第111章  臨界点


 

「NJCですって!?」

 ワシントンの自社のオフィスで、これまで各国を飛びまわっていた間に溜まりに溜まっていた仕事を纏めて片付けさせられていたアズラエルは、そこで珍しくミナからの通信を受けていた。アメノミハシラからのレーザー通信を大西洋連邦の基地を経由して行っているようである。まあ周辺航路をザフトに封鎖された状況では電波通信は困難だろうから、仕方が無いことではあった。それに今では自由オーブ軍も連合の一員なので、軍の回線を使う権利はある。
 軍用回線を使って自分に通信を入れてきたという事にアズラエルは最初苦笑いしていた。状況は分かるが、仰々しい事だと思ったのだ。どうせ連合に参加した事で挨拶でもしに来たのだろうくらいに思っていたのだ。しかし、アズラエルは通信モニターに出てきたミナが僅かな近況報告の後に切り出した爆弾発言によって、彼女が秘匿性と強度が極めて高い軍用回線を使用した理由を理解した。

「どういう事です。何故そんな物を貴女が、オーブが持っているのです!?」
「フリーダムというMSを知っておられるかな?」
「フリーダム、あのザフトから強奪され、オーブに持ち込まれた新型ですね」
「そうだ。この機体は核動力で動いている」
「何ですってっ!?」

 この爆弾発言に、アズラエルは勢いよく腰を浮かせて、机で膝を思いっきり打ち付けてしまい、暫し痙攣して声も出なくなってしまった。ミナの前でプルプル震えて痛みを堪え、どうにか声を絞り出す。

「……そ、それで、ザフトはあの機体を取り戻す事に拘ったわけですか」

 何故ザフトがあれほどの犠牲を支払ってオーブを攻めたのか、ようやく理解できた。ザフトは新型機のデータではなく、NJCが流れるのを恐れていたのだ。確かにこれを考えればザフトが無理をする意味も理解できる。
 そしてアズラエルは、何故ミナがこんな話を持ち込んできたのかも察して、顔を商売人に切り替えた。

「それで、僕にどのような御用ですか?」
「決まっていよう。NJC、商品としての価値は計り知れまい?」
「確かに、僕はそれが喉から手が出るほど欲しい。良いでしょう、そちらの条件を聞きましょう」

 アズラエルは太っ腹な所を見せたつもりだったが、その顔色はどんどん悪くなっていった。ミナが提示してきた条件とはすさまじい物だったのだ。内容はまず自由オーブ軍を対等の国家として遇する、オーブ本土の奪還と、国内の復興資金の全額提供、更に消耗した軍備を補う為に大西洋連邦から艦艇やMSなどの兵器の無償譲渡、在外オーブ国民の身分と生活の保障、戦後のプラント運営の利権の一部割譲、大洋州連合からの領土の一部割譲、領空問題が起きていた軌道エレベータ建設再開の承認などなど、主だった要求だけでも凄まじい物を突きつけられてしまった。
 その内容を聞かされたアズラエルは流石に顔色を悪くし、額に汗を浮かべていた。幾らなんでもこれは無茶苦茶すぎる要求だ。

「ミ、ミナさん、これはちょっと強欲すぎませんか?」
「無理なのかな?」
「流石にこれはちょっと、私にどうこうできる問題じゃない物まで含まれてます」
「そうか、ではこの商談はユーラシアにでも」
「ま、待ってください!」

 あっさり交渉を打ち切ろうとするミナをアズラエルは慌てて引き止めた。この要求は出鱈目だが、NJCをユーラシアに渡されては困る。

「条件に付いてはもう少し譲歩して頂きたいのですが、こちらとしましてはNJCはぜひとも欲しい物ですから」
「……ふむ、まあ良かろう。私も自分で言っておいてなんだが、この条件がすんなり通るとは思ってはいなかったからな」

 この条件をすんなり呑むようなら、ミナはアズラエル財団と大西洋連邦の実力を見直さなくてはいけなかった。これをアズラエルが渋って見せてくれた事で、むしろミナは内心ホッとしていたのだ。自分の見通しは間違ってはいなかったようだと。

「オーブの奪還や装備の提供、国民の保護くらいは私でも約束出来ますが、流石に領土の割譲やプラント利権は僕ではどうにも出来ませんよ。これは政治の世界になってしまいます」
「こちらとしては本土を守る為の前進基地が欲しいのだがな」

 オーブ本土を守れなかった一因として、島国ゆえに敵の攻撃を防ぎ難いという物がある。これを防ぐ為に前衛となる基地が欲しいのだ。だがそれは今後の交渉で得る事は不可能ではない。このまま行けば大洋州連合は敗戦国となる事は確実であり、その際に賠償としてせしめる事も出来る。大洋州連合は既に賭けに敗れているのだ。大洋州連合から多額の賠償をせしめる事は確定事項だと言える。
 そしてアズラエルもミナがいきなりこんな要求を突きつけてくるとは予想しておらず、如何したものかと考えていた。実の所、ミナの予想さえ超えてアズラエルの力は大きい。ミナの要求を全て実現する事さえ不可能ではないのだ。ただ、こんな無茶な要求をそのまま呑むのはアズラエルの商売人としての部分が許さない。NJCを得るためなら呑むのも仕方ないと考えているが、黙って呑んでやる事は出来ない。
 暫くの間、ミナが条件を提示してアズラエルが商業スマイルでそれをやんわりと拒否するという作業が続いてゆく。そして最終的にアズラエルのが呑んだのは本土の奪還と国土の再建への全面的な協力、自由オーブ軍への装備の一部無償供与、在外国民の生活保護をアズラエルが確約し、領土問題やプラント運営への参加などは今後の課題として連合諸国首脳に話を通すという事になった。代わりにアズラエルはオーブへのアズラエル財団資本の参入と、オーブ軍の保有技術を譲渡するという約束を交わした。これによってアズラエル財団は新たな市場と、オーブの持つ軍事技術を手に入れることが出来る。
 この商談を終えた後で、アズラエルはミナに1つの質問をぶつけてきた。

