第8章  地球軌道の戦い


 第8艦隊は密集体形を取り、メビウス隊を展開させた。ザフト艦からもMSが射出されている。MAの数は120を超えているのに対し、MSの数はジンが13機にXナンバーが3機。数だけ見れば圧倒できるだけの兵力差だが、ハルバートンの気持ちは晴れなかった。
 これだけの艦隊を擁しながらも、敗北を覚悟しなくてはならない。それほどの戦力差がMSとMAの間にはあった。特にMAパイロットの消耗は激しく、多くはヒヨッコパイロットなのだ。
 ハルバートンは悲壮な覚悟で命令を下した。

「全艦砲撃戦用意。いいか、アークエンジェルだけは何があっても守りぬけ!」

 唯一の救いは、MA隊の先頭に立つ2機の強力なMA、メビウスゼロと、エメラルドのメビウスがあることだ。2機とも単独でジンと互角以上に遣り合えるとさえ言われる超エースだ。アークエンジェルを巡る戦闘でもその凄まじい強さを見せ付けている。
 先頭に立つフラガは突入してくるMSを見て命令を下した。

「全機、迎撃開始。生き残れよ!」
「了解!」
「キース、お前は好きにやれ。意味は分かるな!」
「はいはい、やらせて頂きますよ」

 キースは肩を竦めて答えた。そしてスラスターを限界まで吹かす。たちまち物凄い加速で緑色のメビウスがメビウス隊の中から飛び出した。
 たった1機でMSに向ってくるMAを見たジンのパイロットは呆れかえった。MAでMSに勝てると思っているのだろうか。
 だが、彼らはすぐに自分の甘さを後悔する事になる。突入してきたキースの狙いは2つあった。1つは1機落として数を減らすこと。もう1つは敵を掻き乱すことである。その為にはどれか1機を先制で叩き落すのが1番効率が良い。動きの鈍い1機に目をつけると、キースはそれに向かって行った。
 キースのメビウスに気づいたディアッカは狙われているジンのパイロットに警告をだした。これまでの戦いで、あのMAは舐めてかかれる相手ではないと思い知らされていたのだ。飛び出してきたMAを落そうと無造作に狙われたジンがキースの前に出る。

「おい、そいつの前に出るな。死ぬぞ!」

 ディアッカの警告は遅かった。見ている前でそのジンはレールガンやバルカンを浴びてたちまちバラバラにされてしまったのだから。そして開いた穴からそのメビウスが突入し、MS隊を無視して艦隊に向かっていく。

「あいつ、また艦隊をやるつもりか!」
「ちぃ、俺が戻る!」
「待てイザーク、俺達の任務は、足付きの撃沈だ。MAの始末はジンに任せろ!」
「・・・・・・くそっ、分かってる!」

 イザークの声には悔しさと、屈辱が滲み出ていた。自分をたった1機で翻弄したMA。ナチュラルのくせに遥かに優れた能力を持つ筈の自分を良いようにあしらったあいつは許し難い敵だ。

 キースが駆け抜けた直後にジンとメビウスが一斉に砲火を開いた。メビウスの放ったミサイルを躱してジンがバズーカを叩き込む。イージスとデュエルとバスターが卓越した機体性能を生かしてMAを蹴散らしながら艦隊へと迫ってくる。
 だが、MSも無傷ではすまない。群がるMAに集中攻撃を受けて避けきれず、直撃から火球へと変わるジンや、不運な艦砲の一撃に直撃されるジンもいる。
 MA隊の中で超人的な活躍を見せるのがフラガのメビウスゼロだ。有線ガンバレルを操り、確実にジンを仕留めていく。フラガの活躍が周囲の味方の士気に多大な影響を与えていることは間違い無かった。


「バゥアー中尉だけに任せるな。敵艦隊左側のローラシア級に向けてゴッドフリート照準、発射後、回避した方向に向けてバリアント1番2番を発射!」

 ナタルがキースを支援するべく砲撃を敵艦に向けさせる。4門のゴッドフリートから放たれたエネルギーの矛が狙われたローラシア級巡洋艦エデラを襲う。エデラは辛うじてそれを回避したが、続いて襲ってきた大口径レールキャノンの直撃を受けた。被弾の衝撃で艦が傾く。

