第52章  史上最大の陽動作戦


 デラーズ・フリートに後方を掻き乱された連邦軍は数において数分の1でしかないファマス軍に翻弄されていた。第3艦隊を後方に回した事で戦力が減少した為、ファマス主力との戦力差が縮まり、戦いは徐々に連邦軍不利にと傾いていたのである。特にMSを円滑に運用できなくなったことが大きい。連邦軍主力はMS運用能力を持った母艦型サラミス改やリアンダー級巡洋艦、アキレウス級戦艦を後方に置く事で所属に拘らない補給と整備を行なわせていたが、MSの数に対して艦艇数は余りのも少なかった。その為、損傷も浅く、戦闘力を十分に残しているMSが空しく補給待ちでスタックしていたのである。
 これに対してファマス軍は大量のMSを円滑に運用できていた。ジオン系艦艇はMS搭載能力を普通に持っているし、何よりもミドロがその圧倒的なMS運用能力に物を言わせて前線のMSを支えていたからだ。この巨大空母は帰って来たMSが中破ぐらいの損傷なら直ぐに直して戦場に復帰させるほどの整備能力を持っていたのである。何しろ艦内に工廠さえ持っているくらいだ。流石の連邦軍にも工廠設備を持った戦闘艦は存在していない。あのカノンでさえそんな能力はないのだ。
 このMSの数の差が連邦軍を苦しめていた。幾ら北川大隊やカノンMS隊が精強でも、サイレンが人外な強さを誇っていても、補給がなければ何もできないのだ。そのせいで第1、第2艦隊の損害は時間と共に急カーブを描きつつ増していった。
 リビックの命令で優先的に補給を受けているおかげで何とか前線に立ち続けている北川大隊だったが、数を前に消耗を重ね今や稼動機は定数48機から32機にまで落ちこんでいた。北川大隊のこれまでの戦歴を考えれば異常なほどに高い消耗である。救いがあるとすれば戦死が4名で済んでいる事だが、それでも最新鋭機16機がスクラップになったのだ。

「畜生、このままじゃ押しきられるぞっ!」

 シールドのガトリングでゲルググを蜂の巣に変えた北川は珍しく怒りさえ滲ませながら誰にとも無く怒鳴った。北川がこれほど余裕を失うのも珍しいが、それがつまり現在の戦況を物語ってもいた。この戦場で北川と並ぶ経験を有するパイロットといえばデュラハン・カニンガム少佐くらいだが(北川級、つまり1週間戦争以降に志願、もしくは急遽実戦に投入された訓練兵、新兵パイロットの大半は一年戦争とファマス戦役前半の戦いで多くが戦死、あるいは退役したり出世したりで機体から離れている)、北川でさえ焦るのだ。他のパイロット達が焦らないはずが無い。MS隊の動きは確実に鈍くなっていた。それが更に北川を苛立たせている。

「何やってるんだ、どいつもこいつも!」
「隊長、少し落ちついてください!」
「これが落ちついてられるかあ。このままじゃ奴等に良いようにやられるぞ!」

 部下を怒鳴りつけても戦局は変わるはずが無い。連邦機の数が減るに連れてファマス機がいいように暴れまわっているのだ。この戦局を打開するには増援が必要なのだが、あいにく今の連邦には全く余裕が無い。

 戦況の推移を最も危惧しているのはリビックだったが、補給能力の限界という物理的な問題だけにリビックにもどうしようもなかった。

「こうなれば、エニーが一刻も速く敵を掃討するように祈るしかないな」
「そう、ですな」

 クルムキン参謀長は頷きながらも、内心では疑問を感じていた。はたして、エニーが敵を片付けるまでこちらが持つかどうか。


 クルムキンの不安は根拠の無いものではなかった。クライフの第2艦隊はみさきとショウ、チリアクスの撹乱戦法に翻弄されており、集団としての戦闘力を著しく減殺されていたのである。

「このまま走り回るんだよ。主砲は当たらなくても良いから撃ち続けて!」
「み、みさき、弾切れの可能性があるわよ!」
「良いんだよ。久瀬提督達が敵を撃破するまで持てばいいんだから!」

 完全に自分たちの役割を助攻だと割り切るみさき。アプディールはみさきの指示に忠実に従い、全ての砲をひたすら撃ちまくっていた。見た目は派手だが性格に狙ってる訳ではないので余り当たらないのだが。
 この考えはショウもチリアクスにも共通していた。3人の指揮官が同じ考えを持ち、ひたすら動き回り、砲を叩き込む事でクライフを引っ掻き回しているのだ。
 この手の機動戦には余りなじみの無いクライフにはみさき達の速さに付いて行く事が出来なかった。

「奴等の動きを止めろ、これではまともに狙えん!」
「やってはいるのですが・・・・・・・」
「MSはどうしたんだ!?」
「敵MSを押さえ切れません。現在出撃している数ではあの化け物のようなMSを止めるのは不可能です!」

