アレキサンドリアの嵐 後編

 街を盾に取るズゴックを一機撃破した瞳は、残る2機のズゴックと対峙していた。
「これ以上、好きにはさせない!」
 ピクシーの両足につけられたホバーユニットがピクシーに爆発的な加速を与えている。元々重MS用に開発されたこの装備を軽量級のピクシーが積んでいるのだ。質量差から来る余剰パワーは凄まじかった。
「なにい!」
 ズゴックのパイロットが驚く間もなく、あっと今に懐に飛び込まれる。ズゴックは慌ててバイスクロウをピクシーに叩き込んだが、接近格闘戦でピクシーに勝る運動性を持つ機体は存在しない。ズゴックのバイスクロウを避けたピクシーの手には、近接戦用のビームダガ―が握られていた。
 残る一機のパイロットは、味方が崩れ落ちるのを見て流石に恐怖に駆られたらしい。じりじりと海の方に下がりだす。
 もちろんそれを見逃すような瞳ではなく、残る一機に視線を向けた。
「残ったのはあなただけね」
 ピクシーが一歩を踏み出す。それを見たズゴックのパイロットは右腕をまだ無事な市街地に向けた。
「ま、まて、それ以上近づいたら街にビームを叩き込むぞ!」
 通信機から放たれた脅しを聞いて、瞳は機体を止めた。ぎりっと音を立てて歯を噛み締める。
「ひ、ひ、卑怯・・・」
「いいか、動くなよ。動いたら・・・」
 ズゴックはじりじりと海の方に下がっていく。瞳はそれを黙って見送ることしか出来なかった。やがて、ズゴックが海に消えたのを見て瞳は左の手のひらに右手拳を打ちつけて悔しがった。
 同じ頃、軍港の騒ぎも終わりに向かっていた。3機のゴッグは湾口施設で暴れまわったが、駆けつけて来る戦車やMSが増えるに従って被害がうなぎ上りに増えだしたのだ。
 流石に不利と考えたのか、1機のゴッグが海に飛び込んだ。それを見て残る2機も海に向かいだしたのだが。1機のゴッグが巡洋艦の8インチ砲の直撃を受けて仰け反った。そこに駆けつけて来た61式戦車と81式戦車の砲火が集中し、滅多打ちにされる形でゴッグは動かなくなった。後1機、残ったハイゴッグも急いで海に向かったが、後ろから追いすがってきたガレルキンのデザートジムに捕まってしまった。
「逃がすか糞野郎!」
 90mmマシンガンが唸りを上げる。ハイゴッグは両腕で機体を庇いながら何とか海に逃げ込んだ。逃げられたのをガレルキンは悔しがったが、海に入られてしまった以上後は海軍に任せるほか無かった。

 陸戦のほうは、ケヴィンを失ったものの残ったオグスがエースの意地を見せ、ノイエン・ビッター少将率いる部隊の浸透をかろうじて退けていた。
 ビッターはやたらと正確な射撃を送ってくるジムカスタムに正直感嘆と苛立ちを感じていた。
「ええい、まさか連邦にこれほどのパイロットがいようとは・・・」
 彼はすでに1機のザクを失い、3機のザクが被弾、後退するという、ここ1年で最大の損害を被っていた。攻撃の規模を考えれば十分許容できる範囲の損害なのだが、今のビッタ―にしてみれば何よりも貴重な稼動MSである。一機でも失うのはやはり痛かった。
 さらにこれに加えて歩兵や戦車、装甲車の損害はまったくの未知数だ。どうなっているかを把握するなど出来る相談ではない。
 実際のところ、地上部隊の先頭はビッタ―の連れてきた自分の部下達とアフリカ独立戦線の要する機甲部隊が押し寄せており、警備隊程度でしかなかった歩兵隊は大苦戦を強いられていたのだ。
「おい、まだ応援は来ないのか!」
「・・・・駄目です、通信が混乱していて、連絡がつきません!」
 その時、近くに大口径の弾が落下した。猛烈な振動の後に砂が降り注ぎ、しばらく会話を不可能にする。
「連絡がつかなくたって、ちょっと見れば分かりそうなのに・・・」
 基地外周の陣地にいた警備隊の隊長はそう言って混乱から立ち直っていない司令部を罵倒したが、咎める者はいなかった。誰もがそう思っていたというわけでもなければ、単に咎めるだけの余裕が無いのだろう。
「少佐、駄目です、重機の弾がありません!」
 機関銃中隊を預かる大尉が情けない声をあげる。機関銃陣地にはそれほど大量の弾薬を常備してあるわけではないのだ。重機の弾が切れれば制圧力を失い、一気に敵兵に陣地を抜かれてしまう。隊長は流石に顔色を失った。
「どうします、ここを放棄して後方の陣地に逃げますか?」
「・・・・・・仕方ないな。まだ弾があるうちに後退だ。そこで第2線を敷くぞ!」
 隊長の決断を聞いて通信士が信機を動かそうとして、雑音混じりに入ってくる通信に気づいた。しばらくじっとそれに耳を傾ける。そして立ち上がったときにはそこ顔は歓喜に満ちていた。
「た、隊長、援軍です!」
「なにっ、どこからだ!」
「さっき通信機が電波を拾いました。海兵隊がこっちに向かっています!」
 しばしの間、即席の警備隊本部は沈黙に包まれ、次の瞬間には歓声が爆発した。誰もが喜び、肩を叩き合った。
「そいつを皆に教えてやれ、もう少し持たせれば助けが来るぞ!」
「はいっ」
 通信士が通信機を操作して全部隊にそれを伝達する。それが伝播するに従って反撃の音が激しくなったような気がした。

