第161章  悲しき再会


 


 敵の増援を迎え撃つ為に展開していくハーヴィック隊。だがMS隊を指揮するフィリスは苦悩していた。自分たちの手持ち戦力であのアークエンジェルを相手取れるのか、という自問自答を繰り返した彼女は、すぐにそれは不可能だと断じていた。

「無理です、ザラ隊長もディアッカさんもミゲルさんもここには居ない。私が止められるのは1機だけ、あの艦にはまだ3機化け物レベルが居るというのに、残りをどうやって止めれば……」

 アスランがここに居ない以上、あのフリーダムは、最高のコーディネイターの相手が出来るのは自分だけだとフィリスは考えていたが、問題なのは残りの3機、アルフレットとフレイ、シンである。この3人が相手ではジャックたちでは対抗できない。せめてルナマリアやレイが残っていれば数の差で何とかできたかもしれないが、サシの勝負では相手にならないだろう。
 こうなると頼れるのはジャスティスを使うセンカだろうか。ハイネはミーティアで数を相手にしてもらわなくてはいけないので此方には加えられない。だがセンカは指揮官ではない。この場でMS隊を纏められる指導力と地位を兼ね備えている人間が他に居ないかと必死に考えたフィリスは、一番切りたくないカードを思い出してしまった。

「自分で止めておいてなんですが、ジュール隊長に出て来て貰うしかありませんか」

 自分の替わりにMS隊を指揮できる人間となると、今頃ヴェザリウスでストレスで悶死しかけているだろうイザークくらいしかいない。彼に出てきてもらって、自分があのフリーダムを相手にするのだ。
 そう、例え勝てないとしても。



 ザフトが展開を完了したのを見たマリューはすぐに攻撃命令を出そうとしたが、パルが新たな高速移動目標を捕らえたと言ってきて、どういうことだと首を傾げてしまった。数は僅かに5隻程度であるが、これは戦場からどんどん離れていっている。どうやら最初から戦場を迂回していたようなのだが、一体何なのだろうか。
 情報では自分たちが狙っている部隊はここに来る途中で輸送艦を分離して速度を上げており、輸送艦隊はデブリに紛れて身を隠してしまっている。それは単に戦場に向かう際に足手まといとなる補給艦を切り離しただけだと考えられていたのだが、そうではなかったのだろうか。

「別働隊、でも何処を目指してるの?」
「あのコースだと地球ですが……」

 サイがコースをコンピューターに入力して軌道計算を来ない、それをモニターに表示させる。そのコースはパナマの打ち上げ軌道に直進する物であった。そのコースを見たマリューはどういう事だと考え、そして1つの可能性に辿りついた。そう、パナマやカオシュンで使用されたあの兵器である。

「まさか、グングニールとかいうEMP兵器の再投下が狙い?」
「まさか、それならコースを変えないと」
「でも不可能じゃない。突入用シャトルなりで自動操縦させるなり、方法はある。もしパナマ付近に落ちればマスドライバーが崩壊するわ!」

 事態を重く見たマリューはそちらにアークエンジェルを急行させる事にした。アークエンジェル級の足の速さは地球軍でも最速を誇り、駆逐艦を置いていってしまうほどだ。この艦なら地球軌道に達する前に補足撃沈できると考えたマリューは直ちにそれを実行に移そうとしたが、MS隊を呼び戻そうとしたマリューに無理だという答えが返された。

「どうしたのミリアリア?」
「MS隊が敵機と交戦、とても離れられません。今戻せそうなのはスティングのマローダーだけです!」
「まさか、少佐たちが梃子摺ってるの?」

 そう、アルフレットもキラも敵に拘束されて戻れなくなっていたのだ。今戻れるのは混戦から離れているスティングだけだという。それを聞いたマリューは仕方が無いかと頷き、代わりに駆逐艦配備のストライクダガー1個小隊に同行を求める事にした。
 この時アークエンジェルの求めに応じられなかったパイロットたち、キラたちはそれぞれに厄介な敵にぶつかっていたのだ。キラのデルタフリーダムはまるでストライクのような姿をしたザフトの新型と激突し、完全に封じ込まれていた。

「ザフトになんでストライクが。しかもジャスティスより速いじゃないか!」

 デルタフリーダムの基本性能はジャスティスに迫る。それなのにこの機体は一瞬引き離してもすぐに距離を詰めてくるのだ。そのダッシュ力はジャスティスを凌いでいるのは間違いない。しかもパワーでもデルタフリーダムに負けていない。
 勿論機体性能だけではない、パイロットの腕も半端な物ではない。何しろキラの反応速度に付いていっているのだから。種割れを起こしたキラに付いてこれるような人間はアスランかユーレクくらいで、シンやアルフレットでも届かない人間を超えた域に居る化け物レベル、そのレベルに追いつける化け物がまだ居たのだ。
 キラはフリーダムのプラズマ砲を交互射撃で連射し、とにかく距離を取ろうとした。フリーダムの粒子砲は距離を取らないと威力を発揮しずらい。だがフィリスもデルタフリーダムの凶悪なビーム砲の事は知っていたので、距離を離されたら負けだという事を良く知っていた彼女は危険を承知で接近戦を仕掛けていたのである。

