第151章  破滅の足音


 

 地球軌道周辺を巡る幾度めかの戦い。それは別に珍しい光景ではなく、ザフト艦隊は迫る敵艦隊に向けて何時ものようにMSを出撃させ、迎撃の態勢をとっている。それはここ最近では幾度となく繰り返された戦いの一幕であるように思われた。
 迫り来る艦隊は見慣れない駆逐艦を左右に展開させ、見慣れない2隻の超大型戦艦を守るようにして接近してくる。その艦には目立った突起物などはなく、全体的にスマートで優美とさえ表現できる姿をした白い船だ。戦闘艦と言うより豪華客船か儀礼艦の方が似合っているとさえ思わせる。
 しかし戦闘艦で無い船がここに来る筈が無い。ザフトは敵が射程に入るまでの時間をじっと待っていた。ザフトと地球軍の艦艇の有効射程は大体同じくらいなのだ。
 だが、今回は些か様子が違った。敵艦隊はザフトが想像していたよりも遥かに遠くから発砲してきたのだ。
 敵艦発砲、の報を受けたクルーゼは最初嘲笑った。幾らなんでも遠すぎる、この距離で撃っても当たりはしないし、ビームなら拡散してしまって有効弾とはなり得ない。だが、それは確かに当たりはしなかったのだが、艦隊の中を収束したままの状態で貫いていったのである。その威力は至近にいた艦艇を粒子の余波の衝突で揺るがすほどであった。クルーゼのカリオペも同様であり、振動する艦内で椅子に捕まったクルーゼはその威力に驚愕していた。

「な、何だこの威力は。敵は何を撃ってきたのだ!?」
「ビ、ビーム砲であることは間違いないのですが、敵艦に砲塔らしきものは確認できません。これでは射線予測が出来ません!」
「ビームになんでこれほどの威力がある!?」
「これは火線収束砲のプラズマビームではありません、何らかの金属粒子を飛ばす荷電粒子ビームです!」

 砲塔の有無は近代戦では重要な意味を持つ。その砲口の向きによって射線を予測し、回避運動をするのも重要な防御となるからだ。それが分からないとなれば、此方は防御の初動を取り辛くなる。
 そして粒子の運動エネルギーで目標を破壊する荷電粒子ビームは熱エネルギーのみで対象を破壊するプラズマビームより遥かに恐ろしい兵器だ。その威力は直撃でなくとも戦艦を飛散した粒子が触れた衝撃で揺るがす威力がある事からも分かるだろう。
 それを聞かされたクルーゼはランダム回避を命じ、アンテラにあの艦は何処の戦艦なんだと聞いたのだが、アンテラはそれに答えられなかった。ただ、自分が知らない戦艦は知られている限り一種類しかないとだけ告げた。

「あのような艦艇は私は知りません。ですが、私が知らない戦艦が1つだけあります」
「それは何だ!?」
「極東連合のヤマト級惑星間宇宙戦艦です。地球−火星間の航路を行き来する為に作られたという船です」
「ヤマト級、なるほど、あれが噂の……」

 クルーゼもその名は聞いた事があった。竣工以来その姿を秘匿され、外部に殆ど情報が漏れてこなかった謎の新鋭戦艦。世界で始めての惑星間航行を前提に設計された宇宙戦艦であり、その巨体には長期間の航行に必要な各種設備が収められているという。
 その戦闘力は未知数ではあるが、単独で海賊などを排除する程度の物は持っているはずだという予測がなされていた。だが、現実はそんなレベルではなく、アークエンジェル級戦艦以上と思える砲撃能力を持っている。しかも射程が恐ろしく長い。
 これは考えてみれば当然の事だ。惑星間で戦う事を考慮するのなら、索敵範囲も当然広がる事になる。それを落とす為の武器も射程が長くなくては使い辛い物となってしまう。その射程がそのままザフト艦隊にとっての脅威となっていたのだ。何しろ此方の艦砲ではまだ有効射程に入っていないのだから。
 しかも驚いた事に、ヤマト級の艦砲は船体左右の上下に合計20門以上が埋め込み式で配置されていて、進行方向から60度くらいの角度をつけて発射された後、急激に折れ曲がって此方へと向かってきている。発射後にビームを曲げて照準方向に向けるのならばこの砲配置も納得できるが、ビームを曲げて砲撃してくるなど俄かには信じ難い光景だ。

「こんな化け物を作っていたとはな。MS隊を出して応戦させろ。ゼルマン隊はどうした、まだ来ないのか!?」
「それが、予定進路上で交戦の光が観測されました。此方に来る前に連合の艦隊と交戦したのではないかと」

 ここに来る途中で敵と交戦して遅れているのではないか、というアンテラのフォローには説得力もあり、クルーゼも仕方が無いかと矛を収めた。ここは敵のテリトリーであり、何時的と遭遇しても不思議ではないのだから。




 これではどうにもなら無いと判断したクルーゼはMSでこれを攻撃させたが、MS隊は極東連合の特殊なMS、オリオンの迎撃を受けてしまった。オリオンは他国のMSとは設計思想が完全に異なっており、純粋な対MS迎撃機として設計されている。このMSは対艦戦闘などを一切考慮しない代償に高い対MS戦闘能力を持っている。右手に持つ槍もその為に特化した武器なのだ。
 オリオンとぶつかったジンやシグーはすぐに自分たちではこれに効果的な打撃を与えられない事を悟った。オリオンの上半身はPS装甲で防御されており、銃弾を全く受け付けない。さらにABシールドも装備しているとあっては。G兵器並に厄介な相手だ。
 これを見たザフトは自然とゲイツにオリオンの相手を任せ、ジンとシグーが戦艦を狙うという役割分担をする事になるが、ゲイツにとってもオリオンはやり辛い相手と言える。接近すれば防御不可能な槍が襲ってくるし、距離を開けばレールガンが飛んでくるのだから。しかも中には槍の代わりにビームライフル、レールガンの代わりにミサイルランチャーを装備した支援型まで混じっている。
 オリオン隊をゲイツに任せたジンやシグーはヤマト級2隻に迫ったが、そこで彼らは新たに射出されたオリオン隊を見る事になる。ヤマト級は艦首方向にではなく、上下にMSを射出するという変わった発進方法を採用しているようだ。これはMSを直衛機としてしか運用する気が無いという極東連合独特の軍事ドクトリンに基づいた装備なのだ。

