第38章  蠢動する陰謀


 フォスタ−Tで連邦軍が出撃準備をしている頃、フォスターUではファマスの持てる戦力が結集しようとしていた。ファマス最強と言われ、常に最前線の渦中にあって輝かしい武勲を上げてきた三つの艦隊、エターナル隊、リシュリュー隊、アリシューザ隊を筆頭に、アクシズから派遣されてきた先遣艦隊、地球圏を脱出してきた後再建されたデラーズ艦隊、そして今まで出番が無かったファマス第3艦隊がここに集まっている。当然主力となるのは第3艦隊で、その指揮権は要塞司令をしなくてはならないバウマンからチリアクスに委譲されている。
 ただ、これでも連邦軍の遠征艦隊を相手にするにはあきらかに戦力不足で、ファマス軍は機動戦力の不足を要塞の砲台と、あるだけ掻き集めてきた無数の防空戦闘衛星と浮遊砲台で補うことにしている。防空戦闘衛星とは一年戦争後に配備された無人兵器で、敵味方識別信号を発していない目標や、敵対目標を自動的に攻撃するシステムである。浮遊砲台とは小惑星に幾つかの砲台と監視所を設置したもので、宇宙空間におけるトーチカのような役割を担っている。 
 この一大軍団を統括しているロバート・バウマン少将は要塞を含めた総合戦力の検証を幕僚やチリアクス、各艦隊指揮官などを交えて幾度も図上演習を行っていた。今日も連邦軍の指揮を斉藤がとり、ファマス軍をチリアクスが指揮している。判定をバウマンが行うという形だ。この演習では斉藤は大軍を生かした半包囲陣形でフォスターUに攻め寄せ、数に物を言わせた物量作戦を行っている。これに対してチリアクスは要塞の火力と第3艦隊、それにデラーズ艦隊で正面から迎え撃ち、複数の小艦隊による一撃離脱攻撃を加え続けたのだが、斉藤はこの突撃に予備戦力をぶつける事で対処していた。
 結局、この図上演習では斉藤の連邦軍が大した損害も受けずにフォスターUを陥落させてしまっている。バウマンは溜息をついて演習結果を見た。

「ふう、これで通算25回目の敗北か」

 そう、どうやってもフォスターUは陥落してしまうのだ。今までの演習ですでに彼らは勝利を投げ出していた。彼らのテーマはいかに勝つかではなく、いかに多くの戦力をフォスターUから脱出させるかにあった。

「やはり、撤退するしかないのでは?」

 斉藤の言葉に何人もが頷いた。どうせ勝てないのであれば敵が来る前にここも放棄し、敵の補給が確実に限界に達する火星で決戦を挑むのが正しい戦略ではないのだろうか。斉藤の主張は極めて合理的なものであり、反対する者がいるとも思えないのだが、バウマンは力なく頭を左右に振った。

「駄目だ、一戦もせずに退く事は出来ない」
「何故です、当初の計画ではフォスターT守備隊の合流後、速やかにここも放棄するはずだったではないですか。何故ここに留まらねばならんのです?」

 斉藤の疑問に、バウマンは何故か一同の顔ぶれを見渡して答えてくれた。

「・・・・・・あまり公にはできんのだが、実は内部から首脳部の弱腰を非難する声が上がっているのだ」
「弱腰、ですか?」

 ショウ・コバヤシ大佐が首を捻った。彼はチリアクスの配下でも随一の猛将であったが、その彼でもここに留まって戦うのが正しいとは思えなかったのだ。
 ショウの疑問にバウマンは顔を顰め、チリアクスは少し気まずそうに顔を逸らした。

「非難しているのはデラーズ中将を中心とするジオン系の高級軍人達だ。ギレン派と呼ばれているらしいが、私は旧ジオン内部の事情にはそれほど詳しくは無いからな」

 そこまで言って、バウマンは躊躇いがちにチリアクスを見た。チリアクスはバウマンに見られてしぶしぶ事情を話し出す。

「もともと、ジオンは連邦以上に内部対立が激しい組織なのだ。有名所だけでもザビ派、ダイクン派に分かれており、更にこれらが幾つにも分かれている。情けない話ではあるが、一年戦争で我々が敗北した最大の原因は連邦の軍事力ではなく、内部対立なのだよ」

 チリアクスは悔しそうに過去を振り返った。

 一年戦争において、ザビ家内部の対立は緒戦から見られていた。最初の一週間戦争からすでにキシリアとドズルの対立は表面化しており、指揮系統の分裂を招いていた。これは地球降下後に一層鮮明となり、地球各所の制圧地域を争うという醜悪な状態が生じている。特にアフリカではギレン直属軍までが降下、制圧作戦を行っており、何と三つの指揮系統が同時に存在していたのである。当然ながら指揮系統は混乱をきたし、その総合戦力を著しく低下させてしまっていたのである。
 結局、この対立は最終的にオデッサの惨敗を引き込み、それは地球攻撃軍全体の崩壊を呼びこんでしまった。ソロモンでは政治抗争に敗れたドズルは自分の配下である突撃宇宙軍のみで連邦軍のチェンバロ作戦を迎え撃ち、完全敗北を喫した。ア・バオア・クーではキシリアがギレンを殺害し、その瞬間的な指揮系統の途絶が勝てるはずだった戦いを負けさせてしまった。

