第104章  オーブ防衛戦



 それはカガリの予想した夜明けと同時の攻撃よりも少し遅れて開始された。西方に浮上した潜水艦や南方からやってきた洋上艦隊から一斉に巡航ミサイルが発射され、白煙を引いてオーブに飛来してくる。これに対してカガリは全ての砲台に迎撃命令を出させたが、偽装して伏せている前線の野砲や戦車、MSには反撃を控えさせていた。

「撃つのは砲台だけで良い。他は位置を特定されるからまだ撃つな!」

 アークエンジェルで実戦を経験してきたカガリは、この手のミサイルや砲を使った準備攻撃で敵を無力化することは出来ない事を知っている。ましてオノゴロ島は要塞島であり、十分に構築された防御陣地を持っている。これをミサイルだけで破壊することは不可能でだから、この一撃はこちらの出方を見ているだけだとカガリは考えていた。
 このカガリの読みは正しかった。ミサイル第1波がオノゴロの迎撃を受けて多数を破壊されながらも次々に着弾の煙を上げる。だが、それが何の効果もない攻撃だとクルーゼには分かっていた。

「奴等は穴から出て来ないか。素人の集団と思っていたが」

 様子見の攻撃を加えてみたが、反撃してくるのは沿岸の要塞砲や基地周辺の防御火点くらいで、MSが出てくる様子が無い。それに洋上艦隊の姿も無い。目標とした基地施設周辺には連合艦艇が標準採用している対空火器、75mmイーゲルシュテルンが多数設置されており、NJの妨害に抗しえる基地据え置き型の大型レーダーの誘導を受けているので迫るミサイルを正確に次々と撃ち落している。おかげで巡航ミサイルはほとんど意味が無かった。
 ミサイルの第2波を出すかどうかで少し考えたクルーゼは、何かを思いついたのか口元に酷薄な笑みを浮かべていた。

「第2師団に攻撃開始を指示しろ」
「ですが、まだ敵の火点が特定できてはおりませんが?」

 手順を早めるのかと聞く参謀に、クルーゼはとんでもない答えを返してきた。

「第2師団が前進すれば、嫌でも撃って来るさ」
「それでは第2師団の損害を無視できぬものになります!?」
「こうして意味の無い攻撃を続けていてもどうしようもないだろう。連合の大軍が今ここに出現するかもしれないのだぞ?」
「しかし……」
「命令だ」

 なおも渋りをみせる参謀にクルーゼが上官の権威を見せて無理やり命令を押し通し、じっとモニター上に映されているオノゴロ島の映像を見た。

「さて、どう出てくるかな」






 クルーゼから攻撃開始を命令されたジュディはどうしたものかとアスランを見やった。彼は特務隊の隊長であり、ジュディの部下の中では一番上位に位置しているので、とりあえずジュディの傍に待機していた。

「参ったなアスラン」
「命令とあれば仕方が無いでしょう。必要なら私が先陣を切りますが?」
「いや、君とジャスティスはフリーダムへの備えだからね。ここは予定通りに行くよ」

 アスランの申し出をジュディは退けた。オーブに強奪されたフリーダムへの対抗手段は現状ではアスランのジャスティスだけとなる。ルナマリアのフリーダムもあるのだが、こちらを当てにするほどジュディは戦力的に困ってはいないつもりだった。
 ジュディの命令を受けて定石どおりゾノとグーンが出撃し、制空権を押さえようとディンが前進していく。ディンに対しては迎撃用の対空ミサイルと空軍機が対応してオノゴロ島上空に激しい空戦が展開されている。そして海中を進むゾノやグーンは各種機雷の歓迎を受ける事になったが、こちらはフォノンメーザーで進撃路を啓開しながら海岸線へと近付いていった。
 だが、この機雷の爆発があげる水柱は、そのまま水陸両用機の位置をオーブ軍に教えても居る。カガリは対潜哨戒機を繰り出して爆発が起こっている辺りに対潜魚雷を叩き込ませ、これを海中で撃ち減らそうとした。ディン部隊がこの対潜哨戒機を狙おうとしたが、オーブ空軍機がそれを阻止している。
 対潜哨戒機の叩き込んだ魚雷の何発かが敵を捉えたのか途中で破壊されたのか、次々に水柱が吹き上がってくる。それがどれだけの効果をあげたのかが分からないのが問題だが、司令部で見ているカガリは少しでも戦果を上げていることを祈らずにはいられなかった。
 そこに、それまで電話の対応をしていたユウナがカガリの傍にやってきた。

「カガリ、前線の部隊の指揮官達が反撃の許可を求めてきてる、どうする?」
「絶対に撃たせるな。今撃ったら位置を知られる!」

 今反撃したら発砲の光で位置を特定されて攻撃を集中されてしまう。そんな事になったら上陸阻止など不可能になるのだ。だが、兵も指揮官も初めての実戦という事がカガリの作戦を狂わせてしまった。海面から姿を見せてきたゾノやグーンを見た海岸防衛戦の部隊の幾つかが撃たれる前に撃たなくてはという恐怖に突き動かされて反撃を開始してしまったのだ。
 隠れていた戦車が砲を開き、リニアガンから叩き出された105mm砲弾が上陸してきたゾノの上半身に大穴を開け、目視距離で放たれた対舟艇ミサイルがグーンの上半身に幾つもの爆発を起こす。
 この反撃を見たカガリは思わず罵声を放ってしまった。

