第48章  最後の休息


 フォスターU陥落後、最も忙しくなるのは裏方と呼ばれる後方支援部隊や指揮官たちである。しかもそれは階級が上がるほどに急勾配になっていくのだ。
 秋子は自分の受けた艦隊の被害を纏め、損傷艦やMS、戦闘機の修理と補充、負傷者の後送や欠員の補充、戦闘物資の補充、次の戦闘に向けての再訓練などやる事が山積している。そんな激務の間に秋子は地球から届けられる情報を自分直属の情報将校に分析させた結果の報告を受けていた。

「・・・・・・そうですか、コロニー再建計画は順調に進み、サイド5の再建に続いてサイド1、サイド2の再建も始まりましたか」
「かなりの予算がそちらに振り向けられているようです。地球圏のジオン残党が大幅に弱体化したことで予算の振り分けが変更されたそうで」
「それは良かったです」

 マイベックの報告を聞いた秋子はホッとした。どうやら地球圏は安定しているらしい。だが、マイベックの話はまだ終わっていなかった。

「ところで提督、実はもう1つ報告があります」
「なんですか?」

 秋子は不思議そうにデスクから顔を上げた。

「・・・・・・記録には残さないで欲しいのですが、よろしいですか?」
「私の胸の内だけに止めろという事ですか。穏やかではありませんね」

 秋子は姿勢を正した。マイベックの顔には何時に無く緊張が漂っている。

「実は、バイエルライン少佐経由での情報なのですが、ティターンズが地球で活発に動いているそうです」
「ティターンズが動くぐらいがどうだというのです。今更という気がしますが?」
「それが、その、これをご覧下さい」

 マイベックが書類入れから何枚かの書類と写真を取り出し、机の上に並べて行く。それを確認した秋子は僅かに顔色を変えた。

「サイド3から密閉型コロニーを2基もサイド7に移送して新しい軍事拠点を建設する、ですって。それに地球圏でのこの交戦記録の多さはなんですか。地球残留の部隊の中に行方をくらました艦やMSがあるというのはどういう事です!?」

 秋子は書類の一枚に手を叩きつけてマイベックを睨むような目で見た。マイベックは秋子の苛立ちをまともに向けられて少しうろたえていたが、すぐに落ち着きを取り戻すと口を開く。

「それだけではありません。写真をご覧頂けますか」
「写真、ですか」

 秋子は少し気を落ちつけて写真に視線を落とした。それは一見すると暗礁宙域や月面都市を写したものに見える。

「この写真がどうしたというのです?」
「はい、ここの辺りに注目してみてください」

 マイベックがそれぞれの写真の一点を指差した。その指し示したところには小さいが確かに交戦と思われる光があったり、編隊飛行をするMSの姿、宇宙港から出航していく巡洋艦の姿だ。

「これは?」
「これが拡大したものです」

 新たに差し出した写真に視線を向けた秋子は今度こそ顔を強張らせた。そこにはジムクウェルと戦うジムUやジム・FBの姿があったり、アナハイムのグラナダ工廠から出航していくサラミス改MS母艦型の姿だったりしたのだ。

「これは?」
「ティターンズとアンノウンとの暗礁宙域での戦闘や、軍の発注していない巡洋艦の写真です」
「アンノウンということは、ゲリラがジムUやジム・FBを装備してるというんですか。それにアナハイムが独自に軍艦を建造していると?」
「はい、それでここからが問題なのですが、どうも地球圏全域で反連邦、というより、反ティターンズを目的としたゲリラが生まれている様なのです。スペースノイドの中に広まっている反連邦の気運の急速な高まりはありますが、こちらはあくまで民主的な手続きによる合法的な活動に終始しています。先の一年戦争の記憶はこれらの運動家たちの間にも影響を及ぼしているらしく、彼らは武装蜂起という考えを放棄している様なのです」
「つまり、スペースノイド内の独立自治運動とは異なる、武装勢力が生まれているというのですね」
「はい、そしてこれの最大の問題は、この武装勢力の背後には地球圏各地の宇宙移民擁護を標榜する資産家や企業があるということです。まだはっきり何処の誰がとは言えないそうですが、少なくともアナハイムのメラニー・ヒュー・カーバインは確実だろうと」

 その話を聞いて秋子は考えこんだ。メラニー・ヒュー・カーバインのことは秋子も知っている。アナハイム・グループの会長で反連邦思想を持っている人物だ。連邦を潰そうとまでは考えていないだろうが、秋子の知る限りではティターンズの主張する徹底したスペースノイドの弾圧を黙って受け入れることができるほど温和でも妥協的でもない。

「ですが、情報部はこの情報をどうして私に送ってきたのです。機動艦隊を使ってアナハイムを潰せとでも言うのですか?」
「いえ、情報部は反地球連邦勢力に武器を供給している事を理由にアナハイムをどうこうしようとは考えていない様です。何を考えての事かは分かりませんが、バイエルライン少佐は情報部は反地球連邦活動よりもティターンズの著しい権限の拡大をこそ危惧しているそうです」
「ティターンズのほうを警戒してるのですか?」

