外伝1 アレキサンドリアの嵐・前編
宇宙世紀0081年11月25日、ファマス討伐に向けて大艦隊が火星を目指している頃、地球各地ではジオン残党によるゲリラ活動が活発化していた。特にアフリカ、東南アジアで活動が激しく、この方面に残存する兵力がいかに多いかを物語っている。もっとも、これにはジオンとは関係ない、民族独立を掲げた武装組織や、終戦に伴って生じた大量の失業軍人による野盗などの存在があり、一概にジオン系ゲリラによる被害だけとはいえないところがある。
特にアフリカには1年戦争末期の戦いで大量の武器弾薬や放棄されており、それらを回収することでかなり大きな戦力を持つにいたった連中までいる。それらの中には装甲車やバギーといった、比較的手に入れやすい物も有れば、戦車やMSまで装備するとんでもないやつらまで存在したのである。
本来なら連邦軍はこれらの反連邦活動を鎮圧しなくてはならないのだが(実際、地域の住民や行政府からは鎮圧のための部隊派遣要請は矢の催促だった)、被災者の救援や補償といった戦後処理の方が優先されたために、一部の大きな都市、基地とその周辺意外は野ざらしにされている状態だった。
連邦軍がこういう方針をとっていたので、これらのゲリラや武装集団も無理に藪をつついて蛇を出すような愚挙には及ばず(それだけの力をもつ勢力は少なかった)、アフリカ中央部に入らなければ安全、という奇妙な状態が戦後しばらく続くことになる。
この状態に変化が生じたのがつい半月前くらいからだ。ファマスの決起と呼吸を合わせるかのようにジオン残党系ゲリラの活動が活発となり、各地の小さな補給基地や駐屯地が次々と襲撃を受ける事件が続発するようになった。もちろんそれらの多くは散発的なものであり、基地に致命的な打撃を受けるものではない。むしろ反撃にあって1人残らず全滅させられるというほうが多いくらいだ。
何故彼らがこんな無謀な攻撃に出たかというと、大きく分けて3つのパターンがある。まず一番多いのが単にその場の勢い。反地球連邦勢力が宇宙で一斉蜂起したという話を聞いて、バスに乗り遅れまいと準備もそこそこに動き出すケース。このほとんどはたいした装備も人員も持たないが、性懲りも泣くジオンの旗を掲げている連中であるが、その9割ほどは野盗と大差ない連中でも有る。当然ながら数と装備で勝る連邦の正規軍に勝てるわけもなく、パトロール部隊クラスとの戦闘でも間違いなく殲滅されてしまう。
次に多いのが食い詰めパターン。上記の一種だが、すでに食うにも困ってしまうほどに追い詰められてしまい、かといって降伏するには中途半端にプライドが邪魔する、もしくは降伏しても裁判にかけられたら銃殺間違いなしな経歴持ちという連中である。こういった連中は数が多い場合もあるが、やはり装備等は劣悪で士気も高くなく、上記同様連邦部隊に挑んでは撃破されてしまう。
問題なのは第3のパターンだ。ガデブ・ヤシンのアフリカ独立戦線や青の部隊、ノイエン・ビッター少将率いる東アフリカ方面軍第3機動師団残党などで、いずれも豊富な人員と優れた指揮系統を維持しており、複数の旧公国軍製MSを中心に多数の車両、重火器などで武装した、ゲリラというより軍隊と言ったほうがいいレベルの組織であり、幾度となく連邦軍やOAS(秘密軍事組織の略称、アフリカのゲリラ、独立運動組織などを無差別に攻撃の対象とする非合法な民間武装勢力)と激しい戦闘を繰り広げてきた。プロの軍人、もしくは歴戦の勇士が指揮をとっているため、一筋縄ではいかない狡猾さを持っている。彼らは略奪以外にも物資を得るルートを確保しており、現在に至るまで装備のレベルを維持している。
こういったゲリラや反政府組織の活発化を重視した連邦政府は、これらの掃討に部隊を投入したものの、砂漠での戦いに一日の長を持つこれらとの戦いでは言い様に翻弄されてしまい、十分なダメージを与えられないというのが現状だった。
そして、そんなゲリラの攻撃が遂にいままで半ば聖域とされてきた大規模な連邦軍基地にまで向けられてきたのである。
北に地中海を望める広大なデルタ地帯。アレキサンドリアは昔からこの辺り一体の交通の要所として重要な地位を占めていた。現在でもスエズ運河を行き来する船舶の整備、休養の為の要所としてその重要性は変わっていない。
このアレキサンドリアにはもうひとつ、別の側面もあった。軍事的要所としての価値である。ここはスエズ運河を抑える絶好の位置にあり、ここを制圧してしまえばスエズを自分のものにできたのだ。また、中東とアフリカを繋ぐポイントでもある。旧世紀にはイギリスがここを支配し、強力な艦隊と陸軍を展開させることで中東と地中海を支配していた時代がある。現在ではここには連邦軍のアレキサンドリア基地があり、地中海艦隊の最大拠点となっている。
そこから少し離れたところには演習場が存在し、同基地の陸軍や空軍の訓練がよく行われていた。
今日も演習場に4機のMSがなにやら一生懸命に動き回っている。アフリカの太陽に熱された砂の上にMSが降り立つたびに物凄い砂埃が上がり、すぐにその場から離れていく。その様子を1台のホバートラックが観察していた。
「各機、配置につきました。いつでもいけますよ大尉」
「よおし、それじゃ始めるか」
