第16章  最前線の街・前編

 

 ブカレストにやってきたアークエンジェルは、そこでようやく味方基地に降りる事が出来た。だが、アークエンジェルほどの巨艦を収容できる陸上艦のドックはここには無く、整備と修理はドックの外で行なわれている。ブカレストの街はここから2kmほど離れており、車を使えば簡単に行くことが出来る。幸い、まだここは敵の攻撃圏内ではないので、安全が確保されている。この基地には強力な守備隊も駐屯しているので安心感が強い。だが、ここも間違いなく最前線なのだ。
 基地に下りたアークエンジェルクルーには休暇が出されていた。これまでの激戦を考えれば当然とも言える。望む者は街に出る事も許されていた。だが、流石に最前線の街に行こうとする者はおらず、僅かに買い出しを頼まれたフレイと、その護衛でキラが街に向ったに留まった。基地の兵士がジープの運転手として街への送り迎えをしてくれる事になった。
 ジープで街に向う2人を見送るサイに、トールが話し掛けた。

「いいのか、サイ?」
「・・・・・・任せるしかないだろ、あいつにさ」

 サイの声には未だに吹っ切れない辛さと、無力感が滲み出ている。トールはサイを責める気持ちにはなれなかった。誰だってあんな一方的な別れを告げられれば怒るだろうし、納得できないのも当然だ。フレイにした仕打ちを許す気にはトールもなれない。だが、サイが怒らないのなら、自分が怒ることも出来ないのだ。
 基地施設に向って歩いて行くサイの後姿を見送りながら、トールは持って行き様の無い苛立ちを足もとのコンクリートを蹴り付ける事でぶつけた。

「くそっ、なんでこんな事になっちまったんだよ。フレイ、お前は何を考えてるんだ?」

 


 ブカレスト基地司令のクライスラー少将の元に顔を出したマリュ−とフラガは、いかにも野戦将校上がりという印象を受ける司令官を前に緊張していた。その両眼は鋭い。

「君が、アークエンジェルの艦長かね?」
「はっ、マリュ−・ラミアス少佐であります」

 敬礼するマリュ−を、クライスラーは詰まらなそうに見た後、今度はフラガを見た。

「有名なエンディミオンの鷹、か。君に会えたのは嬉しいよ」
「光栄であります、少将」

 フラガはクライスラーが何か面倒ごとを持ち込もうとしていると察した。恐らく、キースの読みが当たっているのだろう。
 フラガの予測通り、クライスラーは目前に迫った反攻作戦、カスタフ作戦への参加を要請してきた。これはヨーロパ方面軍の一大反攻作戦であり、敵をオーストリア辺りまで押し返すという内容である。幸いにして敵のギリシア方面軍はアークエンジェルのおかげで弱体化が著しく、こちらから相当数の兵力を転用することが可能になった。

「かなりの激戦となるだろう。犠牲も大きいだろうが、ここで敵を押し返せなければ、我々はヨーロッパから追い出される事にもなりかねない。それは避けたいのだ」
「ですが、我々は一刻も早くアラスカに向わなくてはならないのです」
「それは分かっている。だが、そこを曲げて頼んでいるのだ。君たちが参加してくれれば勝率はかなり上がる。味方の犠牲もそれだけ減らす事が出来るのだ」

 クライスラーの頼みにマリュ−は困った顔になった。マリュ−にしてみれば友軍を助けるのは吝かではない。だが、その為にアークエンジェルを危険に晒すのもどうかと思うのだ。

「返事は、今すぐでないと駄目でしょうか?」
「いや、作戦開始までまだ1週間ある。それまでに決めてくれれば良い。勿論修理と補給は滞りなく行う」
「・・・・・・分かりました」

 マリュ−とフラガは敬礼して司令官室を出て、少し歩いた所でマリュ−がフラガに話し掛けた。

「どう思いますか、先ほどの話?」
「交換条件って事だろうな。補給と修理をしてやるから作戦に参加しろって」
「やはり、参加しないと不味いのでしょうか?」

 マリュ−の問い掛けにフラガは考えこんだ。一応は要請という形だが、いざとなれば強制する事も出来るだろう。あの司令官がどういう人かによるが、果たして断りきれるだろうか。

