第121章  狂気の戦場


 

 オーブの要塞島オノゴロ。ここにはかつてオーブ軍の軍事施設が集中していたのだが、現在ではザフトの主要軍事基地の1つとして機能するようになっていた。ここにある多数の工廠からは多くの物資が生産されて前線に送り出され、あるいはマスドライバーで宇宙へと上げられ、プラントに運ばれていく。オーブや大洋州連合から得た資源や生活物資、食糧もここから打ち上げられるようになり、輸送能力が大幅に向上している。
 オーブを任されているクルーゼはこことオロファトの間を行き来しながらザフトの運営をしているのだが、このオノゴロ島司令部にアスランが血相を変えて乗り込んできたのだ。周囲の者が止めるのも聞かずに足音も高くクルーゼの執務室に乗り込んできたアスラン。それを見たクルーゼは意外そうな顔をしていたが、すぐに丁度良いと言ってアスランに1つの命令を出してきた。

「アスラン、丁度良いところに来たな。実は明日6時からオロファトの代表官邸でホムラ代表主催のパーティーがあるのだ。すまないが君とイザークにも出てもらうぞ。ああ、他のメンバーにも伝えておいてくれ。赤服はなるべく参加するように」

 手早く用件を伝えたクルーゼだったが、何故かアスランはそれに返事をしない。それどころか何やら怒ったような顔をしていて、自分を睨みつけるような目をしている。その様子のおかしさに、クルーゼは態度を改めた。

「どうしたアスラン?」
「クルーゼ隊長、何故カオシュンの援軍を出さないんですか?!」
「その事か」

 アスランがやってきた理由を知って、クルーゼはやれやれとペンを置き、アスランを止めようとしている部下達を下がらせた。部下を下がらせたクルーゼは机の上で両手を組み、アスランに座るように言った。それに頷いてアスランが備品のソファーに腰掛けると、クルーゼはアスランに事情を話してやった。

「カオシュンは放棄が決定されている基地だ。そこに援軍を送ってどうするというのかね?」
「ですが、あそこにはまだ2万を超す兵員が残っている筈です!」
「それは私も本国も承知しているよ。だが、残っている兵の大半は新兵や訓練兵だ。彼等を救う為に貴重なベテランを割く事は本国が許さないのだよ。それとも、君には犠牲を少なく出来る策があるのかな。あるのなら今言ってくれないか?」

クルーゼに冷静に問われたアスランに返す言葉は無かった。アスランにもそんな策などあるはずが無い。アスランは所詮パイロットであって、高度な軍事教育を受けているわけではないのだから。だが、友軍が窮地に立っているというのに黙ってみているという事が出来る性格でもなかった。
 そして、クルーゼは葛藤しているアスランを見て皮肉交じりの笑みを浮かべて止めを刺すような現実を突きつけた。

「それにだ、カオシュンへの援軍は不要という本国命令が来ているのだよ。私も軍人である以上、命令に背く事は出来ない」
「そんな、本国がそんな事を!?」

 そんな馬鹿な、と表情が驚愕に引き攣っているアスラン。まさか本国がザフト将兵を切り捨てる決断をしたというのだろうか。アスランの驚愕に答えるようにクルーゼは話を続けていく。

「私も命令を受け取ったのは一週間前だが、本国は突出気味の戦線を整理しようとしているらしい。極東連合の参戦で余裕を失くしたのだろうな」
「極東連合が参戦した!?」
「ああ、連合の攻撃が開始される3日前の事らしい。極東連合はプラントに宣戦を布告し、宇宙では既に戦闘が始まったらしい。カオシュン攻撃にも加わっているそうだ」
「そんな、馬鹿な……」

 アスランは足元から崩れるかのような失望感を味わっていた。極東連合の参戦、それはこれまでの戦線の崩壊を意味する。極東連合の戦力はかなり大きな物で、彼等が参戦すれば彼我の戦力バランスが崩壊する。そうすれば弱体化が著しいザフトはそのまま敗北への道を転がり落ちる事になるだろう。
 クルーゼの話に顔色を青褪めさせたアスランは、僅かに震える声でクルーゼに今後の事を問い質した。

「今後、本国はどうするつもりなのでしょうか?」
「さあな、私はザラ議長派だったから、エザリア議長には疎まれているのでね。もう中央の情報など入ってこない身分なのだよ」

 エザリアの露骨なザラ派外しはプラントでは有名だ。勿論アスランもそれは知っており、クルーゼが左遷同然にオーブ軍司令官に追いやられた事も知っていた。ユウキも中央から外れて閑職に追いやられ、名将マーカスト提督は輸送部隊の護衛に回されてしまった。そのツケは各所に現れてザフトを蝕んでいるのだが、それが改善される兆しは無い。
 アスランはソファーの上でしばし肩を震わせて込み上げてくる怒りの衝動を押さえ込んでおり、それをどうにか収めると立ち上がって形ばかりの敬礼を残してクルーゼの前から去って行った。それを見送ったクルーゼは特に何も言わなかったが、デスクの引き出しから封筒を1つ取り出すと、その中に入っている書類と写真を取り出して口元に酷薄な笑みを浮かべていた。