ホバートラックから1発の信号弾が打ち上げられる。それを確認した3機のRGM―79Eデザートジムは思い思いの方向から一斉に目標めがけて動き出した。どの機体もサンド系の迷彩が施され、遠目には区別がまったくつかないほどに溶け込んでいる。
この3機の猟犬に狙われている側は、特に焦った様子もあくじっと身を潜めていた。
「ハレックったら、動きが分かりやすいわねえ。ケヴィン中尉やガレルキン中尉を見習いなさいよね」
やはりサンド迷彩を施された機体は、ただじっと砂の陰に潜みながら、振動センサーだけを頼りにひたすら何かを待っていた。
そして、1機が自分の傍に差し掛かった瞬間、いきなりそれは立ち上がった。
「げっ、しまったっ!」
「もらったわ、ハレックっ」
砂を巻き上げて立ち上がった機体、デザートジムとはまったく異なったその姿を見てハレックと呼ばれたパイロットは自分の迂闊さを呪った。次の瞬間には機体に多数の玉が叩き込まれ、胸部と腰にいくつも赤い花が咲いた。
「やった、これで今日のウィスキーはハレックの奢りよ」
「ちっ、分かったよ瞳」
嬉しそうな女性パイロットの声にハレックは舌打ちしながらも頷いた。だが、そんな2人のヘルメットを怒鳴り声が襲った。
「馬鹿野郎、試験中になに無駄口たたいてやがるっ!! 2人ともそんなにマラソンがしたいのかあ!!!」
「「す、すいません大尉っ」」
慌てて謝る2人、大尉はまだ怒りが収まらないかのような声で話を続けた。
「とりあえず、千堂は試験の続きだ。まだケヴィンやガレルキンが残ってるぞ。それからハレック、あんなにあっさりと奇襲を許す奴があるか! 罰として帰ったら腕立て100回だ!」
「そ、そんなあ、堪忍してくださいよオグス大尉」
ハレックが鳴きそうな声で懇願したが、帰ってきた答えは冷たいものだった。
「なんだ、150回にして欲しいって?」
「いえ、帰還したら腕立て100回、了解しました」
いきなり礼儀正しくモニターに敬礼までするハレックを見て、オグスはもう知らんといいたげに通信を切り、自分の椅子にドサリと腰を下ろした。
「まったく、訓練だからって気を抜きやがって、あいつは」
「でも大尉、さっきのはハレックが間抜けだったって言うより、千堂の奇襲が巧かったんですよ。あのタイミングで来られてたらケヴィンやガレルキンだって避けられたかどうか」
ホバートラックに同乗している技術仕官のシンプソン中尉がやんわりとハレックを弁護する。
「そんなことは分かってるさ。だがまあ、あいつが油断してたのも事実だからな」
オグスの言葉にどこか言い訳のような物を感じて、シンプソンは苦笑を抑えるのに苦労していた。
オグスとシンプソンがハレックのことを話している間にも千堂と2機のデザートジムは急速に距離を詰めていた。いや、正確に言うなら、千堂の機体が急速にデザートジムに迫っていたのだ。
千堂の機体を目視で確認した2人はほとんど同時に左右に分かれた。
「ケヴィン、気をつけろ。あいつドム並に速いぞ!」
「分かってる。くそ、砂埃で視界が悪い!」
2機のデザートジムがほとんど同時にマシンガンを撃ちまくったが、すでにその火線上には機影はなかった。
「な、どこだ?」
「ケヴィン、左だ!」
「えっ?」
慌ててマシンガンをそちらに向けようとしたが、ケヴィンが照準を始めるより早く砂煙を貫いて無数の弾丸が機体を叩いて赤く染め上げた。
「ケヴィンっ!」
「すまんガレルキン、やられちまった!」
ケヴィン機がその場に停止する。そして砂煙が晴れた先に立つMSを見てガレルキンは我知らず息を飲んだ。
「ガ、ガンダムタイプか、噂には聞いていたが、ここまで凄いとはな」
砂漠に立つ、デザートジムよりも遥かに精悍な姿、機動性を追及するために絞り込まれたボディ、2年以上前に開発された陸戦用ガンダムタイプの一つ、ガンダムピクシーだ。青と白という鮮やかな色で塗り分けられるこの機体も、現在ではデザートジムと同じサンド系迷彩が施されている。そんなスマートな機体に不釣合いなほど大きな何かが脚部にくっついていた。
「増設ホバーユニットか、ドムのあれを真似たんだろうが、たしかに便利だよ」
ガレルキンは呟きながらも機体を走らせ、マシンガンを続けざまに撃ちまくった。だが、軽快な運動性とホバーユニットの生み出す機動性を併せ持つピクシーには掠りもしなかった。
「だああ、あたらねえどころか、ロックすら出来ねえ!」
ガレルキンの罵声が通信機を通ってホバートラックにも伝わってくる。それを聞いたシンプソンは満足そうに計器から読み取れるデータを見ていた。
そんなシンプソンの肩をオグスが親しげに叩いた。
「どうやら、熱核ホバージェットは成功みたいだな」
「ええ、ドム・トローペンのユニットをベースにしましたが、効果そのものはまあ成功といえますね」
「なんだ、随分と慎重だな。あれだけの結果が出れば十分だと思うが」
今ひとつ歯切れの悪いシンプソンの答えにオグスが不満そうな声を出す。
「まあ、性能自体は大体予定通りなんですが、少々大型化しすぎましたな。あれではジムタイプには重過ぎるでしょう」
「・・・まあ、元々は重MS用の装備だからな。ドムとジムじゃパワーも機体強度もぜんぜん違う」
「さすが、前大戦における最高のスコアを持つエースですね。ブレニフ・オグス中佐」