「ところでミナさん、カガリさんはお元気ですか?」
「……何故、そんな事を聞く?」
「いえね、彼女の性格からしたらかなり落ち込んでるんじゃないかと思ってたんですが、昨日はあの演説でしょう。まあちょっとアレな所もありましたが、決意表明としては中々でしたからね。獅子の子供はやはり獅子ですか」
「……あれは、1日で表向きは立ち直ってみせたようだ。あれはもう、私の知っている我侭なだけの子供ではないようだな」

 ミナの知っているカガリなら散々泣き喚いて周囲に当り散らして迷惑をかけ通しになっていた筈だ。カガリは感情をコントロールする術も知らなければ、人の上に立つ者の義務も理解していない娘だったから。それがいつの間にか指導者っぽくなっていた。経験を人を変えるものであるらしい。
 この変化に、実はミナはとても喜んでいた。彼女は自分はオーブの影で良いと常々思っており、ギナが死んだ今はカガリを担ぎ上げてオーブの象徴とする事を彼女は決めていた。その担ぐ神輿がただの神輿では流石に考えてしまうが、カガリは担ぎ甲斐のある神輿になりそうだったのだ。

「カガリは、良い代表になると思う。連合諸国の首脳たちの中で頭角を現す日も遠くは無いだろう」
「ミナさんが人を褒めるのは珍しいですねえ」

 アズラエルは本当に驚いた顔でミナを見返し、そして小さく笑って彼女に約束の履行を再度求め、ミナも何とかデータをそちらに送り届けると約束して通信を切った。ミナとの通信を終えたアズラエルは椅子に深く腰掛けると、クルリとその場で回って背後の窓から広がるワシントンの街を見下ろす。そして徐々に表情が崩れだし、そして喝采の声を上げて笑い出した。

「いぃやったああぁぁぁぁ!!」

 そのまま暫し見ていて怖くなるくらいに笑い続けるアズラエル。かなり危ない人にしか見えないその姿を見た者は幸いにして誰もいなかった。そして笑いをおさめた後、アズラエルは機嫌良さそうに机の引き出しからグラスとスコッチのボトルを取りだし、それをグラスに注いで美味しそうに飲み干した。これぞ祝杯というのだろうか。

「……連合首脳の中で頭角を現す、ですか。カガリさんはミナさんも味方に付けたんですね。これがSEEDを持つ者という奴なんでしょうか」

 あのミナがカガリの下に甘んじる様子なので、アズラエルはまたカガリに対する評価を上方修正する必要に迫られてしまった。

「これから面白くなりそうですね。とりあえず何とかして援軍を出したいところですが、さてどうやってザフトの包囲を突破するか。NJCのデータを月に届けてもらえれば万々歳ですが、こちらから取りに行くべきですかね」

 とはいえ、月の戦力もザフトとの睨み合いで余裕が無い。ザフトはゲイツを中心とした戦力を整備していて、ストライクダガー中心の宇宙艦隊では2倍の数を揃えても辛くなってきている。今戦っているのは通商破壊を行っている複数の任務部隊や独立艦隊程度だ。これも全部合わせれば100隻くらいになるのだが、こちらも通商破壊戦で忙しい。通商破壊部隊は輸送船団を探さなくてはいけないので、網を張るためにこちらも多数の艦が必要なのだ。
 この問題に関してはパナマのマスドライバーが使えるようになる2週間後になれば解決するだろう。そうすれば再建された第1、第2艦隊を打ち上げる事が出来るので、アメノミハシラを守る事が可能になる。だがそれまでにアメノミハシラが落とされては元も子もないので、アズラエルは参謀本部に要請して通商破壊に回している独立艦隊を2つくらい回して欲しいと要請する事にした。


 これらの指示を出した後、アズラエルはスカンジナビア王国に旅立って行った。ラクスとの会談を行う為に。そして、プラントと大西洋連邦の講和ルートに接触する為に。その為に飛行場に向う途中で、アズラエルは視線を内陸の方へと向けた。

「そういえば、今頃は5大湖近辺のNJの除去が行われている頃ですねえ。順調なら良いんですが」

 大西洋連邦は国内に打ち込まれたNJを探し出し、これを1つ1つ処理しようとしていた。その最初の試みが、デトロイト近くのベイシティ原子力発電所に影響を及ぼしている3基のNJだ。これを除去し、原子力発電所を使えるようにする。これが計画の目的だった。