「アスラン、もう世界の闇は止められないのだよ。もう、人類は滅びの道の上に敷かれたレールの上を駆け抜けるしかないのだ」

 クルーゼが敷いたプラント破滅へのレールの上を、今の所プラントも連合も駆け抜けている。アラスカ攻略戦の時のパトリックの講和の動きが最大のピンチであったが、あれはラクスのおかげでどうにか潜り抜けることが出来た。あの時ばかりは天佑を信じ、喝采を上げてラクスに感謝したものだ。
 そして今、クルーゼは再びラクスに感謝したくなっていた。自分の手元にある写真には廃棄コロニー『メンデル』に入港していくジャンク屋の船が映し出されており、書類にはラクス派への補給をジャンク屋が行っているという調査データが書かれている。これを使えばジャンク屋をプラントの公敵とすることが出来る。オーブから連合にフリーダムのNJCのデータが渡ったのはほぼ確実で、プラントにとってはラクスはNJCをナチュラルに流した許しがたい存在となっている。そのラクスを支援していたとなれば、プラント首脳部は激怒するだろう。
 後はジェネシスが完成するまで連合を押さえておければ良い。地球はジェネシスで滅び、プラントは核の炎で消える。残された僅かな人間では世界を復興する事は出来ないだろう。地球からの食糧と水が途絶えれば、月のコロニーやステーションの住人も長くは持たないだろうから。

「人類は滅ぶのだ、自らの愚かさによってな。もうこの憎しみの連鎖は誰にも止められん」

 自分の思惑通りに進む世界。自分の掌で踊る愚かな人間達を嘲笑うクルーゼ。だが、彼はまだ気付いてはいなかった。世界の人類の全てがクルーゼの思惑通りに動いている訳ではないということを。人間はクルーゼが思っているほどに愚かではなく、流れを断ち切ろうとしている者たちがいる事に、たった数人の少年少女が自分の思惑を少しずつ狂わせているということに、クルーゼはまだ気付いてはいなかった。



 司令部を後にしたアスランは失意のままにオロファトに戻ろうとしたが、途中でM1Bへの機種転換訓練の様子を目にし、それを見学していく事にした。オーブで使われていたM1Bは装甲こそ薄いものの驚くほど高性能なMSであり、使っているパイロット達は一様に驚き、そしてすぐにこのMSを気にいってしまっていた。
 その訓練場の中を見学していたアスランは、そこで一際良い動きをするMS同士の模擬戦を見る事が出来た。1機が教官役で、もう1機が訓練生のようなのだが、教官役が桁違いの実力者であるようで訓練生の方は完全に遊ばれている。

「凄い腕だな。誰が使っているんだ?」

 M1Bをあれほどに使いこなせるパイロットが居たのかとアスランが感心している。あるいはオーブの捕虜から協力者を得て使っているのかもしれない。訓練生の方も良い腕だが、こちらはまだ機体を完全には使いこなせていないようで無駄な動きが目立つ。ただ、アスランは訓練生の機体の動きに何故か見覚えがあるような気がして、しきりに首を捻っている。
 そうこうしているうちに訓練が終わったのか、双方が機体をハンガーに預けてコクピットから出てきた。その訓練生の機体から出てきたパイロットを見て、アスランは驚いて声を上げてしまった。

「イ、 イザーク、何の冗談だ!?」

 そう、出てきたのはイザークだったのだ。道理で何処か見た動きをするわけだ。だが、それなら相手をしていたパイロットは何物なのだ。あのイザークを相手にして子ども扱いするような化物がオーブに居たというのだろうか。
 驚いて降りてきたイザークの元に駆け寄っていったアスランは、ヘルメットを取ったイザークにその事を問い掛けた。するとイザークは面白く無さそうな顔で顎をしゃくり、相手のM1Bから出てきたパイロットを示して見せた。

「あいつがオーブで俺たちを壊滅状態に追い込んだ傭兵だ。今はクルーゼ隊長に雇われているらしい」
「あ、あれが……」

 イザークたちを1機で壊滅させた化物じみたM1Bの話はアスランも聞いていたが、あの男がそうなのかとアスランは相手のM1Bを見上げている。そのコクピットからでワイヤーで降りてくる男は鋭い目付きに好戦的な光を称えた、一目見ただけで危険な人間だと感じさせる異様な男だった。
 その男、ユーレクはこちらには興味が無いようで、ヘルメットを脇に抱えてさっさと何処かに行ってしまった。それを見送ったアスランとイザークであったが、イザークが悔しげに小さく文句を呟くのを聞いてアスランが困った顔になった。