「・・・・・・やるしかないかもしれんな」
「やはり、そうでしょうか」

 ヨーロッパ方面軍の大作戦ともなると、また延々と続く戦いをする事になる。味方がいるだけまだマシだが、またクルーに大きな負担を強いるのかと思うと、マリュ−の気持ちは重くなってしまう。

 


 街に向うキラとフレイの乗るジープの運転手はバクシィと言う青年だった。まだ20だと言う。誠実そうな男だった。

「この辺りも最近は戦闘が激しくてね。ザフトのMSや爆撃機が来る事も多いんだ」
「じゃあ、あの街も攻撃を?」
「ああ、たまに空襲を受けてるね」

 キラは不思議に思った。空襲されると分かっている街に、どうして住んでいるのだろう。危険なのだから逃げれば良いのに、なんで今も住んでいるのだろう。その事をバクシィに聞くと、バクシィは当然だろと言いたげに答えた。

「あの街で生まれ育った人達なんだ。故郷をそう簡単に捨てられるもんじゃないさ」
「・・・・・・よく分かりません、そういうの」

 キラにはどうしても理解できない。砂漠で会ったサイーブ達も同じようなことを言っていたが、何故そうも土地に固執するのだろうか。この拘りがナチュラルとコーディネイターの差なのだろうか。
 キラの隣に座るフレイは終始無言だった。昨日の戦闘以後、フレイはキラの前で辛そうな顔をするようになっている。理由は分からないが、今のフレイにはキラの傍にいるのが苦痛なのかもしれない。
 キラはフレイの憂い顔を横目に見て気分が重くなるのを誤魔化す様にバクシィに問い掛けた。

「バクシィさんは、どうして軍に?」
「俺か。俺はな、家の食い扶持を減らす為さ」
「食い扶持って?」
「俺は5人兄弟の三男だったのさ。まあ、貧乏だったし、早く家を出て仕事に付かなくちゃいけなかった訳だ。軍なら食うに困る事は無いし、家に仕送りも出来るからな」
「そうなんですか」

 戦う理由も人それぞれなのだ。自分のように友達を守る為と言う者もいれば、バクシィのように家族の為に、生きていく為に軍に入る者もいる。キラは艦の他のクルー達の動機も聞いてみたい気がした。
 街に到着すると、キラとフレイは車から降りてデパートへと足を向けた。バクシィは車を近くの駐車場に止めておくと言って車を走らせて行ってしまう。2人は何処か余所余所しい空気を漂わせながらデパートの中へと入っていった。その中でクルーに頼まれた物を購入しながら歩いて行く。軍服を着ているが、年頃の少年少女が並んで歩いているのだ。端から見れば恋人同士とでも思うのだろうが、2人の間に漂う空気がそれを否定しているように見える。
 買い物袋を手に歩いているフレイに、彼女の3倍の荷物を持っているキラは遂に問い掛けた。

「フレイ、何か悩み事でもあるの?」
「・・・・・・・・・そうね、そうかも知れない」
「しれないって?」

 キラは訳が分からないという表情でフレイを見る。こんなフレイは初めてだ。ヘリオポリスの頃の生気に溢れた、大輪の薔薇のような彼女からは想像も出来ないフレイが目の前にいる。今の彼女は生気が無く、悩み、苦しんでいるように見える。かつての華やかな雰囲気は何処にも見られない。
 戦争が彼女を変えてしまったのだろうか。それとも自分が悪いのだろうか。サイとフレイが別れる原因となったのも自分の弱さのせいだ。サイを傷付けてしまった。フレイも自分に同情なんかしたせいで傷付いている。自分では守っているつもりでも、結局誰も守れていないのではないだろうか。
 2人でデパートのレストランで食事をしている時も、何処か重苦しい空気が2人の間を漂う。1人は葛藤を抱えたまま、それを解決できずにいる為に。1人は過剰な自己否定と自虐の為に。互いに相手を求める心がありながら、それを否定し、より自分を追い詰めてしまう。とてもではないが15、6歳の子供が抱えるような悩みではない。子供が道に迷った時には出口へと導いてやる大人なり先輩なりがいれば良いのだが、大人達はまだ2人の心のスレ違いを察してはなく、先輩ともいうべき人物は今だ答えに辿りついてはいない。
 だが、そんな2人をいきなりとんでもない事態が襲う事になる。いきなりデパートが大きく揺れたのだ。