 艦隊に突入したキースはその被弾したローラシア級巡洋艦に目を付けた。狙われたのはエデラだ。3隻は高速で接近するMAに気づいて対空砲火を撃ち上げるが、天頂方向から襲いかかってきたメビウスは2秒以上直進しようとはせず、小刻みに機体を動かしながら真っ直ぐに突っ込んできた。被弾しているエデラの対空砲火は見ていて可哀想になるほど対空砲火の照準に精密さを欠いている。

「沈めええええええ!!」

 キースが運んできた2発の対艦ミサイルを放ち、レールガンとビームガン、バルカンを撃ちまくる。艦橋を直撃したミサイルが艦の主要スタッフを抹殺し、主砲を直撃したレールガンが容易に主砲を粉砕し、エネルギーのリバースで誘爆を起こす。その周辺に着弾した弾が容赦無く装甲を貫き、艦を引き裂いていく。
 キースはエデラに重傷を負わせたことを確認し、真っ直ぐ下に突き抜けた。そして、今日は迷わず機体を反転させて再攻撃に入る。確実に仕留めるつもりだ。1機のジンがエデラの前に立ちはだかっているが目には入っていない。もう一度ありったけの武器を叩き込み、エデラに止めを刺した。メビウスが再度上に出た所で機関部の誘爆が起こり、援護に来たジンを巻き込んで爆発四散してしまった。
 エデラがあっさりと沈められたことに、ヴェザリウスの艦橋は驚愕に包まれていた。

「馬鹿な、たった1機のMAに巡洋艦がこうも簡単に!?」
「・・・・・・噂に聞くエメラルドの死神か。ガモフを大破させたのもあいつだという話だな」

 アデスの言葉にクルーゼが苦々しく呟く。これで貴重な巡洋艦を1隻失い、砲戦力が激減してしまったからだ。さらにジンが奴の為に2機も落とされている。1機は誘爆に巻き込まれただけだが。
 予想もしなかった損害に、しだいにクルーゼの勝算が覚束ないものとなろうとしていた。


 ハルバートンは巧みに艦隊を維持していた。損傷艦は多かったが、未だに陣形は崩されてはいない。アークエンジェルもその火力を生かして積極的に戦闘に参加している。

「味方撃ちを恐れるな。艦は対空砲火如きでは沈まん。艦隊を密集させて弾幕の密度を上げろ!」
「メビウス隊の損害、30%を超えました!」

 オペレーターの悲鳴のような報告が届く。恐ろしいほどの損失だ。20機にも満たないMSにこれだけの艦隊が苦戦しなくてはならないのだから、まことにMSとは恐ろしい兵器である。
 そんな中でフラガのメビウス・ゼロの活躍は凄まじかった。4基の有線ガンバレルを展開し、ジンを追い詰めている。

「ええい、お前1機に構ってられないんだよ!」

 四方八方から襲いかかるガンバレルのリニアガンに襲われるジンは必死に回避していたが、一発につかまって吹き飛ばされた。それで動きが止まったところに更に攻撃が集中し、完全破壊されてしまう。
 ジン1機を撃墜したフラガはすぐに次の目標を目指した。1機でも堕とせばそれだけ味方の被害が減る。その一心でフラガは新たな敵に挑みかかった。
 メネラオスでは次々に寄せられる被害への対処に追われていた。だんだん追い詰められていく友軍。だが、そこに喝采とも取れる通信が飛び込んできた。