 警備隊が苦戦しながらも戦線を支えていたとき、警備隊にじわじわと圧力をかけていたアフリカ独立戦線側は切り札の投入を決意していた。アフリカの各地に放棄されていた擱座した車両を改修し、使えるパーツをかき集めて何台もの戦車や装甲車、ジープやホバーなどを作り上げていたのだ。
 指導者であるガデブ・ヤシンの命令を受けて旧ジオンの代表的戦車であるマゼラアタックや連邦軍の61式戦車が肩を並べて前進していく。それらの多くは標準的な外観をしているが、中には妙な武装をしていたり、まったく原形を残していない車両も混じっていた。
 連邦軍警備隊の兵士達は地響きと共に迫ってくる戦車や装甲車を見てさすがに悲鳴をあげた。彼らは戦車に対処するような武装を持っていなかったのだ。重機関銃や手榴弾では戦車は倒せない。最前列の兵士達が陣地を捨てて逃げ出そうとして、マゼラアタックの3連装機銃に薙ぎ倒されてしまう。だが、そのマゼラアタックも突然キャタピラを爆発で吹き飛ばされ、擱座してしまった。地雷原にひっかっかってしまったのだ。
 地雷原の存在に気づいた各戦車は慌ててその場に停止し、進路上を滅多撃ちにし始めた。砲撃で地雷を吹き飛ばそうというのだ。警備隊はなけなしの地雷を正面に薄く敷設していたのだが、その地雷が目の前で無力化されていくのを、兵士達は恐怖に満ちた顔で見ていた。
 警備隊長も例外ではなく、顔色が絶望に青ざめている。だが、その隊長の耳に別の音が響いてきた。慌てて背後を振り向き、今まで青ざめていた顔に血色が戻っていく。ようやく海兵隊が到着したのだ。装甲車から次々と完全武装の歩兵が降りてくる。
「ようしお前ら、急いで布陣しろ。いいかあ、奴らを一歩も通すなよ。連邦海兵隊の意地を見せてやれ!」
 マクスンが部下達に発破をかけ、それに部下達が威勢の言い返事を返してくる。マクスンがそれに満足そうな顔をしていると、警備隊長が駆け寄ってきた。
「やっと来てくれたか」
「はっ、とりあえず1個小隊ですが、直ぐに戦車部隊も駆けつけるはずです」
「うむ、助かったよ、ありがとう曹長」
 少佐に肩を叩かれ、流石のマクスンもやや緊張してしまった。
 
