第113章  ステラ



 スカンジナビアにあるマルキオの息のかかったビルの中で、ラクスからの電話を受けたダコスタは迷っていた。ラクスからの指示は簡単に達成できるような指示ではなかったからだ。
 暫し考え込んだ後、ダコスタは部下に命令を伝えた。

「マルキオ導師に連絡を取れ。アメノミハシラに、カガリ・ユラ・アスハにコンタクトを取る仲介を頼まなくてはいけない」
「分かりました!」

 部下が部屋から飛び出していく。それを確かめて、ダコスタは絞り出すような声で呟いていた。

「NJCを連合に送るような動きがあれば、これを阻止しろ、か。確かに今のアメノミハシラから連合に送るならデータディスクを届ける必要があるだろうが、それを阻止しろとはな」

 恐らくラクスはカガリと直接会ってNJCを渡す事を止めるよう説得するつもりなのだろう。場合によってはマルキオも同行するかもしれない。だが、それより早く動くようなら実力で阻止しろとは、無茶を言うものだ。
 NJCを運ぶとなれば、相応の部隊が護衛に付くか、強力な少数部隊で送るか、さもなければ連合の大艦隊が受け取りに行く事になるだろう。連合の正規艦隊が動いたらどうにも出来ないが、オーブ軍が送るのならやりようはある。だが、もしそれにフリーダムが加わっていたら、対処できないのではないのか。

「サーペントテールしかないか。並大抵の連中では対処できない可能性がある」

 あの最強と呼ばれる傭兵なら最悪の事態でも何とかなるかもしれない。逆に言えば、彼で無理なら対処しようは無いだろう。しかし、サーペントテールでも対処できるのだろうか。あのフリーダムは1機でプラント防衛隊とスピットブレイク参加部隊を突破してアラスカに辿り着き、パナマであのアスラン・ザラの使うジャスティスさえ退けたという。そんな化物のような相手なのだ。
 しかし、言われた以上は準備しなくてはいけない。ダコスタはサーペントテールを雇う為の予算を何処から捻り出そうかと頭を抱えて考え出してしまった。ラクスの組織は金欠病というこの世で最も恐ろしい敵に直面しているのだから。

「うちの部隊が動かせればな」

 ダコスタはメンデルで整備中の部隊を使えればと思ってしまった。あれがまともに動けるなら、フリーダムが出てきても数で押さえ込む事は不可能ではない。しかし、メンデルの部隊は物資不足でそう何度も戦闘は出来ないので、こんなどう転ぶか分からないミッションに投入する事は出来ないのだ。
 まだ動くには時間が足りない。それがダコスタの判断だった。ウズミからの支援が受けられなくなった為、残ったルートはジャンク屋を通じて購入するルートと、大西洋連邦のジークマイア大将が横流ししてくれる物資だけだ。最後の手段としてザフトの物資輸送船団を襲撃して強奪するという手もあるのだが、これはラクスが了承するかどうか分からないので使えないのだ。





 訓練に出ていたオーブ艦隊は、途中でザフトの哨戒部隊と思われる艦隊と予期しない遭遇戦をする羽目になった。慌てて戦闘準備が整えられるが、クサナギの艦橋ではユウナが大騒ぎしていた。

「早くアメノミハシラの砲台の射程内に逃げ込め!」
「落ち着いてくださいユウナ様、向こうの方が足が速いんです」

 アリガ艦長がどうにも司令官らしくないこの男に些かの苛立ちを感じながらも説得を続けている。艦橋とはいえ、部下の前で司令官が取り乱しては士気に関わるからだ。だが、ユウナはそれで落ち着いたりはしなかった。

「何言ってるんだ艦長、こんな練成中の部隊で、ザフトと戦って勝てるのか!?」
「今敵戦力を確認中です。まずは迎撃準備をしてください!」

 ユウナには悲しいほど指揮官としての経験が足りない。元々カガリの参謀として軍務をこなしてきた男で、責任を背負うなんてことは無かったのだ。それがただの訓練に出ただけなのに、こんな予想外の戦闘をする羽目になるとは。
 アリガにピシャリと言われたユウナは意気消沈して指揮官席に座って大人しくなる。そしてユウナに変わってアリガが迎撃準備の指揮を取り出した。次々と出される指示をオペレーターが各艦に伝達していき、6隻の駆逐艦がクサナギの左右に展開していく。そしてMS隊に出撃指示を出そうとしたが、クサナギのカタパルトから2機のM1Aが出たのを見てすこし驚いた。

「誰が出させた?」
「バゥアー大尉が緊急発進の命令を出したようです」
「そうか、あのカガリ様が連れてきた大尉がな。流石に実戦慣れしている」

 対応の早さにアリガが感心している。キースはエメラルドの死神と呼ばれる凄腕のパイロットで、この場にいる誰よりも豊富な経験を積んでいるが、それがアリガよりも迅速な対応をさせていたのだろう。アリガは頼れる男だと感心して、自分の命令を待たずに部隊を動かしたキースを責める事はしなかった。
 そして、ようやく敵に関する情報がクサナギにもたらされた。