 この作業は、大西洋連邦が地中に埋まっているNJを捜索する技術を確立したから可能になった。大西洋連邦はNJの除去を宿願として努力を積み重ねており、遂にそれが実を結んだのだ。
 そして、そのNJ除去作業は非常に簡単に済むものであった。地中深くに打ち込まれたNJまでボーリングで穴を掘り、NJをMSに使われているビームライフルを転用したビーム放射装置で破壊するというものである。この作業部隊はこの任務を成功させ、NJを破壊することには成功した。ただ、NJの爆発力が掘削穴を伝わって地上に吹き上げ、ビーム放射装置を破壊してしまったが。
 3箇所で相次いでNJの破壊成功後、この近辺のNJ障害が消滅した事が確認されている。勿論ここ以外に打ち込まれたNJからの干渉はあるのだが、距離の関係で微弱な物になっている。
 そして、この爆破の2日後、点検整備を完了していたベイシティ原子力発電所は静かに発電を再開する事になる。この原発の発電電力はデトロイトの電力不足で停止していた工場や研究施設を再稼動させるのに使われ、デトロイトが再び活気付く事になった。これが大西洋連邦の生産量を爆発的に増加させる、最初の一歩となったのである。





 そしてアメノミハシラではMS隊の厳しい訓練が続けられていた。アメノミハシラ駐留部隊は宇宙に慣れているようでまだ安心だったのだが、地上から来た連中は1から鍛えなおさなくてはいけない。宇宙に居たパイロット達もまだまだ未熟だ。キースはキラに模擬戦闘を繰り返して経験を積ませるように指示し、自分の目から見て明らかに落第点を付けたパイロットには基礎過程から再訓練を課している。
 この無茶苦茶な状況の中で、キースはなんだか不機嫌そうな顔をしていた。彼が見ているモニターの先ではシンとステラのM1が宇宙で動く訓練を続けている。その表情に気付いたエリカ・シモンズが如何したのかと彼の見ているモニターを覗き込み、別におかしいところは無いようだと思って訝しげな声をかけた。

「如何したのバゥアー大尉、この2機が何か?」
「……いえね、この2人は仲が良いようだと思いましてね」
「ああ、シン君とステラちゃんね。整備員たちはバカップルだって笑ってたわよ」

 何時もシンにくっついているステラと、それが満更でも無さそうなシンの姿はアメノミハシラでも目立っていて、今ではすっかり整備員たちの笑い話の種になっている。敗戦の暗い空気の中では、ステラの撒き散らす明るい空気は微笑ましい物だったようで、周囲の見る目は好意的だった。
 だが、キースの隣でモニターを覗き込んでいたエリカは、キースが呟いた言葉に驚きを浮かべていた。

「早く、別れさせた方が良いな」
「え、何でよ?」

 まさかこんな事を考えているとは思っていなかったエリカは、キースに対して非難するような目を向けている。キースはエリカの視線など意に介していないようにじっとモニターに視線を注ぎ、エリカの問いに答えた。

「……ステラと居ても、シンが苦しむだけだよ。破局が来る前に分かれた方が傷が少なくて良い」
「シン君がコーディネイターだからって事。ナチュラルとじゃ絶対に報われないって言いたいのかしら?」

 エリカの声に険が混じる。彼女もナチュラルを夫に持つ身であり、キースの言う事は理解は出来ても面白いものでは無い。これは自分達家族を否定する考えだ。しかし、キースはそういう意味で言っているのではなかった。

「コーディネイターだからじゃないさ。俺の妹分もコーディネイターに惚れてるし、応援してる」
「じゃあ何でなのかしら?」
「…………」

 キースはそれには答えず、座席から立ち上がると管制室から出て行こうとした。その背中にエリカが不満そうな声をぶつけてくる。

「バゥアー大尉、2人の何が不満なわけ。良い子達じゃない?」
「……ああ、良い子達だよ。だから尚更なのさ」

 訳の分からない答えを残してキースは管制室から出て行ってしまった。それを見送ったエリカは困惑した顔をしている。一体2人の何が問題だというのだ。




 宇宙ではキラのフリーダムが4機のM1を相手に模擬戦闘をしていた。4対1で勝負になるのだから凄い話だ。M1を使っているのはシンとステラに、アサギとマユラの4人だった。この4機を相手にキラは苦戦するどころか、押し気味に戦っている。

「どうしたんです、そんなんじゃ、一発も当てられませんよ!?」

 機体を動かし、練習用のペイント弾がレールガンから放たれて回避運動をしているアサギを直撃して青色に染め上げる。撃たれたアサギは着弾の衝撃に悲鳴を漏らし、そしてコンピューターが機体を強制停止させた。

「ああ、また落とされた!?」
「ああもう、何やってるのよアサギ!」

 撃ち落された同僚の不甲斐なさにマユラが声を上げるが、その直後に彼女も撃墜されてしまう。腕が違うとかそういうレベルでは無いのだ。そして残った2人はどうしたものかと距離を取っている。

「シン、どうする。あの羽付き凄く強い」
「くそっ、アレ反則だろ!」

 火力も機動性も違いすぎる。これじゃ自分達は余りにも不利ではないか。だが、シンはかなりの負けず嫌いであった。こんな負け方をするのは流石に我慢が出来ない。意を決してシンはステラにサポートを頼んだ。

