第135章  悲しい決意と勇気


 

 カグヤから次々にシャトルが打ち上げられていく。これがザフトの撤退作戦であることは明らかだったが、オーブ領海ぎりぎりのところに展開している地球連合の大艦隊は不気味なまでの沈黙を保っていた。彼らはじっと時を待っていたのだ。そう、停戦期限である午前10時を。
 そしてオノゴロ島にはザフトの大部隊が展開し、最後の抵抗を見せようとしている。そこには宇宙には持って行っても意味が無いという事で置いていかれたザウートやバクゥ、ディンといった地上用MSが展開している。残念ながら水中用MSはここには居ない。潜水母艦と共に彼らは既にオーブを脱出し、カーペンタリアに向かったのだ。
 もっとも、これだけではない。クルーゼは新型のゲイツやM1Bを優先した為、旧型のジンも数多く残されていたのだ。これらを扱うのは捨て駒として残された新兵や、大した傷ではないという理由で病院から駆り出された負傷兵たちだ。
 ただ、このような状況を良しとしない軍人はザフトにも残っていた。アスランたち特務隊を含む相当数のベテランパイロットが志願という形で最後まで踏み止まっていたのだ。ここにはアスランのジャスティスを含む各地の戦線から後退してきた核動力機が4機も残っており、この最悪の状況にあって数少ない明るい材料となっている。まあ地球軍がクライシスやその発展型を大量投入してきたら彼らも持たないだろうが。
 防衛隊の事実上の指揮官となったのはグリアノスだ。彼はオーブから接収した防御施設とMS部隊を組み合わせた防衛プランを練り上げ、各地にそれを配置していった。それは皮肉な事に、かつてカガリたちがザフトを相手に繰り広げた防衛作戦と酷似したもので、カガリたちの作戦が理に適っていた事の証左となった。



 しかし、彼らはまだ気付いてはいなかった。自分たちの足の下には既に厄介な敵が動き回っている事に。この時オーブのレジスタンスもまた海底通路を使ってオノゴロ島に集結しており、その一部はトンネルを使って通信ケーブルや送電ケーブルの破壊を行うべく展開を開始していたのである。
 オノゴロ島の設備をそのまま流用していた事がザフトの仇となったのだ。レジスタンスは元々はここで働いていたオーブの兵士たちであり、何処に何があるのかを彼らは良く知っている。地の利は彼らにあったのだ。
 そしてここにはフレイの姿もあった。彼女は地下格納庫に分散して配置されているMS部隊の指揮官でもある。彼女は今、歩兵隊と最後の打ち合わせを行っていた。歩兵と連携しないと今回はかなり危ない事になる。だが、歩兵を指揮する指揮官たちはフレイの頼みに騒然となっていた。

「どういうことだ、ザフトの傷病兵が収容されている軍病院を確保しろとは。しかも中のザフトを保護しろってのか?」
「そうです、お願いします」
「あいつらは侵略者だぞ、何でそんな奴らを守らなくちゃいけないんだ?」
「そうだぞ、あんな奴らさっさと始末しちまえば後腐れなくて良いだろ」

 歩兵隊は傷病兵を守れというフレイの言葉に反発していた。彼らは侵略者であり、倒すべき敵なのだ。そんな連中を命を賭けて守るなど冗談ではない。だが、フレイはこれはホムラ代表の指示だと言い、彼らの不満を権威を傘に着て押さえにかかる。余り褒められた手ではないだろうが、時間が無いのだ。
 ホムラを出されたことで歩兵隊の指揮官たちは気まずそうに顔を見合わせ、そして仕方なさそうに渋々と頷いた。流石にホムラの命令とまで言われては逆らう勇気は無かったのだろう。
 アスランの悩みを解決してやった事で少しだけ気が晴れたフレイは、ヘルメットを抱えて自分のMSの足元に来た。それはオーブ製のMSではなく、昔に使っていた大西洋連邦製のMSだった。アズラエルが潜水艦で送ってきた支援物資の1つで、自分へのプレゼントだという。その機体の右肩にはフレイのマークである戦乙女が描かれ、機体色も彼女の色である真紅を基調とした塗装になっている。

「これが初陣だけど、一緒に頑張ろうね、ウィンダム」

 これはGAT−X04ウィンダム。クライシスの量産試作型であり、宇宙での反攻に向けて開発が進められてきた大西洋連邦のダガー系に続く次世代主力MSである。これまでアルフレットたちが蓄積していた各種データを元に、量産性と操作性の向上が図られた、Gシリーズ以上の性能を誇るMSである。
 アズラエルはこれのテストパイロットとしてフレイを選び、彼女にこれを託してきたのだ。ヴァンガードを最初キラに託そうとしたりと、なんだかんだ言っても彼はキラたちを信頼しているのかもしれない。