 秋子は驚きを見せた。連邦軍内部にはさまざまな組織いるが、その多くはティターンズに対して好意的、あるいは協力的だ。そんな中で情報部がティターンズに敵対的であったとは。

「情報部は我々の味方という訳ではないようです。情報部の考えは地球連邦を害しようとする者を排除するというもので、ティターンズも武装勢力も連邦にとって危険分子であるという点で同一だとしているそうで」
「なんとも、分かりやすい行動理念ですね。まあ間違っているとは思いませんが」
「水瀬提督に通じる所がありますね。この割り切り方は」
「・・・・・・それで、情報部は何を考えて私にこの話を?」

 秋子はマイベックの言葉にはあえてそれ以上の話をする事を避けて見せた。マイベックも分かっているらしくそれ以上は口にしない。

「情報部は、というよりはFIST(連邦情報部特殊任務班)は水瀬提督にティターンズに対抗するだけの派閥を作って欲しいと考えているようです。極右とも言うべきティターンズの対抗勢力が存在しないという最悪の事態を避けたいのでしょう」
「それならば私よりもリビック提督に持ちかけるべきでしょう。私は一介の少将に過ぎませんよ」
「リビック提督はあの通り頑固一徹の御仁ですから、政治的な動きには関わりたくは無いでしょう。その点提督ならば政界や財界に知己も多く、大きな勢力が生み出せると見こんだのでしょう」

 実はマイベックはこの話に乗り気であった。彼は秋子は中央で栄達し、宇宙軍総司令官や統合作戦本部長といった地位について欲しいと思っていたから、この話はその第一歩となりうるのだ。
 だが、秋子は気乗りしないらしく、困った表情で考えこんでいた。

「派閥抗争ですか、できれば縁遠い世界での出来事で済ませたいんですけどねえ」
「すでに提督はリビック提督を中心とする宇宙軍穏健派の重鎮と見なされていますから、今更それでは済まないと思いますが?」
「分かっていますよ、そんな事は」

 不承不承ながらも秋子は頷いた。今更マイベックに言われるまでも無くそれくらいのことは分かっているのだ。自分の意思など無視して回りが自分を担ぎ上げてしまう事は確実であり、たとえ担ぎ上げられなくてもティターンズが自分を放ってはおかないだろう。
 だが、今はまだ一介の艦隊司令官だ。もう暫くはこの椅子に座っていたいというのが秋子の本心だった。

「・・・・・・話は大体伺いました。他にはありませんか?」
「はい、報告は以上です」
「そうですか、ご苦労様でした」

 秋子は背もたれにもたれ掛かると天井に視線をさ迷わせた。思考の淵に沈んでしまった秋子を邪魔してはいけないのでマイベックは敬礼すると執務室を後にした。
 マイベックが退室したあとも秋子は未来へと思いをはせつづけていた。そう遠くない未来に確実に訪れるであろうティターンズとの対立。その時に備えて確固たる地盤を築いておく必要があるかもしれない。そして秋子は自分の次なる仕事を思い浮かべ、メモにそっと浮かんだ考えを書き記した。

『サイド5駐留軍司令官 兼 艦隊司令官』

 秋子が将来についての考えを外部に見せたのはこれが初めてのことであった。

 

 戦いが終わり、フォスターUは連邦軍の要塞として機能していた。宇宙港には多数の護衛艦にがっちりと守られた輸送船団が入航しては物資を降ろしてまた地球圏へと戻って行く。ドックには中破、大破した艦が損傷箇所の修理を受け、ドック艦では健在艦の整備や小破した艦の補修が行なわれている。
 もっぱら忙しいのは後方部隊であり、前線で戦った兵士達は当然の権利である休暇を謳歌していた。そのすごし方はさまざまだったが、中には本当に個性的なすごし方をしている者もいる。
 そう、もはや名物と化したとも言える機動艦隊内での北川争奪戦である。
 だが、今日は少しいつもと様子が違っていた。なにやら格納庫の物陰に身を隠す様にしてじっと香里のRガンダムの整備を手伝っている北川を見ている栞と天野。そして拉致られてきたと思われる真琴と舞とあゆと住井。

「な、何故ですか、どうしてお姉ちゃんの機体を北川さんが整備してるんです?」
「お、おのれ〜、香里さん、さりげなく美味しい所だけ持っていきましたね」

 驚愕と悔しさに彩られている栞と天野。その背後では両者の後援者(強制連行)が肩を落としながら疲れた顔を向け合っている。

「いやあ、おたくらも大変だねえ」
「あうう〜、美汐〜、今日くらいのんびりすれば良いのに〜」
「・・・・・・それは期待しない方が良い」
「ボクもう疲れたよ〜」

 もはやグッタリを通り越してただただ無力感に打ちのめされている4人なのだが、それでも律儀に2人に付き合っている辺り、御人好しというべきなのだろう。

 さてさて、そんな2人をヤキモキさせている原因である北川君といえば、判定中破された香里のRガンダムの最終点検を手伝っていたのである。

「ふむ、右足首駆動部以上無し、と。うちの整備班は優秀だねえ」

 なにやら持っているボードにチェックを入れながら北川は手際よく最終点検を続けていく。その作業が一段落した所で香里がコクピットから出てきた。

「OK、北川君。脚部駆動系はオールグリーンよ」
「おやっさんに感謝だな」
「あの小言の後じゃ素直に言う気にならないのよね〜」

 コクピットから降りてきた香里は本当に30分も続いた小言を思い出したのか、心底うんざりしたという顔をしている。北川はかける言葉が思い浮かばずに苦笑するしかなかった。