「離されるものですか、フォースインパルスでフリーダム相手に砲撃戦をするつもりはありません!」

 とにかくビームライフルを取り回しやすい近接砲戦を仕掛けるフィリス、この距離では反応速度と経験が物を言うが、フィリスはどちらもキラには及ばない。最高のコーディネイターが相手では最初から身体能力で勝ち目は無いし、経験においても超一流との実戦経験を豊富に持つキラに対してフィリスはそういう経験が少ない。つまり1対1での勝負はキラの方が有利なのだ。
 だからフィリスはインパルスの性能に賭けた。フォースインパルスの接近戦における戦闘能力はジャスティスを超えている。この性能で能力と経験の差をとにかく埋めようとしていたのだ。あのアスランのジャスティスを相手にフリーダムで互角に戦える化け物に何処まで通じるかは分からないが、これ以外に勝算は立たない。

 インパルスが猛烈な加速力を生かしたダッシュで距離を詰め、ビームライフルを3度放つ。それをデルタフリーダムがシールドで受け止めて反撃の粒子砲を使おうとするが、既にインパルスは射線上から移動している。ダッシュの速さと小回りの良さは間違いなくザフトでも最高レベルだろう。
 この高速で動き回れるMSの登場にキラは焦りを見せていた。フリーダムはウィングバインダーとバーニアを組み合わせる事で高い運動性を確保しているが、基本的には中距離砲戦用MSであって接近格闘戦用ではない。この事は対ジャスティス戦で散々に思い知らされている事であり、キラはなるべく近付かないように気をつけていたつもりだったのだが、インパルスの加速性能がそれを許さなかった。ジャスティスを凌ぐそのダッシュ力はヴァンガード並であり、フリーダムにとってはかなり厄介な相手である。そして何より、キラは近距離戦は苦手なのだ。

「この距離じゃ勝てない、もっと距離を広げないと。トール、フレイ、援護してくれ!」

 振り切りたくても振り切れない、それを認めたキラは仲間に助けを求めたが、この時トールとフレイも敵と交戦して苦戦していた。フレイはザクに似た新型MSと交戦していたのだが、これがウィンダム並の高性能機でとにかく速く、パイロットの腕も良かった。この初めて戦う敵との戦いでフレイはかなり苦戦している。
 そしてトールはといえば、此方はジャックとエルフィのゲイツR2機と交戦して手が離せない状態になっている。ウィンダムの性能はゲイツRよりかなり上であり、防御力も運動性もゲイツRでは届かない。だがジャックとエルフィはよくトールを押さえ込んでいた。

「エルフィ、下から砲撃頼む。俺はこのまま正面から押さえる!」
「OK、ヘマしないでね!」

 エルフィのゲイツRが下方に移動していき、それを見たトールがガウスライフルのバースト射撃を3度行ったが当たらなかった。そしてジャックのゲイツがビームサーベルを手にしながらレールガンを放ち、トールが回避運動をする間に距離を詰めて格闘戦を仕掛けてくる。振るわれたビームサーベルをトールがABシールドで受け止め、反撃にガウスライフルを至近から叩き込もうとするが、それはゲイツRのシールドに弾き返された。だがガウスライフルの銃弾はABシールドであっても耐え切れるものではなく、シールドが砕け散ってしまった。

「んな馬鹿な、シールドが砕けたぁ!?」

 常識で考えればシールドが砕けるなどそうそうある事ではない。そもそもABシールドはビームやレールガンを受け止めるための物であり、これを貫通したり破壊できるのは艦砲か対艦刀くらいだと考えられている。それをこんなマシンガンが砕いてしまうとは。
 ジャックは半分くらいになってしまったシールドをウィンダムに投げつけると、左腕にビームライフルを持ってもう一度ビームサーベルで斬り付けた横薙ぎの一撃をトールがシールドで受け止め、もう一度ガウスライフルを使おうとしたがそれはジャックが左手にも誓えたビームライフルを叩きつけて押さえ込んでしまう。そのまま力勝負になった2機は暫し睨みをあいをしていたが、エルフィの声がその均衡を破った。

「ジャック、離れて!」
「おっしゃ!」

 力押しをしていたジャックはトールの力を利用して押し返されるように離れ、トールは姿勢が崩れたところに真下からビームとレールガンの砲撃を受けた。トールは舌打ちして回避運動に入りながらシールド裏のミサイルを発射してエルフィを牽制する。放たれた2発のミサイルは1発が近接信管が作動して炸裂したが、もう片方はそのまま虚空に消えていった。 
 ミサイルの爆発で弾き飛ばされたエルフィにトールはガウスライフルを向けたが、銃身が歪んでいるのを見て投げ捨てた。そして予備のビームライフルを取り出したとき、キラから助けを求める通信が入ったのだが、トールにはそれに応じる余裕は無かった。

「悪いキラ、こっちは無理だ。こいつら強い!」
「こっちもさ、MSもパイロットも凄く強い!」
「少佐とシンは何処に行ったんだ、このままじゃこっちが押し返されるぞ!」
「2人はあのでかいMAの相手をしてる、こっちにはこれそうも無い!」
「くっそお、こんな時、フラガ少佐やキースさんが居てくれればなあ……」

 アルフレットやフラガ、キースのようなベテランパイロットの影響力はその艦全体に及ぶ。特にアルフレットの影響力は大きく、フラガやキースでさえ頼っているほどだ。キラやトールなども同様であり、この頼れる先輩に何処かで何時も頼っている。本当に困った時、頼るべき大樹は彼らなのだ。





