第50章  ジ・エッジ会戦


 宇宙世紀82年7月4日、進撃する連邦艦隊は前方に立ちはだかるように展開する多数の光点を確認した。偵察に出したEWACジムが正面に60隻ほどの艦隊が展開している事を確認している。その中にはノルマンディー級戦艦とドロス級空母各1隻、グワンザン級戦艦2隻、マゼラン改級戦艦6隻の姿が確認されており、特にドロス級空母の存在が連邦軍首脳を驚かせていた。
 ファマス艦隊が自分達を迎え撃つべく打って出て来たという事態にリビックは各艦隊司令官とその幕僚を集めて作戦会議を開いていた。

「まさか、行方不明だった最後のドロス級空母がファマスにおったとはな。今まで温存していた訳か」

 報告を受けたリビックは苦々しげに呟いた。ドロス級空母は1隻で182機のMSを運用することができる、カノンすら上回る最大最強の空母だ。その戦力は1隻で1個艦隊に相当するとまで言われておリ、ア・バオア・クー会戦ではドロス、ドロワの2隻でN、Sフィールドを支えていたという実績があるくらいだ。これが参加していると言うだけで敵は円滑にMSを運用できることを意味している。もっとも、ドロス級空母は移動拠点として運用されるべき艦であって、要塞の防塁として使用するなどというのは明らかに間違った運用法なのだが。

「小規模な小惑星帯が点在する宙域での艦隊決戦か、こいつはドロス級空母にとっては最高の戦場だな」

 リビックの言葉にクルムキン参謀長は頷いた。

「左様ですな。我々もカノンを伴ってくるべきでした」

 元々カノンはドロス級を手本として建造された戦闘空母だ。ドロス対カノンとなればまさにカノンにとってはこれ以上無い見せ場となっただろう。だが、残念な事にここにはカノンはない。手持ちの戦力で戦うしかなかった。

「ふむ、数では5倍の兵力差か。万事に慎重な奴らしくないの。何を考えておる?」
「すでに手持ちの戦力が底をついているのでは?」

 作戦参謀のモーフィス中佐が発言した。これまでの戦いでファマスは多大な損害を受けており、ファマスの持つ生産力ではその損害を埋められなかったのではないか。という予想がその判断の裏にはある。

「それは無いだろう。情報部の判断ではファマスにはアクシズ艦隊も加わっているはずだ。これを考えればいささか少なすぎる」
「同感ですな」

 第2艦隊司令官のクライフ少将の意見に機動艦隊分艦隊司令官のモースブラッカー准将が大きく頷いた。秋子の下でフォスターT攻略戦の頃から戦いつづけているベテランの指揮官だ。

「今までのファマスの戦い方は、地球圏に逆攻勢をかけてきた事を除けば基本的に無理を避ける傾向がありました。フォスターUではかなりの抵抗を見せましたが、彼らもあの要塞の防御力にそれなりの自信があったうえでの事だったのでしょう」
「では、今回のファマス艦隊の出撃は何を意味すると思うのかね、モースブラッカー准将?」

 リビックの問い掛けに、モースブラッカーは自分の考えを披露した。

「2通り考えられます。1つはすでにファマスの内部は瓦解しており、戦争継続派がヤケになって飛び出してきた可能性です」
「もう1つは?」
「敵に勝算がある場合です」

 モースブラッカーの答えに聞いていた者達の反応は2つに分かれた。深刻に考えた者と、あからさまな嘲笑を浮べる者とである。

「ファマスに勝算ですと。馬鹿な、5分の1以下の兵力で何が出来るというのです?」

 嘲りの色を隠そうともしない声でバスクがモースブラッカーに問いかけた。モースブラッカーは幾分気分を害しはしたが長官の前という事もあり、罵声を出す事はどうにか耐えて見せた。

「何を考えているのかまでは分からん。久瀬提督は名将の誉れ高い方だからな」

 一年戦争における久瀬提督の戦歴は地味だが立派なものであり、彼を無能と言う者は連邦の何処を捜してもいない。そんな彼だからこそ多くの将兵が彼についてファマスに流れてしまったのだ。
 モースブラッカーにバスクが答える前に機先を制するようにエニーが口を挟んできた。

「伏兵の可能性は否定できないわね。ファマス艦隊が展開している辺りには小規模な小惑星群が無数に点在してるわ」
「じゃあどうするんだ、艦隊を散開させて近くの小惑星群を調査させるか?」
「クライフ、忘れたの。戦力を分散させての各個撃破はファマスの常套手段よ。わざわざ戦力を分散するなんて馬鹿のする事だわ」
「分かってるよ、言ってみただけさ」

 同僚であるエニーにからかい混じりに窘められ、クライフはややへこみながら答えた。
 だが、エニーのこの発言で場の空気が大体固まった。それを察したリビックが一呼吸開けて自分の考えを口にする。

「わしは艦隊を分散するつもりは無い。このまま直進して久瀬と雌雄を決しようと思う。第2連合艦隊には第3案に従い行動するように伝えるんじゃ。もし万が一わし等が負けたとしてもここでファマスに大損害を与えればエイノー達が仕上げをしてくれるじゃろう」