「な、なによっ?」

 フレイが驚いた声を出す。キラはすぐにそれが爆発の振動だと察した。

「これは、まさかザフトの攻撃!?」
「攻撃って、もしかして空襲なの!?」
「だと思う。とにかく、早く非難しよう。何処かに防空壕ぐらいあるはずさ!」

 キラは荷物を放り出してフレイの手を取り、駆け出した。だが、窓から見える光景に思わず足を止めてしまう。フレイは突然足を止めたキラに不安そうな声をかける。

「ど、どうしたのよ、キラ?」
「・・・・・・拙いよフレイ、どうやら空襲だけじゃないみたいだ」

 キラの覗いていた窓から見えたのは、街を蹂躙しているジンやザウートであった。守備隊の戦闘ヘリが飛びまわってるが次々に撃ち落とされている。

「くそっ、MS相手じゃ防空壕なんて何の意味も無い。この街から逃げるしかないよ」
「そんなっ!」

 フレイの顔が真っ青になる。この戦闘の中を逃げようと言うのだ。ほとんど自殺行為としか思えない。だが、ここで蹲っていたら助かるとも思えない。フレイにはキラを信じるしか選択の余地が無いのだ。
 デパートから出た2人の前に一台のジープが滑りこんでくる。バクシィが運転席から叫んだ。

「2人とも、早く乗れ!」
「は、はい!」

 キラがフレイの手を引き、ジープに駆け込んだ。バクシィは2人が乗り込んだ事を確認すると、アクセルを思いっきり踏みこんだ。ジープが弾丸のように駆けだし、街から一刻も早く出ようと駆け出して行く。だが、崩れたビルの残骸や砲弾の穴があったりで思うように進めはしなかった。

「畜生、何処も瓦礫だらけだ!」
「守備隊はどうしたんですか!?」
「ヘリ部隊は全滅らしい。あとは戦車隊に期待するだけだな」

 悔しそうにバクシィが答えた。戦闘ヘリや戦車ではMSには絶対的に不利なのだ。膨大な犠牲をだしながらもMSに勝つ事は出来ない。アークエンジェルのような化け物じみた戦力は連合には存在しないのだから。
 キラとフレイはバクシィにかける言葉は無かった。自分たちはアークエンジェルに乗り、ストライクという強力なMSを持ち、フラガとキース、キラという3人の凄腕のパイロットを擁して敵のMSを蹴散らしてきた自分たちでは、彼の味わってきた屈辱を察する事は出来ないからだ。
 その時、走るジープのエンジン音に混じってかすかに飛来音がキラの耳に飛び込んできた。慌ててキラはバクシィに飛び降りる様に叫び、自らはフレイを抱き抱えてジープから飛び降りた。瓦礫の散らばる道路に叩きつけられるが、そのまま勢いを生かして転がって行く。やや遅れて爆発音と衝撃波、熱風が吹き寄せてきた。
 少し待ってからキラとフレイは顔を上げた。ジープの姿は無く、ただ残骸だけが散乱している。バクシィの姿は何処にも見えないが、油と肉の焦げる嫌な臭いが辺りに漂っており、バクシィの運命を2人に教えていた。

「嘘・・・・・・バクシィさん?」
「くそぅ!」

 フレイが呆然とバクシィの名を呟き、キラがアスファルトを殴りつける。ついさっきまで話していた人が目の前で爆発に殺され、焼かれている。フレイがこうならずに済んだのはキラが隣に座っていたからに過ぎない。ほんの僅かな幸運がフレイを死の淵から救ったのだ。
 だが、目の前で人が死んだという事実に、フレイは衝撃を隠せなかった。

「やだ・・・やだよ・・・・・・こんなの・・・なんでよお?」
「フレイ、しっかりして、フレイ!」

 ガクガクと震え、燃えているジープを見たまま動けなくなっているフレイ。キラは仕方なくフレイの頬を2度張った。鋭い音が通りに響き、フレイがようやく焦点の合って来た目でキラを見る。

