第176章  アズラエルの羽音


 

 プトレマイオス基地とダイダロス基地に地球連合の正規6個艦隊が集結を完了した。第5、第6艦隊は地球軌道でウィリアムスに壊滅しており、まだ再建されていないので作戦には参加しない為数えられてはいない。後はパナマの第1、第2艦隊が合流すれば全軍が揃うことになるが、これはボアズ攻略後になりそうである。他にもL2にある極東連合の拠点、グランソート要塞に大戦後半になって参戦してきた諸国の艦隊が集結している。オーブ艦隊だけはプトレマイオス基地にやってきていたが、残る赤道連合や南アフリカ統一機構、極東連合、アルビム連合といった国々の艦隊が集まっているのだ。アルビム連合が此方に回されたのはプトレマイオスに来るとトラブルになりそうだったという配慮による。
 それでも各国艦隊の指揮官や正規艦隊の提督といった指揮官はプトレマイオス基地に顔を揃えており、巨大な会議場に集まってエルビス作戦の詳細を説明されていた。
 彼等の前で壇上に立ち、作戦の説明をしているのは地球連合軍総司令部の参謀本部のスタッフであるサザーランド准将だ。彼は地球周辺の宙域図を手にしているパネルで操作し、全軍の動きを表示させながら説明をしている。

「今回の作戦は3つに分けた艦隊がボアズ基地に同時に攻撃を仕掛けるというものです。既にザフトはジェネシスという巨大なガンマ線レーザー砲を完成させているという情報もあり、まとめて動かすのは全滅の危険が大きい、と判断したからでありますが」
「司令部では、ジェネシスが使用された場合の被害をどれ程と見ているのですか?」
「具体的な能力が判明しておりませんので確実な事は申せませんが、通常の艦隊航行陣形を組んでいれば1個艦隊を壊滅させる程度の威力はあるかと。勿論密集していれば文字通りの全滅もありえます」

 1個艦隊が一撃で全滅する、その話に会議場がざわめく。そんなふざけた兵器は聞いた事が無いからだ。だがサザーランドがスクリーンに表示させた大型のレーザー発信器を見て彼等も言葉を無くしてしまった。

「見ての通り、サイズはコロニー並みの巨大建造物です。外装はPS装甲で艦砲でも簡単には破壊できません。昨年に第8艦隊が建設中のこれを砲撃して叩いたのですが、映像を解析したところ装甲が艦砲にかなり持ち堪えている事が分かったのです」
「では、破壊するには核ミサイルや陽電子砲に頼るしかない、という事ですか?」
「そうなります。核ミサイルは各艦隊に配備されますが、後はオーブ軍と一部の艦艇が装備するローエングリン砲、そして極東連合の反応弾が切り札になります」

 とりあえず破壊する方法は有ると聞いて会議場の中の騒動は鎮静化してきたが、実のところサザーランドにもこれが核で破壊出来るのかどうか、確証は無かった。艦砲の集中砲火にも耐えられるとなると、もしかしたら核の熱量にも持ち堪えてしまうかもしれない。勿論立て続けに命中させれば良いのだろうが、そう上手くもいくまい。そうなると一番効果的なのは装甲材と反応爆発する陽電子砲かもしれない。
 だがそんな事は自分たちが考えれば良い事なので、サザーランドはこの見解は外に出さずに説明を続けた。

「第3、第4、第9艦隊は第1集団として航路図の左側航路、L1を経由するルートで進軍して頂きます。第7、第8、第10艦隊は第2集団として扱い、直進してL5を目指して頂きます。L2のグランソート要塞の艦隊は第3集団で、右回りの迂回航路でL5を目指して頂きます」
「途中で敵に遭遇した場合はどうするのです?」
「それらの対処として遊撃部隊として各任務部隊を前に出します。第3、第7は壊滅していますが、まだ8個任務部隊が健在ですから対処は可能でしょう」

 任務部隊はアークエンジェルを含む第8任務部隊が最大規模であるが、どの部隊も10隻程度の艦を保有しているのでザフトの遊撃部隊には対抗できる。これらと任務部隊がぶつかって消耗戦をしてくれればボアズ攻略はより容易となるというのが司令部の狙いでもあった。
 だが、この作戦に新参組の小国の艦隊指揮官たちが動揺を示していた。その中の1人がおずおずと手を上げてサザーランドに不安をぶつけてくる。