「馬鹿、撃つな!」

 カガリの罵声を聞いてユウナが攻撃した部隊の指揮官を呼び出そうとしたが、それより早くザフト潜水母艦群から放たれた対地ミサイルのシャワーが攻撃をした陣地に降り注ぎ、これを永遠に沈黙させてしまった。これまでは陣地の場所が分からなかったから無駄弾をばら撒いていたのであって、位置さえ特定できれば潰すのは簡単だったのだ。

 次々に上陸していくゾノやグーン。それを確認したジュディは作戦を第2段階に移行させる事を決定した。

「よし、続いて陸上機を送り込め。敵もそろそろMSを出してくるだろうから、例の奴も叩き込むんだ!」
「良いんですか?」
「構わないよ、上陸の最初の10分を稼げるならね」

 アスランの問いにジュディは笑顔を作って答えた。上陸作戦とは最初の24時間が重要といわれるが、より正確には第1波を送り込んだ後、どれだけ確実に第2波を上陸させられるかが重要となる。
 ゾノやグーンが海岸にイザナギ海岸に上陸して地雷と格闘をしながら前進してくる。そして潜水母艦から次々にジンやシグーを搭載したグゥルが出てくるのを見たカガリは、ようやく前線部隊に反撃命令を出した。

「よし、海岸防衛線に反撃を許可しろ。敵が上陸すれば向こうもミサイルは撃ってこない!」

 カガリの許可を受けて沿岸防衛線にいた戦車やMS、対戦車砲が火を吹いた。放たれたリニアガンやビーム、ミサイルやロケットが地雷原で動きが取れないゾノやグーンを次々に擱座させていく。特にM1のビームライフルの威力は大きく、重装甲で知られる水陸両用機も簡単に仕留めている。
 海岸の一角を守っていたフレイもMS用の塹壕に機体の大半を隠した姿勢でビームライフルを使い、2機のMSを仕留めていた。だが、その時上空から次々に新手のミサイルのシャワーが来るのを見て周囲に警告を発した。

「ミサイルがくるわ、盾を上にして隠れて!」

 穴に篭もっていても運悪く直撃を受ければ無事にはすまない。フレイは部下にそう言って自分もシールドを翳して機体を竦ませる。だが予想した着弾の衝撃は来ず、上空で何かが炸裂した音が聞こえただけだった。
 何かと思ってライフルを外に出して照準センサーの映像をモニターに表示させると、あたり一面にキラキラと輝く何かが舞っている。これが何か分からなかったフレイは、その解析をカガリに頼もうと司令部に通信回線を開いた。

「カガリ、これ何なの!?」
「今調べさせてる。もう少し待ってくれ!」

 フレイの質問を受けたカガリは散布された何かをオペレーターに解析させて、直ぐにその答えを得た。それはカガリの意表を突くものであった。

「あれはアンチビーム粒子です。ザフトはイザナギ海岸一体にアンチビーム粒子をミサイルを使って散布したんです!」
「アンチビーム粒子って、あのビームを減衰させて無効化する奴か。でも、風で吹き飛ばされたり、重力で地上に直ぐに落ちるんじゃないのか?」
「その通りですが、すぐに消える訳でもありません。最悪30分程度は影響を受けると思われます!」

 オペレーターの回答を聞いたカガリは愕然としてしまった。30分もの間ビーム兵器を封じられるという事態になったら、こちらの砲台の半数とMSが無力化されてしまう。そんな事になったら沿岸での水際防御は不可能になるではないか。
 このことを聞かされたフレイは舌打ちしてビームライフルをしまうと、シールド裏から予備のリニアライフルを取り出して構えた。

「みんな、ビームライフルは使えないから、リニアライフルに持ち替えて!」

 威力は多少落ちるが仕方が無い、と思っていたのだが、周囲から帰ってきた答えはフレイの考えを大きく裏切るものであった。

「お、俺、リニアライフルは持って来て無いんだ!」
「俺もだよ。ビームライフルの方が使い勝手が良かったから……」
「ビームライフルが使えなくなるなんて、訓練じゃやってないぞ!」

 どうやら多くのパイロットはリニアライフルを携行していなかったらしい。まあどの武器を携帯していくかはパイロット個人に任されているから起こりうる事態であったのだが、これはフレイを激怒させる事態であった。

「あ、貴方たち、あれほど予備の武器を持っておけと言っておいたのに!」

 戦場では何が起こるかわからないから、多少重くても予備の弾と予備の銃は持っていた方が良い。フレイは実戦で身に付けた経験則をオーブのパイロット達に伝えたつもりだったが、彼等はそれを生かせなかったようだ。

 ここに居ても仕方が無いM1隊を後方に下がらせると、フレイは自分の言いつけを守っていた少数のM1を率いて迎撃戦闘を行う事にした。カガリからの後退許可が出ない以上、まだ沿岸防衛線を捨てる事は出来ない。

「ジュリさん、アサギさん、マユラさん、私より前に出ないでね!」

 フレイは自分の直属の部下達に指示を出すと、グゥルから降りて地上に着地しだしたジンやシグーを狙ってリニアライフルを放った。狙われたジンの上半身に3つの被弾の火花が生じて被弾箇所が抉られ、爆発を起こす事無くその場に崩れ落ちる。それを確かめると間髪入れずに直ぐ隣のジンを狙い、2発照準射撃を行った後にまた3連射してそのジンも海岸の瓦礫に変えてしまう。
 だが、他のパイロット達はフレイほど上手く撃てなかった。技量がそこまで悪いわけではないのだが、初陣で誰もが落ち着きを無くしていたのだ。彼等は頭の血が上った状態で闇雲に撃ちまくるだけで、それらは派手ではあってもまるで有効なものではなかった。