「キ・・・ラ・・・?」
「しっかりするんだフレイ。こんな所で立ち止まってたら、僕達も死んじゃうよ!」

 キラはフレイの意識がはっきりしてきたのを確認すると、その手を掴んで走り出した。最初はもつれ気味だったフレイの足も、情況を理解しだすに従ってはっきりとした足取りになる。
 2人で戦場となった街を駆けていく。視界に入って来る光景はまさに地獄だった。破壊される街並み。逃げ惑う人々。そして、犠牲となった人達。五体満足な死体は少なく、ほとんどがからだの一部を欠損させている。それを目の当たりにしたフレイがその場で激しく嘔吐したりもした。
 難民と化した人々が逃げ惑う中で、キラはフレイを連れて脱出路を考えていた。ザフトの攻撃は西から行なわれているから、東に逃げれば良い事になる。だが、そちらからは連合軍の部隊が迫っていた。彼らに近づけば攻撃に巻き込まれるかもしれない。

「どっちに逃げたらいいんだ!」

 流石のキラも土地勘の無い街ではどうすれば良いのか分からなくなっていた。避難民の流れも一定していないので参考にはならない。

「連合は何をしてるんだ。避難の誘導もしてないのか?」

 ぶつけようの無い怒りを味方の不甲斐なさや手際の悪さに向けるしか無いキラ。だが、いきなりフレイが自分の手を振り解いて走り出したのには驚いてしまった。

「フレイ、何処に行くんだ!?」
「あそこに子供がいるのよ!」

 フレイが駆け寄った先には親らしき中年の女性に縋りついている男の子と女の子がいた。フレイが2人に声をかける。

「何をしてるの、早く逃げないと!」
「でも、お母さんが!」

 フレイから見ても、すでにこの母親は死んでいる。だが子供には受け入れ難い現実なのだ。フレイは意を決すると2人の手を掴んだ。この2人をここに放っては行けない。

「お母さんはもう死んだの、死んだのよ!」
「嘘だよ、だって・・・・・・」
「あなた達まで死んだら、お母さんが悲しむでしょう!」

 フレイはキラを振り返ると、強い口調で言った。

「キラ、男の子をお願い。私は女の子を連れて行くから!」
「わ、分かった!」

 キラは男の子の体を持ち上げると、そのまま抱え込む様にして走り始めた。フレイも女の子の体を抱き抱えて走り出す。2人は最初こそ「離せよお!」と叫んで暴れていたが、やがて大人しくなったかと思うと泣きじゃくり始めた。無理も無い、まだ10歳にもなっていないだろう。そんな子供が目の前で母親を殺されたのだから。
 だが、こんな光景は珍しくも無いのだ。これが戦争であり、命とはこうも簡単に失われてしまうものなのだ。フレイは戦争という行為がどれほど理不尽で、残酷なものなのかをようやく理解しようとしていた。父を殺された自分と、母親を殺されたこの子達は同じだ。自分の目の前で自分を守ってくれる存在を奪われ、身1つで世間に放り出してしまう。その人にとってどれほど大切なものであっても、全てを理不尽に奪ってしまうのだ。
 フレイは腕の中で泣いている子供をあやしながら、必死に走っていた。今は自分が生きなくてはならないのだから。生きて、この子を安全な場所に逃がしてやる事が、あの母親への最大の供養になると信じていた。

「キラ、こうなったら、味方の陣地にまで行きましょう!」
「だけど、あっちはザフトの攻撃を受けるよ!」

 キラは反対した。自分から危険地帯に行くようなものだからだ。だが、フレイはそんなキラに強い口調で問い掛けた。

「じゃあ、他に何処に行くって言うのよ。もうどっちに行ってもザフトがいるわよ!?」
「そ、それは・・・・・・・」

 キラは返答に詰まった。確かに、街の三方はもうジンが暴れまわり、辛うじて東だけが開いているだけだ。連合の部隊がまだ頑張っているのだろう。望む望まぬに関わらず、そちらに行くしかないのだ。
 フレイは腕の中で震えている女の子を見た。女の子は今にも泣き出しそうな、怯えきった目で自分を見上げている。

「大丈夫だから、絶対に安全な所に連れて行ってあげるから」

 フレイは安心させようと、自分自身が怖いのを懸命に押さえ込んで笑顔を浮かべて見せる。女の子は震えながらも頷いた。フレイは頷き返すとキラを見て、そしてまた走り出した。

 