「そう怒るなよ、あれは相手が強すぎる」
「そんな事は分かってるが、悔しい物は悔しいんだ。たかが傭兵に歯が立たないんだぞ」
「それは俺も驚いてるがな」

 そう、たかが傭兵が自分達以上の強さを持つという現実にアスランは驚いていた。傭兵の大半は軍人崩れか、仕事が無くて武器を取った素人だ。軍人崩れはそれなりの腕を持つが、大半は現場での経験だけで戦っているので正規の訓練を受けてはいない。だからそれ程強くは無いのだ。軍人崩れでも正規軍の超一流のパイロットと戦えるような者はまず居ない。
 だがユーレクは違う。あの強さは次元違いの物だ。イザークたちが総がかりで歯が立たなかったというのなら、自分がジャスティスに乗って挑んでも勝てるかどうか。
 そこまで考えて、アスランはその予想をやめた。考えるだけ無駄な事だし、イザークに伝えなくてはいけない事もあるからだ。

「イザーク、実は頭の痛い話がある」
「なんだ、いきなり藪から棒に?」
「実は、クルーゼ隊長からオロファトのホムラ代表主催のパーティーに正装で出席しろという命令を受けた。俺とお前は強制で、赤服もなるべく参加という事らしい」
「な、何だと!?」

 何でそんなものに出なくてはいかんのだと怒るイザークだったが、命令と言われると弱いイザークは激しく葛藤しながらも渋々それを受け入れていた。まさか、そんな物には出たくないなどという理由で命令を拒否できるわけもない。それに、そんな事をすればエザリアの顔に泥を塗るかもしれないという不安があったのだ。
 だが、2人には物凄く大きな問題があった。そう、こういう場では、男性は女性をエスコートしていくものなのだが、2人はさて誰を誘えば良いのやらと頭を抱える事になる。
 



 台湾に上陸した連合軍はカオシュン基地を目指そうとしたのだが、ザフトの予想外の反撃を受けて橋頭堡にまで後退していた。そこで態勢を整え、改めて攻勢に出ようというのだ。だが、アークエンジェルの艦橋でサザーランドは捕虜を尋問していた憲兵と軍医から驚くべき報告を受け取る事になった。

「薬物だと!?」
「はい、捕虜にした少年兵から薬物反応が検出されました。どのような物かは設備の整った施設で調査しなくては分かりませんが、先の戦闘を見れば大体の見当はつきます」
「死への恐怖心を鈍らせ、極度の興奮状態を作り出すというわけか」
「恐らく、反応速度や筋肉の強化などもあるでしょう。我が軍でも戦闘薬の投与を行う事はありますが、捕虜にした兵士たちに投与された量は異常です。あれではいずれ廃人になって使い物にならなくなるでしょう」
「ザフトは兵士を使い捨てにして時間を稼ぐ気、という事か……」

 正気とは思えない戦い方ではあるが、それがもたらす効果を考えれば笑う事は出来なかった。敵の兵士が死を恐れず、降伏もせず、最後まで戦い続けるとなればこれからの戦いの困難さは想像を絶する物になるだろう。カオシュンに辿り着くまでにどれだけ時間がかかるだろうか。敵が自殺攻撃を躊躇わないのは先の戦闘でも明らかであり、強力な爆薬を抱いた敵兵が何処に隠れているか知れないとなると進撃速度など上がる筈もない。MSで攻める手もあるが、これも正直危険を伴う。PS装甲を持つGシリーズでも歩兵なら装甲の隙間やカメラなどの弱い場所を狙う事が十分可能だからだ。また、戦車の待ち伏せを受ける可能性も高い。
 通常の戦い方では対処しきれない。そう判断したサザーランドは、連れてきた部下に1つの指示を出した。

「空母と歩兵部隊に伝達、焼夷兵器の使用を許可する」
「ちょ、ちょっと待ってください、准将!?」

 一緒に居たマリューが驚いた声を上げている。焼夷兵器、つまり焼夷弾や火炎放射器といった焼き払う事を目的とした兵器は条約で使用が禁止されている。プラントはこの条約に加盟していないので時折使用しているが、連合諸国は使用を避けている。これは残酷であるというありきたりな理由の他に、使用後の土地の受ける被害が馬鹿にならないという事情もあった。下手な場所で使用すれば大火事となって当たり一面を焼き尽くしてしまうし、汚染も無視できない。それにどうせMSには効果が無い。ザフトの主力はMSであって歩兵ではないので、焼夷弾を使う機会そのものが少ないのだ。
 そのこれまで使わなかった兵器を、サザーランドは使用すると言うのだ。マリューにしてみればそんな事をして良いのかと言いたくもなる。だが、サザーランドは撤回することはしなかった。

「ラミアス中佐、敵は死兵だぞ。確実に仕留めなくては我が軍の将兵が犠牲となるのだ」
「しかし、そんな物を使わなくても……」
「やむを得まい。勿論私とて使いたい訳ではないが、情けをかければその代償は部下の命で支払う事になるのだ」

 どうしても甘さが出てしまうマリューと、必要とあればどんな命令でも出せるサザーランド。これが2人の格の差だった。サザーランドにピシャリと言われたマリューは言い返す言葉を無くして引き下がり、サザーランドの命令は各部隊に伝達される事になる。
 そして、これから後々まで語り草となるカオシュン攻撃が開始される。それは、この世の地獄とでも形容する戦場であった。