「僕が突っ込んで接近戦をするから、ステラはサポート頼むよ!」
「出来るのシン?」
「やってみるだけさ!」

 模擬サーベルを抜いてフリーダムに突っ込んでいくシン。ステラはシンに言われたとおり距離を取ってライフルを使った牽制を加えだした。強化人間だけにその動きはエース級のコーディネイターにも匹敵するステラの先読み射撃はキラでも警戒させるものだったが、それ以上にキラを驚かせたのは接近戦を挑んできたシンの動きだった。
 模擬サーベルをぶつけ合ったM1とフリーダム。キラは力任せに押し返そうとしたのだが、それより早くシンはサーベルを引いて横薙ぎの攻撃に切り替えてくる。その攻撃の組み立ての上手さと、素人とは思えない先読み機動にキラは驚きを見せている。

「M1でここまで動けるなんてね。しかもこの動きはフレイみたいだ」

 フレイほど上手くも無いし、読みも甘いのだが、その動きは何処かフレイを連想させてしまう。そして動きの速さはフレイ以上だった。これはコーディネイターという身体のおかげなのだろうが。
 キラは知らなかったが、シンの師匠はフレイなのだ。シンがフレイに似た戦い方をするのも無理は無い。このせいでキラは予想外の苦戦を強いられている。勿論シンだけが相手ならキラは圧倒できただろう。キラが苦戦させられたのはステラの射撃が動きを制限していたからだ。役割を分担した2人の連携は中々に様になっている。

 フリーダムの4門の砲が訓練用のペイント弾や照準用レーザーを放つが、それをシンのM1が急激な機動で全て外してしまう。自分の砲撃を回避し続けるシンの動きにキラは少し不愉快そうに目を細め、中距離に保っていた距離を一気に縮める動きに出た。接近戦でケリを付けようというのだ。M1とフリーダムの性能差も考えれば確実な手と言える。
 これを見てシンは逃げるどころか、逆に自分からも距離を詰めに出た。シンは接近戦型のパイロットなので、接近戦はむしろ望むところだ。そしてキラは知らなかったが、シンのM1はノーマルではなく研究用にコスト度外視で強化されたS型なので、フリーダムの動きに追随出来る。
 まさか距離を向こうから詰めてくるとは思わなかったキラは戸惑ってしまい、動きが僅かに鈍ってしまう。それを見逃さなかったシンはここがチャンスとばかりに模擬サーベルを横薙ぎに振るってフリーダムを襲い、それは回避が遅れたフリーダムの左腕を捉えた。たちまちフリーダムの左腕はコンピューターによって強制停止され、判定破壊扱いとなる。
 この被害を受けてキラが距離を取ろうとしたが、その動きは側面に回ってきたステラの射撃に邪魔された。後退路を遮るように弾幕を張るステラをキラが苦々しく睨みつけ、迫るシンのM1を模擬サーベルで迎え撃つ。再び格闘戦に入り、3度切り結んだキラは殆どゼロ距離で照準も付けずにレールガンを放つ。それは運悪くM1Sのシールドに阻まれたが、戦いを仕切り直すことは出来た。

「……仲が良いんだね、君たちは」
「え、あ、いや……」

 いきなりそんな事を言われてシンが少し照れた声を漏らした。訓練中に照れてるんじゃないと突っ込まれそうだ。
 良い連携をする2機、シンとステラの顔を思い出してキラはなんだか羨ましそうに呟く。そしてその直後、キラの口元が微妙に引き攣った。目に少し怒りが混じる。

「でも何故かな、今の僕にはそれがとてもむかつくよ!」
「何だそれえ!?」

 キラが種割れ現象を起こし、攻撃の激しさを増すフリーダム。それはたちまちシンの捌き切れる限界を超え、あっという間にシンのM1を判定撃墜してしまった。そして残る1機となったステラを全力射撃であっさりと落としてしまう。それが決着であった。なんだか随分大人気ない勝利であったが。





 ハワイ基地ではアークエンジェル、ドミニオン、パワーの3隻が損傷を直しつつ、部隊の再編成を行っていた。次の攻撃目標はカオシュン基地となる事が分かっており、第8任務部隊はこの攻撃に参加する事が決まっている。また、ドミニオンとパワーにはアークエンジェルに施された改装が修理と並行で行われる事になり、艦体下部の3基目のゴッドフリートの増設と、イーゲルシュテルンのレーザー機銃への更新、艦橋後方のヘルダート発射管の排除が行われている。ただ時間が無いのでそれ以外の改装は出来そうもなかった。また、アークエンジェルには試作されたレーザーファランクス2基が試験装備された。
 第8任務部隊は今回の作戦ではカオシュン攻略用に編成される第51艦隊に加えられ、特にアークエンジェルは今回の作戦の指揮を取る旗艦として昇進したサザーランド准将が乗艦する事が決まっている。この事を知らされたマリューは露骨に嫌そうな顔をしていた。
 そして、3隻には先のオーブ戦で消耗したMS隊の補充が行われた。これで3隻の艦載機はGタイプとマローダーを除けば105ダガーで統一される事になる。ただ、パイロットの技量は落第点を付けられており、彼等の訓練が当面の課題となっていた。
 この課題に対しては第51艦隊の全パイロットをアルフレットが特訓する事になり、第8任務部隊のエースたちを教官代わりに使って連日猛訓練を続けさせていた。