 海岸防衛線が敵の上陸阻止に失敗したという知らせはオーブ軍の第2防衛線の守備隊にも伝えられ、敵に備えろという命令が出される。それを聞かされた兵士たちが急いで配置に付く中で、キラも格納庫のフリーダムに駆け寄って整備の指示を出しているエリカ・シモンズに声をかけた。

「シモンズ主任、フリーダムは出せますか!?」
「ああキラ君。ええ、大丈夫よ。壊れてた部分や火器と管制システムの一部はオーブ製に載せ代えてあるから、慣れるまでちょっと戸惑うかもしれないけど」
「大丈夫なんですか?」
「全部実戦で使ってるシステムよ。実用性には問題は無いわ。テストも十分とは言えないけど繰り返してあるから、貴方が乗ってきた時よりは安全な筈よ。クローカー博士が気合入れてたから」

 フリーダムは外見こそ余り変わっていなかったが、特徴的なプラズマ砲とレールガン、ビームライフルを全てオーブ製の砲に換装されていた。ボロボロになっていた駆動系などもオーブ製部品に代えられており、もうオーブ製フリーダムといった有様になっている。だが、キラはこっちの方がありがたかった。これなら戻ってきて補給と整備を受けられるから。
 もっとも、改修を担当したモルゲンレーテはフリーダムのデータを存分に収集しており、これを自社の兵器に転用しようと考えていたのだが、そんな事はキラには知る由も無い。

「ありがとうございました」
「私の仕事じゃないわ。お礼はクローカー博士に言って頂戴」

 キラの礼に苦笑いを浮かべ、エリカは作業の指示を飛ばし続けていた。キラがその作業を邪魔しないように少し離れて見守っていると、その隣にオーブのパイロットスーツを着た精悍な顔付きの男が並んでフリーダムを見上げていた。

「フリーダムか、まさかこんな所で見るとはな」
「貴方は?」
「ふむ、私の事が分からんか、最高のコーディネイター」

 その名を呼ばれたキラは露骨な警戒心を見せてその男を見上げ、そしてその声にようやく覚えがある事に気付いた。そう、この声は確か、これまで戦った中で最大の敵だったあの男のもの。

「もしかして、ユーレクさん?」
「そうだ、こうして直に顔を合わせるのは初めてだな」
「どうしてここに貴方が?」
「ふっ、何を言うかと思えば。私は傭兵で、ここは戦場だ。何もおかしな事はあるまい」

 ユーレクの答えにキラは返答に詰ってしまった。傭兵が戦場を渡り歩くのはおかしな話ではない。それが仕事なのだからむしろ当然だ。だが、この男が味方に居るという現実にキラは困惑を隠せないでいる。それに気付いたのか、ユーレクはキラに自分が信用出来ないかと聞いてきた。

「どうした、私が信頼できないか?」
「……ち、力だけなら、誰よりも」
「ならば良かろう。戦場でそれ以外の何が必要だというのだ」

 そう言ってユーレクは身を翻すと、自分に与えられたM1Bの青い機体に向って歩き出した。これはコーディネイター用に限界性能が調整されたM1の改修型の1つで、ナチュラル用のM1より駆動系が強化され、レスポンスも向上されている。その分高価なのが欠点だろう。
 その後姿を見送ったキラは内心では自分を散々な目にあわせ、フレイを死ぬ直前にまで追い込んだあの男と共に戦うという事に忸怩たる思いを抱えていたのだが、一方で絶大な信頼感もあった。幾ら調整が不十分だったとはいえ、自分が使っていたフリーダムとシグーで互角に戦えるような男だ。味方とすればあれほど頼もしい男も居ないだろう。
 エリカに整備完了を伝えられたキラはヘルメットを被ってフリーダムのコクピットに入ると、モヤモヤした気持ちを切り替えてカガリに通信を繋いだ。

「カガリ、フレイたちはどうなの?」
「現在苦戦中だ。海岸のアンチビーム粒子はだいぶ弱まったがまだ効果を残していて、ビームが使えない状態だ。フレイは良く、いや、出鱈目に頑張ってくれてるが、持ち堪えられそうに無い!」
「僕も出ようか?」
「いや、キラはD−57で待機しててくれ。多分ザフトはそこに攻撃を集中してくるはずだ!」

 すでにカガリは沿岸防衛線を捨てる算段をしていた。フレイの居るA1地区だけはまだ持ち堪えているが、それ以外の場所はもう崩れかけていて、これ以上粘らせるよりも後退させて第2防衛線に合流させた方が良いと考えていたのだ。

「オペレーター、フレイと回線を繋げ!」
「通信線が攻撃でやられています、繋がりません!」
「じゃあ無線で連絡を取れ!」
「この妨害の激しさでは無理です!」

 情けないことを言うオペレーターにカガリが怒鳴ろうとしたのだが、それをカガリの近くの席にいたカズィが制した。

「カガリ、8番モニターにフレイを出すよ!」
「カズィ、出来るのか!?」
「これくらいの妨害なら、アークエンジェルで慣れてるからね」

 通信が妨害されるのは戦場では当たり前のことで、カズィやミリアリアはこの妨害を掻い潜って通信回線を維持してきた。そのカズィにしてみれば、今の妨害の嵐はそれ程厄介な相手ではなかったようで、そう待つ事も無く8番モニターにフレイが出てきた。それを見た他のオペレータ−たちが驚きの声を上げている。