 フィリスがキラと戦っていられるのは、他の厄介な敵を仲間が引き受けてくれているからだった。ただ、ちょっとフィリスの考えていた形とは違っていたのだが。フィリスのお許しが出たイザークは勇んで出撃して来たは良いのだが、一介のパイロットだったころの癖がさっぱり抜けていないようでいきなり敵にぶつかっていったのである。狙ったのは沢山来ているファントム部隊であった。
その意気揚々とした突撃振りは、フォースインパルスでこれに挑んだイザークを見たシホが頭を抱えて悲鳴を上げたほどである。彼女はヴェザリウスに戻っていたので、一緒に出撃してきたのだ。

「ああ、ジュール隊長待って下さい、フィリスさんの代わりに部隊指揮をして下さい!」
「今忙しい、ジャックにやらせとけ!」

 あっさり鍍金が剥がれたと言うべきか、フィリスの頼みを遠くのゴミ箱に放り投げてしまったイザークは嬉しそうに強敵に挑んだのである。それを聞かされたシホはどうやってジャックに大部隊の指揮を取れというのか教えて欲しかったが、既にイザークは突撃してしまっている。そしてそのジャックはエルフィやセンカと共に敵のウィンダムやストライクダガーと戦っていたりする。
 一体誰に頼れば良いのかと困り果てたシホの周りには、何時の間にやら指示を求めて他のMS小隊が幾つか集まっていたりする。どうやら赤服着て経験もそれなりにあるシホに指示を求めているようだ。
 これに困り果てたシホは助けを求めてヴェザリウスのアデスに通信を入れ、事情を聞いたアデスは右手で顔を押さえたあと、シホにお前が指揮を取れと指示を出して彼女を絶望させてしまった。

「ハーヴィック提督には此方から言っておく。頼むそハーネンフース」
「ちょっと待て下さい、私は部隊を率いた経験なんてありませんよ!?」
「誰にも最初はある。丁度良い機会だハーネンフース」
「ちょっとっ!?」

 何だか厄介ごとを無理やり押し付けられたシホはまたしても頭を抱えてしまったが、周りからどうすれば良いのか指示を求められ、仕方なく大雑把な指示を出して混戦に巻き込まれないように味方を援護する事にした。

「うう、ザラ隊長〜、ディアッカさん〜」

 こんな目に合わされたシホは部隊を去って行った先輩たちの名を呼んで助けを求めてしまった。こういう時、彼女のような性分だと不幸だと言えるだろう。
 だが、アデスの無茶な命令には彼なりのちゃんとした理由があった。この時、既に指揮をする事が出来るようなパイロットは元特務隊の彼女しか残っていなかったのである。この時点で既に多くの指揮官が命を落とし、隊長級ですら倒れていたのである。シホでは無理だと分かってはいたが、他に選択肢がなかったのだ。階級制度を持たず、曖昧な指揮系統で動くザフトの弱点が露呈した結果であった。上官を無くした時、残ったのは横一列の同格者では誰が指揮を取れば良いのか決められないのだ。





 キラたちが戦闘開始した頃にはどうにか地球艦隊を突破したクルーゼ艦隊がアメノミハシラに迫ろうとしていた。だが、この時既にクルーゼ艦隊は突入時10隻あった艦艇が6隻にまで減らされ、MSの数は半減している。敵には自分たち以上の犠牲を強いたとは言っても、これは大きな犠牲だった。何よりも6機出したミーティアやヴェルヌは既に3機しか残っていない。この被害の大きさには流石のクルーゼも鼻白んだほどだ。
 だが、その被害を嘆いている暇は無かった。彼らの前にはアメノミハシラの最後の守り、オーブ艦隊と駐屯MS隊が出てきたからだ。これに対してクルーゼは、攻撃は1航過のみと決定する。

「このまま敵の鼻先を掠めるように地球の反対側に駆け抜ける、艦隊は砲撃をアメノミハシラに向けて撃ちまくれ。ビームもミサイルも使い果たして構わん!」

 クルーゼは艦隊にそう指示を出し、プロヴィデンスから11基のドラグーンを射出した。これだけのドラグーンを同時操作できるクルーゼの能力は桁外れていると言えるが、負担は半端な物ではない。
 だがその威力は凄まじかった。何しろかなり小型の砲台であり、地球軍のデータにはまだ無い新兵器だ。当然ながら戦術コンピューターはこれを認識しても対応が遅れる事になり、それが致命的な結果をもたらした。パイロットがそれが砲台だと感づく間もなく次々にビームを受けて撃墜、あるいは損傷していくという事態を迎える事になる。 
 この攻撃はフラガも受けたが、すぐにその正体を察する事が出来た。彼にとってこういう攻撃は馴染み深い物であったから。

「ガンバレルと同系統の無線砲台か、ザフトも似たような物作ってたんだな」

 迫るドラグーンに気付いたフラガがそれにビームライフルを向けて何発か発射するが、目標が小さくて当たらなかった。それに舌打ちしてフラガは気配を感じる方向に機体を向ける。そこには彼にとって宿敵とも言うべき敵が待っているのだ。