「こちら、キーエンス・バゥアー中尉。敵巡洋艦1隻を撃沈、ジン2機を撃墜。これより本体に合流する!」

 ジン1機は嘘だが、士気高揚のためにあえて数にいれた。この大戦果に連合軍の士気が否応無く上がる。逆にザフト軍は動揺した。

「巡洋艦を沈めただと!?」
「エデラだ。エデラがやられたんだ!」
「そんな、俺の母艦が・・・・・・」

 ジンのパイロット達の士気がたちまち落ちてしまった。イザークが事情を察して歯軋りする。

「ガモフをやった奴だ。あの緑色のMAがエデラを沈めたんだ!」
「たったMA1機で、巡洋艦を沈めったっていうのかよ」

 ディアッカが呆れて呟く。出鱈目な火力だとは思っていたが、まさか1機で巡洋艦を沈めるとは。
 そして、戦力の低下はそのままザフト軍を窮地へと追いこんでいた。ここにキースも戻ってきたために更に損害が増していく。だが、3機のGは第8艦隊の防衛線を突破して遂にアークエンジェルに襲いかかろうとしていた。

「デュエル、バスター、イージスが防衛線を突破してきます!」
「ストライク、迎撃に向いました!」
「フラガ大尉とバゥアー中尉が戻るまで、少しかかります!」
「・・・・・・まずいわね」

 マリュ−は悩んでいた。このままアークエンジェルがここにいては第8艦隊は逃げられない。更に降下のタイミングが迫っている。このままでは降下できないかもしれない。マリュ−は決断した。

「降下用意、アークエンジェルは第8艦隊から離れ、地球に降下します!」
「艦長、それは!?」

 ノイマンが驚いて振り向いたが、マリュ−の意思は変わらなかった。
 ハルバートンにもその意思が伝えられる。

「提督、アークエンジェルはこれより地球に降下します!」
「なんだと!?」
「敵の狙いは本艦です・本艦が離れない限り、敵は諦めません!」
「だが・・・・・・」
「それに、もう降下のタイミングまでギリギリです!」

 マリュ−の言葉にハルバートンは苦いものを噛み潰したような顔になる。このまま戦っても勝てるかもしれないが、降下タイミングを逃せば大幅な時間のロスになる。その間に敵が同規模の部隊を差し向けてきたら、今度は守り切れないだろう。

「アラスカは無理ですが、この位置なら友軍の勢力圏には降下できます。行かせて下さい!」
「・・・・・・分かった。行きたまえ。後は任せろ!」
「提督、ありがとうございます!」

 マリュ−は頭を下げた。アークエンジェルは直ちに艦隊を離れ、地球に降下を開始する。ハルバートンはメネラオスをアークエンジェルの頭上に移動させ、敵を通すまいと盾とした。そこに3機のGが迫ってくる。

「副長、シャトルを降下させろ。本艦はここを動く訳にはいかん!」
「閣下、それは!」

 ホフマンは、上官が死を覚悟している事を悟った。直ちにシャトルが切り離され、メネラオスから離れて行く。それに少し遅れてデュエル、バスター、イージスが襲いかかってきた。
 メネラオスは護衛の駆逐艦と共に物凄い対空砲火を撃ち上げたが、3機のGはジンを遥かに凌ぐ機動性でこれを回避している。デュエルの放ったビームがメネラオスの上甲板に着弾し、大穴を作った。そしてバスターが2つのライフルを繋ぎ、照準を定めようとする。だが、メネラオスを狙っていたバスターに側面からビームが叩き付けられた。

「なにぃ!?」

 辛うじてそのビームを回避するバスター。そして、メネラオスの前にストライクが現れた。

「ハルバートン提督、大丈夫ですか!?」
「キラ・ヤマト君か!」
「僕がギリギリまで支えます。メネラオスは下がってください!」
「しかし・・・・・・」

 子供に任せて後退するのを良しとしないハルバートン。だが、そこにようやく2機のMAが駆けつけてきた。

「提督、アークエンジェルは我々で守り抜きます!」
「ここまで、ありがとうございました!」
「フラガ大尉、バゥアー中尉・・・・・・すまん!」

 メネラオスは上昇を開始した。メネラオスに続くように生き残りの艦が地球軌道から離れていく。逃げる訳ではない。より自由の利く所でヴェザリウスと砲撃戦を行おうというのだ。