 これには全員が頷いた。もし自分たちに何かあってもまだ第2連合艦隊があるのだ。そう考えれば随分と気が楽になった。


 リビックの鶴の一声で作戦が決まったので、各員はそれぞれ自分の艦に戻るべく会議室を後にした。そのまま格納庫に係留されているランチに向かう通路で肩を並べながら歩いていたクライフとエニーは最初の内こそ無言だったが、ボソリという感じでクライフが口を開いた。

「これで終わるかな」
「終わりよ。少なくとも私達の戦いはね」
「勝っても負けても、か」

 8ヶ月に及んだファマス戦役が終わろうとしている。この戦いは言うなれば一年戦争の後始末であり、ジオンの亡霊を始末する総決算である。この戦いのおかげで地球圏の宇宙に潜伏する残党の大半は始末する事ができたのだ。

「しかし、多くのものを失った戦いだったな」
「ええ、いろんなものを無くしたわ」
「だが、これでようやく終わる。これが最後だと思えば頑張ろうという気にもなるさ」
「・・・・・・そうね」

 格納庫でそれぞれのランチに分かれる時、2人は固く握手を交した。

「それじゃあ、お互いしぶとく生き残るとしましょう」
「ああ、その時は水瀬さんも加えてまた飲むとしよう」

 クライフと分かれたエニーはケントに帰るランチの中でクライフとの話を思い出していた。

「これで最後、か。本当にそうなるの?」

 エニーは漠然とした不安に襲われていた。自分自信が地球至上主義者として認識されているのは知っており、自分自信でその評価を否定してはいないのだが、最近になってその考えを改めてきていたのだ。一年戦争の影響でジオンを、というよりスペースノイドを毛嫌いするようになっていたエニーなのだが、第1連合艦隊としてティターンズと行動を共にするようになってからそのあまりに尊大な態度と過剰に育てられたプライドに辟易していたのだ。
 ティターンズと付き合ううちにエニーは地球至上主義者というものにも距離を置くようになり、結果としてスペースノイドもアースノイドも同じだと考えられるようになったのだ。そういう意味ではティターンズに感謝するべきかもしれないが、今のエニーは連邦政府に従うただの職業軍人となっていたのだ。
 そのエニーの目から見ると、ティターンズは非常に危険な集団と映るのだ。極右組織とでも言うのか。近い将来ティターンズが新たな騒乱の火種となるのではないかという不安を抱えていたのだ。これは秋子が感じている不安でもある。いや、秋子はすでにティターンズを将来の危機として認識しているから、一歩先にいると言うべきか。
 そんな事を考えているうちにランチはケントに到着し、エニーは艦橋の指揮官席に腰掛けて進行方向の宇宙を見据えた。

『まあ、今悩んでも仕方ないか』

 エニーは不吉な予想を振り払うと目の前の問題解決に集中する事にした。椅子から立ち上がり、良く響く声で命令を下した。

「全艦前進、我々は正面に展開するファマス艦隊を殲滅する!」

 一時進撃速度を緩めていた連邦艦隊は俄に速度を上げると艦隊戦の陣形を形成した。それと同時に明日合流する予定であり、すぐ近くまで来ているはずの第2連合艦隊に緊急通信が送られ、急いで合流するようにという命令が伝達される。暫くして第2連合艦隊から了解という返信があり、それに続いて援軍を出撃させたという第2報が届けられた。それらを確認したリビックは満足げに頷くとファマス艦隊との決戦に臨んだ。

 

「遂に来たな」

 600隻を超える連邦軍の大艦隊を前に久瀬は1人呟いた。戦力差は理解していたつもりだが、こうして見るとその心理的な圧迫感は拭いきれない。

「しかし、予想より1日近く遅かったな」
「補給に手間取っていたのではありませんか。あれほどの大艦隊となれば補給にもかなりの手間がかかりましょうから」
「・・・・・・1日遅れでフォスターUを立った第2連合艦隊との合流を考えていると思ったのだがな」
「第2連合艦隊はフォスターU出航後の足取りが掴めておりません。どうやら第1連合艦隊と同じ航路を通っている訳ではないようです。潜宙艦も定時連絡を絶った艦がかなりありますし、仕方無いでしょう」

 「うむ」と頷きながらも何処か釈然としないものを久瀬は感じていたが、今それを考えても仕方がなかった。目の前にいる敵だけでも死力を振り絞っても勝てるかどうか分からないのだから。
 そして、連邦軍の動きを見張っていたオペレーターが切迫した声で報告を飛ばした。

「連邦艦隊が分離しました!」
「そうか、MSの動きは?」
「確認できるだけで約3000機が艦隊と共にこちらに向かってきている様です!」
「そうか、補給艦と補助空母を切り離して身軽になったわけだな」

 リビックもやる気だと悟り、久瀬は嬉しくなった。かつての戦友ではあるが、リビックほどの歴戦の名将と戦えるという事に喜びを感じてしまうのだ。軍人の救い難い性とでも言うのだろうか。

 

