンUはどうにも合わないらしい。
 トルビアックが愚痴っていると、後ろから真琴に思いっきりけりつけられた。
「ぐおっ!」
「あんた、いつまで愚痴ってんのよ。男でしょう!」
 真琴に怒鳴られてトルビアックは思わず頷いてしまった。
「あ、ああ」
「なら、いいかげん覚悟を決めなさいよね! こいつなんてジム改なのよ、ジム改」
「・・・・・・」
 なにやら、馬鹿にされてるような気がするのは気のせいだろうか? シアンは心の片隅でそんなことを考えながら真琴を止めに入った。
「真琴、それくらいにしておけ」
「うるさい! あたしに話し掛けないで。殺すわよ!」
「・・・まあ、それはどうでもいいが」
 真琴の剣幕にシアンまでもが押される。真琴に食いつかれているシアンを見てトルビアックはいきなり笑い出した。
「ぷ、く、あははははははははは!」
「な、なによう、いきなり笑い出して。気持ち悪いわねえ」
「いや、困ってるシアン隊長の顔がおかしくてな」
「・・・そんなにおかしかったか?」
 すこし不満げにシアンが聞く。トルビアックは思いっきり頷いた。
「ええ、珍しいもんを見せてもらいました」
「・・・むう」
 言われて不満そうにするシアンに、トルビアックは敬礼をして見せた。
「まあ、やってみますよ。真琴に乗れるのに、俺が乗りこなせないはずがありませんから」
「ちょっと、それどういう意味よ!」
「言葉どおりさ」
 噛み付いてくる真琴に平然と言い返すトルビアック、真琴は困った顔で引き下がった。
「あ、あうぅ〜」
 それを見てシアンは手を数回叩いた。
「よし、それじゃあ2人とも乗り込め、いつ出撃がかかるか分からんからな」
「はい!」
「・・・ふん!」
 2人は同時に答えて自分の機体に向かっていった。それを確認してシアンもジム改に乗り込んでいった。
 トルビアックがジムキャノンUに乗り込むと、北川が通信を入れてきた。
「どうだトルク、新型機は?」
「・・・皮肉か、北川?」
「ははは、まあ、そんな所だな」
 トルビアックは、迷わず通信をきろうとした。慌てて北川が止める。
「ま、待てトルク、俺の話を聞け!」
「ほう、いいだろう。話してみろ」
 トルビアックに促されて、すこし逡巡したあと、北川は話し始めた。
「・・・天野と沢渡って、シアンさんと何かあったのか? あの態度はちょっと尋常じゃないぞ」
「・・・気づいてたか」
「ああ、お前なら、何か知ってるんじゃないかと思ってな・・・知ってるんだろ?」
「ああ、まあ、俺もあいつと同じ、第4独立艦隊の出身だからな」
 そう前置きして、トルビアックは簡単に話してくれた。
「天野には恋人がいてな。カーレ・ウィロックという男だ。ウィロックと天野はお似合いのカップルだったな。あいつが生きてる頃は、2人もああじゃなかったんだが」
「死んだのか」
「星1号作戦前にな。暗礁宙域での補給線寸断作戦で、俺たちは出撃したんだが、そこで、俺たちの部隊はジオンの待ち伏せを受けて、全滅しかけたんだ。そのとき、天野が見たのは、ウィロックと戦う隊長の姿だった。隊長と戦って勝てるわけがないからな。ウィロックの奴はすぐに落とされちまった」
「・・・なんで、シアンさんはそんな事したんだ?」
「ウィロックは、ジオンのスパイだった。だけど、天野にしてみれば彼氏だからな。隊長は敵なのさ」
 トルビアックは天井を仰いだ。北川も同じように天井を仰ぐ。まったく、何でこう問題ばかり起こるのか。
 さまざまな問題を抱えたまま、艦隊はフォスターTに向かっていた。このことが影響を残すのかどうか、それは、始まってみるまで分からなかった。