シンプソンがニヤリと口元を歪める。それを見てオグスは苦笑を浮かべた。
「昔のことさ。今は連邦軍大尉でしかない」
「ま、大尉の過去が何であれ、私にはでうでもいいことです。今の連邦軍を探せば素性のおかしい奴ににはこと欠かんでしょうからねえ。そいつらに比べれば大尉のほうが遥かにましですよ」
「そいつはどうも」
2人が馬鹿なことを言い合ってる間に、残るガレルキン機も撃破されてしまっていた。それをモニターで確認したオグスは苦虫を噛み潰した顔でヘッドセットの通信機を入れる。また激しい罵声が叩きつけられるのだろうと思い、シンプソンは耳を抑えて防御姿勢をとった。
基地に帰ったオグス隊は、砂にまみれた機体を整備班に預けるとようやく肩の力を抜いた。
「う――ん、やっぱり外はいいわあ。コクピットは狭くっていけない」
ガンダムピクシーのパイロット、千堂瞳はコクピットから降りるなりヘルメットを取り、涼しそうに頭を左右に何回か振った。そこに同僚のケヴィンとガレルキンがやってきた。
「よお瞳、ホバーユニットはどうだった?」
「そうですね、やっぱり足で走るよりも楽ですよ。ただ、ちょっと振動があるのと、機体が重くなった分瞬発性に難がありますけど」
それを聞いてケヴィンとガレルキンは肩をすくめた。
「俺達はあれだけ動ければ上出来だと思ったがね」
「ああ、俺達はまともにお前を捕らえることも出来なかったからな」
「それはまあ、スピードはそうでしょうね」
2人が悔しそうに言ってくるので、瞳は流石に苦笑いを浮かべて困っていた。
「ところで、ハレックはどうした?」
「ああ、ハレックだったらあっちに」
瞳が指差す先では、ハレックが必死に腕立て伏せをやっていた。
「なんだ、あいつまたか?」
「ええ、何でも私にあっさり負けたんで大尉が怒っちゃったらしくて」
「オグス大尉もほどほどにしときゃいいのに」
「ほお、じゃあ次はお前がやるか、ガレルキン?」
背後から聞こえた声にガレルキンは恐る恐る背後を振り返った。
「た、大尉、何時からそこに?」
「お前がほどほどにしときゃいいって言ったあたりだ」
オグスは日焼けした顔でガレルキンをジロリと睨み、ついで瞳に顔を向けた。
「千堂、今日は上出来だったぞ。シンプソンも喜んでたからな」
「は、はい。ありがとうございます大尉」
「それで、だ。今日はシンプソンが街で一杯奢ってくれるそうだ。どうする?」
オグスの誘いに、瞳は二つ返事で応じた。
「あの、大尉、俺達は?」
「ああ、もちろんお前達もだよ。外出許可も貰ってあるから心配するな」
それを聞いてケヴィンとガレルキンも飛び上がらんばかりに喜んだ。
「やったぜ、久しぶりに街に出れる!」
「ああ、ここんとこずっと基地で待機だったからな、いいかげんうんざりだったぜ」
「うーん、私は1800年物の白ワインがいいかなあ」
「「「そいつはやめとけ」」」
最後に漏らした瞳の呟きを聞いた3人の言葉が見事にはもった。
そこに、ようやく腕立てを終えたらしいハレックがヘロヘロになりながらやってきた。
「あれ、どうしたんすか、皆して楽しそうに?」
なんだか場違いな突込みをしてくるハレックを見て、4人は声を立てて笑い出した。それに抗議するハレックの声がやけに空しくかんじられてもいたが。
瞳たちが楽しそうに話している頃、基地を見つめている視線が複数合った。
「ジムタイプ5〜6、ザクタイプ同じく5〜6、ガンダムタイプ1、か、大体1個MS中隊って所だな」
男は素早くそれらをメモると急いで砂丘を降り、置いてあったジープに乗ってその場を後にした。
また、同じ頃にもう一つの目がアレキサンドリアを見ていた。
「ふむ、巡洋艦3隻に駆逐艦8隻、後は輸送船か。空母や戦艦は居ないらしいな」
潜望鏡を覗いていた艦長は副官の顔を横目に見て指示を飛ばした。
「よおし、一度離れるぞ。第3機動師団との連絡は取れてるんだろうな」
「はっ、それは問題ありません。連絡では部隊の展開はすでに完了し、後は開始時刻を待つだけです」
「そうか、よし、我々も一度この海域から離れるぞ。あんまり留まってると連邦軍に気取られるからな」
軍港入り口を行ったり来たりしている哨戒艇の姿を気にしてか、艦長はやや甲高い声で命令を下した。
そして、海底にじっと潜むことになる。
アレキサンドリアの夜は美しい。夜空を彩る星空もさることながら、復興された町の夜景がなんともいえない美しさをもっているのだ。もっとも、瞳はこの街の、復興景気から来る喧騒が好きではなかった。
『海鳴の静かさのほうが私には合ってるわね。ここは、乾きすぎてる』
いつもは後ろで束ねている髪を今日はそのまま流していた。近視を補うためめがねも外す。こうすると元が美女であるので瞳の美しさはかなりの物になる。学生時代にはファンクラブまであったくらいだが、それが年月を重ねたことでよりいっそう磨きがかかっていた。
「おーい、何やってんだよ瞳、置いていかれちまうぞ」
そとからハレックの呼ぶ声がする。どうやら迎えに来てくれたらしい。
「あ、御免、今行くわ」
軍服を脱いでラフな私服に着替えた瞳は慌ててバッグを引っつかむと扉を開けた。
「御免、ちょっと準備に手間取っちゃった」
両手を合わせて謝る。だが、なぜかハレックは何も言わず、ただぽかんと口を開けてこっちを見ていた。