「おらおら手前ら、チンタラ動いてるんじゃねえよ。的になって死にてえのか!?」

 ストライクダガー隊のパイロットたちの未熟な動きにアルフレットが移動指揮車の中から怒鳴り声を上げている。彼等はMSを走らせる訓練をさせられているのだが、今1つ動きがぎこちない。その先頭に立たされているのはカラミティとレイダーだったりする。
 その移動指揮車の中ではサイが計器をあれこれ操作していて、トールが物珍しそうにその様子を見ていた。

「新しい通信機なのか、これ?」
「新しいというか、改良型かな。NJの通信妨害の中でもこれまでより明瞭に聞こえるんだってさ」
「そりゃありがたいけど、何か梃子摺ってない?」
「まあね。これ調整がかなり面倒なんだ。俺も説明書片手にやってるよ。今度の改装でアークエンジェルにも積まれるらしいから、今のうちに慣れておかないと」
「そっか、頼むぜサイ」

 オペレーターの仕事も楽ではない。新しいシステムが積まれれば最初から覚え直さなくてはいけないのだから。そしてサイの習熟度はそのまま通信回線の維持につながり、アークエンジェルの命運にも関わる。だからサイは何時もこうして努力を続けていた。
 そんなサイに労いの言葉をかけたトールは改めて視線を訓練中の部隊に向け、そして苦笑いを浮かべてしまった。それを見たサイがどうしたのかと聞くと、トールは昔を懐かしむように教えてくれた。

「いや、俺も昔アレやらされたなあって思ってさ」
「MSでマラソン?」
「ああ、MSを走らせられない奴が実戦でどう逃げ回るんだって言われてさ。あの時はデュエルでやらされたけど、機体の上下運動でコクピットの中で揺られまくってさ。最初は何度も乗り物酔いして吐いてたよ」
「フレイも?」
「フレイは俺以上に慣れるのに苦労してたよ。あいつ結構身体弱かったみたいだな」
「あ、やっぱりそうか。フレイって乗り物の酔いする方だったからな」

 笑いながら昔話をする2人。サイもフレイを奪われた事への遺恨はもう無いのか、昔の思い出として昇華出来ているらしい。その顔には特に曇りは見られない。そこにお盆にサンドイッチと飲み物を乗せたミリアリアがやってきた。

「は〜い、ミリアリア・デリバリーサービスですよ!」
「おお、ありがてえ。怒鳴りすぎで喉がからからだったんだ」
「そうだと思って、水筒も持ってきてますよ」
「そいつは気が利いてるな」

 アルフレットがありがたそうに水筒と自分の分のサンドイッチを受け取り、ミリアリアはサイとトールにも間食を渡して、何を話していたのかと聞いてきた。受け取ったサンドイッチにかぶりついていた2人が昔話をしていた事を伝えると、ミリアリアは少し表情を曇らせてしまった。

「……フレイ、大丈夫かな?」
「…………」
「キラは前のカガリの映像に居たけど、フレイは居なかったよね。フレイは宇宙に出て無いの?」
「どうなのかな」

 流石にそんな事は分かりようも無い。多分生きているとは思う、いや期待しているのだが、それを証明することは出来ないのだ。

「ねえ、もしかして、フレイはオーブで……」
「ミリィ、それ以上言っちゃ駄目だ!」

 最悪の想像を口にしようとするミリアリアをサイが遮った。その強い口調にミリアリアがビクッとしている。

「頼むから、そんな事言わないでくれ。言ったら、本当になるかもしれないだろ」

 それは迷信の類だったが、サイの言いたい事はトールにもミリアリアにも理解できた。だから2人は顔を俯かせながらもそれ以上この話題を続けようとはしなかったのだが、そんな3人にアルフレットが話しかけてきた。

「生きてるよ」
「え?」
「あいつは、フレイは絶対に生きてる。あいつは俺の養女なんだぞ。そう簡単にくたばるかよ」

 ミリアリアの持って来たコーヒーを口にしつつ、アルフレットは真面目な顔で断言した。その顔には全く迷いも疑いも感じられない。その自信はどこから来るのだと3人は思ったが、アルフレットは3人の疑問には答えずに大きな音を立ててコーヒーを啜り、話を続けた。

「まあ、一応情報部の知り合いに無理を言って調べてもらっている。そう遠くないうちに答えが帰ってくるさ。来たらお前等にも教えてやるよ」
「あ、ありがとうございます」
「礼を言われるような事じゃねえ。親父としては当然の事だ」

 コーヒーを飲み干すと、アルフレットはまたパイロット達への指示を出し始める。その絶対とも言える揺るぎ無い自身に3人は返す言葉が無かったが、この男に言われると何故かそうかもしれないと思えてしまうから不思議だ。フラガやキースたちがこの男に全幅の信頼を置いているのもこの出所不明の信頼感からなのだろうか。