「まあ良いわ、少し休憩しましょ。飲み物くらい奢るわよ」
「美坂が奢るのか、珍しいな」
「手伝ってもらったんだもの、これくらいはね」

 子供っぽい笑顔を浮べながら香里は北川の肩を叩き、格納庫から出ていった。北川はさっきの香里の笑顔にポーとしていたが、気を取りなおすと慌てて香里の後を追って行った。


 2人が去った格納庫には幾人かの整備兵たちと荒れ狂う2つの魔女とその手下たちが残されていた。

「な、な、な、なんなんですかあのお姉ちゃんの良い笑顔は!?」
「美坂さん、まさかあんな笑顔ができるなんて。隠れた可愛らしさですか、手強いですね」
「ですがまだまだです、こうなったら新たな作戦を練り上げてお姉ちゃんの機先を!」
「こうしてはいられません、真琴、川澄さん、すぐに作戦会議です!」

 仲間を連れて自分たちの部屋へと去っていく2人。それを高みから見下ろしていた祐一と名雪は顔を見合わせて苦笑していた。

「あいつら、飽きないというか、相変わらずというか」
「でも、香里も少しは自分に素直になったのかな。北川君に手伝いを頼むなんて」
「あの香里がねえ、どういう心境の変化なんだか?」
「まあ、親友の絶え間ない努力が実を結んだって所かな」
「名雪の入れ知恵か・・・・・・これでいよいよ姉妹で骨肉の争だな。さてどっちが勝つのかね」
「ゆぅいちぃぃ〜〜〜!」
「うおっ、どうした名雪、そんな怖い顔して!?」
「幾らなんでも不謹慎だよ―!」

 名雪の必殺技「祐一躾パンチ」が祐一に炸裂した。

 

 シアンはようやく事務から解放され、格納庫で石橋らと機体の状態を確認しあっていた。

「それでは、MSの整備にはまだ7日はかかると言うんですか?」
「ああ、全くうちの連中は使い方が荒っぽくて困るよ。駆動系の磨耗なんか泣きたくなるくらいだ。特にサイレンの機体はな」
「そ、それはすいません」

 石橋の露骨な嫌味にシアンは身を引きながら謝った。

「まあ良いがね。機体は直せばまた使えるが、パイロットはそうもいかんからな。その意味ではお前さんは正しいよ」

 石橋は苦笑を顔に貼り付けながらも謝罪は無用である事を身振りで伝えた。

「それで、新しく運ばれてきたジムUATはどうです?」
「ああ、ありゃ動く武器庫だな。基本性能はジムUと同等であの火力だ。かなり無茶苦茶なMSだよ。見る所が多いんでこっちとしては面倒だがね」
「秋子さんのアサルトガンダムの量産型だという話ですが?」
「間違ってはないな、コンセプトは似たようなもんだよ。あれが1個大隊も出ていったら相手は堪らんだろうな」

 北川がテストで運用した結果ではジムU5機分の攻撃力と言わしめたほどの化け物じみた火力である。これで更にオプション装備を付ける事が可能なのだからふざけたMSだ。ただし長距離火器を装備してはいないので支援機としては向かない機体である。

「それにまあ、ジムキャノンUモドキも入ってきたしなあ」
「モドキ?」
「ああ、なかなかアレな機体だぞ。通常のジムキャノンUはジム改から発展したジム改ベースのMSなんだが、こいつはジムUをベースにした機体なんだ。まあファミリー化して部品の共有化を考えたんだろうな」
「・・・・・・つまりジムキャノンUの廉価版か」
「性能が落ちてる訳じゃないから廉価版と馬鹿にしたもんでもないわな。流石にコクピットシステムはノーマルだがね。照準器やアビオニクスなんかはこっちのが新しいだけに上だぞ」
「ふむ、運用はこれまでのキャノンと一緒と考えて良いという事ですか」
「まあそうだな。こっちは北川の隊の火力中隊が訓練を頑張ってるよ」

 しかし、新型機を優先して回してくれるのはありがたいが、こう次から次に送られてくるとどうにも素直に喜べなくなる。

「むう、なんだかモルモット扱いされてる気がするな」
「技術部の連中にしてみればまあそういうつもりで送ってきてるんだろうな。ここに送ればとりあえず使えるようにしてくれると思ってるんだろう」
「それは教導団の仕事ですよ。俺達のやることじゃない」
「クリスタル・スノーなら教導団パイロットにも勝てるだろうに」
「それとこれとは別です。俺は給料分以上に働くつもりはないんですから」

