第22章 秋子暗殺計画

 地球連邦軍の最も辺境の部隊と呼ばれる外陽系艦隊。地球圏の最も外れた地域に駐留するこの艦隊の司令部は、小惑星を利用した永久要塞で、居住性と艦の整備能力ならルナツーにも匹敵するものを持っている。だが、いまだかつてこの司令部に敵が現れたことはなく、今日も気楽な一日が始まるはずだった。
 だが、今日に限ってはいつもと違っていた。定時哨戒に出ていた哨戒艇T103のレーダーに30隻ほどの艦影が映し出されたのだ。
 寝ぼけ眼でレーダー画面を見ていたレーダー主は慌てて同僚に問い掛けた。
「おい、今日は大規模な商船団がこの宙域を通過するなんて連絡、あったか?」
「船団? いや、そんな連絡はないはずだが」
 同僚はコンピュータから航路情報を引き出し、現在付近を航行している船舶をリストアップした。
「いや、今日は50隻くらいがこのあたりを通過するはずだが、船団て言うほどの規模の奴はないなあ。多くてもせいぜい5〜6隻だ」
 同僚の答えを聞いて、レーダー主は首をひねった。
「おかしいな、じゃあこいつは何なんだ?」
 レーダー主だけでなく、同僚もレーダー画面を覗き込んでやはり首をひねる。すると、後ろから艇長が声をかけてきた。
「おい、どうかしたのか?」
「あ、艇長、こいつを見てください」
 レーダー主が席を空け、レーダー画面を艇長に見せた。レーダーに映る多数の光点を見て艇長も首をひねる。
「分からんな」
「もしかして、例のファマスの艦隊だったりして」
 同僚のふざけた調子の言葉を、レーダー主と艇長は軽く笑い飛ばした。
「おいおい、冗談はよせよ」
「そうだな、こんな所に反乱軍がきて、何の得があるってんだ?」
「そうっすね」
 そう言って、3人は大笑いした。だが、次の瞬間、3人の笑顔が凍りつくことになる。通信士管制官が艇長に困惑した声をかけてきたのだ。
「艇長、通信が途絶しました」
「どうした、故障か?」
 艇長がまたか、と言いたそうに眉をひそめる。だが、通信管制官は蒼白な顔で頭を横に振った。
「いいえ、これは故障ではありません。電波障害です」
「電波障害?」
「はい、恐らく、ミノフスキー粒子によるものだと思われます」
 通信管制官の言葉に、3人も揃って蒼白になった。
「まさか、軍事行動か?」
「ああ、間違いない」
 レーダー主が慌ててレーダーを確認すると、すでに画面は砂嵐と化していた。
 事態を悟ったT103艇は慌てて外陽系艦隊司令部に戻っていった。それをエアーのレーダーは捉えていたが、逸る部下をアヤウラが黙らせていた。アヤウラはこの地球圏に対する攻撃のための拠点としてこの外陽系艦隊司令部を必要としており、そのために全力でここに襲い掛かったのだ。
 T103艇からの報告を受けた外陽系艦隊司令部では、迎撃の準備にてんてこ舞となっていた。戦力差は歴然としていたが、司令官ゴームレー少将は降伏する気はなく、志願兵を募って最後まで戦う姿勢を見せている。そして、要塞の砲座が起動し始めたとき、副司令官のアーレン・バーク大佐が全艦出撃準備完了を告げてきた。
「閣下、全外陽系艦隊、出撃準備、完了しました」
 それを聞いたゴームレーは振り返り、鷹揚に頷いた。
「そうか、では、艦隊は急いで脱出させろ。大佐、君が指揮を取れ」
「それでは、閣下は!?」
 驚くバーグに、ゴームレーは首を振って否定を表した。
「私は残る。ここで君が脱出者と艦隊を安全圏まで連れ出すまでの時間を稼ぐ」
「そんな、閣下!」
「早く行け、時間は今や宝石よりも貴重だ。ここで大切な艦隊を失うわけにはいかない」
 バークは何か言おうとして口を開きかけ、そして何かを堪えるように目を閉じてみを震わせ、敬礼をして司令室を後にした。
 それを見送ったゴームレーは接近するファマス艦隊を映すスクリーンを見やり、あらん限りの声で命令を下した。
「全砲門開け、敵を1隻たりとも通すな!!」
 要塞から無数の砲火が放たれ、ビームの火線がファマス艦隊に襲い掛かる。だが、長距離での砲撃の命中率は悲しいほどに低く、逆に反撃してくるファマス艦隊の砲撃は残酷なまでの正確さで要塞を捉えた。機動戦力を持たない要塞は非力なもので、この後要塞は2時間と持たずに陥落し、守備隊は司令官ゴームレー少将以下、全員が玉砕した。
 脱出した艦隊もアヤウラの執拗な追撃を受け、1/3を撃沈されたものの残りは脱出に成功し、ルナツーを目指すことになる。