 地上戦は歩兵同士の乱打戦から戦車や装甲車を加えた機動的な戦いへと移り始めた。連邦軍は数が多く、しかも最新鋭の81式戦車まで投入しているので旧式を中心とするアフリカ独立戦線の戦車は苦戦を強いられていたが、連邦軍も決して圧倒できているわけではなかった。アフリカ独立戦線側が投入している小型フライトシステム、通称ワッパと呼ばれる1人から3人くらいで動かすホバーユニットに対戦車ライフルなどを乗せた高速部隊が巧みに左右に回りこんで銃撃をしてくるので、連邦戦車も不用意に突出出来ないでいたのだ。
 これらの高速ホバー部隊には戦車砲は有効ではなく、歩兵隊の重機関銃部隊が戦車の脇を固めて掃射する以外に対処法が無いという厄介なものだった。もっとも、これを最初に取り入れたのは連邦軍で、MSに対しては下手をすると戦車よりも有効に対処できた場面もあったという。
 地上戦がそんなありさまなのでMS戦も混沌としてきていた。地上が乱戦となっているのでお互いに同士討ちを恐れて銃撃を控えざるを得なくなったのだ。ビッタ―率いるMS隊が体勢を立て直すためか後退していくのを見て、ようやくオグスも一息つくことが出来た。
「どうにか引いてくれたな。大丈夫かハレック?」
「な、何とか無事ですが、もう残弾がありません」
「馬鹿、無駄弾を撃ちすぎるからだ。一度帰って補給して来い」
 オグスはそう言ってハレックを下がらせたが、内心では初陣を生き残ったことを誉めてもいいと思っていた。新兵は初陣で戦死することが最も多い。その門さえくぐればあとは何とかなるものなのである。
 だが、MSが引いたのを見たことでオグスにも油断が生じてしまった。そのことが致命的な失敗を生んでしまう。機体のセンサーが近くを駆け抜ける移動物体を捕らえたときには、それはすでに自分達の近くに迫っていたのだ。
「何だ、ホバーか?」
 慌てて確認し、その姿を捉えて罵声を放った。
「78式浮行戦車だと!」
 まっすぐにこちらに向かってくるそれらのACV、要するに陸戦艇に向けて頭部60mmバルカンとジムライフルを掃射する。78式浮行戦車は装甲が極めて薄く、当たり所によっては歩兵の重火器クラスでも致命傷となってしまうほど脆弱なので、これで接近を防げると考えたのだ。たしかにオグスの考えは図にあたり、こちらに向かってきた内の3台はひっくり返り、1台は直撃を受けて粉々に砕け散った。残る4台はその進路を変えたのでオグスは危機を脱したが、変わりにその4台は無防備になったハレックのデザートジムとガンタンクUに向かっていった。
「いかん、後ろだハレック!」
「え?」
 ハレックのデザートジムと、突っ込んできた78式浮行戦車のビーム・キャノンがビームを撃ち出したのはほとんど同時だった。腰と頭部に直撃を受けたデザートジムがうつ伏せに倒れ、その隣を走っていたガンタンクUも特徴的なライフル砲を吹き飛ばされ、キャタピラを切断されてしまった。
 それだけの戦果を上げると78式浮行戦車は急いで離脱にかかったが、MS隊の苦戦を見て取った装甲車部隊が30mm機銃を掃射した。2台を火線に絡めとって撃破したが、残る2台はスピードに物を言わせて遁走してしまった。
 8台の78式浮行戦車部隊は6台を犠牲にして1機のデザートジムと1台のガンタンクUを破壊したのだ。大戦果を上げたといえる。
 オグスはこの78式浮行戦車の存在は知っていた。1年戦争後期に連邦軍が投入してきたACVで、ジオンMSパイロットからは“MSキラー”として忌み嫌われていたことも。この小型の陸戦艇に多くのMSが撃破されていることも知ってはいた。だが、まさかそれをゲリラが持っているとは思っていなかった。流石の彼もこの陸戦艇が機体の価格や維持コストが安く、高い整備性を持つとは知らなかったのだ。ビーム兵器を持つくらいだからゲリラでは維持できない。という先入観を抱いていたのが失敗だったといえる。
 オグスが呆然と見ていると、擱座したガンタンクUからパイロットが這い出してくるのが見えた。どうやら無事だったらしい。彼は直ぐに装甲車に乗せられ、後方に運ばれていく。パイロットを地上戦闘で失うのは避けねばならないのだ。
 だが、何時までたってもハレックは出て来なかった。機体がうつ伏せに倒れているために出られないのか、それとももう死んでいるのか。オグスは不安を隠し切れないまま倒れているデザートジムをひっくり返そうとしたが、それよりも早く敵が戻ってきてしまった。
 機体のセンサーが敵の接近を告げる。コクピットに響き渡る警告音を聞いてオグスは舌打ちした。
「くそっ、もう来たのか!」
 仕方なくまた機体を正面に向ける。この頃になってようやく援軍が到着しだしたが、ザクUF2が3機に61式戦車が5台ではどうにも苦しかった。
「いいか、絶対に前に出るな。フォーメーションを崩したら殺られる」
 オグスを中心にMSが前衛を固め、61式戦車隊は突入してくるアフリカ独立戦線の戦車や装甲車、ワッパなどを防ぐために歩兵隊後方に布陣した。
 先ほどから絶え間なく砲弾が飛来してくる。着弾と同時に炸裂しているところから戦車の放っている榴弾だろう。
『こいつらじゃない、MSはどこだ・・・』
 この戦場に集まっているMSの中で最も優れた電子装備を持つジムカスタムのセンサーがMSを探す。だが、結果としてジムカスタムのセンサーよりも早く第3者からの通信が答えを出してくれた。
「オグス大尉、あなたの正面3キロほどにザク6機、グフ1機、ドム1機がいます。あと、大きく回りこむように2機のザクと1機のドムが右から来ています!」
「何だと、どうして分かった?」
「上空を見てください。海軍哨戒部隊のドン・エスカルゴ202号機です。こちらが襲撃されてると聞いて救援に駆けつけました」
 オグスは慌てて上空を見上げた。すると確かに1機のドン・エスカルゴが戦場の上空を旋回していた。
「ありがたい・・・そのまま上空で敵情を報告しつづけてくれ。もう少し高度を取らないと落とされるぞ」
「了解、このまま監視を続けます」
 オグスに言われてドン・エスカルゴは徐々に高度を上げ始めた。夜間ということもあってある程度高度を取れば地上からの砲火ではまず撃墜されることは無い。オグスはそう判断すると正面を向いた。
「全員聞いたなあ、正面と右に注意しろ。来るぞ!」
 だが、オグスが警告してもそれを生かせるだけの技量を彼らは持たなかった。ザクシリーズは連邦にMSという兵器が登場する以前の機体で、MSクラスの火器に耐えられるほどの装甲は持っていないのだ。もちろん1発や2発では破壊されることは無い。ザクの装甲は1000メートルくらいから放たれる61式戦車の砲弾にも何とか持ち堪えるほど頑丈なのだ。だが、一度に何発も直撃を受ければMSでも破壊されてしまう。61式戦車の150mm砲に比べて砲身が短く、口径も小さく、初速にも劣る90mmマシンガンがザクを撃破し得るのはひとえに一度に何発もの直撃を出せるからなのだ。
 だからジムやグフはシールドを持っている。ドムは装甲自体を分厚くしている。ゲルググは装甲をドムより強化しながらもさらにシールドまで持たせ、さらにブロックビルドアップ、要するに機体を幾つものブロックで分けるブロック構造という考え方。これにより被害が他の部位に及ぶのを防ぐことが出来、生産性や整備性も向上する。これらの導入によって非常に高い生存生を確保している。だが、ザクは機本設計にそういう自体が考慮されていなかったので、装甲をあまり強化できない機体なのだ。あまり重くすると機動性を損ない、ただの的となってしまう。
 だから、彼らは最初の銃撃を防ぐことは出来なかった。口径の異なる幾つもの火線が闇の彼方から飛来し、1機のザクUF2が直撃を受けて頭部を破壊されてしまった。これでこの機体は戦力にならない。
 オグスはジムライフルを正面に掃射したが、命中した感触は得られなかった。
「くそっ、レーダーも赤外線センサーも役に立たない・・・ドンエスカルゴ202号機、照明弾を投下してくれ!」
「了解」
 オグスの要請を受けてドン・エスカルゴが照明弾を投下する。しばらくして空に巨大な光が幾つも生まれ、暗かった戦場を照らし出した。すると、今まで闇に潜んでいたMSや戦車がようやくオグスの視界に飛び込んできた。
「いたな、ハイエナどもめ!」
 ジムライフルが再び唸りを上げ、一番近くにいたザクに命中弾を送り込んだ。そのザクは何十発という高速徹甲弾に機体を撃ち抜かれ、バラバラになって砂漠に破片をぶちまけた。