 この後、諦めの悪い連中がアクシズに逃れたり、各地に潜伏したりして今日に至っているわけである。チリアクスが悔やんでも悔やみ切れないのは仕方ないところだろう。
 そして、その対立は今でも続いている。アクシズでは大きく分けてダイクン派とザビ派、そして新勢力であるカーン派の三勢力が激しい闘争を続けている。今回のアクシズの参戦もこの対立を共通の敵を作る事で解消しようという裏の狙いがあるとまで言われているくらいだ。

 もちろん、アクシズが当初からそんな考えを持っていたわけではない。最初はアヤウラが久瀬を焚き付け、連邦を分裂させて少しでも弱体化させるというのが狙いだったのだが、交渉相手として選んだ久瀬中将はアクシズの用意した舞台に収まらないほどの才幹を持っていた事が裏目に出てしまった。火星ジオン軍と久瀬が協力してファマスを作る事までは計算通りだったが、それがここまで強大な組織となるとは完全に予想外であり、さらにシュツーカを始めとする高性能MSを完成させた事も計算外の要素であった。アクシズ情報部は火星ジオン軍の技術レベルを完全に見誤っていたのだ。これらの事情により、戦いが単なる内乱から戦争と言える規模まで拡大したために、アクシズが望んでいた消化可能な対岸の火事では済まなくなってしまった。
 アクシズが、というより、キャスバルが望んだのは連邦軍どうしの内紛であって、ジオン残党との戦力差を埋める事であり、地球圏の混乱を少しでも長く維持する事だったのだが、結果としては最悪とまでは言わないまでも、かなり悪いことになってしまった。地球圏のジオン残党はデラーズ艦隊をはじめとして、宇宙の戦力の大半がファマスに合流したり、アクシズに逃げてしまったので連邦軍の制宙権が確立してしまっている。このために地上の残党軍に皺寄せが及び、連邦軍がかなりの戦力をこれに当てている。
 何より最大の問題は腐敗しきっていた連邦軍が健全化してしまった事だ。リビック提督を中心に再建された宇宙軍は質的にも量的にも著しく強化されているし、なにより小回りが効くようになっている。
 すでに状況はアクシズの手を離れてしまった。アクシズの首脳たちはそう考えた。自分達が生み出したはずなのに、気が付けば自分達はかやの外で、反連邦の象徴という地位はファマスの為に用意されたものとなってしまっている。このまま放置すればアクシズはジオン残党の中心という立場を失い、単なる辺境の一勢力にされかねない。ミネバを要しているという優位もファマスの上げた実績を考えれば色褪せた偶像でしかないのだ。
 かくして、アクシズは政治的な理由によって参戦を余儀なくされてしまった。だが、それでも遅参というイメージは拭う事が出来ず、アクシズのファマスにおける立場は同盟軍であって、主役ではなかった。
 このため、アクシズはファマス内における指導力を久瀬中将やサンデッカー中将からもぎとろうと必死であり、さまざまな圧力を変えているのだ。

 これに加えて、最近になって加わったデラーズ艦隊が声高に主張し出したのだ。ファマスの方針は受身に徹しすぎる。もっと積極的に動いてこそ、ジオン軍人の最もたる姿であろうと。
 この主張にファマス内における旧ジオン系軍人達の一部が同調し、ファマスの指揮系統に障害を生み出しているのだ。そして、久瀬にもサンデッカーにもそれを排除する事は出来なかった。寄り合い所帯であるファマスの最大の欠点なのだが、上の意思を下にごり押しする事が出来ないのだ。下手をすれば内部分裂してしまいかねない。さまざまな勢力の参入で数的には著しく増大したものの、初期の結束を失った事で現在のファマスはかつてのジオンの弱点を再現しようとしているのだ。

 チリアクスは火星ジオン軍の提督として最初からファマスに参加し、連邦系の部隊とジオン系の部隊が一つになって戦っていた頃を覚えている。フォスターT会戦では両者の間にわだかまりは無く、一致団結して連邦軍と戦っていた。それが今、このような指揮系統の乱れに頭を痛めなくてはならないとは。
 現に連邦出身のバウマンの指示は旧デラーズ艦隊やアクシズ艦隊には徹底されていない。彼らはデラーズやハウエルの判断を優先し、バウマンやチリアスクを軽んじているのだ。

「撤退はできんよ。そんな事をすれば、ファマスは確実に分裂してしまう」

 チリアクスの言葉には、隠しようも無い疲労感が漂っていた。

 