「何カガリ、今とんでもなく忙しいんだけど!?」
「フレイ、もう沿岸防衛線を捨てて第2防衛線まで後退しろ。そこは持たない!」
「……了解!」
「急いでくれ。お前のとこだけもう突出してるんだ!」

 孤立して袋叩きになんかされるなよ、という意味を込めて言うカガリ。フレイは頷くと通信を切った。それを見たカガリはふうっと重い息を漏らして自分の椅子に腰を降ろし、隣の席で集められた情報を整理しているユウナを見る。

「ユウナ、状況はどうなってる?」
「良くは無いね。沿岸防衛線の戦力は確認できるだけで4割を喪失してる。残りの2割も連絡が取れないみたいだよ」
「くそっ、壊滅状態か!」

 苛立ちを拳に乗せてデスクに打ち付けて、ちょっと痛そうに顔を顰めて打ちつけた右拳を擦りながらカガリは更に幾つかの事を問い質した。

「護衛艦隊はどうなってる?」
「そろそろ戻ってくるはずだけどね。第1護衛艦隊の旗艦みずほから最後の連絡が取れたのは30分前なのが気になるけど」
「そうか、無事なら良いけどな。宇宙の方はどうなってる?」
「ロンド様がイズモを旗艦にアメノミハシラを出てるのは確かだ。でもまだ交戦したという報せが来ない」
「そうか……」

 どうにも良い知らせというものが無い。カガリは何か打開策は無いかと自分の席でじっと考え込む事になった。






 アンチビーム粒子の幕で防御しつつ、重突撃機銃やバズーカで武装したジンやシグーが上陸を開始した。主力となっているのはカーペンタリア製のジンF型とジンK型で、F型がシールドを構えて重装甲を生かして海岸防衛線に向けて前進していき、それをリニアガンを背負い式に装備したK型が支援している。
 ジンK型はジンやシグー、ゲイツに随伴できる火力支援機を求めた地上ザフト軍のためにカーペンタリア工廠がジンをベースに即席で作り上げた改修機だ。ノーマルのジンの左肩を改修し、地球圏で広く使われている戦車砲の90mmリニアガンを1門背負い式に装備した中距離支援機である。
 この機体はジンF型が敵に向っていく際、その後方に付いていって攻撃目標を威力の高いリニアガンで制圧することが求められている。90mmリニアガンは射程、破壊力共に火薬砲の重突撃機銃とは比較できない威力があるため、ジンでは破壊が困難な重構造建築物なども破壊できる。ただ、ジンがベースなので少々バランスが悪いのが欠点だ。まあ間に合わせの急造機なので多少の欠陥は仕方が無いのだが、大洋州連合で生産してる火器と弾薬を使用しているので補給と整備が容易だという利点がある。より重火力、重装甲を達成できるアサルトシュラウドも悪くは無いのだが、本国からの補給がまるで当てにならないので地上軍からは嫌われている。
 長距離の砲撃支援と対空砲火はザウートの仕事だ。海岸に上陸した標準型と対空型のザウートは後方の敵陣地と上空の敵機めがけて攻撃を開始し、味方部隊の攻撃を援護している。加えて上陸地点の確保もしていた。



 イザナギ海岸の橋頭堡が確保されて部隊や装備の揚陸が進んでくると、海岸防衛線に加わる圧力が飛躍的に増す事になった。対抗しきれない圧力に防衛線が崩壊し、各所で後退が始まっている。
 だが、沿岸防衛線からの撤退は容易なものではなかった。MS隊は塹壕の中に溜め込んでおいたリニアライフルの弾装をシールド裏に保持して後退戦闘を続けていたのだが、弾切れになる者、孤立して撃破される者が相次いでいる。フレイの傍でも3人娘の中でただ1人ここまで頑張っていたアサギがいきなり戸惑ったような声を上げた。

「あ、あれ、弾切れ!?」
「アサギさん、予備の弾は!?」
「ご免、もう切れてる!」
「じゃあ後退して。後は私がやるから!」
「りょ、了解!」

 これでフレイは孤立する事となってしまうが、フレイ自身はそれ程気にしていなかった。周囲には戦車隊も居るし、何とかなると考えていたのだ。だが、周囲の戦車隊はフレイが思っていたほど頑張れなかった。ザフトが揚陸艇で車両と歩兵を送り込んでくるようになったのだが、この歩兵が浸透してくるに連れて戦車隊が歩兵に食われだしたのである。オーブの歩兵はさほど多くない上に、ザフト歩兵の強さを頭で走っていても実感は出来ていなかったのだ。
 オーブ歩兵が駆逐されるに連れてオーブ戦車隊はザフト歩兵に側面や背面に回られるようになり、対戦車ミサイルで撃破される車両が増え出している。戦車といえど歩兵の援護を受けられなければ脆いのだ。
 味方の歩兵の姿が無くなった事にようやく気付いたオーブの戦車隊は浮き足立って後退というか壊走を始め、それを追撃されて無駄な犠牲を増やしていた。