 そして、遂に約束の時が来た。10時に針が達したのを見たカガリがマイクを取り、全軍に命令を下す。

「時間だ、全軍攻撃開始!」

 カガリの命令に従って洋上艦隊が一斉に巡航ミサイルを発射し、オノゴロ島めがけて数えるのも馬鹿らしくなるような数のミサイルが降り注ぐ。それはかつてこの地を攻めたザフトの攻撃を数倍にした規模であり、海岸に展開しているザフトの対処能力を超えた飽和攻撃であった。
 だが、ザフトも引く事は出来ない。退く所など無いのだから。ジンやシグー、ザウートが対空砲火を撃ちまくり、弾幕でミサイルを撃ち落そうとする。沿岸陣地からは迎撃ミサイルが放たれ、迫る巡航ミサイルを撃ち落そうとそれに向かっていく。オーブ製のミサイルは良く妨害を突破して巡航ミサイルに食いつき、これを次々に撃ち落していく。この迎撃ミサイルを突破した物は今度は弾幕に出迎えられ、さらに数を減らしていく。これを突破したミサイルは容赦なく大地に降り注ぎ、沿岸陣地を破壊していった。
 この攻撃は3波にも渡って行われ、少なくない数の対空砲やMS、海岸障害物が吹き飛ばされた。特に地球軍はこの海岸障害物の排除を狙っていたようで、これを吹き飛ばして内陸への進撃路を切り開くのが狙いだったのだろう。

 沿岸の障害物が除かれたことでMS揚陸艦がまず海岸に接近しようとしたのだが、これは沿岸砲台に阻まれて中々近づけなかった。ミサイルではこれらの堅牢に作られた砲台を破壊する事は中々難しいのだ。
 これを何とかする為に地球軍は空母から艦載機を発艦させると共に、空戦能力を持つMSを出撃させてオーブに上陸させようと試みた。やはり沿岸を制圧しないと後の揚陸が上手く出来ない。
 MSを運んできた揚陸艦などから次々にジェットストライカーや空戦パックを装備した105ダガーやダガーLが出撃し、次々にオーブに向かっていく。そしてそれに加わるべくアークエンジェルからもMSが出撃しようとしていた。艦橋のカガリは格納庫のキラに橋頭堡を作れと指示を出している。

「良いかキラ、とにかく揚陸艦が取り付けるだけの橋頭堡を確保するんだ。そうすればダガー隊がオノゴロに入れる!」
「努力はするよ。でも、簡単にはいかないと思うよ」
「お前がよく言ってた、あのジャスティスの事か?」
「うん、多分アスランはまた出てくるから」

 アスランは自分の姿を見れば必ず出てくる筈だ。その時こそこれまでの因縁に決着をつけ、オーブを取り戻すとキラは考えていた。そう、今日こそ決着をつけるのだ。



 だが、キラの予想に反してアスランは出てこなかった。いや、本当は出たかったのだが今回は自重に自重を重ねてすぐに前に出る事はせず、じっと待機をしていたのだ。グリアノスから敵が上陸するまで打って出ることを禁じられていたのだ。核動力機はザフト側の切り札であり、それだけに軽々と切るわけにはいかないカードなのだ。特務隊はイザークの指揮で既に前線に出ているのだが、アスランは自分を含めて4機の核動力MSを含む予備MS隊を率いてじっと敵の上陸を待ち続けている。
 だが、前線でのMS同士の激突を予想していたアスランは、それまで敵を砲撃し続けていた砲台が次々に沈黙していくのを見て目を見開き、慌てて司令部に情報を求めた。

「どういう事だ、砲台が沈黙してるぞ!?」
「それが、砲台の動力が次々に止まっているのです。それで砲台が使用不能になりました」
「砲台の動力が?」

 動力が次々に停止したということは動力ケーブルが切断されたということだが、ミサイルか何かで破壊されるような柔な作りはしていない筈だ。これらのケーブルは全て地下坑道を利用した地下埋設型なのだから、ミサイルが地中貫通型でもない限り早々破壊できるとは思えない。
 そうなると、これを破壊する事が出来るのはレジスタンスだけだろう。おそらく地下坑道に侵入したレジスタンスがケーブルを破壊したのだ。

「レジスタンスの仕業だろうな、厄介な事を」
「隊長、どうします?」

 ルナマリアが不安そうに聞いてくる。流石にこれほどの猛攻を受けた事の無い彼女には、このミサイルのシャワーはかなり堪えるようだ。それにアスランがなにか気の聞いたことでも言えないかと考えていた時、いきなり司令部からオペレーターの緊急信が飛び込んできた。

「ザラ隊長、大変です!」
「どうしたんだ、今度は?」
「それが、オノゴロ島の各地に次々にMS戦闘車両、歩兵が現れました!」
「どういうことだ、何時上陸を許したんだ!?」

 まだ敵は上陸していない筈だ。歩兵だけなら少数部隊をひそかに上陸させた可能性があるが、MSや車両まで出てきたとなるとそれはありえない。奴らは何時上陸を果たしたのだ。
 だが、このアスランの疑問に対する答えは驚くべきものであった。