 また1機撃破されたことでビッタ―は流石に焦りを覚えた。いくら宇宙の戦いに呼応して動いたとはいえ、このままでは損害が致命的なレベルに達してしまう。全ては目の前にいる1機のジムカスタムのせいなのだが、こういう事態を想定できなかった彼の油断であっただろう。しかしまあ、今回ばかりは相手が悪かったともいえる。何しろ1年戦争のトップエースを相手取っているのだ。むしろ全滅しないだけ凄いというべきかも知れない。
 だがまあ、それでも圧倒的な数の差を前にオグスのMS部隊は着実に押されていた。さらに、右側からきた砲火が決定的な事態を招いた。ドン・エスカルゴ202号機に警告されていたにもかかわらず、オグス達は右からの奇襲を許してしまったのだ。残っていたザクのうち1機が轟音と共に上半身を爆砕されてそのまま転がっていく。オグス自身もシールドにジャイアントバズの弾をまともに食らってしまい、左腕を半ば吹き飛ばされてしまった。
「しまったぁ!」
 後悔してももう遅い。ジムカスタムはこれでシールド無しで戦わなくてはいけない上に、もう弾装の交換も出来なくなったのだ。
 迫り来るザクやドムを見て、流石のオグスも弱気になった。
「こいつは、俺も年貢の納め時かな」
 迫り来る敵MSの重厚がすべてこっちを向いているような気さえする。ここを突破されたらあとは敵MSの赴くままに基地は蹂躙されるだろう。しかしまあ、自分が死んだ後のことまで責任は持てない。と考え、オグスは周囲を見渡した。
「やれやれ、どうせ死ぬならもう少し見栄えのするとこの方が良かったんだがな。まあ、いいか・・・」
 静かに直撃弾が自分を吹き飛ばすのを待つ。だが、何時までたっても直撃は来なかった。変わりに背後から無数の火線が自分を避けるように敵に向かって飛んでいくではないか。その中には明らかにビームの光まである。
「な、なんだ・・・?」
 流石のオグスも事態の急激な変化についていけなかった。だが、通信機から飛び込んできた声が彼に全てを教えた。
「大尉、無事ですか、大尉!」
「・・・千堂、か?」
「はいっ、よかった、無事でしたね。助けにきました!」
 今まで港に行っていた瞳とガレルキンが援軍と共に駆けつけたのだ。ピクシーの持つビームライフルが戦場を貫き、ゲリラのMSに向かっていく。遠くから放たれたそれは当たることは無かったが、パイロットの士気を砕くには十分すぎる効果があった。
「ビ、ビーム砲か!」
 1年戦争上がりのジオンパイロットはビーム兵器を極度に恐れている。特にガンダム系MSが装備していたビームライフルはアムロの2号機の神話的な活躍と共に伝わり、ジオンパイロットに恐怖を植えつけていたのだ。そして今、あの化け物じみた伝説と共にあの恐怖が目の前に表れた。
 それを見たパイロットの1人が恐怖に満ちた声をあげる。
「しょ、しょ、少将・・・」
「なんだ、ブルーバー?」
「わ、私は・・・目がおかしくなったようです」
「なんだ、何を言ってるんだ?」
 ビッタ―は部下が錯乱したのかと思った。だが、次の部下の叫びを聞いて彼も血が凍るかのような恐怖を感じた。
「ガ、ガ、ガンダムです。連邦の白い奴です!」
 通信波に乗ってその叫びが伝わっていく。ビームライフルを持った、ガンダムタイプのMS。それはジオン系の軍人全てが絶対に戦いたくないと思っていた組み合わせである。木馬の白い悪魔と戦った部隊は必ず全滅する。というのは単なる比喩ではなく、確かな現実だった。それだけに彼らは恐怖した。あの怪物が自分達の前にいる。
「しょ、少将、逃げましょう!」
「ば、馬鹿者、貴様、それでもジオン軍人か!」
 ビッタ―は部下の弱腰を叱責したが、そういう彼も操作スティックを握る手の震えを押させることが出来なかった。
 しかし、ガンダムの登場を除いても、すでに彼らに勝機は無かった。MSこそたったの2機が来ただけだったが、6台のガンタンクUと1個大隊の戦車部隊が駆けつけて来たのだ。さらに上空からはフライ・マンタ戦闘爆撃機やマングース地上攻撃機といった機体が飛来し、地上車両や歩兵に爆弾を叩きつけ、75mm対戦車砲を撃ち込んでいく。500キロ、250キロといった爆弾が唸りを上げて地上に、車両に向けて落下し、炸裂するたびに戦車や装甲車の残骸が舞い、兵士の死体が吹き飛ばされた。あるいはマングースの75mm対戦車砲が戦車の上面装甲に叩き込まれていく。上面装甲を撃ち抜かれた戦車はその場に停止して動かなくなったり、火柱を吹き上げて爆発していく。
「連邦軍の卑怯者がっ!」
 61式戦車の車長の1人はこう叫んで空から襲い掛かってきた強敵を罵ったが、それでフライ・マンタやマングースがいなくなるわけでもない。ただ、唯一の救いは飛来した数はフライ・マンタが3機、マングースが1機だったということだ。マングースはネズミを狙う猛禽のように戦車や装甲車を追いまわし、中口径の対戦車砲弾を叩き込んでいく。戦車や装甲車は必死にこれを避けようと逃げ回るが、空を飛ぶ地上攻撃機から見れば地を這う亀でしかなかった。
「MSは何やってる、俺達のミンチを連邦に食わせるつもりか!」
 爆風に顔を顰めながら現地人の歩兵が怒鳴る。もちろんMSも怠けていたわけではない。空にかまっている余裕が無いだけだ。
 ビッタ―は反撃しながら必死に部隊を後退させていた。駆けつけてきた2機のMSと6台の戦車もどきのせいで作戦は完全に頓挫してしまった。特に6台の戦車もどきが加えてくる砲撃は凄まじい威力があった。あまりの弾量に身を隠している遮蔽物が粉々にされてしまう。
「ええい、仕方ない、撤退だ!」
 ビッタ―が仕方なく後退を許可する。それを受けて今まで必死に交戦を続けていた部下達が後退して行く。だが、連邦軍はただで彼らを帰してはくれなかった。
 瞳は、倒れているデザートジムと、2つに分かれているデザートジムの残骸を見て流石に色を失った。
「・・・ハレック・・・ケヴィン中尉・・・?」
「大尉、ハレックは、ケヴィンはどうしたんです?」
 ガレルキンの問いかけに、オグスは力なく首を左右に振った。
「すまん、ケヴィンはボディにバズを食らった。即死だった。ハレックは確認はしてないが、多分・・・」
 オグスの話を聞いて、瞳とガレルキンは怒りに燃えた。復讐に目を濁らせている。
「よくも・・・・・・よくも2人を・・・」
「・・・・・いくぞ、2人の敵を討つ」
 ガレルキンが駆け出し、ついで瞳もホバーを作動させた。それを見てオグスが焦った声を出す。
「ま、待てお前ら、2機で突っ込むのは危険だ!」
「大尉、今は行かせてください。このままじゃ収まりません!」
 ガレルキンがそう言ってきたのを最後に、2人は一方的に通信を切った。
「おい、聞いてるのか2人とも、おい!」
 ガレルキンは、切られている通信機に向かって呼びかけを続けていた。
 追われる側になったビッタ―達はいよいよ窮地に立たされた。数こそ僅か2機だが、ガンダムが含まれているのだ。だれもこの前に立とうとは思わなかった。
「少将、ガンダムが追ってきます!」
「振り返るな、砂漠の機動性なら我々に分がある!」
 部下の悲鳴に、ビッタ―は自信を持って答えた。砂漠の移動に慣れている自分達のほうが連邦MSよりも確実に速く動ける。そう考えての発言だったのだが、続く部下の悲鳴に彼もパニックに陥った。
「駄目です、ガンダムが追いついてきます!」
「そんな、馬鹿な!」
 間違いなかった。砂煙を上げてガンダムが追いすがってくる。ドムすらも凌ぐ圧倒的な速さだった。
「馬鹿な、連邦のMSがホバーだとお!」
 ビッタ―が驚いている暇もなく、瞳のピクシーはようやく最後尾のザクを射程に捕らえた。
「まず、1機!」
 トリガーを引き絞る。ビームライフルからビームが撃ち出され、ザクのすぐ脇を貫いた。
「しょ、少将、狙われてます!」
「直進するな、蛇行しろ。狙い打たれるぞ!」
 言われて最後尾のザクは蛇行を始めたが、すでに瞳はザクをロックオンしていた。再びビームが闇を貫き、そのザクを貫いた。核融合炉に直撃されたそのザクはその場で大爆発し、近くにいたビッタ―達を衝撃波でもみくちゃにした。
「ぬぐうううう!」
「少将、このままじゃ逃げ切れませんよ!」
 部下の1機がビッターに近寄ってくる。
「しかし、相手はガンダムタイプだぞ。われわれの装備で戦えるのか?」
「私が相手をします。その隙に皆を連れて脱出してください!」
「馬鹿な、自殺する気か!」
 さすがに驚愕し、部下を怒鳴りつけるが、それでもそれ以外に方法はないかもしれないと思ってはいた。
「いいから行ってください。私1人で皆が助かるなら安いものです!」
 そう言って機体を翻した。
「待て、トーマ!」
 ビッターの静止も届かない。反転したザクはピクシーと交戦していた。

