第31章 兵どもが夢の後

 

 ガトーと七瀬が激戦を演じている頃、アルビオンに追いついた艦隊の方ではパニックが起こっていた。

「撃てっ、奴の足を止めろー!」

 そう叫んでいたサラミスの艦長は、次の瞬間には蒸発していた。ゼンカが襲い掛かっていたのだ。艦隊のジム改が慌てて迎撃に向かっていくが分厚い装甲に阻まれて何の足止めにもなっていない。逆に立て続けに発射されたミサイルに捕まって2機が四散し、3機が被弾して進路から強制的にどかされてしまう。

「正面にサラミス2隻、その後方にマゼランタイプ・・・木馬がいる?」

 コンピュータが得たデータを解析したゼンカは艦隊の中に木馬(ジオン軍はペガサス級のことを総称して木馬と呼ぶ)がいることに驚いた。だが、驚いた以上には気にすることもなく、淡々と目の前に現れる敵艦を沈め始めた。
 グスタフに掴って戦場に到達したカリウスはMSが出てきた時点でグスタフを離れていたのだが、襲い掛かってくるジム改と戦いながらもグスタフの驚異的な戦闘能力に驚嘆していた。

「なんというMAだ。あれで実験機に過ぎないと言うのか?」

 ゼンカの攻撃を受けて艦隊はあっという間に6隻のサラミス改を失っていた。この被害をみたシナプスはMSデッキを呼び出した。

「バニング大尉、MSはまだ出せんか!?」
「は、アムロの隊は出せます!」
「よし、すぐに出すんだ。君もできるだけ急いでくれ」
「はっ、全力を尽くします!」

 艦内電話を戻したシナプスは苦りきった表情で暴れまわるMAを見やった。

「デラーズ・フリートにあれだけのMAを開発する余裕があったというのか? まさかな・・・だが、ならばどこから?」

 この時、シナプスの頭の中ではある予測が立っていたが、この場では口にしなかった。まずは生き残ることが先決だったからだ。
 一足速く出撃したアムロとバーニィ、クリスは味方を蹴散らしているMAに驚いた。

「な、なんだ、あれは?」
「あんなの堕とせるの!?」

 バーニィとクリスが驚愕する中で、アムロは迷うことなく機体を加速させた。ビグザムやブラウ・ブロ、エルメスといった大型MAと交戦したこともあるアムロには、グスタフはビビるほど巨大なMAという訳でもなかった。

「いい動きだが、仕留めてみせる!」

 アレックスUがビームライフルを撃ちはなったが、それはグスタフにたやすく回避されてしまった。

「何?・・・あれは、ガンダム!」

 見慣れないガンダムという機体にゼンカは驚いたが、すぐに気を持ち直した。1機なら振り切れる。という自信があったし、いかにガンダムでも母艦を失えば戦闘力を維持できない。という計算も合った。
 だが、彼女の計算はすぐに大幅な修正を余儀なくされた。
 天頂方向から立て続けに撃ち下ろされてくるビームにグスタフの行き足が止められる。舌打ちしてゼンカは機体を激しく蛇行させた。追って来るガンダムからも強烈なプレッシャーを感じていたが、天頂方向からも大きなプレッシャーを2つ感じたのだ。
 天頂方向からやってきたのは2機のRガンダム、香里と栞だった。オスマイヤーに呼び戻されたのだ。
 新たに加勢した2機のガンダムによって遂にグスタフの動きが止められた。香里はグスタフの威容に少々度肝を抜かれていたが、とりあえずビームライフルを構えながらゆっくりと間合いを計る。

「驚いたわね、ジオンの残党にこんな化け物を作る力があったなんて・・・」
「これも、ファマスから流れたんでしょうかね?」

 すでにシュツーカと交戦していた2人はグスタフをそう判断した。そんな事を話している内にアムロのアレックスUが追いついてくる。

「Rガンダム?・・・この感じは、ニュータイプか?・・・いや、右側の方は違うが、何なんだ、この感じは?」

 アムロは香里から感じる妙な気配に困惑していた。
 一方、ゼンカは3機のガンダムに囲まれたことで潮時を悟っていた。

「ここまでですね、これ以上やると帰れなくなりそうです」

 そう判断すると、一気に機体を加速させた。Gで呼吸が苦しくなるのも構わずに加速し、さらに牽制のフレアーもばら撒いておく。この動きについていけたのはシェイドの力を持つ香里だけだった。アムロも栞も反応はできたのだが、その加速にはついていけなかったのだ。

「私を振り切れると思ってるの!?」
「グスタフについてくる!? なんですか、このガンダムは!」

 香里がビームサーベルを抜き、振りかぶったのを見てゼンカは今まで使わなかったグスタフのワイアークローを出した。サイコミュ兵器のはしりとでも言うべきこの武器は香里の予想外であったらしく、まともにワイアークローを受けてしまった。