 ザフト艦隊はたった2隻の大型戦艦に有効射程外であるのを承知で反撃を開始していた。とにかく撃たなくてはという真理が働いているのだろうが、それはエネルギーの浪費でしかない。だがそれでも数撃てばまぐれ当たりも出る物で、何発かのビームやレールガンの砲弾がヤマト級の船体を捕らえ、そして全てが弾かれてしまった。それを見た各艦の艦長たちが驚愕し、そして程なくしてその理由が判明した。MS隊が着弾時の詳細を送ってきて、そのデータ解析の結果が出たのだ。それはMS戦では時折見られるものであった。

「敵戦艦はPS装甲で防御されているようです!」
「PS装甲、でも、それならビームで撃ちぬける筈では?」

 オペレーターの報告にアンテラが首を捻るが、クルーゼがそれに答えをくれた。ジェネシスで判明した事だが、巨大な一枚板のPS装甲は表面でビームすら弾いてしまうことが分かっているのだ。その熱量も装甲板で拡散されてしまう。ハルバートンがジェネシスを砲撃した際にもそのPS装甲は艦砲にかなり持ち堪えて見せた。
 しかも流線型の船体が防御力の向上に一役買っている。正面に対して極めて浅い角度を持つ船体装甲はレールガンの砲弾やビームを弾き易いのだ。

「ですが、あれは戦艦です、ジェネシスとは条件が違いますが?」
「極東連合も世界屈指の大国であり、技術力も侮れない。一部では大西洋連邦さえ凌いでいるくらいだからな。恐らく独自にPS装甲を改良したか、装甲板の製造方法に改善があったのだろう」

 大きな装甲板なら良いのだから、極東連合はそういう技術を持っているのだろう。元々技術立国であり、艦艇建造では世界屈指の物を持つ国だ。それくらいの芸当はするかもしれない。それにあの国は昔から目標を与えられれば何とかしてしまう国民性で知られており、時として他国から見ると信じられない奇跡を起こしてしまう。その基地外じみた面を同盟国の軍人らは尊敬を交えて「こいつらは変態だ」と評している。




 極東連合艦隊に少し送れて周辺から小艦隊が続々と姿を現し、戦列に加わりだした。此方は見慣れた部隊であり、ザフトの常識が通用する。見慣れたストライクダガーやファントムの群れを見たジンやゲイツのパイロットたちは奇妙な安堵感を感じつつ、これの迎撃を始めていた。
 此方に対しては概ね互角以上に戦って見せるザフトであったが、そこに更なる援軍が姿を現そうとしていた。地球軌道ギリギリの所をこちらに向かってくる艦艇があったのだ。それを聞かされた遅れていたゼルマン隊かと聞いたが、返ってきたのはクルーゼをして顔色を変えさせる物であった。

「違います、識別は大西洋連邦のアークエンジェル級戦艦です!」
「アークエンジェル級だと、映像を出せるか?」
「2番に出します、最大望遠です!」

 少し待って2番スクリーンに地球低軌道をこちらに向かってくる1隻のアークエンジェル級戦艦の姿が見て取れた。そしてそれは、クルーゼにとって因縁深い相手であったのだ。

「あ、足付き、奴がなぜ宇宙に?」
「ゼルマン隊がぶつかったのはこの艦だったのですか。それでは、ゼルマン隊はもう……」
「全滅しただろうな。3隻であの艦に勝てるはずが無い」

 地上での凄まじい強さを思い出したクルーゼはゼルマン隊は運が悪かったのだと呟いた。まさか宇宙に上がっていたアークエンジェルとぶつかってしまうとは。だがこうなった以上は仕方が無い、クルーゼは足付きに対抗できる唯一の部隊に命令を出した。

「エターナルを呼び出せ、特務隊に足付きを押さえさせる!」




 戦場に高速で急行してきたアークエンジェルでは既に戦闘準備が大体整っていた。MS隊は5機が準備を完了し、乗組員の宇宙服着用も終わっている。ナタルの代わりに副長代行をさせられているノイマンが報告をマリューに上げ、マリューは砲撃用意を命じ、MS隊を出撃させた。
 だが、このとき格納庫ではまだ1機だけ揉めていた。フレイのウィンダムが明らかに異常な動きを示し、記録上でも類を見ない反応速度を叩き出した事もあってフレイが調査を頼んだのだ。これを受けてアークエンジェルに乗り込んでいた軍の技術本部の技官が調べたところ、どうもフライヤーの制御のために組み込んだ脳波制御システムが関係しているという事を突き止めている。
 脳波制御システムはパイロットの脳波を受信するとそれを電気信号に変え、量子通信でフライヤーに届けてフライヤーを制御するシステムだが、これがMSの駆動命令系統に繋がっていた事が予想外の効果をもたらしたらしい。本来はデータ取りのために機体に組み込まれたシステムであったが、これが機体に動作命令を出してしまうという不具合を起こしていたのだ。
 これはつまり、フレイが感づくと同時に機体が動き出すという事である。フレイが頭で処理して身体が動き出す頃には既に機体は初期動作を始めてしまう。だからフレイはウィンダムが何時もより速く動いていると感じてしまったのだ。
 だが、考えてみればこれは予想外ではあっても、不思議な現象という訳ではない。脳波を電気信号に変えてフライヤーやミサイル、ガンバレルを操作するためのシステムなのだ。MSの操縦もコンソールからの電気信号であり、スティックやペダル、スイッチ操作が脳波に変わっただけなのだから。
 これを聞かされたフレイは納得し、マードックのシステムを切り離すかという問いに首を横に振っていた。