 オーブ軍か崩れたのは海上から確認していたジュディからも確認出来ていた。意外と粘っていたオーブ軍だったが、崩れれば脆い物だ。だが、それでも沿岸防衛線が全面崩壊していない。それは沿岸防衛線の力点とも言うべき最重要の中央が未だに崩れていないからだった。
 ジュディはモニターの中で暴れまわっているM1を苦々しさを交えて賞賛していた。

「見事なものだな。あの1機のせいで敵を全面崩壊に追い込めないでいる」
「オーブ軍にも凄腕はいるという事なんでしょうが、かなり実戦慣れした動きですね」

 一緒にモニターを見ているアスランはジュディよりも素直に感心していた。あれほどのパイロットはザフトにもそうは居まい。イザークやミゲル並のパイロットだ。いや、立ち回りの上手さと周囲へのフォローの上手さを考えるとそれ以上に危険な相手かもしれない。だが、アスランにはどうしても気になっていることがあった。あのM1の動きを、彼は何度も見たことがあったのだ。

「まさか、ひょっとしてあれは……」

 あのまさかフレイじゃないのかとアスランは疑っていた。彼女ならこの強さも納得できる。彼女は丁度オーブにいるのだから、志願してパイロットになっている可能性はゼロではない。いや、彼女の経歴を考えればオーブ軍がスカウトに行って当然だろう。
 キラの他にフレイもいるとなると、アスランは頭の中の予定を立て直す必要があると考えていた。イザークに後を任せてキラを叩くつもりだったのだが、フレイまで出てくると彼女にぶつけるパイロットも都合しなくてはならない。だが、誰が戦えるのだろうか。
 そんな事をアスランが考え込んでいると、ジュディがいきなりアスランに声をかけてきた。

「アスラン、すまないが、君も出てくれるか?」
「はっ、自分もですか?」
「ああ、私と一緒に第2波として上陸してもらう。第1波の被害は想像以上だ」


 送り込んだ水陸両用機とジン、シグー、ディンの被害が第1波の4割に達したのは予想外だった。敵のビーム砲を潰したのはこちらの被害を軽減させる為だったのに、それでこれほどの被害が出るとは。これではパナマの二の舞になりかねないではないか。

「これ以上被害を増やすわけにはいかないからね。それと、アーバレストで砲撃を開始させてくれ」
「ガンナーザウートを使うと?」
「ああ、その為に持って来たんだからね」

 アスランの確認に艶っぽい笑みを浮かべて答えるジュディ。それをまともに見てしまったアスランは顔を赤くして様子がおかしくなり、ジュディが見ていて滑稽に感じるほど慌てながら指示を出しにオペレーターの所に行ってしまった。

「やれやれ、あれじゃエルフィも大変だね」

 なんとも子供っぽい反応をしてくれたアスランに、ジュディは小声でそう呟いた。彼女はザラ隊の面白おかしい人間関係をある程度正確に見抜いており、エルフィやルナマリアのアスランへの好意も気付いているのだ。それでジュディはエルフィを応援していたのだが、相手の男がこれでは先が思いやられるだけだった。



 それから少しして、オーブ防衛線に変化が生じた。それまで敵のミサイル攻撃にビクともしなかった高所の砲台が次々に沈黙を余儀なくされたのである。頑丈な鉄筋コンクリートに複合装甲材をサンドイッチして作られたこの砲台群はミサイルどころかビーム砲の直撃にも十分耐えられる防御力を持っているのだが、その装甲をぶち抜いて破壊する砲がザフト側に出てきたのだ。
 それはザフト潜水母艦の甲板上に出てきたザウートのカスタム機だった。ただ、姿はザウートとは大きく変わっていて、武装は右腕に搭載されている長砲身レールキャノン「アーバレスト」1門だけで、左腕があった部分には大規模な照準システムが搭載されている。これがタンクモードで潜水母艦の甲板上に現れ、光学照準で砲台を狙撃していたのだ。
 アーバレストはザフトが投入した最強のMS用砲戦兵装であったが、これを重力下で使いこなせるMSは無かった。かろうじてゲイツが機体を固定する追加装備を施されてどうにか運用できたが、それさえも1発撃てば反動を押さえ込むために機体各所にダメージが生じ、戦闘不能に追い込まれている。こんな事があってアーバレストは欠陥兵器だという評価が下されたのだが、カーペンタリアの工廠はこれの使い道を考え出した。それがザウートへの搭載である。ザウートは戦力的にはもう2線級機で、様々な用途に特化された改修型の母体にされる事が多くなっているのだが、これもその1つだった。砲撃時にはタンクモードで重心を下ろし、更に足回りが軌装なので接地圧力も問題が無い。あとは機体を強化すればアーバレストの運用が可能になるとして改修を施され、生まれたのがガンナーザウートである。
 撃つ事さえ出来れば破壊できぬものは無いアーバレストだ。MSや戦闘機といった動く目標を狙える砲ではないが、地上の防御拠点のような動かないけど固い目標を破壊するには最適なこの砲をザフトは砲台攻撃に使用したのである。これが今になって投入されたのは、オーブ上空の制空権をザフト側が押さえるまで潜水母艦を有効射程にまで近づけられなかった為だった。



 砲台群が次々に無力化されていることを知ったカガリは焦りを見せた。砲台群の砲撃能力はオーブ防衛のかなり重要な部分だ。ミサイルは確かに強力な武器だが、砲撃のような継続的な制圧能力は無いので代わりには出来ない。また、ミサイルは高価なので数が少なく、すぐに撃ちつくしてしまう。砲台を失えばこの制圧能力を失い、沿岸一体を完全に失う事になるだろう。