「敵はローラシア級3隻で編成された艦隊です。ジンとゲイツを展開しています!」
「速いな、ベテランか。しかも3隻もいるか」

 こっちは半数が訓練不足の兵で、パイロットも一部を除けばやはり弱兵だ。ベテランのパイロットは先のオーブ防衛戦における宇宙での戦闘で消耗してしまっている。その穴は新米で埋めるしかなく、こうして訓練をしていたのだ。オーブもザフトと同じく人材の層が薄く、消耗してしまうと補充が利かない体質をしていたのだ。
 オーブ艦隊7隻からMS隊29機のM1Aとメビウス1機、フリーダム1機が出撃していく。それに対抗するようにザフト艦隊からも12機のジンHMと6機のゲイツが出撃した。数で見れば30対18で勝負にならないのだが、オーブ側の表情は暗い。M1隊の弱さは自分達が一番良く分かっているのだ。

「不味い、かな」
「艦長、だから早くアメノミハシラに逃げ込むんだ!」

 分が悪いと言い出したアリガを見て、それ見た事かとユウナがまた騒ぎ出す。それはアリガにはうっとおしい声ではあったが、事態がこうなった以上はそちらの方が正しいのではと思えてしまう。すこし迷った後、アリガは全艦にアメノミハシラ方向に後退するように命令を出した。




 訓練にでたユウナの部隊が敵と遭遇したという知らせは直ぐにカガリの元にもたらされ、カガリはユウナたちに後退するように命令を出そうとしたのだが、これはミナに止められてしまった。

「待てカガリ、ユウナにその部隊を撃破させよう」
「何言ってるんだミナ、ユウナは指揮官の経験なんて無いんだぞ。しかも使ってる部隊は訓練途上の部隊だ!」
「それでも、だ。カガリが代表として政治の表に立ち、私が裏方に回るとなれば何時も何時も我々が指揮を取れるわけではない。むしろ戦闘の大多数を占める小競り合いに我々が出ている暇は無いだろう。そうなれば、指揮を取るのは自然とユウナが多くなる」
「だから、経験を積ませるってのか?」
「敵との戦力差は2倍、MS隊にはキラ・ヤマトもバゥアーも居る。条件としては望む限り最高の物だ。ユウナにはここで実戦を経験してもらおう」

 訓練代わりの戦場を得られる絶好の機会に恵まれたと言うミナ。確かに条件は十分なのでミナが勝負に出ようと言うのは分かるのだが、それでもカガリは不安だった。本当に勝てるのだろうか。

「一応、こっちからも援軍を出した方が良いんじゃないか?」
「何だ、随分と過保護だな」
「べ、別にそんなわけじゃない!」

 ミナにからかわれて、顔を赤くしてそっぽを向くカガリ。それを見たミナはやれやれと小さく肩を竦めると、マントを翻して踵を返した。

「何処に行くんだ、ミナ?」
「援軍を指揮する人間が必要だろう。イズモを使わせてもらうぞ」
「お、おい、ミナ!?」
「お前はここにいろ。代表が気軽に出撃しては、鼎の軽重が問われる」

 カガリをこの場に止め置いて、ミナは艦隊を準備するために司令室を後にした。それを見送ったカガリは正面に向き直ると、オペレーターにユウナを呼び出すように言う。それから暫く待っていると、メインモニターにユウナが出てきた。

「カガリ、今からアメノミハシラに戻るから、砲台の用意をしておいてくれ!」
「悪いがユウナ、そこで頑張ってくれ。今増援を出すから」
「お、おいカガリ、こっちがどういう部隊か知って言ってるのか!?」

 まさか戦えと言われるとは思っていなかったユウナが吃驚仰天している。その驚きようが余りにも滑稽だったせいか、モニターに映らない辺りに居たオペレーターたちが小さく肩を震わせている。実はカガリも笑いたかったのだが、それを懸命に堪えるとユウナに再度戦うように命令した。

「まあ頑張れ。数で2倍の差があるんだから、何とかなるって。そっちにはキラもキースも居るんだから、お前の指揮でも何とかなるさ」
「簡単に言うなよお……」
「情けないこと言うなよ、これでも期待してるんだぞ。お前も少しは根性見せろ!」

 ピシャリと言って、カガリは通信を切ってしまった。そしてやれやれと肩を落とし、困ったもんだと右手で髪をかき回す。

「ユウナももう少し根性を見せてくれたらなあ。あれじゃ頼り無くて、これからの仕事は任せられないぞ」

 やれやれと呟いて軽く肩を回し、自分の椅子に腰を降ろした。ミナが言った時には反対したカガリだったが、改めて考えて見ればその心配も胡散霧消してしまっていたのだ。確かにユウナは経験不足の指揮官で、艦隊も練成中の部隊かもしれないが、あそこにはキラのフリーダムとキースのメビウスが居るのだ。そして2人ほどは頼れないが、フレイが見込んだシンに、強化人間のステラも居る。冷静に判断すればこの4人だけでどうにかなってしまう気さえするのだ。

「まっ、ユウナは勝ち戦を経験した方が良いかな。一度勝って自信がつけば、度胸も付くさ」

 経験が少ないユウナが逃げ腰になるのも仕方が無いか、と自分を納得させるカガリ。こういうのは慣れていくしかないのだから。ただ、後でカガリはこの楽観を後悔する事になる。それは、敵のレベルを地上のザフトと同レベルに見ていたがゆえの失態であった。