 連邦艦隊とファマス艦隊は最初、小細工抜きで正面からぶつかり合った。300隻を超える戦闘艦艇を有する連邦艦隊と60隻程度のファマス艦隊では数が違いすぎ、遠くから見れば津波が小島を飲み込もうとするような光景に見えた事だろう。双方はMSを出し、艦砲を撃ち合う総力戦を展開している。
 戦闘が開始されて30分、リビックはファマス艦隊の動きを見るべく第1艦隊の前衛艦隊にゆっくりと前進するように命じた。
 この指示の意味が理解できなかったクルムキンはリビックに確かめる意味を込めて問い掛けた。

「長官、ただ前進させるだけですか?」
「なあに、敵の反応を見るだけじゃ」

 だが、リビックのこのちょっかいは予想外の結果を招いた。前衛艦隊といっても20隻の艦隊である。それがゆっくりと迫ってくるのだからその圧迫感は並大抵のものではない。これを見た久瀬はリビックの考えを正確に見抜いていた。

「これは威嚇だ、挑発に乗るな」

 だが、久瀬の指示は徹底される事は無かった。連邦艦隊の前進に触発された艦長が勝手に暴走して全力で反撃を始めてしまったのだ。いずれもジオン残党出身で、新参者と言われる艦長達である。
 前進してきた連邦艦隊は狂騒と共に叩きつけられるミサイルとメガ粒子砲の雨に前進を阻まれたばかりか、逆に手痛い損害を受けて後退を余儀なくされてしまった。それを追う形でファマス艦隊から飛び出した艦が追って行く。

「馬鹿者どもが、勝手な事をして戦力を無駄に消耗させるつもりか!?」

 久瀬は罵声を放つと通信士に艦列に戻るよう指示を送らせた。それを受けて何隻かは追撃を中止し戻ってきたが、3隻のムサイがこの命令を無視した。
 追撃部隊の多くが後退していくのを見た連邦艦隊は今度は全軍で前進を開始した。突出していた3隻のムサイは正面から数え切れない程の砲火を叩きつけられてほとんど一瞬で撃沈している。
 連邦艦隊が向かってくるのを見た久瀬は迷うことなく全軍を後退させた。それに誘われるように連邦軍が追撃をかけていく。

「奴等を逃がすな。ここで完全に殲滅してやるんだ。MS隊を全部出せ!」

 先鋒を務めていた第2艦隊のクライフ少将が艦内に残っているMS隊を出してファマス部隊に叩きつけた。これで制宙圏を確保するつもりなのだ。だが、60隻のファマス艦隊から出てきたMS隊は数で劣りながらも連邦部隊を相手に奮戦していた。シュツーカとブレッタは依然として連邦MSの大半に性能面で優越していたし、シュツーカD型やジャギュアーに至ってはジムFBやRガンダムでなければ歯が立たない程なのだ。旧式機が増えているとはいえ、まだまだファマスMS隊は大きな脅威であった。
 連邦の制宙MS隊を突破したファマスMS隊は第2艦隊に襲いかかった。これらは直援機の迎撃を受けてかなりの機がこれに拘束されたが、一部はこれも突破して更に艦艇を目指した。だが、彼らは整然とした陣形を組んだ連邦艦艇の視界を埋め尽くすような対空砲火に迎えられた。

「なんて対空砲火だ、これじゃ突破できねえ!」
「怯むな、対空砲火なんかそうそう当たりはしねえ!」

 怯む仲間を叱咤して突っ込んで行ったゲルググAは持っていた90mmマシンガンで狙った母艦型サラミス改のMSカタパルトと右舷側の単装砲を破壊したが、離脱にかかったところを周囲の艦に狙われて対空砲火に絡めとられた。叩き付けられたパルスレーザーをゲルググの重装甲はかなり持ち堪えて見せたが、流石に3隻分の機銃を叩きつけられては耐えられる筈も無かった。全身をズタズタにされたゲルググAは部品を撒き散らしながら四散し、最後に小さな爆発を起した。
 だが、これに触発されたのか次々にファマスMSが連邦の艦艇に襲いかかって行った。対空砲火に捕らえられて撃墜される機体は多かったが、対空砲火を潜り抜けて艦に取り付き、これに大損害を与える機もあった。

「懐に飛びこんでしまえば戦艦は何も出来ん。恐れずに飛びこめ!」

 アクシズMS隊を率いているラカン・ダカラン大尉はゲルググ改に乗って狙ったサラミスの艦橋正面に取り付くとビームライフルでまず艦橋を破壊し、更に適当なところにビームを叩き込んだ後に艦を離れ、止めとばかりに機関部に一発撃ちこんで離脱した。このサラミスはラカンの離脱直後に誘爆を繰り返しながら爆発してしまった。

「船を沈めるのは久しぶりだが、やはりいいものだ」

 久しぶりの戦果にラカンの顔に僅かに喜色が浮かんだ。一年戦争生え抜きの古参軍人であるこの男は、根っからの戦争好きでもあったのだ。そのまま高揚した戦意の赴くままに襲いかかってくる連邦直援機に向かっていき、擦れ違ったジム改をビームライフルで撃破してしまう。流石にアムロやシアンほどではないが、それは経験豊かなベテランが見せるおもいきりの良い動きだった。
 ファマスMS隊はクライフの旗艦エディンバラにまで迫ろうとしていた。艦橋からMS隊の苦戦を直接確認したクライフは悔しそうに唸っていたが、このまま手をこまねいているつもりは無論無かった。