「違います、奴らはトンネルの中や山中、森の中などから次々に出てきました。しかも出てきたのはオーブ軍です!」
「オーブ軍だと……?」

 レジスタンスは確かにオーブ軍残党だが、MSまで装備している筈は無い。そもそもトンネルや山中、森にはMSを隠しておけるようなスペースは無い筈だ。だが、そうなら奴らは何処から出てきたのだ。
 それを考えたアスランの脳裏に、ふと1つの事が閃いた。そう、地上には居なかったかもしれないが、地下に隠しておけば隠し通せるではないか。

「まさか、俺たちが把握していなかった地下施設があったのか!?」
「そうかもしれません、奴らはこの時を待って装備を隠していたのかも!」
「くそっ、一杯食わされた。前線の様子は!?」
「後方から攻撃を受けて混乱しています。それと、敵MS隊の中にフリーダムの姿を確認しました」
「……そうか、分かった」

 キラが出てきたという話を聞かされたアスランは、それ以上は何も言わずに黙って通信を切った。そして暫く戦況を確認し、後方のグリアノスに出撃の許可を求めた。

「グリアノス隊長、レジスタンスが最後の攻撃に出てきたようです。前線が混乱していますので、これを叩きに出たいのですが、宜しいでしょうか?」
「いや、お前はまだ待っていろ。其方はイザークに任せている」
「イザークにですか?」

 イザークが後方の迎撃に回されるとは思わなかったアスランは驚いた。てっきり前線から動けなくなっていると思っていたのだ。だが、この疑問に対してグリアノスは苦渋に満ちた顔でアスランに驚くべき答えを返してきた。

「クルーゼの命令なのだ。ベテランには無理をさせず、確実に宇宙に脱出させよとな」
「クルーゼ隊長が?」
「私も軍人である以上、命令に背く事は出来ん。特務隊を含む精鋭は余り無理をせず、逐次カグヤに後退させることにしている」

 クルーゼの命令といわれてはアスランも余りごり押しは出来ない。向こうはオーブ駐留軍の司令官であり、自分は彼の指揮下にある。勿論抗議する事はできるだろうが、クルーゼは聞きはすまい。
 グリアノスも好きでこんな命令を守っている筈はなく、アスラン波それを追求する気勢を削がれてしまい、渋々グリアノスの命令を受け入れた。余り逆らって彼を困らせるのは本位ではない。
 だが、後方でじっと戦況を見守るという立場はアスランにとってかなり不愉快な事であった。パイロット根性が骨の髄まで染み込んでいるアスランはじっとしているのが苦手になっていたのだ。




「始まったわね」

 地球軍の攻撃開始を待っていたフレイは、着弾するミサイルの衝撃と戦闘の轟音を聞いてそれまで閉じていた目を静かに開いた。それは彼女にとって実に3ヶ月ぶりに聞く戦いの音であった。
 ウィンダムが乗っている貨物昇降エレベーターには他に3機のストライクダガーが乗っており、フレイと一緒に出撃のタイミングを待っている。このタイミングを見極めるのはフレイの仕事であった。フレイはコクピットの中で外部に設置されているカメラの映像に目をやり、両軍の戦闘をじっと見ている。

「やっぱり、苦戦してるわね。私たちの作った防御システムを使ってるんだから当然なんだけど」

 ユウナが作り上げた沿岸防衛システムは恐ろしいまでの効果を上げている。先のザフトの侵攻にたいして沿岸部防衛線が暫く持ち堪えられたのもユウナの構築した防御システムが優秀だったからだ。それは今、地球軍の猛攻を防ぐのに役立っている。
 だがフレイたちはこれの弱点を知っていた。防御システムの穴を知っているので、彼女たちはそれを突くべく準備をしていたのだ。今こそこれまでの準備が生かされる時だ。フレイは決断すると、通信機を起動させて全軍が待ちに待っていた命令を発した。

「行くわよみんな、オーブ奪還作戦、開始!」

 フレイの合図が各部署に伝達されオーブ各地で異変が起きる。それまで砲撃を続けていた砲台が突如として沈黙し、各所で通信ケーブルの寸断による通信の途絶が起きる。中には監視所などの施設の電源が落ちてしまい、機能を無くした部署までが出ている。レジスタンスが各地で破壊活動を始めたのだ。ザフトも地下道の警備くらいはしていたのだが、レジスタンスはザフトが知らなかった様々なルートから地下道に侵入して集合ケーブルを破壊していたのだ。
 そしてこれと合わせて地下から次々にMSや車両、歩兵が地上に出てきた。フレイもエレベーターで地上に姿を現し、ザフトのMSの姿を見据えた。その中にM1Bの姿を見て僅かに表情を曇らせる。