「砲撃してくる敵潜水艦を撃沈しろ!」
「無理だよカガリ、空軍はオノゴロ島上空の制空権確保で手一杯だ!」
 
 カガリの命令にユウナが直ぐに反論する。それを聞いたカガリは舌打ちして悔しそうに戦術スクリーンを睨みつける。そこでは海岸から追い払われた沿岸防衛隊の生き残りが第2防衛線に合流しようとしているのが表示されていた。

「フレイ、早く後退してくれ」

 その中でまだ味方の後退を支援して遅滞戦闘を繰り広げている部隊がある。それがフレイの部隊だと分かっているカガリは、小さな声で祈るように呟いていた。






 そして、いよいよアスランたち第2波の上陸が始まろうとしていた。グゥルの数が足りないので第2波は海岸から直接上陸する事になる。アスラン自身もジャスティスに乗り込んで、機体が起動しないのを見て備え付けのバールで2回ぶん殴って起動させ、プログラムチェックをかけて機体の状態が万全である事を確かめる。
 出撃準備が整ったことを確認したアスランはバールを所定の位置に戻し、背凭れに身体を預けて目を閉じた。

「慣れていくんだな、自分でも分かる」

 変な事を呟くアスラン。そしてイザークから通信が来る。

「アスラン、フリーダムは出てきたのか?」
「いや、まだだ。だが俺たちが上陸すれば嫌でも出てくるだろう。その時は俺が相手をするから、部隊は任せるぞ、イザーク」
「ああ、任せておけ」

 アスランの頼みを快く引き受けるイザーク。昔は敵と言っても過言ではなかったはずのこの戦友との距離がこんなにも近くなったのは何時からだろうか。かつては自分に敵愾心を丸出しにしていたのに、今では自分を良く補佐してくれる頼れる同僚になっている。
 そんな事を考えて少しだけ苦笑を浮かべたアスランは、表情を引き締めるとイザークに別の厄介事を話した。

「それと、敵のM1とかいう量産型にも気をつけてくれ。あの中にとんでもない凄腕が混じってる」
「ほお、オーブ軍にも出来る奴がいるのか。そいつは楽しみだな」

 強い敵と聞いてイザークが期待するような笑みを見せるが、アスランの話にはまだ続きがあった。

「油断するなよイザーク、あれは多分フレイだ」
「……あいつが?」
「あの動きには見覚えがある。何度も戦った相手だからな。あいつ1機に第1波はかなりの犠牲を出してる」

 敵にフレイが混じってると知り、イザークの表情から余裕が消える。フレイはイザークも幾度か交戦しており、その強さは理解しているからだ。自分でさえ勝てるかどうか分からないナチュラルの小娘、それがフレイ・アルスターという少女だ。

 相手が容易ならざる強さを持つと知って気持ちを引き締めるアスランとイザーク。そんな2人に、艦内放送で遂に出撃が伝えられる。艦首のハッチが開放され、そこからMSが下半身を海水に沈めながら陸地を目指すのだ。流石に潜水母艦には陸地に乗り上げる能力は無い。周囲の潜水母艦からもゲイツやジン、バクゥ、ザウートなどが海に入って陸地を目指している。しかし、バクゥは全高が低いので頭しか水面に出ていない。あれで大丈夫なのだろうか。

「アスラン・ザラ、出るぞ!」

 管制にそう言ってアスランがジャスティスを海に飛び込ませた。飛ぶ事も出来るのだが、推進剤が勿体無いのでこのまま陸地まで歩いていくのだ。それに続いてイザークのデュエルが、ディアッカのバスターが、フィリスとミゲルのゲイツが出てくる。そして反対側の格納庫からはジュディの白い指揮官用ゲイツが出てきて、アスランたちに向ってビームライフルを掲げてみせた。
 それを見たアスランもビームライフルを小さく振り、陸地を指差して歩いて行く。これで終わりになると信じながら。






 その頃、第1波は沿岸防衛線を突破して内陸に侵入し、第2防衛線と接触しようとしていた。ここを突破すればオーブは終わりだと考えて突撃してくるザフト部隊だったのだが、彼等はそこで最悪の敵とぶつかる事になった。彼等が突撃して行った先には、白い最強のMSが待ち構えていたのだから。先頭を走るジンがいきなり攻撃されて爆発したかと思おうと、それに後続していたジンやシグーが次々に直撃を受けて破壊されていった。

「な、何が!?」

 驚いたザフトパイロット達が慌てて散開し、その敵の正体を確かめて呆然としてしまう。それは最近になって一部のエリート部隊に配備が開始されたプラントを守る最強の盾、フリーダムだったのだ。

「あ、あれはフリーダム!?」
「本国から強奪された奴だ。気をつけろ!」
「気を付けろったって、どうやってあんなの相手にすれば良いんだよ!?」

 フリーダムの強さは桁が違う。ジンやシグーではどうにもならない強さだ。加えてフリーダムは防衛線向きに多数の砲と火器管制システムを持っている。この戦場はふりーだむにとってはまさに最高の舞台だろう。
 そしてキラは、海岸からオノゴロ島の斜面を上がってきたザフトMSの大軍を見下ろして、僅かに顔を顰めて呟いた。