 
上層部の対立は激しかったが、現場でもその対立は存在していた。昔からファマスに居た部隊と、最近になって加わった連中との間には目に見える亀裂があるのだ。昔から居る連中でも最強部隊として知られる三つの艦隊、エターナル隊、リシュリュー隊、アリシューザ隊を中心とするフォスターT駐留艦隊はチリアクスの指揮の元、ほぼ完全な意思統一が計られているのだが、アクシズ艦隊の参入によって橘啓介の率いていたアクシズ先遣艦隊の立場が微妙になっている。彼は今までの経験からチリアクスや斉藤の指揮能力には素直に敬意を払っており、その指示に従う事に疑問を抱いてはいないのだが、アクシズ艦隊と共にベルム・ハウエル准将がやって来た事で立場が微妙になっている。彼はアクシズの将校であり、ハウエルは上官になる。彼としてはハウエルに従うしかないのだが、ハウエルは反連邦思想とジオン公国の掲げていた理想に凝り固まっており、連邦出身の部隊とは決して共同歩調を取ろうとしないのだ。アクシズに多いタイプの軍人だが、政治に関らず、現場の叩き上げである啓介にはこういうタイプはやり辛いのだ。平たく言えば、政治うんぬんで勝てる確立を減らされてはたまらないのである。
 啓介のこの悩みはアヤウラがいた頃から存在していたのだが、彼はこの悩みを友人である斉藤以外には話していない。その為に結構鬱憤が溜まっているのである。
 この啓介の立場が微妙な事は斉藤やショウ、みさきも分かっており、あまりおおっぴらには彼と接触しないように努めている。彼らとしても共に戦ってきた戦友を困らせるのは本位ではない。
 ただ、指揮官や艦長レベルより下ではもう少し事情が異なっている。デラーズ艦隊出身のアナベル・ガトー少佐はリシュリュー隊の久瀬や、エターナル隊の浩平やクラインとちゃんと付き合っている。少なくとも表面的には対立意識を見せてはいない。三人の優れた技量と指揮能力をガトーが認めたからかもしれないが、このおかげでガトー率いる要塞駐留MS隊と、フォスターTから撤退してきた部隊の末端レベルにおける意思疎通はどうにか図られていた。
 今日も久瀬と浩平はガトーの元を訪れ、部隊の運用について話し合っている。

「連邦軍のMSは確実に新型機に更新されている。すでに新型のジムUは部隊の半数近くを占めているらしい」
「それに対して、うちのMSは頼みのシュツーカが定数を割りこんでる」

 久瀬の苦々しげな言葉にガトーは頷いた。

「そういう事だ。足りない分は旧式のゲルググやリックドムで補われている。アクシズ艦隊の主力はゲルググ改という改装機だが、これはゲルググに毛が生えたようなものだ。シュツーカとは較べるべくも無い」
「ゲルググ以前の機体じゃあ役にたたねえしな」
「残念だがな。朗報と言えるのはブレッタの数が多い事だが・・・・・・」

 ガトーは新たに搬入されたMSのリストを見せた。それにはシュツーカのパーツで武装強化されたザクU重装型やリックドム重装型などの再生機が多いが、シュツーカとブレッタのそれなりの数が搬入されている。シュツーカの生産ラインの一部がブレッタ用に変更されたためか、ブレッタの数がかなり多くなっている。
 ただ、問題なのは機体の性能よりも圧倒的な数の差と、パイロットの技量が全体として落ちているという事だ。特にアクシズから来たパイロットはこれが初陣というパイロットがほとんどで、精強をもって鳴らす連邦軍機動艦隊などとぶつかればたちまち蹴散らされてしまいかねない。機動艦隊、通称カノン隊の強さは当のガトー自信が身をもって思い知らされている。
 ガトーは浩平を見た。

「折原中尉、君から見て、このフォスターUを何処から攻める?」
「・・・・・・自分が連邦軍なら、なにも考えずに正面から数で押しこみますね。我が軍にそれを食い止める事は出来ないでしょう」

 浩平は少し考えて、やはり二階級上官には丁寧に話そうと思ったのか、やや地がでてるものの、彼らしくない喋り方をしていた。
 浩平の答えは芸がなく、誰でも考えそうな事ではあるが、昔から「大軍に用兵無し」と言われるように、圧倒的な大軍を擁するのなら変に小細工をするよりも、正面から力技で攻めたほうが効率がいい。余計な策は、かえって全軍の運用を困難にしかねないからだ。
 ガトーはやや渋い顔になったが、久瀬は賛意を示していた。

「そうだね、僕でもそうするよ。連邦の戦力を考えれば、攻者三倍の法則を完全に満たしている。力押しでもこちらを圧倒できるさ」
「・・・・・・負ける事を考えていても仕方あるまい」

 なにやら救いようのない空気が流れる作戦室の流れを変えようと、ガトーが前向きな科白を口にした。ガトーの言葉に二人はしばし迷い、小さく頷いた。

「そうだな」
「ああ、すまない、少佐」
「いや、分かってくれれば良い」

 ガトーは口元を緩め、二人に頷いた。そして改めて戦力図に視線を戻す。

「とにかく、このまま要塞に篭っていても敗北は間違いない。ここだけの話にしてもらいたいが、上は連邦と適当に戦った後、この要塞を引き払う算段のようだ」
「・・・・・・それなら一戦も交えずに撤退すれば良いじゃないですか?」

 浩平が当たり前な事を口にする。そんな事は仕官学校を出ていない浩平にだって分かる事なのだ。
 だが、浩平よりも頭の良い二人は裏の事情まで察してしまっていた。先の見えすぎる軍人はこういう時は不幸である。
 久瀬は浩平の疑問には会えて答えようとせず、別の事を口にした。