「まあ、理由さえ分かれば何とかなりますよ。使ってればそのうち慣れると思うし」
「そうなら良いけどよ、無理はすんなよ」

 使い慣れない装備で死んだら洒落にもならねえぞと言って、マードックは軽く飛んだフレイの足を後ろから押してウィンダムの方に送ってやった。そして周囲の部下たちに発進準備を命じ、クライシスからカタパルトへと移動させていく。




 アークエンジェルを飛び立った6機は、そこでザフトの大部隊に出迎えられる事になった。パッと見ただけで40機はいるだろう大軍にはさすがのキラやシンも言葉を無くし、トールも引き攣った声で空元気をだしている。

「こ、こいつは、盛大な歓迎だよな、キラ」
「ちょっとこれは、僕たち過大評価されすぎだよね?」

 確かにそれなりに強いという自信はあるが、いきなり40機もぶつけてくるか? と文句を言いたい気分だ。フレイなどは完全に声をなくしてビビッている。何しろ敵の中にはフリーダムやジャスティスまで居るのだから。
 その時、キラは視界の隅で閃光が輝くのを見て何事かと其方を見ると、見たことも無い大型戦艦が2隻でザフト艦隊を砲撃しているのが見えた。砲撃しているのはその2隻だけで、周囲の護衛艦はもっぱら対空砲火に徹している。その射程は凄まじく長く、常識はずれな距離からザフト艦隊に正確な砲撃を行っていた。その発射されるビームの光に見覚えが有ると感じたキラは少し考えて、自分が使っている粒子砲と同じだと気付く。あれもこれと同じ粒子ビームなのだろうか。
 そこまで考えたところで、双方のMSが接触した。シンのヴァンガードが飛んでくるビームを蹴散らしながらゲイツを串刺しにし、周囲のMSが慌てて散っていく。それを狙ってクライシスとフレイのウィンダムから放たれたミサイルが襲い掛かり、数機のジンやシグーを落としたところで乱戦になってしまう。
 キラもデルタフリーダムを加速させて敵から距離をとろうとするが、周囲の敵の数は多すぎた。今も正面から旋回しながら4機のジンやゲイツが向かってきており、キラはそれに粒子砲を向けて発射した。強力なビームがジンに襲い掛かり、1機が直撃を受けて粉々に砕かれてしまう。それを見た3機は怯む事無く向かってきたが、キラは機体を急降下させてこれを振り切った。
 そして一度周囲を確かめると、ウィンダムとマローダーが背中をカバーしあうように展開して頑張っているのが見える。少しはなれた所では3機のフライヤーを自在に動かして5機のジンやゲイツを翻弄しているウィンダムもいる。ヴァンガードはその防御性能に物を言わせてビームも機銃弾も蹴散らしながら進み、1機、また1機と串刺しにしている。
 そして特に凄まじかったのがクライシスだ。実に10機以上のジンやゲイツに囲まれているのに、クライシスは俊敏な動きで敵機の間を駆け抜け、射弾に空を切らせている。そして時折相手の隙を見つけて反撃の砲火を叩き込み、敵を撃ち減らしている。相変わらず化け物じみた強さだとキラが感心していると、今度は2機のゲイツRが襲い掛かってきた。

「必死だな、ザフトも」

 これがビクトリアを脱出した部隊の回収船団だという事は分かっている。ザフトは脱出してきた兵力をなんとしてもプラントに連れ帰ろうとしているのだ。
 相手の動きを素早く見切ったキラはフリーダムを左に向け、同時に左右に散ったゲイツRの片方にプラズマ砲を連射する。狙われたゲイツRは動きを読まれた事に慌てたのか、地球方向に急降下しようとしたが間に合わず、背部に直撃を受けて大きく姿勢を崩した。なまじ急降下に入ろうとしたのが悪かったのか、重力に捕まった機体を立て直す事も出来ずそのまま地球に落ちていってしまう。
 そしてもう1機を狙おうとしたキラの前に、フリーダムを伴ったジャスティスが姿を現した。それはなぜかビームライフルを構えるでもなく、じっとこちらを見ている。そのジャスティスを正面に見据えたキラは、それが誰の機体であるのか、なんとなく察してしまった。だからキラは、自然と通信回線を開いてしまった。

「アスラン、だね?」
「……決着をつけに来たぞ、キラ」
「ああ、僕も同じ考えさ。ここでケリをつけよう!」

 両肩のプラズマ砲を向け、同時に発射するキラ。それを素早く回避したアスランはビームライフルを3度放ち、フリーダムの側面に回りこもうとする。

「センカは手を出さないでくれ。こいつは俺とあいつの勝負なんだ!」
「はいはい、了解。男の意地って訳ね」

 アスランのしっかりと言い含められていたのか、センカのフリーダムは手を出そうとはせず、距離をとって邪魔が入らないようにサポートしている。それを確かめたアスランは感謝するといって、ライフルを捨ててビームブーメランを取った。

