第6章  変化



 キラとキースは前のデプリベルトで得た戦利品を弄繰り回していた。ほとんど無傷のシグー。これはなかなかに美味しい収穫だったのだ。乗れるのはキラだけだが、無いよりはあった方が良い。

「やれやれ、ほとんど問題無いな。バッテリーさえ充電すればすぐにでも使えるぞ」
「キースさん、なんでMSの整備なんか出来るんです?」

 キラが不思議そうに問いかけるが、キースはニヤリと笑うだけで答えなかった。代りにキラに別のことを聞いてくる。

「なあキラ、こいつに乗ってるOS、ナチュラル用に改造できるか? なんならストライク用のOSを改造してくれても良いが」
「そりゃあ、出来ると思いますけど、キースさんが乗るんですか?」
「そいつは分からないが、できるならやっておいてくれ。お前が艦を降りる前にな」

 キースの言葉に、キラはもう月艦隊との合流が近いのだという事を思い出した。そう、月艦隊と合流できれば、自分は地球に降りられるのだ。
 これまで何かとキースに助けられて来たことを思い出し、キラはその足をシグーに向けた。これが、せめてもの恩返しかもしれないと考えながら。

 

 ラコーニ隊と合流したクルーゼ隊は、ラコーニにラクスを預けて再びアークエンジェル追撃に向おうとしていた。
 アスランはラクスを迎えに来た。扉の前に立ち、深呼吸をして声をかける。

「お迎えに上がりました」

 アスランが中に入ると、いきなり目の前にピンクの固まりが飛び出してきた。

「ハロ・ハロ・アスラ−ン!」
「うおっ!」

 慌ててアスランはそれをキャッチした。ラクスがくすくす笑いながら言う。

「ふふふ、ハロがはしゃいでましたわ。久しぶりにあなたに会えて嬉しいみたいです」
「ハロにそんな感情みたいなものを与えた覚えは無いんですが」

 久しぶりに見るラクスの笑顔にアスランは一瞬見惚れてしまった。それを見たラクスが不思議そうに首を傾げる。

「どうかなさいましたの、アスラン?」
「い、いえ、何でも無いです!」

 慌てて顔を背けるアスラン。内心の動揺を隠そうとしているのだが、見ているラクスはちょっと残念そうだった。

「あー、えっと、御気分はいかがですか・・・・・・その、人質にされたり、いろいろありましたが、体調とかは大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですわ。あの船の方々は、良い方ばかりでしたから」
「・・・・・・そうですか」

 アスランはあの艦にいた奇妙な男を思い出した。名前は分からなかったが、面白い男だった。自分の敵意と警戒心を何時の間にか忘れさせ、対等に接していた。
 そして、キラも・・・・・・

「キラさまは、あなたのお友達なんですのね」
「どうして、その事を・・・・・・」
「キラさまから聞きましたわ」

 アスランの顔に苦いものが混じる。

「あいつは、馬鹿です。軍人でもないのにあんな物に乗って!」
「・・・・・・・・・・・」
「あいつは利用されてるだけなんだ。友達とかなんとか言われて・・・・・・あいつの両親はナチュラルだし・・・だから・・・・・・」

アスランは最後まで言うことはできなかった。自分を見詰めるラクスの目が、クルーゼを制した時の光を宿していたから。

「アスラン、あなたは友達がキラさまを騙していると、そう仰るのですか?」
「・・・・・・そうでなければ、どうしてあいつが僕と戦うんです?」
「キラさまの友人の方々は、みんな優しい方でしたわ。キラさまのように。キラさまがあの方々を守りたいという気持ち、私にも分かります」
「ラクスっ!」
「私の一時とはいえ、あの方々と接しましたわ。そして、あそこで悲しいものも目にしました」

 ラクスの視線に厳しさと悲しさが混じる。

「キラさまの友人の女性のお父様が、地球側の艦隊にいたそうです。彼女は目の前で父を失いました」
「そ、それは、戦争だから・・・・・・」
「ユニウス7でお母様を失ったあなたが、それを言うのですか、アスラン?」