 部下の弱気な答えを責める事は出来なかった。クライフにもそれは十分理解出きる問題だったから。

「あれが、話に聞いたシェイドとかいう奴なのか」

 秋子経由で聞かされたシェイドと呼ばれるジオンの強化パイロット達。その戦闘力はニュータイプと呼ばれる存在に迫るか、中には上回るほどの力を持つ者までいるという。ヴァルキューレという名前のみが判明しているMSを駆り、連邦のジムU1個中隊を相手にひけを取らないとまで言われている。
 クライフが目にしていたのは茜のイリーズであった。どうやら茜は艦よりもMSを叩くことに狙いを絞っているらしく、目に付く連邦機を片端から撃墜して回っていた。これに対抗するべきサイレンは残念ながら敵が多すぎて茜を捕らえられないでいた。
 
「里村さん、どうするの、そろそろ推進剤と弾が無くなってきたよ」

 茜と一緒に戦っていた瑞佳が最後の弾装をマシンガンに叩き込みながら呼びかけた。茜もそれは考えていたのだが、少し迷いがあった。

「私達が退いたら、この穴を埋めることが出来ますか?」
「う〜ん、浩平達に頼めば何とかしてくれると思うけど」
「浩平は確かに優れたパイロットですが、私達には及びません」
「さ、里村さん、それはちょっと良い過ぎだと思うんだけど?」

 情容赦の一切無い茜の言葉に瑞佳が顔を引き攣らせる。だが、茜や瑞佳と較べる方が間違っていただろう。この2人と戦えるパイロットなど、ファマス中を捜しても片手で数える程もいないのだから。
 それでも他に候補がいるかと問われれば茜も答えられず、浩平達を呼び寄せることになる。浩平が来れば自然と繭や澪も来るだろう。
 
 だが、結局2人は後退するタイミングを無くしてしまう。2人が暴れていた戦場に新たな敵、ティターンズが雪崩れ込んできたから。
 ヤザン大尉のジムクウェルを先頭に現れたティターンズMS隊は茜と瑞佳を見つけて猛禽の如く襲いかかってきた。

「あいつ等がこの辺りで暴れまわってる奴等だ。あれを始末すりゃ戦況が変わるぜ!」
「ですがヤザン大尉、先ほどからの第2艦隊の連中の苦戦を考えますと・・・・・・」

 部下達は不安そうだ。何しろ目の前で第2艦隊MS隊が一方的に駆逐されていたのだ。これでは自分たちも同じ運命を辿るのではないか。そう考えていたのだ。
 だが、ヤザンは自信ありげだった。

「はんっ! 数がいるのにわざわざ近づくからああなるんだ。遠くから蜂の巣にしてやれば良い!」
「は、はあ」

 部下は納得しているようにはとても見えなかったが、とりあえず頷いて見せた。茜と瑞佳もヤザン達に気付き、どうしたものかと顔を見合わせている。

「ちょっと数が多いよ。どうする?」
「浩平達がまだです。退けません」
「そうなんだけど・・・・・・勝てるかな?」
「最初から負けることなど考えていては、勝てる勝負も勝てなくなります」

 茜は肩のビームキャノンの照準をティターンズに向けた。


 瑞佳の応援要請を受けて駆けつけた浩平達が見たものは、撃破された幾つものMSの残骸と、現在も交戦を続けている証明である閃光であった。

「な、なんつうか、暴れまくってるな」
「瑞佳おねーちゃん、なんか過激になった」
「(私達の仕事が残ってないの)」

 口々に呆れを示しながら3人はティターンズMS隊に向かって行った。その為にここに来たのだから。とりあえず無事を確かめる為に浩平が瑞佳に通信を繋ぐ。

「おい長森、助けに来たぞ!」
「こ、浩平〜、遅いよ〜」
「な、なんだ、いきなり泣き声で?」

 通信機から飛びこんできたのは縋り付くかのような瑞佳の泣き声だった。

「だってだって〜、もう弾も推進剤も無かったんだよ〜。浩平達が来てくれなかったら動けなくなった所を殺られてたんだよ―――っ」
「だあぁぁ、分かった分かった、さっさと補給してこい。後は引き受けてやるから!」

 内心で弾も推進剤も切れるまで戦ったりするんじゃねえ、と考えていたが、あえてそれは口に出さないでおく。戦いが終わって帰ったらその事で苛めてやろうと考えているのだ。
 瑞佳と浩平が会話を交している頃には繭と澪も戦場に到達していた。

「みゅみゅみゅっ、出番〜〜!」
「(出番を求めるは今にありなの。日頃の鬱憤をここで晴らすの!)」

 何やら思いっきり私情に走りながら2人はビットを飛ばしてきた。茜と戦っていたジムクウェル達はいきなり側面や背後からビームを受け、爆発四散してしまった。

「な、なんだ?」

 何処からともなく飛んでくるビームにヤザンが彼らしくも無い狼狽した声を上げたが、無理もあるまい。サイコミュ兵器の攻撃なのだから。
 逆に茜は直ぐにこれが誰も攻撃か分かった。ファマス広しといえどもサイコミュ兵器を駆使出来るのは同僚である椎名繭と上月澪しかいない。茜はビットの援護を受けながらティターンズの正面から距離を取ると2人に礼をいった。