 瞳はザクが反転したのを見てそのザクに照準をあわせた。
「馬鹿ね、1機でガンダムと戦うつもりなの?」
 瞳はそのザクを無謀だと思っていた。何しろガンダムタイプの装甲は材質が決定的に違う。ザクの使える装備では撃破は不可能とまで言われるほどの、理不尽なまでの重装甲が特徴なのだ。たとえヒートホークで斬りつけたとしても、頭部などの致命的な部位でない限りヒートホークでは一撃でガンダムタイプを破壊することはできない。ましてザクマシンガンではほとんど傷つかない。という手に負えない相手なのだ。
 だが、このザクのパイロットは瞳よりも遥かに場馴れしていた。彼はザクを使った砂漠の動き方を骨の髄まで叩き込んだ、歴戦のパイロットなのだ。
「行くぞ、白いやつ!」
 トーマはバックパックのスラスターを吹かせる事で砂煙を巻き上げ、一気に視界を奪った。
「あ、光学センサーが!」
 視界を奪われたことで瞳は焦りの声をあげた。幾らビームライフルが強力でも、見えない敵は撃てない。きょろきょろと辺りを見回す辺りに経験の浅さが見て取れる。
 一方、トーマはピクシーの位置を掴んでいた。経験からピクシーの位置を読み取っているのだ。
 砂煙をついて現れたザクに、瞳はとっさに動くことができなかった。
「機体が幾ら凄くても、素人ではなあ!」
 トーマのザクは振り被っていたヒートホークを振り下ろした。それは僅かにそれ、ピクシーに左肩に深深と突き刺さっている。
「ちっ、頭部を外したか・・・・・・だがそれではもう左腕は使えまい」
 トーマはヒートホークを抜くと更なる一撃を加えようと振り被ったが、そこに多数の弾が撃ちこまれてきた。ピクシーの頭部60mmバルカンだ。連邦MSの標準的な装備だが、至近距離でないと効果は薄いという代物だ。それでもこの距離なら十分な効果がある。トーマのザクは60mmバルカンに蜂の巣のごとき有様にされて崩れ落ちた。核融合炉の誘爆を起こさなかったのが不思議なくらいだ。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・・敵は?」
 慌ててレーダーを見るが、すでにそこにはMSの姿はなかった。ただ、後ろから近づいてくる友軍を示す光点が近づいてくるだけだ。