「居たな、クルーゼ!」
「来たか、ムウ・ラ・フラガ。この因縁、そろそろ断ち切ろうではないか!」

 プロヴィデンスが戻していたドラグーンをまた一斉に発射し、フラガもフライヤーとガンバレルを起動して投射する。だがここでフライヤーに問題が発生した、フライヤーは半自立攻撃端末であるが故に目標を指示されたらそれを狙うという特徴があるが、今回は全くデータに無い上に非常に小さな目標を狙わされた為に動作がぎこちなくなってしまったのだ。
 目標を追うのに手間取るフライヤーの様子にフライヤーの欠点を見たフラガは、仕方なく目標をプロヴィデンスに絞った。敵の端末は自機の火力とガンバレルで相手をする事にしたのだ。
 クルーゼは6基のMAのような物が自分に向かってくるのを見て、連合もドラグーンを開発していたのだと知って嬉しくなった。そうだ、こうでなくてはいけない。唯のハンティングでは戦いはつまらないではないか。

 クルーゼがフラガと戦い始めた時には周囲でも激しい戦いが起きている。特にM1Aは機体性能はゲイツ並なので中々に厄介な相手となっている。
 だがそれでもザフトは強かった。クルーゼが連れてきた精鋭はここでもまだその力を発揮していたのだ。その中でも凄まじかったのがユーレクのゲイツRであるが、彼はあまり真面目に仕事をしていない。彼なら敵を圧倒できる筈なのだが、適当にMAやストライクダガーの相手をして損傷させておしまいという感じである。
 彼にとってこの仕事はつまらなかったのだ。生粋の戦士である彼にとって見ればこの程度の敵相手に本気を出すのは馬鹿馬鹿しいし、張り合いが無い。だがプロ意識もあるので仕事を放り出す気にもなれず、給料分は働いていたのだ。そして更に嫌な事にこの近くにキラが居る事にも感づいているが、遠いので戦いに行く事も出来ない。かといってこの場には彼の興味を引くような相手は味方にしか居ないようだった。

「クルーゼのあの相手は、ムウ・ラ・フラガか。私にも相手をする権利があるはずだが……」

 見慣れない装備を持つセンチュリオンを見て戦士の本能が疼くのを感じているユーレク。その苛立ちが操縦に出たのか、回避運動に乱れが生じて至近をビームが通過して行く。それを見たユーレクは急いで機体を戦場から離して態勢を立て直し、アメノミハシラ周辺を見回した。
 全体的にはザフトが押しているようだが、地球軍もアメノミハシラに直接攻撃をかけられる所までは進ませていない。どうやら前線に出てきているM1型の1機を中心に防衛線を敷いている様で、質の差をフォーメーションで良く埋め合わせている。余程良い指揮官が居るようだ。

「あのM1か、新型のようだが、オーブにそれだけの余力があったとはな」

 本国をアレだけ叩かれたのだから、国防は既存機の生産で手一杯だろうと思ったのだが、意外とまだ余力があったようだ。実は戦前に完成していた技術研究機だとは知らないユーレクはそう勘違いしてしまったが、まあ無理も無いところだろう。
 アレを叩けばオーブ軍の守りは弱くなる、そう考えたユーレクはM1Sを狙って突入していったが、すぐにそれを察したオーブ軍の迎撃を受ける事になった。M1Aが四方から集まってきてM1Sの前に壁を作ってブロックし、周囲からビームが集中して放たれてくる。これを見たユーレクは慌てて機体を戻して反転して逃げ出し、どうにか事無きを得た。
 ユーレクは中々に対応が速いオーブ軍の動きに感心してどうやって突っ込むかを考えようとしたが、ユーレクが決めるより先にクルーゼの部下たちが突入して来た。彼らはオーブ軍の迎撃機に囲まれてたちまち落とされていたが、それでも彼らはM1Aを引きつけてくれた。その間隙を突くように再度突入をかけたユーレクはこちらに向かってきたM1A1機をビームライフルで撃墜し、更に1機をシールドで弾き飛ばしてM1Sに迫った。
 防衛ラインを抜いて自分に迫るゲイツに気付いたミナは護衛の2機のM1Aと共に迎撃の構えを取ったが、向かわせたMSが蹴散らされたのを見て緊張をしていた。

「エース級、か。私を指揮官機と見抜いたようだな」

 向かってきたゲイツRに護衛のM1A2機が挑むが、1機はビームを放ちながら接近戦を仕掛けようとして逆に側面に入られてビームに落とされ、もう1機は少し離れてビームを撃ちまくったが逆にレールガンに撃ち抜かれて撃破されてしまう。
 あっという間に護衛2機、それもミナを守る為に選ばれたベテランが一蹴されたのを見たミナはビームライフルをゲイツRに向けて3度放ったが、その全てが空しく何も無いところを貫いていった。そのゲイツRの動きの良さはミナでさえ一瞬振り切られた程である。

「ゲイツ相手ならM1Aでも互角の筈、何故M1Sで振り切られる。パイロットの腕なのか!?」

 M1Sはオーブの最新技術の塊のようなMSだ。これに搭載されているFCSはM1のものを超える試作品で、ゲイツはおろかジャスティスやフリーダム、ザクといったザフトの最新核動力MSが相手でも十分に対応できる性能がある。それが一瞬とはいえ振り切られたのだから、それは機体性能ではなくパイロットの腕と言うしかないだろう。
 だがゲイツでは限界がある。どんなに優れたパイロットでも機体の限界性能は超えられないのだから、M1Sより速く動けるはずが無いのだ。