「きゃあああああああああっ!!」

 今まで急激な速度で追いすがっていただけに吹っ飛ばされた時の反動は半端なものではなく、シェイドの肉体ですら耐えられないほどのショックが香里を襲った。

「お姉ちゃん!?」
「チィッ!」

 栞が香里を慌てて受け止め、アムロは舌打ちしつつグスタフを狙ったが巧みに回避運動を取るグスタフには遂に当てられなかった。

「大丈夫、お姉ちゃん?」
「栞・・・ええ、何とかね」

 ふらつく頭を振って何とか正気を取り戻そうとする。そんな2人にアムロが話し掛けた。

「君達は一体、何者なんだ?」

 問い掛けられて栞と香里は顔を見合わせ、小さく笑った。

「貴方はあのアムロ中尉ですね、噂はお聞きしています。私は美坂香里准尉、カノンのサイレン隊に所属するパイロットです」
「同じく、美坂栞です」
「・・・ああ、俺はアムロ・レイ中尉だ・・・ところで、美坂栞准尉はニュータイプなのかい?」
「はい、そうです」
「やはり、それで、そっちの香里准尉は何なんだい? どうも妙な感じがするんだが?」

 アムロの感性に香里は驚きを隠せなかった。

「ニュータイプって、そんな事まで分かるんですか?」
「ああ、もっとも、この力に感謝したことはあまりないけどね」

 やや自嘲気味なアムロ、同じ能力を持つ栞だったがまだアムロの心理を理解できるほどには経験をつんでいなかった。
 この攻撃は被害の大きさに驚いたオスマイヤーが一時撤退したことで終了した。だが、この時点でデラーズ軍の後衛は戦力の半数近くを消耗していたのだ。


 最初の交戦からはや2時間、ガトーたちは追いすがる連邦軍の攻勢を2度も跳ね返していた。

「ガトー少佐、戦線が薄くなりすぎています、これ以上は耐えられません!」
「何だと!? 予備戦力はもう無いのか?」
「はい、手持ちの戦力は全て投入されているはずです! 次の一波が来たときには・・・」
「阻止限界点までの時間は?」
「あと、30分ほどです」
「せめて、それだけまでは保たせるんだ! そうすれば、ヤツらにコロニーを止めることはできん!」
「第三波、来ます!」
「早い!」

 それでも、ガトーは超人的な耐久力でもって戦闘に赴く。彼を支えているのは、経験によって培われたパイロットとしての技量と、不屈のジオン軍人としての精神だった。
 突入してきたのは天野を先頭としたMS隊だった。主力はジムUで今までの相手の中では最も装備に優れている。
 自分たちを通すまいと見事な編隊運動を目の前で展開するデラーズ・フリートのパイロットたちを見て、天野は思わず「私の部下に欲しいですね」と呟いてしまった。
 だが、そんな感心も直ぐに捨て去り、部下に命令を下した。

「いつも通りやります。一機でも多く堕としなさい」
「「「「了解っ」」」」
 部下たちの声が唱和して、天野の隊も3機1部隊というカノン隊特有の動きを見せながら、素早く散開していった。たちまち随所でMS同士の撃ちあいが始まっているが、機体に被弾して爆発したり、よろめくように戦場外に離脱していくのはジオンMSばかりで、ジムUの姿は一機もなかった。防御面で著しく向上を見せているジムUに、旧式のザクマシンガンでは有効弾を得られないでいるらしい。時折シールドに火花を散らせたり、機体表面に凹みを作る奴はいるが、貫通はされてないようだ。
 だが、そんな余裕の戦闘もシュツーカを伴ったジャギュアーが雪崩れ込んでくるまでだった。

「貴様らあっ、生かしは帰さんぞ!」
「あれは、七瀬さんが言っていたソロモンの悪夢ですかっ」

 青いジャギュアーを見て天野は自分の隊をそれに向ける。

「あのジャギュアーの相手は私の隊がします。絶対に手を出さないように!」
「でも中尉、3機だけじゃ・・・」
「それ以上は割けません!」

 ピシャリと言い切って通信をきった天野は、ジャギュアーにジムライフルを撃ちこんだ。当たるとは思っていない、こちらに注意を向けさせるためだ。
 続けざまに襲い繰る徹甲弾にガトーは小癪な相手を見据えた。

「指揮官機か、いいだろう、貴様から地獄に送ってくれる」

 ジャギュアーをジムカスタムに向ける。天野も2機のジムUを伴ってこれと相対した。ガトーがビームライフルを何度か撃つが、それを天野たちは巧く回避している。
 しかし、いかなソロモンの悪夢とて、一人でできることには限界があった。いや、後方の敵のみが相手ならば、それも可能だったかもしれない。しかし・・・

「左方向より移動熱源多数!」
「来たか!?」

 グワデンのブリッジは驚愕に包まれた。後方からの追撃に気を取られて前方の監視を怠ったというわけではない。少ない戦力では、すでに一方向からの敵襲にしか対応しきれなくなっていたのだった。

「ヘイメス被弾、撃沈です!」
「挟撃かッ・・・!」

 デラーズは切歯扼腕するが、戦力の不足はいかんともしがたい。そして、恐れていたことが起こりつつあった。

「左方向からMS隊接近します!」
「いかん、コロニーに取り付かれるぞ!」
「いかん、核パルスエンジンが!」

 コロニーの最終軌道修正用に、核パルスエンジンと推進剤はまだ必要だった。それを破壊されては、目標地点への落着が不可能になってしまう。

「阻止限界点まで、残り3分!」
「今となっては、それすらも!」

 デラーズは核パルスエンジンを守りきることが不可能なことを悟っていた。


「まだだ、まだ時間じゃない!」

 コウはGP−01FBを加速させる。3度目の突撃をかけるアルビオン隊だったが、その突進力はかなり微弱なものとなっていた。だが、無理に突出しようとするコウを味方のアレックスUが止める。