 それはまず空爆から始まった。空母部隊から出撃してきたスカイグラスパーによって指定された地上目標に対して抱えてきたMK−58焼夷弾による絨毯爆撃が行われ、狙った地域を文字通り焼き払ってしまう。効果範囲の陣地に隠れていたザフトの兵士たちは高熱の炎と熱風によって一瞬にして火達磨となり、短い絶叫を残してそのまま動かなくなるか、あるいは体の一部に火が付いて絶叫してのたうちまわっている。
 短時間で焼け死んだ兵士は苦しむ時間が短かっただけまだ幸運だったかもしれない。即死を免れた兵は焼き爛れた体を晒し、激痛に苦しむ生き地獄を味わっているのだから。僅かな衛生兵が負傷者の手当てをしようとするが、彼等にどうにかできるような傷ではなく、精々痛み止めを投与するのが関の山だった。いや、それすら意味の無い者には衛生兵の最後の手段として、拳銃を使う事になる。
 そして負傷者の救助を始めた兵士たちにまた焼夷弾が降り注ぎ、負傷者と救助に来た兵の両方を火炎地獄の中に叩き込んでしまう。この攻撃は爆撃だけではなく、ロケットシステムを用いた対地ロケット攻撃でも行われていた。
 薬物によって恐怖心がぼかされて、身体能力が引き上げられているといってもこれではどうしようもなかった。幾ら恐怖心が薄れているとは言っても限度はある。こんな焼夷弾の無差別絨毯爆撃などという戦法を使われては恐怖を感じるなというのは無理な話だ。

 だが、恐怖を感じているのは後方からこの空爆と砲撃を見ていた連合の将兵も同じであった。敵陣地が炎に包まれ、風に乗って聞こえてくる爆発音とかすかな絶叫。それらは橋頭堡で出撃命令を待っている海兵隊員の士気にも影響を与えていた。
 そして、それはアークエンジェルも同じだった。メインモニター上で拡大された爆撃の様子を見たミリアリアは口を押さえて吐きそうなのを堪え、震え出しているくらいだ。幾つもの戦場を潜り抜けてきたマリューでも顔を背けたくなるような光景が広がっている。逃げていく兵士たちが次々に紅蓮の炎に飲まれて消し炭になり、あるいは松明のようになって悶えている様など、この世の地獄としか思えない惨状だろう。
 他のクルー達も顔を顰めてモニターから顔を背けている中で、サザーランドにマリューが話しかけた。

「准将、何時までこんな攻撃を?」
「進撃路が開けるまでだ。予定された攻撃終了まではもう少しある。その後、地上部隊を前に出す」
「ですが、これはもう戦闘ではなく一方的な虐殺です」
「その通りだラミアス中佐、これは一方的な虐殺だよ。だが、これから先の戦いがこれで一気に楽になる。そうすればそれだけ生きて国に帰れる兵も増えるのだよ。指揮官は1人でも多くの兵士を生きて国に返してやる責任があるということを忘れるな中佐。部下の命は敵の命より重いのだよ」

 サザーランドの言う事はマリューにも分かるが、だからといってマリューにはすんなり受け入れられる事ではない。マリューはここまで割り切る事が出来る人間ではないのだ。
 そして空爆とロケット攻撃がようやく終わり、地上部隊が内陸へと侵攻を開始する。その行く先には焼き払われたザフトの防衛線があり、多くの兵の黒焦げ死体や焼け焦げた装備が辺りに散らばっている。まだ息がある者も居るようだが助かりそうな者は殆どおらず、多くはその場で射殺されている。奇跡的に軽傷だった者は手当てを受けた後で憲兵に引き渡された。
 だが、こんな地獄のような状況でも生き残っている敵兵はいた。地下に作られた陣地や堅牢に作られたトーチカなどに篭もっていた兵士はこの猛攻撃にも耐えて生き残っていたのだ。これらのトーチカや地下通路で連結された陣地から散発的な反撃が行われ、海兵隊がそれに応戦する。後方からは戦車が支援をしていたが、巧妙に作られた陣地とトーチカは戦車や間接砲では破壊するのは難しかった。
 これらの陣地に篭もっている兵は頑強な抵抗を見せ、降伏勧告を無視して戦い続けている。薬物による興奮状態でこちらの言う事が聞こえていないのか、よほど意固地な指揮官が居るのだろう。これらの降伏を拒否した敵に対して、海兵隊は歩兵による接近攻撃と火炎放射器を用いた焼き討ちで確実に攻撃を進めていく。どんなに強固に作られた陣地でも歩兵に1つずつ確実に潰しにこられると持たないのだ。火炎放射器から伸びた炎が塹壕に届くと悲鳴を上げて兵士たちが飛び出してくる。飛び出してきた兵士はすぐに撃たれて倒れるが、中には炎が全身を包んで焼け死ぬ者もいた。
 このザフトの異常なまでの抵抗に、連合の指揮官達は恐怖を隠せないでいた。どうなっているんだ、こいつらは死ぬのが怖くないのかと。そしてこんな戦い方をさせられる敵兵に一抹の同情を覚える者も多かった。