 今でも十分過重労働だと愚痴るシアンを見ながら石橋は思った。こいつ、本当に頭の中が年寄り臭くなってるな。と。じつは天野とは別の意味でおじさん臭いと部下と上司に思われているシアンであった。

 

 食堂では郁未と佐祐理がどこかぎこちない笑いを浮べながらコーヒーを啜っていた。2人は久瀬達との面会を終えて帰って来たところなのだ。

「・・・・・・ねえ倉田大尉、やぱり久瀬大尉達って戦争が終わったら軍法会議にかけられるのかな?」
「何とも言えませんね。反乱の規模が大きすぎますから、軍法会議で裁かれるのは上層部だけだとは思います。斉藤大佐、いえ、連邦では中佐ですね。斉藤中佐は会議にかけられるでしょうけど、尉官にまで追求が及ぶかどうか」

 これだけの規模の反乱だ。参加した将兵全員を裁く事などできるはずもないし、兵や下士官は命令に従っただけだということで特に咎めは受けないだろう。士官も尉官などは左遷で済まされる可能性が高い。佐官以上は軍法会議に送られるだろうが、これは当然の事だろう。
 だが、久瀬は分からない。彼は反乱の首謀者である久瀬中将の息子であり、連邦に無視し得ない損害を与えつづけてきたリシュリュー隊のMS隊隊長だ。他の尉官が裁かれなくとも彼は裁かれるかもしれない。

「はぁ、私達、今まで何やってたんだろうなあ〜」
「なにがです?」
「わけの分からない内に強化されて、ジオンから脱走して、久瀬中将に匿われた事を恩に感じて戦って、それで行きついた先がこの現実ですよ。なんだかずっと負け続けてる気がして」

 郁未はハア〜と溜息をついたが、負け続けの人生というなら他にも該当者は結構多い気がする。
 佐祐理は郁未のぼやきに笑顔を引き攣らせながらコーヒーを口にした。ミルクも砂糖も入れていないので苦味が口の中に広がっていく。

「そういえば郁未さん、ちょっとお聞きしたい事があるんですけど」
「何、倉田大尉?」
「・・・・・・シェイド強化された人たちって、どうやって集められたんですか?」
「・・・・・・何でそんな事を聞くの?」

 郁未にとってはあまりしたい話ではない。少なくとも思い出としては最悪の部類に入るからだ。だが、佐祐理の瞳にはなにか切羽詰ったような色があった。

「お願いします、教えてください」
「・・・・・・訳ありって事ね・・・・・・私と晴香は事情があって、FARGOに潜入する為に実験体に潜りこんだせい。葉子さんは小さい頃からFARGOに関わってたみたい。詳しくは知らないわ」
「・・・・・・あの、攫われて実験体にされたという事はあるんでしょうか?」
「まあ、よくあったみたいよ。シアンさんも舞もその口だし、香里もそうね。結構な数がいるんじゃないかしら。シアンさんなんかお姉さんの結婚式の最中に爆弾テロがおこって、その時に攫われたそうだし」
「じゃ、じゃあ、病院で火事あったとして、その病院から子供が攫われたという可能性はあるんですね!?」

 いきなり身を乗り出して血相を変えて詰め寄ってきた佐祐理に郁未は引き気味になりながらもコクコクと頷いた。

「そ、そうね、そういうのもいたんじゃないかしら。私達より前にシェイド用に攫われた人ってほとんどが公式には死亡してたり行方不明扱いだから。まあ、そうなるように仕向けて集めたんでしょうけどね」

 それを聞かされた佐祐理はストンと椅子に腰をおろすと放心した様に表情を消してしまった。何というか、凄いショックを受けているらしい。何があったのか知らないが目の前でこうも立て続けに反応されては気にもなってしまう。

「あ、あの、何かあったの?」

 問いかけられた佐祐理はふっと我に返ると目に見えて慌てふためいていた。端から見てると滑稽だが今は笑ってる状況ではない。

「ねえ、もしかしてシェイドの中に知り合いでもいたの?」
「ふええええ、どうして分かったんですか!?」

 どうやら脳みそが活動を停止しているらしい。

「あのね、そんな反応されたらどんな馬鹿だって気づくわよ・・・・・・多分」

 もしかしたら気付かないかもしれない馬鹿が幾人かこの艦隊にいるのを思い出した郁未は少し弱気な発言をしてしまった。
 佐祐理はまだあたふたしていたが、落ちつくと小さく頷いて郁未の言葉を肯定して見せた。

「はい、知り合いというか、その・・・・・・」
「別に言い難いなら無理には聞かないわよ」
「いえ、そういうわけではないんです・・・・・・・その、死んだと思ってた弟の声が、敵のヴァルキューレから聞こえてしまいまして」

 何処が言い難い話ではないのだろうかと郁未は思った。2人の間になんとも言えない重苦しい沈黙が漂い、郁未は何を言ったら良いのか分からなくなってしまっている。
 佐祐理は郁未のそんな内心など気にしていないかのように言葉を続けていた。