「攻撃隊の様子は?」
「かなりの被害を出していますが、後少しで敵艦隊に取り付けそうです」

 参謀の答えにクライフは頷くと仕方なさそうに命じた。

「リビック長官にMSを回してくれるように要請しろ。このままでは犠牲が増えるだけだ」

 クライフの要請をリビックは快く受け入れ、温存していたMS隊のうち2個大隊を第2艦隊の救援に差し向けた。今のところ本格的に戦ってるのは第2艦隊だけであり、第1艦隊と第3艦隊はMS隊を繰り出した後は小競り合い程度に留まっているので、戦力には十分な余裕があるのだ。

「ふむ、クライフ1人では手に余るか」
「無理もありません。クライフ提督と久瀬提督では経験に差があります。クライフ提督はこれほどの大規模艦隊戦での指揮の経験が少ないですから」
「それだけでは無いかもしれんがの。まあ、このまま久瀬の好きにさせる訳にもいかん。そろそろわし等も動くとしようか」

 リビックの命令で第1艦隊が第2艦隊の右側に回りこみ出した。そのままファマス艦隊の側面に出ようとしているのだ。ファマス艦隊の戦力では第2艦隊との戦闘で手一杯のはずであり、こちらに手を出してくる余裕は無いと判断しての機動だったが、その予想は当たっていた。
 久瀬は連邦の第1艦隊が自分たちの左側面に回りこもうとしている事に気付き、渋面を作った。

「リビック提督、動いたのか」
「どうされますか。流石に今の戦力では現状を維持するので手一杯です」
「分かっている。だが、今はまだ耐えるしかない。もう少しで予定宙域に引き摺り込める」

 この作戦を立てた時、それなりの損害は覚悟しなくてはならない、と久瀬は思っていた。リビック提督の実力は良く知っていたし、それを差し引いてもこの数だけで十分な脅威となる。
 ここは大損害を覚悟してでも踏ん張るべきだろう。

「全軍に伝えろ。左側面からの攻撃に注意。ここで崩れたら被害が増えるぞ!」

 久瀬の指示が全軍に飛んだが、そんな事は言われなくても分かっている指揮官ばかりだったので特に感心した者はいなかった。
 グワンバンで指揮を取っていたキャスバル・ダイクンは久瀬からの通信に頷きはしたが、これといった対処はしなかった。現実問題として第2艦隊との戦闘だけで手一杯であり、更に同規模の集団を相手取れるだけの戦力など何処を探してもありはしないのだ。

「まずいな、あちらに割く手勢が無いぞ」
「ノイエで出られますか?」

 副官のキリングス大尉に問われたキャスバルはしばし考え、顔を綻ばせた。キリングスに小さく頷いて見せるとグワンバンの艦長であるユーリ・ハスラー少将を見る。

「そうだな、ハスラー、後の事は任せるぞ」
「分かりました。お気をつけて」
「心配するな。必ず帰ってくるのが私の流儀だよ」

 苦笑を浮かべて艦橋から出ていったキャスバルを見送ったハスラーは、少しだけ心配そうであったが自分を呼ぶ部下の声にすぐに現実に引き戻された。

「砲撃の手を緩めるな。側面の敵はキャスバル閣下が食い止めてくれるぞ!」

 ハスラーの言葉を聞いたアクシズ艦隊の士気は一気に盛り上がった。艦隊司令が自らMSを駆って前線に立つ。これはジオン軍の伝統とも言うべき姿であり、かつてドズル・ザビがやって見せて全軍の士気を沸点まで高めたという実績がある。ましてキャスバルはかつてはシャア・アズナブルと呼ばれていた事もあり、あの赤い彗星が出てくるというだけで兵士たちはやる気が出てくるのだ。
 グワンバンの格納庫から飛び出した緑色の悪魔は一度グワンバンの艦橋の前に出ると通信を入れて来た。

「ハスラー、MS隊を借りるぞ」
「予備にとってある第18MS大隊をお連れ下さい。くれぐれもご無理をなさらぬ様に願います」
「分かっているさ」

 ノイエ・ジールが物凄い加速でグワンバンの前から消えて行った。それを追う様に各艦から発艦したMSが編隊を組む暇も無く敵に向かっていく。これでアクシズ艦隊は予備兵力の半分を出したことになるので、この後の展開が急激に変化するような事があると苦しくなるのだが、総司令を1人で敵に突っ込ませる訳にも行かないのでやむをえなかった。それに、久瀬提督は友軍を見殺しにするような人物では無いという計算もある。


 第1艦隊は向かってくる敵部隊に気付いた段階で迎撃のMSを出していた。相手の3倍の数を出しているので負ける筈が無いと思っていたのだが、迎撃隊から飛びこんできたのは悲鳴ばかりだった。

「こちらグリーンリーダー、2機食われた!」
「なんだあの化け物は!?」
「くそっ、追いつけん!」
「ビームライフルが弾かれるぞ。どうなってんだ!?」
「マシンガンの弾幕なんか気にもしやがらねえ、バズーカでなけりゃ駄目だ!」
「畜生、ブルーの奴等が全滅したぞ!」
「俺達だけじゃ駄目だ、援軍を、援軍を寄越してくれ!」