 宇宙世紀0081年12月2日、ついにワイアット率いる連邦艦隊はフォスターTに襲い掛かった。先鋒は第4、第5艦隊で、これに第1艦隊から分派された艦隊が加わっている。この時、フォスターTを攻撃している先鋒隊は第4、第5艦隊がそれぞれ旗艦のマゼラン改1隻に巡洋艦4個戦隊16隻、輸送艦8隻(このうち、MS母艦型は4隻)で編成されている。これに、第1艦隊から分派された戦艦2個戦隊8隻、巡洋艦4個戦隊16隻、強襲揚陸艦2隻、輸送艦10隻が加わっている。ただ、ここに来るまでに戦闘で消耗しており、総戦力は戦艦10隻、巡洋艦41隻、強襲揚陸艦2隻、輸送艦18隻でしかない。その搭載しているMSやボールは300機ほど。
 本当ならここに第6艦隊の戦艦1隻、巡洋艦16隻、輸送艦8隻が加わっているはずだった。
 この戦力に対して、ファマス軍の戦力は悲しいほど少ない。彼らの戦力は戦艦6隻、巡洋艦各種あわせて33隻、MSやMA、戦闘機が合計で200機ほど。これで全てなのだ。これに要塞の火力が加わるので、先鋒との戦いなら互角の勝負ができるだろう。だが、連邦軍には先鋒を失っても、まだ第1艦隊の半数と、機動艦隊が残っているのだ。
 戦いは双方の艦隊の砲撃戦から始まった。周囲に身を隠すような障害物もなく、ミノフスキー粒子が充満する状態では、お互いに小細工をする余地などなく、正面から熾烈な砲撃戦を始めるしかなかったのだ。
この砲撃戦は最初から連邦軍のほうが優勢だった。元々、連邦軍には大鑑巨砲主義があり、その艦艇は砲撃戦重視に設計されている。正面から撃ち合えば連邦軍が圧倒するのも当然なのだ。だが、勝負はこれではつかない。本当の勝負はこのまま距離が詰まり、双方がMSを発進させてから始まるのだ。
 ファマス軍を率いているチリアクス少将は砲撃戦での被害の増加を嫌い、艦隊は要塞の砲火の傘の中から出ることは絶対に許さなかった。この為、ファマス艦隊は第1次防衛ラインから前に出ることができず、延々と続く長距離砲戦に耐えていた。
 特に、この状況に苦痛を感じているのが旧ジオン系の指揮官達である。ジオン系の艦船の真髄は機動力を生かしたMSとの連携にある。ジオン艦の主砲が前部に集中しているのも、MSの支援を前提に設計されているからだ。
 ザンジバル級巡洋艦アリシューザで指揮をとっているショウ・コバヤシ少佐はこの砲撃戦に苛立っていた。
「まったく、こんな所で撃ち合うのは性に合わんな」
「仕方ありません、チリアクス少将の命令ですから」
 参謀のトップ大尉が慰めるように言う。彼は長年付き合ってきた上官の性格を知り抜いており、ここで激発させない事が自分の仕事だと考えていた。トップに宥められてショウはむっつりとした顔で正面を見据えた。
 戦いは砲撃戦を行いながら、ゆっくりと連邦艦隊がファマス艦隊を要塞に押し込んでいった。ファマス艦隊は懸命に反撃しているのだが、やはり砲力の差は大きく、撃ち負けているのだ。
 エターナルで指揮をとりつづけていたみさきに、浩平達が出撃を求めてきた。やられっ放しと言う状況に、血の気の多いパイロット達が我慢できなくなってきたのだ。
「艦長、行かして下さい!」
「浩平君、まだ早いよ」
 いきり立つ浩平をみさきがやんわりと宥める。だが、今度はクラインが言ってきた。
「艦長、俺からもお願いします。このままじゃ、なぶり殺しだ」
「クラインさん・・・」
 みさきは困った顔で雪見を見た。
「雪ちゃん、どうしたらいと思う?」
「他の艦隊はまだ我慢してるのよ。うちだけ先走るのは不味いわ」
 雪見は作戦指揮では常識的な作戦を選択する事が多い。これは、雪見の慎重な性格の為なのだが、みさきほどの鋭い閃きがないのだ。まあ、普通はそうなのだが。しかし、今回はみさきも同じ考えらしく、頷くとクラインに待つように伝えた。
 艦内電話を戻したみさきは、深刻な表情で正面に展開している連邦艦隊を眺める、仕草をする。
「ねえ、雪ちゃん。あの中にカノンの姿はあるかな?」
「え? いいえ、無いわよ」
「そう」
 それを聞いたみさきは、目に見えてほっとしていた。みさきの態度に、雪見は不安の色を見せる。
「みさき、本当に戦うの。あの、シアンさんと?」
 雪見の声には恐怖が滲み出ている。シアンを知っているだけに、その実力がどれほど凄まじいものかを理解できるのだ。だが、同時にもう一つのことも理解していた。シアンと戦えるのは、みさきだけだという事も。
 雪見の言いたい事はみさきにもよく分かっていた。それでもみさきは笑顔を浮かべた。
「うん、兄さんが出てきたら、茜ちゃんでも苦戦するだろうからね」
「でも、シアンさんは専用機を持ってないわ。なら、茜さんのイリーズでも充分じゃない」
「・・・かもしれないね。でも、私は兄さんと戦うよ」
「みさき、貴女、まさか・・・」
 雪見の顔色が変わる。
「大丈夫。まだ死ぬ気は無いよ」
 みさきの笑顔には、やや力強さが欠けていたが、雪見はとりあえず納得した。そして、自分も視線を正面に向ける。
「とりあえずは、ここを潜り抜けないとね」
「そうだよ。頑張ろう、雪ちゃん」
 2人が笑顔で頷きあう。そんな2人に、オペレーターがチリアクスからの通信を伝えた。
「艦長、司令より通信『全艦、第2防衛ラインまで後退。再配置後、MS隊を投入、総力戦に入る』以上です」
 通信を聞いて、みさきと雪見は顔を見合わせ、次いで大喜びした。
「雪ちゃん、全機発進準備、命令あり次第、出撃だよ!」
「ええ、勝負はここからよ!」
 雪見が指揮下の艦隊に指示を飛ばす。その背後では、みさきが格納庫に向かって走っていった。
 チリアクスの命令でファマスの全艦隊が一斉に後退していく。それにあわせて、連邦艦隊も前進を再開した。そして、フォスターTとの距離が予定していた所まで縮まったのを確認すると、コロンブス改装母艦から次々とMSやボールが出撃していった。そして、それらは次々とマゼラン改やサラミス改に取り付いていく。そして、ペガサス級強襲揚陸艦ホワートベースUとサラブレッドを中心に密集隊形をとると、フォスターTに向けて最大戦速で突入を開始した。