「とにかく、一つだけ我々が有利な点があります」
「それは、久瀬大尉?」
「主力MSの性能そのものは、依然として我々ファマスの方が上回っているという事です。ジムUはシュツーカにかなり迫る性能を持っていますが、まだシュツーカの方が機動性、防御力で優位に立っていることが鹵獲機の試験データで分かっています」
「・・・・・・それで?」
「連邦軍がいかに大軍とはいえ、その全軍が常に固まっているわけではありません。移動中は少数ずつに分散するでしょうし、フォスターTに留まっている間は哨戒部隊が動き回ってるでしょう。それらをこちらも精鋭部隊を投入して襲撃するんです。同数なら負ける事もないでしょう」

 久瀬の狙いは少数部隊を狙って数を減らすという事だ。それをやるにはこちらもそれなりの戦力を投入する必要がある。しかも、最精鋭部隊を。この作戦を実行する能力があるとなると、本当に限られてしまう。

「・・・・・・エターナル隊に、リシュリュー隊、アリシューザ隊、アクシズ先遣艦隊か」
「はい、これらの部隊をぶつければ戦果を期待できると思います」
「だが、もし大きな損害を受けたらどうする。これらの部隊はわが軍の主力だぞ」
「圧倒的多数を相手にするよりはまだマシだと思いますよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ガトーは少し考えこみ、浩平を見た。

「やれるかね?」
「久瀬大尉の言う通り、あの洒落にならない大軍を相手にするよりは楽でしょうね」
「なるほどな、分かった」

 ガトーは頷くと、椅子から立ちあがった。

「私から進言してみよう。君達は準備を進めておいて欲しい」

 ガトーはこの作戦に賭けてみたくなっていた。それはつまり、彼から見ても勝算が無いという事を示している。

 

 アヤウラは火星圏に浮かぶファマス歳後の砦、宇宙要塞フォボスでアクシズ艦隊の本隊を出迎えていた。それはキャスバル・ダイクンが直接指揮することになっており、アヤウラもこれで正規部隊の指揮官に復帰する事が出来るだろう。
 だが、アヤウラがここに来た理由は艦隊を見る事ではない。艦隊が運んできた新型MSと、高槻が開発したという新兵器の視察である。
 新型MSというのはアヤウラも見慣れた機体だった。ガザB改。作業用MSであるガザBに武装を施したもので、データ取りを目的として送られてきたのだ。ブロック構造という従来とはまったく異なった方式を取り入れて開発された本機は、MS史上初めて可変機として開発されたMSである。もっとも、本格的な可変機というには少々疑問が残るが。
 アヤウラはこれを使ってデータを取らなくてはいけないのだが、正直言って誰を乗せれば良いのかで悩んでいた。データを取るためには熟練兵を乗せなくてはならないが、こんなとても実用機とは呼べない機体を実戦に送ることをアヤウラは拒否していたのだ。そんな事をすればただでさえ希少な熟練パイロットを無駄に失う事になりかねない。
 アヤウラは同行してきた技師に問い掛けた。

「本当にこれは実戦に耐えられるのかね?」
「リックドムとの模擬戦闘では勝利を収めました」
「・・・・・・私が聞いているのは、現代の戦闘に耐えられるのかという事だ。リックドムはすでに現代戦では使う事が出来ない。そんなものに勝てたからといって、役に立つ判断材料にはならん」
「そ、それは・・・・・・・・・」
 
 技師は返答に屈してしまった。ガザB改はジム改クラスと戦う事を考えて作られており、ジム改とは何とか戦う事が出来る。だが、ガザB改がようやくテストにこぎつけた頃には、すでに連邦の主力はジムUやジムカスタムに移ってしまっていた。 
 だが、彼の立場を考えれば勝てないとも言えない。それを察したアヤウラは小さく溜息をついた。

「すまん、君に言っても仕方のない事だな」
「・・・・・・・・・・・・」

 技師がどう答えたものかと悩んでいる間に、アヤウラはガザB改のまえから歩き去り、次の予定をこなしに行った。そこでは高槻が新技術について報告を行う事になっている。だが、予定されていた会議室で彼を待っていたのは高槻ではなく、高槻の研究グループに配属されている技師だった。

「高槻はどうしたのかね?」
「はっ、高槻主任は急用が出来たと言われ、火星に下りられました。それで私が代理として参りました」
「・・・・・・急用だと?」

 自分を呼びつけておいて急用とは、よほどの用件なのか。

「・・・・・・気に入らんな」
「は、申し訳ありません!」

 技師は姿勢を正して謝罪したが、アヤウラは技師の顔を一瞥しただけで、特になにも言わなかった。別に技師を責めた訳ではなかったからだ。身振りで続きを促すと、技師は説明を始めた。その説明を聞いていくうちにアヤウラの顔色が徐々に変わっていく。

「・・・・・・ちょっと待て、今の話を信じろと言うのか?」
「はい、高槻主任はシェイド研究において、遂にシェイド強化の成功率を実用レベルに引き上げる事に成功しました。また、シェイドパイロットの反応速度と耐G能力を生かす事の出来る新型MSの開発にも着手しております」
「とても信じられん。シェイドの研究が再開されてまだ一年だぞ。成功率が劇的に改善された第3世代とて数百分の一という話だったのに、僅か数ヶ月でもう成功率が50%を超えたとは」
「その代償と言いますか、能力は従来のような超人というレベルではありません」
「それでも凄い。一般兵を簡単にNT並みの反応速度に引き上げられるのだろう」