「・・・なによ、人をじろじろ見て?」
瞳の肘をくらってようやくハレックは我に返った。
「あ、ああ、すまん、急ぐか」
「ええ、いきましょう」
ハレックと瞳は急いで基地の兵舎の前に出た。そこにはすでにケヴィンが軍用ジープを回しており、ガレルキンとオグス、シンプソンが待ちくたびれたといいたそうにこっちを見ていた。
「遅いぞ2人とも!」
「す、すいません、瞳の奴が手間取ってて」
「あ、いきなりそういうこと言う?」
あっさりと自分を売ったハレックに瞳が文句を言うが、事実そのとおりなのでそれ以上は言えなかった。
オグスはそれ以上は何も言わず、早く乗れと2人を促した。慌てて2人がジープに乗り込んでくる。それを確認したケヴィンがジープを走らせた。
アレキサンドリアの町は基地から走って数分の所にある。だからジープで出る事はそれほどの問題とはとられず、許可を願い出れば簡単に受理されるのが常だ。オグスもそうやって許可を取っていた。
市内を少し走らせたケヴィンは、一軒の酒場の前で車を止めた。基地の軍人達がよく出入りしている行きつけの店だ。
店内には彼ら以外にも10人ほどがいたが、先客を見てケヴィンがいきなり顔を顰めた。
「なんだよ、海兵どもがいるじゃねえか」
ケヴィンの台詞を聞いて先客だった海兵たちが殺気立った目でこっちを見てきた。その中の1人、一番体格のいい男が前に出てくる。
「なんだ、誰かと思ったらケヴィンじゃねえか。まだ生きてたのかい?」
「ああマクスン、あいにくとこの通りぴんぴんしてるよ」
2人の間に険悪な空気が漂う。それを後ろで見ていたハレックがガレルキンに小声で聞いた。
「中尉、誰です、ありゃ?」
「海兵隊のマクスン曹長だ。前に何度かケヴィンと殴り合ってるんだが、これが2人とも犬猿の仲でな。お互い一歩も引かないのさ。ま、ケヴィンの海兵嫌いもあるんだがね。あいつ、前は海軍の空母艦載機乗りだったからさ」
ガレルキンの話を聞いてハレックもようやく納得した。昔からの伝統なのか、海軍の兵士と海兵の兵士は仲が悪い。特に海軍のなかでもエリートと目される空母や戦艦といった主力艦の乗組員はエリート意識が強く、海兵隊を犬呼ばわりすることで知られている。ケヴィンが空母パイロットだったというならこの状態も頷ける話だった。
2人が話してる間にもケヴィンとマクスンの口喧嘩はどんどんエスカレートしていった。
「お前みたいな犬野郎は地べたを這いずってりゃいいんだよ!」
「あんな装甲に囲まれてなくちゃ怖くて戦えないような臆病者がほざくじゃねえか!」
「てめえ、俺のMSを馬鹿にしやがるのか!」
「へっ、なんだ、文句があるならかかってこいよ」
マクスンが挑発するかのように手振りで自分に誘って見せる。それを見たケヴィンは遂に切れたのか、殴りかかろうとした。だが、その手を背後から止められてしまった。
「止めて下さい中尉、私達は喧嘩しに来たわけじゃないでしょう?」
「な、は、離せ瞳。ここまで言われて黙ってられるか!」
「いいえ、離しません!」
瞳の右手にがっちりと捕まれたケヴィンの左腕はびくともしなかった。それを見てマクスンが小馬鹿にしたようにケヴィンに笑いの混じった声をかける。
「おいおいケヴィン中尉、女の手も振り切れないくらい柔になっちまったのかい?」
マクスンのからかい口調に仲間達が乗ってきた。
「仕方ないですよ曹長、なにしろあんな立派な武器で戦ってる連中ですからね」
「おお、そうだったな、いや、こいつは悪かった」
そう言って大笑いするマクスン、彼の部下らしい連中も一斉に笑い出す中で、瞳は一歩酒場に踏み込んだ。それを見てマクスンが声を荒げる。
「おい、待ちな姉ちゃん」
それを聞いて瞳はマクスンを睨み返した。
「なに、用があるならさっさと言って?」
「・・・へっ、かわいい顔して怖い姉ちゃんだな」
マクスンが大げさに肩をすくめて見せる。
「ここは俺達の貸切なんだよ。悪いが他をあたりな」
「あら、そんなのどこにも書いてなかったわよ。席も空いてるみたいだし」
瞳に言い返されて、マクスンは気分を害したのか顔を赤くして怒鳴ろうとして、直ぐにそれを収めた。なにやらニヤニヤといやらしそうな笑いを浮かべている。
「そうだな、いいぜ、入れてやっても」
「・・・・・・・・・」
「そうだな、姉ちゃんがちょっと俺達に付き合ってくれればさ。なあ?」
マクスンが部下達を振り返る。部下達もそれが気に入ったのか瞳に黄色い声を送ってきた。
それを聞いた瞳は、心の中で何かが切れるのを感じていた。
「おいお前ら、あんまり調子に乗ってると・・」
オグスが見るに見かねて静止しようとしたが、それを瞳がさえぎった。
「千堂?」
「いいんですよ大尉、付き合ってあげます」
「お、おい、千堂、お前何言ってるんだ?」
「そうだぜ、あんな奴らの言うことなんて聞く必要は・・・」
オグスとガレルキンは止めるが瞳は聞く様子もない、つかつかとマクスンの方に歩いていく。
「それで、どうすればいいのかしら?」
「なんだ、随分積極的じゃねえかよ」
マクスンの手が瞳の肩に触れた、その瞬間、マクスンは大きく宙を舞っていた。物凄い音を立てて頭から床に落ちるマクスン。自分の倍はありそうな大男を一見か弱そうな瞳が投げ飛ばしたことで、誰もがポカンとしていた。