 連邦艦隊の突入を確認した斎藤と雪見、ショウは一斉に命令を下した。
「「「撃て!」」」
 3人の命令を受けて、指揮下の艦隊はファマス艦隊の中で最初に砲撃を開始した。叩きつけられるビームを受けて3隻のサラミスが爆散し、5隻が被弾して落伍する。爆散した3隻に取り付いていたMSやボールは艦と運命を共にしたが、落伍した艦の機体は艦を離れて艦隊と共に突入している。そして、先制のビームに返礼するかのように、連邦艦隊からもビームとミサイルが発射され、ファマス艦隊に襲い掛かった。
 連邦艦隊が反撃するのに合わせて、残るファマス艦隊も放火を開き、MS隊が出撃していく。両軍はたちまち総力戦へと縺れ込んでいった。
 エターナルかの格納庫では誰もが驚きの表情を浮かべていた。そこには、パイロット用のノーマルスーツに身を包んだみさきがいたのだ。浩平が全員を代表して話し掛ける。
「あ、あの、艦長?」
「何、浩平君?」
「何で、ノーマルスーツを? まさか、艦長自ら出撃するなんていう気じゃないでしょうね?」
 浩平は引きつった笑顔を浮かべたが、みさきは笑顔で頷いた。
「うん、そのつもりだよ」
「・・・・・・」
 もはや、言うべき言葉が見つからず、浩平は黙り込んでしまった。黙ってしまった浩平にみさきは不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに住井を呼んだ。
「住井君、リヴァークの整備はどうかな?」
「大丈夫、そろそろだと思って、整備状態は完璧にしておきました」
 住井が自身を満面に浮かべて確約する。
「それより、あまり壊さないでくださいよ。こいつを直すのは、結構大変なんですから」
「努力はしてみるけど、たぶん無傷じゃ帰れないよ」
 みさきがすまなそうに言う。それを聞いて、住井の視線は鋭さを増した。
「・・・雪見さんは、納得したんすか?」
「うん、最初は反対してたけど、一応納得してくれたよ」
「・・・一応、ね」
 住井はリヴァークを見上げた。普通のMSよりも2周りほど大きいその機体は、明らかに他のMSとは一線を画している。
「まあ、こいつに乗ってる限り、負ける気遣いは無いでしょうが・・・」
 そう呟いて、視線をみさきに向ける。
「万が一ということもあります。充分、気をつけてください」
「ありがとう、住井君」
 住井の気遣いに感謝して、みさきはリヴァークのコクピットに乗り込んでいった。他のパイロットも自分の愛機に乗り込んでいく。そして、みさきを先頭にMS隊が次々と出撃していった。
「私と茜ちゃんは単独で動くから、浩平君と留美ちゃんは自分たちのことだけ気を配っていて」
 みさきの指示を受けて、浩平と七瀬は仰天した。
「ちょ、何考えてんすか、みさきさん!」
「そうよ、いくらなんでも1人なんて!」
 2人が同時に反対してくるが、みさきはすこし楽しげに答えた。
「ついて来たいなら構わないけど、ついて来れるかな?」
 そういって、機体を一気に加速した。茜がそれに続く。そのあまりの速さに、エターナル隊の全パイロットは声も無かった。しばらくして、浩平が呆然と呟く。
「・・・なんだよ、あの速さは?」
 浩平の呟きは、そこにいる全員の呟きでもあった。そして、みさきと茜が通ったあとには、幾つもの光が生まれていた。
 そのジム改のパイロットは、目の前で起こっている事態が、信じられなかった。自分たちの部隊は2機の新型MSを迎え撃った。そこまでは確かだ。だが、自分の中隊は気が付いたら自分しか残っていなかった。
「・・嘘だ、こんな、こんな・・・」
 彼の呟きは、漆黒のMSが向けてきたビームマシンガンからビームが打ち出されるまで続いた。
 連邦軍のMS部隊はみさきと茜という、強力極まりない楔を打ち込まれて混乱した。そこに浩平と七瀬を先頭にMS隊が突入してきた。たちまち各所で乱戦が始まり、戦いは一気に激しさを増した。そんな中、ペガサス級強襲揚陸艦の4番艦サラブレッドの艦橋で、艦長の長瀬源三郎中佐が格納庫に電話をつないで話していた。
「柳川、味方がだいぶ苦戦している。厄介そうなのは2機の新型機らしい。こいつを叩いてくれ」
「それで、そいつは強いんですか?」
「かなりね」
「分かりました、行ってきます」
 そう言って、柳川のRガンダムはサラブレットから発進していった。それを見送って、長瀬は重いため息をついた。
 戦場を駆ける死神と化したみさきと茜は、圧倒的多数のジムタイプや、ボールに囲まれても平然としていた。
「数だけじゃ、私たちは堕とせないよ!」
「シェイドの力、その身で味わいなさい」
 そう、連邦軍MS部隊はたった2機のシェイドの前に大苦戦を強いられているのだ。もっとも、2人とも強がってはいるが、実際には弾と推進剤をだいぶ消耗しており、戦闘限界が近くなっていたのだが。
 2人が連邦軍を牽制している間に、浩平達が戦場に到着した。
「艦長〜、ようやく追いつきました」
「浩平君、私たちは一度補給に戻るから、あとはお願い」
「任せてください」
 浩平に後を任せて、みさきと茜は一旦エターナルに戻っていった。それを見送って、浩平は改めて戦場を見やる。そこには、2人によって撃破されたMSやボールの残骸が無数に漂っている。その数は30を下る事はあるまい。
「シェイド、か。ギレン総帥が最後の望みを託したのも分かる気がするな」
 浩平は自嘲気味に呟く。俺だってジオンのエースパイロットだ。腕には充分すぎるほどの自信がある。しかし、もし俺が同じことをやれと言われたとしても、絶対に不可能だろう。こんな事をやれるパイロットを人工的に造り、量産する。人道云々を考えなければ、これほど効果的な兵器は無いだろう。
「だけど、戦争は俺たち人間がするもんなんだよな。総帥には悪いけど、みさきさんたちを強化してまで勝とうなんて考えたことが、ジオンの敗因の一つだよ」
 誰にとも無く呟いて、浩平は連邦MS部隊に突入していった。