 次々に飛びこんでくるパイロット達の肉声にリビックは厳しい表情になった。

「何が起こっている、迎撃隊は何と戦っているのだ!?」
「わ、分かりませんが、どうやらMAのようです」
「MA、じゃと?」

 リビックは虚をつかれていた。彼に限らず、連邦の軍人はMAという兵器が良く分かっていない。秋子にしてもそうである。

「ソロモンで出てきたビグザムとかいう巨大MAのようなものでしょうか。確かあれもビームを弾いていたという話ですし」
「・・・・・・なるほどのう、その可能性はあるな。しかし」
「しかし?」
「いやな、ジオンというのはどうしてこういうケレン身たっぷりな兵器が好きなんじゃろうなあ?」

 いつもの皮肉な笑みを浮かべながらリビックは幾つかの指示を出した。

「ハリファックス隊を出して迎撃させろ。それとモースブラッカーにサイレンとクリスタル・スノー隊を出すように言ってくれ。ああいう化け物の相手はあいつ等の方が慣れとるはずじゃ」

 何となく、連邦艦隊内でのクリスタル・スノー隊とサイレン隊のイメージが良く分かる命令であった。


 リビックからの命令を直接受け取った北川と佐祐理と七瀬はどうしたものかと顔を見合わせた。

「第1艦隊を1機で苦戦させるようなMA、ねえ」
「私達は戦場の便利屋さんなんですかね〜?」
「便利屋、言い得て妙ね」

 3人して不健康そうな溜息をつくとそれぞれの部下に指示を出しに散って行った。何となく慣れてしまったらしい。

 もともと遊撃の位置にいたモースブラッカー艦隊は第1艦隊から近く、すぐに第1艦隊に来る事ができたのだが、そこで見たものは目を疑うような光景であった。

「お。おい・・・・・・何だよこれ?」

 歴戦の北川でさえ言葉を無くすような光景。北川達が駆けつけた所にあったのは全滅した第1艦隊の前衛艦隊であった残骸の群れであった。そして少し離れた所で起こる幾つもの爆発の光。そこにあったのはまさに殺戮であった。

「緑色のMAですね。それもかなり大きい」

 佐祐理がノイエ・ジールを見てそう呟く。佐祐理の言う通りノイエ・ジールは大きかった。巡洋艦並のサイズがある。兵装は機体各所にあるメガ粒子砲のようで、これを撃ちまくりながら戦場を駆け回っている。残念ながらMSではこれに付いて行くことができないらしい。辛うじてハリファックスが追尾して主砲である2門のメガ粒子砲を撃ちこんでいるのだが、それは空しくIフィールドに弾かれて光を散らすだけだ。

「ありゃあ駄目だな、ビームライフルは役に立たんわ」
「そうね、接近してビームサーベルで斬り付けるか、実体弾しかないわね」
「そういう事だな、ほんじゃ七瀬、接近戦頼むわ。佐祐理さんは後から来てるMS隊を叩いてくれ」

 北川に頼まれた七瀬が凄く嫌そうな顔になったが、これがサイレンの仕事である。断ることもできなかった。

「仕方ないわね、舞、中崎君、行くわよ!」
「うん」
「俺、ちょっと腹の調子が・・・・・・いえ、何でも無いです」

 モニター越しに七瀬と舞からジロリと睨まれて中崎はシュンとしてしまった。

「じゃあ中崎君、支援お願いね。Iフィールドで弾かれるからって言っても、一瞬動きは封じれるんだから」
「分かったよ、あんなでかい目標外しゃしないさ」
「よし、たまにはカッコ良いところ見せてよね。少しは期待してるんだから」
「へ?」

 慌てて聞き返そうとしたが、七瀬のエクスカリバーVはさっさとノイエ・ジールに向かって行ってしまった。しばし呆然としていた中崎に舞が声をかけてきた。

「・・・・・・中崎、Iフィールドも無限に使える訳じゃない。使い続けてればIフィールドジェネレーターが耐えられなくなって焼き付く」
「え、そうなの?」
「私のIフィールドシールドだと艦砲は防げ無いから。多分、あれも立て続けにビームを叩き込めば破れると思う」
「なるほど、ね」

 何かを思い付いたらしく、中崎の顔に僅かに喜色が浮かんだ。それを見た舞も珍しく微笑を浮かべた。

「じゃあ、あとはお願い」

舞もセレスティアを加速させて七瀬の後を追った。中崎は通信機を弄ると何処かに通信を繋いだ。

「あ、自分はサイレン隊の中崎少尉です。長官に具申したい事があるのですが・・・・・・」


 七瀬のエクスカリバーVが接触するよりも早くノイエ・ジールに接触したMS隊があった。第1艦隊のエース部隊とも言える第1大隊の指揮小隊であるデュラハン・カニンガム少佐直属の通称D小隊である。全機がジム・FBで編成されている強力な部隊である。

「デカブツが、ふざけた事しやがって」
「少佐、でもどうやって叩くんです?」
「ビームが効かねえってんだからこうしてバズーカを担いで来たんだろうが」

 レベッカに答えながらデュラハンは担いできた360ミリバズーカを動かしてみせる。

「まあ、こいつであれが沈むかどうかは話からねえがな。まあ、いざとなたらフェイのあれに頼るさ。なあフェイ」
「少佐、あたしは制圧射撃が得意なんであって、精密射撃は得意じゃないんですがね」