「よせウラキ、無茶な突撃は早死にするぞ」
「アムロ中尉、ですが・・・」
「どのみち、もう阻止限界点前での阻止は不可能だ。ここは無理をせず、援軍と呼吸を合わせた方がいい」
「・・・くっ・・・!」

 やりきれない思いを抱え、コウは右側にあるコンソールを拳で殴りつけた。先行していた2人がやむなく後退を始める。それと入れ替わるようにバスクの部隊がコロニーに襲い掛かった。先鋒を務めるのはシーマの部隊だ。艦隊もMS隊と共に突入してくる。シーマのゲルググ部隊と連邦のジム改とジムコマンドが次々とコロニーに突入しようと接近してくる。だが、彼らはコロニーにたどり着くことはなかった。彼らの前には、2人の死神が立ちはだかっていたから。

「ここは意地に賭けても通さん!!」
「・・・通行止めです」

 ガトーのジャギュアーとゼンカのグスタフ、この2機が鉄壁の守りとなってゲルググを、ジムを蹴散らしていた。
 MS隊が攻めあぐねているのを見たシーマは手に持っていた扇子を床に叩きつけ、背を向けた。

「くそっ、私が出る!」
「はっ、シーマ様のMSを!!」

 リリ・マルレーンからシーマのゲルググFsが飛び出していく。ケンプファーと並んで強力なこの機体はゲルググF型の指揮官機と呼ばれ、使いにくさと引き換えに優れた機動性と火力を得ている。
 シーマが狙ったのはガトーのジャギュアーだった。

「ガトー、どこまでも邪魔をしてくれるよ!」
「シーマか、貴様は絶対に許せん!」

 互いに憎悪を持って戦いに望んだ。だが、シーマはガトーの想像を越えて強かった。無理もない。親衛隊としてサイド3にいることの多かったガトーと常に最前線で戦いつづけていたシーマでは経験が違いすぎる。加えて、苦戦した回数もシーマのほうが多い。必然的に両者の戦いは技量で勝るガトーを経験で勝るシーマが押しているという状態になった。

「ぬう、おのれちょこまかと・・・」
「ふははははっ、どうしたガトー、動きが鈍いよ?」

 百戦錬磨のシーマにはガトーの動きが手にとるように分かった。確かに強い、パイロットとしては自分以上だろう。だが、攻め方に幅がない。恐らく自分より強い奴と戦ったり、ぎりぎりの所まで追い詰められた事がないのだろう。

「大儀を理解せぬ輩が、私に倒せぬはずがない!」
「はんっ、殺し合いに大儀も糞もあるもんかい。強い奴が生き残る、これが戦場の鉄則さ」

 シーマがビームライフルを撃つ。牽制が目的だったので当てる気はなかったが、それでもその射線はガトーの心胆を冷やりとさせた。

「甘いねガトー、あんたは甘すぎるよ」
「何だと!」
「サイド3でぬくぬくしてたあんたにゃ、汚れ役をやらされ続けた私たちの苦しみなんて分からないさ。ガスを吸って苦しみぬいて死ぬ人間を見たことがあれば、こんな下衆な作戦は考えないからね!」
「貴様、総帥の考えられたブリティッシュ作戦を再現しようという、この星の屑作戦の大儀を下衆と言うのかっ!」

 血を吐くようなガトーの怒りの言葉。だが、この時ガトーはパイロットとして最も必要な事を欠いていた。つまり、いかなる時でも冷静であれ。これを忘れた時、どんなエースパイロットでも堕とされかねない危険が付きまとうことになる。言い換えるなら、これを忘れない限り、戦場では高い技量をもつ者は生き残れるということになる。ホワイトベース隊やカノン隊の主要メンバーが欠員をほとんど出さない訳はここにあった。エース級の腕を持つパイロットは自分を見失わない限り生きていける。逆に新米は運か、いい上官ないし状況に恵まれなければ生き残れない。これが戦場の現実だった。
 いきり立って突っ込んでくるガトーの動きはシーマから見れば新兵の動きだった。何も考えず、直線的に突っ込んでくる。

「馬鹿が、怒って我を忘れたのかい!?」

 嘲笑を交えてシーマがトリガーを引き絞る。だが、その結果はシーマをして驚愕させるものだった。シールドでの防御も間に合わず、ビームの光条は確実に機体を捕らえたのだが、驚いたことにジャギュアーの装甲はこの威力に耐えて見せた。

「なんて装甲だいっ!」

 ビームライフルの直撃に耐える、そんな事はMAでもない限りありえない、というのがシーマの常識だったのだが、ファマスとアクシズの技術の結晶であるジャギュアーのガンダリウムβ装甲はその常識を覆して見せたのだ。ちなみに言うと、連邦ではGP−01FBやエクスカリバー系列機の装甲がこれに匹敵する強度を持っている。旧ジオンの技術力を連邦のMS建造能力が上回ったという1つの例である。
 一方、機体に命を救われたガトーはようやく冷静さを取り戻した。