 前方で行われている激しい戦いをモニターで眺めながら、祐一は今までを振り返っていた。
 今から3年前、俺は地球にいた。そして、地球でジオンの宣戦布告を聞いた。そして、秋子さんが宇宙に上がり、サラミスの艦長としてルウム戦役に参加した。幸いに秋子さんは生きて帰って帰ってきたが、あの時、連邦軍は参加兵力の8割を失っていた。そして、秋子さんはルナツーで不祥事を起こし、地上軍に移動させられた。
 そして、俺は連邦軍に志願し、宇宙に上がった。ルナツーで俺を待っていたのはセイバーフィッシュと、地球で水瀬家を出て行った北川だった。北川は俺とほとんど同じ頃に連邦軍に入り、以後はずっと一緒の部隊にいた。
「あの頃は酷かったよな。セイバーフィッシュはザクにほとんど歯が立たなくて、出撃するたびに仲間の半分以上が帰ってこなかった。今思えば、よく生き残れたもんだ」
 自分の運の強さに祐一は感謝した。
 祐一の回想はなおもしばらく続いていた。戦争が始まって8ヶ月くらいたって、祐一はルナツーで新しい機体を渡された。それが、RGM−79E先行量産型ジム。連邦が開発した始めてのMSの一つである。祐一と北川は始めて乗ったMSにすぐに惚れ込んだ。何といっても、ザクと互角以上に戦えるという点が2人を虜にしたのだ。連邦パイロットのザクに対する劣等感はそれほどに強かったのだ。
「そういえば、あの頃だったな。トルクの噂が聞こえてきたのも」
 その頃、トルビアックは胸部を黒く塗装した先行量産型ガンダムに乗り、勇名をはせていた。そして同時に、帰還に失敗して、ゲート脇のルナツーの表面に機体をぶつけてガンダムを大破させた男としても知られている。その話を聞いたときは、さすがに祐一も自分の耳を疑ったものだ。まさか、音に聞こえた連邦のエースがそんなへまをやらかすなんて、と。
「同じ頃、地球でも秋子さんがオレンジの恐怖として猛威を振るっていたんだが、ルナツーではやっぱりトルクの方が有名だったな」
 いかにここぞという時に失敗を繰り返す男でも、いや、だからこそ人気が出たというべきか。トルクはいろんな意味でルナツーのムードメーカーだった。ただ、あの頃はまだ俺とトルクには縁が無かったが。
 そして、宇宙における連邦の反抗作戦、星1号作戦に参加し、ここでも俺と北川は生き残った。この頃から、俺と北川もすこしは名前が売れ始めた。そして終戦。本当なら、ここで辞めてもよかったんだが、1年の間にすっかり軍人生活がなじんだせいか、そのまま軍人を続けることにした。北川も付き合ってくれたおかげで、戦後も特に退屈することは無く、各地で戦技教官みたいなことをして過ごしてきた。
「そして、カノン隊に配属、か」
 思えば、なかなかにハードな人生である。そして、静かにモニターを見る。そこには、幾つもの光が生まれては消えていた。そう、3年前から変わらない光景だ。そして、これからも続くのだろうか。
 祐一がそんなことを考えてると、妙なものが映った。
「なんだ、あれは?」
 祐一が見たもの。最大望遠で戦場を映し出すモニターの中を駆け抜けていく、1機の巨大なMS、それは、真っ黒な機体で、それが駆け抜けた後には幾つもの光が生まれていた。
「まさか、あいつが噂のシェイドMSか?」
 祐一の予想は当たっていた。祐一が見たのはみさきのリヴァークだ。そして、みさきを見ている眼が、もう一つあった。シアンも見ていたのだ。ただ、祐一とは違い、こちらは感じるという方法でだが。
「みさき、腕を上げてるな。それに機体もいい」
 みさきの強さは、さすがのシアンですら背筋を寒くさせるほどのものだった。そして、みさきはリヴァークに乗っている。対して、シアンの乗っているのはジム改を自分用に改造したものだ。残念ながら、機体では勝負にならない。
「さて、どうすればやりあえる? せめて互角の勝負、いや、生き残らなくては」
 ある意味、こいつも必死である。まあ、確実にみさきと対決する以上、そうなるのも仕方あるまい。辛いだろうが。
 必死に考えていると、シアンの意識に別の何かが紛れ込んできた。
「誰だ? ニュータイプか。いや、この感じは違う。むしろ、俺たちに近い」
 シアンの感じた何者か。それは、まっすぐにみさきに向かっていった。