「言ってなかったわね、付き合うのはいけど、私に触れたらただじゃおかないわよ」
倒れたマクスンを見下ろす瞳の目はかなりやばかった。
「せ、千堂の奴、あんなに強かったのか?」
オグスが顔を驚愕に引きつらせたまま呟く。そのオグスにケヴィンが声をかけた。
「た、大尉、これ見てください」
「うん、なん・・・・」
ケヴィンが見せたもの、それは瞳に捕まれた左腕にくっきりと残った手の形の痣だった。
投げ飛ばされたマクスンは最初こそふらふらしていたが、直ぐに立ち直ると怒りに燃える目で瞳を睨みつけてきた。
「て、てめえ、やってくれるじゃねえか」
「あら、結構頑丈なのね」
余裕を見せる瞳に、マクスンは罵声を上げて襲い掛かった。そこから起こった一連の出来事を正確に証言できるものはいない。ただ、徹底的に叩きのめされ、顔中痣だらけにしたマクスンがぼろ雑巾のようになって瞳の足元に横たわっていたという事実があるだけだ。
「それで、まだ何か言いたい人は?」
瞳に睨まれたものは誰も何も言おうとはせず、そそくさとマクスンを担いで酒場から消えていった。
「しかし、まさか千堂があんなに強かったとはなあ」
スコッチを手にオグスが感嘆の声を漏らす。それを聞いて瞳は気恥ずかしそうに視線を落とした。実際瞳は強かった。もしマクスンが瞳の経歴を知っていればあんな馬鹿な事はしなかっただろう。彼女はハイスクール時代、護身道と呼ばれる格闘技の世界で最強を歌われた女性で、大会ではいかなる相手も1分以内に倒したことから秒殺の女王などという二つ名を貰っていたのだ。もっとも、本人には不評だったようだが。
「いやしかし、もっと別の問題があると思うがね、俺は」
「ああ、そいつは俺も思った」
ケヴィンが何やら真剣な顔で瞳をむく。ガレルキンも同じだ。
「え、えっと、何か?」
さすがに瞳も焦った声を出す。だが、2人の目は変わらなかった。
「千堂、お前、何で今まで隠してたんだ?」
「そうだぞ、まさか身近にこんないい女がいたなんて」
ケヴィンとガレルキンが訳の分からない事を言うので、瞳は流石にあっけに取られた。
「・・・は?」
「いいか瞳、これからはその格好でこい、俺が許す」
「ああ、もちろん俺もだ」
ケヴィンとガレルキンは次々にコップを開けながら無茶なことを言い出す。その目はすでに酒に濁っていた。
困り果てた瞳はシンプソンのほうに目を向けた。
「中尉、何とか言ってくださいよ〜」
「あ、いや、僕じゃ何いっても聞かないと思うんだけどなあ・・・あ、大尉が言って下さいよ」
「な、い、いや、そこで俺に振られても・・・」
スコッチの満たされたグラスを落としそうになって慌てるオグス、だが、それを見た酔っ払い2人はオグスに絡み始めた。
「ねえ大尉、大尉もそう思うでしょう?」
「な、何がだ?」
酒くさいケヴィンに詰め寄られてオグスは見を後ろにそらせた。
「決まってるじゃないですか〜、瞳はあのままで基地に来てもいいですよねえ〜てことですよお」
「お、おいケヴィン、お前少し飲みすぎだぞ」
「いいえ、まだぜんぜん飲み足りませんよ〜」
そう言ってケヴィンはオグスの抱え込んでいたスコッチの瓶を引っ手繰るとらっぱ飲みし始めた。
「あ、こら、それは俺の!」
もう遅い、スコッチを飲み干したケヴィンは空になった瓶をテーブルに叩きつけるようにおいた。
「は〜、大尉、俺はですねえ〜」
「あ、ああ、何だケヴィン・・・」
心底迷惑そうなオグスだったが、酔っ払いに何を言っても無駄なことが分かってるだけに顔を顰めながら付き合っていた。
その向うではシンプソンがガレルキンに絡まれていた。
「いいかシンプソーン、大体技術屋ってのはだなあ〜」
「あああ、だれか、何とかしてください」
シンプソンは泣きそうな目で瞳を見たが、瞳は視線をそらせた。見捨てられたことを悟ったシンプソンは泣きそうな顔でガレルキンの話に付き合わされていた。
おかげで自由になった瞳に、ハレックが話し掛ける。
「ところで、お前転属願い出したんだって?」
「・・・相変わらず情報が速いわねえ。ええ、本当よ」
「また、あの命の恩人さん、か?」
ハレックの声に若干の嫉妬が雑じる。瞳はこの青年が自分に好意を寄せてくれていることは知っていたが、それに答えられないことも分かっていた。
「ええ、ようやく見つけたのよ。今、宇宙軍の機動艦隊にいるわ」
「機動艦隊? あの、水瀬提督の?」
秋子の人気は凄い。その名は地上軍でも広まっているのだ。
「ええ、通称カノン隊、そこでMS隊隊長をやってるらしいわ」
「・・・そうか・・・でも、いいのか?」
「なにがよ?」
「もし、その人にもう恋人とかがいたらってことだよ。お前の一方的な片思いなんだろ?」
ハレックに言われて、瞳は返答に屈したが、すぐに微笑を浮かべるとグラスに残っていたワインを一気に飲み干した。
「そうね・・・でも、その場で諦める気はないわよ。勝負は最後まで分かんないもの。私がしつこい女だってこと、知ってるでしょう?」
「・・・そうだったな」
そう呟いて、ハレックもグラスに残っていたワイルド・ターキーを一気に飲み干した。胸に残る失恋の痛みとともに。
『ま、分かってたことさ。こうなる事はな』