 ファマス艦隊が概要系艦隊司令部を占領したという報告は地球圏を駆け巡ったが、連邦軍はこれに対し、即座に迎撃に出るということはしなかった。これは、いまだ連邦軍が再建途上にあり、いたずらに戦力を失うのをリビック提督が嫌ったためである。ただ、これ以上の侵攻を阻止するため、とりあえず即席の艦隊を編成し、ファマス艦隊が地球圏に進入してくるのを阻止させていた。
 この報告は秋子も聞いてはいたが、これといった反応は見せなかった。現在カノンは第1次改装の真っ最中であり、ドックから当分出てこれないし、直属艦隊も編成されたばかりで訓練度が低く、当面は使い物にならないことがはっきりしていたからだ。
 そんな彼女の楽しみは、サイド6のジブラルタルで訓練を行っているのを利用して、極稀に取ることの出来る休暇を利用してショッピングに行くことだ。特に名雪や祐一、あゆを連れて行くことが多く、ほとんど家族サービスのような感じだ。祐一たちの休みがかち合うのは偶然ではなく、マイベックがそのように組んでいるからなのだが、それを知る者はあんまりいない。
 今日も祐一を連れてジブラルタルを抜け出していた。
「御免なさいね、祐一さん。せっかくの休日なのに」
 すまなそうに言う秋子に、祐一は片手をふって見せた。
「別に構いませんよ。特に用事も無かったですし、秋子さんとデートできるなら文句なんてありません」
「あらあら、こんなおばさんとデートだなんて、面白いわけないでしょう?」
 口ではそういいながらも、どこか嬉しそうな秋子であった。
そんな秋子の背後から、誰かが背中を押してきた。いきなりだったので体制を崩し、うっかり車道に飛び出してしまう。そこに、運悪くエレカが突っ込んできた。そして、秋子は跳ね飛ばされ、近くの商店の壁に叩きつけられた。秋子を跳ねたエレカはスピードを緩めることも無く、そのまま走り去ってしまう。
祐一は、目の前で起きたことを即座に理解できなかった。秋子がエレカに跳ねられ、宙を舞い、壁に叩きつけられたことは分かっているのだが、思考が停止してしまった為か、屋折れている秋子を呆然と見ているだけだった。
 やがて、誰かの悲鳴が嫌に遠くに聞こえた。それでようやく祐一も現実に戻り、慌てて秋子を抱き起こそうとして、すぐにそれを止めた。秋子は頭から出血しており、下手に動かすのは危ないかもしれないと思ったのだ。
「誰か、救急車を呼んでくれ!」
「今呼んだ。すぐに来る筈だ」
 祐一の声に、事故を目撃した通行人が携帯を片手に応じる。祐一はその人に深く頭を下げると、救急車が車での間、ひたすら秋子の無事を祈っていた。だが、救急車はそれから30分近くかかってようやく現場に到着した。どうも、この近くで立て続けに爆発事件や交通事故が起こり、ここに来るまでの道が混雑していたらしい。
 秋子と祐一を乗せた救急車は、それからさらに12分をかけて病院に到着した。この、実に42分と言う時間が、秋子の生存確率を著しく低くしたのは言うまでも無い。


 秋子が手術室に運び込まれると、祐一はカノンのマイベックに電話を入れた。なかなか繋がらなかったが、やがてカノンの入港しているジブラルタルの管制室が出た。
「こちらジブラルタルコロニー管制局です。どのようなご用件でしょうか?」
「俺はカノンの相沢祐一中尉だ。カノンのマイベック・ウェスト大佐に繋いでくれ」
 祐一は出来るだけ冷静を装って管制官に話した。しばらくして、回線を切り替えた音がした。さらにしばらく待つと、マイベックの聞きなれた声が聞こえてきた。
「マイベックだ、どうした中尉?」
「大佐、大変です。秋子さんが車に轢かれました!」
 祐一が半ば悲鳴に近い声でマイベックに告げる。だが、マイベックから返事は無かった。やがて、祐一が受話器をおいた音を聞き逃したかと心配し始めた頃、ようやくマイベックが答えた。
「中尉、それは本当か?」
「こんな冗談は死んでもつきません」
 怒りを含んだ祐一の声に、マイベックは素直に謝った。
「すまん、馬鹿なことを言ってしまったな」
 そこで、深いため息をついた。
「それで、司令の容態は?」
「いま、手術中です。まだ分かりません」
 祐一の返事に、マイベックは困り果ててしまった。だが、取り敢えず頭に浮かんだ予定なんかは全て無視して、一番厄介な問題を話した。
「ところで、水瀬曹長にはお前から話してくれるか?」
「・・・俺が、ですか?」
 祐一の声がかすれる。一番やりたくない仕事だからだ。勿論、マイベックも嫌だからこそ祐一に持ちかけてきたのだろう。マイベックの口調にはどこか懇願するような響きがあった。
「頼むよ、相沢中尉。私は他の連中に話しておくから」
 マイベックの口調が哀願に変わる。祐一はいよいよ渋い表情で考え込んだ。最も、答えが分かりきってる悩みだったが。
 しばらくして、祐一は沈みきった声でマイベックに答えた。