「時間をかけるつもりは無い、一気に決めさせてもらう!」
「出来るならね!」

 投擲されたビームブーメランがフリーダムに向かってくる。それを見たキラはアスランのジャスティスがオーブの時のように距離を詰めてくるのを見て、同じ手かと呟いてジャスティスに粒子砲を向けた。ビームブーメランなど今は恐れる必要が無い。
 放たれた粒子ビームがジャスティスに向かっていき、それを見たアスランが慌ててシールドを構えながら回避運動を行ったが、アスランは初めて相手をするこの砲を甘く見ていた。直撃こそどうにか避けたものの、拡散する粒子を受けて機体に衝撃が走り、PS装甲を持つジャスティスの内部機構にダメージが出る。さらに機体を庇ったシールドの表面はぶつかった高速粒子によって融解しており、赤熱していた。もう使えないと判断したアスランはシールドを捨てると、大きく横移動を行って狙われないようにした。

「何だあの砲は。MSにあんな威力の武器を装備させられるのか!?」

 いや、威力だけではない。キラの狙いも正確になっているのだ。そもそも機体の動きが前に見たときより断然に良い。それまでは多かった無駄な動きが大幅に減っており、素早く機体を動かしている。それはキラの技量が大幅に向上している事を示していた。そう、キラはこれまでに欠けていた基礎部分をこの短期間で身につけてきたのだ。
 相変わらず化け物じみた奴だと思いつつ、アスランは機体に微妙な回避運動をとらせながらフリーダムとの距離を詰めにかかった。そして先ほど投げたブーメランがフリーダムに襲い掛かったとき、アスランは信じられないものを見た。フリーダムの左腕に付いている妙に小さなシールドのようなユニットからいきなり光の幕のような物が生まれ、飛んできたブーメランはこれに触れてスパークを起こし、消滅してしまったのだ。そしてアスランは、これと似た物をずっと前に見たことがあった。そう、アルテミス要塞で。

「まさか、光波防御帯だというのか!?」

 地球軍があれをMSに装備できるようにしているという話は聞いていたが、まさかフリーダムに装備してくるとは。これでは攻防の性能であのフリーダムは此方のジャスティスを完全に超えている事になる。そこにキラの腕が入れば、もはや手に負えるような相手ではあるまい。
 だがアスランは諦めなかった。スピードで翻弄し、懐に入って格闘戦に持ち込めば勝機は有ると考えたのだ。シールドを無くした左腕にもビームサーベルを持ち、一気に距離を詰めるアスラン。それに対してキラも粒子砲を向けようとしたが、アスランは急激な針路変更をかけて一気に機体を上方に向け、キラが慌ててプラズマ砲を連射する。だがそれはジャスティスの影を撃つに留まり、ジャスティスはさらに距離を詰めてきた。

「貴様に、これ以上同胞を討たせはしない!」
「アスラン!」

 距離を詰めたジャスティスが振るったビームサーベルをフリーダムが光波シールドで受け止め、プラズマが周囲に散る。それは周囲のMSが動きを止めて魅入ってしまうほどの、凄まじい力と力の激突であった。




 キラの傍ではアスランに続いていた特務隊を含むMS隊とアークエンジェルから出てきたMS隊が激突していた。フレイのウィンダムはセンカの駆るフリーダムと激突し、トールとスティングはジャックとエルフィ、シホのゲイツRを相手に戦っている。フリーダムの弾幕を掻い潜って距離を詰めたウィンダムとフライヤーがフリーダムを砲撃するが、フリーダムのPS装甲はリニアガンとガウスライフルの立て続けの直撃によく耐え、貫通させなかった。
 これを見たフレイは舌打ちしながらも体勢を立て直し、距離をとった。フリーダムは砲撃戦用だが、接近戦でもウィンダムでは不利を強いられる。

「ああもう、こういうのはキラかシンか父さんの担当でしょ、キラは分かるけど、父さんとシンは何処に行ったのよ!?」

 何が楽しくて自分がフリーダムの相手なんかしなくちゃいけないのだと文句を言っているフレイであったが、アルフレットとシンは敵の大部隊を相手に暴れまわっていたので、此方も援護にこれる状況ではなかったりする。ザフトのアークエンジェルに対する過大評価は中々に凄かったのだ。
 そして再度がガウスライフルを向けようとしたフレイの耳に、トールの援護を求める声が飛び込んできた。

「誰か、こいつらの連携を崩してくれ!」
「トール、どうしたの!?」

 慌てて状況を確認すれば、トールとスティングが3機のゲイツRに追い込まれている。ゲイツRは完全に役割を分担しているようで、1機が大口径の大砲を使って砲撃を行い、他の2機がその支援の下に接近戦を仕掛けるというフォーメーションを使っている。
 支援をしているのはシホのゲイツRだった。まるでアグニのような大口径ビーム砲を装備している。これは本来はフリーダム用の砲なのだが、オプションをつけてゲイツRでも使えるようにした物だ。
 その砲撃はかなり正確であり、ウィンダムとマローダーが必死に回避運動をしている。そしてその隙を突くようにして距離を詰めてきたジャックとエルフィがビームライフルとレールガンを放ってくる。 

「エルフィ、俺が格闘戦を仕掛ける。お前は緑色の方を押さえてくれ!」
「良いけど、大丈夫。アレ結構強いよ?」
「任せとけ、俺だって何時までも新人じゃないんだぜ!」

 心配するエルフィにカッコ付けて答えて、ジャックはビームサーベルを抜いてウィンダムへと挑んでいく。それを見送ったエルフィは少しだけ苦笑してジャックの意地の張り方を褒めていた。