「こうなればクルーゼだけでも仕留めるぞ。敵は僅か2隻だ。砲撃を集中して沈めてしまえ!」

 第8艦隊が陣形を再編していく。損傷艦を下げ、健在艦艇がメネラオスを中心に方形に展開していく。その左右にMA隊が集結した。生き残ったジンがこれに攻撃しようと襲い掛かってきたが、態勢を立て直した第8艦隊に対するには余りにも数が少なすぎた。

「メビウス隊は敵MSの迎撃に全力をあげろ。残すジンは僅か4機だ、恐れるな。艦隊は敵艦隊との砲戦に入るぞ、地球軌道は奴らの宇宙ではない事を教えてやれ!」

 ハルバートンの命令で全艦の砲撃がヴェザリウスとツィーグラーが圧倒的な砲火に晒され、艦がエネルギーの奔流に木の葉の様に揺られる。頼みのMSは主力のG3機がアークエンジェルに向った為、残るはミゲルのジンを含めて僅か4機。対するメビウスはまだ60機以上を残している。艦艇も損傷艦が多いが20隻近くが戦闘続行可能だ。
 ミゲルはオレンジ色のジンを駆ってメビウスを落としていたが、流石に残弾とバッテリー残量が不安になりだした。

「ええい、これじゃどうしようもない!」

 ミゲルは苛立って吐き捨てたが、そのすぐ横でまた1機のジンがメビウスに落とされてしまった。このままでは、いや、すでに負けは決定しているとしか言えなかった。

 艦隊の状況はもっと悲惨だった。敵は僅か2隻でどうこう出来るような数ではないのだ。圧倒的な砲火に晒されてクルーゼはアデスの座る椅子に両手でしがみついて衝撃に耐える。

「おのれぇ、ハルバートンめ・・・・・・・」

 クルーゼは歯軋りして憎悪を露にしたが、もはや勝利はありえない事くらいは分かっている。自分はハルバートンの実力を過小評価していたのだろうか。いや、違う。第8艦隊以外の要素が自分を阻んだのだ。自分が過小評価していたのは・・・・・・・

「ふ、ふふふ・・・・・・足付き、私は奴の力を見誤っていたというのか」

 
 アークエンジェルは迫るイージスとバスターに狙われていたが、フラガとキースのMAに邪魔されて取り付けずにいた。デュエルはストライクと交戦している。
フラガのゼロがガンバレルを展開し、重力のせいで動きの鈍いバスターを撃ちまくる。元々動きの鈍いバスターはこの攻撃にいい様に翻弄されていた。その近くではキースのメビウスと変形したイージスが高速機動戦を行っている。互いに強大な火力を持つが、小回りとスピードはイージスの方が勝っていた。その為、この勝負はキースに著しく不利だった。
そして、ストライクはデュエルと戦っていた。デュエルのビームサーベルをシールドで弾き返し、距離を取る。デュエルがビームを放って追い討ちをしてくるが、それは容易くキラに回避された。
 激戦のさなか、遂にキースのメビウスがイージスのスキュラに捕らえられた。間近を通過したスキュラが機体を焼き、武装を削ぎとってしまう。

「しまった、やられたか!」

 キースは機体状況を確かめ、これ以上の戦闘を断念した。武装を全てパージし、身軽にしてアークエンジェルに向う。

「こちらキース、機体が損傷、帰艦する!」
「了解しました!」

 キース被弾と聞いて艦橋クルーの顔色が少し変わる。貴重な戦力の1つが失われたことになるからだ。被弾した機体ながらもキースはなんとかアークエンジェルにまで持って来る事が出来た。駆け寄ってきた整備兵が爆発しないように科学消化剤で被弾箇所を埋めてしまう。これでキースの仕事は終わりだった。
 だが、激しい戦いを展開する間にも着実に地球は迫っており、遂にアークエンジェルから帰艦命令が発せられた。