 こうしてザフトの海岸防衛線が崩壊していき、連合軍は戦車と装甲車、MSによる装甲部隊を編成して内陸のカオシュンへと前進を開始した。しかし、ここでもザフトの自殺攻撃は続いたのだ。ザフト歩兵は対戦車ミサイルランチャーやロケットランチャーを担いで物陰に隠れ、通過していく車両やMSを狙い撃ちしたのだ。最も彼等の多くはミサイルを撃ちこむ前に戦車や装甲車の攻撃を受けて吹き飛ばされ、殆ど効果を上げていなかったのだが。装甲車から降りた歩兵が周囲に展開し、隠れている敵兵を虱潰しに叩いていく。
 だが、散開して隠れている歩兵を全て倒すのは困難で、ミサイルやロケットを受けて破壊される装甲車が出ていた。流石に戦車やMSには撃破されたものは少なかったが、それでも多少の被害は免れない。
 こんな戦いの中で、トールはアウル、スティングと共に最前列に立って進んでいた。後方には戦車とダガー隊が続いている。トールは歩兵の相手は歩兵に任せておけというフラガの指示を守って歩兵は無視して進んでいたのだが、地上からミサイルを放ってくる歩兵の数が増えるにつれて相手にしないわけにはいかなくなり、イーゲルシュテルンで掃射を行っていた。だが、それはトールにとって精神的に大きすぎる負担を強いる作業であった。
 75mm弾が隠れている遮蔽物ごと人間を粉々にしていく。相手が歩兵なので地上の動きを詳細に把握する為に映像をCGから詳細な実写に切り替えていた事が災いし、トールは砕け散る人間を何人も目の当たりにする羽目になったのだ。MSには慣れているトールだが、生身の人間が玩具か何かのように砕け散る様を見た事などは無く、その光景は精神を激しく蝕む物だった。

「止めろよ、もう出て来るなよ。何で死にに来るんだよ……?」

 MSに歩兵が勝てる筈が無い。ダガーの中には運悪く非装甲部に直撃を受けたものもあるが、それらも破壊されたわけではなく、動きが悪くなって後退しただけで済んでいる。MSがどれほどの脅威かはザフトが知らないはずが無いのに、目の前の兵士たちはMSの前に姿を晒しに来るのだ。それはトールの目には自殺をしに来ているようにしか映らなかった。
 そして、歩兵の相手をしていたトールたちの前に今度はMSまでが出てきて攻撃を加えてきた。装甲車は味方の歩兵を収容して後退していき、戦車が左右に散開する。MS隊は真っ向から迎え撃つ態勢を取るが、ここで信じられないことが起きた。ザフトは味方の歩兵がいるのに平然と撃ってきたのだ。外れ弾が周囲の大地を抉り、岩や樹木を吹き飛ばしていく。そしてそこに隠れていた兵士たちが味方の砲弾に引き裂かれ、次々に絶命していく。
 ジンの砲撃でボロ雑巾のように吹き飛ばされていくザフトの兵士たちを見たトールは、周囲も味方がジンに反撃を開始した中でなぜか反撃もせずにじっと吹き飛ばされていく敵の兵士たちを見続けていた。トールが1発も撃たない事を不審に思ったのか、スティングのマローダーが機体を寄せてストライクの腕を掴んで接触回線で通信を入れてくる。

「おい、どうしたトール、何故撃たない?」

 だが、スティングの問い掛けにトールは返事を返さなかった。何かをブツブツ呟いていて、どうにも様子がおかしい。スティングは仕方なくフラガにどうするか対応を求めたが、帰ってきた答えは意外なものだった。

「スティング、トールを引き摺ってアークエンジェルに下がれ」
「この状況で、戦力を外すのか?」
「今のトールじゃ使い物にならないんだよ。精神をやられてる!」

 フラガの命令でスティングがストライクを引き摺って後退していく。見れば他にもそんな光景が見られており、トール以外にも戦闘不能になったパイロットがいるようだ。残されたアウルがクライシスの隣に機体を移動させ、これからどうするのかと聞く。

「おいムウ、どうすんだよ。これじゃ戦いになんねえぞ?」
「分かってるが、あれじゃかえって足手纏いになる!」
「トールも戦争中に何考えてんだか、殺したのは初めてじゃないだろうに」

 呆れながらジンにビームガトリングがンを叩き込み、バラバラにしてしまうアウル。マローダーから見ればジンなどただの雑魚なのだ。
 フラガはアウルの言う事も理解してはいたが、それを肯定する事は出来なかった。トールが壊れたのは、トールがまだ正気だという証なのだから。

「人が死ぬのを見て何も感じないなんて奴の方がおかしいんだよ」

 通信を終えて吐き捨てるように呟くフラガ。自分もそうだが、キースもアウルも人を殺す事に、そして人が死ぬ姿を見ても躊躇いとか気負いを感じる事がほとんど、あるいは全く無い。自分が教えてきたアウル、スティング、ステラは命を奪うという行為に嫌悪感を持たない人間だった。その異常さをおかしく思ったフラガが調べた限りでは、彼等は人殺しが日常のような環境で育てられた人間である事が分かり、流石に絶句したものだ。それはもう兵士ではなく、たんなる殺戮機械だと。
 キースも同様に人を殺す事に何も感じない人間だったが、キースはそれが悪い事なのだと頭では理解している。だが3人にはそういった道徳観念さえ欠落していたのだ。唯1人、スティングだけはそういう感性を僅かなりとも残していたようで、アウルやステラを気遣っている。アウルも常識くらいは持っていた。だがステラはどうしようもなかった。彼女は純粋な子供がそのまま大きくなったような少女で、子供の残酷さをそのまま残している。彼女には玩具を壊すことも人間を殺す事も同じなのだ。その行動は理性よりも感情に大きく依存していて、何処で何をするのか見当もつかない。