 ブカレスト基地では大騒ぎになっていた。クライスラー少将の元にはブカレストの街の戦況が伝わってきている。

「ジン8機に、ザウート2機。それに戦車と装甲車か。歩兵部隊を展開させているという事は、目的は破壊では無く制圧だな。こちらの戦力は?」
「街の守備隊はほぼ壊滅。こちらから送りこんだ戦車大隊がどれだけ頑張ってくれるかですな。戦闘機隊も準備できしだい発進させます」
「アークエンジェルの部隊は?」
「MSはパイロットが不在。スカイグラスパーは分解整備中でして、とても出撃させられません。アークエンジェルも同様です」
「そうか・・・・・・」
「ただ、フラガ少佐とバゥアー大尉が戦闘機を貸して欲しいと言ってきています。スカイグラスパーが無くても、サンダーセプターで戦うと」
「・・・・・・許可する、急ぎ予備機を準備しろ。間に合わないなら他のパイロットを降ろしてその機体を使わせろ」
「了解しました」

 部下が敬礼して部屋から去って行く。クライスラーはそれを見送った後、燃えあがる東方の街を窓から見やった。空が赤々と染まり、時折爆発の音が聞えてくる。クライスラーは僅かな焦りを浮かべて呟いた。

「ブカレストが落ちれば、カスタフ作戦の発動さえ覚束なくなる。その時は、ヨーロッパが敵の手に落ちる・・・・・・」

 


 フラガとキースはパイロットスーツに着替えて滑走路に飛び出して行こうとしたが、その背後からトールが2人を呼びとめた。

「フラガ少佐、キースさん!」

 すでに艦内のクルの多くからは大尉とは呼んでもらえないキース。まあ、本人がそれで良いと言ってるのだから構わない訳だが。2人は足を止めるとトールを見た。

「なんだ、急いでるんだ。話なら後にしろ!」

 フラガが苛立った声でトールに答えるが、トールの目に宿る決意の光を見て、無視しようとはしなかった。

「俺も、行かせてください!」
「行くって、どうやって?」
「デュエルに乗ります!」

 トールの答えにフラガとキースは愕然とした。何を言われたのか咄嗟には理解できず、暫く頭の中で反芻する。

「・・・・・・本気、なのか?」
「はい、キラとフレイが、あの街にいるんです!」

 フラガの問いに、トールは力強く答えた。フラガはどうしたものかと頭を掻き、キースを見た。

「キース、どう思う?」
「・・・・・・シミュレーターでの訓練の成果はそこそこ出ていますが、実戦は早いと思いますね。まあ、そう言ってられる状況でもないですが」
「それじゃあ?」

 フラガの意外そうな問いに、キースは頷いた。そしてキースはトールを見た。

「パイロットスーツを来てこい。俺達は先に出撃している。トールはデュエルに乗って街まで来るんだ。MSなら直ぐにつくだろう。分かってると思うが、新米が無理するんじゃないぞ」
「はいっ!」

 トールは嬉しそうに敬礼すると、パイロットルームへと駆けて行った。それを見送った2人は複雑そうな顔を向け合わせる。

「良いのかね、彼?」
「誰だって初陣はありますよ。遅いか早いかだけです。幸い、敵はジンとザウートです。デュエルなら死ぬ事も無いでしょう」
「・・・・・・そうだな」

 キースの答えにフラガは頷いた。敵に奪われたGを相手にすると思えば、今のうちに初陣を飾る方が良いのかもしれない。そして2人は滑走路に駆けて行った。トールの事も気になるが、今は街の敵を叩く方が先なのだ。
 フラガとキースが出撃した後、トールは何とかデュエルを起動していた。艦長やナタルは2人が了承したと聞いて渋々頷いている。
 危なっかしげに起動しているトールに向けて、下からマードックが苦笑混じりの注意を飛ばしている。

「おおい、あんまり無理すんなよ。せっかくの新型機なんだからな!」
「わ、分かってますよ!」

 トールは言い返しながらも必死に機体を操っている。キラが多少手を加えたOSのおかげでどうにか動いているが、まだトールでは訓練が足りないのだろう。それでもなんとか歩かせている。日頃の訓練の賜物とでも言うところか。カタパルトは動かないが、艦首ハッチを開放してデュエルが出れるようにする。
 トールのデュエルにミリアリアが戦闘管制席から声をかける。