「この戦力差じゃ、手加減できる余裕は無いんだ。だから、ごめん」

 相手が数機なら手足を破壊して無力化することも可能だろうが、今の戦力差ではそんな事をしている暇は無い。キラは相手に一方的な謝罪をして、眼下に展開しているジンやシグーに全力砲撃を開始した。プラズマ砲がジンの上半身を一撃で消失させ、レールガンの砲弾が足を吹き飛ばして地面に転がす。接近してくる敵機にはビームライフルで応戦した。これに対してンやシグーも重突撃機銃とバズーカで応戦したが、遮蔽を取っている上にPS装甲で守られたフリーダムには有効打とはならなかった。それはまさに、一方的な虐殺とも言える砲戦となっていたのだ。


 このキラと戦う事を避けて側面に回ろうとした部隊も多かったのだが、こちらは第2防衛線にぶつかって熾烈な戦いをする羽目になっていた。特にユーレクのM1Bの強さは脅威的で、ジンやシグーの群れに単身突入して暴れ回り、数を減らして味方の元に戻ってくるという無茶を繰り返している。

 だが、キラやユーレクなどの超人がいても支えられるのはその一箇所だけだ。多方面同時攻勢をかけているザフトは第2防衛線に次々に食い込み、オーブ軍は各所で押され出していた。彼らにはオーブ本国を守るという熱意はあったのだが、パナマで死兵と化して踏ん張り続けた大西洋連邦の兵士たちのような追い詰められたと事から来る狂気は持ち合わせていなかった。それがオーブ戦におけるオーブ軍の脆さの原因となっていたのだ。

 防衛線が破られだした事で被害が内陸部の基地にも及ぶようになり、各所の基地から悲鳴のような被害報告が寄せられている。中には民間人を避難させていた施設に直撃を受け、避難民に死傷者が出たと知らせてきた所もあった。
 これらの報告を受けたカガリは後方に残してあった予備から部隊を抽出して援軍として送り込ませると共に、危険と思われる基地から避難民を後方に移動させるよう命令した。

「まだ防衛線が持ち堪えているうちに避難民を後方に下げろ。このままだと逃げる暇もなくなるぞ!」
「しかし、守る戦力が無いぞ!?」

 カガリの指示にユウナが反論したが、カガリは譲らなかった。

「護衛部隊は何とかして都合しろ。避難民を守れるのは私たちだけなんだぞ!」
「……分かった、何とかしてみるよ」

 カガリの意思を変えることは出来ないと悟り、ユウナはそれ以上の抵抗を諦めて平参謀を幾人か呼び集め、何処にどうやって避難させるかを話し合い始めた。そしてカガリは前線部隊に細かい指示を出し続けているキサカを見下ろし、そして戦術スクリーンに目をやる。すでにオノゴロ島の10%が敵の手に落ちたと言える状況に、カガリは神にも縋る気持ちで小さく呟いた。

「神様、力を貸してくれ、少しで良いから……」

 前線の部隊がどうなっているかは想像しなくても分かる。自分の無茶な命令で敵の大軍に立ち向かい、各所で撃破されているのだ。戦力差は考えるのもばからしい状況で、これが初陣の兵でどう戦えというのだ。既に制空権も敵に奪われかけている。各地の基地は潜水艦や洋上艦隊からの巡航ミサイルを防ぎきれなくなり、被害報告が相次いでいる。この状況を打開するには、もう奇跡が必要な有様になっていた。






 その時、オーブ上空に高高度から侵入してきた航空部隊があった。それは大型機の後方に4機の小型機がケーブルで引っ張られているような姿で、かなりの機数である、中には大型の輸送機まで含まれていた。その中の1機はエメラルドグリーンに塗装されたスカイグラスパーである。

「大尉、そろそろオーブ上空です」
「ああ、こっちでも確認してる。状況は分かるか?」
「残念ですが、レーダーは妨害が激しくて役に立ちません。まあ、向こうからもこちらは見えていないでしょうが」

 こちらが見えないなら当然敵もこちらが見えない。どちらかが一方的にレーダーをつかえるなどという事はありえない。キースは頷くと、ここまで運んでくれた空中給油機のパイロットたちに礼を言った。

「ここまでご苦労だったな。後は任せて、帰還してくれ」
「分かりました。大尉、ご武運を!」

 それを合図に次々に給油ホースが外され、スカイグラスパー48機が自由になる。キースは戦闘中には禁止されている個人通信で輸送機の中のステラに声をかけた。

「ステラ、今回はスティング達が居ないが、大丈夫か?」
「うん、大丈夫、やれると思う」
「そうか、まあ、余り無理するなよ。孤立したらオーブ軍でも構わないから合流して、1人にならない様気をつけるんだぞ」

 ステラに幾つか注意をしてからキースは編隊を纏めると、全機に通信を繋いだ。

「輸送機隊は俺たちに続いて護衛と共に降下、オノゴロ島にMS隊を下ろして離脱しろ!」
「了解しました!」
「よし、それじゃあ、お仕事を始めるか、死ぬんじゃないぞ。全機、俺に続け!」

 それを合図にエメラルドの翼が翻り、オノゴロ島をめがけて急降下していく。それに35機が続き、残る12機が輸送機部隊を護衛して緩降下に入った。



 高空から落ちてくる新手に最初に気付いたのはオノゴロ島上空でオーブ軍機を相手にしていたディンのパイロットだった。雲の間に何かが光ったと気付いた彼は何かと見上げ、それが戦闘機だと気づいて大声で仲間に警告を発した。