「人様の物を勝手に使うなんて、せこい事するわね」

 恐らくはモルゲンレーテの工場のラインをそのまま流用していたのだろうが、その姿はフレイには不快なものに映った。あれはオーブ軍のMSであり、ザフトが使っていいものではない。ザフトがM1を使っているというのは、フレイのオーブ軍人としてのプライドといたく刺激したのだ。
 地上に出たMS隊の中で先陣を切って飛び出したフレイは、ザフトのパイロットたちから見ても速いと思わせる動きで彼らの至近にまで入ってきた。見慣れないMSにザフトパイロットたちが驚き、慌てて機体照合をかける。そして出てきた答えにかれらは凍りついた。コンピューターがはじき出した照合データは、大西洋連邦軍が投入している最強のMS、クライシスだったのだ。

「クライシスって、あのジャスティスとサシでやりあえるっていう、ナチュラルが作った化け物か?」
「冗談じゃないぞ、ザラ隊長やグリアノス隊長が勝てなかった奴だろ!?」

 これの前に立ったジンやバクゥが怯えたように後退する。あのアスランやグリアノスでさえ退けたというナチュラル最強のMSが目の前にいるというのは、ザフトのMSパイロットにとっては悪夢に等しい。
 だが、戦場で怯むのは死に繋がる。怯えて動きが鈍ったところをフレイに狙われたジンがビームに胴体を打ち抜かれ、小さな爆発を起こして仰向けに倒れて動かなくなり、バクゥが足の1つを打ち抜かれて走れなくなる。そして真横に入ったウィンダムにビームサーベルで胴体を切り裂かれて破壊されてしまった。





 オノゴロ島の内陸方向で騒ぎが起きた事は洋上の艦隊からも確認できた。

「何だ、何が起きてるんだ。どこかの部隊が突破に成功したのか?」

 何が起きているのか分からないカガリはパルに説明を求めたが、パルは前線を突破した部隊は居ない筈だと返してくる。それでまたカガリが首を傾げていると、ユウナが1つの可能性を口にしてきた。

「ひょっとして、レジスタンスかな。確かMSも何機か持ってる筈だ」
「レジスタンスって、あんな大規模な戦力持ってるのか?」
「確か途中から大西洋連邦が支援してたって聞いたけど?」

 2人は大西洋連邦と聞いて、同じく艦橋にいるサザーランドを見たのだが、サザーランドの方も詳しくは知らないと返してきた。

「その作戦は情報部が進めているもので、私は直接関与していないのです。確かアズラエル様も一枚噛んでいた筈で、MSを含む相当量の物資を運び込んでいたようですが」
「その成果がこれかな。なら、こいつはチャンスだ!」

 カガリはレジスタンスが引き起こした混乱に付け込む形で第2波の投入を命じた。これに合わせてマリューに第8任務部隊を前進させるように言い、ケリを付ける意思があることを示す。だが。それは流石にマリューとサザーランドが止めてきた。

「ちょっと待って、旗艦をいきなり前に出せというの!?」
「危険すぎます。この艦が沈んだりすれば作戦が続行できなくなりますぞ!」
「今が勝負所だろうが。それにこの艦は地球連合最高の強運艦なんだから大丈夫だって!」

 いや、強運艦なんて理由で突撃を決めるなよ。と艦橋とCICにいる全員の目が言っていたが、カガリは止めるつもりは無さそうだった。マリューは困り果てた顔でサザーランドを見たが、サザーランドは力なく首を左右に振り、右手を軽く上げてフルフルと左右に振って見せた。それを聞いてやれというジェスチャーだと取ったマリューは絶望の色を浮かべ、仕方なくノイマンにアークエンジェルを前に出すように命じる。
 アークエンジェルが前進を始める振動をシートから感じながら、マリューは何となく嫌なと艦を感じてしまっていた。オーブ軍の旗艦を任された艦艇に付きまとうジンクスはマリューも聞いた事があったのだ。

「ミズホ自爆、クサナギ大破、タケミカヅチ座礁、次はアークエンジェルの番かしらね」

 アークエンジェルの幸運もこれまでかもしれないと思い、マリューは胃にずっしりと重い物を飲み込んだような気にさせられてしまった。流石のマリューも自分の艦が沈むかもと考えるのは気が重いのだ。
 だが、アークエンジェルってどうやったら沈むのだろうと悩む者は多いかもしれない。特にアスランたちはその頑丈さから、あの船は不死身じゃないのかと半ば本気で思っていたりする。何しろ1個師団の火力で集中攻撃されても沈むどころか航行不能にもならず、包囲を突破して見せたのだから。
 
アークエンジェル、ドミニオン、パワーの3隻が防衛線に突入してくる様は、ザフト兵士にとっては最悪の光景であった。この3隻はザフトにとっては災厄以外の何者でもなく、姿を見るだけで逃げ出す者まで出る始末だ。今もその威圧感に耐えられず、自分の持ち場を放棄して逃げ出す兵が続出している。
 これはザフト兵士の訓練度が極端に低下している事を示していた。きちんと訓練された兵士はそうそう持ち場を捨てて逃げ出したりはしない、と言いたい所だが、実のところ戦況が決定的な不利に傾くと兵士は逃げ出すことがある。こればかりは恐怖から来る衝動なので、どれほど訓練をしていても完全に押さえ込むことは難しい。兵士から敵を殺す事への罪悪感を無くす事が困難であるのと同じだ。
 これを解決する手段の一つとしてイデオロギーがある。特に宗教が絡むと人は恐怖や殺人への嫌悪感、道徳性を失う事が知られている。宗教戦争の歴史が、国家間の戦争を遥かの凌ぐほど凄惨で血生臭いのはその為だ。それがさらに行き着くと指導者の神格化にまで辿りつく。これにナショナリズムが加わると手が付けられない暴走が始まる事もあり、偏りすぎたイデオロギーや強烈なナショナリズムは大抵国を傾け、国民を苦しめる事になる。