「一弥って言うんですが、前にフォスターTに奇襲を受けたときに交戦したヴァルキューレから、確かに聞き覚えのある声がしたんですよ。まだ声変わりは終わってないみたいです」
「・・・・・・その、そこまで知ってるのに、戦うの?」
「弟と戦うなんて馬鹿げてると思います。でも、逃げる事もできませんし、カノンにも愛着がありますから」
「家族愛と友情の板挟みか、辛いわね」

 郁未はあえてそれ以上の言及を避けた。肉親が戦場で相対するというのは極めて珍しい事例だが過去に前例がなかったというわけでもない。その弟とやらと再開できるかどうかはほとんど運だろう。その弟が生き残って上手く捕虜にでもなれば話す機会を得ることもできるのだが。
 だが、と郁未は思う。それがどんな形であれ、再開できないよりは良いのではないのかと。郁未は弟の生存を知る事のできた佐祐理の複雑な心境を慮って口にはしなかったが、脳裡には死に別れてしまった母の顔が浮かんでいたのである。
 何やらどんよりと沈んでいる2人のいる食堂に底抜けに明るい笑い声が響き渡った。

「あはははははは、何よそれ、どこでそんな話掴んできたのよお?」
「んー、ちょこっとティターンズの軍用無線傍受したからさあ。暗号解読してみたんだよねえ」

 詩子と南だ。沙織はどうやらお仕事中らしく付いて来ていないらしい。さっきの笑い声は詩子の発したものだろう。
 入ってきた南はいきなりどんよりと暗い室内の空気に気付き、慌てて辺りを見まわして2人を発見した。事情は知らないがとんでもなく暗い話をしていたらしい。
 だが、状況を察することができないのか、はたまた気付いてるが気にしてないのか詩子が暢気に2人に声をかけたのである。

「あれ、どしたのそんな辛気臭い顔してさあ?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 いきなり周囲の空気がハイテンションなものに塗り替えられてしまい、佐祐理と郁未は咄嗟に切り替えることができず戸惑っていた。これが普通の人間の反応というものであろう。もちろんどこまでもマイウェイな詩子はそんな事は気にしない。

「ねね、実は南君が変な情報掴んできたんだ〜、一緒に聞こうよ。面白いよ」
「あ、えーと・・・・・・」
「じょ、情報、ねえ」
「そうそう、さあ話すべし、南!」
「なんでお前が仕切ってんだよ?」

 頭痛のする頭を押さえながら南はこのハイな時の佐祐理さえ上回るゴーイングマイウェイ女の口を何時か閉じさせてやると幾度目かの固い決意をしたのであった。

「周りには漏らすなよ。ばれたらさすがにまずいからな」

 そんな事を普段からしてるのかお前は、と言われそうだが、とりあえず佐祐理と郁未は頷いた。

「実はさ、ちょいと軍用無線の傍受をやってたらティターンズの軍用無線を掴まえちまったんだな。あそこは普通の連邦軍とは通信のやり方から暗号まで全部違うからちょっと興味持っちまって記録をとって解読してみたんだよ」
「・・・・・・解読って、どうやってですか?」
「そういうのって、暗号帳が無いと解読できないんじゃないの?」
「あっはっは、それがさあ、こいつなんでかティターンズの暗号帖のコピ―を持ってんのよね〜」

 あっけらかんと超軍機とも言うべき暗号帖の複製を入手している事をばらす詩子。佐祐理と郁未はビシッと音を立てて固まり、南は詩子の首を締め上げていた。

「だ、か、ら、どうしてお前はそうやばい事をぺらぺら喋るんだぁ!?」
「ぐ、ぐるじい・・・・・・」
「一遍死んでその馬鹿を直して来やがれ!」

 詩子を落した南はやれやれと首をほぐすと話を再開した。

「でだ、その暗号を解読してみた訳なんだが、さてさてこれが大問題な代物でねえ」
「大問題?」
「なによ、クーデター計画でも送られてきたとか?」
「んー、クーデター計画じゃあないんだけど、似たようなもんかなあ」

 南の投じたさりげない爆弾の効果が出るまで優に1分という時間を必要とした。話が飲み込めないでいた2人だったがなんとか頭が稼動を開始する。

「似たようなものって、穏やかじゃないですね?」
「そうだねえ、何しろ連邦政府内の人事に介入して議会内の穏健派議員を一掃しようってんだからな」

 再び投下された爆弾はまたしてもゆっくりと爆発する事になった。随分と間を置いて2人の口から悲鳴のような絶叫が飛び出した。

「「な、何よそれぇぇぇぇぇぇ!!?」」
「いやー、解読終わった時は俺もどうしようかと思ってさあ」

 はっはっはと笑っている南君。笑って良いところじゃないだろうと2人は思ったが、詩子といい、情報を扱う人間は皆こうなるものなのだろうか。

「そんな訳無いじゃん、私達が変わってるだけよ〜」
「・・・・・・い、何時の間に復活したんですか詩子さん。というか、どうして佐祐理の考えてる事が分かったんですか?」
「口に出してたよ、2人とも」