 カガリに戦えと言われてしまい、退路を断たれてしまったユウナの顔色は悪かった。これで彼は戦うしかなくなったのだから。貴族の責務として一通りの教育は受けているユウナだが、知っている事と実行する事には大きな溝がある。レジスタンスとアークエンジェルで幾度も実戦を潜り抜け、キサカの補佐を受けながら指揮を取った事もあるカガリとは違うのだ。

「くそっ、何でこんな事に!」
「ユウナ様、敵が動きます!」

 オーブ艦隊が迎撃態勢を整え終えるよりも早くザフト艦隊は動いた。3隻の艦が一斉に主砲を放ち、ビームと砲弾がオーブ艦隊の至近を貫いていく。最初の砲撃からいきなり至近弾を出してきた事にユウナが驚いている。

「初弾で至近弾を出せるのか!?」
「良い腕です、戦い慣れていますな」
「艦長、こっちはまだ反撃できないのか!?」
「もう少しです!」

 相手が戦闘機動に入っているのに、こちらはまだ陣形も整えていない。艦の性能では引けを取らない筈なのに、どうしてここまで差が出るのだとユウナは思ったが、直ぐに乗組員の能力に差があるのだと気付いてしまい、凹んでしまった。これがオーブ軍とザフトの差なのだ。
 それでも何とか陣形を組みなおしたオーブ艦隊はようやく反撃を開始した。砲撃を始めれば数の差で圧倒的な砲火を放つ事ができ、ザフト艦隊は多数の火線を叩き込まれて行き足を止められてしまう。
 しかし、オーブ艦隊が反撃を始めてすぐに駆逐艦1隻が直撃を受けて戦列を崩してしまった。

「ハツユキ被弾、左に流れて行きます!」
「立て直せないのか!?」
「ハツユキと連絡が取れません!」

 通信機器がやられたか、混乱していてそれどころではないのか、いずれにせよハツユキはもう戦力になりそうも無かった。アリガ艦長は仕方なさそうに頷くと、ユウナを見る。

「ユウナ様、ハツユキに後退する様信号を出そうと思うのですが」
「分かった、そうしてくれ」

 アリガ艦長の言葉にあまり考えずに頷き、ユウナはもっと気になっている事をオペレーターに聞いた。

「MS隊はどうなってる?」
「現在交戦中ですが、苦戦しています」
「フリーダムとメビウスは?」
「フリーダムはゲイツの相手をしてくれているようですが、苦戦しているようです。キース大尉はMSを振り切って敵艦隊に向かったようですが」
「……頼むぞ、1隻は沈めてくれ」

 キースはエメラルドの死神と呼ばれる連合最高のシップエースだ。その名声に今はあやかりたかった。今のユウナにとって、キースとキラの存在だけが縋る事の出来る藁だったのだ。その敵対した者を震え上がらせるような伝説的な活躍はユウナも聞いている。
 そして、2人はユウナの期待にある程度答えて見せた。




 フリーダムは6機のゲイツを同時に相手をしていたが、キラにとっては予想外な事に、6機のゲイツに彼は押さえ込まれていた。勿論1対1ならば確実に勝てる相手なのだが、彼等は6機がかりでキラのフリーダムと渡り合っていた。

「こいつら、動きが良い!」

 これがザフトの精鋭部隊という奴なのだろうかとキラは考えていた。アスランほどではないのだが、気を抜けない程度の腕を持っている。しかも実戦慣れしているようで弾を当てる事が出来ない。
 照準を付けた機体にレールガンを叩き込むが、片方を盾で受け止め、もう1発は回避してみせる。それに更にプラズマ砲を撃ち込もうとするが、ロックオンの警報に顔を顰めて機体を振る。その直後に背後から放たれたビームが至近を貫いていった。
 連携のとれたチームというものの強さをキラは思いしらされていた。キースはいつもフレイやトールを鍛える時に連携を考えろとか、友軍の援護を上手く使えと教えていたのだが、それを上手くこなせるのは相応の技量と経験を持つ者だけなのだ。そして今、キラはそうしたベテラン達を相手取っていた。恐らくは開戦から戦い続けてきた、超熟練パイロットなのだろう。
 周囲から撃ち込まれるビームを機体を舞わせて回避するキラ。だが、その眼前にビームサーベルを抜いて突進してくるゲイツが映った。

「くそっ!」

 回避が間に合わないと考え、シールドでそのビームサーベルを受け止める。そのままシールドで止め続けたキラだったが、サーベルユニットの負荷が限界に来たのか、相手のゲイツが距離を取った。そして今度は腰から有線の何かが飛んでくる。それが何かと確認する間も無く、その戦端からビームが放たれた。それをかろうじて回避はしたものの、上半身に焦げ跡を作っている。

「隙が無い、これじゃ一方的に撃たれるだけだ!」

 どれか1機を狙おうとすれば、周囲の5機が必ず邪魔をしてくる。かといって僅かに得られる時間では短すぎてまともに狙う事も出来ず、牽制をする程度になってしまう。
 フレイが脱出できていたら。キラはそう思って唇を噛んでいた。フレイは自分の背中を守り、自分をサポートする事が出来る数少ないパイロットだった。彼女がここに居て自分をサポートしてくれていたら、このくらい簡単に撃破して他の機体の援護に回れるのに。