 駆けつけてきた歩兵が蜂の巣になったザクから這い出てきたパイロットを拘束している。瞳は初めての実戦が終わったことにたいして実感がなかったが、ガレルキンのデザートジムを見て徐々に感情が追いついてきた。
「ハレック・・・ケヴィン中尉・・・」
 もう、いつも明るかった同期生も、軽口を叩いて場を明るくしてくれた喧嘩っ早い上官もいない。基地も破壊され、多くの仲間が死んでしまった。
「千堂、よく生きて帰った」
 ガレルキンが通信を入れてきたが、瞳には返す元気はなかった。ただ、機械に任せて基地に帰るだけだ。ガレルキンも瞳の心情を察してか、それ以上のことは言わない。
 2人が帰還してきたとき、防衛線だった一帯では生存者の救助が行われていた。体の一部を失った兵士が担架で車両に運ばれていく。軽症の者は即席の野戦病院で応急手当を施されている。
「かなり、死んだみたいだな」
 ガレルキンの呟きが重くのしかかる。結局、自分は守れなかったのだ。こうしてMSに乗っていても。
 落ち込む瞳に、オグスが通信を入れてきた。
「千堂、無事だったか。よかった」
「・・・・・・大尉・・・?」
 瞳は、どこか焦点の合わない目でオグスを見ていた。俗に言う、戦場神経症に近い症状だ。新兵がかかりやすい。
「千堂、しっかりしろ。まだ基地に帰って機体を整備兵に預けるまで仕事は終わったことにはならんぞ」
「・・・・・・大尉・・・私は・・・」
 瞳の口が何かを呟く。だが、それは言葉にはなっていなかった。オグスは肩をすくめると誰かを呼んだ。
「お――い、瞳―?」
「・・・・・・・・・・・・」
 通信機から、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「お――い、聞こえるか瞳?」
 もう一度聞こえた。
「返事してくれよ〜、寂しいよ俺」
「・・・・・・ハレ・・・ク?」
 信じられない、という顔で呟く。
「ああ、俺だよ。何、死んだと思った?」
 茶化すようなハレックの口調に、瞳は嬉しいを通り越して激しい怒りが込み上げてきた。
「ちょっとあんた、生きてるなら生きてるって言いなさいよ。何死んだ振りなんてしてるのっ!」
「いや・・・別に死んだ振りしてたわけじゃ・・・」
「いい訳なんか聞きたくないわ。帰ったら地獄に送ってあげるから覚悟してなさい!」
「なあ、ちょ、ちょっと待て瞳!」
「言い訳は聞きたくないって言ったわ!」
 取り付く島もない瞳の態度に、片腕を包帯で吊ったハレックは泣きそうな顔をオグスに向けた。
「た、大尉、何とか言ってやってください」
「・・・・・・いや、こうなったら、俺にできる事は一つだな」
「何ですか?」
 ハレックが期待に顔を輝かせる。
「・・・ハレック、病室か霊安室を一つ空けさせとくから」
 帰ってきたのは、見捨てたも同然なお言葉だった。
「た、大尉ぃぃぃ〜〜〜!!」
 ハレックの絶叫が響き渡り、次いでガレルキンと瞳、オグスの笑い声が通信波に乗って響き渡った。