「私としたことが、このような醜態をさらすとはな」

 頭を振って熱くなった部分を押し出し、改めて全体の戦況を見渡した。いままで優勢だった戦況は自分が抜けたせいでだいぶ押され気味になっている。自分がシーマに乗せられたことを悟ってガトーは恥かしくなった。

「あとすこし持ちこたえろと言った私が、こんな失敗をするとは・・・」

 自虐的な笑いを浮かべると、ガトーは再び戦場に戻っていった。だが、この時すでに一部のMS隊は戦線を突破してコロニーに取り付こうとしていたのだ。


 シーマ艦隊のやや後方で戦況を見守っていたバスクはMS隊が核パルスエンジンに取りついたことを知って表情をゆがめた。

「そうか、コロニーの落着阻止はできなかったが、これでジャミトフにも面目が立つというものだ」

 その表情はまさに野心家、といったものであり、艦橋に詰めていたクルーや参謀たちは居心地が悪そうに身を強張らせた。
 やがて、コロニーの方角から目も眩まんばかりの光があふれ出た。
 同じ光はグワダンの艦橋でも確認できた。

「しまった、核パルスエンジンが・・・!」

 デラーズが悔恨の声を上げる。この星の屑作戦の目的はただコロニーを落とせばよいというものではない。北米の穀倉地帯にコロニーを落とし、その生産力に大打撃を与えることが目的なのだ。だが、核パルスエンジンが破壊されてはもう軌道修正はできない。コロニーはただ落ち行くだけだ。

「もはやこれまでか、しかし、何とか阻止限界点は超えたのだ。これ以上とどまっても意味はないが・・・」

 正面には地球軌道艦隊の主力が展開しているだろう。これ以上留まれば完全に包囲され、脱出など不可能になってしまう。もはやコロニーの軌道変更ができない以上、ここに留まっていてもただ不利になるだけだ。理性の部分はすでに潮時であることを悟っていたが、感情の部分がそれをなかなか認めようとはしなかった。

「・・・無念だ、ここまで来て・・・」

 拳を強く握り締め、湧き上がってくる怒りを押さえ込む。そうして自分を押さえ込むと、いつもの冷静な指揮官振りを発揮しだした。

「やむをえん、ただいまを持って星の屑作戦は中断、直ちにアクシズ艦隊との合流ポイントに向かう!」

 椅子から立ち上がったデラーズは、艦橋の外にも響かんばかりの声で命令を下し、ついで辛そうな視線を部下たちに向けた。

「すまぬな、諸君にはまたしても雌伏の時を耐えてもらう事になりそうだ」
「閣下、我らはどこまでも閣下についていきます」

 オペレーターの1人がそう答える。他の者も声には出さないが、その目には強い意思が宿っていた。それを見たデラーズは大きく頷き、視線を地球に向けた。

「我らが宿願、それを果たすために私は再びここに帰ってこよう。待っているがいい」

 1人呟くデラーズの声は誰にも聞かれることはなかった。
 直ちにグワデンから発光信号が上がり、それを見た艦艇やMSが次々とコロニーから離れ、突破口を開くべく連邦軍に向かっていく。その矢面に立たされたティターンズ艦隊はいきなり反撃に転じたデラーズ・フリートに焦りの色を隠せなかった。

「バスク大佐、敵が反撃に転じました!」
「ここにきてか・・・そうか、奴ら脱出を図る気か!」

 デラーズの意図を読み取ったバスクは1隻足りとも逃がすまいと砲撃を強化した。
 だが、デラーズの意図はティターンズの突破ではなかった。全力を叩きつけてティターンズを押し返したデラーズはそのままティターンズの鼻先を掠める形でコロニーの後方に転じ、一丸となって逃げ始めた。押し返されたティターンズは陣形が乱れ、すぐに追撃に移れる状態ではなく、アレキサンドリアの艦橋でバスクは歯噛みして悔しがっていた。
 一方、デラーズ・フリートを追撃できるはずのシーマ艦隊は何故か動かなかった。これは、自分の艦隊がすでに消耗し尽くしていることもあったが、これ以上無理をして部下を失うことをシーマが嫌ったためだ。

「ガトー、アクシズでせいぜい苦労するがいいさ」

 去って行くデラーズ・フリートを見てシーマが呟く。だが、彼女にもこの先ガトーをも上回る辛い運命が待ち構えていることなど知る由もなかった。


 ティターンズを振り切ったデラーズはようやく一息ついた。そこにガトーのジャギュアーがグワデンに取り付いて話し掛けてきた。

「閣下、御無事ですか?」
「おお、貴公か、まだ無事であったか」
「はい、ジオン再興の宿願を果たすまで、死ぬわけにはいきません」
「ふふふ、そうであったな。しかし、まだもう一働きしてもらわねばならんらしい」

 正面に展開している幾つもの光点、いままでデラーズ・フリートを苦しめていたアルビオンとオスマイヤー艦隊だ。

「ここまで粘るとは、連邦にも気骨ある者はいるらしい」
「確かに、なかなかの戦士たちです。連邦にしておくのは惜しいくらいですな」

 ガトーですらも認めざるを得ないほどの戦い振りをみせるこの部隊だったが、デラーズ達が最後の一戦を決意していたのと同様に、彼らも戦いを決意していた。
 アルビオンの艦橋でエイパー・シナプス大佐が不敵に笑って見せた。