「キースさんが船を沈めてくれたら、少しは楽になるかな?」

 母艦を失くせばパイロットは動揺する。そうなればゲイツの連携が崩れて、そこを突くことが出来るかもしれない。キラはこの時完全に他力本願になっていた。

 だが、これでもキラは役に立っていた。敵の凄腕を6機も同時に引き受けてくれているのだから。おかげでM1部隊はジンを相手にするだけで済んでいる。もっとも、それとて決して楽な勝負をしているわけではないが、ゲイツを相手にするよりはマシだと言えるだろう。
 29機のM1と9機のジンHMと1機のシグー3型が激突し、激しい戦いを繰り広げていたが、それはM1隊にとって恐ろしく不利なものであった。アリガたちは数の差で押し切れると考えていたのだが、実際には多数の未熟な兵を少数のベテランが庇って戦う事を強いられるという最悪の状況になったのだ。
 機動力に勝るM1は、その優れた機動性を生かすべく距離を詰めて接近戦に持ち込もうとする。M1のコンセプトは相手より素早く好射点を確保して敵を落とす事にあるからだ。
 これに対してザフトはシグーが重突撃機銃をM1に向けて放ち、これが合図となって全機が一斉に銃火を放った。

 M1隊の過半がこれが初陣という新米パイロットが操縦している。それらの機体が真っ先に火箭に貫かれていった。装甲を犠牲にして機動力を確保しているM1は元々新兵が使うには向かない機体で、華奢な機体が銃弾に抉られ、部品をばら撒きながら四散していく。
 せめて一撃だけでもと未熟なパイロット達が必死に機体を操るが、それは歴戦のジンやシグーから見れば哀れに感じるほど鈍く、無駄の多い動きだ。彼等は落ち着いて照準を合わせ、トリガーを引くだけで青い機体は難なくスクラップへと変わっていった。
 未熟なパイロットを守ろうと、必死の形相でベテランが割り込んでくるが、誰かを庇いながらではまともに戦えるはずも無く、返り討ちにあってしまう。
 そんな中で、ビームサーベルでジンを串刺しにしているM1が居た。シンのM1だ。彼は新兵の中でも抜きん出た技量と多少の実戦経験があったので、M1の性能を十分に引き出す事が出来ていた。伊達にフレイが認める腕ではなかったのだ。
 シンと一緒に戦っていたステラのM1がシンと背中を合わせるような形で周囲を警戒している。

「やっと、1機……」
「シン、こいつら凄く強い」

 ジン相手にこんなに梃子摺るとは思わなかったシンが荒い息をついている。宇宙での戦いは初めてという不利もあるが、単純に地上で交戦したザフトとは実力が違うせいだ。シンが倒したジンもオーブならエースと呼ばれるレベルで、ザフト宇宙軍の凄まじい強さをシンは初めて実感させられていた。
 そんな事をしているとまた別のジンが襲いかかってくる。それに対して2機は同時に散り、ステラがビームライフルでジンを攻撃して動きを牽制し、ビームサーベルを手にしたシンが隙を付いて一気に距離を詰めて格闘戦を挑んでいる。フラガの訓練を受けてある程度汎用的に動けるステラと、格闘戦ならフレイにも冷や汗をかかせるシンは自然と役割分担をして戦うようになっていた。
 ステラの砲撃に動きを制限され、本気で反撃をするジン。その背後に回りこんできたシンはチャンスと見た途端一気に加速し、ジンとの距離を詰めた。それに接近警報で気付いたジンが重突撃機銃を向けて撃ってくるが、咄嗟に放った適当な砲撃など当たる筈も無く、適当な回避運動を交えて突撃したM1は擦違いざまにジンの胴体をビームサーベルで切りつけ、通過する勢いのままに真っ二つにしてしまった。




 オーブ艦隊と交戦していたのはシェルフ隊という哨戒部隊だった。地球圏を航行し、連合の艦隊を発見したら攻撃する任務を持つ。それだけに精鋭が集められていて、戦力を大幅に強化している連合の部隊を相手に戦い続けてきた。その部隊がオーブ艦隊とぶつかったのは、完全に偶然の産物であった。シェルフ隊の任務は連合の部隊を捜索、発見する哨戒任務であり、今回は地球軌道周辺を回っていただけなのだ。今回の交戦はシェルフ隊長にとっても予想外の事態だった。
 だが、ぶつかったからには手ぶらで帰るわけにはいかない。シェルフ隊長はMS隊に敵MSを押さえ込むよう指示を出し、自分は艦隊を率いて敵艦の数を減らしに出ていた。

「敵の右翼端にいる駆逐艦に砲撃を集中させろ!」

 シェルフ隊長の命令を受けて3隻のローラシア級の砲火が1隻の駆逐艦に集中され、狙われた駆逐艦シラセがアンチビーム爆雷を使ってビームを防いでいる。だがレールガンは防ぐ事が出来ず、2発を船体に受けて大破してしまった。特に1発は艦橋を直撃しており、艦の首脳部を抹殺している。

 これで2隻を脱落させたザフト艦隊は優位を確信して圧力を強めに出た。オーブ艦隊との距離を詰め、砲撃の精度を上げようというのだ。これを見たユウナがヒステリックな声を上げて近付かせるなと騒いでいるが、それが出来るならこんなに苦戦しては居ない。そもそも砲手の腕が違いすぎるのだ。