 戦場を駆け抜けていたみさきは、自分に迫ってくる強大な力に気づいた。
「誰? 何なの、この力は」
 みさきすらも振り向かせる強大な力を持つ男、柳川は喜びに打ち震えていた。
「感じるぞ、貴様の持つ力を。すばらしい力だ!」
 柳川は嘆いていた。自分を満足させる相手を探して1年戦争を戦いつづけ、そしてついに出会うことは無かった。あるいは、歴史に残るようなエースたちと戦えば、彼の飢えも満たされたのかもしれない。だが、彼に対抗できる相手には、遂に出会うことは無かったのだ。
 だが、彼は初めて自分を満足させてくれそうな相手に出会った。彼は知らなかったが、シェイドの中でも最強の力を持つ者の1人、川名みさきと直接対決する機会を得た彼は、幸運だったといえる。だが、同時にこの対決は、彼にとって最初の敗北を味わう結果を招いた。
 Rガンダムがビームライフルを撃つ。柳川は無駄弾を撃たない。それは柳川のようなエースなら誰でも自然と身に付ける習慣だ。祐一やトルビアックのような、派手な戦い方はエースらしくない戦い方である。もちろん、祐一たちのほうが目立つので、名前が知られるのはたいていこのタイプだ。だが、戦場で怖いのは北川や柳川のような、いぶし銀の名刀のようなパイロットなのだ。そして、柳川は真に恐ろしいパイロットである。
 正確に照準されたビームはリヴァークを貫くかに見えたが、みさきはとっさにそれを回避した。そして、反撃とばかりにメガビームランチャーを撃ち返した。その威力はビームライフルなど問題とはしないほどで、柳川は慌ててそれを回避した。
「あいつ、なんて物騒な物を持ってやがる!」
「外した! ううん、避けたの」
 2人がそれぞれに驚いている間にも、双方の距離が詰まる。そして、互いに激しく位置を変えながら激しい撃ち合いとなった。
「まったく、補給してきたらいきなりこんなのと合うなんて、ついてないよ〜」
 みさきがぼやく。だが、口で言うほどみさきは焦ってはいなかった。なぜなら、確かに柳川は強いが、みさきにとってはこのくらいのパイロットなら、手を焼くかもしれないが、恐れるほどの相手でもないのだ。いや、柳川が弱い訳ではない。みさきが強すぎるのだ。
「悪いけど、君1人にいつまでも構ってられないんだよ。敵はまだたくさんいるんだからね」
 そう呟くと、みさきは本気で機体を動かし始めた。全力を出したシェイドMSについて来れる機体は現段階では存在しない。Rガンダムもそうだ。柳川は突然速くなったリヴァークを見て、眼を疑った。
「馬鹿な、あんな機動をして、人間の体が持つわけが無い!」
 そう、人間なら持つはずが無い。だが、柳川はすぐに気を取り直した。そして不適に笑う。
「くくく、いいぞ、誰だか知らないが、こんなに楽しいのは初めてだ」
 柳川もまた、さらに加速した。かれもまた、人間を超えた機動を見せる。みさきは相手の動きに驚いたが、驚いただけで焦りはしなかった。なぜなら、確かに速いが、それは自分についてこれるほどの速さではなかった。
 一方、柳川は苛立っていた。これだけの速さで動いているのに、いまだに敵を捕らえられないのだ。そればかりか、こちらは確実に捉えられていた。
「ええい、奴のほうが腕がいいとでもいうのか!」
 プライドを傷つけられ、徐々に冷静さを欠いてきた柳川は、もはやみさきの敵ではなかった。慎重に狙いをつけたメガビームランチャーが光り、放たれたビームがRガンダムに突き刺さる。直撃を受けたRガンダムは大破して、そのまま動かなくなった。どうやら、動力系に致命傷を負わせたらしい。
 動かなくなったRガンダムを見て、みさきは次の相手を求めて再び戦場に戻っていった。そして、みさきに完敗した柳川は、照明が落ち、ただスパークが照らすコクピットの中で、肩を震わせて屈辱に耐えていた。
「俺が・・・狩猟者である俺が・・・いくら強い力を持つとはいえ、ジオンなどに・・・」
 柳川の心を、暗い憎悪が占めていた。