「フラガ大尉、キラ、もう限界です、早く帰艦してください!」
「分かった、今戻る!」

 フラガが急いでアークエンジェルに向う。ディアッカが追撃しようとしたが、アスランに止められた。

「よせディアッカ、重力に捕まるぞ。俺達も退くんだ!」
「またあいつ等を逃がすのかよ!?」
「大気圏の摩擦熱で燃え尽きたいのか!?」

 アスランに大声で窘められ、ディアッカは渋々後退しだした。だが、イザークが退こうとはしない。

「イザーク、おい、イザーク、何やってるんだ!?」
「うるさい、俺はストライクを堕とす!」

 デュエルとストライクが危険な高度まで下がっていく。そしてデュエルがビームライフルを向けた時、デュエルとストライクの間に割り込む様に1機のシャトルが降下してきた。ヘリオポリスの避難民を載せたシャトルだ。
 キラは見た。デュエルのビームライフルがシャトルに向けられるのを。

「止めろおぉぉぉぉ!!」

 キラは絶叫した。バーニアを吹かし、ストライクをシャトルへと向ける。だが、次の瞬間、シャトルをビームが貫いた。ビームの高熱と大気圏の摩擦熱によって外壁がまくれあがり、ついで内側から引き裂かれる様に爆発してしまう。
 キラはコクピットで絶叫し続けた。守りきれなかった。守れると思っていたのに、守りきれたと思っていたのに。
 ハルバートンの、キースの言葉は正しかったのだ。“意思が無くては、何事も成し遂げられない” “1番怖いのは、何かを失って、全てが手遅れになってから気付くことだ”
 こうなる前にデュエルを撃墜しておくべきだったのだ。たとえ、同朋の血にその手を染める事になろうとも。それに今更気付いても全ては手遅れなのだ。もうあの幼女は生き返りはしない。キースはこの苦痛を知っていたのだろう。全てが手遅れになるという苦痛を。


降下して行くストライク。それを確認したアークエンジェルではミリアリアがキラを呼び続けていた。

「キラ、戻って、キラ!」
「駄目です、本艦とストライクの降下角度に差異があります。このままではストライクは全く別の場所に落ちます!」

 パルの報告にマリュ−は決断した。

「艦を寄せて! アークエンジェルのスラスターならまだ動ける筈よ!」
「そかし、それでは本艦の降下地点が・・・・・・」

 ノイマンが抗議をするが、マリュ−はねじ伏せる様に言いきった。

「ストライクを失っては、意味が無い。早く!」

 ノイマンは仕方なくスラスターを操作しだした。ゆっくりとアークエンジェルがストライクに近づいて行く。そして、新たに算出された降下地点はなんとアフリカ北部。完全にザフトの勢力圏下であった。


 降下して行くアークエンジェルを見送る第8艦隊。ハルバートンは保有戦力の1/3を失いながらもどうにかクルーゼ隊を撃破していた。クルーゼは巡洋艦1隻とジン11機を失い、残る2隻を中破されている。事実上の壊滅だ。クルーゼは生き残ったMSを収容すると地球軌道から撤退していた。
 地球軌道を守りきったハルバートンは、北アフリカに降下して行くアークエンジェルを心配そうに見送っていた。

「彼らは、無事にアラスカに辿りつけるだろうか?」
「どうでしょう。アフリカは完全にザフトの勢力圏です。友軍の勢力圏に逃げ込んでくれれば良いのですが」

 ホフマンはこれだけの犠牲を払って逃がしたアークエンジェルが沈められるのは我慢できなかった。これでは全ての犠牲が無駄になってしまう。
 だが、2人がアークエンジェルの未来に思いをはせていたのはごく僅かな時間だった。ハルバートンは生き残った艦艇を纏め、月基地への帰還を命じたのだ。損傷艦を守るように健在艦が外側を固め、メビウスが直援につく。クルーゼ隊以外の部隊がこの辺りにいるとは思えないが、念のためというやつだ。

 こうして地球軌道を巡る艦隊線は終わった。双方とも痛み分けともいえる結果だったが、アークエンジェルを守りきったという事で連合軍の勝利といえたかもしれない。
 そして、舞台は地球へと移っていく。