 しかし、ユーレクのゲイツRは確かにゲイツの性能限界を超えることはなかったが、ミナより速く動いた。いや、速く動いているように見えた。2門のレールガンから放たれた砲弾をミナが回避して反撃のビームを連射したが、ライフルからビームが出る頃には既にゲイツRの姿はその場には無く、距離を詰められてしまっていた。

「反応は良いが、経験が足りんようだな」

 動きは良いが読みが甘い、実戦の経験が足りていない事を見抜いたユーレクはレールガンで動きを押さえ込みつつビームサーベルを抜いた。相手の経験が浅いなら、動き回られると面倒な射撃戦よりも距離を詰めた格闘戦でケリをつけたほうが良いと考えたのだ。
 だが、距離を詰めようとしたユーレクの前に別のM1部隊が割り込みをかけてきた。そのM1Aの群れに目標を遮られたユーレクが舌打ちして一度距離を取る。
 そしてミナは割り込んできたM1隊に退がるように言われた。

「ロンド様、退いてください。ここは我々で押さえます。ロンド様は後方で指揮を!」
「馬場一尉か。お前たちで勝てる相手ではないぞ?」
「分かっております。ですが、全滅するまでは時間を稼ぐ事は出来ます!」

 馬場一尉に押し切られるようにしてミナは下がった。指揮を放り出すわけにもいかないからだが、それは馬場一尉たちがユーレクの相手をする事を意味している。そしてユーレクはミナが退いていったのを見て残念そうに首を横に振り、そして向かってくるM1隊を見据えた。

「あれを落とせば防衛ラインを崩せたんだが、まあ無理を重ねる義理があるわけでも無い。こいつらの相手をしてさっさと切り上げるとしようか」

 ライフルのエネルギー残量を確かめて、ユーレクはM1Aにつまらなそうな視線を向けた。その動きは悪くはなかったが、先のM1Sとは比べるべくもなかったのだ。




 フライヤーがミサイルを多数発射し、プロヴィデンスを包み込むようにして飛来していく。それをクルーゼがドラグーンのビームで壁を作って防ぎ、プロヴィデンスがビームライフルを放ってフライヤーに直撃を出すがフライヤーの正面装甲はこれに耐え切って見せる。
 その防御力と攻撃性能には流石のクルーゼも舌を巻いていた。まさか無人攻撃端末にこれほどの性能を与えていたとは。

「ドラグーンより厄介だな、自立攻撃端末とは。メビウスより強力ではないか」

 動きを見ていても誰かがコントロールしている様子はなく、明らかに自立行動している。恐らく無人機の技術を応用したのだろうが、かなり厄介な相手だ。ただ落とせない訳ではないようで、ドラグーンの砲撃で2基を撃墜していた。
 そしてクルーゼはプロヴィデンスの最大の欠点に苦しめられていた。シールドにビームサーベルが固定されている為に接近されるとシールドで相手の攻撃を受けられないというゲイツと同様の欠陥があったのだ。ゲイツはビームクローの欠陥の為に接近戦でその脆さを露呈し、改良型のゲイツRでは普通のビームサーベルに改められている。確かにビームサーベルは強力だったが、これの取り回しを改善する為にシールドそのものが小型化されているために防具としては役立たずとさえ言える代物になっている。戦いの大半は射撃戦であり、シールドとしての機能を制限してまで強力なビームサーベルをつける必要は無いのだが。
 1機しか製造されていないプロヴィデンスは戦訓を元にした改良を受けておらず、結果としてこの問題がそのまま残っていたのだ。大型のビームライフルも威力は大きいが取り回しが悪く、射界が制限されてしまっている。技術検証機としては十分な物であったが、試作機としては完成度の面で今1つの機体というのがクルーゼの評価である。



 全体としてみるとプロヴィデンスが攻撃力と機動性で勝り、センチュリオンが防御力で勝るという感じであった。フラガとクルーゼはドラグーンとフライヤー、ガンバレルを駆使して戦っていたが、互いに決定打を欠くようで決着が付きそうにも無い。この状況を見たアンテラなどは支援に向かおうとしたのだが、群がってくるダガーLやM1の大軍の為に助けに入れなかった。今も3機のダガーLがビームライフルと背中に背負った2門のリニアガンで途切れない砲撃をかけて来ており、アンテラはそれを必死に回避している。
 大西洋連邦はアークエンジェル隊で好評だった新型ストライカーパック、アサルトパックの量産をスタートさせており、ダガーLにエールストライカーの代替品として配備している。これを装備したダガーLは機動性でも火力でもゲイツRと同等かやや勝る性能を手にすることが出来る。
 だんだんと性能を向上させてくるダガー系列機の発展性の高さにはアンテラも無視できないポテンシャルがある。そして何より、数が多いので対処しきれない。幾らアンテラのジャスティスでも同時に10機で来られたらたまった物ではない。





 キラたちとイザークたちの戦いは激しさを増していた。キラはフィリスのインパルスに押さえ込まれて効果的な砲撃が出来ず、フレイはトールと共にジャックたちの相手をしている。イザークはフォースインパルスで最初はファントムと戦っていたのだが、途中で乱戦に巻き込まれて今ではカラミティを含むダガーL部隊を相手取っていた。
 そしてアルフレットは、シンのヴァンガードと共に損傷が激しくなっていたハイネのミーティアに止めを刺そうとしていた。