 あの戦いから10日後、瞳は基地に救援物資を運んできたミデア輸送機に便乗する形で基地を離れることになった。数日前に行われた宇宙での戦いで友軍が惨敗し、宇宙軍の再建が急務となったためだ。つまり、瞳は補充として宇宙に上がることになったのだ。これにあわせて瞳は士官学校から卒業辞令をもらい、少尉に任官している。
 飛行場には仲間たちが見送りに来ていた。
「千堂、宇宙は地球とは違う、気をつけろよ」
 オグスがそう言って右手を差し出してきた。瞳は目を潤ませてそれを握り返す。
「大尉こそ、無理しないでくださいね。もう若くないんですから」
「やれやれ、最後まで一言多い奴だ」
 オグスは苦笑して瞳を送り出した。
「千堂、カノン隊は凄腕ぞろいだ。お前でもその他大勢かもしれんぞ」
 ガレルキンらしい忠告だ。
「大丈夫ですよ。カノン隊のエースに食い込んで見せます」
「まっ、それだけ気が強ければ大丈夫か」
 ガレルキンは珍しく朗らかな笑顔を浮かべている。
 そして、シンプソンが残念そうな顔で握手を求めてくる。
「君は実にいいテストパイロットだったんだがなあ、せめて今やってるテストが終わるまではいてほしかったよ」
「大丈夫ですよ、まだガレルキン中尉がいます」
 瞳はシンプソンの手を握り返して答えた。
 そして、最後に車椅子に乗ったミイラが話し掛けてきた。
「・・・・・・・・・まあ、元気でな」
「ええ、またどこか出会いましょう、ハレック」
 ミイラ男はハレックだった。あの後ほんとに全殺し寸前までやられて、全治1ヶ月の外傷と、あわせて6箇所の骨折を負っている・・・・・・よく生きてたもんだ。
「ハレック、もう少し注意深くならないとこの先危ないよ」
「ああ、これからは気をつけるさ。そういう瞳こそ、宇宙で死ぬんじゃないぞ」
「ええ、私はまだ死ぬつもりはないわ」
 そう言って、瞳は最後にハレックの頬に素早くキスをして離れた。
「それじゃ、皆元気でっ!」
 瞳は荷物を背負うと、元気よく手を振って皆に別れを告げた。皆は千堂に手を振り返していたが、ハレックは硬直したままであった。