「助かりました、澪、繭」
「とーぜん」
「(仲間を助けるのは当然なの)」

 澪と繭のテンペストは近づいたらシュツーカと同程度のMSでしかないので決して乱戦には加わろうとはしない。むしろ戦場から距離を取ろうとする。その2機のテンペストの脇まで退いて来たイリーズの姿はまさに満身創痍であった。致命傷こそ無いものの、その理不尽なまでの重装甲は所々歪み、爆ぜている。推進器も幾つか動かなくなっているようだ。

「だいじょーぶ?」
「大丈夫です。ちょっと弾を浴びましたが、堕ちる程でもないですから」
「・・・・・・・うん」

 繭は納得してなかったが、とりあえず頷いておいた。確かに堕ちるほどの損傷では無いようだし、茜自信にも怪我はなさそうだ。だが、茜がこんなに弾を浴びてるという事事態が繭には驚きだったのだ。
 茜はこれまでずっと最前線に留まり、十字砲火にその身を晒しつづけたのだから当然といえば当然なのだが、それでも繭には信じられなかったのだ。

「では、私は一度補給に下がります。2人とも、暫くここを願します」
「みゅ、みゅ〜」
「(お任せなの)」

 茜のイリーズが退いていくのを横目に繭と澪は頷きあった。

「みゅ―――!!」
「(ファイトなのっ!!)」

 気合を入れてビットを動かしまくる2人。ティターンズには迷惑な話であった。

 

 戦闘はゆっくりとファマス軍有利に推移している。このままいけば勝てるのではないかと言う期待がファマス将兵の間に芽生えてきていたが、司令部ではそうでもなかった。彼等は厳しい顔を崩さず、戦況を見詰めている。
 ファマス司令部が常に気にかけていた相手について、その位置の報告が最初にもたらされたのは開戦から8時間後の事であった。1隻の潜宙艦が報告を送ってきたのだ。それを受け取った久瀬は顔色を変え、じっと紙片を見詰めている。そんな久瀬の態度に不信感を持った参謀がおそるおそる問いかけて来た。

「か、閣下、一体何が?」
「・・・・・・連邦第2連合艦隊の所在が割れた。あと2時間程でここに現れるぞ」
「あと2時間、そんな、それでは目の前の敵を撃破する事が出来ません!」
「そんな事は分かっている!」

 久瀬は紙片を握り潰すとそのまま拳を肘掛に叩きつけた。

「到着が遅れていたのは何かあると睨んでいたが、第2連合艦隊との合流時間を少しでも縮める為だったのか。こちらの動きが筒抜けだったのか、それとも読まれていたか」

 どちらにしても不味かった。ここに無傷の第2連合艦隊が雪崩れ込んできたらこれまでの戦いの結果が全て水泡に帰してしまう。だが、今すぐに連邦軍に止めを刺すだけの余力があるわけもなく、戦いはゆっくりと進むしかなかった。
 だが、この瞬間がファマスが綺麗に退く事が出来る最後の機会だったのである。
 
 そして、それから1時間後に続報がもたらされた。決定的な報告が久瀬の元にもたらされたのだ。この通信文を受け取った久瀬は今度こそ愕然とし、体が小刻みに震えてしまったのである。

「ば、馬鹿な、そんな事が・・・・・・」
「閣下、どうされましたか?」

 久瀬はそれには答えず、振るえる手で通信文を参謀に差し出した。それを受け取った参謀は通信文を読み、硬直してしまった。

「第2連合艦隊らしき大艦隊にはカノン級戦闘空母をはじめ、新鋭艦がほとんども見当たらず。全て旧式艦のみである? これは、どういう事でしょうか?」

 第2連合艦隊にはカノンをはじめ、アキレウス級戦艦やリアンダー級巡洋艦が見当たらないというのだ。これは何を意味するのだろうか。その答えに久瀬は行きついたらしい。右手で顔を押さえている。

「分からんか、姿を消しているのは全て足の長い艦ばかりだ」
「それが・・・・・・まさか!?」
「間違いあるまい、火星に向かっているのだ」

 司令部に誰もが息をするのも忘れ、じっと固まってしまっている。余りの事態に誰もが思考停止状態に陥ってしまったのだ。
 やがて、どうにか現実を受け入れられるようになると今度は目に見えて慌て出した。

「ど、どうするのだ、このままやつらが火星に行ってしまったら!」
「現在の火星にはまともな戦力など残ってないんだ。教われたらひとたまりも無いぞ!」
「今すぐ戦闘を中止して火星に撤退するんだ。ここで勝っても火星を失ったらなんの意味も無い!」
「だがどうやって戦闘を中止するのだ。勝っているといっても、ギリギリの状態なのだぞ!?」
「じゃあどうする!?」