 言い換えると豊かで平和な国はこういった思想が薄く、よく言われる平和ボケ状態に陥っている事が多い。戦争も無く、食べるにも困らなければそんなイデオロギーが醸成される余地が無くなるからだ。衣食住足りて礼節を知るという言葉があるとおり、平和な時代が来ると余裕が生まれるので文化が発達しやすくなる。ただ、そういった国はゆっくりと熱せられる湯に入れられた蛙と同じで、気がついた時には手遅れとなって国が滅ぼされてしまうという事があるのだが。いきなり熱い湯に入れられた蛙はビックリして飛び出すのだ。
 プラントも地球国家も偏ったイデオロギーに染まっているといえる。ブルーコスモス思想もコーディネイター優越思想もオーブの理念も強烈なイデオロギーという点では同じであり、他の考えを決して認めようとはしない。だから激しく対立するのだ。
 ブルーコスモス系の兵士や開戦期のザフトが暴走し易かったのもこの悪弊が出た証左だろう。常識で考えれば核や化学兵器の投入などする筈がない。これらの兵器はあくまで威嚇に使うべきものであり、実際に使えば使用した土地は暫く使用不能となり、占領する価値を失う。これは戦争をする意味そのものが消滅する事を意味し、何で戦争を始めたのか分からなくなってしまう。連合はプラントの独立を阻止したくて戦争を仕掛けたのだから、そのプラントを吹き飛ばしてしまっては意味が無いのだ。
 だが、偏ったイデオロギーや極端なナショナリズムに染まるとそういった常識的な判断が出来なくなり、偏った思想が優先されるようになる。分かりやすく言えば洗脳されたような状態になるのだ。だから死ぬと分かっているような状況でも戦いを継続できるし、敵を殺す事に躊躇いが無くなる。100万人を殺してもそれは正しいことだから問題ないと確信できるようになるのだ。




 だが、今前線に立っている兵士たちはそこまで偏ってはいない、未訓練の新兵が中心だ。だから踏み止まれずに逃げ出してしまう。その結果ますます犠牲が増えるのだが、それはまあ別の問題だろう。
 海岸に迫るアークエンジェルを防ごうと多数のディンやラプターが向かってきたのだが、これは空母から出てきたスカイグラスパーと105ダガーに多くが阻止された。特に非情に目立つエメラルドグリーンのスカイグラスパーの活躍は凄まじく、この機体が一度降下してくるたびに1機が落ちていくという状態だ。
 更にアークエンジェル周辺をクライシスとストライクG、そしてフリーダムが固めている。3機ともかなりの技量を持つパイロットが操っており、素人に毛が生えた程度のザフトパイロットを寄せ付けないでいる。コーディネイターなのだから彼らも高い基礎能力を持っている筈だが、やはり経験の差はどうしようもないようだ。

 アークエンジェルが防衛線を突破し、地上の障害物にミサイルを叩き込んで破壊していく。さらに降下したMS隊が障害物を除いて地上部隊の進撃路を切り開こうとしていた。これで揚陸艦が沿岸から地上部隊を内陸に送り込めるようになり、ザフトの海岸防衛線は崩壊してしまった。海岸で孤立する事を恐れたザフトの部隊は次々に持ち場を放棄して後方に下がり、その結果ますます地球軍がオノゴロ島に上陸してくるようになる。揚陸艦から吐き出されたストライクダガーやヴァデッド戦車が展開を始め、橋頭堡は完璧なものとなっていった。



 地球軍が上陸をはじめたのを見て、遂にアスランは出撃を決意した。グリアノスはまだ渋っていたが、これ以上待っていては援軍の意味そのものが無くなる。アスランはグリアノスを押し切って出撃したのだ。
 既に前線では壮絶な撤退戦が行われていた。その最後尾ではイザークたちが超人的な強さを発揮してストライクダガーの大軍を食い止めているが、全てを止める事は出来ず味方が次々に食われている。
 その上空に現れたアスランはジャスティスを敵の群れに突入させ、向かってくる105ダガーやダガーLをすれ違いざまに3機撃墜していた。そして自分についてきる2機のジャスティスに固まるなと指示を出し、ルナマリアには地上に降りろと言った。

「ルナ、お前は地上の高台に降りて敵を撃ちまくれ。フリーダムの火力を見せ付けてやるんだ!」
「隊長はどうするんです!?」
「俺は敵のフリーダムを落とす。奴を野放しには出来ない!」