 フレイに鍛えられ、ステラのサポートを得ているシンは幸運な男だった。他のパイロットは彼ほどの幸運にも技量にも恵まれず、敵の突破を許して艦隊に取り付かせてしまうという失態を見せている。バズーカを構えたジンがMS隊を突破して来るのを見たユウナは顔を引き攣らせて叫んでいた。

「何をしているんだ、M1隊は!?」
「相手はよほどの精鋭のようですな。フリーダムでさえ押さえ込まれています」
「落ち着いてる場合か、来るぞ!」

 ユウナが慌てふためいて怒鳴る。勿論アリガも怒られるまでも無く迎撃の指示を出していて、ゴッドフリートとミサイルがジンの前に壁を作り出している。だが、突破してきた2機のジンはこの迎撃をいともあっさり突破してクサナギの隣に居る駆逐艦に襲い掛かった。
 狙われた駆逐艦はシラユキだった。シラユキはイーゲルシュテルンを使った弾幕を張り巡らせたが、ジンはイーゲルシュテルンの弾幕の外からバズーカと重突撃機銃を撃ちこんで対空砲火を減少させ、次いで船体に攻撃を加えてこれを穴だらけにしてしまった。そして決定的な一撃が迎撃用に装填されたミサイルをランチャー内で誘爆させ、爆発箇所から引き裂かれるようにして光に飲まれていってしまった。
 シラユキ撃沈。この様をまともに見てしまったユウナは呆然としてしまっていた。たった12隻しか無いフブキ級駆逐艦が1隻、こんな戦いで失われてしまったのだから。カガリから艦隊を預かっていたユウナは、この喪失に物凄い責任を感じてしまったのだ。
 そして、その衝撃がザフトへの怒りへと姿を変えるのに、さほどの時間を必要とはしなかった。

「艦長、ローエングリン用意だ!」
「ユウナ様!?」
「ここまでやられて黙ってられるか。シラユキ撃沈の代償を取り立ててやるんだ!」

 自分の指揮で初めて艦を失ってしまった。その衝撃がユウナの中にあるスイッチを入れてしまったらしい。それは暴走と言えるものであったが、初めてユウナが積極的に攻撃を指示した瞬間だった。そのスイッチを入れたのは艦を失った事なのか、それとも失われた部下の命なのか。
 まあ、たんにキレただけとか、カガリやミナに怒られるのが怖いだけという可能性もあるのだが。



 ローエングリンの用意をするクサナギ。だが、妙な砲を艦外にせり出したクサナギを危険と判断したのか、シラユキを沈めた2機のジンがクサナギを狙ってきた。これにアリガが対空砲火を集中するように檄を飛ばすが、ジンはこちらを嘲笑うように弾幕を回避している。

「良い腕だ。うちに欲しいくらいだな」

 ジンのパイロットの腕にアリガは賞賛の言葉を送り、そして対空砲火にジンが射点に入るのを妨害するように指示した。落とせないなら攻撃位置に入れないよう妨害するしか無い。

 この艦隊の苦戦を救う可能性を持つキースは、残念ながらユウナの期待には答えられそうに無かった。攻撃に来たMS隊は振り切ったのだが、ローラシア級を狙って突撃をかけようとしたところで直衛に残っていた3機のジンの迎撃を受けてしまったのだ。勿論キースはジンが出てきたくらいでは怯まないのだが、このジンもMS隊を苦しめている連中と同様に凄腕揃いだったのがキースを苦しめていた。
 キースのメビウスは有人機としては有り得ないような機動性を発揮しており、急加速、急減速、高速域での水平移動を駆使してジン3機を振り切ろうとしているのだが、このジンはキースの腕を持ってしても振り切る事が出来なかった。

「くっそお、面倒な奴等だ!」

 実はアークエンジェルに移る前、まだ月面などで戦っていた頃はこのレベルの相手が多かったのだ。そういう意味ではキースは久々に本来のザフトを相手にしていると言えるのだが、敵は弱いに越した事は無いと考える男なのでただ面倒なだけとしか感じていなかった。
 そして遂に、キースはとんでもない動きに出た。振り切れないならと割り切ったのか、ジンにまとわりつかれたままで一気に加速し、敵艦に突撃を始めたのだ。それを見たジンは慌てて銃を向けたのだが、迂闊に撃って外せば味方の艦に当たるという厄介な事になり、撃てなくなってしまった。

「ちっ、生意気な奴だ!」
「このまま艦に追い込め。対空砲火で始末してやる!」

 3機のジンはローラシア級に追い込んで逃げ場を塞ぎ、対空砲火で仕留めようと考えた。しかし、その選択は相手を考えれば完全に間違っていたと言える。この機体に乗っているのは、対艦戦のエキスパートだったのだから。エメラルドの死神は有名だったのだが、まさかそれがオーブ軍に居るとは思わなかったのだ。まあ普通は思わないだろう。
 迫るメビウスめがけてローラシア級が対空砲火の弾幕を張り巡らし、キースの正面に砲火の壁を作り出す。追撃していたジンのパイロット達はエメラルドのメビウスが上下のどちらかに動くと見て注意していたのだが、メビウスは逃げる素振りも見せず、平然とこの弾幕に突っ込んで突破してしまった。