「シホが見てるからってカッコ付けて無理しちゃって。でもそういう所は可愛いのかな」

 ああやって何時も無理して格好付けて失敗してるのに、懲りないなあと思いつつも、それがあいつの良いところだと思うエルフィであった。




 艦隊戦はいよいよ佳境を迎えようとしていた。ザフト艦隊が前に出て極東連合艦隊と距離を詰めて砲撃戦を行おうとしているのだが、相変わらず極東連合の艦隊は距離を一定に保ってヤマト級2隻の砲撃を続けている。その威力は絶大で、今も直撃を受けたローラシア級が構造物を吹き飛ばされて砲塔やカタパルトといった突起物を軒並み失い、赤熱化した船体が一瞬炎を吹き上げたかと思ったらそのまま装甲が剥離し、閃光を上げて四散してしまっている。ヤマト級は24門の砲の照準を一隻に集中させて集束砲のようにしているらしく、直撃を受けた艦艇はまるでビームに飲み込まれているかのように見える。
 極東連合は対艦戦闘を完全にヤマト級に任せているようだが、これだけの火力があるならそれも頷けるとクルーゼは思っていた。

「凄まじい威力だな、一撃でローラシア級を沈めるのか」
「クルーゼ、このままでは此方が持ちません。MS隊も敵のオリオンの守りを抜けられないようで、苦戦しています」
「どうやら護衛艦隊とMSはあのヤマト級2隻の防空の為だけにいるようだな。変わった戦術だが、有効なようだ」

 クルーゼは敵の撃破を諦め、アンチビーム爆雷による防御に切り替えた。既に近くにつきから出撃してきた第8艦隊が迫っている事も分かっており、これ以上すり減らされるのも不味いからだ。
 直ちにアンチビーム爆雷による分厚い金属粒子の層が作られ、ここに飛び込んだ粒子ビームがたちまち減衰して消えてしまう。流石の粒子ビーム砲もこれだけは簡単には抜けられないようだ。
 


 そしてクルーゼが艦隊を退いた頃になって、ようやくハルバートンの第8艦隊を中心とする艦隊が到着した。途中で幾つかの艦隊が合流したようで、総数は80隻に達している大艦隊だ。40機前後のMSの悌団が4つほど艦隊の上下に展開しており、MS戦力でも圧倒的なものを感じさせる。さらにその中には1隻のアークエンジェル級戦艦までが含まれていた。
 この艦隊を見たザフトの将兵は息を呑み、そして恐怖に震えた。自分たちはあれと戦わなくてはいけないのだという事がゆっくりと理解できてきたのだ。その布陣の隙の無さにクルーゼが舌打ちしている。

「ちっ、流石にハルバートンだな、隙が無い」
「どうします?」
「カリオペを静止軌道まで降下させる。弾道ミサイルを準備させて置け。それまでは艦隊とMSでなんとしても時間を稼ぐ、私はここを動け無いから、頼むぞアンテラ」

 クルーゼに頼むといわれたアンテラは一瞬迷うような素振りを見せた物の、すぐに敬礼を残してMS格納庫へと向かって行った。それを見たロナルドは大丈夫かとクルーゼに聞いた。彼女は自分たちの計画に疑問を感じているのではないのかと。
 この問いに対してクルーゼはそれをはっきりと肯定した。アンテラは自分たちの復讐に全面的に賛成している訳ではないと。

「あれは優しすぎる女だ。出自とこれまでの人生があれを復讐に駆り立ててはいるが、本質は私などとはまるで違う」
「では、何処かで裏切るのでは?」
「その可能性もあるが、私は気にしてはいない。もしあれが裏切って計画が露見するようなら、私の運もその程度だという事だ」
「……まるで、ギャンブルですな。人生をかけたこの計画をカードのチップとお考えですか?」
「チップか、そうだな、その表現が一番正しいだろうな。だから楽しいのだよ」

 自分の人生と人類の命運をかけた壮大なギャンブルという訳だ。自分が勝てば地球は滅びる。もし負ければ自分が滅びる。それだけのことであるが、そのスケールがクルーゼを酔わせていた。





 キラとアスランの戦いは距離を詰めたアスランが少しずつ優位を確保していた。幾ら改良されたとはいってもフリーダムは砲戦型であり、接近戦型であるジャスティスとは本質的に違う機体なのだ。キラが腕を上げ、アスランとの差を詰めたとは言ってもそれは機体の特性を埋めるほどではない。キラの力はアスランを超えているかもしれないが、フリーダムではジャスティスには勝てないのだ。
 2本のビームサーベルを繋いだツインサーベルで断続的な攻撃を加え続けるジャスティス。それに対してデルタフリーダムは光波シールドで防ぎ、プラズマ砲で時折反撃しているのだが、粒子砲を扱う為に強化された機体はジャスティスほど速くは動けない。そして切り札である粒子砲は接近戦では中々撃つ事が出来なかった。

「くっ、やるなアスラン!」
「お前こそ、フリーダムでよく頑張るじゃないか。イザークやハイネならとっくに落ちているぞ!」
「僕も驚いてるよ。オーブの時は君に圧倒されたのに、今じゃ付いていけるんだからね!」

 押されてはいるが、キラはあの時のようにアスランに圧倒されはしなかった。無駄な動きが大分排除された分アスランの動きに付いていけるし、アスランの繰り出す攻撃にも対応し切れている。アルフレットのイジメの様な特訓は確かに苦しかったが、それは確かにキラの技量を引き上げていたのだ。そう、アスランほどではなくとも、エースと呼びうる確かな実力へと。
 だが、遂にその均衡が崩れた。振り上げられたツインサーベルがキラがシールドで止めようとした時、アスランはサーベルを分離させたのだ。勢いのままに片方がシールドに接触し、過負荷で爆発してしまう。その瞬間だけ生まれた隙を見逃さずジャスティスの右腕が一閃し、粒子砲を持つ右腕を肘から切り落としてしまった。その一撃でバランスを崩したフリーダムであったが、それでもキラは追撃を防いで距離をとって見せた。機体に被害が出た後でも最適な動作を行える辺りは成長の証だろう。