 そう言い残して敵機の群れに飛び込んでいくアスラン。それを見送ったルナマリアはマルチロックオンシステムを起動しながら、アスランの様子が何時もと違う事に戸惑っていた。何でかは知らないが、あのフリーダムのことを話す時のアスランは酷く余裕が無い、何か追い詰められているような感じがするのだ。

「本当に、何があるのかしらね」

 アスランの変化に疑問を感じつつもフリーダムを地上に降ろしたルナマリアは、ロックオンした目標に次々にビームとミサイルを放った。フリーダムの仕事は1機で大軍を止める制圧火力で戦場を支配する事だ。ルナマリアもその原則を忠実に守り、圧倒的な火力で敵を押さえ込みにかかった。




 そして、空ではキラとアスランが幾度目かの邂逅を果たしていた。互いに目立つ機体を使っており、戦場では相手を探すのは難しくは無い。キラはトールやフラガとチームを組んで戦っていたのだが、迫るジャスティスを見て其方に意識を切り替えた。

「来たな、アスラン!」
「キラ、またあいつか?」
「うん、僕はあれの相手をするから、後は頼むよトール」
「おいおい、俺もフラガ少佐も手を貸すぜ。3機がかりでなら確実に勝てる」

 トールはあれを確実に落とそうとキラに言ったが、キラはこれを拒否した。アスランを倒すのは自分だと決めているのだ。珍しく強硬に助けを拒むキラにトールは面食らったが、男の子としての部分がキラの覚悟を理解したようでそれ以上は言わなかった。

「分かった、俺がアークエンジェルを守ってるから、お前は行って来い」
「ありがとう、トール」

 物分りの良い友人に礼を言ってキラは戦列を離れた。それを見送ったトールはやれやれと苦笑すると、キラが戦列を離れたとミリアリアに伝えた。それを伝えられたミリアリアは驚いたが、後は俺がやるというトールに少し感心してしまった。

「ふうん、随分強気ね、トール」
「俺だって今はそれなりの腕なんだ。やれるさ」
「分かったわ、頑張ってねトール」

 トールを頼もしく感じたミリアリアは嬉しそうに頷き、そしてキラの穴を埋める為に周囲の部隊の配置を少し変更する事にした。既に制空権はこちらの手に落ちかけているので戦力には余裕があるのだ。





 モルゲンレーテの地下施設では、数人の男がNJCの起動をしていた。その傍には核弾頭があり、これを使用するための準備をしていたのだ。

「急げ、早くしないと俺たちも逃げられなくなるぞ!」
「もうすぐ終わる。これでオーブはおしまいだな」

 核弾頭をここで起爆すれば、オノゴロ島は致命的な放射能汚染が引き起こされ、地上は衝撃波で薙ぎ払われるだろう。地下爆発だから多少被害範囲は狭くなるだろうが、オーブ全土を放射能汚染するくらいには十分な筈だ。そしてそれは地球諸国のプラントへの憎悪を沸点まで高めるに違いない。

「これで地球もプラントも最後まで殺しあう。全くクルーゼ隊長の計画は抜かりが無い」
「ああ、戦争が終わりそうだって聞いた時は不味いと思ったけどな」
「今度こそ引き返せなくなる。そうでなけりゃ、この戦争を始めた意味が無いからな」

 彼らはそう語り合って楽しそうに笑っていた。彼らこそザルクのメンバーであり、クルーゼの指示で歴史の裏側で暗躍してきた集団なのだ。その資金は何処から得ているのか、どうして彼らはクルーゼの破滅しそうに協力しているのかなど、謎の多い組織ではある。この組織の存在を知っているものは非常に少ない。だからこそこの組織はこれまで暗躍できたのだから。
 だが、誰も来る筈の無いこの場所に1人の男がやってきた。

「全てを破壊しつくせばそれが復讐となる、か。私には理解できんな」
「誰だ!?」

 誰も現れない筈の場所に何者かが入ってきた。そのことに驚いた男たちは慌てて銃を手に取ったが、その時仲間の1人が撃ち込まれた弾丸に胴体を上下に引き千切られ、上半身が後ろに吹き飛んでしまった。拳銃や小銃どころの威力ではない、対物ライフル級の威力だ。
 侵入してきた男は物陰からゆっくりと姿を現した。右手には30mmはありそうな大口径砲を持ち、これで仲間を撃った事が分かる。

「貴様、一体何者だ!?」
「知ってどうする、あの世とやらで私に殺されたと吹聴するつもりか?」
「ほざくな!」

 男たちが一斉に小銃を撃ちはなったが、そのときには既にその男、ユーレクは物陰に姿を隠していた。そして、ユーレクは自分が隠れていた遮蔽物にライフルを向け、それを撃ち抜いて向こう側にいる男を撃ち殺してしまった。相手の小銃では遮蔽物を撃ち抜けないが、ユーレクの対物ライフルは遮蔽物を紙のように撃ち抜ける貫通力があるのだ。
 相手の砲弾が壁などを貫通して正確に仲間を捕らえるのを見て、最後に残った男は震え上がってしまった。ありえない、どうして奴は全く見えない筈の相手を撃つ事が出来るのだ。射線が通っていなければ当てる事などできない筈なのに。
 恐怖の余り震え上がってしまった男にユーレクは姿を見せてゆっくりと近づいていった。男にはもう戦意などは無く、ただガタガタと震えるだけとなっている。