 ラクスの言葉に、アスランは答える術を持たなかった。母を殺されたからザフトに入り、地球軍と戦ってきた。それが間違っているとはこれまで考えた事も無かった。だが、自分の手で誰かを自分と同じ境遇に追いこみ、自分と同じ苦しみを味あわせていると言われたら、動揺しない方がおかしかった。

 自分の言葉がアスランを追い詰めてしまった事を悟ったのか、ラクスはいつもの笑顔に戻った。

「すいません、言い過ぎました」
「・・・いえ、あなたの言うことは間違っていません。僕は、人を殺しているんですから」

 2人は格納庫に来た。そこにはクルーゼたちが見送りに来ている。仮面に隠された表情からはその内心を伺う事は出来ない。

「クルーゼ隊長にも、色々お世話をかけました」
「お身柄はラコーニが責任を持ってお送りするとの事です」
「ヴェザリウスは追悼式典には戻られますの?」
「さあ、それは分かりかねます?」

 アスランから見て、その言葉の掛け合いは不思議なものだった。互いに何かを隠しているような、探り合っているような印象を受けるのだ。

「戦果も重要な事でしょうが、犠牲になる者の事もどうか、お忘れなきよう」
「・・・・・・胆に銘じましょう」

 それで、2人の会話は終わりだった。最後にラクスはアスランを振りかえり、穏やかな表情で問いかけた。

「何と戦わねばならないのか、戦争は難しいですわね」
「・・・・・・はい」

 寂しげに答えるアスラン。先のラクスの言葉が胸につっかえているのだろう。ラクスはニッコリと微笑むと、アスランの頬にそっと口付けをした。

「お早いお帰りをお待ちしておりますわ、アスラン」
「ラ、ラクス!」

 慌てふためくアスランを置いて、ラクスはさっさとランチの方に行ってしまった。残されたアスランは真っ赤な顔のままでまだあたふたしており、仲間たちに冷かされている。
 その冷かしている仲間の中にミゲルの姿があった。アスランは何時の間にか自分をどついているメンバーにミゲルの姿があるのを見て驚いた。

「ミゲル、もう良いのか?」
「ああ、体に問題はなしだ。すぐにでも復帰できる。今度は俺のジンを持ってきたしな」
「そうか。じゃあ、次は一緒に戦えるんだな」

 アスランは久々に笑顔を見せた。魔弾の射手、ミゲル・アイマン。クルーゼ隊で少し外れた意味で1番危険な男である。

 

 アークエンジェルを追撃している巡洋艦ガモフでは、イザークとディアッカ、ニコルが揉めていた。月艦隊が迫っている状態で、アークエンジェルに手を出すかどうかが問題であった。

「確かに、月艦隊との合流前に足付きを捕捉する事は出来ますが・・・・・・」

 ニコルは気が進まなそうであった。なにしろ戦闘可能時間がたったの10分程しかないのだ。だが、イザークとディアッカは違っていた。

「10分はあるって事だろ」
「臆病者は黙ってるんだな」

ニコルの慎重論をいつものようにディアッカとイザークが嘲笑う。

「10分あると見るか、10分しかないと見るかだ。俺は10分もあるのにそれを見逃すなんてのはご免だな」
「同感だ、奇襲の是非は、その実働時間で決まるもんじゃない」
「それは分かりますけど・・・・・・」

 なおも難色を示すニコルを無視し、イザークは言った。

「ヴェザリウスはすぐに戻ってくる。その前になんとしても足付きは沈める」

 ようするに、功績争いだ。イザークはアスランがいない今のうちに足付きを沈めたという実績が欲しいのだ。

「いいな、ニコル?」
「OK」

 ディアッカはすぐに乗ってきた。ニコルも渋々ではあるが頷く。これで、攻撃が決定された。

 

 アークエンジェルはようやく月艦隊との合流を目前にしていた。中にいる避難民たちも安心しているようで、会話にも明るい話題が増えてきている。食堂ではキラもトールやミリアリアとこれからについて話し合っていた。少し離れた所ではキースが本を手に紅茶を飲んでいる。因みに食堂に紅茶など置いてはいない。