 フェイのジム・FB重装型は他の3機とは違って妙に大きな大砲を担いでいる。

「そう言うなよ。まあ確かに重いし連射はできんし色々とアレな代物だが、バズーカよりも強力で初速の速い武器となるとそれしかなかったんだ」

 フェイの担いでいるのはレールキャノンだった。機動艦隊で狙撃用に開発されている物とは違い、一年戦争で地上軍で使用されていた砲撃用の物だ。初速、貫通力の全てで最高の実体弾兵器だが、小型化が難しく、連射もできないので運用が難しい代物なのである。
 なおもフェイが文句を言い募ろうとしたが、それを遮る様にセルゲイの声が皆の注意を喚起してきた。

「そろそろ来るぞ、無駄口はここまでだ」
「おお、悪いな軍曹」
「・・・・・・了解」

 仕方なくフェイも頷き、レールキャノンをノイエ・ジールに向けて構えた。他の3機はノイエ・ジールを牽制するべくバズーカを構えて迎撃に向かっていく。だが、その3機に悲鳴のような警告が飛んだ。

「D小隊、今すぐそこを退け―――!!」
「「「「え?」」」」

 疑問に思うよりも速く体が反応し、4機のジム・FBがその宙域から退いていく。すると今まで彼等が居た宙域を途方も無いエネルギーの奔流が貫いていった。もしそこに自分たちがいたら破片1つ残さずに消滅していた事は疑い無い。第1艦隊主力の戦艦部隊による全力射撃が通過して行ったのだ。
 これに狙われたのは言うまでも無くノイエ・ジールだった。キャスバルは自分が狙われている事を感じて射線から機体を逸らそうとしたが、いつもとは違いMSではなくMAに乗っていた事が彼の判断を間違わせた。ノイエ・ジールは脅威的な加速力とMAにしては高い反応速度と運動性能を持っているが、所詮はMA、運動性能はMSには程遠いのだ。ノイエ・ジールは急激な加速から引き起こしに入ったが、猛烈な慣性モーメントがかかっている機体は反応するまでに若干のタイムラグを生じたのである。たちまち周囲を戦艦の主砲と思われる強力なメガ粒子の束が何十条も貫いていき、至近を通過したビームにIフィールドが反発して光の幕を作り上げたが激しい余波で機体がおもちゃのように揺さぶられる。そして回避し損ねたビームが容赦無く機体を直撃し、Iフィールドが辛うじてそれを弾き返した。
艦砲の直撃を受けたノイエジールのコクピットにはたちまち耳障りなアラームが鳴り響いた。

「チィッ、Iフィ−ルドジェネレータ−一基が機能停止、もう一基が出力低下だと!?」

 いかに強力なジェネレーターを転用したIフィールドであろうが、複数の戦艦の全力射撃の直撃に耐える事などできる筈も無い。もともとビグザム程強力なジェネレーターを積んでいる訳でもない。というよりもそこまで必要が無かった。この時期の技術力でビグザムのように戦艦級のジェネレーターをMAに搭載するのは無理があったのである(ビグザムにはムサイ級4隻分のジェネレーターが転用されていた)。元々大気圏内で運用し、空気を冷媒として使用する事を前提に開発されたからビグザムは兵器たり得たのだ。宇宙空間で使う様改造はされたが、放熱能力の致命的な不足で15分でジェネレーターがオーバーヒートし、使えなくなってしまうという欠陥機であった。
ノイエ・ジールはその点を反省して宇宙空間での運用を前提に設計された76メートル級の巨大MAとなっている。これはなんとビグザムより17メートルも大きく、後発機でこれを上回るサイズを持つのはゾディ・アックやα・アジールぐらいしかない。ジェネレーターを小型化し、冷却性能と機動性、運動性を向上させ、一撃の威力を犠牲にしてビーム一門当たりの射界を広げ、総合的な火力の向上を図っている。ビグザムより洗練された機体といえるノイエ・ジールはアクシズの切り札であった。
キャスバルが使ったノイエ・ジールは短時間で迎撃に出てきたMS隊を蹴散らし、第1艦隊の前衛艦隊を殲滅し、更に後退して行く主力艦隊の艦を捕捉して沈めていった。その姿はまさにこの時代で完成しうる最強の機体の名にふさわしかったが、いいかげん限界が来ていた。ビームジェネレーターもそろそろ底をつくし、なによりジェネレーターがもう熱限界に達している。更に先ほどのビームの集中砲火を受けた事で残る2基のIフィールドジェネレーターも悲鳴を上げている。もう帰還するべきだろう。
 
 ノイエ・ジールに艦砲を当てるのはそれほど難しくない。標的が物凄く大きいうえに動きが直線的なのでMSよりも断然狙いやすいのだ。これに目をつけた中崎は第1艦隊に砲撃を要請し、それを聞かされたリビックは自分のバーミンガムと直属のマゼラン改11隻で集中砲撃を加えさせたのだ。だが、ノイエ・ジールはこの艦砲の集中砲火から脱出して見せた。これには流石のリビックも驚いた。