「引くか、確かに頃合だろうが、やってくれた事の落し前はつけてもらわんとな」

 凄みのある声で呟く。その内心では激しい怒りが渦巻いているのだろう。

「モーラ君、MS隊はどうか!?」
「駄目です艦長、度重なる戦闘でどの機体も駆動系が駄目になってます。まとまった修理をしないと使い物になりません」
「・・・そうか、まあ、仕方がないか」

 残念そうに受話器を戻すと、接近してくる艦隊を睨みつけた。

「全艦砲撃用意、射程に入りしだい撃って構わん!」

 シナプスの命令を受け、連邦艦でも最も射程の長いアルビオンの主砲がメガ粒子を敵艦に向けてたたき出した。それが号砲だった、と言わんばかりに敵味方の艦も撃ち始める。この戦いの幕を引く一戦が始まった。


 重力に引かれて落ちていくコロニー、もはやこの物体を止める術は存在しない、誰もがそう思っていた。だが、コロニーに取り付いたコーウェンの地球軌道艦隊は何故かコロニーを囲むようにして布陣していた。そして、工作艦が次々とコロニーに取り付き、何かの作業を始めた。作業用のボールやジムがせわしなく動いている。彼らはコロニーを一周するように何かを取り付ける作業をしていた。
 作業状態を見守っていたコーウェンの表情には僅かな焦りがある。

「作業を急がせろ、コロニーをこのまま地球に落とすことだけは防がねばならんのだ」
「分かっております、工作部隊の作業は予定を上回るペースで作業を進めております。予定のラインまでには作業も終了しているでしょう」

 コーウェンを宥めるかのように部下の1人が現在の状況を簡単に説明してくれる。彼らが何をしているのか、それはおよそ30分後に明らかになる。


 最後の交戦を開始したオスマイヤー艦隊とデラーズ・フリート、その戦いはまさに死闘
といえるものだった。

「ぬうおおおおおっ、邪魔をするなあっ!!」

 ガトーのジャギュアーが立ちはだかるジム改をビームライフルで打ち砕く。その向こうではゼンカが10機くらいのMSを相手に獅子奮迅の活躍をしていた。だが、彼らの腕をもってしても連邦軍の数は多く、主力機であるザクU系列機とジム改の性能差は連邦とジオンのパイロットの技量の差を埋めるのに十分すぎるものだった。

「くうっ、このままでは、突破など夢のまた夢か」
「ガトー少佐、敵が多すぎます!」

 部下がガトーに泣き言を言ってくる。思わずガトーは怒鳴りかけたが、辛うじて思いとどまった。無理もない、と考え直したのだ。
 さらにそこに更なる災厄が襲い掛かってきた。

「ガトー、今度こそ決着をつけさせてもらうわ!」
「むう、七瀬か、こんな時に・・・」

 唇を噛み締める。彼女は手を抜いて戦える相手ではない。加えて、彼女の後ろにはガンダムタイプやジムカスタムが続いている。

「香里と栞は向こうの化け物をお願い。中崎君ははバックを頼むわね」
「「「了解」」」

 言われた3人は各々で動きを変えた。それを見て七瀬は満足し、ガトーと正面から向き直った。

「さあ、派手にいきましょうか、ガトー!」

 マシンガンを捨てた七瀬は、メガビームサーベルを引き抜くなり大きく吼えた。ガトーがビームライフルで七瀬を阻止しようとするが無駄な努力で、3射目で懐に入られてしまった。やむなくガトーもライフルを捨ててビームサーベルに手をかける。

「七瀬、今は君には用はないっ!」
「あんたにはなくても、こっちには有るのよ。あんな物落しといて勝ち逃げしようなんて、虫が良すぎるんじゃない!?」

 両者のベームサーベルが反発のプラズマを撒き散らし、エネルギーの余波が機体を焼いていく。七瀬もガトーも再びいつ果てるともない戦いに突入していった。
 消耗の激しすぎたアルビオン隊のMSが正面から下がったので、もっぱら戦っているのはフォックス・ティースを中心とするMS隊だった。サイレンにこそ入っていないものの、天野も真琴もなかなかのパイロットであり、その部下たちは平均して高い錬度を持っている。

「あうううううっ♪」

 真琴が嬉しそうにトリガーを引き絞り、打ち出されたビームがよたよたとやってくるリックドムを撃ち砕いた。すでにデラーズ・フリートのMSはぼろぼろで、戦闘能力を残しているのは殆どいなかった。それでも向かってくるのは精鋭がゆえの勇猛さのためだろう。だが、いくら勇猛でも機体はすでにガタがきており、まだまだ余裕のあるジムキャノンUの相手ではない。

「スコアはいただきよう!」

 動きの鈍いザクやリックドムを楽しそうに撃ち落していく真琴。だが、それは油断だった。確かに多くは動きが鈍かったが、全ての動きが鈍いわけではないのだ。敵を舐めていた真琴は接近してくる新手に気付くのが僅かに遅れた。そして、その遅れはMS戦においては致命的な瞬間だった。