「月艦隊と合流できたら、僕達も降ろしてもらえるんだよね」
「当然だろ。俺たちは元々軍人じゃないんだし」

 トールはあくまで気楽だ。だが、ミリアリアもキラも地球に降りれると期待しているのだ。今になってそんな不吉なことを口にする者などいない。
 暫く談笑していると、2人の前に座っていたミリアリアの顔色が変わった。どうしたのかと2人が振りかえると、2人も固まってしまった。そこにはフレイが立っていたのだ。

「フレイ、良いの? まだ休んでたほうが・・・・・・」

 ミリアリアが席を立ってフレイに声をかけるが、フレイはそれが聞こえていないかのようにキラの方にやってくる。以前の出来事を思いだし、キラは体を固くした。
 フレイは俯いたままキラの前まで来た。

「キラ・・・・・・」

 今度は何を言われるのかとキラは身構え、トールとミリアリアは表情をきつくする。

「・・・・・・あの時は、ごめんなさい」
「え・・・・・・」
「あの時、私・・・・・・パニックになっちゃって・・・・・・凄い酷い事言っちゃった」

 チラッと見上げたフレイの目に、涙が浮かんでいる。

「ごめんなさい、あなたは一生懸命戦って、私たちを守ってくれたのに・・・・・・私・・・」
「フレイ! そんな、良いんだよ、そんなの・・・・・・」

 キラの胸がじわりと暖かくなった。嫌われてしまったと思っていた。憎まれて、もう2度と口もきいてもらえないと思っていたのに、フレイは許してくれたのだ。自分だって辛いだろうに。

「ありがとう、フレイ。僕こそ、お父さんを守れなくて・・・・・・」

 キラは一瞬言葉に詰まる。フレイは言った。

「戦争って嫌よね・・・早く終わればいいのに・・・・・・」

 突然艦内に警報が鳴り響く。それを聞いたキラとトール、ミリアリアは席を立ち、食堂を飛び出した。だが、そこで1人の女の子にぶつかってしまう。

「あ、ご免、大丈夫・・・・・・」

 ぺったりと尻餅をついてしまった幼女を助け起そうとするが、それを遮るようにフレイが前に出る。

「ごめんねえ、お兄ちゃん、急いでるから」

 フレイは優しい手つきで女の子を抱き起こした。

「また戦争だけど、大丈夫。このお兄ちゃんが戦って守ってくれるからね」
「ほんとぉ・・・?」

 女の子はおずおずとキラを見上げる。フレイは強く頷いた。

「うん、悪い奴はみぃんなやっつけてくれるんだよ」

 キラは女の子に何か言おうとしたが、背後からトールに呼ばれて慌てて走り出した。

「・・・そうよ」

 フレイは呟いた。

「みぃんなやっつけてもらわなくちゃ・・・・・・」
「いたぁい!」
 フレイの手に突然力が篭り、女の子はその手を振り払った。そしてフレイを見上げた女の子は、その表情に恐怖を感じてべそをかきながら駆けて行ってしまった。
 1人残された事に気づくでもなく、フレイは調子の外れた声で繰り返す。

「そうよ、みぃんなやっつけてもらわなくちゃ、せんそうはおわらないんだから・・・・・・」

 ただ1人だけ、そのフレイを見ていた者がいたが、その人影は声をかけることなく立ち去ってしまった。


 迎撃に出たストライクとゼロ、メビウス。対するのはブリッツ、バスター、デュエルだ。
 キースはキラとフラガに通信を入れた。

「俺がローラシア級を仕留めます。大尉とキラはXナンバーを頼みます!」
「やれるか、一人で?」

 フラガが心配そうに問いかけるが、キースは親指を立てて見せた。

「任せてください。航行不能くらいには追いこんで見せます。艦船撃沈スコア6隻の実績を信じてください」
「・・・・・・分かった、帰ってこいよ」

 フラガが許可を出す。それを聞いてキースは一直線にローラシア級巡洋艦ガモフに向った。それを見たニコルが焦った声を上げる。

「緑色のメビウス。まさか、エメラルドの死神ですか!?」
「どうしたニコル?」
「大変です、緑色のメビウスがガモフの方へ!」

 エメラルドの死神は艦船攻撃に長けている。下手したらガモフが沈められかねない。母艦を失ったらいくら3機が強力でも戦闘力を失ってしまうのだ。

「チィィ、どうする、イザーク?」
「俺が戻る、2人はこのまま足付きを!」
「「了解!」」

 デュエルが戻った。バスターとブリッツはそのままアークエンジェルに向って行く。戻るイザークは嬉しそうに呟いていた。

「緑色のMA。あの時はよくもコケにしてくれたなあ。あの屈辱、返させてもらうぞ!」

 前の交戦でストライク撃破を邪魔し、デュエルに傷をつけたMAを許すつもりはイザークには無かった。だが、やはり向こうの方が速く、デュエルの加速では追いつけない。ガモフが一撃加えられるのは覚悟しなくてはならないようだ。