 祐一みたいなボケをしてしまったと悟った2人は最初のものとは違う重苦しい沈黙に包まれたのであった。

 4人で騒いでると今度はアムロやキョウ、クリスにバーニィが食堂に入ってきた。

「やっぱカノンの一番ありがたいところは食事が美味しい事よね〜」
「ああ、昔食ってたムサイの艦内食は不味くてなあ。こっちと較べたら雲泥の差があるよ」
「そうか、バーニィは昔はジオンのパイロットだったな」
「そうなのか?」

 どうやら食事に来たらしいが、先にいた4人に気付いてクリスが声をかけた。

「あれ、倉田大尉に天沢少尉じゃない。それに南少尉に柚木少尉・・・・・・よく分からない組み合わせね」
「なんだか微妙に刺を含んでないかな、クリスさん?」
「そんな事は無いと思うわ」
「・・・・・・より酷い事を言われた気がするんだけどな〜?」

 別に気にもしていないのだろうが、詩子はクリスと軽いジャブの応酬をしただけで南に注意を戻してしまった。

「じゃあ私はちょっと仕事があるからさ、また今度ね―!」

 最後までゴーイングマイウェイな詩子であった。
 残されたアムロ達は戸惑った顔を向け合った後、佐祐理達の方を見た。

「なにかあったんですか?」
「い、いえ、別にたいしたことは無かったですよ〜」
「そうそう、詩子と南君が馬鹿な話を聞かせてくれただけよ」
「あ、ああ、ちょっとした馬鹿話さ」

 露骨に妖しい態度だったが、4人はそれ以上追及することはなく各々の食べたい物を取りに行ってしまった。おかげでこの危険な話が外部に漏れる事は避けられ、南の手で無事に秋子の耳に入る事になるのである。

 

 それぞれがそれぞれに過ごしている僅かな休暇。次に先鋒となるのは第1連合艦隊なのだが、やや弱体化が進んでいる第1連合艦隊ではやや心許ないという事で第2連合艦隊から兵力の一部を回す事で不足分を補う事になっている。秋子は受け持分の戦力に割く艦艇を決定していたが、シアンは割くMSを未だに決めかねていたのだった。その理由は簡単で、サイレンから何人かと、クリスタル・スノー2個MS大隊を含む大部隊を割かなくてはいけないのだ。これだけの戦力を割いたら手持ちの戦力が著しく弱体化してしまう事になり、秋子やエイノーの無茶な要求に答える事が難しくなってしまう。
 だが、これは命令であってお願ではない。シアンは仕方なく佐祐理と北川の部隊を含む5個MS大隊を割く事をしぶしぶ承諾し、サイレンからは今や右腕と頼む七瀬を隊長に舞と中崎を付けて出すことにした。機動艦隊の保有する戦力の実に1/3に達する兵力であった。
 これをシアンに愚痴混じりに聞かされたアーセンは大笑いしていた。

「なるほどなあ、そりゃ災難じゃったな!」
「まったくだ、常に戦力のやりくりに苦労してるってのに、まるまる1/3も出せだなんてよくも気楽に言ってくれるよ。もし敵とぶつかり合ったらどうするつもりなんだ?」

 ぶつくさ言いながらグラスに注いだブランデーを一気に飲み干す。アーセンの持っている酒はなかなかに上等な物が揃っており、こうしてくすねに来るのがシアンの楽しみでもある。
 暫くグラスを傾けていたシアンとアーセンだったが、アーセンがようやくグラスを置いてシアンに問いかけた。

「それで、俺に何か聞きたいことがあってきたんだろう?」
「・・・・・・年の功だな、人の考えを読んだか」
「当たり前だ、お前とは生きてる時間が違うんだよ。しかし、年の功ね。それはお前の生まれ故郷の諺だったか。たしか、日本だったな」

 アーセンが思い出しながら喋る。シアンはやや鎮痛な顔になり、小さく頷いた。あまり思い出したくはないのだろう。

「それで、俺のザイファ、舞のセレスティア、あゆのセイレーンはどうなんだ?」
「使う分には問題ない。だが、まだ点検時間が欲しいところだな。あの3機はハンドメイド機だから整備性は最悪だからな」

 アーセンの言葉にシアンは渋面を作ったが、この問題では自分にはどうにも出来ないので素直に頷いた。

「分かった、そっちは任せる。後二つ聞きたいんだが、まず鹵獲したディバイナー改の残骸の方はどうだった?」
「・・・・・・正直に言うなら、わしが開発していた頃よりもかなり進んだ設計だな。ヴァルキューレというのがあれよりも良い機体だとしたら確実にリヴァークやイリーズよりも高性能だぞ」
「・・・・・・なるほどね。で、次の質問だが、アムロ達が戦ったみさきだが、あれがあいつの実力なのか?」
「じゃろうな、七瀬の言っていたスペックから考えるなら、追従性以外の全ての面でリヴァークを遥かに上回っておる。もともとみさきは肉体能力はともかく、パイロットとしての能力はずば抜けておった。お前さんだって同じ機体ではさすがに分が悪かろう」
「ああ、悔しいが同じ機体で殺りあったら多分負けるだろうな。俺が話にあった7人を同時に相手取ったらザイファに乗ったとしても負けるだろうし」