「人間を道具か何かにしか思えないような奴は、何処かが狂ってるんだ!」

 やり切れなさを言葉に乗せて吐き出す。それは彼がこれまで溜め込んできた鬱憤であった。だが、その僅かな葛藤が致命的な隙を作り出してしまう。フラガがアウルの警告でそれに気付いた時には、既に遅かったのだ。

「ムウ、左の足元だ!」
「何!?」

 慌ててそちらを確認すると、ランチャー担いだ少女がクライシスを狙っていた。それはフラガが回避行動に出る前にミサイルを発射し、レーザー誘導なのか正確にクライシスの左ひざの裏側、非装甲部に直撃してここの駆動系を破壊した。この一撃でクライシスの姿勢が崩れるが、オートバランサーはどうにかそれに耐えて左足の動きのおかしさを補正している。
 クライシスを撃った少女は直撃させたことに歓喜の表情を浮かべていたが、その直後に近くにいたストライクダガーのイーゲルシュテルンの掃射を受け、瞬時にしてモニター上から血煙だけを残して消えてしまった。

「ムウ、大丈夫か!?」
「ああ、左足をやられただけだ。走るのは無理だが、歩くくらいならできる」
「クライシスなら飛んで戻れるだろ。ここは任せてアークエンジェルにもどれよ」
「そうだな、動けないんじゃ足手纏いか。じゃあ頼むわアウル、分かってると思うが、余り突出するなよ」
「わーてるよ!」

 フラガに釘を刺されたアウルは面倒くさそうに返す。それを聞いたフラガは飛行してアークエンジェルに戻っていった。
 この頃には大体決着がついていた。揚陸された第4海兵師団のMSや戦車はカオシュンに向けて進撃を続けており、ザフトの抵抗は殆ど排除されている。ザフトの玉砕戦法は確かに効果はあったのだが、それは後の続かない抵抗であり、いずれ消耗し尽くしてしまうものだ。第4海兵師団は装甲車両に多少の損害を受けているものの、我慢できる範囲のダメージに抑えて進撃を続けている。
 しかし、まさに彼等がマスドライバーに手が届くという距離にまで来た時、信じられないことが起きた。前進する兵士たちの耳に物凄い爆発音が聞こえたかと思うと、カオシュンのマスドライバーが目の前で崩落していったのだ。ザフトのこれまでの抵抗は、このマスドライバー破壊の為の時間稼ぎだったのだろう。
 マスドライバー完全破壊の報せを受けたサザーランドは暫し身動ぎもしなかったが、やがて大きな溜息をつくと第4海兵師団にカオシュンの制圧を命じた。せめてこの基地だけでも奪還し、北太平洋を連合の海にしなくてはいけない。そして同時に、サザーランドはカオシュンのザフトに対して降伏を勧告した。マスドライバーを破壊したのだから、もう抵抗する理由はあるまいと判断しての事だったのだが、ザフトのバルク司令はこの勧告を拒否、残存部隊を伴って台湾山脈に落ち延びて行ってしまう。どうやらカオシュンでの抵抗は諦めても、台湾での戦闘継続の意思はあるようだった。山脈に別の拠点でもあるのかもしれない。



 カオシュン攻略はこうして終了した。マスドライバーは破壊されてしまい、再建は1から作り直ししかないという状態だ。サザーランドはザフトの掃討をする為に本国から陸軍部隊を呼び寄せ、本格的な地上戦をする事にしている。上陸に使った海上部隊や海兵隊、第8任務部隊は何処かの基地に戻らせて補給と整備、休養をさせる必要がある。第8任務部隊は赤道連合艦隊と共にシンガポール基地に向かう事になるが、それは次の作戦がどういうものであるのかを何よりも雄弁に物語っているだろう。
 大まかな指示を出し終えた後で、サザーランドは疲れた顔でマリューに話しかけてきた。

「中佐、我々は、あとどれだけ戦うのかな?」
「准将?」
「ザフトは崩壊を始めている。このような攻撃を繰り返せば兵士を悪戯に消耗し、組織を維持できなくなる。だが、この手の攻撃は効果的だ。敵が最初から死ぬ気でかかってくるのでは、こちらは向ってくる敵を確実に落とさなくてはいけないからな。だが、全てを確実に落とす事など不可能だ」
「そうですね」
「今後も敵がこのような戦い方を続けるのなら、我が軍の犠牲も無視できなくなるだろうな」