 バスターの相手はフラガのゼロが引き受け、ブリッツの相手はストライクがしていた。ガモフの主砲がアークエンジェルを襲っているが、いきなりその砲撃が止んだ。アークエンジェルではその意味が良く分かっていた。キースが敵艦を捕捉したのだ。

 ガモフでは大騒ぎになっていた。緑色のメビウスが下方から突き上げてきているというのだ。特徴的なメビウスにエメラルドの死神だと判明し、ゼルマン艦長が焦った声で命令を出す。

「撃ち落とせ、奴を懐に飛び込ませるな!」

 対空砲火がキースの前面に弾幕を作り上げるが、キースはそれを難無く突破して全ての火器を叩き込んだ。抱えて来た対艦ミサイルが発射され、レールガンとビームガンが唸りを上げる。バルカンが高速弾を叩きこんでいく。それらは次々に巨大な船体に吸いこまれ、激しい爆発を起した。被弾箇所以外からも誘爆の光が見える

「よっしゃあ、これで航行不能だ!」

 機関部を使用不能に追いこんだと確信し、キースは喝采をあげた。だが、上に出て反転して再攻撃しようとした所で、デュエルが追いついてきた。

「貴様ああああ!!」
「チッ、デュエルか!」

 チラリとガモフを一瞥し、もうアークエンジェルに攻撃できる状態ではないと判断すると、重い推進剤タンクを切り捨てた。どうせ大して残ってはいないし、対MS戦なら機体を軽くしたほうが良い
 キースはデュエルの挑戦を受ける事にした。アークエンジェルの方に戻ることに変わりは無いが、このまま一機引きつけておけば向こうが楽になるからだ。

バスターはちょろちょろと動き回るフラガのメビウス・ゼロに苛立っていた。

「ちょろちょろとうっとおしいんだよ、MA風情が!」
「ええい、後何分稼げばいいんだ!」

 フラガの脅威的な技量がバスターとメビウス・ゼロの性能差を埋めている。その近くではブリッツとストライクが近接戦闘を行っていた。こちらはストライクの方が有利に戦っている。もともと奇襲、偵察機であるブリッツと汎用機であるストライクでは機体の相性が悪すぎた。

「くっそおお・・・・・・これがストライクですか」

 ニコルは初めて戦う強敵に苦しんでいた。ブリッツは近接戦にも対応してるのだが、ストライクの方が遥かに優れているのだ。これと格闘戦をするにはデュエルかイ−ジスでないと駄目だろう。
 仕方なくニコルはミラージュコロイドを展開した。いきなり目の前からブリッツが消えた事でキラが驚く。

「消えた、そんな?」

 慌てて辺りを見まわすが、近くにブリッツの姿は無い。すると、いきなりビームが飛んできた。咄嗟に回避するがそちらにブリッツの姿は無い。

 アークエンジェルはブリッツをロストした事を聞いて、マリュ−がその正体を察した。すぐにビームの射角からブリッツの予想位置を出させ、溜散弾頭ミサイルを装填させる。

「次にブリッツがビームを撃ったら予想位置へミサイルを撃って!」

 マリュ−の指示に従い、ビームが撃たれた位置へ向けてミサイルが発射された。広域に影響を及ぼす榴散弾がブリッツに襲いかかる。ミラージュコロイドを展開中はフェイズ・シフトが使えないので、慌ててミラージュコロイドを切り、フェイズ・シフトを使う。シールドで機体への直撃を阻んだが、もう一度ミラージュコロイドを展開する前にストライクが斬りかかってきた。