 横薙ぎしたビームサーベルが空振りしたのを見たアスランは舌打ちして追撃をかけようとしたが、その時アスランは気付いた。自分の周囲を3基の見慣れぬMAが囲んでいることに。

「なっ、これは!?」

 咄嗟に機体を引こうとしたが、間に合わずにリニアガンが機体を撃ち据える。その衝撃にアスランは顔を顰めたが、咄嗟に振るったビームサーベルの一撃でそのうちの1基を破壊していた。

「今のはガンバレルのようだったが、ドラグーンと同じ物を地球軍も作っていたのか」

 考えてみればこの手の兵器は元々地球軍のが先を行っていたのだ。敵が同様の兵器を投入してきても不思議でもなんでもないだろう。そしてアスランの前に姿を現したのは、オーブでも自分の邪魔をしてきたフレイが使っていたMSだった。そしてそれが機敏な動きで回避運動を交えつつ自分に正確に銃弾を叩き込んできたのを見て、アスランはそれが誰の機体かを察した。キラと同様、これまで幾度か刃を交えた相手の動きだったからだ。

「アスラン、キラは殺らせはしないわよ!」
「フレイ、また君か。毎度の事ながら、フォローが速いな!」
「アスランこそ、パワーアップしたキラとフリーダム相手に勝てるなんてね!」
「機体特性を考えろ、フリーダムではジャスティスには相性が悪すぎるんだ。俺に勝ちたければ機体を替えろとキラに言ってやれ!」
「残念だけど、キラはラクスへの義理があるって言って、アレから降りないのよ。アスランも分かるでしょ」
「ああ、これでも幼馴染だからな」

 キラとは違い、決して距離を詰めようとはしないフレイ。キラは前に出るという困った性格が問題になっているが、フレイはそういう悪癖は無く、距離を保ちながらガウスライフルでの銃撃に徹している。それでもジャスティスの性能を考えればウィンダムを追い込むことは十分可能なのだが、フレイは残っている2基のフライヤーを使って牽制を加え、ジャスティスの動きを邪魔していた。
 さらにアスランを戸惑わせている要素がある。それはウィンダムの異常なまでの反応速度だ。確かにフレイはナチュラルとしては規格外なレベルの反応速度を見せる、並のコーディネイターパイロットを凌ぐレベルだ。だが、それはアスランからすれば良い反応だ、と褒めてやれるレベルでしかない。
 しかし今目の前で動いているウィンダムの動きはアスランから見ても速いと感じるレベルだ。とてもではないがナチュラルが出せる反応速度ではない、コーディネイターでも上位に居る自分と同等、いや、もしかしたら自分以上に。

「だが、前はこんなに速くなかった。パイロットじゃなく、機体の改良か?」

 ありえない話ではない。ナチュラルが能力的にコーディネイターに及ばないのなら、機械でその差を埋めようとするのはむしろ当然だろう。情報ではコーディネイターに対抗する為に強化改造を施されたナチュラルも存在するという話だ。
 しかし、だとすればそれはザフトにとって更なる脅威が生まれたという事だ。もし反応速度の差を埋めるシステムが登場したのなら、それはザフトの敗北を意味する。パイロットの能力差を埋められたら、数の差を埋める手段がなくなるからだ。
 でも、それだけだ。確かに初動は速いが、ナチュラルの身体では無茶な動きは出来ない。アスランは2基のフライヤーのリニアガンとウィンダムのガウスライフルの砲撃を急激な連続回避運動によって回避しきり、反撃のビームキャノンで逆にフライヤー1基を撃ち落して見せる。そのフィードバックノイズを受けてフレイは顔を顰めた。

「だが、それだけでは俺には勝てないぞ、フレイ!」
「生憎と私はアスランに勝てると思うほど自惚れてるつもりは無いわ。私は、貴方の相手をする子が来るまでの時間稼ぎよ!」

 2基のフライヤーと反応速度を増したウィンダム、それは強力な力だが、これで自分とアスランの差を埋められると思うほどフレイは自分の力量を知らないわけではない。アスランに勝てそうなのは仲間の中でも3人、キラとアルフレット、そしてヴァンガードを駆る彼だけなのだ。

「後は頼むわよ、シン!」
「了解しました!」

 フレイと入れ替わるようにスラスターを全開にしたヴァンガードが突撃してくる。構えた突撃槍がジャスティスを掠めて僅かに装甲を切り裂くが、それを回避したアスランの繰り出したビームサーベルの一撃は偏向シールドに止められ、反発のプラズマを撒き散らす。

「こいつは、ラバウルで出てきた新型か!」
「俺はシン・アスカだ!」
「な、何だ、威勢の良い奴だな?」

 まるでイザークのように威勢の良いパイロットの声にアスランは一瞬気を抜かれてしまった。だが気が抜けたのもそこまでで、次の瞬間には高周波ブレードとビームサーベルが切り結ぶ接近戦へと移行していた。この勝負にアスランはキラとの戦い以上の緊張と焦りを見せている。フリーダムに対してジャスティスが有利であるように、このヴァンガードはジャスティスに対して有利なMSなのだ。それはラバウル戦でアスランが直に味合わされている。
 ヴァンガードに対して有効打を与え辛いジャスティスでもって、アスランはどうやって戦うべきか悩みながら必死にあの槍を捌く事になる。いずれ槍の対ビームコーティングが限界に達するだろうが、それまでにジャスティスが致命傷を負う可能性の方が高いのだからアスランの焦りは深刻だった。