「1機で突っ込んだだと!?」
「正気かあいつは!?」

 まさか弾幕に自分から突っ込んでいくとは思わなかったジンのパイロット達が驚きの声を上げている。メビウスはMSのように小回りは効かないので、対空砲火に狙われると以外と脆い。それなのにこのメビウスは平然と突っ込んでいったのだ。
 そして、彼等の見ている前でこのメビウスは対空砲火の弾幕を横滑り、急角度のロールなどのテクニックを駆使して回避し、レールガンとミサイルをローラシア級に叩き込んでそのまま艦の反対側へと突き抜けていった。この攻撃で船体上面に設置されていた砲を全て破壊され、戦闘能力を喪失してしまったローラシア級が落伍していく。
 僚艦を叩かれたのを見たシェルフ隊長は舌打ちしてこの艦に下がるように命令したが、直ぐに彼の顔を引き攣らせる事態が起きてしまった。

「熱源多数感知、オーブ艦隊の後方です!」
「増援が来たのか……」

 目の前の部隊を助けに来たとすれば、こちらには精鋭が揃っているに違いあるまい。数もこちらを上回っているのは間違いなく、これ以上戦い続ければ数の差で揉み潰されてしまう。
 これ以上戦う事は出来ない。そう判断すると、シェルフ隊長は傷付いた艦を守りつつ艦隊を後退させる事にした。MS部隊も撤退の信号弾を上げて後退させ、ようやく戦闘は終わるかに思えた。
 しかし、オーブ艦隊にはまだ最後の攻撃があった。そう、クサナギが準備していたローエングリンだ。これのチャージがようやく終わり、発射可能になったのである。

「このまま勝ち逃げさせるか。1隻は沈めて見せろ!」
「分かってますよ!」

 ユウナの檄にアリガが怒ったように答え、ローエングリンが逃げていくザフト艦隊に向けて放たれる。陽電子の束が塵などと反応しながら向っていき、後退していくローラシア級の1隻を掠めた。掠ったローラシア級は側面に対消滅反応が発生し、装甲の一部が消滅し、生じたエネルギーに船体を焼かれている。
 直撃しなかった。この結果を見たユウナはどういう事だと砲手を叱責した。

「何をしているんだ!?」
「計算より弾道が逸れました。地磁気に引かれたようです!」
「地球の傍なんだぞ、それくらい計算に入ってなかったのか!?」

 ユウナの叱責に砲手は反論する言葉を見出せず、ただ謝る事しかできなかった。地磁気の影響を甘く見たのは彼のミスだからだ。

 これで戦闘は終了した。もう両者の距離は開き、お互いに手が出せなくなている。ユウナは憤懣を隠せない様子だったが、部隊に撤収準備と生存者の救助作業を行うように命令を出していた。
 これを受けてこれまで戦っていたMS隊は母艦へと戻っていく。もうバッテリーを充電しないと動けなくなりそうなのだ。キラも機体を翻してクサナギへ戻ろうとするが、その途中でシンのM1が味方機を引っ張っているのを見た。

「バッテリー切れかい?」

 てっきりバッテリーが切れて動けなくなった機体を回収しているのだと思ったのだが、帰ってきた答えは予想外の物であった。

「ステラの様子がおかしいんだ。何か苦しそうで、何処か怪我したのかもしれない!」
「怪我?」

 見たところステラのM1に被弾の跡は無い。パイロットスーツを着ていたはずだから、衝撃程度でそうそう怪我をするとは思えないのだが。だが苦しそうだと言うのだから、何らかの怪我をしたのかもしれなかった。

「分かった、とりあえずクサナギへ運ぼう。医者に見せないと」

 キラもステラのM1を運ぶのを手伝い、クサナギへと搬入する。だが、搬入されたM1のコクピットを強制解放したシンが見たものは、彼の予想とは懸け離れた、シートで体を両腕で抱えるようにして、血走った目をして震えているステラであった。その姿はまるで、何かに必死に耐えているかのようだ。

「ステラ、どうしたの?」

 様子がおかしいのを見てシンが手を伸ばすがその手はステラに弾かれてしまった。手を払われたシンが吃驚して引っ込める。そして、その動作でようやくステラの目に理性が戻ってきた。

「あ……シ……ン?」
「ああ、僕だよ。どうしたのステラ、酷く辛そうだけど?」
「……なんでもないから、放っておいて」

 何処をどう見たらなんでもないように見えるのだ。体調が悪いどころでは無いだろうと見た目で分かってしまうステラの姿にシンは無理にでも医務室に連れて行こうと体をコクピットに乗り入れようとしたが、それは背後から肩を掴んできた手に止められてしまった。

「選手交代だ」
「キ、キースさん?」

 やって来たのはキースだった。キースはシンを横にどかすと、コクピットの中に入ってステラに声をかけ、肩を抱くようにして外に連れ出してきた。

「直ぐに医務室に連れて行く。M1はベッドに固定しておけ!」

 周囲で見ていた整備兵たちを怒鳴りつけて散らし、キースはステラを連れて医務室に向おうとしたのだが、その後ろからシンとキラが付いてきた。それを見たキースが迷惑そうに戻るように言う。