 みさきや柳川の激戦を尻目に、全体の戦況はファマス側不利という方向にますます傾いていた。やはり、MSの数と、艦隊の砲力の差が大きく響いている。特に戦艦の数の差が大きく響いていた。ここにグワジン級戦艦でもあれば話も変わっただろうが、互いに保有しているのはマゼラン級か、マゼラン改級が大半だ。そして、連邦軍は10隻の戦艦をそろえている。この火力が、ファマス艦隊に大きな圧力となっていた。
 エターナルの艦橋で雪見は絶え間なく飛び込んでくる報告と戦っていた。
「副長、3番メガ粒子砲出力低下、発射不可能です!」
「また誘導帯が切れたの!?」
「多分、そうです!」
「修理はできるの!?」
「駄目です。あそこは艦外からしかできません!」
 返答を聞いて雪見は歯をかみ締めた。そこに、また悲報が飛び込んでくる。
「巡洋艦ルイトポルド、撃沈!」
「何ですって!!」
 雪見がガラス越しに外を見ると、さっきまで隣で砲撃を加えていたムサイ後期型巡洋艦ルイトポルドが3つに裂け、裂けた部分も本体を追って爆散していった。
 それを見て雪見は膝の力が抜けていくのを感じた。今まで苦難を共にしてきた仲間が、巡洋艦ごと宇宙の塵となったのだ。ここが戦場でなければ、膝を突いて嗚咽していたかもしれない。だが、今の雪見は指揮官なのだ。強引に気を持ち直すと、うちひしがれている艦橋要員を叱咤した。
「何をしているの、敵はまだいるのよ。余所見をしている暇は無いわ!」
 叩きつけるような叱責に、その場にいる全員が慌てて自分の仕事に戻った。部下の仕事を雪見は厳しい目つきで眺めながら、心の中で詫びていた。
『御免なさい。でも、今は我慢して。でないと、私たちも死ぬことになるわ』
 雪見はエターナルに責任を負っている。彼女の仕事は、エターナルとその乗組員を無事に連れ帰ることなのだ。ルイトポルドの乗員には悪いが、今は感傷に浸ってなどいられない。
 ファマス艦隊は必死に防衛線を支えていたが、そろそろ限界に達しようとしていた。猛将ショウ・コバヤシ少佐の率いるアリシューザ隊は全軍の中でももっとも突出していたが、おかげでどの艦もぼろぼろになっていた。旗艦のアリシューザですら判定中破の被害を受けている。
 あまりの被害に耐えかねたトップ大尉がショウに進言してきた。
「艦長、このままでは、わが艦隊は全滅してしまいますぞ」
「だからといって、ここで引き下がるなど、ジオン軍人のすることではない!」
「ですが、戦いはここで終わりではありません。まだ先があるのです。その時、艦隊戦力をすり減らしていたら、我々は何もできなくなります」
「・・・むう」
「さらに、戦力の維持は本作戦の大前提だと、サンデッカー議長も、久瀬中将も仰っていたではありませんか。ここは、引くべきです」
「・・・・・・」
 ショウは迷った。トップの言うことも分かる。だが、彼はファマス軍の中でも屈指の猛将なのだ。その彼にとって、敵を前にして引き下がるというのは、屈辱以外の何者でもなかった。
 だが、そんな彼のプライドも、部下のムサイが直撃を受け、四散するのを見て遂に折れた。
「やむをえん、全艦、後退!」
 ショウは、血を吐くような声で命令を下した。
 ショウが後退を命令する頃には、各艦隊も息を合わせて下がっていた。MS隊が必死にその後退を援護している。そして、第2防衛ラインが崩壊するのを見たチリアクスは、要塞の直衛MS隊と虎の子のMA部隊を戦線に投入した。
 MA部隊を率いていたクラインは、自分の改良型ヴァルヴァロのコクピットで上機嫌だった。
「いいか、俺たちの狙いは戦艦だ。雑魚には目をくれるな!」
「了解!!」
 部下の威勢のいい返事を聞いて、クラインはヴァルヴァロを戦場に向けて突入させた。その後ろから30機の新型MAビグロUが続いていく。そして、要塞から次々とMSや戦闘機が飛び出していった。フォスターTは、その保有戦力の全てを賭けて最後の勝負に出たのだ。