 これは驚異的な技術だ。強化人間の研究もまだどうなるか分からないというこの状況下で、これだけの技術を完成させるとは。
 だが、この後の技師の話で、アヤウラは表情を曇らせた。

「実際私も驚いています。何時の間に高槻主任はこれだけの技術を完成させたのか」
「それは、どういう意味かね?」
「いえ、私はこの研究にはそれほど関与していないのです。これは高槻主任と直属のチームで行われていた研究でして」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 部署が違えば研究内容を知らない可能性は確かにあるが、この異常な開発速度を考えるとどうにも腑に落ちない。秘密裏の研究となれば開発速度が上がるわけがないのだ。それなのに・・・・・・・・・・。

 技師が退室した後も暫く考えこんでいたアヤウラは、どうにも納得がいかない物を抱えている自分に苛立っていた。前から感じていた妙な存在感というか、高槻、というよりも、シェイド関係の裏にはなにかがあるように思えてならないのだ。

「・・・・・・・・・なにも出てこんかもしれんが、調べる価値はあるな」

 アヤウラは端末を操作すると、自分直属の特殊部隊、龍に一つの指示を出した。

 

 フォスターUであれこれ騒動が起こっている頃、地球圏でも小さな動きが起こっていた。地球連邦の首都であるダカールで二人の人間が会っていたのだ。一人は連邦軍少将、ジャミトフ・ハイマン。もう一人は来栖川グループの若き総帥、来栖川芹香。二人は来栖川家の所有する邸宅である取り決めを行っていたのだ。

「では、次期主力MS開発計画に、来栖川の助力を確約していただけるのですな?」
「・・・・・・(コク)・・・」
「その通りです、とおっしゃっています」

 芹香の声は非常に聞き取りにくい。その為傍らに立つ執事、セバスチャンこと長瀬源三郎が通訳している。
 ジャミトフも最初は戸惑ったものだが、今では慣れてしまったのか、それについてはとくにどうとも言わない。

「ただし、資金提供の見返りとして」
「分かっています。連邦軍から技術提供をしますよ。これで来栖川もMSの開発能力を得る事になりますな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「今までアナハイムやゴータが半ば独占していたMS開発能力を、ようやく我々も得る事ができて、嬉しく思います。とおしゃっています」

 ジャミトフはそれに苦笑を持って答えた。実際のところ、この時期のMS関連技術は連邦が厳しく管理しており、外部へ一切流出していなかったのである。とくにニュータイプ関連の技術はアナハイムですら入手できずにいたくらいだ。この時期にMS開発能力を有する民間企業は、ジオニックを吸収合併したアナハイムと、MIPとツィマッドから技術者を多数招き入れたゴータの二つだけだったのである。
 世界でも屈指の企業であり、一年戦争前には地球圏の経済を支配したファイブ・シスターズの最後の生き残りである来栖川家には、これらの成り上がりの企業に遅れをとっているという事態に我慢ならないでいたのだ。
 だが、今からMS市場に参入しようとしても、連邦とのパイプの大半はアナハイムが押さえている。ゴータは水瀬秋子という有力な支援者を得る事でMS市場に参入したが、来栖川にはそれが無かった。彼らが戦前から付き合いがあった軍高官や政府高官の多くは地位を失ったり、影響力を失っているからだ。その為、今までは細々と宇宙艦艇の建造などで軍需産業としての繋がりを維持してきたのだが、彼らは新たな市場を得るために頼れるパートナーを求めていたのである。
 その来栖川のラブコールに答えたのが、有力な後ろ盾と、経済的な支えを必要としていたジャミトフであり、ティターンズであった。来栖川はティターンズの為に資金と戦力を提供し、ティターンズは来栖川に技術提供を行うという取引を行っていたのだ。
 ジャミトフは海岸に向けていた視線を、芹香の何処かぼんやりとした顔に向けた。

「しかし、まさか綾香嬢を遠征艦隊に同行させるとは、思い切った事をなされましたな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「綾香様が望んだ事だそうです」
「だが、遠征艦隊に参加させるという事は、戦死する危険性が高いですぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「綾香様は、必ず藤田様が連れ帰ってくれるとおっしゃっております」

 藤田という名を聞いて、ジャミトフの表情に初めて影が差した。僅かに変わった表情に気付いたセバスチャンの顔に警戒色が浮かぶ。

「・・・・・・藤田、ですか。あの男をそこまで信頼できますかな?」
「・・・・・・・・・・・?」
「ジャミトフ将軍は、藤田様をご存知で?」
「・・・・・・昔の話ですよ」

 ジャミトフは不機嫌そうな顔で小さく答えた。


 来栖川邸を辞したジャミトフは、帰りの私用車の中で表情を歪めていた。

「これで、先手を打てるな」

 ジャミトフの呟きに、同席していた高級将校が賛意を示した。

「はい、リビック長官も水瀬提督も今は地球と火星の中間宙域です。仮に気付いたとしても、さすがにどうする事も出来ないでしょう」
「そして、帰ってきた時にはさしあたっての計画は動き出した後というわけだ」