夜もふけてきた頃、ようやく酒宴も終わり、6人は店を後にした。驚いたことに、あれほど酔っていたケヴィンとガレルキンだったのだが、店を出るときにはしっかりと自分の足で歩いていたのだ。
「お前らとは鍛え方が違うんだ」
というのはケヴィンの言葉である。
夜の街をジープで走っていく。いつもと変わらない光景。そう、今までは。
突如響き渡る風を切る音。空を横切っていくいくつもの光、そして街と基地の双方から聞こえてくる爆発音と地響き。
「な、なんだぁ!」
ハレックが運転席で驚きの声をあげる。その疑問にガレルキンが答えた。
「攻撃だな。海の方からだから・・・多分ユーコン級潜水艦の対地ロケット弾だろうな。飛んでくる数からして1隻じゃないな」
冷静なガレルキンの声を聞いて熱くなりかけていたハレックも何とか冷めた。
「じゃあ、またゲリラですか?」
「ゲリラなのは間違いないが、こいつはまたじゃない」
ガレルキンの声が低くなる。
「攻撃の規模が大きすぎる。こいつはいつものゲリラ攻撃じゃない。本格的な軍事行動だ」
ガレルキンの言葉に頷いたオグスは、運転しているハレックの肩を叩いた。
「そういうことだ、とにかく基地に急げ、このままじゃどうにもならん」
「は、はいっ」
オグスに促されて、ハレックはアクセルを踏み込んだ。
そしてオグスは瞳に声をかけた。
「千堂、どうやら初めての実戦になりそうだ。気をつけろよ」
「はい、こういう状況には結構なれてますから、大丈夫です」
「慣れてる?」
瞳の返事に疑問を感じたオグスは聞き返した。
「はい、私の住んでた旧日本地区にある海鳴市は、最前線でしたから」
「・・・・・・そう、か」
オグスが何も言えずにそう呟いた頃にはジープは基地に入っていたが、基地の状態は惨憺たる物だった。多数のロケット弾に掘り返された地面。穴だらけの滑走路。そして吹き飛んでいる格納庫。
オグス達はジープをシンプソンに任せると、走って自分達の機体がある格納庫に急いだ。出撃していくガンタンクUの脇を抜けて駆け込んだ格納庫では、自分達の機体が大急ぎで整備されていた。
「おい、出れるか!」
「あ、大尉、とりあえずハレックとケヴィンのデザートジムと大尉のジムカスタムは出れます。ガレルキンと千堂のはもうちょっと待ってください!」
整備兵が返事を返してきた。それを聞いてオグスは舌打ちしたが、仕方なく部下達を振りかえった。
「仕方ない、ハレックとケヴィンはついてこい。ガレルキン、千堂を頼むぞ」
「任せてください」
ガレルキンが請け負う。それを聞いて3人は急いで自分の機体に走っていった。
格納庫内にアナウンスが流れる。
「オグス隊が出るぞ、整備兵は道を開けろ!」
それを聞いた整備兵たちが急いでその場から非難していく。足元がクリアーになったオグス達は急いで出発していった。
「行くぞ、俺達はとりあえず基地周辺の警備だ。どこの馬鹿が来るかも知れん、用心しろ」
「「了解!」」
だが、格納庫を出るなりケヴィンが目にしたものは、直撃を受けて大破する連邦使用のザクUFUだった。
「なんだ、バズか?」
ケヴィンがマシンガンを構えて注意深く周囲を伺う。そして、後退してくるガンタンクUに出会った。
「おい、何があった?」
「ジ、ジオンだ。ザクとドム!」
「ちっ、やっぱりか」
ケヴィンは舌打ちするとガンタンクUの前に出た。続いてハレックとオグスも来る。
「大尉、敵はザクとドムらしいです。先に出た奴らがどうなったかは分かりません」
「そうか・・・ハレックは援護しろ。俺とケヴィンが前に出る」
ハレックのデザートジムが一歩下がり、ガンタンクUと並ぶ。
「でも大尉、何で今ごろ奴らは動き出したんでしょうね?」
「さあな、大方宇宙の騒ぎに同調したんだろうが」
無駄口はそこまでだった。闇夜をついて2機のデザートザクと1機のドム・トローペンが踊りだしてくる。それに大してケヴィンのマシンガンが唸りをあげたが、弾のことごとくは虚しく宙を切っていった。
「くそ、こいつら巧い!」
初弾が外れたのを悟ったケヴィンは急いで走り出した。何時までも一ヶ所にいるのは危険極まりない。だが、このときケヴィンはツキに見放されていた。彼が動いた先にもう1機のザクがいたのだ。
「な、しまっ・・」
彼は最後まで言うことが出来なかった。ザクの持っていた連邦使用の360ミリバズーカが吼え、ボディに直撃を食らったのだ。胴体を吹っ飛ばされたデザートジムが爆発し、周囲を照らし出す。
「ケヴィンっ!」
オグスが部下の名を呼ぶが、声は返ってこない。ケヴィンが死んだことは確認するまでも無く明らかだ。オグスは唇を噛み、闇から湧き出してきたMSを睨みつけた。その数はすでに6機を数えている。
オグスは、かつては友軍であり、自分も愛用していた旧ジオン製の機体に憎悪の篭った視線を叩きつけた。
「よくもケヴィンを!」
オグスのジムカスタムから正確無比な弾丸が叩きつけられる。前大戦中、無駄弾を出すことを極端に嫌い、正確無比な射撃で連邦MS193機、艦船8隻を撃破した連邦、ジオン両軍を通じて最高の戦果をあげたトップ・エース、連邦軍を震え上がらせたブレニフ・オグス中佐の神技が迫り来るデザートザクを撃ち抜き、破壊してしまう。