「L5のボアズで集結という流れか。だがタイミングが合うかな?」

 赤道連合の指揮官が不安そうに疑問を口にする。大西洋連邦やユーラシア連邦、東アジア共和国、極東連合といった国々ならばある程度の規模の艦隊を擁しており、長期の作戦行動にもなれているのだが、これらの国々はそういった経験が殆ど無い。というか碌な艦隊を持っていない。赤道連合も宇宙艦隊をL2のコロニーに持っているが、規模は旧型が10隻程度と弱体なのだ。小国なのに有力な艦隊を持っているオーブの方が異常なのだろう。
 そしてL2の艦隊は寄せ集めなのだ。一応極東連合の古賀中将が指揮を取る事になっているが、寄せ集めの艦隊が無事にたどり着けるかどうかは未知数である。というかちゃんと全艦が無事に目的地に辿り付けるかどうかさえ怪しい。
 だが、この問題に関しては対処法が無かった。現地に辿りつく自信が無い、と言うなら足手纏いだから来ない方がありがたいとさえ言える。
 まあこの問題に関しては極東連合のヤマト級戦艦に他国の艦艇が必至についていく事だけが唯一の解決策なので、ヤマト級の発光信号を見失わないことが全てだろう。ただ、これ以外にもヤマト級戦艦には求められている仕事があった。それをサザーランドから告げられた古賀提督は渋い顔をしている。

「ヤマト級戦艦で陽動をかけろ、と仰るのか?」
「左様です、単独で火星まで航行できるほどの単独航行能力と航続距離を持つヤマト級ならば航路を外れて移動しながら無補給でプラントを直撃し、帰ってくることも十分に可能でしょう。それにヤマト級の恐ろしさはザフトも思い知らされておりますから、無視は出来ますまい?」
「確かにヤマト級には単独で航路探査をしながら進む能力もあるが、2隻でプラントに仕掛けろというのかね。それは自殺ではないか?」

 確かにヤマト級の戦闘能力は突出している。その巨大な船体に多数の火砲と空母並みのMS搭載能力を持ち、桁違いの防御力を持つという悪夢のような戦艦だ。だがそれでも無敵の超兵器ではなく、攻撃を受ければ傷つくし、装甲が施されていない部分を撃たれれば当然大きなダメージを受ける。2隻でザフトの大軍を相手取る事など不可能な話だ。
 この問いを受けたサザーランドは交戦の必要は無いと告げた。ようはボアズに本国からの援軍が送られるのを妨害したいだけなので、近くを遊弋して敵の戦力を本国に貼り付けておければ十分だと。
 だが古賀提督はどうにも府に落ちない顔をしている。まともに戦わず、ただ引き付けておけば良いというのなら不可能ではないが、ヤマト級2隻を使うだけの価値があるのだろうか。だが連合軍総司令部からの要請とあれば無視するわけにもいかず、古賀は2隻を派遣する事を約束した。

 極東連合に要請を出したサザーランドは、今度はユウナを見て新たな要請を出した。

「オーブ艦隊には各任務部隊と共に遊撃に当たって頂きます。行動は自由で構いませんが、L5に到着するまえに第1、第2集団のどちらかに合流してもらいます」
「それは構わないが、オーブ艦隊は実戦の経験が浅い。上手くやれるか分からないですよ?」
「各国の中では経験豊富な方でしょう」