「分かりました。取り敢えず、これからそっちに戻りますから、誰か代わりをよこしておいてください」
「すまない、助かるよ」
 祐一の返事を聞いて、マイベックは本気で助かったと思っているようだ。そして、まるで鉛にでもなってしまったかのように重くなった足を引きずって祐一はカノンに帰るべく、宇宙港に向かった。
 宇宙港につくと、カノンから来た内火艇がちょうど入港してきていた。内火艇から香里とあゆ、舞が降りてくる。そして、祐一を見つけると慌てて駆け寄ってきた。
「ちょっと相沢君、秋子さんが轢かれたってどういうこと!」
 香里が祐一に詰め寄ってくる。いつもなら香里の勢いに押されて後ずさるのだが、今はそんな元気もない。ただ香里を見返して、淡々と事実を伝えることしか出来なかった。祐一がいつもと明らかに違うことには3人もすぐに気が付いた。そして、何か重いものを背負ってしまったその背中を、ただ見送ることしか出来なかった。
 3人と入れ違いに内火艇に乗った祐一は、途方にくれた表情で窓の外を眺めていた。
「俺、名雪になんて言えばいいんだよ、秋子さん」
 祐一の呟きは、誰にも聞かれること無く内火艇の中に響いた。
 内火艇がカノンに降りると、待っていたようにマイベックとシアン、トルビアック、栞、天野、真琴が駆け寄ってきた。全員を代表してトルビアックが話し掛けてくる。
「相沢、司令の容態は?」
「まだ、手術中だ。今で状態ではなんとも言えん」
 祐一は嘘は言っていない。だが、理性の部分では一つの答えを出していた。あの出血では、多分助からない、と。
 皆が急ぎ足に内火艇に乗り込んでいく中、1人シアンが立ち止まり、祐一に声をかけた。
「相沢、どんなに拒絶されても、お前だけは傍にいてやれ」
「・・・何のことです?」
 祐一には、シアンが何を言いたいのか分からなかった。だが、シアンは真剣な顔で自分を見つめている。
「いいか、覚えておくんだ。どんなことを言われても、絶対に傍にいてやるんだ」
 有無を言わせぬ力強い声に、祐一は気圧されて思わず頷いていた。そして、シアンも内火艇に乗り込んでいく。それを見送った祐一は、今まで幾度と無く歩いてきた名雪の部屋への道のりを、まるで永遠に続いているかのような錯覚に囚われながら歩いていった。
 やがて、目の前に名雪の部屋の扉が現れた。祐一はそれを見つめ、一度大きく深呼吸をすると、部屋をインターホンを押した。
「誰かな?」
「・・・俺だ、名雪」
「あ、祐一、ちょっと待ってね」
 名雪が部屋のロックを外して、部屋に招き入れてくれた。そして、祐一の表情を見て怪訝そうに首をかしげる。
「どうしたの祐一、顔色悪いよ?」
「・・・・・・」
「どこか体の調子でも悪いの? だったら、すぐにお医者さんに行った方がいいよ」
 自分のことを心配してくれる名雪に祐一は拳を強く握り締め、気の乗らない声で話し掛けた。
「名雪、落ち着いて聞いてくれ」
「う、うん」
 珍しく真剣な祐一の態度に、名雪が緊張する。
「秋子さんが、車に轢かれた」
「・・・え?」
 名雪は、祐一の言ったことが理解できなかった。祐一はもう一度同じ事を繰り返した。
「秋子さんが、車に轢かれたんだ。今病院で手術を受けてる」
「・・・嘘、だよね?」
 震える名雪に、祐一は力なく首を横に振ることで答えた。とたんに、名雪が部屋を駆け出す。慌てて祐一がその後を追った。
「名雪、何処に行くんだ!?」
「お母さんの病院!」


 名雪と祐一はほとんど宇宙港に係留されていた内火艇を無断で持ち出し、サイド内の安全速度を無視した速さで秋子達のいるコロニーに向かった。途中で何隻かの船と衝突しそうになったが取り敢えず気にしない。
 そして、普通では考えられないような速さで2人は秋子の病院にたどり着いていた。すでに先にきていた連中は待合室で座り込んでいたが、祐一と名雪の足音を聞いて皆がそっちを向いた。
「名雪・・・」
 香里がいつもの力強さを感じさせない声で名雪に話し掛けてくるが、名雪は香里の事なんか気にしてなかった。ただ、秋子の手術が行われている手術室を目指していた。
 手術室を見下ろせる部屋まで来た名雪は、ガラス越しに秋子を見ていた。その後ろから祐一と香里、あゆがついて来ている。
「名雪さん、何て言ったら良いのかわかんないけど、元気出してよ」
 あゆが名雪の顔色をうかがいながら励ましているが、今の名雪には聞こえているかどうかすら怪しい。ただ、身動ぎもせずに秋子を見つづけている。