「こら16号機、手前訓練校からやり直して来い!」

 もっとも、普通の子供が憧れるような颯爽とした歴戦の士官というイメージからは程遠かったりするのだが。

「トールも、それ食べたら訓練に参加しなさいよ。アークエンジェルじゃトールが一番弱いんだから」
「わ、分かってるけどさ、フラガ少佐たちより強くなれってのは無茶だと思うんだけど」
「それでも頑張るの!」

 ビシッとお盆で頭を叩かれたトールが頭を押さえてプルプルと震えている。そしてミリアリアはまだ仕事があるからと言って指揮車を出て行こうとしたが、入り口の所で振り返って思い出したように付け加えてきた。

「そうだ、仕事終わったらちょっと買いに行きたい物があるから、後で付き合ってね」
「お……おう……」

 右手で頭を押さえながら答えるトール。それを聞いてミリアリアは軽やかな足取りで指揮車から出て行き、トールも仕方なさそうに訓練に加わるかと外に出て行く。それを見送ったサイはやれやれと右手で頭を掻き、少し羨ましそうな声でボソッと呟いた。

「俺も彼女作ろうかなあ」

 今の所当ては無いのだが、ああいうのを見せ付けられるとそういう事も考えてしまう。もっとも、彼に春が来るかどうかはさっぱり分からなかったりするが。





 その頃、オーブでは小さな事件こそ絶え間なく起こっていたものの、概ね平穏な日々が続いていた。もっともカガリの演説以来オーブ人の中から沸騰する者が現れだし、ザフトを侵略者と呼んで抵抗運動をする者が現れ出している。それは民間人のサボタージュからテロ行為、元軍人のゲリラ活動まで様々な運動が起きており、その炎はオーブ全土に広がっていた。
 昼間は平穏でも、夜になると銃声が聞こえてくるのだ。巡回中のザフト兵士が襲われる事も多く、時には車両が吹き飛ばされる事まである。夜の街に遊びに出て、翌日には惨殺死体になって裏路地に転がっている兵士も後を立たない。
 このテロ行為に対してザフトは再三に渡ってオーブ政府に対して取締りを求めているのだが、効果は一向に出ていない。取り締まる命令は出しているのだが、当の警察組織がテロリストに味方しているようなのだ。ザフトはこのオーブの態度に激怒していたのだが、無理に強硬策を使えば余計に敵が増え、治安維持に兵力増強を要請しなくてはいけなくなることが確実なので、ザフトはむしろ危険な周辺の島から手を引き、首都オロファトと要塞島オノゴロの2つのみを確保する事に切り替える事になる。
 ただ、恐らく正規軍によると思われるゲリラ攻撃がオノゴロ島の中と周辺の海上で起きるようになっており、オノゴロにはザフトの知らない秘密基地があるのではないかと考えられている。


 こんな状況下にあってアスランたちは家主と面識があったおかげか、かなり平穏な日々を過ごしていた。フレイから提供されたのは屋敷の離れにある、フレイたちが東館と呼んでいる別邸だ。フレイは最初アスランたちは本館の空き部屋に入れようと思っていたのだが、これはソアラが強硬に反対したのだ。ソアラ曰く「年頃のお嬢様と一つ屋根の下に彼等を同居させるなど承諾できません!」という事らしい。
 かくしてこれまで使われていなかった東館が使われる事になったのだが、ここは建築以来殆ど使われていない所で、アスランたちはまず住めるように掃除をしなくてはならなかった。家具などは揃っていたのだが、年月を感じさせるくらいに降り積もった埃や蜘蛛の巣などを取り除かないと住めそうになかったのだ。
 しかし、それは戦闘以上に恐ろしい困難を伴う作業であった。

「うお、床に足跡が残るぞ!?」
「だあああ、じたばたするなディアッカ。埃が舞うだろ!」
「イザークも怒鳴るな。って前が見えねえ。窓開けろ窓!」

 舞い上がった埃が高濃度で充満する空間で、イザークとディアッカ、ミゲルが咳き込みながら窓を開け放っていた。そして3人が窓から顔を出して空気を取り込んでいると、隣の部屋から ルナマリアの悲鳴が聞こえてきた。

「ぎゃあああああ、く、蜘蛛蜘蛛、クモ――――ッ!!」
「落ち付けルナ、蜘蛛くらいで何を慌てている!?」
「私はこういうのが嫌いなのよ。レイ何とかしなさい!」
「な、何とかと言われても、どうすれば?」
「良いから行け!」

 その直後に蹴り飛ばすような音が聞こえ、レイの小さな悲鳴が聞こえてきた。その直後にまたルナマリアの悲鳴が響き渡り、ドタドタと音を立ててルナマリアが廊下を走っていった。何があったのかと3人が扉から廊下を伺うと、今度はそれを追う様に全身蜘蛛の巣塗れになたレイが歩いてきた。

「何処に行ったルナ、これ取るの手伝わないか!」

 見れば巣の主らしい蜘蛛も沢山体に付いている。一体何があったのだろうか。



 そしてアスランはジャックたちに指示を出しながら、この屋敷は本当に使えるようになるのかという懸念を抱いていた。確かに作りは立派だが、これでは掃除だけで一日かかる気がする。アスランは頭にねじり鉢巻を締めて右手にハタキを持ちながら、えらい物件を回されたと溜息をついてしまった。