「なんじゃと、あれだけ撃ちこんでも平気なのか!?」
「いえ、平気ではないようです。磁場の強度が落ちています!」

 オペレーターの答えから過負荷に耐えられなかったという事が分かったが、それでも驚異的な防御力だ。サラミスの主砲ぐらいでは小揺るぎもしないだろう。


 
 撤退しようと機体を翻したところにいきなり襲いかかってきた4機のMSがあった。

「ジム・FBか。4機も」

 連邦最強といわれるMSが4機も出て来たことでキャスバルは不味いかと感じていた。すでに対MSミサイルは使い果たしてるしビームエネルギーも残り少ない。無理をしたら怪我をするハメになる。こうなるとキャスバルはMS隊を置いてきてしまった事を悔やんだ。ノイエ・ジールの機動性は驚異的なものだが、それは同時に単機で敵中に孤立してしまうという事も意味していたのだ。

「相手をする余裕は無いか、仕方がない」

 加速性能に物を言わせて振りきろうと思ったが、不意に感じた殺気に機体を横滑りさせた。すると機体を追う様にバズーカ弾が5発流れていった。敵はかなり腕の立つやつらであるらしい。だが、最後の一発は躱しきれなかった。着弾の衝撃にキャスバルが顔を顰める。

「ええい、何処をやられた?」

 機体の異常を確かめたキャスバルは僅かに顔を顰めた。

「メインスラスター2基が損傷だと、こんな時にか!」

メイン2基を失ってもまだノイエ・ジールの機動性はMSを引き離しているが、機動力が命のMAにとって機動力が落ちるというのは死活問題である。逃げるか戦うかを考え始めたキャスバルだったが、更に接近してくる強烈なプレッシャーを感じてそちらを振り返った。

「何だ、この感じは。ニュータイプとは違う、危険な気配だ」

 今あれを相手にするのは危険だと感じたキャスバルは迷わず逃げに入った。今あれを相手にする戦闘力はノイエ・ジールには残されていない。
 逃げて行くノイエ・ジールをフェイとレベッカが追おうとしたがデュラハンが2人を止めた。

「よせ2人とも、深追いするな!」
「でも少佐!」
「今は追い返せれば良い!」

 不満をぶつけてくるレベッカを一喝して黙らせると、ノイエが逃げて言った方角を眺めやった。

「畜生が、また出てくるぞ、あいつは」

 デュラハンの歴戦の兵士としての勘がそう教えている。多少の手傷は負わせたがあのくらいで参るような機体でもパイロットでもないだろう。
 ノイエ・ジールが去った直後にデュラハン達の前に1個大隊規模のMS隊がやってきた。最新鋭機のジムU・ATとジムキャノンUばかりで編成された北川大隊である。それに混じって七瀬のエクスカリバーVや舞のセレスティア、中崎のRガンダムの姿もある。

「こちら機動艦隊第2MS大隊の大隊長、北川潤大尉です」
「おお、俺は第1艦隊第1大隊のデュラハン・カニンガム少佐だ」
「少佐、我々はリビック提督より第1艦隊の援護をする様に言われて来たのですが、当初の目標が逃げ去ってしまいました。我々はどうしましょうか?」

 北川は次の目標をデュラハンに問いかけた。恐らく彼はやれと言われれば敵艦隊への攻撃先鋒だって務めるだろう。デュラハンはしばらく考えていたが、他部隊の行動を自分が判断するのは問題があると判断し、上に指示を仰いだ。

「長官、カニンガム少佐から通信です。機動艦隊のMS隊をどうするか指示を請う」
「カニンガム少佐がか・・・・・・ふむ、迎撃に出したMS隊はどうなっておる?」
「機動艦隊の第3MS大隊の援護を受けて敵MSを撃退しましたが、半数近い損害を受けています。その多くはあのMAに殺られたようですが。特に大隊長が全員戦死しております」
「1/3の敵を相手に半数近くの犠牲か。ちと悪すぎるな・・・・・・カニンガム少佐にMS隊を纏めさせろ。クリスタル・スノーは独自に動いてもらって構わん。あいつ等なら放っておいてもうまく動くじゃろう」

 これはカノン隊の実力を高く評価するリビックの英断であった。北川と佐祐理という傑出したMS隊指揮官にフリーハンドを与え、戦局の打開を図ろうというのだ。半分賭けの要素があったが、これまでの2人の実績を考えれればあながちギャンブルとは言えまい。

 リビックの答えを聞かされたデュラハンは厄介ごとを押しつけられたとばかりに顔を顰めた。

「やれやれ、俺にMS隊を纏めろとはな。面倒はご免なんだがな」

 そうは言ってもプロの軍人であるデュラハンは仕事に関しては真面目だった。さっそく消耗した部隊を纏め上げ、その場で指揮系統を組みたてていく。この間は北川と佐祐理が第1艦隊から出てきた2個MS大隊と協力してファマス艦隊の側面を圧迫していたのだが、北川たちはこのファマス部隊に違和感を覚えていた。何故かというと、これまでのファマスとの戦闘に較べると妙に抵抗が弱いというか、手を焼くような相手が出てこないのだ。これまでの戦闘なら何処を押しても必ず強力なMSが出てきたのだが、何故かシェイドもニュータイプも、エターナル隊のようなエース部隊も出てくる気配が無かったのだ。