 ジャミトフの機嫌が良いのも無理は無い。来栖川との協力態勢を築く事で、彼はティターンズの地上拠点とも言えるキリマンジャロ基地を拡張すると共に、影響下にある幾つかのNT研究所に来るべき戦いに備えて研究と、試作機の開発を命じる事が可能となる。

「とりあえず、グリーン・ノアで進めていた新型ガンダム開発計画と、オーガスタの制空用MA、ムラサメの強化人間計画は進めておりますが」
「うむ、とりあえずはそれで良い。アーカット准将はキリマンジャロとマドラスの拠点化を進めてくれたまえ。私は連邦軍全体を押さえる準備に入る」
「はあ、それは構いませんが、もうひとつ気になる情報があるのです」

 ハムリン・アーカット准将の言いたい事を察してか、ジャミトフは彼の言葉を遮った。

「分かっている。最近になって連邦軍の一部に奇妙な動きがあるというのだろう?」
「はい、その大半が小規模な動きで、一つ一つは気にする程でもないのですが、全てを合わせればそれなりの規模となります」
「・・・・・・ふん、それで、背後には誰がいるのだ。それとも小物が個々に暴れてるだけか?」

 面白い話ではないが、今自分がやっているような強引な手法を取ればこのような反発は予想されたものである。鬱陶しくはあるが、驚くには値しないだろう。そして、アーカットの答えは想像通りであっただけに忌々しかった。

「いえ、一見個々に動いている様ですが、何者かが裏で糸を引いているのは間違いありません」
「その根拠は?」
「MSや戦闘機が姿を消すだけならまだしも、戦艦までが姿を消しております。また、暗礁宙域のいくつかでわが軍の最新型装備を装備した海賊に遭遇したという報告もいくつか来ておりますし」
「最新型装備だと?」
「はい、ジムUやダガーフィッシュ、ガルバルディβといったMSに、まだ量産が始まったばかりのボウワ社製BR−S―85ビームライフルやミノフスキー粒子対応型ミサイル、それにサラミスの母艦改装型の姿も確認されております」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「これだけの装備、海賊や個人のレベルで準備できるとは思えません。軍高官の横流しがあったと考える方が自然です」
「たしかにな、MSばかりか、改装が始まったばかりの戦艦までとは」

 ジャミトフは唸った。これだけの装備を横流しできるとなると、よほど地位が高い人物か、組織力に優れた人物だと言う事だ。しかもこの装備を維持できるだけの資金力を持っていると言う事になる。だが、はたしてそんな奴がいるのか。
 ジャミトフはしばしそれが可能と思われる人物を頭の中でリストアップしてみた。

『水瀬・・・・・・リビック・・・・・・コーウェン・・・・・・という所か』

 だが、この3人がテロ紛いの行為に走るとは思えない。ハンフリー・リビックとジョン・コーウェンは連邦軍の宿将だし、水瀬秋子はテロを嫌悪している。あの3人が戦うなら政治的にせよ、軍事的にせよ、もっと堂々と来るはずだ。なら、いったい誰が・・・・・・。

「ふん、いずれ自分の方から正体を明かすか」
「はあ?」
「いや、何でもない、気にせんでくれ」

 自分の考えに失笑を浮かべ、ジャミトフはこの会話を打ち切った。そうだ、誰が相手だろうと関係は無い。立ちはだかる全ては蹴散らして行くだけの事だ。

 

 ハムリン・アーカットが問題視している奇妙な動きは、追って行くとその全てがある組織へと集約して行く事が分かるだろう。いや、考えるまでも無い。地球圏でMS開発能力を有しているのは連邦軍とジオン共和国軍を除けば、二つしかないのだから。
 アナハイム、一年戦争後における最大の軍需産業に成長した大手企業で、MS開発能力さえ有している。そのアナハイムの工場の一つ、グラナダ工場のビルに、二人の男が顔を合わせていた。
 一人はメラニー・ヒュー・カーバイン。アナハイムの会長にして、ティターンズをはじめとする過激な地球至上主義者に反感を持っており、反連邦勢力に密かな協力を行っている男である。
 もう一人は連邦軍の軍服を着ている。その襟には大佐の襟章が付いている事から、彼が連邦軍大佐である事が分かる。彼はブレックス・フォーラ大佐。連邦宇宙軍で艦隊を率いていた男である。先のファマスとの唯一の地球圏での戦い、外洋系艦隊司令部を巡る戦いで二個戦隊を率いていた人物である。今は月面方面艦隊に所属し、数少ない地球圏の護りを行っている。
 ブレックスはメラニーに頭を下げ、謝辞を口にした。

「この度のメラニー会長の協力には、真に感謝の言葉もありません」
「なに、我々としても実戦データを提供してもらっています。お互い様ですよ」
「ですが、宇宙巡洋艦にMSまで提供していただけるとは、正直思っておりませんでしたよ」