オグスに1機を撃破された他の5機はオグスを警戒したのか、やや遠巻きにこちらを迂回しようとしていた。それを察したオグスは後ろにいるハレックとガンタンクUに呼びかけた。
「奴ら、ここを迂回する気だ。させるな!」
「「了解」」
オグスに言われてハレックのマシンガンとガンタンクUの全身に装備された火器が唸りをあげて弾幕を張る。その弾幕にさらされたゲリラのMSは流石に前に出るのを躊躇った。こういう時はガンタンクUの重火力は頼りになる。
「ようし、後は応援が来るまで持たせるだけだが・・・」
その時、基地の背後で火柱が上がった。
「しまった、海からもか!」
オグスはユーコンの存在を失念していた事に気づいた。ユーコンがいるなら当然水陸両用MSだって装備しているだろう。自分達はまんまと陽動にひっかっかてしまったのだ。
湾口施設に襲い掛かったのは2機のMSM−03ゴッグと1機のMSM−03Cハイゴッグ、それに3機のMSM−07ズゴックだった。沖合いの対潜機雷源を突破してきたものらしく、何機かは損傷が見られる。
これらの水陸両用MS部隊は港に停泊している船にメガ粒子砲を叩き込み、ガントリーを叩き壊し、倉庫を踏み潰した。もちろん連邦軍も無力ではなく、直ぐに迎撃に出てくる。湾口周辺に配備されていた旧式の61式戦車や基地周辺の沿岸砲台、無事だった停泊艦艇が次々と砲撃を加える。だが、それらによる反撃はMSに決定的な損害を与える前に次々と無力化されていった。特に3機のズゴックタイプは市街地に入り込んだ為に正確さを欠く沿岸砲台や艦艇は手を出すことが出来ず、地上部隊の近接攻撃以外に対処の仕様が無かった。航空機が使えれば楽だったのだろうが、最初のロケット攻撃で穴をあけられており、まだ修理が終わっていない。
地上で装甲車に乗っていたマクスン達は何も出来ない自分達の不甲斐なさを嘆いていた。
「畜生、市街地を盾に取られるなんて、何やってんだ!」
「仕方ないっすよ曹長、俺達じゃMSはどうにも出来ないんすから」
「じゃあ、このまま黙ってろってのかよ」
怒鳴ってみたところでどうにかなる訳でもないが、それでもマクスンは怒鳴らずに入られなかった。だが、基地のMS隊は砂漠からやってきた敵に釘付けにされているという話だから、ここにはあれをどうにかできる戦力は無かった。
その時、一条の光が空を駆け抜け、市街地に入り込んだ1機のズゴックを貫いた。貫かれたズゴックはよろめき、崩れ落ちるように仰向けに倒れてしまった。
「な、何だ、ビーム?」
マクスンたちが空を見上げると、1機のMSが自分達を飛び越していくのが見えた。
「あ、あれは?」
「たしか、曹長を叩きのめしたあの美人さんのMSですよ」
「何だと、あの女か!」
マクスンが部下のほうを向いたとき、さらに1機のデザートジムが脇を取りぬけていこうとして、自分達に顔を向けた。
「おいマクスン、暇なら砂漠の方に行ってくれ。向うじゃ歩兵部隊が苦戦してる」
「その声はガレルキンか・・・・分かった、行くぞ!」
ガレルキンに言われて、マクスンは声の届く範囲にいる連中を集めて移動を開始した。自分達でどうにかできる相手がいるなら、そっちを相手にしたほうがいいと考えたのだ。
一方、残ったズゴック2機を見て瞳は怒りに燃えていた。
「よくも、よくも街をこんなにしてくれたわね!」
瞳にはおそらく、1年戦争で戦火に巻き込まれた海鳴の街が重なって見えるのだろう。あの時もジオンのMSは街を焼き払い、住んでる人を殺していった。
「あんた達は、後何人殺せば気がすむの!」
瞳の怒りを乗せて、ガンダムピクシーがズゴックに襲い掛かっていった。
登場人物
千堂瞳 女性 20歳 准尉
士官学校卒業を控え准士官。パイロットとしては優れた才能をもっており、頭もいいので将来的には優秀な指揮官になるだろうと思われている。ハイスクール時代に1年戦争を経験しており、その体験が元で軍人を志している。現在は現場での訓練中で、これが終了すれば晴れて正規の軍人となるのだが、彼女は卒業前に実戦を経験することになってしまった。
じつは、大戦中に自分を助けてくれた連邦軍パイロットに憧れており、その人を追って軍に入ったというのが真相でもある。
ハレック・ボードマン 男性 20歳 准尉
瞳と同じく士官学校の生徒で、瞳と一緒にここに配属されている。パイロットとしての技量は可もなく不可もなくといったところで、新兵ならこんなものだろうというレベル。そのためかよく腕立て伏せをやらされており、基地に響く悲鳴は名物ともなっている。陽気で好感の持てるいい人。
ブレニフ・オグス 男性 34歳 大尉
アレキサンドリア基地の実験小隊を率いる隊長で、瞳達の戦技教官でもある。実は元ジオン軍中佐で、大戦末期にはMS教導団で教官すらやっていた。大戦中を通じて最高の戦果を上げたトップ・エースでもある。戦後はジオン軍自体が解体され、新たに共和国軍となったのだが、不況に喘ぐ共和国では軍人全てを共和国軍に編入させることも出来ず、多くが職を失って路頭に迷う結果となった。オグス中佐は仕方なく連邦軍に入隊することで安定を得る道を選んだのだが、これはオグスだけでなく、他にも生き残った名のあるパイロットが幾人も同様の道を選んでおり、別段珍しい行為というわけでもない。