 遂に、フォスターTに突入した連邦軍はファマス軍と激しい総力戦に突入していた。2方向から突入してきた連邦艦隊の圧倒的な戦力を前にファマス艦隊は徐々に押し返されており、フォスターT駐留軍司令官チリアクス少将は司令室で戦況を眺めやり、疲れた顔で部下達を振り返った。
「まったく、物量戦ができるというのはつくづく羨ましい。一体何機いるんだか」
 そう、ファマスの持っているMSは連邦の最新MSであるジム改を上回る高性能を持っている機種が多い。それを操るパイロット達も全体として連邦パイロットよりも優れている。それでも、押し寄せてくる連邦MS隊を食い止めることができないのだ。チリアクスが疲れるのも無理は無い。
 大軍を必至に食い止めている駐留艦隊はすでに第2次防衛線を捨て、フォスターTにまで下がっていた。
 宇宙港の傍で必至に戦うエターナル隊もすでに全滅状態に近かった。
ちなみに、軍事用語では50%を超える損害を出した部隊は全滅とされ、80%を超えると壊滅と呼ばれる。そういう意味で、エターナル隊はすでに半数近い戦力を磨り減らしていた。当初はエターナルにムサイ後期型4隻で編成されていたのだが、ここまで戦いながら後退してくるうちに2隻が沈み、残りの3隻も何らかの損傷を受けていた。
 エターナルの艦橋では雪見が疲れきった顔で指揮を採り続けている。
「正面にサラミス4隻が来ます!」
「砲撃目標は変えないで。MSで対処しなさい!」
「無理です。回せる機体はいません!」
「なら、要塞に言って砲撃させなさい!」
 雪見は次々と飛び込んでくる報告に必至に対応しつづけている。だが、そうした努力をあざ笑うかのように、連邦軍は後から後から現れた。そして、艦隊に所属するMS隊がどうなっているかすらも確認できない状態だった。
 実際、みさきも茜も全力で戦っていた。襲ってくる連邦MSや戦闘機を片っ端から撃墜しているのだが、それでも連邦軍は減ったように見えなかった。2人は背中合わせになって死角をなくしながら話をしていた。
「茜ちゃん、まだ戦える?」
「もう、弾も推進剤もありません。いくらシェイド機が強くても、弾と推進剤が無ければただの鉄くずです」
 茜の疲れきった声が聞こえる。そう、いかにシェイド機が強くても、戦闘力には限界はある。弾切れになれば戦えないのだ。
 このような状態は浩平達にも起こっていた。エターナル隊のMSは全機エターナルの傍で戦っていたので、浩平達も大体一緒に行動しているのだが、すでに全員がぼろぼろになっていた。
「浩平〜、もう弾がないよ〜」
 瑞佳が泣き言を言うが、浩平にもそれを責める余裕は無かった。自分もすでにライフルのエネルギーが残り少なくなっているのだから。
 そんな浩平たちを尻目に、七瀬はまだ健闘していた。
「ほらほら、よそ見してると真っ二つよ!」
 七瀬のタイラントがビームトマホークを振上げる。それを振り下ろした時、ジム改が真っ二つになっていた。タイラントの持つビームトマホークは有線式のジェネレーター直結型なので、ジェネレーターが動いている限りは刃を出すことができた。このおかげでタイラントはライフルやバルカンを温存していられたのだ。闘将七瀬は偉大だ。
「さあ、どんどんかかって来なさい!」
 七瀬が吼える。それを見て繭と澪が呆れていた。
「みゅ―は元気なの」
「<どうしてなの?>」
 2人はすでにビットの連続使用ですっかり疲れきっていた。この時代のサイコミュ兵器はまだ人間に与える負担が大きい。2人がばてているのも無理は無かった。
 もっとも、このエターナル隊の誇るエース部隊のいるエリアは敵が少ない方だった。こいつらがあまりにも強いので連邦軍に敬遠されてしまったのだ。
 そんな中で、連邦艦艇を狙って突撃を繰り返す部隊があった。クラインが勝手に編成したMA部隊だ。クラインのヴァル・ヴァロを中心にしてファマスの主力MAであるビグロUが集まってできている。この強力な部隊で連邦艦隊に突撃をかけ、メガ粒子砲を乱射して離脱する。MSなど問題としないMAの機動性あっての戦術だった。だが、流石のクライン隊も度重なる突撃に消耗を繰り返し、その戦力は開戦時の半数以下にまで落ち込んでいる。
「そろそろ、潮時だな」
すでに判定中破といってもいい愛機の状態を見てクラインは呟く。
「全機、後1回の突撃で終わりにする。突撃終了後、全速でフォスターTに逃げ込むぞ!」
「了解!」
 部下達の返事が聞こえてくるが、その数は確実に減っており、クラインは寂寥感をぬぐえなかった。
「さてと、行くか」
 クラインがブースターを全開にしようとしたとき、月の方角から新たな艦隊が突入してくるのが見えた。
「そ、そんな、馬鹿なことが」
 クラインが咽をカラカラにして呟く。クラインは知らなかったが、これはワイアット大将率いる第1艦隊の主力だった。第6艦隊が来ないので仕方なくワイアットは第1艦隊の一部を第4艦隊につけて突入させていたが、それでもまだワイアットの手元には30隻以上もの艦艇が残っていた。それらがワイアットの指揮の元に突入してきたのだ。



人物紹介

ショウ・コバヤシ 28歳 男性 少佐
 ドズル率いるジオン宇宙攻撃軍の哨戒部隊指揮官だった男。終戦に伴って部下と共にア・バオア・クーより脱出、火星に逃亡した。ドズルの部下らしい猛将で、攻撃に関してはファマスでも最強といわれている。ただ、その分守勢に回ると脆く、柔軟性を欠く性格から失敗も多い男である。

長瀬源三郎 36歳 男性 中佐
 連邦軍中佐で、ペガサス級強襲揚陸艦サラブレッドの艦長。飄々とした男で、おおよそ自分の考えというものを他人に見せない。だが、そのぼんやりした態度とは裏腹に実は物凄い切れ者で、あまりに切れすぎることから上層部に疎まれ、功績の割には出世が遅れている男であるが、本人はまったく気にしていない。後にティターンズに移籍し、エゥーゴに手痛い犠牲を払わせることになる。