 迎撃の最大の目的は、敵に攻撃をさせない事だ。勿論落とせればそれが一番良いのだが、敵の恐怖心をあおって攻撃を断念させるのも重要なのだ。アークエンジェルの弾幕にディンが恐れをなして接近を躊躇う事があるが、これが対空砲火の有効性というものである。だが、もしこのディンのパイロットが恐怖を感じなければ、彼等は対空砲火の中に飛び込んできて攻撃をしてくるだろう。そうなると必ずディンを落とす必要があるので、迎撃の難易度は跳ね上がるのだ。サザーランドも、そしてマリューもこの事が良く分かるだけに、これからの戦いの厳しさを想像して憂鬱な気持ちになってしまっている。
 そしてこのような戦いは、地上の各地で幾度か見られる事になる。そしてそれに対して連合が支払う犠牲は、決して少ない物ではなかった。






 プラント本国では新たな作戦の動きがあった。かなりの数の艦艇がボアズ宇宙要塞に集結していたのだ。その中にはエターナル級3隻、改エターナル級3隻と全ての核動力機運用艦が揃っている。
 この大艦隊を率いるのはナスカ級高速戦闘艦カトゥーンに座乗するウィリアムス提督である。彼はマーカストと並ぶザフト最高の名将で、マーカストとは違い知将として知られている。マーカストと同じくザフトの重要な作戦の多くを指揮しており、連合軍からは最も恐れられている提督の1人だ。
 彼の指揮下に集っているのはエターナル級6隻のほかにナスカ級8隻、ローラシア級36隻、補給艦10隻という大艦隊だ。ザフトが動かせる機動戦力の大半が集められたといって良い。ただ、この陣容を見たウィリアムスは寂しそうな顔をしていた。

「ザフトが全力を出してこれだけか。数が減ったものだ」
「戦力が各方面に分散しておりますから、攻撃に出せるのはこれで精一杯なのです」
「分かっている。だが、開戦した頃と較べると、少なくなったよ」

 まだザフトに余裕があった頃は30隻クラスの艦隊を複数動いていた事もあったのに、戦闘正面が増えるにしたがって各方面の貼り付け戦力、そして損傷してドック入りする船が増えていき、今ではこれくらいしか動かせない。先のアメノミハシラ後略戦の失敗でも多くの艦が損傷してドック入りを余儀なくされ、ハーヴィックは戦後処理のために今回の作戦には参加できない。ウィリアムスとしては優秀な指揮官だけに連れて行って一翼を担わせたかったのだが、こればかりは仕方が無かった。
 だが、ウィリアムスは負けるとは思っていなかった。確かに数には不満があるが、MSの主力がようやくゲイツに切り替わった部隊なのだ。生産されたゲイツを集中配備する事で実現した編成で、旧型のジンの姿は無い。指揮官機にはベテランから絶賛されているシグー3型の姿もあるが、多くはゲイツだ。更に地上での実戦試験を経てようやく量産が始まったゲイツRで編成された部隊も編成されている。装備面では過去のどのザフト部隊よりも優れた物を持っているのだ。
 更に核動力部隊にはフリーダム5機、ジャスティス10機が配備されている。これはプラントが保有しているフリーダム、ジャスティスの半数が投入されていて、本国の守りが手薄になるのを覚悟しての投入だった。
そしてこれ以外に核動力機は初の本格的な汎用量産型として開発されたMS、ザクの試作型2機がエターナル級に配備されていた。これは背負い式レールガン2門、高周波ブレードトマホークといった新型の装備を持ち、PS装甲を装備している。だが核動力、PS装甲などの高価な装備をふんだんに取り入れたためにコストは量産型のフリーダムやジャスティスを超えてしまい、更に核動力機ゆえにエターナル級でしか運用できないなどの致命的な欠陥が問題となり、数機の試作で終わる事が決定されている。ただ機体そのものは優秀なので、改修型の為に本作戦に参加して実戦データを得るためのデータ取り機として活用される事となった。
これらの新機材を揃える事が可能になったのは、エザリアの地球放棄政策のおかげだった。地上のザフトを切り捨てる事で人員と資金、物資を優先的に宇宙軍に振り向け、どうにか新型を間に合わせてきたのだ。その為に切り捨てられた地上では各所で悲惨な敗戦を繰り返す事となったが、その犠牲のおかげで宇宙軍は連合軍に一戦挑めるだけの戦力を揃える事が出来たといえる。
MSパイロットにもベテランが優先的に回され、特務隊のハイネやセンカといった超エースたちも加わっている。この部隊はまさにザフトの乾坤一擲の打撃部隊なのだ。もしこの部隊が連合軍に撃破されれば、プラントはなす術もなく落とされるだろう。だが地球軌道の制宙権を一時的にでも奪い返さなくてはどの道勝利は無いのだ。ならば賭けに出るしかない。それがエザリアの判断であった。
 カトゥーンの艦橋から外を見ていたウィリアムスは、先発していく小数部隊を敬礼で見送っていた。彼等がこの作戦の鍵を握っているのだ。