 アスランの相手をシンに任せたフレイは中破したフリーダムを守るようにしてアークエンジェルに戻ろうとした。片腕を無くし、粒子砲も失ったフリーダムではこれ以上の戦闘は危険すぎる。一度戻って修理を受けるしかないと考えたフレイは動こうとしないフリーダムを不審に思って掴み、声をかけた。

「キラ、どうしたの。操縦系をやられたの?」

 見た所動けないようなダメージではない筈なのだが、操縦系統にダメージがあるのだろうか。それともパイロットが負傷したのだろうか。ありえない事ではないと思い、フレイは少し心配して声をかけたが、接触回線で聞こえてきたキラの声は返事ではなく、嗚咽であった。

「……キラ?」
「負けた……また負けたよ、僕……」
「……そうね」

 オーブ戦の時もアスランに負けたことをアレほど悔しがっていたキラだ。アスランに勝ちたい一心でアルフレットの特訓に耐え、デルタフリーダムという新型まで手にしたのだ。確かにキラは強くなり、整備状態万全のジャスティスを駆るアスランに対して前回以上に戦って見せた。だが、それでもキラはアスランに勝てなかった。あるいはフリーダムではなくクライシスに乗ればまた違ったかもしれないが、フリーダムに乗るキラではジャスティスを駆るアスランには勝てなかったのだ。
 コクピットの中で悔し泣きをしているキラの事を考えて、フレイは回線を切ってフリーダムを引っ張ってアークエンジェルに向かう事にした。こういう時は泣かせてやる方が良いと、フレイも経験から学んでいたのだ。だが、どうして男はこうも決着を付けることに拘るのだろうか。

「貴方も、アスランも馬鹿よ。何でこんなになってまで何時も何時も……」

 女には分からない男の意地とでも言うのだろうか。そんな物のためにこんなになるまで戦う必要があるとは思えないのだが、それを聞いてみた相手はそれぞれの反応でキラの肩を持っていた。その時はそういうものかと思っていたが、やはり目の前でやられるとやっぱり馬鹿だと思ってしまうフレイであった。





 もはや大勢は決した。ザフトはハルバートン率いる主力艦隊の圧力に屈するように退き、地球軌道に追いやられていく。脱出してきた将兵を拾う為の船団も同様であり、戦闘の流れ弾を食らって撃沈する艦、被弾して推力を失い、大気圏に落ちて赤熱化していく艦が続出している。所詮は輸送艦であり、装甲を持たないので1発貰うと脆いのだ。
 この流れをどうにかしようとディアッカがレイとルナを伴って他のMS隊と共に主力艦隊に攻撃を仕掛けていたのだが、数倍するストライクダガーとファントムの群れに迎撃されて艦隊に取り付けないでいた。
 ザクウォーリアを駆るディアッカたちは強く、ストライクダガー主体の地球軍MS隊に多大な犠牲をしていたのだが、その彼らも地球軍のエリート部隊であるガンバレルダガー隊とぶつかって完全に押さえ込まれていた。1機辺り4基のガンバレルを使ったオールレンジ攻撃を仕掛けてくるガンバレルダガーの戦闘力はパイロットの腕も加わって凄まじいものであり、流石のディアッカたちも動きを止められてしまったのだ。

「こいつら、あの変なメビウスと同じ武器つけてやがる。四方八方から弾が!」
「ディアッカさん、こんなの反則ですよ!」
「落ち着けルナ、動きをよく見るんだ。あれはドラグーンほど自由には動けない」

 初めて相手をするガンバレルにパニックを起こしているルナマリアにアドバイスをしたレイがガンバレルの機動を見切り、ビーム突撃銃でこれを幾つか撃ち落してしまう。彼の持つ空間認識能力がガンバレルの位置を知るのに一役買っているのだ。しかまあ、これと同じ芸当をルナマリアにやれというのは無理という物だろう。
 しかしそのレイもその後からやってきたストライクダガーの大軍にはどうする事も出来なかった。1機で10機、20機を相手取る事が出来るのは超高級機に乗った一部の特別のパイロットだけなのだから。
 そしてその数少ない例が戦場に現れていた。カリオペから出撃してきた新手のジャスティスが迫るストライクダガーの一団をあっという間に殲滅してしまい、戦場のバランスを崩してしまったのだ。

「周辺の各機、動けるものは続きなさい。これより敵艦隊に攻撃を仕掛け、足を止めます。ザフトの意地を見せる時ですよ!」

 アンテラ・ハーヴェイが出てきたのだ。グリアノスと並ぶザフトでも最高峰にいるとされるパイロットの登場は周囲のパイロットたちの士気を確かに高め、アンテラに続くようにして前に出だした。ダガー隊はこのジャスティスを止めようと攻撃を集中したのだが、アンテラのジャスティスは他のジャスティスとは格1つ違う動きのキレを見せつけ、ダガー隊の放つビームの間を縫うように進み続けた。攻撃を平然と回避して進むジャスティスにダガー隊が動揺しているのがはっきりと分かる。
 これに続いていたディアッカたちも動きが鈍ったダガーを仕留めつつ進んでいたが、アンテラの強さには呆れてしまっていた。

「グリアノス隊長は知ってるけど、あの人も凄いぜ。どうやって動かしてんだ?」
「自信なくしちゃいそう……」
「アンテラさんはクルーゼ隊長以上の腕を持つ人です。我々とでは格が違いますよ」
「レイ、あんたオーブでもあの人と仲良さそうだったけど、どういう関係なわけ?」
「あの人は俺の姉のような人だ。小さい頃一緒に居た事があってな」