「トール、気をつけてね。無茶しちゃ駄目よ」
「大丈夫だよミリィ、デュエルの性能なら生きて帰ってこれるさ」

 ミリアリアを安心させる様に優しい声で言うと、トールはビームライフルとシールドを装備して出撃した。走らせるのはオートでやってくれるのでトールの仕事は目的地を入力するだけで良い。MSが上下する振動に揺られながら、トールは祈るような思いで目の前の街を見ていた。

「キラ、フレイ、無事でいてくれよ・・・・・・」

 


 街では多くの避難民が競う様に街の外に出ていたが、そちらにもジンがやってきていた。逃げようとする車両や人間に向けて重突撃機銃が放たれ、全てを打ち砕いていく。立ち向かおうとしている戦闘車両も姿を晒した傍から撃破されていた。
 退避して来たキラとフレイはジンが虐殺をしている光景を目の当たりにして足を止めてしまった。

「そんな、こんな事って・・・・・・・」
「あいつら、見境無しなのか!?」

 キラは目の前のジンのパイロットに同胞という感情を抱けなかった。まるで面白がっているように76mm弾を叩き込んでいる。直撃を受けて血と肉片を撒き散らして粉々になる人々。爆発する車両。キラとフレイは途方にくれた顔を見合わせた。だが、ジンの銃口がいよいよ自分たちの方を向いた時、2人とも流石に血の気が引いてしまった。76mm弾を受ければナチュラルだろうがコーディネイターだろうが運命に変わりは無いのだ。
 だが、そのジンが引き金を引くよりも早く、そのジンは背後からの砲撃を受けて破壊されてしまった。
 何が起きたのかと思っていると、破壊された街並みの中に沢山の戦車がいたのである。連合軍の戦車部隊だ。指揮官らしい人物が上半身を乗り出してこちらを見ている。

「よう、怪我は無いか?」
「は、はい」
「そうか、見た所少年兵のようだが、何処の部隊だ?」

 指揮官に問われたキラ達はアークエンジェル所属だと名乗った。それを聞いて指揮官が不憫そうな表情になる。

「そうか、それは大変だったな。せっかく街に来てもこんな事に巻き込まれるとは」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「とりあえず、ここから撤退する。増援が無いとどうにもできん。君達も早く戦車に乗れ。後方まで送ろう」

 指揮官に言われて、2人は子供達と共に急いで戦車の上部に攀じ登った。それを確認した指揮官は部下に後退命令を出す。戦車の最悪の乗りごごちに揺られながら、キラは指揮官に礼を言った。

「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いや、駆けつけるのが遅れたのだ。礼を言われるようなことじゃないな」
「そ、そうですか・・・・・・あの、あなたは?」
「私か。私はウォロシーロフ少佐だ。第26戦車大隊の指揮をしている」

 颯爽とした士官という言葉が良く似合う少壮の士官に、キラはフラガやキースとは違う強さを見た。それは、揺るがぬ信念と鋼鉄の意志を持つ強さだったのである。

 


後書き
ジム改 ヨーロッパ編は苛酷な戦場が多いのが特徴だ。何しろ街が多い
カガリ で、私は何時出番が貰えるんだ?
ジム改 いや、気にすんな。そのうち出る。といっても、カガリの本格的な見せ場はもう少し先だけど
カガリ あああ、暇だ!
ジム改 むう、こういうタイプは初めてだな。栞ちゃんと違って危なく無いから良いけど
栞   誰が危険人物ですか!
ジム改 うおおおおおおおっ!! (慌ててその場から飛び去る)
カガリ なんか液体の付いた床が溶けてるぞ!?
ジム改 し、栞、貴様、殺す気か!?
栞   後書きは私のものです!
カガリ (私も、出番がないとこうなるんだろうか・・・・・・)
栞   ふっふっふ、カガリさん、私の職場を脅かす者には死あるのみです!
カガリ ま、待て、どっから出した、そのトゲトゲの付いたバット!?
栞   それは秘密です。さあ、バット葬にしてくれます!
カガリ お前、病弱じゃなかったのかよお!?
栞   出番が無いのは死んだも同じです!

追う栞、追われるカガリ。それを見送ったジム改は、余所余所とその場を片付けはじめた