 そして、スカンジナビアにいた彼女もまた宇宙に戻ろうとしていた。スカンジナビア王家が用意してくれた往還シャトルで宇宙に上がり、そこで待機しているジャンク屋の船でメンデルに向かう事になる。
 だが、ラクスは旅立つ前にメッテマリットから幾つかの情報を貰っていた。それに目を通したラクスは目を見開き、ガタガタと肩を震わせている。それを見たダコスタがどうしたのかと声をかけたが、ラクスはそれに答えず、ダコスタに渡された書類を差し出した。
 それを受け取って目を通したダコスタもまた、顔色を青褪めさせる事になった。

「カオシュン基地が陥落、ザフトは薬物を使用しての徹底抗戦を行った?」
「公表はされていないわ、極秘情報扱いされている物よ」

 メッテマリットも面白くは無さそうだ。流石にこんな戦い方は許しがたいのだろう。そしてラクスは、ザフトがこんな戦い方をしていると言う事を中々受け入れられないでいた。彼女もコーディネイターであり、同胞を信じるという意識は根強く持っている。そんな彼女にとってはこの情報は否定したい類の物だった。

「これは、本当なのですか?」
「カオシュン攻撃部隊からの現地レポートだから間違いないと思うわ。ザフトの少年兵は殆どが降伏せずに自殺的な肉薄攻撃を繰り返していたようで、捕虜はかなり少ないらしいわ」
「投与された薬物というのは?」
「それはまだ分からない。でも、効果を考えれば連合で使ってる戦闘薬レベルじゃなくて、麻薬並でしょうね」

 実際、僅かに得られた捕虜は薬物の効果が切れた後に起きる極端な衰弱状態に陥っている。連合の戦闘薬でも負担は大きいのだが、ザフトの兵士たちは入院が必要な状態になっていた。
 これらの事実を聞かされたラクスは衝撃を隠せなかった。そこまでして戦争を続けたいのだろうか、そこまでして勝ちたいのだろうか、そこまでして何を得たいというのだろうか、ラクスにはどうしても理解できなかった。エザリアはここまでやって勝利したとして、その後に何をするつもりなのだろうか。

「……止めなくては、この戦争をこれ以上続ければ、コーディネイターは滅びてしまいます」
「まあ、私はプラントのコーディネイターがどうなろうと興味は無いけど、シーゲルさんとの縁もあるから無下にはしないわよ。大した事は出来ないけど、必要になったら連絡を寄越しなさい。手を貸せる問題なら袖の下無しで聞いてあげるわ」
「はい、その時はお願いします」

 メッテマリットに深々と頭を下げて、ラクスは往還シャトルに乗り込んでいった。それを見送るメッテマリットは視線を戦場となっている南へと向ける。スカンジナビア王国は今日も平穏を保っているが、アフリカでは今頃激戦が行われている筈なのだ。地球の各地でザフトを一掃する為の戦いが続いている。こんな激動の時代を彼女は自分の手腕だけで渡りきるつもりなのだろうか。

「ラクスさん、世界は1人じゃ動かせないし、貴女が正しいとも限らないのよ」

 自分の理想を体現しようと努力するラクスをメッテマリットはそれなりに評価していたが、彼女の独善的な思想とやり方は多くの人には受け入れられないだろう。誰にも自分の主義主張というものがあり、ラクスのやり方、考え方を受け入れられない者は多い筈だ。ラクスの前にはこれからも苦難の道が続いているとメッテマリットは容易に予想する事が出来てしまい、早く有力な味方を得ることが出来れば良いと考えていた。もっとも、それはラクスが何らかの方針転換を見せなくては困難であろうが。




後書き

ジム改 カオシュン戦終了、これで北半球の戦いは終わった。
カガリ いよいよオーブ解放作戦だな。
ジム改 やれるのは何ヵ月後かは知らんがね。
カガリ な、何ヵ月後!?
ジム改 大作戦の準備が数日で終わるとか思ってないよな?
カガリ じゃあまだオーブ開放は先か。
ジム改 その前に宇宙で決戦がある。プラントの命運を賭けた連合vsザフトの艦隊決戦だ。
カガリ 色々出てきたな、ザクにゲイツRまで。
ジム改 史実では11月に南米で試作機が実戦で使われてるから、10月の今なら完成してる筈だし。
カガリ まあそうだが、連合はダガーLは出ないのか?
ジム改 まだ出てきてない。105ダガーの廉価版という扱いなので重要度が低いし。
カガリ そういやウィンダムは?
ジム改 全力で製作中、その前に増加試作型クライシスが出る予定。
カガリ クライシスって、実際どれくらい強いんだ?
ジム改 実はトータル的な性能ではフリーダムやジャスティスより上だったりする。
カガリ おい!?
ジム改 だって、能力で劣るナチュラルでもフリーダムと五分にやりあえる機体なんだぞ。
カガリ まあそうだけど、良いのかそれで?
ジム改 それでは次回、地球軌道に迫るザフト艦隊と、それを迎え撃つ連合艦隊。プラントにとって後が無い戦いが今始まる。名将ウィリアムスの策に嵌り、連合艦隊は苦戦を強いられる事になるが、月から正規艦隊が駆けつける事で盛り返す事に。次回「地球航路を賭けて」で会いましょう。

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