 参謀達が慌てながらも意見をぶつけ合っている。久瀬はそれらを聞きながらも、すでに取るべき行動を決めていた。

「・・・・・・確かに、ここで勝っても火星が陥落したら我々は全てを失う。いや、第2連合艦隊を考えればここでの勝利も無いだろう」
「閣下、それでは」
「撤退だ。今すぐ反転し、戦場から離脱する」

 久瀬の命令が全軍に伝えられた時、反応は大きく2つに割れた。素直に従うものと、はっきりと拒絶するものとにである。

「ふざけるな、我々は今勝ってるではないか。なんで勝ってる勝負を投げなくてはならんのだ!?」
「構うものか、このまま攻撃続行だ!」

 旧ジオン系の部隊にこの傾向が強かった。ファマス生え抜き、という表現はおかしいのだが、決起時から参加している部隊は全て素直に久瀬に従い、戦場からの撤退を開始したのだが、これらの部隊がなお戦場に留まって交戦を続けたために全体の動きが統率を欠いてしまったのは否めない。
 だが、この動きがリビックに迷いを与えてしまった。

「何だ、何をしておる?」
「撤退にも見えますが、それにしては幾つかの部隊が残って交戦を続けています。撤退を成功させる為の捨て駒でしょうか?」
「それにしては部隊の残り方が出鱈目じゃな。新たな攻勢の為に戦力を再編する気か?」
「あれほどの戦力を引き抜いたら前線の均衡が崩れて再攻勢に出る所ではないはずです。もしかして、第2連合艦隊の接近がばれたのかも」
「あるいは、水瀬達が見つかったかじゃな。いや、そっちの方が可能性が高いか」

 リビックは人の悪い笑みを浮かべた。
 連邦軍宇宙艦隊司令部はこの火星侵攻作戦に当たって3通りの作戦を準備していた。
第1案はファマスが火星に閉じ篭っていた場合のもので、第1連合艦隊と第2連合艦隊が火星まで2日の所で合流し、圧倒的多数の戦力でもってこれを粉砕する。
第2案はファマス艦隊が早い段階で自分たちに攻撃をかけてきた場合で、この場合は第1連合艦隊は無理をせず第2連合艦隊との合流を最優先に考え、時間稼ぎを最優先にするというものだ。
第3案は火星近くでファマス艦隊の迎撃を受けた場合で、この場合、第2連合艦隊は特別攻撃隊を編成し、無防備の火星を攻撃させるというものだ。第2連合艦隊主力は陽動も兼ねて第1連合艦隊との合流進路をとる。この際、第1連合艦隊は全力を持ってファマス艦隊の相手をし、拘束する。可能ならファマス艦隊を殲滅する。

これが連邦軍の準備していた作戦案であり、秋子は第3案に従って新型艦で編成された部隊を率いて火星に向かったのだ。そしてエイノーは主力を率いて第1連合艦隊との合流を目指し、その数そのもので陽動の役割をしていたのである。
第1連合艦隊が大きな損害を受けたのは予想外であったが、作戦は概ね成功したと言える。出来るならもう少し時間を稼げれば完璧だったのだが、まあ欲を言ったらキリが無いだろう。

 いずれにしても、ファマス艦隊の主力(と言っても、僅か60隻ほどだったが)は大急ぎで後退していこうとしている。MS隊も慌てて母艦に引き上げているようだ。これは連邦軍にとって反撃のチャンスであった。リビックは全軍に檄を飛ばした。

「全艦反撃に転じる、やつらを火星に帰すな!」

リビック達が攻勢に出たのと時を同じくしてエニーの第3艦隊と支援艦隊もデラーズ・フリートを追い払って体制を立て直していた。

「さあて、長官達が首を長くして待ってるわよね。支援艦隊を護衛しつつ前線に戻るわよ!」

 巨大な戦力がその機能を取り戻した。再び大量のMSが補給を受けて前線に帰って来るようになり、これが更にファマス艦隊を圧迫するようになっていた。これまでは攻めていたからこそ圧倒的な戦力差を意識せずにいたのだが、一度受身に回ってしまうと途端に絶望的なまでの戦力差が出てきてしまう。
 久瀬はこれまでになく疲労した顔をしていた。

「無限に近い回復力を持つ敵を相手にするというのは、気が滅入るものだな」

 内心では神経にヤスリをかけているようなものだと思っていたが、流石にそこまでは口にしない。
 だが、戦況の悪化ぶりには目を覆うものがあった。次々に艦が沈み、MSが破壊されている。これまでの優勢はなんだったのかと思えるような大損害にファマスの指揮官たちを顔色を蒼くしていた。
 だが、久瀬が苦渋に満ちた顔をしていると、いきなりバウマンが通信を入れてきた。

「閣下、このままでは我々は火星どころか、連邦軍を振り切る事さえ出来ませんぞ。相手が凡将ならいざしらず、リビック提督ですからな」
「ならばどうする?」
「ここは私が引き受けます。閣下は損傷の少ない艦を率いて火星まで退いて下さい!」
「馬鹿な、死ぬ気かバウマン!?」