「な、何だ、何なんだお前は!?」
「私か? 私はラウ・ル・クルーゼと同じ物だよ」

 男の必死の問いにそれだけ答えて、男に銃口を押し付けたライフルのトリガーを引いた。その一撃で最後に残った男も砕け散り、その場にはユーレクだけが残される。ユーレクはザルクの人間を皆殺しにした後、NJCにあるだけの弾を叩き込んで破壊した。

「これで核は爆発しまい。後はザフトをオーブから脱出させるだけだが……」

 ユーレクはどうしたものかと考え、ある物に思い至った。そうだ、モルゲンレーテにはあれがあったではないか。あれなら時間稼ぎにくらいは役に立つと思い、ユーレクは機器を操作して守備隊司令部を呼び出した。





 海岸の防衛線が突破されたのを見たグリアノスは無理をせず全軍を後退させる事にした。どうせ防ぐ事は無理なので、遅滞戦で少しでも時間を稼ごうというのだ。だが戦力の不足は如何ともしがたい。何か、何か無いかと思案をめぐらすグリアノスの元に、モルゲンレーテから1つの知恵がもたらされた。

「モルゲンレーテの玩具を使えだと?」
「そうだ、これは確かに玩具だが、桁外れた能力を持った玩具だ。時間稼ぎにはもってこいだろう。どうせ戦術的には使えん代物だ」
「それはそうだが……」

 グリアノスはユーレクの提案に難色を示した幾らなんでもあれは使うのに気が引けてしまう。だがユーレクは本気のようで、これからオートで起動させると伝えて通信を切ってしまった。
 白濁した通信画面を暫く見ていたグリアノスであったが、遂に彼も決断を下すと矢継ぎ早に命令を出した。

「最後のシャトルを出す準備をしろ。我々も出る用意をしろ、これが最後の決戦となると思え!」

 グリアノスの命令を受けて司令部の要因が慌てふためいて命令を伝達し、一部は撤収の準備を始める。最後のシャトルには彼らも乗り込むことになっているのだ。だが、それを見回して外に向かおうとしたグリアノスの前に、彼に長い事付き合ってきた部下たちが集まっていた。

「どうした、お前たちも早く脱出の準備をしないか」
「いえ、我々は隊長のお供をします」

 予想もしなかった部下たちの答えに、グリアノスは彼らが自分の考えを読みきっていた事を悟った。そして全員の顔を1人1人を確かめるように見ていく。

「……馬鹿な事を言うな。お前たちはまだ若い、特に20に満たない者は絶対に許さんぞ」
「ですが隊長、我々は隊長と共に戦ってきました。最後まで付き合わせてください!」
「ならんと言っておる。お前たちは1人でも多くプラントに戻り、プラントを最後まで守るのだ!」

 一緒に戦わせてくれと懇願してくる部下たちを一喝し、グリアノスは右手を大降りに横に振って今すぐ脱出の用意をしろと厳命した。それを聞いた部下たちは悔しそうに体を震わせ拳を握り締めていたが、遂に諦めたのか1人、また1人と敬礼を残して去っていく。
 だが、多くの者が去っていった中で、なおその場にとどまり続ける男たちがいた。その部下たちを一瞥したグリアノスの顔に怪訝そうな色が浮かぶ。そこに居たのは部下の中でも古参の、開戦前からグリアノスの部下として付いて来た男たちだったのだ。

「どうしたのだ。お前たちも早く行け」
「いえ、我々は最後までお供をします」
「俺は31です、参加する資格はあると思いますが?」
「若い奴らを逃がす為にも、誰かが残らなくちゃいけません。隊長だけじゃ手に余るでしょう」
「お前たち……」

 若い連中を引き返させることは出来たグリアノスだったが、この男たちを説得するのは無理なようだった。彼らはグリアノスと同等の戦歴を持つ勇者であり、開戦期から戦い続けてきた古参のエースたちなのだ。その彼らが若い連中を逃がす為に盾となると言っているのだから。
 だから、グリアノスは相好を崩して笑い出してしまった。隊長が馬鹿なら部下も馬鹿になるらしい。全く、こんな絶対に生きて帰れない任務に意地でも残ろうとするとは。

「しょうがないな、お前たちは。自分から死にに来るとは」
「誰かがやらなくちゃいかん事です。若い命が助かれば良いでしょう」
「そうですよ、プラントの未来はあいつらが作るんですから」