「幾ら速くてもなあ、小回りが効かねえんじゃ戦闘機失格なんだよお!」
「舐めるなナチュラル!」

 ハイネが対艦刀を手に向かってくるクライシス目掛けてミサイルを発射し、誘導されたミサイルが鋭角的な動きで目標に向かい何かに着弾して爆発が起きた。そして持つ物もなく漂う対艦刀を見たハイネは撃墜を確信したが、センカの鋭い警告の声がハイネの耳を叩いた。

「ハイネ、上だよ!」
「……え?」

 上、と言われて上方監視カメラを見ると、確かにクライシスが居てこちらに砲を向けている。だがレーダーは何も警報を発していない、NJがあってもこの距離なら探知できる筈なのに。
 この時既に度重なる被弾でミーティアの索敵システムの一部使えなくなり、上方が盲目状態になっていたのだ。その被害を外から見てアルフレットは気付いたが、ハイネは気付けなかったのだ。ミーティアはヴェルヌはその性格上他の機体と編隊を組めないので、被弾状況を確認してもらう事もできないという欠陥があるのだ。
 上方を確認できなかったハイネは対応が遅れ、ミーティアに続けてリニアガンとレールガン、ビームライフルから放たれた砲弾とビームを被弾してしまう。それは僅かに残っていた搭載弾薬の誘爆を招き、ハイネはフリーダムを排除して逃れようとしたが、その時接近警報が機内に鳴り響き、ハイネが驚いて正面を見るとチャージモードで突撃してくるヴァンガードの姿があった。

「これで止めだぁ!」

 ヴァンガードの突撃槍がフリーダムの腰を貫き、そのままミーティアに繋ぎとめてしまう。そしてヴァンガードは急速離脱して行き、ミーティアに繋ぎとめられたフリーダムは逃げ出すことも出来ずにハイネを乗せたままミーティアの爆発に飲み込まれてしまった。

「ハイネ!?」

 センカのジャスティスが脱出していないかと探しに来るが、ハイネの姿は何処にもなかった。まだMS用の脱出システムは完成しておらず、撃墜されたら高確率で死亡してしまうのだ。
 そしてシンとアルフレットはミーティアを落とした後急いで味方の援護に戻ったのだが、そこで目にしたのは大苦戦を強いられているフレイとト−ルの姿であった。多数のMSが入り乱れている中で2機のウィンダムはガウスライフルを手に2機のゲイツRと1機のザクモドキの相手をしていたのだが、このザクモドキが強く、1機でフレイを追い込んでいたのだ。

「まさか、フレイさんが押されてる!?」
「動きが速い、機体が良いのか、それとも腕か?」

 フレイは3基のフライヤーを伴っていた筈なのだが、既に1基しか飛んでいない。残りは落とされたようだ。アルフレットは砲撃用照準機を後ろから引き出すとそれを覗き込み、ザクモドキを狙ってレールガンを放って牽制する。発射された砲弾はザクモドキとウィンダムの間を貫き、ザクモドキは此方に気付いて距離を取った。そのおかげでフレイのウィンダムも距離をとれた。
 アルフレットはMS隊の中に自機を割り込ませると敵に傍受されるのを覚悟の一般回線での通信を行い、味方のMSに自分の存在を知らせると共に今から現場の指揮をとる事を伝えた。MS隊は個々に、あるいは小隊レベルでの戦闘を強いられていたのだが、アルフレットの指揮が入って統制を回復しようとしていた。おかげでザフトMS隊がだんだんと押されだしている。

「父さん、ありがと助かった!」
「フレイ、大丈夫か、かなりやられたみてえだが?」
「機体にガタが来てるけど、まだ大丈夫、弾も残ってるし!」
「おし、なら援護に回れ。シンはザクみたいなのを始末しろ。俺は全体の指揮に戻る!」
「ういっす、でもさっき槍無くしたんすけど?」
「予備はねえのかよ。しょうがねえ、これ持ってけ!」

 アルフレットは突撃槍の代わりとして残っていた1本の対艦刀をヴァンガードにくれてやり、シンはそれを受け取って突っ込んでいく。それをフレイが援護する位置につこうとしたのだが、その時アルフレットはシンが狙ったザクモドキから覚えのある気配を感じてしまい、慌ててそちらを見直した。

「まさか、この感じは……」

 シンが相手をしているザクモドキから感じた事のある気配がするのだ。これはそう、少し前までアークエンジェルに居たどうにも目の離せない困ったあのおてんこ娘の。だが、何故彼女がザフトに。

「いや、アウルが居たんだ。ステラもザフトに攫われてても不思議じゃねえか」

 自分で納得しておいて、そしてすぐにアルフレットは顔面蒼白になった。あれがステラだとしたら、自分はステラを倒せとシンに命じた事になるのだ。ステラの身を案じていたシンがステラを倒したなどということになれば、今度こそシンは立ち直れないほどに打ちのめされてしまうかもしれない。