 久瀬は椅子を蹴って立ち上がり、バウマンを怒鳴りつけたが、バウマンは怯まなかった。

「では閣下、どうやってリビック提督を振り切るおつもりですか!?」
「それは・・・・・・・・・」

 久瀬は黙ってしまった。リビックを振り切る事が出来ないとすでに分かりきっていたからだ。それが分かっていても、今まで自分を支えてくれたバウマンを残して逃げるというのは受け入れ難い。
 だが、バウマンは譲る気は無いようだった。

「閣下、お願いします。退いてください」
「だがバウマン!」
「私の最後の我侭です、お聞き入れ下さい、閣下」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ここまでお付き合いできて、嬉しかったです」

 見事な敬礼を残してバウマンはスクリーンから姿を消した。

「バウマン、バウマン!」
「駄目です、呼び出しに応じません!」

 通信士官の言葉に久瀬は歯を噛み締め、激情を無理に押さえ込んみながら席についた。

「撤退する、ついて来れる艦はついてこいと呼びかけろ」
「・・・・・・はっ、全艦に通信を送ります」

 通信参謀が命令を復唱し、通信士官に通信を送らせる。艦橋にいる誰もが敗北感とやるせない息苦しさに項垂れていた。

 

 久瀬達が撤退して行くのを見たバウマンは撤退する事も出来ずに留まっている艦と少数の物好きを纏めるとその指揮をとり始めた。

「さてと、どれだけ頑張れるかな、ここで」

 バウマンは自分のダンケルクを中心に艦隊をまとめると、連邦軍に反撃を開始した。勝てるとは思っていない。1分でも1秒でも時間を稼げればと思っての行動である。
 リビックは久瀬を追うつもりだったのだが、正面に纏まった数で展開する殿艦隊を先に片付けるつもりになった。

「奴等を殲滅する、全艦攻撃開始!」

 無数の火線を叩き付けられた殿部隊はたちまち大損害を受けたが、バウマンは怯まなかった。

「負けるな、撃ち返せ!」

 巻けじとバウマンも撃ち返すが、火力の差は圧倒的であり、とても反撃しているといえるものではなかった。

「か、閣下、火力の差がありすぎます!」
「そんな事は言われなくても分かっている!」

 そう長くは持ち堪えられない。というのは誰にも分かることである。艦隊戦でもMS戦でも勝負とかそういう話ではなく、一方的な殺戮以外の道は用意されていないのだ。
 MS部隊の戦いも深刻なものだった。彼らは数にして数十倍に達する連邦機に飲み込まれ、押し潰される運命にあり、戦闘は本当に一方的な殺戮となっている。そんな中で数少ない超エースと呼べる2人、里村茜と城島司が残っていたのは殿部隊にとって運がよかったといえる。勿論2人が戦友愛で残ったのではない。2人とも敵と戦っていたために離脱するチャンスを逸してしまっていたのだ。

「舞、今日こそ決着をつけます!」
「茜!」

 舞のセレスティアと茜のイリーズが激しくぶつかり合っている。2人ともこれが最後だとばかりにぶつかり合い、これまでになく殺意を滲ませている。2人に差があるとすれば、イリーズはボロボロだが、セレスティアは補給と整備を受けて完全な状態に近いということか。
 だが、この戦いに決着がつくことは無かった。2人が砲火を交え出して直ぐに戦場に1つの変化が起こったのだ。それを感じることが出来たのは舞と茜だけであった。2人とも、この悪寒には覚えがあったから。

「!? まさか、これは」
「茜、これはロスト体じゃ!?」

 2人とも戦う手を止めてその悪寒の発生源をみつめた。そこにある、1機のヴァルキューレを。
 そして、茜はそのヴァルキューレの識別を確かめ、そして彼女は絶望を味わった。あの日、フォスターTで彼の残した最後の言葉を聞いて以来、いつか来ると怯えていた日が、今日だったのだ。あの日、司は自分にこう言っていた。

『もし、俺が狂ったときは、お前が止めをさしてくれ』
『もしもの為って奴さ・・・・・・俺はお前とは違うんだ・・・・・・不安定でな』

 不安定、それをシェイドが語ると、普通とは違う意味を持つ。最強とまで言われるシェイド。だが、その強さは強化の成功率の低さもあるが(最近はそうでも無く、適性さえあれば五分五分で成功する)、もう1つのリスクを背負っている。それは、ロストと呼ばれる暴走である。ロスト体と呼ばれる暴走したシェイドは破壊衝動に飲まれ、目に付くものを破壊して回る狂戦士と化す。一度ロストした者が助かった事は無い。ロスト体はただ大き過ぎる力に体だが耐えきれずに死ぬか、そうなる前に殺すしかないのだ。
 そして、最も重大な事だが、ロストした者はそのランクに関わらず、全てがS級並の力を発揮するという事である。理性も知性も失われているので倒せない事は無いのだが、それまでに膨大な犠牲を出してしまうのだ。かつて、舞と茜はそんな仲間を幾人も自分の手で殺して来たという経験を持っている。