 そう、暗礁宙域で出没している謎の連邦部隊は、実はアナハイムで製造された兵器だったのである。グラナダにある建艦ドックではブレックスを中心として進められている反地球連邦政府組織、通称エゥーゴの為にアナハイムが自費を投じて多数の戦艦、巡洋艦、駆逐艦を建造しているのである。その多くは連邦軍からの依頼で建造しているものの設計を流用したもので、いわば連邦軍の装備をそのまま使用しているわけだが、エゥーゴ独自の新世代艦の設計を会わせて進められていた。
 そのほかにも新世代のMSや各種補助兵器の開発もあわせて進められている。その中でも特に有力視されているのが三つの新型MS開発計画で、γプラン、δプラン、εプランと呼ばれている。これらが完成すれば、MSの性能面では絶対的な優位に立てることは間違い無い。
 この時、エゥーゴもアナハイムもティターンズのガンダム開発計画を掴んでいなかったため、そのような予想を立てていたのだ。もっとも、たとえ掴んでいたとしても何ができるというわけでもなかっただろう。今の時期に蜂起したりすれば、ファマスを叩き潰した連邦軍主力艦隊を相手にする事になる。そうなったら勝負とかそういう話では無くなる。

「・・・・・・3年ですな」
「は?」
「エゥーゴが本格的な活動を始められる準備を整えるのに、最低でも3年かかるという事ですよ、大佐」
「3年ですか」
「はい、我々は装備を整えます。彼方は少しでも味方を増やすのが仕事です、分かっておるでしょうな」
「ええ、やらなければ、スペースノイドに未来は無い」

 ブレックスは手元にあるファイルを眺めた。そこには新たにサラミス2隻とMS14機が納入されると記されている。パイロットの育成が問題点と言えるが、幸いエゥーゴには連邦に属さず、野に下っていた元ジオンパイロットを多数スカウトしており、エース級も幾人か在籍している。

 ブレックスは窓の外に目を向けた。そこではMSパイロットの訓練が密かに行われている。名目上はMSのテストだが、乗っているのはテストパイロットではなく、基礎訓練中の志願兵達だ。

「彼は、どうですか?」
「ふふふふ、良くやっとりますよ。さすがは元ジオン屈指のエースパイロット」

 二人の視線の先では、六機のジムUの先頭に立って高速機動を繰り返している真紅のジムカスタムの姿があった。ノーマルのジムカスタムなのだが、その機動性はパイロットの技量ゆえか、二人が見たどんなジムカスタムよりも速いように見える。

「やりますな」
「ええ、苦労して彼を探したかいがあったというものですよ」

 二人の前を通過して行ったジムカスタムの肘には、ユニコーンのマーキングが施されていた。

 

 5月21日、フォスターUから12隻の艦隊が出向して行った。ガトーから進言された策が受け入れられ、フォスターUの最精鋭部隊を集めた遊撃部隊が編成され、出撃して行ったのである。特別に編成されたこの部隊の指揮官は斉藤大佐。戦闘隊長には川名みさき大佐がついている。指揮下には歴戦の艦艇であるショウのアリシューザ、みさきのエターナル、斉藤のリシュリュー、クルーガーのアサルム、啓介のエアー、などがあり、さらに3隻のムサイ後期型と4隻のコロンブルが同行する。
 これらに搭載されているMSは大半がシュツーカとガルバルディβであり、少数だがブレッタ、ジャギュアーの姿もある。また、クラインのヴァルヴァロと、ビグロUで再建されたMA部隊もある。クルーガーのシェイド部隊なども加わっており、単純に考えれば2倍の敵を相手取っても勝てると断言できる戦力であった。

 リシュリューの艦橋から離れて行くフォスターUを見やり、艦橋の中に視線を戻した。そこにはフォスターT会戦から今まで肩を並べて戦ってきた司令官や艦長が顔をそろえている。気心の知れた仲間であり、最も頼りになる戦友であった。
 斉藤は全員の顔を見渡すと、作戦図を指差した。

「我々の仕事は今更言うまでも無いが、連邦戦力を少しでも削る事だ。その為ならどんな大胆な手でも、どんなせこい手でも使う」
「せこいって、斉藤、そんな正直に言わんでも・・・・・・」

 友人の啓介が苦笑を浮かべている。他の者も困った顔をしたり、苦笑を浮かべている。だが、斉藤は真剣だった。

「笑うな橘、私は真剣だ!」
「ああ、分かってるって。それで、具体的にはどうするんだ?」

 苦笑をまだ顔に張りつけながらも啓介は先を促した。

「あ、ああ、とにかく我々は連邦軍と正面切って戦う事は出来ない。かといって補給部隊の襲撃も難しい。我々は潜宙艦ではないのだ。下手にフォスターTの背後に回れば、逆に退路を絶たれて包囲殲滅されてしまうだろう」
「そうだね、連邦がその気になったら100隻くらいの戦力を出してくるかもしれないからね」

 みさきのあっさりとした物言いに、その場に居る全員がやれやれと肩を竦めた。ここにいる艦長も司令官も、今更このくらいの事で目を剥いたりはしないが、これがまだ本格的に戦っていない連中が聞いたら絶望に青褪めるか、敗北主義者とみさきを罵る事だろう。
 斉藤が小さく咳払いして話を元に戻した。

「まあ、そういうわけだ。よって我々が狙うのは連邦の哨戒外縁部をパトロールしている艦隊だ。パトロール艦隊だからおそらくは1部隊で2〜3隻くらいだろう。これを各個撃破し、それなりの損害を与えた後にフォスターUに撤退する。引際を誤るなよ。こちらが損害を出しては意味が無くなるからな」