「しまったあ、なんてこったああぁぁぁぁっ!!?」
「ど、どうしたの父さん!?」

 シンを援護をしようとしていたフレイが、突然聞こえてきた義父の絶叫に吃驚して問い返す。それに対してアルフレットは慌てふためいてシンを止めろとフレイに指示した。

「フレイ、何でも良いからシンとザクモドキの戦いを止めろ。止めれるなら何しても構わねえ!」
「何で、敵機なのに?」
「感じねえのか、ありゃステラだ。お前も何度か会ってるだろ!」
「えええ、ステラちゃんっ!?」

 驚いたフレイはザクモドキに意識を向けて注意を払い、確かにその気配に覚えがあることに気付いた。フレイはステラとそれほど長い付き合いがあったわけではないので気付かなかったのだ。
 状況を理解したフレイは急いでシンとステラの間に割り込みをかけようとしたが、それは敵のゲイツRの妨害を受けた。距離を取りながらビームライフルを撃ってくるのだが、これが実に嫌なポイントをついてくる。巧みな射撃にフレイは距離を詰められなかった。
 フレイを妨害していたのはエルフィだった。ジャックはもう一方のウィンダムの相手をしていて彼女はその援護をしていたのだが、ステラの方にウィンダムが行こうとしたのでステラの援護に入ったのだ。

「ステラちゃん気をつけて、そっちにもう1機行くよ!」

 エルフィはステラに警告をしたが、通信機から聞こえて来たのは何だかおかしな声であった。まるで雄叫びのようなうわあああ、だのばかりが聞こえてくるのだ。とても冷静に戦っているようには思えない。その様子のおかしさにエルフィは違和感を覚えた。

「ステラちゃん、聞こえるステラちゃん!?」

 エルフィが呼べども声は届かず、ステラは敵の新型、ヴァンガードとの交戦を始めてしまった。ヴァンガードが対艦刀をメインにしているのに対し、ザクウォーリアはビーム突撃銃、どう見てもザクウォーリアの方が有利である。だがヴァンガードの防御力は本来ならザクウォーリアの攻撃など寄せ付けない物だ。絶対の防御力があったからこその接近戦闘装備なのだが、今はその絶対防御の理由の1つ、偏向シールドが使えない状態にある。つまりヴァンガードはその強靭な装甲とシールドに頼る他無いのだ。まあ装甲だけでも隊弾防御を向上させた強化型ラミネート装甲というザフトから見ればふざけるなと言いたくなるような複合装甲なのでかなり頑丈なのだが。
 ビーム突撃銃は連射性能に優れているようで、ヴァンガードは絶え間なく放たれるビームを回避し、あるいはシールドで止めて必死に防いでいる。これまで偏向シールドに頼っていたツケがシンのスキルを偏らせていたらしい。

「くそっ、近づけない。なんて面倒な!」
「シ……め…………が乗っ……」
「何て言ってんです、よく聞こえませんよ!?」

 どうもフレイが何か言っているのだが、妨害が効いてるのか雑音だらけになっている。シンはその声を無視してザクモドキにレーザーを放ったが、これはショルダーシールドに止められてしまった。それに残念そうに舌打ちしたシンだったが、味方のストライクダガー2機が下方からビームライフルで援護射撃をしてくれてザクモドキの動きが僅かに止まった。
 その間隙を突いてチャージモードを起動して一気に距離を詰めるシン。勢いのままに対艦刀を叩きつけるように振るい、ザクモドキの左肩ショルダーシールドをもぎ取って肩の一部を破壊させる。
 あれならもう左腕は使えないだろうと判断したシンは一気に止めを刺そうと対艦刀を引き戻したが、それをもう一度振るう前にザクモドキが右肩のシュルダーシールドのスパイクを前にしてチャージをかけてきた。咄嗟にシールドで受け止めたものの、大質量がぶつかってくる衝撃は半端な物ではなく、シンは危うく目を回すところだった。
 衝撃に罵声を放ちながらザクモドキを引き剥がそうとするシンだったが、その時コクピットに聞き慣れた、だがこんな所で聞きたくは無い声が聞こえた。

「この、落ちろ、落ちろぉ!」
「……え、この声って、まさか?」

 慌てて機体を離し、混乱した頭を整理しようとする。あの声には間違いなく聞き覚えがある。だがまさか、そんな事があるはずが無い。今目の前のザフトのMSに乗っているのが彼女である筈が無い。
 シンはそう思い込もうとしていたが、近くに来たフレイがその願望を打ち砕いた。

「シン、あれに乗ってるのはステラちゃんよ。聞こえてるシン!?」
「あ……フレイさん、でも、そんな……」
「信じたくないのは分かるけどそうなの、父さんもそう言ってるし、多分間違いない!」
「どうするんですか、ステラに剣を向けるなんて出来ませんよ!?」
「分かってるわよ、何とか動きを止めて捕まえるしかない。でも、あの娘かなり速いわ」

 フレイはザクの一部を破壊して動きを止め、自分とシンで捕まえて捕獲しようと考えたのだが、そのステラが強くて当てられないのだ。フレイの知る限り、ステラはこんなに強くない筈であり、ザフトが更に強化を施したのではないかと考えている。
 そしてもう1つの予想として、アウルと同じく記憶を無くしているのではないかと疑ってもいた。アズラエルの教えてくれた話では強化人間と共に彼らの調整を行う装置も横流しされてしまい、それを使えば記憶を弄る事が出来ると言うのだ。アウルはそれで記憶操作を施されたのだろうとアズラエルは言っていたが、同様の処置をステラが施された可能性は極めて高い。どうしたら良いのか分からないでいたフレイであったが、その沈黙に堪えられなかったのだろう、ヴァンガードがザクに向かって突っ込んでいってしまった。