 それからさらに3時間が過ぎた頃、ようやく手術が終わった。この頃にはマイベックはこれ以上艦を開けて置けないと言う事で帰っている。手術室から出てきた秋子に名雪が泣きながら抱きつこうとして、看護婦に止められた。
「お母さんは、お母さんは大丈夫なんですか!?」
 名雪の悲痛な声に、秋子の手術を担当していた女医はマスクと帽子を取って答えた。
「まだ、なんとも言えん。危篤状態というほどではないが、これからしばらくはICUで状態を見ることになる。後は本人の体力次第というところだろう」
 そう名雪にいって、周囲にいる連中を一睨みする。
「さあ、お前達も今日は帰れ。軍人というのは、それほど暇な職業ではないんだろう?」
 女医の鋭い視線に射すくめられた大半の者は思わず一歩引き、すごすごと引き下がった。ただ3人、シアンと舞、郁美だけがその場に残っていた。名雪と祐一は秋子の傍を離れていない。5人が帰ろうとしないのを見て取った女医、霧島聖の視線が険しさを増した。
「言っただろう、今日はもう遅い、帰るんだ」
 だが、その筋の者でも一睨みで追い払うことができるほどの聖の眼光を受けても、目の前の3人はまったく動じなかった。患者の家族らしい2人は気づいてすらいない。
『何者だ、この3人?』 
 3人にいぶかしげな視線を向ける聖を無視して、シアンは舞と郁美に話し掛けた。
「2人は、先に帰っていてくれ。俺は先生と少し話があるから」
「「・・・分かった(りました)」」
 シアンに言われて、ようやく2人も帰っていった。そして、シアンは聖を見た。
「すまないが、話を聞かせてくれるかな?」
「今日はもう遅い、明日にしてくれ」
 秋子がICUに運ばれ、名雪と祐一がそれを追っていったので、必然的に一対一で話すことになった2人。両者の雰囲気はかなり危険なものだった。もっとも、危険を感じているのは聖のほうで、シアンは特にどうとは思っていないが。
「すぐに済む。秋子さんの容態だが、正直言って、回復の見込みはあるのか?」
 あまりにも直線的なシアンの言葉に、聖は思わず唇を噛み締めた。
「君は、医学の心得でもあるのかな?」
「そんなものは無いさ。ただ、何となく分かるんだよ」
 要領を得ないシアンの物言いに、聖はいよいよ困惑した表情を浮かべたが、取り敢えず気を落ち着かせた。
「そうだな、君になら話しても良いだろう。私の見立てでは、目を覚まさない可能性が高い。もし目を覚ましたとしても、脳障害を起こしてる可能性がある」
 あまりといえばあまりの聖の回答だった。シアンはショックのあまり軽いめまいを覚えたが、覚悟はしていたのですぐに立ち直り、改めて聖を見返した。
「そうか、あと、もう一つ頼みがあるんだが」
「なんだ、早く言ってくれ?」
「あの2人を、しばらく秋子さんの傍においてほしい。別にICUの中に入れてくれとは言わない。ただ、秋子さんを見ることの出来る部屋にいることを許可してやってほしいんだ」
 シアンの頼みは聖の予想通りのものだった。いつもならにべも無く断るところなのだが、今回は相手の放っている重圧感がそれを許さなかった。シアンの眼光はそれほどまでの威圧感をもっていたのだ。
「あ、ああ、良いだろう。看護婦には言っておく」
 そう答えて、ようやく聖は圧迫感から開放された。シアンが眼光を緩め、にこやかに微笑んでいる。
「そうですか、ありがとうございます」
 シアンは丁寧に頭を下げ、踵を返すと聖の前から立ち去っていった。シアンの背中が見えなくなったところで、聖はその場に崩れ落ちた。全身に鳥肌が立ち、冷や汗を流している。まるで死そのものと向かい合ったような恐怖を今更ながらに感じて、聖は両手で自分を抱きこんだ。


 この病院のICUは二重構造になっており、部屋が分厚い複合ガラスによって隔てられている。勿論患者がいる側は無菌室なので、見舞いに来た者はガラスの向こう側までしかこれない。
 そんなガラスを隔てた向こう側に祐一と名雪はいた。ガラスの向こうではベッドに寝かせられた秋子にさまざまな器具が取り付けられ、24時間体制で細かなチェックを続けている。相手が連邦軍少将と会って、病院側も最大限の努力をしているらしい。
 2人がここに来てもう8時間になる。すでに時計は翌日の1時を指し、祐一ですら起きているのが辛くなってきている。そんな状況で名雪が未だに起きているというのは驚きだったが、それだけ秋子の存在が名雪の中で大きなものだったのだろう。だが、名雪はこの8時間でかなり疲労しているらしく、表情には濃い疲労の色がある。
 さすがに心配になっていると、ICUの中から聖が出てきた。そして、そこに立っている2人、特に名雪を見て、祐一を手招きした。祐一は病院で医師に逆らうのもどうかと思い、素直に従う。