 斉藤の言葉に全員が頷いた。こちらが損害に見合う戦果を上げるには、連邦に自軍の三倍以上の損害を与える必要がある。だが、そんな事が実際に可能かと問われれば不可能だと答えるしかない。今までファマスは常に連邦に自軍を上回る損害を与えつづけてきたが、戦術的な勝利を重ねて行っても結局は戦略的な敗北へと向っていたのである。とてもではないがキルレシオ1対3などという数字は達成できるものではない。
 みんなが真面目な顔をしている中で、ショウが最大の問題を口にした。

「作戦は分かったんだが、もしあいつ等が出て来たらどうする?」
「・・・・・・カノン隊か」
「ああ、あいつ等がもし哨戒部隊に加わっていて、そいつ等と戦う羽目にでもなったら、いくらこっちのが数が多いといっても無傷で済むとはおもえん」
「確かにな」

 クルーガーが頷いた。彼はシェイド部隊を擁しているが、それを使ってもカノン隊に対して有利とは言い切れないのだ。カノン隊には、シェイド部隊と戦うことの出来る精鋭部隊、サイレンがあるのだ。もしこれと戦うような事があれば、いや、カノン隊の誇る4個MS大隊のどれか一つでも出てくれば、負けるとは言わないながらも、損害は計り知れないものとなるに違いない。
 だが・・・・・・・・・

「じゃあ、行くの辞める?」

 みさきの一言に、全員がみさきを見た。そして顔を見合わせ、困った顔で頭を掻いたり首を左右に振ったりしている。

「そうもいかんだろ」
「ああ、やるしかないのさ、俺達はな」
「じゃあ迷ってても仕方ないね」

 みさきが斉藤を見た。斉藤もそれに頷き、大きな声で宣言した。

「これより、我々は連邦軍に占領されたフォスターTへと向う。各員の奮闘を期待する!!」
「「「「はっ!」」」」

 斉藤に全員が敬礼した。
 こうして、規模こそ小さいながらも、後にファマス戦争中でも光彩を放つ戦いが始まったのである。



人物紹介

ハムリン・アーカット  男性 准将 40代半ば
 連邦軍准将で、後にティターンズ地上軍を率いて戦う将軍。ジャミトフが最も信頼する将軍の一人で、ティターンズの勢力拡大に少なからぬ貢献をしている。連邦宇宙軍主力がいないこの時期に、ティターンズの影響力を少しでも拡大しようと暗躍を繰り返し、エゥーゴにその命を狙われる事も度々起こっている。

来栖川芹香  女性 民間人 20歳
 来栖川グループ総帥の若干20歳の女性。極端に無口、といより声が小さいため、彼女とコミュニケーションを取るのは容易ではない。
 これで経営者としての感覚は優れており、グループ総帥としては十分な力量を持っている。アナハイムに対抗する為にティターンズと手を組んだ事といい、先見の目があると言えよう。
 後に藤田博之の進言を取り入れ、企業私設部隊のリーフを単なる警備部隊から、企業軍へと昇格させている。

長瀬源四郎  男性 民間人 50代
 来栖川家筆頭執事で、芹香の護衛も兼ねている。その実力は凄まじく、軍の衛兵を数人同時に相手取っても対処できるほど。まさに最強の執事である。通称セバスチャンで、芹香や綾香にはセバスと呼ばれている。
 実は執事でありながらもさまざまな方面に深い知識を持っており、芹香の参謀的な役割を勤めてもいる。

メラニー・ヒュー・カーバイン  男性 民間人 50代
 アナハイム・グループの会長で、したたかな商売人。多くの人が彼を死の商人と呼んで忌み嫌っており、彼自身もその呼び名をむしろ楽しんでいる。連邦の地球史上主義的な動きに強い反感を持っており、エゥーゴに荷担している。表向きはティターンズに歩み寄っているものの、裏ではエゥーゴに協力するというダブル・スタンダードを実践しているが、心情的にはエゥーゴに共感しているらしく、商売の域を超えた協力を行っている。

ブレックス・フォーラ  男性 大佐 40代
 連邦宇宙軍大佐で、エゥーゴの中心人物。もともと政治家で、連邦議員だった事もある。軍人になってからもその頃の人脈を生かして政治的な動きをしており、エゥーゴを密かに結成できたのも彼の功績である。
 連邦軍の中では良識ある人物だったが、ティターンズの勢力拡大をみて危機感を強め、エゥーゴを結成するに至った彼の心境の変化は、この時期のスペースノイド出身の軍人にはそう珍しくは無い。だが、彼の未来への展望は、予想外の出来事で裏切られてしまう。




後書き
ジム改 今回は伏線張りまくりだあ!
祐一  いいのか、エゥーゴもう出して?
ジム改 いいのだ、エゥーゴはティターンズに少し遅れて結成された組織だからな。
祐一  しかし、あいつ等がこの要塞に攻めてくるのか。
ジム改 君の出番はあるのかねえ。
祐一  おい!?
ジム改 また北川ばっかりだったりして。
祐一  おい!!?
ジム改 いや、名雪や香里かも。
祐一  せっかくの新型機を腐らせる気か!
ジム改 気にするな。
祐一  この腐れ外道が!


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