 肩を竦めたシアンにアーセンは咄嗟にかける言葉が浮かばず、顔を伏せた。

「・・・・・・すまんな」
「謝られても困るな。まあ、今度みさきが出てきたらまた俺が相手をするさ。あいつがリヴァークを使ってくれる限りは何とか勝てるだろ」

 シアンはリヴァークを使う限りはみさきに勝てると考えていた。みさきの最大の不幸は彼女の能力を発揮しきれる機体が現時点では存在していないという事だろう。リヴァークはもはや骨董品でシェイドMSとしては火力も機動性も運動性も致命的に不足しているが、みさきのために作られただけあってみさきの動かし方についていけるだけの反応速度と追従性を持っている。まさにこの点がリヴァークを未だに現役に止めている要因なのだ。
 恐らく次の戦いではみさきはリヴァークで来るだろうとシアンは考えていた。幾らタイラントが高性能でも、みさきは必ずリヴァークに乗ってくる。そうでなければ自分と決着をつけたとは言えないからだ。
 そして、シェイドとしての闘争心は最強の敵であるみさきとの決着を付けることを望んでもいたのだ。みさきを殺すのかと問われればそんな事はないとはっきりと答えられるのだが、はっきりとした決着を付けづに終わるのも嫌なのだ。
 その時、アーセンがシアンの気分に水を挿すような事を言った。

「シアン、もしかしたらみさきは出てこないかもしれん。いや、出られない体かもしれんのじゃ」
「・・・・・・どういう事だ?」
「みさきはシェイドとしては最強の個体じゃが、同時に最弱の個体でもある。みさきは直後に起こる未来を見る事ができるという極めて特殊な能力を持っておるんじゃが、これは正確には未来を予知しておる訳じゃないんじゃよ」
「違うのか!?」

 シアンは驚いた。過去にみさきにされた説明でもアーセン本人からもその様に説明されていたので、今までそうだと確信していたのだ。

「まあ、説明するのがめんどかったから今まで予知と言っていったがの。まあ予知といってもあながち間違っとらんしな。みさきのあの戦闘予知は戦闘にしか効果がないのは、みさきは予知ではなく予想しているからなんじゃよ」
「・・・・・・すまん、もう少し分かりやすく説明してくれないか?」
「つまりじゃな、敵の直後の動きをみさきは予知しているわけではなく、みさきの中にある膨大な戦闘データによって予想しておるからなんじゃよ。これは極めて正確な物での。みさきの反応速度はお前に遠く及ばんのに、結果としてお前より早く動いとる訳じゃ」
「戦闘データを使って予想している、だと?」

 シアンはその言葉を噛み締める様に呟き、しばし黙考した。みさきの中に膨大な戦闘データがあり、それを利用する事でみさきは未来を予想している。つまり、敵の行動を経験から予測し、最も取る確率が高いであろう行動を計算しているという事になる。これではまるでみさきの中にコンピューターがあるみたいじゃないか。

「ちょっと待ってくれ、人間にそんな計算能力があるわけがないだろう?」
「そう、普通の人間には無理じゃな。だが、みさきはそれが可能な様に強化されている。つまり」
「・・・・・・脳を弄った、という訳か」
「そいういうことじゃ。みさきが視力を失ったのも、シェイドとしては肉体能力が低いのも、超人化能力を持たないのもそれが理由じゃよ。その代わりに精神力はずば抜けて高いからの。シェイド能力をお前さんたちから見れば出鱈目なぐらいに使いまくっとるじゃろ」
「・・・・・・戦闘経験とは何だ、どうやってそんなものを頭に入れたんだ?」
「みさきの頭には補助脳とでも言うべきものが入っておる。これを入れたせいで視力を失ってしまった訳じゃな。視力を失ったのはわしとしても予想外じゃった。治療法を見つけようとしたんじゃが、全て無駄じゃった」
「その補助脳に戦闘データが入っていると?」
「そうじゃ、膨大な量じゃよ。当時に得る事ができたありとあらゆるデータをインストールしたそれは、戦闘経験のないみさきに脅威的な戦闘予測を可能としておる。もっとも、肉体の方はあの通りじゃから個人戦闘は素人同然じゃがな」

 幾ら完璧に近い未来予測ができても体がそれを生かし切れないという事らしい。反応速度は馬鹿みたいに高いが、結局拳銃さえまともに撃てないのがみさきなのだ。

「つまり、みさきは戦闘中ずっと力を使いつづけてる訳じゃな。おまけにみさきの身体強度はシェイドの基準ギリギリじゃ。お前さんでも勝てないと思わせるような戦闘で押していたというんなら、みさきの奴、後先考えずに力を解放しておったという事じゃな」
「じゃ、じゃあ、あいつは・・・・・・・」
「恐らく、肉体も精神も疲労困憊し、倒れておるじゃろうな。もし倒れてないとしてもMSに乗れるような状態ではないじゃろう」