 現在のプラントの、ザフトの戦略はプラントという器を守る事に固執する余り、そこに生きる人間を余りにも蔑ろにしている。評議会では募兵を止めて徴兵制を敷く事が議論され、兵士にされる人間の年齢は大人と認められる最低年齢の13歳まで下げられる可能性が出ているという。そんな事になったらたとえこの戦争にプラントが勝利できたとしても、プラントはこれからの世代を根こそぎ失って遠からず滅びてしまう事になるだろう。それでは意味が無いのだ。
 後に続く者たちのために戦わなくてはいけない。それが開戦した頃のザフト兵士たちに共通する想いであった。だから彼らは地球連合という強大な敵に立ち向かえたのだから。





 オーブに上陸した地球軍はそのまま内陸に侵攻しようとしたが、彼らはそこでとんでもないものを見る事となった。モルゲンレーテの工場施設の1つである地下格納庫の地上出口が開放され、何かがエレベーターでゆっくりと地上に上がってきたのだ。それが何かと警戒していたMS隊の前に現れたそれは、見た者を絶句させてしまうような姿をしていた。
 地上に姿を現した金色の覇王は、凄まじい雄叫びを上げて海岸に展開する地球郡を睨みつけてくる。その姿は、一言で言うならば金ぴかで尻尾が生えたカガリであった。

「ちょっと待てこらあ、何だあれはぁ!!?」

 当然の事であるが、カガリはアークエンジェルの艦橋で魂からの絶叫を放っていた。何でモルゲンレーテから自分を模した巨大ロボットが出てくるのだ。しかも全身金ぴかという悪趣味振りである。
 このカガリの絶叫に答えたのはユウナであった。

「あれがスーパーメカカガリだよ」
「なんで特撮用メカが出て来るんだよ!?」
「多分、ザフトも余裕が無いんだろうね。でもあれは馬鹿に出来ないよ。何しろ外装は新開発された対ビーム反射装甲「ヤタノカガミ」が使われ、主兵装にはMSさえ一撃でバラバラにしてしまう威力があるスーパーサウンドブラスターが装備されている。更に空は飛べないけど可変機構の構造試験機という役割もあった。ちなみに製作コストはM1が20機作れるくらいだ」
「何でそんな無駄なもん作ってるんだよ!?」

 カガリの当然すぎる問い掛けに、ユウナは世界の真理を語るかのように、絶対に自信に満ちた答えを返した。

「カガリ、男は自分の浪漫の為には出費は惜しまない生き物なんだよ」
「ふざけんなボケ!」
「グハァ!」

 余りにもアホな事を自信満々に言ったユウナを殴り倒したカガリは、全軍に総攻撃を命じた。あのふざけた木偶の坊を破壊しろと。しかし、地上のMSが放ったビームは装甲を貫通する事は無かった。それどころか一部は跳ね返されて来るというふざけた事までおきている。
 さらに驚いた事に、この木偶の坊と思われていた化け物はゆっくりと歩き出したのだ。これは歩けるらしい。そのことに驚く兵士たちの前でスーパーメカカガリはゆっくりと口を大きく開け、その咆哮を叩き出した。
 目に見えぬ力が大地を開けぬけ、スーパーメカカガリの正面に居た部隊が一瞬で大地ごと粉々に吹き飛ばされてしまう。その射程こそ短いようだが、その破壊力は艦砲さえ上回るのではと思わせるものだった。これがスーパーメカカガリの主砲、スーパーサウンドブラスターである。その凄まじい破壊力にアークエンジェルの艦橋に居た司令部メンバーは声を無くして驚いてしまった。

「何だ、あれは?」
「特撮用に作ったんだけど、ここまで凄いとはね。相変わらずクローカー博士は手を抜かない人だ」
「お前らは何を考えてんだ!?」

 起き上がってきたユウナに怒りのチョークスリーパーを決めてカガリはあらん限りの馬事雑言をこれを作った連中に叩きつけていた。というかこんな物があるならオーブ防衛戦で使えよと声を大にして叫ぶ。
 このカガリの最も過ぎる声に、ユウナはここまで凄いとは知らなかったんだよと言い訳にもなっていない返事をし、ますますカガリに締め上げられてしまった。


 ビームもミサイルも受け付けない理不尽な装甲を持ち、圧倒的な火力を持つ巨人を前に、地球軍は足を止められてしまっていた。今、オーブの馬鹿たちが作り上げた最高傑作は最大の災厄となって自分たちの前に立ち塞がったのだ。




後書き

ジム改 スーパーメカカガリ、遂に登場!
カガリ …………。
ジム改 出しておいてなんだが、これひょっとして自由や正義より強いんじゃなかろうか。
カガリ …………。
ジム改 どうした、今日は随分静かだが?
カガリ ふざけんなこんのぼけぇ!
ジム改 グハァ!
カガリ この腐れ外道が。とうとうこんなもん出しやがって。教育し直してやる!
ジム改 ま、待て、まだ次回予告が!
カガリ やかましい!

ジム改を引き摺って別室に移動するカガリ。そして静寂が訪れた……。

 

次へ 前へ TOPへ