「君はあの娘の友達か?」
「まあ、従兄弟ですが、それが何か?」
 何故そんな事を聞くのかと思いながらも祐一は正直に答えた。それを聞いて、聖が名雪を横目に身ながら言う。
「彼女を連れ帰ってくれないか?」
「どうしてですか、名雪が望むんなら、秋子さんの傍に居させてやったほうが・・・」
 祐一の言葉に、聖は首を振った。その眼には濃い疲労の色が合ったが、それ以上に名雪を心配しているのが見て取れた。
「秋子少将は安全、とはまだ言えないが、さし当たって危険という状態でもない。少なくとも、今すぐどうにかなるということは無いはずだ。それに、さっきから見ていたが彼女はずっとあそこから動こうとしていない。このままでは、彼女のほうが参ってしまうぞ」
「・・・・・分かりました」
「何かあったらこちらから連絡させる。彼女を休ませてやってくれ」
 そう言うと、聖は急ぎ足に部屋を出て行った。後には名雪と祐一だけが残される。
 祐一は、名雪の肩を掴んだ。
「名雪、今の話聞いただろう? 帰ろうぜ」
「・・・・・・」
 名雪は動かず、ずっとICUを見続けていた。
「名雪!」
 すこし大きな声で名前を呼び、掴んだ手に力をこめる。だが、その手は名雪によって弾かれてしまった。一瞬、何が起こったのか理解できず、呆然としている。
 やがて、名雪の唇が小さく動いた。
「・・・やめて」
「名雪・・・」
「もう帰って」
 明らかな拒絶だった。
「で、でもさ、ここにいたって秋子さんの容態が良くなるわけじゃないんだし、医師や看護婦さんだって一生懸命やってくれてるんだ。今は信じるしか・・・」
 初めて、名雪が祐一のほうを向いたが、その表情を見て祐一は絶句した。
「・・・名雪・・・」
「帰って、祐一。でないと・・・、祐一のこと・・・、嫌いになっちゃうよ」
 溢れそうな何かを必死に堪える表情だった。だが、
「なに言ってんだ、お前まで倒れたら、秋子さんが悲しむだろう」
 もう一度肩に手を伸ばすが、その手は名雪によって振り払われた。そして、名雪は叫んだ。
「何も・・・、何も知らないくせに! 私とお母さんのこと、何も知らないくせに、分かったような口きかないで!!」
 分厚い複合ガラスで仕切られた向こう側に居る医師や看護婦がこちらを振り向くほどの大声だった。そして、名雪は秋子さんに向き直り、それっきりこちらを向こうとはしなかった。祐一も何も語りかけることが出来ず、部屋を後にした。


 病院を出て宇宙港に向かう間、祐一は無力感にさいなまれていた。名雪のことはよく知ってるつもりだった。だが、現実には何も分かっちゃいなかった。これからどうすれば良いのか、どうすれば名雪を助けられるのか、今の祐一には何も分からなかった。
 宇宙港のベンチに腰をかけたまま、祐一は呆然と目の前の宇宙を眺めていた。出港していく貨物船が目の前を横切っていく。
 すると、いきなり誰かが声をかけてきた。
「どうしたんだい?」
 祐一がぼんやりとした目で声のしたほうを見ると、ベンチの隣に自分と同じくらいの男が立っていた。なにやらさわやかな笑顔を浮かべている。
「・・・誰だ、お前?」
「ああ、僕は氷上シュン、なんだか君が落ち込んでるみたいだったから、見てられなくってね」
 そう言って、ベンチの隣に腰掛けてきた。なんだかずいぶんとあつかましい奴だが、不思議と追い払おうという気にはならなかった。何故か、この笑顔を見ていると気分が落ち着いてくるような気さえする。
 祐一が戸惑っていると、氷上は持っていた紙袋のひとつを祐一に差し出した。
「食べるかい。おいしいよ」
「・・・あ、ああ」
 言われるままに祐一はそれを受け取った。どうやら、宇宙港の売店で売っているポップコーンのようだ。
 ポップコーンをいくつか口に放り込むと、氷上は祐一を見ないで話し掛けてきた。
「それで、どうして落ち込んでたんだい」
「・・・実は・・」
 祐一は今日会った出来事を氷上に話した。それを聞いた氷上は真面目な顔で考え込み、しばらくして祐一のほうを向いた。
「君は、その名雪って娘のことが好きなのかい?」
 氷上に言われて祐一は顔を赤くしたが、何故か否定する気にならなかった。北川たちの死と、今日の秋子の事故で気が弱くなったのかもしれない。
「ああ、あいつがどう思ってるか分からんけどな」
「そうか、ならいいんだ」
 そう言うと、氷上はまた笑顔に戻った。
「君が名雪さんのことを好きなんなら迷うことは無い。君は名雪さんの傍にいるべきだよ」
「でも、名雪は俺を拒絶している」
 あの時の名雪の言葉を思い出し、祐一は暗い気持ちになったが、そんな祐一に氷上が諭すように話し掛ける。