「お前等も仕事に戻れ。付き添いは俺1人で十分だ」
「でも、ステラが心配で……」
「お前が来ても役に立たん。キラ、シンを連れてけ」

 キースはキラにシンを連れて行くように言ったのだが、キラは何故かキースの命令に首を横に振って拒否の意思を見せた。自分の指示に珍しく逆らうキラに、キースが訝しげな顔になる。

「キースさん、真実を教えてあげても良いと思いますよ。その後どうするかはシンが決めるでしょ」
「キラ、だがそれは……」
「運命は自分で掴み取るものだ。アルフレット少佐が僕に言った言葉です。僕もそう思いますよ、キースさん」
「……隊長がそんな事をな」

 アルフレットを出されるとキースは弱い。珍しくキラに言い負かされたキースはまだ少し迷っていたようだったが、遂にははあっと大きく息を吐くと、医務室に向いながらシンに事情を話しだした。

「シン、君は強化人間って物を知ってるか?」
「何ですそれ?」
「簡単に言うと、ナチュラルをコーディネイター並にまで強くなるよう改造した、戦闘兵器だ。ステラはそういう物なんだよ」
「改造? 戦闘兵器?」

 いきなり訳の分からないSFのような単語が出てきて、シンは首を捻ってしまった。まあこれだけですんなり納得できるような人間は何処かおかしい人なので、シンの反応は正常だろう。

「強化人間にも色々あるが、ステラは体を人工品に付け替えたり、薬物で身体能力を大幅に引き上げるなどの処置を受けてる。当然体への負担は洒落にならない。強化人間にも色々あるが、普通はそう長生きできないんだ」
「それじゃ、ステラが今こんなに苦しんでるのは!?」
「いや、これは強化の影響じゃない。これはステラたちが常用させられている薬物の禁断症状だ。反応速度を大幅に向上させる薬物なんだが、同時にこれは強化人間が逆らったりしないようにする鎖でもある。薬が切れればこうなって、いずれ廃人だ」

 γグリフェプタンは確かに戦闘薬としては有用だが、常習性があって毒性も強く、使い続けていてもいずれ廃人になってしまう。兵士を使い捨てにする気が無ければ使えない禁断の薬なのだ。ステラたちは元々この薬は必要なかったのだが、アズラエルが戦線投入を決定した際、ジブリールが思考制御をしない変わりにこれを投与する事で逃げられなくしたのだ。アズラエルはこの処置に対しては特に何も言わなかった。強化人間は使い捨てだったので、戦闘能力が上がるなら構わないと判断したのだ。
 その縛鎖がステラを締め上げている。戦闘が薬の効果時間を短くしたのだろう。キースが渡した分の効果も直ぐに切れてしまったらしい。

「もう薬も無い、このままだとステラは……」
「どうなるんです、ステラは!?」

 シンの悲痛とも取れる声に、キースは答えを返せなかった。その先は言わなくても分かるだろうと、その背中が無言で答えている。そして、キースはステラを連れて医務室に入って行ってしまった。それに続いて2人が入ってくるが、入ってすぐの所で2人は看護兵に止められてしまった。

「医務室にはもっと静かに入ってきてくれ」
「ステラは、ステラは何処に!?」

 看護兵の問い掛けなど聞こえていないシンはステラの事を聞いた。それで彼が何で来たのかを察した看護兵は、シンにそこの椅子に座ってろと言う。

「いまベッドに寝かせて拘束してる所だ。話なら後にしてくれ」
「拘束って、なんで!?」
「薬物中毒者は放っておくと暴れたり自傷行為に走ったりするんだよ。だから仕方が無いんだ」

 実際には麻薬中毒者ほど危険なわけではない。禁断症状は出るがそれによって麻薬患者のような幻覚などの症状に苦しむわけではないからだ。ただ、それはあくまで程度の問題であり、苦痛に耐えかねて暴れだす可能性はある。強化人間の戦闘能力は並のコーディネイターを凌ぐので、一度暴れだしたら取り押さえるのにどれだけ苦労するか分からないのだ。それを考えれば最初から拘束しておく必要がある。
 理由を説明されたシンは納得したのか、指定された椅子にドサリと腰を降ろして項垂れてしまった。キラはその隣に腰掛け、気遣うような声をかける。

「そんなに落ち込むなよ。まだ手遅れと言うわけじゃないんだから」
「……でも、もう薬は無いんでしょ?」
「そうらしいね」

 薬と言うのは、恐らくオルガも飲んでいたアンプルの事だろうとキラには察しが付いていた。ただ、あれを何処から入手していたのかは分からない。大西洋連邦が供給しているのは間違いないのだが、通常の部隊があんな物を持っている可能性は無い。アークエンジェルにならあるだろうが、アークエンジェルはここには居ない。
 薬が無ければステラは助からない。ならばその薬を入手すれば良い。今その薬があって、取りに行ける場所といえば、キラには1つしか思い浮かばなかった。

「月のプトレマイオス基地になら、あると思う」
「プトレマイオス基地?」
「地球軍の月にある最大の基地だよ。そこなら多分、その薬もあると思う。でも、僕たちが行っても分けてはもらえないだろうけどね」

 もう素人ではないので、流石に軍事機密をそう簡単に渡してはくれないだろうとキラは考えていた。頼むなら自分ではなく、代表のカガリか、大西洋連邦軍に籍を置くキースでなくてはならない。
 自分達に出来ることは、こうしてただステラのことを心配するだけだ。しかし、それを受け入れるしか無いという無力感に2人は苦しむ事になる。