「やっぱりおかしいよな。誰か、手強い相手にぶつかった奴はいない?」
「いえ隊長、出てくるのはゲルググやドムばかりですよ」
「こっちもです」
「同じです。たまにシュツーカやブレッタは見ますが、ほとんどは旧ジオンのMSです」

 部下の中隊長たちの答えに北川は首を捻っていた。自分の知る限りではファマス部隊は戦うときに戦力を出し惜しむようなことはしない。ならどうして出てこないのだろう。北川は考えこんだ。すでに周辺の制宙圏は部下たちが押さえているので敵に奇襲を受ける恐れは全く無い。

「まさか、ここにはいないのか?」

 北川はその可能性に思い当たった。これまで自分たちを苦しめてきたシェイド部隊。エターナル隊といった部隊がここにはいないのだ。リシュリュー隊を失って手駒が不足しているだけとも考えられるが、それなら真っ向から戦っている第2艦隊の方に行っている筈であり、もしそうなら第2艦隊は大苦戦を強いられているはずなのだ。だが、第2艦隊は未だにファマス艦隊と互角に近い勝負をしている。
 では奴らはどこにいるのだろうか。それを考えていた北川は、現在の両軍の動きをディスプレイに表示させ、暫くそれを見続けた。最初は分からなかった。ファマス艦隊は第2艦隊と戦いながらも側面に回りこんでいる第1艦隊の圧力に押されて後退を繰り返している様に見える。
 一介のMSパイロットである北川が自力でここまで考えられたことは賞賛に値するだろうが、所詮は19歳の若者であり、実戦経験は豊富でも大軍を指揮したことなどあるはずが無い彼に久瀬の思惑を見抜く事などできようはずも無かった。北川にはファマス艦隊の後退が久瀬の名演技であるとは思えず、ファマス艦隊は押されているのだと納得してしまったのだ。


 実際のところ、北川と似たような疑問を感じた者は多かったのだが、その意図を見抜いたものはいなかった。それほどにファマス艦隊の後退が真に迫っていたのであるが、流石にリビックやクライフ、エニーといった提督達は遅まきながらもファマス艦隊の動きに疑問を覚えた。自分たちが暗礁宙域とまでは言わないが、小惑星が点在する宙域に引き摺り込まれている事に気付いた時、リビックはようやく久瀬の意図を悟った。

「しまった、そういう事か!」

 椅子を蹴って立ちあがったリビックは今まで見せていた余裕をかなぐり捨てるとマイクを掴み取り、艦を振るわせるのではと思わせるような大声で命令を出した。

「全艦後退しろ。急げ!!」

 だが、引き摺り込まれていた連邦艦隊はリビックの命令に咄嗟に反応する事ができなかった。混乱をきたし、艦列を乱した連邦艦隊を見た久瀬の顔に笑みがさす。

「気付いたかリビック提督、だが遅かった」

 そう呟くと、久瀬は全軍に命令した。

「全艦隊に伝達、もう芝居は終わりだ。攻勢に転じるぞ!」

 その通信を受けたファマス艦隊は一斉に反撃に転じた。暗礁に伏せていた艦隊が連邦艦隊を包囲する様に周囲から飛び出し、ビームとミサイルを叩きつけ、MSを出してくる。その中にはアヤウラのエア―やチリアクスのツィタデル、バウマンのダンケルク、みさきのアプディール、ショウのアリシューザの姿もあった。
 ジ・エッジ会戦が始まって2時間。遂にファマスは連邦艦隊を罠に落とす事に成功したのだった。

 


機体解説
ノイエ・ジール
兵装 :偏向メガ粒子砲×9
    有線クロー・アーム×2
    メガ粒子砲×6
    大型ミサイルランチャー×4
    小型ミサイルランチャー×24
    Iフィールド・ジェネレーター×4
    メガ・カノン
<説明>
 アクシズに逃れたジオン残党が完成させた最高のMA。コンセプトは宇宙空間での運用のみを追求した最強の機動兵器で、その攻撃力は戦艦にも匹敵する。だが、機体の慣性モーメントが大き過ぎてMSの運動性について行くことは不可能であり、接近戦は避ける必要がある。
 この機体において唯一の弱点は全ての武装を稼動させた時の実働時間で、加熱問題とエネルギー問題の2つが常に付き纏ってくる。だが、この機体の攻撃力に対抗できる機体は現時点では存在しないので問題にならない。


 


後書き
ジム改 連邦の宿将同士が遂に刃を交える時が来ました。
栞   私の存在が影も形も無かったです〜(涙)
ジム改 今回はみんな無かっただろうが。
栞   北川さんたちにはありました!
ジム改 いや、それはそうなんだが・・・
栞   しかもなんでノイエ・ジール撃退の影の功労者が中崎さんなんですか?
ジム改 いいじゃん、たまにはそういうのも。
栞   駄目です、中崎さんなんて何人が覚えてると思ってるんですか!?
ジム改 1人でも覚えてるなら、俺はその1人の為に奴を出す!
栞   立派に見えても実はただの天邪鬼のくせにぃ!
ジム改 何を言うんだ、北川や舞が撃退したらなんかつまらんだろうが。
栞   でもなんか嫌です。

 

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