 この後、瞳がカノン隊に合流するのは数ヵ月後、ファマスへの再侵攻作戦が開始されてからになる。


人物紹介


ノイエン・ビッタ― 少将 ?歳東アフリカ方面軍第3機動師団
 ジオン東アフリカ方面軍第3機動師団の師団長だった男。戦後は部下を引き連れてダイアモンド鉱山後に潜み、ゲリラ活動を続けてきた。人望に厚い将官で、前線勤務を好む。いわゆる武人タイプで、やや猪突の傾向がある。

機体解説

マゼラアタック
兵装 175mm低反動砲×1
   3連装機銃×1
   スモークディスチャージャー×6
<解説>
 ジオン軍の主力戦車だが、低反動砲を採用してることからも分かるが対戦車戦用とは言いにくい。さらにサイズは61式戦車の倍近く、車高も高いことからあまり前には出れなかった。さらに砲塔自体がマゼラトプとして空を飛ぶことができるという特徴があるが、僅か5分しか飛べず、しかも安定した飛行は望めないという点が大問題で、ほとんど単なる脱出装置でしかなかった。
 これらの問題から本車は正面戦闘よりも、自走重砲の代わりとして使用されていた。

81式戦車
兵装 150mm砲×1
   12.7mm機銃×2
<解説>
 61式戦車の後継として開発された主力戦車。150mm砲一門と火力は落ちているように見えるが、61式戦車との弾薬の共通化、高性能な光学照準器の採用や、今まで考慮されていなかった上面装甲の強化など、1年戦争の戦訓が生かされている。また、主砲も150mmながら極めて装甲貫通力の高い長砲身砲を採用しており、新型徹甲榴弾の採用と合わせてザクぐらいなら1000メートルの距離から十分撃破する戦闘力を持っている。

フライ・マンタ
兵装 3連装対地ロケットランチャー×2

<解説>
 1年戦争中の連邦軍主力戦闘攻撃機。とにかく多数が配備されており、連邦軍でももっともポピュラーな機体となっている。空戦はドップより弱いが、本機の真価は強力な地上攻撃能力にある。この多数のロケットランチャーと、パイロンに装備された爆弾によって多くの車両やMSを葬り去っている。

マングース
兵装 75mm対戦車砲

<解説>
 左右非対称の双胴機。強力な地上攻撃機のはずだったが、今ひとつ性能を生かしきれなかった。MSが現れてからは本機の攻撃力は中途半端なものとなり、徐々に前線から離れてしまう。だが、侵攻作戦では本機の性能は非常に頼りになり、撤退するジオン地上車両を狩り出す猛禽として、ジオン兵からは死神のごとく恐れられている。

ドン・エスカルゴ
兵装 対戦魚雷
   機銃
<解説>
 連邦軍の誇る対戦哨戒機。ジオンの水陸両用MSの天敵で、これによって撃破されたゴッグやズゴックは数知れない。配備数も多く、どこの沿岸基地でも見ることができる。

ミデア
兵装 機銃
<解説>
 連邦軍の誇る主力輸送機。最大で200トンの搭載能力を持ち、垂直離着陸能力まで持っている高性能な機体。連邦軍の将兵からは心から頼りにされ、戦後にはある将軍が1年戦争の勝利をもたらした3つの兵器の中に本機を上げているほどの活躍を示している。

78式浮行戦車
兵装 ビームキャノン×1
<解説>
 1年戦争中後期、大量に配備された小型陸戦艇。ホバーで移動する車体に旋回式のビームキャノンを一門装備し、スピードと低い車体を生かしてMSや戦車に肉薄、ビームを撃ちこんで逃げるという通り魔的な戦法を得意とする。だが、装甲は無きに等しく、重機関銃の掃射ですら撃破されることがあったという。
 戦争中、本車はMSキラーとして全てのジオンパイロットに恐れられたという。


後書き

ジム改 というわけで、瞳ちゃんの初陣はなかなか過酷なものでありました。

瞳   うー、結局街は守れなかったわけ。

ジム改 そうだけどね。少なくとも今回の戦いは戦争じゃ無いよ、相手はルール無用のゲリラだからねえ。

瞳   つまり、正規軍同士なら街を破壊しなかったってこと?

ジム改 少なくとも、好き好んで民間人を巻き込んだ市街戦をやりたがる軍隊はそう無いだろうね。政治
    的にも人道的にも非難の対象になるし。

瞳   でも、奇麗ごとじゃ戦えないでしょ?

ジム改 時によりけりだね。リスクを負ってでもやるだけの価値がある作戦ならやるだろうし、相手が街
    に立て篭もってるなら受けてたつしかないからね。でも、第2次大戦みたいな無差別戦略攻撃は 
    できないよ。やったら1年戦争のジオンみたいに他の全てを敵に回しちゃう。

瞳   でも、今のジオンは英雄っぽくなってるけど。

ジム改 それは連邦の戦後政策の失敗のせい。戦後の保証をきちんとやっていればこんな事にはならなか
    ったんだけど、戦後の軍部の権力が強すぎて、軍事独裁政権になっちゃってたからねえ。軍人が
    政治に手を出すとろくな事にならないってこと。

瞳   つまり、今のジオンは反抗の象徴みたいなものなのね。

ジム改 そういう事。でもまあ、実際に残ってるのは英雄というより、単なるテロリストなんだけどね。