 アークエンジェルではMS1機とMA2機でザフトとここまで戦えるという事に驚いていた。キラはともかく、フラガとキースが桁外れた実力を持つからなのだが、マリュ−とナタルは改めて2人の実力を思い知らされていた。

「さすがは、エンディミオンの鷹に、エメラルドの死神ね。あの2人がいなかったらとてもここまで来れなかったわ」
「まだ終わったわけではありません。気を抜かないようお願いします」
「・・・・・・分かってるわ、ナタル」

 気分が良くなっている所に水をさされ、マリュ−は渋面を作った。ナタルは何時もこうだ。常に肩肘を張って、自分の考えに噛み付いてくる。

 暫くするとキースのメビウスがデュエルを連れて戦場に戻ってきた。キースはドッグファイトをしない主義なのでイザークはかなり苛立っている。

「この卑怯者があ。逃げるな、俺と勝負しろ!」

 ビームライフルを撃ちまくるが遠くを高速で動いているキースのメビウスに当てる事は難しい。時折突っ込んできて物凄い火力を叩きつけてくるのでデュエルの機体は無傷ではない。実弾は効かないのだが、ビームガンが掠めた焼け跡があるのだ。
 キースは通信でキラと会話した。

「キラ、こいつも任せて良いか?」
「ちょ、ちょっと、何言ってるんですか!?」
「やっぱ駄目か。こいつしつこいんだけどなあ・・・・・・」

 口調だけ見ると余裕ありそうだったが、実はかなり追い詰められているキース。メビウスのバッテリーではビームガンはそう何度も撃てないのだ。レールガンやバルカンでは効果が薄い。せめてフェイズシフト・ダウンを狙うのが関の山だ。
 ストライクと戦うブリッツだっったが、そのブリッツめがけてアークエンジェルからヴァリアントを使うと言ってきた。

「キラ、ブリッツから離れて。ヴァリアントを使うわ!」
「分かった!」

 キラのストライクが僅かに後退する。それを追おうとしたニコルは、嫌な予感がして周囲を確かめ、思わず絶叫を放った。

「ね、狙われてる!?」

 アークエンジェルから強力なレールキャノンが2発放たれ、ブリッツを襲う。一発目は外れたか、二発目がブリッツのトリケロスを捕らえた。シールドとしても使えるのだが、このヴァリアントの大口径砲弾の直撃は凄まじいと言う言葉では表現しきれないダメージを与えた。フェイズ・シフト装甲は実体弾を弾き返すのだが、この場合はもうそういうレベルでは無く、左肩のジョイント部から引き千切れ、吹き飛ばされてしまったのだ。

「うわあああああ!!」

 衝撃に悲鳴を上げるニコル。左腕以外にもダメージが及び、機体内にアラームが響き渡る。もはやブリッツに戦闘力は残されていなかった。
 
 ブリッツが後してもなお攻撃を続けようとするイザークとディアッカ。だが、2人は時間が無くなっている事に気づかなかった。それに気付いたのはニコルだった。タイムリミッタが来たことに顔色を変える。

「イザーク、ディアッカ、時間切れです。敵艦隊が来る!」
「ちい、ここまでかよ!」

 ディアッカは収束砲をぶっ放してフラガを牽制した後、後退しようとしたが、イザークがまだ退こうとはしない。

「何やってるんだイザーク、撤退だぞ!」
「ふざけるな、ここまで来て逃げられるか!」
「イザーク、敵艦隊が来るんです。あの大軍をバッテリーが無い僕らで相手取るつもりですか!?」

 近づいている連合第8艦隊は30隻を擁する大部隊だ。この部隊をたった3機のMSで戦おうなど、自殺行為でしかない。

「く、く・・・くっそおおおおおおっ!!」

2人がかりで説得されて、遂にイザークも後退を受け入れた。
 後退していく3機を見送り、キラはほっと安堵のため息を吐いた。地球の方から大艦隊が近づいて来る。その威容は、これまでの戦いで疲れ切ったアークエンジェルクルーの心に深い安心感を与えるだけの効果があった。フラガやキースでさえ嬉しそうに表情を緩め、近づいて来る第8艦隊旗艦メネラオスの巨体を見やっている。
 ようやくアークエンジェルは友軍と合流できたのだ。