「シン、待って、1人じゃ無理よ!」

 フレイが静止をかけるがシンは聞かず、仕方なくフレイも追おうとしたがそれは別方向からのジンの射撃に邪魔された。横合いから飛んできた76mmが何発か着弾して機体を揺るがし、フレイは慌ててシールドを向けてそれを防御する。ウィンダムの装甲だから持ったが、ストライクダガーなら危なかっただろう。
 そしてシンはステラのザクからの砲撃を回避しながら距離を詰め、ザクにぶつかるようにして強引に機体を掴んだ。

「ステラ、ステラなんだろ!」
「離せ、離せぇ!」
「俺だよ、シンだ、分からないのかステラ!」
「煩い、お前なんか知らない!」

 ステラは遮二無二動かしてヴァンガードを引き剥がそうとしているが、ザクウォーリアのパワーでは格闘戦に特化しているヴァンガードを引き剥がすのは無理だった。機体のパワーが違いすぎるのだ。
 シンはステラが自分を知らないと言った事に混乱していた。何がどうなっているのか、この声は間違いなくステラなのに、何で自分を知らないというのか。その事が頭の中でぐるぐると回ってしまったのだが、その為に周囲への注意が疎かになってしまい、急接近してくる別のMSの存在に気付いていなかった。
 横合いから正確に飛来したビームが右腕を直撃し、機体から大量の冷却材がガス化して噴出している。それでようやく我に返ったシンだったが、間に合わずに更にもう1発が頭部を直撃し、これを半壊させてしまった。そのダメージでメインカメラを潰されたシンは慌ててサブカメラに切り替えたが、そこに映し出されたのは高速で迫るストライクに似た新型であった。

「俺の部下に汚い手で触るんじゃない、クソッタレのナチュラルがぁ!」

 3度目のビームをシールドで受け止めたシンだったが、迫るインパルスは加速力を武器にシールドに蹴りをかまし、ヴァンガードはその強烈な一撃に弾き飛ばされてしまった。その衝撃に今度こそ目を回したシンは気が遠くなり、前後不覚の状態になってしまう。
 イザークは動きが鈍った所に間髪入れず止めを刺そうとしたが、それはクライシスに阻まれた。アルフレットが振るわれた対艦刀をコンバインシールドを犠牲にして防ぎ、2門のレールガンを至近距離から叩き込んでインパルスを引き離す。

「シン、大丈夫か!?」
「す、すいません、なんか頭がクラクラして……」
「脳震盪か、それじゃどうにもならねえ、お前は退け!」
「でも、ステラがあそこに居るんだよ」

 シンがアルフレットの命令を無視して前に出て、それをアルフレットが止めようとしたのだが、そこにステラを助けようとしたエルフィのゲイツRが横合いからレールガンとビームライフルを連続で放ってきた。その直撃を受けたヴァンガードが装甲で砲弾を弾いたものの、衝撃で吹き飛ばされてしまう。そしてそのまま止めを刺そうとエルフィが砲を向けてトリガーを引いた時、ヴァンガードをクライシスが弾き飛ばした。ビームと砲弾はヴァンガードの代わりに射界に入ってきたクライシスへと吸い込まれ、コンバインドシールドを無くしていたクライシスはこれを装甲で受け止め、ビームに左腕を半ばからもぎ取られ、レールガンの砲弾に胸部を2箇所抉られた。
 そしてアルフレットのクライシスが砲火に貫かれたのを見た時、被弾したクライシスの姿をあの日、父を乗せたまま撃沈された戦艦の姿と重ねてしまったフレイが悲鳴を上げてしまった。




後書き

ジム改 軌道会戦は次回で終了です。
カガリ 両軍の被害が凄い事になってるんだが?
ジム改 そりゃまあ局地戦とはいえ双方とも精鋭で数も多いからねえ。
カガリ ミーティアってひょっとしてハイネので最後じゃないのか?
ジム改 まあ、そうとも言う。
カガリ こんな所で勿体無い。
ジム改 まあオーブ軍も壊滅状態だけどねえ。ヴェルヌも暴れまわってるし。
カガリ 待てこら!
ジム改 大丈夫だ、ザフトはもう限界だから。
カガリ こっちも限界だろうが。
ジム改 だから次回で終わりなのだ。
カガリ 次はこっちから攻め込むのかなあ。
ジム改 そろそろねえ。ドミニオンとヴァーチャーも上がってくるし。
カガリ その時は私もクサナギに将旗を掲げて出陣だな、出番を取り戻してやる!
ジム改 そしてユウナがまた苦労するんか。それでは次回、マーシャルを訪れるヘンリー、地球軌道に迫るザフト輸送艦隊、オルマト号のダナン船長の姿もあった。そしてそれを追撃するアークエンジェルと、迎撃してくる迎撃衛星、アメノミハシラ攻撃部隊も戦いを切り上げてて撤退し、戦いは終わった。フレイたちはオーブからの招集を受け、アークエンジェルの修理の間を利用してオーブに戻る事に。次回「ザフトは去りて」でお会いしましょう。

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