「これ以上好きにはさせん」

 カリウスの乗るシュツーカが近くのガンキャノン量産型をマシンガンで破壊し、左手に隠し持ってたビームサーベルで真琴に斬りつけてきた。

「あ、やばっ!」

 慌てて真琴がシールドを前に出す。一応ジムキャノンUにはビームサーベルが装備されているのだが、真琴も含めてそれを使った者はいない。本来支援機であるジムキャノンUのパイロットはビームサーベルを抜くことなど考えてもいないのだ。
 カリウスは突き出されたシールドを横薙ぎに切り捨てた。左腕ごとシールドを失って真琴が狼狽する。

「こ、こいつうっ」

 持っていたジムライフルを撃ちまくりながら距離をとろうとするが、シールドを構えたシュツーカはこの弾幕を無視して突き進んできた。連邦機には見られない重装甲がこの無茶を可能としている。

「堕ちろ!」
「あうううう!」

 絶体絶命、それでも真琴は賢明に機体を動かしてこれを回避しようと努力していた。カリウスから見れば動きの鈍いジムキャノンUなど取るに足りない獲物だ。加えて真琴はビームサーベルを抜いていない。カリウスのビームサーベルが再び振られた時、真琴のジムキャノンUは致命的な損傷を受けてしまった。

「あわわわ、もう駄目、脱出するよ!」

 この時代にはまだコクピットそのものには脱出装置はそなわっていないので、パイロットはハッチを開けて飛び出さないといけない。ノーマルスーツ姿で外の出た真琴は機体を蹴ると急いで離れた。少しでも距離をとらないと機体の爆発に巻き込まれてしまう。
 真琴が脱出して数分後、ジムキャノンUはいきなり激しい爆発を繰り返して消えていった。この後、真琴は近くにいた部下に回収されたが、愛機を失ったショックからかふさぎ込んでいたという。

 真琴とは別の宙域で天野の隊も戦っていたが、こちらは真琴よりもずいぶん楽だった。真琴と違って、天野の隊は全機がジムUに更新している。おかげで天野の隊は鉄壁の壁となっていた。

「ここは通しません、貴方たちには生きてここを抜けることはできないのです」

 天野美汐の指揮能力はここでも遺憾なく発揮されていた。天野はかつては優れたパイロットを目指していたのだが、どういう心境の変化か最近では優れた指揮官になるよう心がけているらしい。連邦には優れた前線指揮官が少ないのでこれは有難い事なのだが、それでも彼女の変わりように周囲は動揺を隠せなかった。
 もちろんパイロットとしても優秀な彼女はジムカスタムを手足のように操って迫り来るMSを血祭りに上げている。この辺りはジオン系MSの墓場と化そうとしていた。


「ちくしょおおおおおお・・・!!」

 また1機、リックドムが宇宙の塵となった。新世代の兵器によってなす術もなく撃ち砕かれていく。2年前に連邦軍が味わった悲哀が今、彼らに降りかかっていた。だが、それでも彼らは奮戦していた。数で劣り、機体はぼろぼろ、弾も欠乏している状態でも彼らは頑張った。その強大な連邦軍の壁を、彼らは何とか突破したのだから。
 だが、辛うじて戦場を後にできたグワデンに付き従っているのはたった4隻のムサイでしかなかった。その中にビリィ・グラトールのペール・ギュントの姿があったのは決して偶然ではないだろう。もちろん、付いてこれなかったものの全てが戦死したわけではないだろう。ここ以外の宙域に脱出したものもいるだろうし、動けなくなって降伏した者もいるだろう。
 だが、膨大な犠牲者が出たのは事実だ。恐らく戦死者の数は連邦を上回るだろう。デラーズは散っていった者たちのことを思い、しばし目を閉じた。

「多くの若者が逝き、また儂のような老人が生き残ってしまったか」

 それは悔恨の呟き、指揮官が決して部下に聞かせてはいけない呟きだった。ただ、デラーズの心中を察した副官はデラーズが目を開けるまで声をかけるのあえて待っていた。
 やがて、追撃してきた連邦MS隊と殿の戦いも終わろうとしていた。
 最後まで激しい戦いを繰り広げていた七瀬とガトー、メガビームサーベルをジャギュアーがビームサーベルで流し、左腕の110mm速射砲を叩き込む。エクスカリバーVの装甲はこの程度の打撃ではびくともしない筈だったが、度重なるダメージを気にしていた七瀬は僅かに引いた。そして、どちらともなくお互いに剣をおろした。

「・・・行くの?」
「ああ、だが忘れるな、私は必ず帰ってくる。ジオンの理想の旗を、再び掲げるために」

 そういい残し、ガトーは機体を翻した。それを見送った七瀬は最初厳しい目で見ていたが、すぐに気を抜いてシートに深く腰掛けた。

「まったく、相変わらず不器用な奴よね、あいつは」

 七瀬がガトーに呆れている頃には天野の戦いも終わろうとしていた。

「全機、これ以上の追撃は無用です、止まりなさい」

 天野の指示を聞いて部下たちは追撃を諦めた。

「逃げましたか、ですが、あれではもう何もできませんね」

 逃げていくMSを見送って天野は1人呟いた。
 その時、背後で物凄い光があふれ、天野を含めた誰もが驚いて振り返った。

「あ、あの光は、まさかっ!」

 天野も含めた、フォスターT会戦の生き残りにはその光に覚えがあった。なぜなら、その光は・・・

 光の発生源、コロニーではコーウェンが3つに分断されたコロニーを見て満足そうに頷いた。

「やったな、後はコロニーにできる限りのダメージを与えて大気圏で分解することに期待するだけだ」

 コーウェンの地球軌道艦隊が戦闘に参加せず、コロニーに取り付いて何をやっていたかというと、コロニーを分断するべく核爆弾を取り付けていたのだ。もともと、使わないだけで連邦には膨大な核兵器が残されている。コーウェンはジャブローに残されていたそれらを使ってコロニーを分断し、コロニーを軽くすることを目論んでいたのだ。
 コーウェンの目論見は図にあたり、3つに別れたコロニーはそれぞれに軌道を変え始めた。