「上から敵機だ!」

 それが彼の最後の言葉となった。高高度から異常な角度の急降下をかけてきたキースは機体下部に固定装備されている追加オプションの40mmリニアガンを起動し、これでそのディンを攻撃したのだ。放たれた40mm弾はディンの推進器を撃ち抜き、これを地上に叩きつけた。それに遅れて降って来た他のスカイグラスパーも次々にミサイルや機銃弾を放ち、低空で暴れていたディンや大洋州連合の艦載型ラプターを撃ち落していく。奇襲をまともに受けたザフト側はこの最初の一撃にまるで対応できなかった。
 ディン1機を撃墜して地上すれすれで機体を引き起こしたキースはそのまま超低空飛行でオノゴロ島の海岸から潜水母艦を目指した。余りにも低空を飛ぶせいで衝撃波が海水を叩き、凄い水飛沫が上がっている。
 この機体に気付いたザフトMSが対空砲火を放ったが、低空を高速で飛ぶ目標には掠りもしなかった。キースは潜水母艦の1隻を狙うとミサイルを発射し、これに大穴を開けて上空に離脱する。これでこの艦は潜れなくなるので、後は後続の本隊に始末を任せれば良いのだ。もっとも、そんな手間も要らず沈んでしまうかもしれないが。
 キースに続いて10機を越すスカイグラスパーが潜水母艦に襲い掛かり、これに被害を与えて離脱していく。しかし、上空に離脱しようとしたところで1機が砲火に捕まって空中分解してしまった。
 他にも対地攻撃装備のスカイグラスパー隊が海岸に1000ポンド爆弾をばら撒いて揚陸された物資を吹き飛ばしたり、車両やMSを破壊している。この予想だにしなかった新手の出現に、ザフトの動きは一時的とはいえ止められてしまった。


 この突然現れた戦闘機部隊に驚いているのはザフトだけではなかった。オーブ軍も同様に驚いていたのだ。司令部でそれを見たカガリは直ぐにそれがスカイグラスパーだと気付いたが、その先頭に立っているのがエメラルドグリーンに塗られているのを見て、感極まって声を上げてしまった。

「キース、来てくれたのかよ!」

 それを見間違える筈も無い。あの頼れる男が、自分が思慕を抱いている鈍感男が駆けつけてくれたのだ。そして大型輸送機がオノゴロ島上空に侵入してきて次々にMSを降下させていく。その数12機。それはIWSP装備の105ダガー3機とステラのマローダー1機、そしてそれぞれの護衛としてストライクダガー8機だった。地上に降り立った105ダガーとマローダーは圧倒的な火力でザフト部隊に襲い掛かり、旧式機主体の第1波部隊を押し返し出している。それはオーブにとっては何よりもありがたい増援部隊であった。


 だが、ザフトも負けてはいない。苦戦する第1波を助けようと、ゲイツとバクゥを主力とする第2波が海岸に到着したからだ。戦いはまだ、これからであった。

 


機体解説

ZGMF−1017K ジンK型 後に32型ジン
兵装 76mm重突撃機銃
    重斬刀
    90mmリニアガン
<解説>
 ジンをカーペンタリアで改修した中距離支援機。ジンやゲイツに随伴できる支援機を目的に開発されたが、90mmリニアガンは中距離砲専用としてはやや火力不足なのが欠点。ジンと較べると上半身に大規模な改修がされており、急造機としてはそこそこの評価を得ている。
 後にF型と同じく正式採用され、ジン32型と呼ばれる事になる。

59式戦車
装備 105mmリニアガン
   12.7mm機銃×2
<解説>
 オーブ製の主力戦車。連合諸国で広く使われているヴァデッドと較べると装甲と走破性能で劣るが、オーブで使うために軽量で起伏の多い地形に特化した待ち伏せ戦法用の戦車なので問題とはみなされていない。105mmリニアガンは旧型の砲でヴァデッドの90mmより貫通力で劣っている。
 ヴァデッドに較べると設計が旧式で、しかもオーブ戦が初めての実戦であった上に傭兵側の問題もあり、目覚しい活躍は無い。


後書き

ジム改 オーブ戦は早くもズタボロになってます!
カガリ 歯がたたねえじゃんかよ!
ジム改 一応、まだ持ち堪えていますが。
カガリ 既に内陸まで入られるじゃねえか!
ジム改 まあそれはねえ。キラやフレイでも全てを守れるわけじゃないし。
カガリ いやまあ、あいつ等は良くやってくれてると思うけどな。
ジム改 やはりこれは指揮官が役立たずなせいか?
カガリ 私が全力を尽くしとるわ!
ジム改 軍事とは成果主義の世界なのだよ、カガリ。
カガリ くうう〜。
ジム改 それでは次回、宇宙で激突するザフトとオーブ。数の差で押されるミナはそれでも退こうとしない。だが、その戦場に新たな艦隊が。そして地上ではザフト艦隊に襲い掛かったオーブ海軍だったが、彼等は大洋州連合の洋上艦隊とぶつかる事に。オノゴロ島は第2波の投入により遂にオーブ軍の防衛線が破られる。そして激突するキラとアスラン。防ぎきれない敵の攻撃は逃げる避難民にも襲い掛かり、家族と共に逃げ回るシンの目に飛び込んできたのは1機の移送中のMSだった。次回「新たなる光」でお会いしましょう。


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