 そこで言葉を切り、アーセンはブランデーをなみなみとグラスに満たすと一口でそれを飲み干した。

「もし出てきたとしたら、あいつは戦死よりも過労死する可能性が高い。もしくはロストするかじゃ」
「・・・・・・みさきはそれを知ってるのか?」
「体のことは知らんはずじゃが、自分の状態は分かっておるじゃろうなあ」

 アーセンは昔を懐かしむ様な顔になり、小さく思い出し笑いを浮べた。

「あの娘は可愛い顔してなかなかに頑固者じゃったからな、多分出てくるじゃろうなあ」
「ああ、出てくるさ、あいつは馬鹿だからな。最後まで自分よりも他人を考えちまう」
「責任感の強い娘じゃからのう。部下を戦地に送りこんで、戦える力が残っていながら出てこない、という選択はせんじゃろうな」

 アーセンは空になったブランデーの瓶を横にずらすと2本目の封を切って自分のグラスに注いだ。それを目の高さまで掲げ、何かを割り切るような少し大きな声でシアンに告げた。

「まあ、どうするかはお前に任せる。好きにするが良いさ。もしわしの手が必要になったら何時でも言ってくるがええ。できるならわしはもう一度みさきちゃんに会いたいがね」

 ぐいっとグラスをあおり、アーセンは琥珀色の液体を喉に流しこんだ。
 
最強のシェイドの決着がつけられようとしている。みさきが勝つのか、それともシアンが勝つのか、それは分からないが、そう先のことではないだろう。

 

 6月18日、フォスターU攻略戦から僅か2週間後の6月27日に第1連合艦隊が出発する事が正式に告示された。第2連合艦隊はその翌日の出撃がやはり決定され、火星まで2日の所で合流する事となっている。これがファマスとの最後の戦いとなることは確実であり、それだけに死に物狂いで抵抗をしてくるであろうが、ファマスにはすでに自分たちを食いとめられるだけの戦力を保持していない事は確実なので、将兵の間にはもはや勝ったという空気が流れていた。経験の浅い将兵が多いという事がその原因なのだが、これは由々しき事態であった。指揮官たちはともすれば緩みがちになる綱紀を引き締め、士気を保たなくてはならないのだが、これがなかなかの難事となりつつあった。
 全軍の士気を取るリビック大将はこの全軍に蔓延している空気に正直面白くない物を感じていたが、やった事といえば全軍に気を抜かない様に訓辞を出すくらいのことで、後はひたすら作戦の立案に費やしていたのだ。

 そして6月27日、遂に第1連合艦隊はフォスターUから出撃しようとしていた。戦力を立て直した艦隊は150隻を超える戦艦や巡洋艦を有し、200隻近い駆逐艦と300隻を超える輸送艦や特設MS母艦を伴っている。
 これに加わる事になっている機動艦隊の分艦隊司令官モースブラッカー准将に率いられる派遣艦隊に乗せられていく北川と佐祐理は宇宙港で友人たちとしばしの別れを惜しんでいた。
 祐一が北川と握手を交わし、にやりと笑ってみせる。

「死ぬなよ、香里が泣くぞ」
「なんでそこで美坂が出て来るんだよ?」
「別に天野でも栞でも良いがね。最近のお前と香里はなんだか良い雰囲気だったからさ」
「あ、相沢――!?」
「ほれほれ、もう時間だぞ、さっさと乗りこめ」

 ヒラヒラと手を振る祐一に北川は仕方なくどつく事を諦めた。

「くそっ、この決着は仕事が終わった後でゆっくりとつけてやる」
「おお、何時でも相手になるぞ」

 2人は腕をぶつけ合うと同時に離れた。北川は派遣艦隊の臨時旗艦となるマゼラン改級戦艦のコロラドに向かい、祐一はその背中を見送った。
 佐祐理は舞と一緒にコロラドに続くタラップを渡り、コロラドに入る前に一度振りかえって残る仲間達に手を振っていた。七瀬と中崎もそれに習っている。
 シアン達戦闘班幹部は宇宙港に並んで艦に乗りこんで行く仲間達を敬礼で送っていた。次の戦場は火星の軌道に浮かぶ巨大な小惑星基地フォボス、そして資源採掘と基地化が進められているというダイモスである。
 そして遂に決着を付けるべく第1連合艦隊が出撃して行った。予定通りに行けば火星に10日で到達するはずである。決着の時がまさに目の前に来ていた。


後書き
ジム改 いよいよ最後の時が迫る。
栞   私の最後の出番がないままに終わっちゃうんじゃないでしょうねえ!?
ジム改 さあねえ、何しろ先鋒隊はファマスの倍近い戦力だからねえ。
栞   このままでは私はギャグキャラで終わってしまうじゃないですか!
ジム改 おお、そう言えば!
栞   何を言われてみればって感じで言うんですかあ!
ジム改 まあまあ、でもそうだねえ、折角のNTなのに。
栞   そうですよお。ガンダムのNTと言えば主役なのが普通でしょ。
ジム改 そうだねえ、やっぱ最後は敵のNTと無理心中?
栞   展開からすると澪さんとか繭さん?
ジム改 おお、よく分かったな。
栞   微妙に目立たなそうだから遠慮します。
ジム改 贅沢なやつめ。


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