「将軍、最後尾は爆発でブレーキがかかりました。このままなら、地球には落ちません!」

 計算を続けていたオペレーターが歓喜の声を上げる。それを聞いて艦橋にいるものは歓声を上げ、コーウェンは安堵のため息をもらした。

「そうか、だが、まだ2/3が残っている。これらの破壊を急げ」

 俄然やる気を出した兵士たちは熱狂的な勢いを持って砲撃を加え始めた。


 コロニー分断の光はグワデンでも確認でき、デラーズが椅子から立ち上がった。

「何だと、核の光!?」
「はっ、間違いありません、光と同時に強力な電波障害を確認しています」

 デラーズの表情が怒りに歪んでいく。

「なんということだ、それでは今までの戦いは一体、何のための戦いだったのだ?」

 デラーズはコロニーが破壊されたと思い込んでいた。だが、実際にはすこし違っていた。3分割されたコロニーは最後尾が重力圏を脱し、先頭がスピードがつきすぎたために地球への突入角度が浅くなり、大気に弾かれてしまったが、中央部は地球に落ちたのだ。コーウェン達は持てる火力の全てをかけてコロニーを撃ちつづけ、コロニーをかなり劣化させていたのだが、それでもそれなりの塊が大気圏に飛び込もうとしていた。もうこうなっては打つべき手はない。連邦艦隊の将兵は地球に落ちていくコロニーを怒りと涙を持って見つづけ、デラーズ・フリートとアクシズの兵士たちは感動を持ってその光を見守った。
 多くの人々が見守る中で、コロニーは大気圏に突入したところで大きく崩壊し、その原型を失った。コロニーは破片となり、その大半は太平洋に落ちていったが、ただ一つ大きな塊が北太平洋に落ち、アラスカやシベリア東岸を津波が襲うという大被害が出ていた。
 落着を確認したキャスバルはグワンザンの艦橋で合流したデラーズ艦隊の生き残りを見やり、小さく安堵の息を吐いた。

「どうやら、デラーズ殿は無事らしいな」
「はい、今日は久しぶりに奴と酒を酌み交わしたいと思っております」

 嬉しそうなユーリーを見てキャスバルは小さく笑い、またグワデンに視線を戻した。
 しばらくそうしていると、レーダー主の悲鳴のような声が響き渡った。

「月からの連邦艦隊がもうすぐ射程に入ります。数は200隻以上!!」

 その報にキャスバルが、ユーリーが厳しい視線を月の方に向ける。確かに物凄い数の光点が近づいている。やがて、接近してくる艦隊から通信が入った。

「閣下、地球連邦軍宇宙艦隊司令長官、ハンフリー・リビック大将から退去勧告です!」
「・・・確かにな、もう退去時間を30分も過ぎている、か・・・」

 しばし悩むと、キャスバルは意を決して命令を下した。

「やむをえん、回収作業を終了、火星への帰路につけ」
「・・・仕方ありません、か」

 ユーリーも苦渋に満ちた表情で頷いた。撤退に向けて準備に入った部下を尻目にキャスバルはもう一度視線を連邦艦隊に移した。

「・・・なんだ、この感じは、ニュータイプでもいるというのか?」

 連邦艦隊から感じる強大なプレッシャーにキャスバルは表情を険しくした。彼の注意が向いている相手、カノンには彼の注意を引くであろうニュータイプが最低でも3人は乗っている。彼が気を引かれるのも無理はないだろう。
 