 これは事実だ。オーブ本土が陥落した後、カガリは自由オーブ軍を組織して抵抗を続けていたが、アメノミハシラを拠点とした為にザフト宇宙軍と幾度も戦いを繰り広げている。実戦の経験なら極東連合軍よりも豊富なくらいだ。
 だがユウナは正直言って遊撃という仕事にオーブ軍を投入する事に難色を示していた。基本的にオーブ軍の運用は迎撃に特化している。艦艇を含む兵器はすべて迎撃用に開発されており、敵を探して撃滅するという任務は向いているとは言い難い。それにオーブ軍の兵器は対艦攻撃などには向かない。迎撃を主任務にしている為に敵戦闘機やMSを叩くのに向いた兵器が多く、しかもオーブ本土防衛用なので大気圏内で威力を発揮するのだ。現在開発中のムラサメなどはまさにその典型で、防空と島嶼防衛用の緊急展開用途で開発されている可変MSである。まあ戦争には間に合わないので開発ペースはのんびりした物であり、仮想敵であった大洋州連合は弱体化著しいので必要性も低くなっているのだが。
 M1を主力としているオーブ艦隊はストライクダガーが主力の地球軍の中にあっては強力な部類に入るが、連合の主力となっているプラント理事国と較べるとどうしても見劣りする上に予備が乏しいので補充が出来ない。それらの事情から遊撃部隊に回されて敵と消耗戦などすればオーブ軍は早期に戦闘力を無くしてしまうと主張したのだ。
 だがこの主張は入れられなかった。遊撃に参加する任務部隊は消耗が激しいく、2個が欠けている。この穴を埋める為にもオーブ軍は適任だったのだ。他国の艦隊では弱すぎるので使えないし、理事国の艦隊には余裕が無い。つまりオーブ艦隊は規模といい独立性といい、うってつけだったのが不幸だったろう。
 嫌な仕事を押し付けられたユウナはぐったりとして背凭れに身体を預けて後の話を聞き流していた。やる事が決まった以上、自分の仕事はどれだけオーブの被害を減らせるかにシフトしたからだ。

「トダカ、うちにどれだけやれると思う?」
「フリーダムやジャスティスが出てこなければ、そうそう負けることは無いという自信はあります。ただ他所と違ってうちは消耗したら補充できないですからな」
「そうなんだよなあ、M1のラインは生産遅いし」
「しょうがないでしょう、オーブは再建途上です。モルゲンレーテは良くやってくれております」

 オーブ本土は2度に渡る本土決戦で大きな被害を出し、特にオノゴロ島は廃墟も同然の有様であった。モルゲンレーテの工場もボロボロであり、生産ラインの再建も一苦労だったのだ。それでもカガリはモルゲンレーテの再建に力を入れ、とにかくM1のラインを立て直させた。そのおかげでどうにか生産が再開したのだが、その生産数は決して多くは無いのだ。
 生産されたのは宇宙用のM1Aであり、地上用のM1は作っていない。これはオーブ軍の戦場が宇宙になる事を見越しての対処であり、結果としては見事な決断となった。おかげでオーブはこうして宇宙に再び軍を展開させられるようになったのだが、代わりに本国の防衛は手薄となってしまっている。

 そして一通りの話が終わった後で、アズラエルが壇上に来て集まっている全員を見回し、楽しげな声で自分がお目付け役としてアークエンジェルに座乗して同行すると宣言した。それに参加国の提督たちは一様に嫌な顔をしていたが、アズラエルは気にした風もなく話を続けた。今回の作戦において自分には連合軍総会よりいくつかの優越権限が与えられている事、その権限によって出された命令には絶対に従ってもらう事を提督たちに告げた。
 これを聞かされて彼等はますます嫌な顔をしたが、総会決定による権限と聞かされては逆らう事も出来ない。事は自分たちよりも遥かに上で決定された事なのだから。居並ぶ提督たちが不満そうながらも渋々頷いたのを満足そうに見回して、アズラエルは全軍に嗾けるような宣言をした。

「では皆さん、ザフトのお馬鹿さんたちに死告天使の羽音を聞かせに行くとしましょうか。全部終わったら生還した全将兵に僕たちからシャンパンを送らせて貰いますよ」

 このアズラエルの宣言で会議は終了した。これによりエルビス作戦準備は最終段階に突入したことになる。



 この会議が終わった後、ユウナはクサナギに帰ってカガリにこの事を伝えようと彼女の私室に足を運んでいた。一応国家元首の部屋なので特別に豪華に作られている辺りがアレであるが、まあこの辺りは君主制国家である以上は仕方があるまい。
 だがノックをしてもカガリの返事は無く、仕方なくユウナはコードブレーカーを使って扉を強制解放して中に入った。こうなる事は予想済みだったのだろう。だが中に入ったユウナは部屋の中に充満する濃い酒の匂いに顔を顰めて右手で口元を覆い、そして部屋の明かりをつけた。すると豪華なベッドにはカガリの姿は無く、テーブルの上には何本もの酒瓶が散乱している。そしてその上に自国の国家元首が上半身突っ伏して鬱陶しく泣いているのを見つけて頭痛がしてきた頭を押さえた。