 この後、イズモを中心とする5隻の艦隊と合流した訓練部隊は、救助作業を終えて損傷艦を曳航してアメノミハシラへと帰って行った。ここでステラはアメノミハシラの医療スタッフに預けられる事になったが、強化人間のデータなどもってはいないアメノミハシラのスタッフには有効な対処法など望む事も出来ず、精々延命治療をする程度に留まる事になる。
 シンはステラに付き添いたいと願い出ていたのだが、これは医師から暫くは無理だと言い渡され、ステラが収容されたブロックに近づく事さえ出来なくなってしまっている。事が大西洋連邦の機密に関わりかねないので、軍属扱いのシンには関われなくなってしまったのだ。




 
 アメノミハシラで騒動が起きている頃、周辺の宙域ではザフト艦隊が動いていた。プラント本国の命令を受けたハーヴィックが艦隊を率いて到着したのだ。これでハーヴィックはアメノミハシラを攻略する為の準備に入れる事になったのだが、事はそう簡単にはいかなかった。周辺には月から出撃してくる連合の哨戒部隊がうろついていて、これとの遭遇戦による被害が馬鹿にならなかったのだ。オーブ軍とは異なり、連合軍は戦い慣れている上に装備も充実しているのでかなり手強くなっている。MSも主力のストライクダガーも改良されてきて厄介な相手となっているのだ。地上ならともかく、宇宙では既にジンは2線級の機体として扱われている。
 この厄介な地球軌道上でオーブ軍に止めを刺す任務を与えられたハーヴィック提督は、新鋭艦のエターナル級2隻を含む12隻の艦隊を引き連れて地球軌道に近い宙域に置かれている小惑星基地クリントを拠点としてアメノミハシラ攻略を実行する事になる。だが連合軍の援軍も予想されており、準備にはまだ時間がかかりそうであった。




機体解説

ZGMF−1017M ジンHM(ハイマニューバ)
兵装 27mm機甲突撃銃
   重斬刀

<解説>
 宇宙軍のジンを改修した高機動使用型。宇宙軍は全てのジンをこのタイプに改修する計画を進めており、前線部隊ではほぼこれに切り替わっている。ただ、その特化した機動性能は新兵にはやや扱い辛い物で、ジンに慣れたパイロットには機種転換が楽と好評だったが、癖の強い機体であったと言える。しかし連合のダガーに対抗できるとあって配備を望む声は強い。
27mm機甲突撃銃が本来の装備なのだが、実際にこれを装備する機体はほとんど無く、普通は従来の重突撃機銃やバズーカを装備して戦う。これは実戦部隊が異なる火器弾薬を使う事での補給事情の悪化を嫌った事と、27mmの威力不足がパイロットに嫌われた為である。


MBF−M1A アストレイ
兵装 ビームライフル
   ビームサーベル×2
   頭部75mmバルカン×2
   ABシールド
<解説>
 M1の宇宙専用派生機。宇宙用という事で脚部が脆弱になっており、陸戦では役に立たない。その分機動性に優れ、パイロットが確かならザフトのゲイツと対等以上に戦う事が可能。アメノミハシラに配備されているのはこの機体で、M1とは異なり青いカラーをしているが、これは本土のM1Bと色での区別が困難だったりする。ただ、自由オーブ軍になってからはM1AもM1と同じ赤系に塗り替えが行われている。




後書き

ジム改 カガリたちが初めて宇宙で戦闘に突入しました。
カガリ ザフトが無茶苦茶強いんだが?
ジム改 元々ザフトは強いよ。本土決戦じゃオーブ軍は地上軍に歯が立たなかっただろ。
カガリ でも、何でフリーダムと渡り合えるんだ?
ジム改 遭遇した部隊が開戦時から戦ってきた精鋭だったから。
カガリ どういう意味だ?
ジム改 軍隊というのは開戦した直後の兵員こそが十分な訓練を受けている最精鋭なのだ。戦争が長引くとこれが新兵に代わるので質がどんどん落ちていく訳だな。
カガリ こいつらがその精鋭なのか?
ジム改 まあそういう事。ぶっちゃけ特務隊レベルの腕と豊富な経験を持つベテランたちだった。
カガリ そんなに強いのかよ!
ジム改 というか、開戦前から訓練されたベテランなら大体エースを名乗れる腕だぞ。そうで無い奴はみんな死んでいくから。
カガリ うちにはそういうのは居ないよなあ。
ジム改 そのレベルにいるのはキースくらいだな。地上には居るんだが。
カガリ で、これからどうなるんだ?
ジム改 ザフトに攻められてオーブ軍殲滅ルート、かな?
カガリ かな? じゃねえだろ!
ジム改 それでは次回、ヨーロッパで反撃に出たユーラシア連邦軍と、これを食い止めようとするザフト。ジブラルタルは援軍を求めるのだが。そしてラクスとマルキオは大西洋連邦でジークマイア大将らの反ブルーコスモス系の軍人と会談をする。一方、カガリたちはステラを救うために月に薬を貰いに行くという賭けに出ることに。それに志願したのは。次回「欧州の反撃」でお会いしましょう。
カガリ ……ビームシールドがM1にも欲しい。

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