 コロニーが地球に落ちた事でデラーズ紛争は一応の決着を見た。デラーズ・フリートは事実上壊滅し、生き残りはアクシズ艦隊に拾われて地球圏を去った。連邦ではこの事件を機に再び大幅な人事の入れ替えが起こり、コーウェン将軍はコロニーを阻止し切れなかった責任をとる形で地上軍総司令官の地位を去り、新たに重要度の低いオーストラリア方面軍司令官としてオーストラリアに追いやられた。また、コーウェン派の者の多くは中央から遠ざけられることになった。デラーズ戦役で功績のあったエイパー、シナプス大佐は准将に昇進したうえで地球に下り、フランス地区司令官となった。バニング大尉とウラキ少尉、キース少尉はトリントンに戻り、アムロとクリスとバーニィはアルビオン所属のままだったが、アルビオン自身がルナツー基地で修理を受けている状態であり、しかも実際にはほったらかされているので、3人は飼い殺しという状態だった。実際にはアムロはともかく、2人はアムロの部下だったということでティターンズに警戒されただけなのだが、3人はそんなことを知る由もなく、これからしばらくの間無為の時を過ごすことになる。
 この事件を契機として一気に勢力を伸ばしたのがティターンズだった。少数のジオン残党といえどもこれだけの事ができた、という事実が連邦政府を恐怖させ、これらの残党を狩り出す組織の必要性を痛感させたのだ。こうしてジャミトフ・ハイマンを代表とするティターンズがいよいよその規模を拡大し、地球と宇宙の双方で勢力を持つことになる。また、この頃からティターンズはエリート部隊であるという考えが定着し始め、一般の連邦軍とは差別化が図られ始めるのだが、それが目に見えてくるのはもう少し後のことである。
 この戦い終結後、これ以上地球圏を空にするのは危険だという中央の判断からファマス討伐が急がれる事になった。いよいよ加速される艦艇とMSの増産、急がれる新鋭機の開発、そして将兵の教育。いよいよ連邦という巨大なダイナモが動き出し、奔流となってファマスを押しつぶそうとしている。今まさに、ファマス首脳部が恐れていた事態が現実となろうとしていた。


宇宙世紀82年3月15日、一つの機体がサイド6、ジブラルタルの工廠でロールアウトした。SYD−05セイレーン、アーセンと住井があゆの為に開発していた脅威の新型機だ。アーセンの開発した5機目のMSで、他の4機を上回ると太鼓判を押すこのMSは、世界初の第2世代MSといえる特長を持つ高性能機であり、後の連邦MSに影響を及ぼすことになる画期的なMSだった。
 そして宇宙世紀0082年4月1日、ルナツーに再び空前の大艦隊が集結しようとしていた。

 


人物紹介

バスク・オム 男性 大佐 40前後?
 ティターンズの実戦部隊を統括する男で、ジャミトフに協力してジオン残党を狩り出す事に熱意を傾けている。かつてジオン軍の捕虜となったときに拷問を受け、視力が低下しているので、今ではいかついゴーグルをはめている。スペースノイドに対しては一切の容赦をしないその残忍さから嫌う者も多いが、付いていく者も多いという辺りに、地球出身者のスペースノイドへの憎しみの深さが見て取れる。
 後に30バンチ事件などの暴挙を繰り返し、エゥーゴの決起を促してしまう。

ジャミトフ・ハイマン 男性 准将 50代?
 ティターンズの提唱者にして、宇宙軍総司令部の参謀。事実上宇宙軍総司令部を操っており、リビックや秋子とは反目している。彼はすでに連邦政府と軍、コロニー自治政府の全てを見限っており、自分が新たな世界秩序を生み出すべくティターンズを設立した。
 皮肉な事に、彼の理想はその最終目標においてキャスバル、ブレックスといった敵対者の目指す未来像とまったく同一であり、人類は地球から出て行くべきだと考えている。ただ、その実現手段が穏便か、過激かの差だけなのだ。彼は戦争を起こす事で地球経済を破壊し、地球上の人類を死滅する事で地球の再生を図ろうとしている。そして、その後の世界を自分たち一部のエリートが支配するつもりなのだ。
 単純な野心家であるバスクとは異なり、彼は理想を持った、確かに野心家ではあるがある意味清廉な人物である。少なくとも、単なる権力志向では動いていない。

シーマ・ガラハウ 女性 中佐 20代後半?
 元ジオン海兵隊中佐で、もっぱら汚れ役を引き受けていた女性。彼女の部隊はマハル・コトニーというジオンでも下層に位置するコロニー出身者で固められており、ろくでもない任務や死亡率の極めて高い任務に投入される事が常だったこの部隊の気質は自然と荒くなり、シーマがこの荒くれ者を統率してこれたという事実は、彼女の指揮能力の高さを物語っているといえる。
 戦後にはアクシズ行きを希望していたのだが、アクシズに向かう部隊から卑劣な部隊、汚れ物として拒否されてしまう。この為に投降しても2級戦犯として刑場送りは免れない彼女は、部下を率いて海賊をするしかなくなってしまった。
 よくデラーズを裏切ったということで酷く言われる彼女だが、ジオン軍の彼女に対する仕打ちや、その後の過酷な境遇、部下を捨てずに引っ張って来た責任感などを考えると、ジオンを裏切って自分の部下の身の安泰を図ったのも頷ける話ではある。少なくとも、彼女がジオンに義理立てする要素は見当たらない。


後書き

ジム改 デラーズ・フリート編終了
祐一  俺の出番はどおしたああああっ!
ジム改 文句を言うな、今回は皆無かったんだから。
祐一  主役無しで話しが進むわけ無いだろお?
ジム改 進んでるじゃん。
祐一  お前、そのうち秋子さんに殺されるぞ。
ジム改 大丈夫だ、あの人には出番を条件に了承を貰ってある。
祐一  なにい、俺には?
ジム改 そんなものはない。
祐一  うううう、まあ、今回は北川も浩平も出番無しだから許してやるか。
ジム改 今回は随分あっさりと引き下がったな。
祐一  少なくとも差はつかなかったからな。
ジム改 それで満足できるのか・・・
祐一  なんだよ、その哀れむような目は?
ジム改 プライドを忘れた男、ああ哀れ。
祐一  ほっとかんかああああいいいい!

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