「今の名雪さんはショックで混乱しているだけだよ。でも、君を怒鳴りつけたことで多分すこしは落ち着いたと思うな。後は君次第だけど・・・」
 そこまで言って、一度言葉を切る。
「もう一度話してごらんよ。きっと彼女は、支えてくれる人を求めてるはずだよ。後は君が彼女を支えられるかどうかさ」
 氷上の口調は穏やかだったが、その内容はなかなかに辛辣だった。彼は祐一にこう問い掛けているのだ。君に名雪さんを受け止めるだけの覚悟はあるかい、と。
 祐一は、氷上の言葉に小さく笑うと、はっきりと答えた。
「ああ、支えて見せるさ」
 その返事に、氷上は満面の笑顔を浮かべて答えた。そして、服についたポップコーンのかすを払うと立ち上がった。
「君なら大丈夫だね。安心したよ」
「おい、何を安心するんだ?」
 氷上の言葉に引っ掛かりを覚えて祐一が聞き返す。だが、氷上はそれには答えず、別のことを教えてくれた。
「そうだ、1ついいことを教えてあげるよ。今日の水瀬少将の事故、あれはファマスの工作員が仕組んだ少将の暗殺計画の一環だよ。事故に見せかけて殺そうとしていたんだ」
 氷上の答えに、祐一はベンチを蹴って立ち上がった。
「何でそんなことを知ってる!?」
「僕は彼女に恨みを持っている男の協力者だからね。でも、協力しているだけで、別に部下って訳じゃないんだ。こんな事を話したのも、こういう手段が気に入らないからさ」
 笑顔を崩さない氷上に、祐一は取り敢えず緊張を解いた。この男が自分を殺す気ならとっくに殺されていた。それが分かるだけに、今はこの男を信じることにしたのだ。
「それじゃあ、そいつらは今でも秋子さんを狙ってるのか?」
「ああ、今は様子見だけどね。さすがの彼もこれ以上コロニー内で揉め事を起こすとただじゃすまないらしいから。でも、水瀬少将の容態が開放に向かえば、今度は直接殺しにくるはずだよ」
 氷上の言葉に、取り敢えず祐一は安堵した。少なくとも、秋子が目を覚まさなければ襲撃されることも無いのだ。
「でも、気をつけたほうがいい。痺れを切らして襲ってくるかもしれないからね」
「ああ、肝に銘じておくよ」
「それじゃあ、僕はこれで。また会えたら、今日の結果を聞かせてほしいな」
 そういい残して、氷上は祐一の前から去っていった。それを見送った祐一は再び病院への道を戻り始めた。時計はもう午前3時を過ぎていた。


 取り敢えず祐一はカノンに電話を入れた。誰も出ないかもしれないと覚悟していたのだが、以外にも電話に応じた者が居た。
「はい、相沢君でしょ?」
「・・・香里、何で分かったんだ?」
「こんな時間にカノンに直通でかけてくるなんて、他に思い当たらないわよ」
 なるほどと頷く。
「ところで、どうなの、秋子さんの容態は」
「悪くもなってないが、良くもなってない、相変わらず意識不明だ」
「・・・・・・そう、それで、名雪は?」
「・・・取り敢えず、俺が付いていてやるつもりだ。それぐらいしか出来ないからな」
「そうね、確かにそれは相沢君にしか出来ないことね」
 そういった後で、悪戯っぽく付け加える。
「寂しい1人身としては、すこし焼けるけどね」
「おいおい」
「でもまあ、名雪の親友としては、感謝するわ。ありがとう、相沢君」
「気にすんな」
 香里の感謝の言葉に、祐一はぶっきらぼうに返した。香里は小さく笑いながら話をかえてきた。
「ところで、2人は明日はどうするの?」
「名雪は無理だな。あの様子じゃ」
「そうでしょうね・・・、相沢君はどうせ名雪と一緒に居るつもりなんでしょ」
「・・・すまない」
「いいのよ、名雪には、ずいぶん迷惑かけちゃったしね」
「あの時か、確かにあの時の香里は見てられなかったからな。名雪にもずいぶん気を使わせてたし」
「ええ、だから、今度は私の番よ。北川君が居ないけど、何とか名雪を支えましょう」
 香里の言葉に、祐一ははっとなった。あれからしばらくたって、ようやく香里が立ち直ったように見えても、まだ北川のことを引きずっているのだ。香里は、あの時の自分と今の名雪を重ねているのかもしれない。同時に、自分達4人の間ではこういう細かい気配りは今まで北川がやっていたことで、北川が生きていればたぶん北川が電話に出ただろう。それを香里が出たということに、祐一は改めて失ったものの大きさを再確認した。
「すまない香里、余計なこと思い出させて」
「気にしないで、私はもう、大丈夫だから」
 そういい残して電話は切れた。祐一は北川のことを思い出して涙をこぼしそうになったが、すんでのところで思いとどまった。今はまだやることがある。そう自分に言い聞かせて、祐一はICUへの道を歩き始めた。