「カガリ、まだ飲んでたのかい?」
「…………」
「やれやれ、返事も出来ないほど飲んだのか、全く」

 ユウナは持ってきた書類を備え付けのデスクに置くとテーブルの上の酒瓶を片付けだした。何処にこんなに酒があったのかと思える量で、ユウナはそれを全てダストシュートに放り込んでいく。そんな事をしていると突っ伏していたカガリがモソモソと動き出した。

「……あれ……ユウナ?」
「起きたかい、全く代表ともあろう人が何て様だ」
「うう、煩い。お前に私の気持ちが分かってたまるかあ……」

 キースとナタルのデートを見た後、カガリはクサナギに逃げ帰ってきてそのまま自室に閉じこもってしまったのだ。その様子のおかしさに多くのクルーがユウナに何があったのか見てきてくれと頼んできたので、仕方なくユウナはカガリの様子を確かめに彼女の私室を訪れている。この辺りのカガリの自然と人心を掴んでしまうカリスマ性は確かな王家の人間だという証だろうかとユウナは思ってしまう。
 だが彼女の部屋に入ったユウナが目にした物は、酒瓶を振り回してテーブルで暴れ上戸状態になっているカガリであった。なんだキースの馬鹿野郎、鈍感唐変木、とか散々に喚いていたのは覚えているのだが、この後ユウナがカガリを落ち着かせるまでに彼は瓶底アタックと酒瓶バットを3発は食らっていたりする。
 そして鬱陶しく泣いているカガリから要領を得ない説明を受けたユウナは、どうやら片想いの相手だったキースが何時の間にかライバル視してたドミニオン艦長のナタル・バジルール少佐と付き合っていた事を知り、失恋してこうして鬱憤を晴らしていたのだと理解した。

 それを聞いたユウナは頭を抱えたいのを必至に堪えながら、そんな理由で代表が取り乱さないでくれと文句を付けたが、カガリはお前に私の気持ちが分かるかあと言い返されてしまった。
 そして明日の作戦会議には自分が出るからと言ってカガリを残して部屋を後にしたのだが、まさかアレからずっといじけていたとは。

「まあ、失恋につける妙薬無しとは言うけどねえ」
「うう、何でこんな事に……そうだ、あの時邪魔した凸野郎が全部悪いんだ」

 それまでいじけながらテーブルを指で突付いていたカガリが、突然何かを思い出したかのようにがばっと身を起こす。その突然の変化にユウナが吃驚していたが、カガリは全く気にしておらず、ふっふっふと危ない笑い方をしている。

「思い出したぞ、あの時私に空き缶ぶつけた凸野郎だ。あの時邪魔されなければ私が先にキースに言えてたのに!」
「何言ってるんだか。そもそも凸野郎って誰の事だい?」
「本土の海岸沿いで私に空き缶投げつけてきた馬鹿野郎の事だ。凸が広くて女々しい顔つきでおまけに言い訳が下手な奴だった」
「な、何とも凄い特徴の持ち主だね。でも知らなかったとはいえカガリに一撃くれるなんて、その凸君も不運だったな」

 カガリは延々とその男の愚痴を言い続けており、それにユウナが適当に相槌を打っていく。だがそれを聞き流していたユウナであったが、カガリが口にするその男の容貌が頭の中でだんだんと構築されていき、それはやがて1人の意外な人物を作り上げてしまった。それを思い浮かべてユウナはまさかという顔になる。そしてユウナは端末を操作して1人の写真を表示させてカガリに見せた。

「カガリ、それってひょっとしてこの人?」
「あん? ああ、こいつだって、これってアスラン・ザラじゃないか?」
「そうだよ。何で彼がオーブに居たんだ?」
「もうずっと前の話だからなあ。でもそうか、あいつが私の恋路を邪魔した悪党だったんだな」

 なにやら黒い笑いを浮かべるカガリ、どうやら殴る目標が見つかって精神の再構築がされ始めたらしい。それを見たユウナはどうやら立ち直ってくれそうだなと安堵しつつ、もしアスラン・ザラが地球軍の捕虜になったらどういう目にあわされるのだろうかと想像して心の中で手を合わせていた。