 だが、今回は勝手が違いすぎた。特に茜にとっては。

「そんな、司、嘘でしょう。なんで、どうして・・・・・・」

 司を自分の手で殺す。悪夢でなければ何だというのだ。司と茜の関係を知らなかった舞は茜の様子に戸惑いながらも茜に必死に呼びかけていた。ロスト体を倒すには茜の助けが必要だったから。

「茜、何をしてるの。あれを倒せるのは私達だけ!」
「嫌・・・・・・嫌です・・・・・・何で私が司を」
「茜、しっかりして!」

 まるで舞の声が聞こえていない。半ば錯乱しているようだ。通信機からは茜の呟きの他にもミノフスキー粒子のノイズに混じりながら敵味方の断末魔の悲鳴がひっきりなしに飛び込んで来ている。逃げろと言ってやりたかったが、逃げ出せるだけの技量と幸運に恵まれる者はごく僅かだろう。
 だが、正直言って舞にも分からない事があった。それは、ロスト体がMSを操った事は彼女の知る限り一度も無いという事だ。果たしてロストしたシェイドがどれほどのパイロットとなるのか想像も出来ない。

「茜、このままじゃ皆死んじゃう!」
「・・・・・・舞、私に、彼を殺せというんですか?」

 茜の声は、まるで怯える幼子のように弱々しいものだった。そんな茜の声を聞いたのは初めてであり、舞は続けての言葉を封じられてしまった。

「・・・・・・茜、もしかして・・・・・・」
「もう嫌なんです。仲の良かった友達も、優しくしてくれた人も、何時も自分で殺してきたんです。そして今度は司ですか!」
「・・・・・・・・・・・」
「もうFARGOは無くなったのに、何でこんな目にあわなくちゃいけないんです。今度は好きだった人まで手にかけろと言うんですかっ?」

 茜の気持ちは舞にもよく分かる。自分もFARGO時代には数え切れない程のロスト体を殺してきた。同い年の子供も、すこし年上の人も、年下の子供もいた。なんでこんな事をしてるのだろうと疑問に思った事もあった。ロストしながらも正気を取り戻し、泣きながら「殺してくれ」とせがまれた時には激しく後悔したものだ。辛いが、ロストした者は殺すしかない、いや、殺す事が救いだとさえ言える。ロストすればたとえ殺されなかったとしても、いずれ強大な力の負荷に体が耐えられず、やがて真空に吸い出されたかのように全身が破裂して死んでいくのだ。
 過去、ロストしながらも助かったのは舞の知る限り月宮あゆただ1人。それも、例外中の例外としか言いようの無いような事例だ。
 舞は司という人間を知らない。だが、それでも茜の反応を見れば司という男が茜にとって大事な人だということくらいは分かる。今の茜に戦えというのは酷に過ぎるかもしれないと舞は考えるしかなかった。

「・・・・・・分かった、私が殺る」
「・・・・・・え、舞?」
「私が殺るから、茜はここに居て。辛かったら見てなくても良い」
「ま、待ってください、舞!」

 舞はそれには答えず、セレスティアを司のヴァルキューレに向けて行ってしまった。残された茜はどうする事も出来ず、じっとその場に残っている。

「舞・・・・・・」

 分かっているのだ。司を殺すのは自分でなくてはならない事が。だが、理性では分かっていても感情はついてこない。相手が舞では「何も知らないくせに!」等のセリフは使えない。舞も自分と同じ地獄を見てきたのだから。
 だが、悩みつづける茜の耳元で囁く声があった。

『司が苦しんでるよ、茜』

 誰の声かと慌てて辺りを見まわすが、狭いコクピットに隠れている者などいる筈が無い。空耳かと思っていると、また聞こえた。

『司は茜に殺される事を望んでるんだよ』
「くっ、誰ですか、さっきから!」

 姿の見えない相手に茜は苛立った。何処の誰が自分に話し掛けているのだ。誰もいないはずなのに、誰かが話しかけている。みさきと付き合いの長い茜はテレパシーの存在を否定していないから、そういう能力を持った誰かかという考えもあった。
 だが、問い掛けられた相手から帰って来たのは笑い声であった。

『あはははは、そうか、茜には私が見えないんだね。でも声は聞こえてる。今までは聞こえなかったのにね』
「何を、言ってるんですか?」
『今は私の事より、司だよ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『司は茜にお願いしたよね。自分が狂ったらってさ』
「・・・・・・知った風な口を『知ってるよ』」

 最後まで言わしてもらえなかった。

「知っている?」
『うん、知ってるよ。私はずっとあなた達を見てきたから』
「・・・・・・あなたは、一体、誰なんですか?」

 茜は少し引きながら尋ねた。何者なのなのかさっぱり分からない声の主。姿は見えないのだが、どうやらすぐ傍にいるらしい相手。人間の常識を遥かに上回る知覚力を持つ自分でが、百メートル彼方にいるスナイパーの狙撃に気付く事が出来る自分が全くその存在を掴めない相手に、茜は問いかけた。