訓練には厳しいが彼個人としては極端に控えめな性格で、部下に戦果を譲ってやるような部下思の指揮官であったことが知られている。ジオンで教官をやっていた頃は訓練不足の兵を前線に出すことに終始反対の立場を取り、上層部と対立することもあったという。
ケヴィン 男性 26歳 中尉
オグスの部下で一年戦争の生き残り。性格はやや短気で乱暴だが、からっとした面をもつ好青年である。パイロットとしては1年戦争を戦い抜いただけあってなかなかのもので、熟練兵といっても差し支えないレベルである。
ガレルキン 男性 28歳 中尉
ケヴィンと一緒に戦争を生き抜いた古参の軍人で、ケヴィンに比べると冷静な男である。もっぱら暴走しがちなケヴィンを止めるのが彼の仕事で、よく騒ぎ立てるケヴィンを引きずっていく光景を見ることが出来る。
マクスン 男性 26歳 曹長
海兵隊の歩兵曹長。現場たたき上げの兵士で、自分の技量に絶対の自信を持っている。MSパイロットを装甲に囲まれて戦争やってるひ弱な奴らと馬鹿にしており、そのことでケヴィンとよく対立している。別名「赤毛のマクスン」
機体解説
RX−78XX ガンダムピクシー
武装 90mmマシンガン 又は ビームライフル
頭部60ミリバルカン
ビームダガ―×2
ビームサーベル
<解説>
オデッサ作戦からアフリカ戦の頃に投入されたMSで、ガンダムタイプの陸戦用主力MS。本来ならアムロが乗るはずだったが、結局本人には届けられなかった。戦後は特に後継機が作られるでもなく、アレキサンドリア基地で新兵器のテストベッドとして使われている。なお、実験機的な扱いを受けていることから機体は数度に渡って改修されており、1年戦争の頃よりは性能が向上している。
RGM−79E デザートジム
武装 90mmマシンガン
頭部60mmバルカン
シールド
<解説>
ジムのマイナーバージョンの一つで、砂漠戦に適応するよう関節の強化や防塵処理等を受けている。武装その他は特に変更は無く、現在では二戦級の機体である。
RMV−1 ガンタンクU
武装 ライフル砲×2
4連装ロケットランチャー
3連装ミサイルランチャー
<解説>
ガンタンクの後継機、というか、進化した戦車。ただ、火力そのものは圧倒的で、数両がチームで行う制圧射撃は重砲1個大隊並みの砲力を発揮したという。現在でもMSや戦車部隊の火力支援機として重要な役割にあり、旧式機の割には各地で運用されている。なお、現在の生産はより高性能なガンタンクV、ガンタンクWに移行している。
MSM−03 ゴッグ
武装 メガ粒子砲×2
魚雷発射管 又は ミサイルランチャー
レーザー砲×2 又は フォノンメーザー×2
フリージーヤード
アイアンネイル×2
<解説>
初の実用型水陸両用MS、M型ザクの使えなさに後継機が望まれ、結果生まれたのが本級である。世界初のメガ粒子砲を搭載したMSで、潜航に必要な強度を機体構造ではなく、装甲の分厚さで賄ったというかなり強引な機体である。どちらかというと水中戦の方が得意であり、陸に上がるとその重量からくる動きの鈍さの為にいい的となってしまったようだ。しかし、それでもゴッグの性能は高く、特に機雷源の突破などの任務には最適であったといわれている。なお、フリージーヤードというのは頭から出して機体を包んでしまうゲル状の幕で、機雷やソナーに感知されにくくなるという兵器である。また、レーザーやフォノンメーザーは頭部に設置されており、航行中に機雷や魚雷などを排除するのに使われていた。
MSM−03C ハイゴッグ
武装 メガ粒子砲×2
魚雷発射管×4
バイスクロウ×2
増設型大型ミサイルランチャー
<解説>
ゴッグの改良型だが、どう見ても原形を留めてはいない機体。ゴッグの改良型というより、ズゴックとゴッグの間の子といったほうが正しいだろう。性能は防御力以外の全ての面で向上しており、水陸両用機の一つの到達点とも言える優れたMSだが、完成が遅すぎたために戦局には寄与しなかった。
MSM−07 ズゴック
武装 メガ粒子砲×2
バイスクロウ×2
ミサイル発射管×6
<解説>
ゴッグに対して陸戦を得意とするMSである。総合性能ではゴッグに勝るといわれるズゴックだが、水中戦ではゴッグには勝てなかったようで、多くの部隊では両タイプを混在させた部隊編成をしている。しかし、ズゴックによる上陸、破壊、撤退という通り魔的な戦法はかなり有効で、連邦軍に大きな損害を出させている。
61式戦車
武装 150mm砲×2
<解説>
1年戦争時の連邦軍主力戦車だが、すでに戦争の時点で旧式化していた。1年戦争中に多くが失われているが、それでもまだ多数が現役に残っており、一部は改装を受けて別のタイプの車両へと変わっている。現在ではより新しい81式戦車やガンタンク系列機に主力の座を譲っており、遠からず第一線から引くことになるだろう。
後書き
ジム改 地球の、アフリカ戦線を舞台としたお話です。
瞳 うーん、私って、士官学校をまだ出てないの?
ジム改 うむ、この任務を終えれば卒業予定だ。ハレックもそうなるだろうね。
瞳 でもさあ、この書き方だと私ただのあばずれ女じゃないの?
ジム改 気にするな、悪酔いした暴れ者にはこれくらいでちょうどいいんだ。
瞳 そうかなあ・・・
ジム改 飲み会に行ってみれば分かるさ・・・(遠い目)