 そんな事を話しているうちにMS隊を突破し、目の前に弾幕を張る駆逐艦が姿を現す。それを3機が囲むように動いて3方から銃撃を加え、これを瞬く間に撃沈してしまう。そして素早く次の目標を探そうとするが、そこに新手のファントムが襲い掛かってくる。敵の数は半端な物ではなかった。



 この主力艦隊に敵が取り付いたのをみて援護に向かえる位置にいた部隊はあるのだが、それもザフト部隊の足止めを受けていたのだ。いや、部隊ではなく、たった1機のMSに。
 そこに居たのはアルフレットのクライシスと、彼に合流したダガー隊だったのだが、アルフレットのクライシスを押さえ込むようなゲイツRがここに居たのだ。アルフレットはこの自分を苦戦させるゲイツRの強さに感心していたが、同時に沈んでいく友軍の艦艇を見て焦っていた。早く行かないと、艦隊が大損害を受けてしまう。

「だが、こいつが強すぎるぜ。世の中ってのは広いもんだな」

 自分以上の化け物がキラ以外にも居たのだ、という事にアルフレットは少しだけ安堵していたりする。自分も化け物呼ばわりされた事が幾度かあるが、世の中にはもっと強い奴が居るではないかと。
 そしてゲイツRを駆る男、ユーレクもアルフレットとは違う方向で感心していた。自分と真っ向から戦えるようなナチュラルがこの世に居たという事に彼は驚きを隠せなかったのだ。

「ナチュラルの可能性とは恐ろしい物だな、考えうる限りの戦う力を与えられた筈の私に迫るほどの力を自然と得てしまうとは。あるいはコーディネイターという脅威がナチュラルの進化を促したのか?」

 振るわれた対艦刀をシールドを使って受け止める事無くそのまま表面を滑らせて流し、対艦刀の力を上手く逃がす。それをされたアルフレットは驚愕して後退していたが、やったユーレクも冷や汗を流していた。彼も余裕があるわけではないのだ。
 生物は天敵や環境に対応して進化していく。地球という環境で頂点になった人類にとって、コーディネイターは久しぶりに現れた天敵といえる存在なのだ。その天敵を前にした人類は、これに対抗できるだけの力を手にしようとしているのだろうか。
 そんな事を考えて、ユーレクは何だかおかしくなってしまった。人類の脅威とは誰だ、最高のコーディネイターか、それとも最高のコーディネイターを殺す為に作られた自分か、それとも、カリオペに乗っているあの男か。


 そして、そのカリオペから周辺宙域全てに全域周波数で通信が送られた。クルーゼの肉声で語られたその通信内容は、その宙域にいる全ての者を驚愕させたのである。

「地球連合軍に勧告する。私は当部隊指揮官ラウ・ル・クルーゼ、これ以上の攻撃を行うのならば、我々は地球に対してBC兵器による軌道爆撃を実施する」

 それは、戦場の動きを凍りつかせる宣告であった。




機体解説

ヤマト級戦艦

兵装 粒子ビーム砲×24
   対空レーザー銃座×48
   艦載機24機

<解説>
 極東連合が建造した火星開拓を前提とした艦艇。その為とんでもない巡航性能を有している。1番艦は戦前に大体完成していたのだが、参戦しなかったのでドック内に係留されていた。
 全身をPS装甲で包み、強力な粒子ビーム砲を主兵装とし、偏向磁場で射線を変えるという従来艦とは全く違う艦艇であり、高度な索敵、照準システムによって長大な有効射程を実現した。主砲は6基ずつが船体左右上下に埋め込まれており、普段は砲口がカバーで閉じられている。この砲は対空砲としても使用可能で、エネルギーチャージ時間を短縮して速射する事が出来る。MSなどの運用能力は後に追加された物で、建造時はメビウスなどを積んでいた。
 本艦の技術は大西洋連邦との技術交換で流出しており、フォビドゥン系のゲシュマイディッヒ・パンツァーやデルタフリーダムの粒子砲はこの艦の技術が元になっている。




後書き

ジム改 ヤマト級登場。
カガリ 卑怯なくらい強いんだが?
ジム改 ヤマト級の強みはアウトレンジ戦法という戦術を実現させた点にある。
カガリ アウトレンジ戦法?
ジム改 ようするに敵の攻撃範囲外から一方的に叩くという戦術だ。ヤマト級はザフト艦の射程外から一方的に撃てるうえ、大半の艦艇を一撃で沈める攻撃力もある。
カガリ 流石にローエングリンには勝てないだろ。
ジム改 あれは反則だろうが。
カガリ んで、それを守る為にオリオンが有ると。
ジム改 オリオンはぶっちゃけF−15Cだから、対MS戦しか考慮して無い。敵艦はヤマトが沈める。
カガリ 極東連合は対艦巨砲主義だったのか。
ジム改 宇宙という戦場でビームという武器があるなら的外れな考えでも無いんだけどね。
カガリ ところで、キラがまた負けたんだが?
ジム改 うむ、負けたぞ。デルタフリーダムで接近戦は駄目だとあれほど言ったのに。
カガリ お前、これが最後の勝負とか言ってなかったか?
ジム改 気にするな、アスランも一応主人公の1人だし。
カガリ キラ、哀れな奴。
ジム改 それでは次回、クルーゼの脅しに屈する地球軍。それは地球連合の姿勢を融和路線から強硬路線へと変える事になる。息を吹き返した強硬派に各国は対応に苦慮し、プラント討つべしの怒号が世界に広まっていく。その騒動の中で、カガリはエドワードから重要な話を聞かされる。それを聞いたカガリは。次回「激流の中で」でお会いしましょう。

カガリ ところで、結局フレイのウィンダムの変な動きは何なんだ?
ジム改 ああ、サイコミュ積んだせいだ。

 

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