「参ったな、これは」
「ザラ隊長、愚痴っていても綺麗にはなりませんよ」

 軍服の上から割烹着を付けているシホが中から机を運び出して地面の上に置く。何処にそんな物があったのだろうか。

「そうだな、やるか」

 最近痛みが取れない胃を擦って、アスランはハタキを武器に別館に入ろうとしたのだが、いきなり中から聞こえてきた騒ぎに顔を顰めてしまた。

「ルナ、走り回っちゃ駄目だってば!」
「でも蜘蛛が、変な虫があ!」
「暴れるなホーク、埃が舞うだろうが!」
「もう嫌あああああ!」

 中からドタバタと暴れるような音が聞こえてくる。またルナマリアが暴れてイザークと騒動を起こしてるんだろうと思ったアスランはジクジクと痛んできた胃を押さえ、止めようと中に入っていく。

「おいお前達、今度は一体なんで騒いでるんだ!?」

 中に入って理由を問い質したアスランであったが、どうやら声は2階から来ているらしく、1階ではフィリスとジャックが空っぽのタンスを2人で運び出そうとしているだけであった。
 やれやれと呟いてアスランは階段を登ろうとする。この別館は3階建てで、アスランが居る所は吹き抜けのホールになっている。階段はこのホールの正面にある壁に沿うように上がっている。それをアスランは上りだしたのだが、2階の踊り場に出たところでアスランが見たのは、自分に向かって走ってくるルナマリアの姿であった。

「なあっ!?」
「ど、どいてどいてぇ――!」

 勿論退けるわけはなく、アスランはルナマリアの体当たりを食らって階段から転がり落ちてしまった。それを見てルナマリアはアチャーという顔をしていている。そして1階に居たフィリスとジャックが慌てて駆け寄っていき、アスランを助け起こしていた。

「隊長、ザラ隊長、しっかりしてください!?」
「何か様子が変だぞ。俺医者呼んでくるわ!」
「お願いします。私は隊長を本館へ移します!」

 アスランは真っ青な顔をして苦しそうに呻いている。その様子はそう見ても尋常なものではなく、最悪脳や内臓などの重要器官を傷付けたのかもしれないのだ。この騒ぎで大掃除は中断され、アスランは本館に運ばれて開いている部屋のベッドに寝かされる事になる。




「過労、だな」

 ジャックの連絡でやってきた軍医兼パイロットのミハイル・コーストはアスランを診断してそう結論付けた。

「よほど無理を重ねてきたのだな。全身に疲労が溜まっていて、もうボロボロではないか。内臓器官にもかなり負担がかかっていたぞ。胃もストレス性胃潰瘍を起こす寸前だと思う」
「よく生きてますね、アスラン」
「ああ、私も同感だな」

 ベッドの脇に持って来た椅子に腰掛けるミハイルの隣に立つフレイが気遣うような目でアスランを見ている。確かにアスランの顔色は前からあまり良くはなかったが、まさか倒れるほど追い詰められていたとは。
 そして、2人の見ている前でアスランはゆっくりと目を開けた。

「気がついたかね?」
「……俺は、どうしたんだ?」
「階段から落ちて気を失ったのよ。今診察してもらってる所」
「診察って……」

 アスランは自分を診察している相手に気付いて顔色を青褪めさせた。

「ド、ドクター・ミハイル……」
「さてお嬢さん、少し外に出ていてくれるかな。ここから先の診察は君のようなお嬢さんは見ない方が良い」
「え……あ、そ、そうですか。すぐ出て行きます」

 聴診器やらなにやら色々な道具を取り出したミハイルを見て、フレイはアスランが服を脱いで診察を受けるのだと察して慌てて部屋から出て行こうとしたが、そのフレイを必死に縋るようなアスランの悲痛な声が呼び止めた。

「ま、待ってくれ、俺をこの男と2人にしないでくれえ!」
「え、え、え?」
「さあ、早く出て行きたまえ、診察の邪魔だ」

 アスランの悲痛な声に戸惑うフレイだったが、ミハイルに再度促されてフレイは部屋から出て行ってしまった。流石にこういう時は医者の言う事を聞くのが常識だから。だが扉を閉める前にアスランが上げた悲鳴のような懇願の声に、フレイは後ろ髪を引かれる思いであったりする。フレイは知らなかった。ミハイル・コーストが友軍からマッド・ドクと呼ばれ恐れられている事を。
 そして外に出たフレイは、中から聞こえてきた声に身を震わせ、耳を押さえてその場から逃げ出してしまった。

「怖がる事は無い、さあ、おじさんと一緒に、危ない世界に行こうか」
「嫌だあああ、誰か助けてくれ〜〜〜っ!!」

 いったい中で何が起きているのか、それを知る者は誰も居なかった。



「まあ、大丈夫だろう。薬を後で調合して送らせるから、朝晩2回それを飲ませたまえ。あと、一週間は絶対安静だ。この屋敷に止め置き、仕事と触れさせないようにしてくれたまえ。何、ゆっくり休んで栄養のある物を食べていれば直ぐに回復する。原因は過労とストレスのようだからな」
「そうですか、ありがとうございました」