柳川裕也 27歳 男性 大尉
 エリート街道を歩けるはずだったが、派閥争いの煽りを受けて長瀬の部下に回された不運な男。普段はやる気がないお役所仕事な男だが、実は戦いを好む性格で、特に強敵と面白い戦いに飢えている。パイロットとしても一軍の指揮官としても一流以上の実力を持つ凄い男。後にティターンズに移籍し、羅刹と呼ばれて恐れられる事になる。意外と憎めない所もあり、姪の初音や部下の松原葵、阿部貴之にはかなわないらしい。


機体解説
SYD−01 リヴァーク
兵装 メガビームキャノン
   90mmマシンガン
   ビームサーベル×2
   110mm速射砲×2
   シールド
<説明>
 アーセンの手による最初のシェイド専用機。試作1号機のためか同種の機体の中でも最大のサイズを持っている。長距離戦向きの機体で、その象徴とも言える右腕のハードポイントにマウントされているメガビームキャノンは現行のMS用火器としては最大の破壊力を持っており、後のハイパー・メガランチャーの原型とも言える武装である。
 機体そのものは試作シェイド専用機としては一番劣っているものの、みさきの能力と組み合わせることでその差を補っている。

MA―06B ヴァル・ヴァロ改
兵装 メガ粒子砲
   ビームガン
   多連装ミサイルランチャー
   アームクロー
<説明>
 ヴァル・ヴァロを深山雪美が改装した機体で、クラインの専用機。全体の性能を少しずつ引き上げており、不足する火力は用途の限定されるプラズマリーダーを多連装ミサイルランチャーに換装することで補っている。一見すると地味な機体だが、その加速性能と火力は十分なインパクトを持っている。

MA―05G ビグロU
兵装 メガ粒子砲×2
   ミサイルランチャー×4
  
<説明> 
 ビグロ、ビグロマイヤーと経て完成されたファマスの主力MA。その火力は絶大で、艦船攻撃に大きな効果がある。加速性能も抜群だが運動性は悪く、クローアームも単なる補助アンバックとしての効果を期待された補助アームとなっているので格闘戦もできなくなっているのが欠点だが、生産性は向上しており、数を充実させることで大きな戦果を上げられるだろうと期待されている。

ノルマンディー
全長355メートル 
兵装 連装メガ粒子砲×3
   単装メガ粒子砲×4
   連装機銃×24
   MS搭載数24機
<説明>
 ファマスが完成させた大型戦艦で、グワジン級とペガサス級の設計が取り入れられている。グワジン級と撃ち合える火力を持ち、ミノフスキークラフトによる大気圏突入、航行、離脱能力を有する高性能艦で、ファマスの旗艦用戦艦として4隻が建造され、5,6番艦も建造中である。この戦艦とシュツーカ系列機こそ久瀬が火星ジオン軍に流していた技術と物資の生み出した成果である。

マゼラン改級戦艦
全長327メートル
兵装 連装メガ粒子砲×7
   レーザー砲×16
<説明>
 連邦軍の主力となる戦艦。マゼラン級戦艦の改装艦で、それほど大きな改装はされていない。あいも変らぬ大鑑巨砲主義で、MS搭載能力はない。しかし、その火力は侮ることはできず、正面に出でればいかなる相手にも打ち勝つ事ができるといわれている。

サラブレッド
全長不明
兵装 不明
   搭載機数:18機
<説明>
 ア・バオア・クー戦にも参加した歴戦の艦。改ペガサス級と呼ばれ、同型艦にグレイファントムなどがある。ペガサス級は実験艦的な性格が強く、この艦も当時の最新技術が導入されているのだが、その分に維持費も高く、少々厄介者扱いされている感もある。



後書き
ジム改 さて、遂に本作品中、屈指の大決戦が開始されました。質のファマスと量の連邦、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょう。
浩平  というか、俺の戦闘シーンは?
ジム改 君はライバルが来るまでお預け。
浩平  ひ、酷すぎる。一応俺も主人公の1人なのに
ジム改 残念だが、この話の主人公は祐一とシアンだ。お前はせいぜい出番の多い脇役だな。
浩平  ・・・・・・
ジム改 さて、助手君が黙ったので今回のお話ですが、この辺りの話のテーマはズバリ、物量戦です。ガ
        ンダム系作品では主人公たちの小部隊で戦局を決定してしまう事が多いですが、実際の戦争では
        ちょっと腕がいいとか、機体が高性能だからといって大軍に勝てる訳がないんです。この話では
        主人公といえども数の前では勝てません。
浩平  ・・・みさきさんや茜は?
ジム改 2人はシリーズを通して最強クラスのキャラだけど、だんだん勝てなくなるよ。敵も味方も機体
        が高性能化してくるから。
浩平  じゃあ、俺なんかは雑魚扱い?
ジム改 ・・・そんな事はないさ
浩平  何だよさっきの間は!
ジム改 それじゃあ皆さん、また次回であいましょう
浩平  質問に答えろー!