 部屋の扉を空けると、名雪が1人悄然と立ち尽くしていた。
「名雪、カノンに電話して来たぞ」
 祐一の言葉にも名雪は答えない。ただ、じっとICUの中を見ている。いや、ひょっとしたらその瞳には何も移っていないのかもしれない。
「・・・お母さん」
 僅かに、小さく呟く。
 ICUの向こう側でベッドに横たわる秋子さん。
 両者を交互に見やると、祐一は胃に何か、思い石でも飲み込んだかのような体の不調を感じたが、それが精神的な重圧から来るものであることは理解できた。そして、同時に氷上が、そしてシアンが言っていたことを思い出した。
「「名雪の傍にいてやれ」」
『そうだ、俺はどんなことがあっても名雪の傍にいる。そう決めたんだ』
 それから、どれだけの時間がたったのだろう。時折医師や看護婦が部屋を行き来する姿を目にした。だが、名雪も祐一もそこから動かなかった。
「・・・祐一」
 突然、名雪が祐一の名を呼んだ。
「・・・そこにいる?」
 視線を片時も話さずに聞いてくる。
「ああ、いるぞ」
 祐一は、背にしていた壁から離れた。そのまま名雪の隣まで歩いていく。
「・・・なんで?・・・」
 静まり返った部屋でも、聞き取れないほど小さな声だった。隣に居なければ祐一も聞き逃していただろう。
「なんで、帰らないの?」
「名雪を1人にはしておけないからな」
「・・私、帰らないよ」
「だったら、俺も帰らない」
 少しの間があった。
「・・・・・・私、ずっとお母さんと一緒に生きていくんだと思ってた・・・。お母さんと離れるなんて、考えたことも無かった」
「大丈夫だって、絶対に目を覚ます。あの秋子さんが死ぬわけ無いだろう?」
「・・・私、お父さんの顔知らないんだよ・・・」
 そう、名雪の父親は、名雪が2歳の頃にテロに巻き込まれて死亡している。以来、名雪はずっと秋子さんと2人で生きてきたのだ。
 名雪はこちらを見ずに続けた。
「でも、お母さんがいたから・・・、私、寂しくなかったんだよ。お母さんがいたから、生きてこれたんだよ」
「・・・・・・」
「・・・お母さんと、ずっと2人で暮らしていくって、思ってたのに・・・」
「・・・・・・」
「・・・私、どうしたらいいんだろう。お母さんがいなくなったら、私、どうしたらいいんだろうね、祐一・・・?」
 名雪の呟きに、祐一は答えることが出来なかった。もし言われた相手がシアンやマイベックであったなら、あるいは答えられたかもしれないが、まだ18年しか生きていない青年にこのような質問の答えを求めるのは酷というものだろう。
 祐一は部屋を出た。息苦しさから逃げ出したのではない。ただ、生理的欲求は押さえ様が無いものだ。何となく不甲斐なさを覚えながらも、祐一はトイレで用を足した。そして、手を洗ってトイレを出ると、外が明るくなってきていることに気づいた。
「・・・朝、か」
 改めて、病院で徹夜してしまったということを実感した。病院の廊下を走ってくる人影に気づいた。
「祐一君!」
 祐一は反射的に一歩横に動いた。すると、今まで自分がいた空間をダイビングしてそのまま廊下にヘッドスライディングをかますあゆがいた。
 祐一は廊下に大の字になっているあゆの傍に歩み寄ると、疲れた声を出した。
「あゆ、病院でヘッドスライディングの練習をしちゃいかんな」
「違うよ! 抱きつこうとしたんだよ」
 ようやく、あゆが起き上がった。
「うぐぅ、祐一君が避けたあ!」
「いや、避けたって言われても」
 さすがにこんなことで病院内で問題を起こすわけにはいかない。取り敢えず、祐一は話題を変えることにした。
「ところで、どうしたんだ、こんなに朝早く?」
「あ、祐一君と名雪さんが心配だったんだよ。それで、お見舞いもかねて2人の様子を見に来たの」
 そう言って、紙袋を見せる。中が何であるかは、言うまでも無いだろう。
「それで、名雪さんは?」
「・・・・・・中だ」
 顎でICUを示す。
「そうなの、じゃあ、僕ちょっと挨拶してくるね」
 ICUに入ろうとするあゆの肩を掴んで止めた。
「今は、そっとしておいた方がいい」
「・・・どういうこと?」
 あゆは首を傾げたが、すぐに思い当たったのか顔を曇らせた。
「そうか、名雪さん、まだ・・・」
「ああ・・・」
 祐一はため息をついた。
「・・・俺じゃ、駄目なのかな・・・」
「・・・ぼく、話してみる」
 あゆが、不意に力をこめて言った。
「ぼくのお母さんも死んじゃったから・・・だから、僕には名雪さんの気持ちがわかるよ」
「あゆ・・・」
「あの時は祐一君が助けてくれたもん。だから、今度はぼくの番」