『私? 私は・・・・・・うん、いろんな名前があるけど、今はみずかって呼んでくれるかな』
「みず・・・・・・か?」

 馬鹿な、有り得ない。瑞佳。それは自分の同僚であり、友人の名前だ。

『うん、みずか。世界の心、女神、いろんなふうに呼ばれるけど、今はみずかだよ』
「世界の心、女神?」

 今日は色々と驚かされる日だ。なんでこんな非常識な事ばかり・・・・・・いや、自分も非常識の固まりか。
 なんだか悩むのが馬鹿馬鹿しくなった茜に、みずかがもう一度告げる。

『茜、司はあなたを待ってるよ。彼はまだ正気を完全には失っていないから』
「・・・・・・彼を、救う事は出来ないんですか?」

 縋るような問いかけ。絶望した人間が神にでも縋ろうとするような時、このような声を出す。そして、神が救いを求める者に希望ある答えを返す事はほとんどないのだ。

『残念だけど、司は無理なの。普通の人間に『古い者』の力は大き過ぎるから』

 よく分からない単語も出てきてるが、司を助ける事は出来ないと言いたいらしい。茜はなおも葛藤していたのだが、ようやく腹を決めた。

「もう、助からないのですね?」
『残念だけど』
「・・・・・・分かりました」

 スラスターを吹かせ、幾つもの光が彩る戦場へと機体を向けた茜。それを見送ったみずかは自分が無力である事を痛感していた。

『私は誰も救えない。世界に干渉する事も出来ず、ただ見守り、助言するだけ』

 

 ロストした司は敵味方の別無く暴れまわっている。最初は敵機を手当たり次第に破壊していくだけだったのだが、近くに敵がいなくなるや、今度は味方まで攻撃し始めたのだ。狙われたファマスパイロット達は狼狽した声を上げながら逃げ散って行くが、狙われた機体が逃げ切る事は無かった。

「な、何をする、味方だぞ!?」
「こいつ、気でも触れたのか!?」
「逃げろ、勝てる訳がねえ!」

 やがて、その悲鳴も少なくなり、遂には消え去ってしまう。今の司に対抗しうるパイロットはこの戦場にはいないようだった。
 そこにようやくやってきたのは戦場の火消し役とも呼ばれるクリスタル・スノー隊である北川、倉田大隊の一部と七瀬と中崎であった。

「ありゃ、ヴァルキューレだな」
「強いですねえ。トルクさんでしょうか?」

 出来ればヴァルキューレなんかには関わりたくない北川と佐祐理は近づく事を避け、遠巻きにヴァルキューレを包囲している。

「どうする、ヴァルキューレに当てれるか?」
「北川さんに自信が無いんだったら、私にも無理ですねえ」

 そりゃそーだ、という声が部下達から沸き起こる。乱戦中の射撃技量において北川はカノン隊でも屈指のものである事は誰もが認める所だ。近接射撃戦だけならシアンやアムロでも負ける事がある。その北川が当てられないと言うなら他の誰にも当てられないだろう。

「まあ、ああいうのは任せるわ、七瀬さん」
「O・K、任されるわ。中崎君、援護お願いね」
「へいへい、分かりましたよ」

 七瀬に付き合わされて無茶な勝負をするのは何時ものことだ。という達観を滲ませている中崎であった。

「よし、んじゃ行くか。あとは川澄さんが来てくれれば万全なんだが、仕方ないわな」
「え、あんたも来るの、北川君?」
「当然だろ、一応俺だってカノン隊屈指のパイロットのつもりだぜ。まあ、サイレンから見たら頼りないだろうけどな」

 これはいささか謙遜だろう。大隊長でなければ北川は間違い無くサイレンに列せられていたはずだからだ。そして、北川を実力に不安があるからという理由で参加させないなどという選択肢は、七瀬にあるはずもなかった。

「喜んで手を貸してもらうわ、期待してるわよ」
「おう、任せとけ」

 親指立てて通信を切る北川。この時までは、誰も司の恐ろしさを知り得なかった。今の司は、ある意味人の抗しえる存在ではなかったのである。

 迫ってくる七瀬と北川、中崎に気付いた司は、激情に満ちた視線を3機に向けた。憎しみではない、怒りでもない。それはただ破壊衝動に突き動かされている狂気に彩られている。もしこの瞳を見たものがいたら、たとえそれが十分な訓練を受けたコマンドであっても怯え、竦んでしまっていただろう。その視線には相手に根源的な畏怖を与える何かがあり、軍事訓練や戦場を生き抜いたという事では克服できない恐ろしさがある。
 3機を見据えた司は、人間のものとも思えない呻き声を漏らし、そして雄叫びを上げて機体を加速させた。