 ミハイルはソアラが付き添って屋敷から出て行き、フレイはアスランの部屋へとやってきたのだが、何故かアスランはシーツを頭から被ってしまっていた。

「どうしたのアスラン。先生はただの過労だって言ってたわよ?」
「うう、暫く1人にしてくれ」
「……な、何があったわけ?」
「それは聞かないでくれ……」

 なんだかこの世の終わりでも来たかのようなどんより暗い声に、フレイはそれ以上の追求の道を断たれて仕方なく部屋を後にした。しかし、一体この部屋でどういう診察が行われたというのだろうか。




 その日の夕刻、なんともすまなそうな顔でイザークとディアッカが特務隊代表として本館を訪れていた。アスランが過労と心労で倒れたなどと聞かされては、流石に責任を感じずにはいられなかったらしい。出迎えに出たソアラの案内でイザークたちはアルスター邸の中を歩いていく。

「参ったな、まさか倒れるとは」
「しょうが無いんじゃない、アスランも最近は色々不幸が続いてたし」
「ザラ議長にラクス・クラインか。確かに仕方が無いかも知れんが……」

 自分達も心労に大いに貢献しているんだぞと目で語るイザーク。ディアッカも珍しく素直に頷いている。今回ばかりは責任を痛感しているらしかった。だが、部屋の前まで案内された2人の耳に、なんだか変な声が飛び込んできた。

「はいアスラン、あーんして」
「じ、自分で食べられるからそこに置いといてくれフレイ!」
「だぁ〜〜め、先生に安静にしてろって言われてたでしょ。さあ、病人は大人しくしてなさい」
「お、お前、楽しんでるな、絶対に楽しんでるだろ!」
「あら、何のことかしら?」
「この子悪魔がぁ、そんなに俺を苛めて楽しいかあ!?」

 どうやらフレイがアスランに料理を食べさせようとしているらしい。ソアラの目などもう気にする事もなくイザークとディアッカは扉に耳を当て、中の会話を聞き漏らすまいと全神経を耳に手中していた。その姿はどう見ても不審人物で、ソアラが不機嫌そうに咳払いをしている。

「はい、あ〜〜ん」
「く、くううううううう……」
「何よ、そんなに私に食べさせられるのが嫌なわけ?」
「いや、嫌とかじゃなくてだな」
「それとも何、女の子より男に食べさせられる方が良い? なら誰か呼んでくるけど」
「いや、男よりは女の子の方がずっと嬉しいんだが……」
「じゃあほら、口開けなさい。こんな美少女に食べさせて貰えるんだから素直に喜びなさい」
「じ、自分で美少女と言うか?」

 アスランはかなり抵抗していたようだが、暫くすると中から食器の立てるカチャカチャという音と、何かを租借する音が聞こえ始めた。この中で何が行われているのかは想像するまでもなく、イザークとディアッカかは瞳に怒りの炎を燃やしてゆっくりと扉からはなれた。

「おのれアスラン、人が心配して来てみれば女とイチャイチャしやがって……」
「畜生、羨ましい思いしやがって」
「行くぞディアッカ、ここからは俺たちの戦場だ」
「ああ、早速準備をするぜイザーク」

 2人は頷き会うとそそくさと来た道を戻っていってしまった。それを唖然として見送ったソアラは、何をするつもり何かと思いながらまた仕事に戻っていってしまった。


 この日の夜、アルスター邸の防衛システムに多数の侵入者が引っ掛かり、迎撃システムまでが起動しての壮絶な戦いが行われた事を記しておく。この際に窓を破って進入した凄腕が何人か出たらしいが、それはソアラの手で実力で排除されていた。
 そして翌日、何故か特務隊から回されてきたアルスター邸の損害賠償金の請求書を受け取ったクルーゼは、彼にしては珍しく右手で額を押さえていたという。この時彼は「一体何をしてるんだ、あいつ等は?」と呟いていたという。




後書き

ジム改 NJCもこれで連合に渡る準備が整ったな。
カガリ 良いのかな〜、これで?
ジム改 結果は後で分かるでしょう。
カガリ これで核でプラントが吹っ飛んだら私のせい?
ジム改 まあそうなるな。
カガリ ちょっと待てえ!?
ジム改 はっはっは、まあ気にするな。
カガリ 気にするわ。たく、所で私たちは今後どうなるんだ?
ジム改 とりあえずザフトの圧力が強まるな。M1A1で頑張ってくれ。
カガリ フリーダムとか来たら歯がたたねえじゃねえか!
ジム改 まあそうだな。一応連合の艦隊も来てくれてはいるが、あまり多くない。
カガリ こうなったら私もM1で出るぞ。
ジム改 ミナがゴールドフレームで出た方が戦力にならないか?
カガリ ……私がゴールドフレームに!
ジム改 ステラ乗せた方が強いと思うが。
カガリ 私はMSに乗れないのかあああ!
ジム改 代表が乗るわけにもいかんだろうが。それでは次回、アズラエルがスカンジナビア王国にやってきて、ラクスと会談をする事に。だが、考えの違う2人の意見は噛み合わない。そしてアメノミハシラではキースがシンにステラと別れろと告げ、ステラとシンが顔を合わせられない様にしてしまう。それに怒るシンだったが、ザフトの攻撃が始まってそれ所ではなくなってしまう。それは、ザフトの大攻勢の前兆だった。次回「自由軍の初陣」でお会いしましょう。

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