 あゆがドンッと胸を叩き、すこし咳き込む。そして、すこし苦しそうながらも、にっこりと微笑んだ。
「・・・だから、僕に任せてよ」
「・・・頼む」
 祐一は、あゆの頭に手を乗せて頼んだ。
 ICUのガラス壁に手を当てて、名雪はまだ立ち尽くしていた。
「名雪さん」
 あゆが駆け寄ると、その隣で立ち止まり、ベッドのほうを見る。
「秋子さん・・・」
「大丈夫、すぐに目を覚ましてくれるさ」
 祐一が後ろから言うと、あゆが体ごと振り返って大きく頷いた。
「うん、そうだよね」
 そして、秋子のほうに向き直ってもう一度呟いた。
「絶対に良くなるよね」
 自分を納得させるように呟いて、名雪の方を見る。
「名雪さん、僕、商店街に行って買ってきたんだよ」
 そう言って、抱えていた紙袋を開ける。ちょっと待て、一体こんな朝から誰が売ってたんだと祐一は思ったが、口には出さなかった。
 あゆは紙袋から鯛焼きを取り出し、名雪に差し出した。
「はい、名雪さん。お腹すいてるでしょう?」
 ガラスの向こう側を見つめつづける名雪。鯛焼きを差し出したままのあゆ。その姿勢のまま、2人はいつまでもう動かなかった。
 やがて、見かねた祐一が口をはさもうとしたとき、不意に名雪が動いた。
 白い手であゆから鯛焼きを受け取ると、ゆっくりと口に運ぶ。
「どうかな?」
 あゆが名雪の顔を覗き込む。
「・・・おいしい・・・」
 その言葉と共に、名雪の頬を何かが伝っていった。
「・・・私、まだおいしいって、思えるんだ」
 それは、秋子さんが倒れて以来、初めて名雪が流した涙だった。
「うん、僕はそれを祐一君に教えてもらったから、だから、今度は僕が教える番なんだよ」
 名雪は、涙を流しながら祐一のほうを見て、確かに微笑んだ。そして、スローモーションのようにゆっくりとあゆに倒れかかっていった。
「名雪さん!」
 あゆが焦った声をあげて名雪を支えようとする。祐一も慌てて加勢し、どうにか共倒れになるのを防いだ。
「名雪!」
「く―――」
 名雪は、静かな寝息を立てていた。あゆと祐一は顔を見合わせ、改めて名雪を見る。
「・・・寝てる、みたいだね」
「ああ、そうだな」 
 祐一は苦笑すると、名雪を背中に背負い上げた。
「どうするの?」
「取り敢えず、カノンにつれて帰る。俺も今日はゆっくりと寝ることにするよ」
「うん、後は僕が見てるから、2人はゆっくり休んでおいでよ」
 微笑んでそう言ってくれるあゆに、祐一は心の底から感謝した。部屋を立ち去ろうとして、扉をくぐるときに祐一はそっとあゆに礼を言った。
「ありがとうな、あゆ」


 水瀬秋子を事故に見せかけて殺害しようとしたアヤウラだったが、秋子はまだ生きていることを知って歯噛みして悔しがり、すぐに配下の特殊コマンド部隊を召集した。
「いいか、目標は水瀬秋子ただ1人だ。他の連中はどうでもいい、水瀬秋子を最優先で殺せ」
 集められた部下たちは12人、アヤウラ直属の実戦部隊【鵬】だ。彼らは潜入工作、破壊活動の訓練を積んだ精鋭であり、場合によっては強襲も行う。アヤウラが最も信頼する部隊の1つである。
 これ以外にもアヤウラは懲罰などを受けて拘束されていた歩兵を40人ほど準備している。たかが1人を襲撃するにしては大げさすぎる陣容だったが、この戦力が目的達成の困難さを部下たちに教えていた。
 ただ1人、この作戦に直接参加しないものの、会議に出席していた男がいた。高槻である。彼はアヤウラの話を聞きながら内心で嘲笑していた。
『シアン・ビューフォートが、あの化物がいる可能性のある場所をたったの50人ぐらいで襲撃だと、シェイドの本当の恐ろしさを知らぬ馬鹿が。まあ、せいぜい踊るがいいさ、手のひらの上で。最後まで踊りつづけられるかどうかは貴様の力次第だ』
 この中でただ1人、シェイドに精通している高槻は頭の中でそう呟き、表面熱心に話を聞き入っていた。


後書き
ジム改 今回は珍しく個人を狙ったテロです。
祐一  ・・・・・・・・・
ジム改 何て言うか、やっぱり秋子さんってこういう手段でないとけがさせられないと言うか、難しいところですよ。
祐一  ・・・・・・・・・
ジム改 どうした、珍しくなんも喋らんな?
祐一  お、俺が珍しくシリアスしてる。
ジム改 まあ、今まではギャグキャラだったからねえ。
祐一  シリアスキャラ・・・・・・なんていい響きなんだ(うっとり)。
ジム改 今までのお笑い路線の反動か、目に涙まで浮かべて。
??? 私が不幸なんだお―!(走り去っていく)
ジム改 ・・・・・・誰だ、今のは?
祐一  ・・・シリアスな俺・・・かっこいい・・・
ジム改 はあ、駄目だこりゃ。