「ウオオオオオォォォォォォ!!」

 北川達は迫り来るヴァルキューレに何時もとは違う、言い知れぬ圧迫感と恐怖を感じ、近づくのを躊躇った。

「ちっ、なんだこの感じは!?」
「今まで会ったヴァルキューレとは違うわね。中崎君、あなたは遠くからお願い」
「わ、分かった。無茶すんなよ!」

 七瀬のエクスカリバーVが有線ビームサーベルを閃かせてこのヴァルキューレに向かっていく。だが、七瀬は直ぐに自分の考えが甘すぎた事を悟った。今まで相手をしてきたヴァルキューレは、たとえ相手がトルクでも追う事ができたのだが、このヴァルキューレの動きには付いて行く事が出来ないのだ。

「なんなのよこいつはっ!?」
「七瀬さん、下がって!」

 北川の声に反射的に退いた七瀬。ヴァルキューレがそれを追おうとしたが、その進路を遮るように何発ものミサイルが飛来してくる。これで距離が取れると思った北川だったが、ヴァルキューレが取った行動を見て思わず目を剥いたヴァルキューレはミサイルを見ても怯むどころか逆に突っ切ろうとしたのだ。

「馬鹿な、自殺する気か!?」

 まさかこんな無茶をしてくるとは思わなかった北川は慌てて万が一を考えてシールドガトリングを向ける。いくら重装甲のヴァルキューレといえど、近距離からこれを受ければひとたまりも無い。
 そして、北川が万が一と考えていた事態が起こった。ヴァルキューレはミサイルを両腕にマウントされている速射砲で破壊してしまったのだ。舌打ちして北川はガトリング砲のトリガーを引いた。無数の火線がヴァルキューレに突き刺さるかと思った瞬間、射線上からヴァルキューレの姿が消えた。

「何っ!?」

 ヴァルキューレを見失った事を悟った北川は急いで回避運動に入ったが、それでも間に合わず、振るわれたビームグレイブにシールドガトリングごと左腕を持っていかれてしまった。接近戦では絶対に歯が立たないことを知っている北川は反撃など考えずにひたすら機体を後退させ、逃げに入っている。それをカバーする形で再び七瀬がヴァルキューレにビームサーベルを叩きつけたが、これはあっさりと弾き返されてしまった。

「まずいわね、エクスカリバーVでも歯が立たないとなると、あとは舞しかいないのに」

 シアンかあゆ、アムロがいればという思いが七瀬の脳裏を掠めたが、所詮は愚痴でしかなかった。

「舞は、舞はどうしたのよ?」
「・・・・・・遅れた」

 七瀬の罵声に答えるかのように突き出されたメガビームサーベルが司のヴァルキューレのビームグレイブに受けとめられ、反発の火花を散らしている。間違い無く、舞のセレスティアだった。

「舞、遅いじゃないの!」
「ちょっと、野暮用があった」

 最強のシェイドの1人の出現に司は警戒の色を露にした。なまじ狂気に付かれているだけに、強大な存在に対する感知能力は高くなっているらしい。
 対する舞は慎重に相手との距離を見定めながらも、内心では焦りを感じていた。七瀬と北川を相手取って圧倒出来る相手だ。自分でも勝てるかどうかは分からない。だが、今は自分が戦うしかないのだ。

「・・・・・・七瀬、北川、援護お願い」
「舞、やれるの?」

 七瀬の不安げな声に、舞にしては珍しく気楽さを込めた声で答えた。

「大丈夫だと思う、私に勝てるのはお兄ちゃんかみさきくらいだから」
「・・・・・・あ、そ、そうなの」

 明るい舞の声に七瀬は引き気味になりながら答えた。どうやら明るい舞の声というのは少し不気味だったらしい。


 司との戦いをサイレンに任せた連邦軍はこの戦場を迂回しながらファマス軍に止めを刺すべく動き出していた。圧倒的多数の敵に堅固な防御線を敷いて抵抗するバウマン。すでにその勝敗は決していながらも抵抗を止めないファマス艦隊に待っている運命は殲滅という最悪のものだけなのだが、戦場に砲火が止む事はまだ暫く先のこととなりそうであった。



後書き
ジム改 艦隊決戦もいよいよ終盤。遂に司が暴走してしまいました。
栞   前からなんか危なかったですからねえ。
ジム改 彼がロストする事は多分予想してた人が多かったんじゃないかなあ。
栞   ですよねえ。でもなんで司さんと茜さんは残ってたんです?
ジム改 茜は舞との戦いに拘束されてた。司は撤退という頃にはすでにロストしかけてた。
栞   でも、ロストってどうして起こるんですか?
ジム改 う〜〜ん、一応理由はあるんだけど、ここじゃまだ明かさないよ。
栞   ずるいですよ、私にも教えてください!
ジム改 いや、ずるいって言われてもねえ。
栞   ふんです、こうなったら知ってそうな人掴まえて聞き出します!
ジム改 どうやって?
栞   簡単ですよ。ちょいちょいっとこの白い粉を嗅がせてやれば良いんです。
ジム改 やめんかいっ!

 

次へ>  <前へ>  <ガンダム外伝TOPへ>