 この時、プラントのアカデミーでは執務中だったアスランが突然背筋を貫くような悪寒に襲われて風邪かと医務室に診察してもらいに行ったとか何とか。





 作戦が伝えられた事で地球軍の動きは活発になった。まず敵の迎撃部隊を掃討する為に遊撃部隊が出撃することになり、各任務部隊やオーブ艦隊で出撃準備が始められている。第8任務部隊も同様で、急いで出撃準備が整えられていた。
 とはいえこういう時に忙しいのは物資を積み込んだりする部署やメンテ要員なので、艦のクルーは事前のチェックに走り回っているくらいだ。パイロットたちはそれぞれれに期待の最終調整をしたりしていたのだが、その中で第8任務部隊のベテランエース2人はプトレマイオスに来ている2人の知人と宇宙港に隣接する士官クラブで顔をあわせていた。

「まあ、こうして生きて顔をあわせられるのは良い事だよな。なあ月下の狂犬に乱れ桜さん?」
「止めてくれ、俺はその渾名は余り好きじゃないんだフラガ」
「私もレナで良いわ。お互いそんな2つ名が嬉しいって訳でも無いでしょ、エンディミオンの鷹さん?」
「はっはっは、悪い2人とも。でも生きてまた会えて嬉しいぜ。なあキース?」
「俺はシェバリエ大尉とは少し前に会っていますがね。レナ・イメリア大尉とは初めてですが」
「そうね、初めましてエメラルドの死神キーエンス・バゥアー大尉。それともアンデッド・キースのほうが良いかしら?」
「エメラルドの死神でお願いしますよ、俺は別にアンデッドじゃないんですから」

 キースがアーマー乗りの間で定着してしまったアンデッド・キースという名を毛嫌いしている事を知るフラガとモーガンはそれを聞いて大笑いしだし、レナも噂くらいは聞いていたのかクスクスと笑っている。3人に笑われたキースは憮然としてコーヒーを口に運んでいた。
 そして4人は暫しの間これまでの戦いの事や近況などを話題にしていたが、話が南米のエドワード・ハレルソンに移ると流石に表情が暗くなった。モーガンがコーヒーカップを置き、憂鬱そうな3人を見回す。

「切り裂きエドが死ぬとはなあ。良い奴だったんだが、相手が悪すぎたか」
「ああ、何しろ隊長が相手だったからな。むしろあいつは良くやった方だよ。あの隊長に一撃入れたんだから」
「私は会った事無いけど、あのエドをサシの勝負で、しかもクライシスでソードカラミティ相手に接近戦で勝ったって話よね。どんな化け物かと思ったわ」
「隊長に勝つのはかなり厳しいぜ。メビウスゼロに乗ってた頃は俺とキースが2人がかりでも勝てなかったからな」

 アルフレットの強さは規格外、その事を良く知るフラガとモーガンは相手が悪かったと言い、そしてエドの事は馬鹿なことをしたがあいつらしいと苦笑いを浮かべていた。何処までも自分の求めた物に真っ直ぐで、そして最後はアルフレット相手に意地を貫いたという不器用さを責める気にはなれなかったのだ。
 それに彼は責任を取ったとも言える。彼がアルフレットに完敗し、戦死したという事実は南米軍の精神的支柱を一撃で打ち砕いてしまったのだ。このおかげで最悪の想定とされた南米での徹底的なゲリラ戦は回避され、南米軍は降伏したのだから。彼は自分という旗印の意味を良く知っていたのだろう。
 ただこの時同行していたザフトの部隊は未だに南米軍の一部と共にゲリラ戦を続けており、南米の情勢は今だ不安定ではある。

 そのまま暫し無言でいた4人だったが、キースがコーヒーを飲み干して口を開いた。

「そういえば、ジェーンの姐さんはどうしてます?」
「反逆罪で軍法会議ってところだが、未だに軍病院に居る。情報部の知り合いにちらっと教えてもらった限りじゃ、南米のクーデターについて知ってる事を吐く事で取引が成立したらしいな」
「そうか、それじゃ死刑は免れるのかな」

 モーガンの情報にフラガが安堵の声を漏らした。南米軍に手を貸したと知った時は何て馬鹿な事をと思ったが、エドに付いて行ったのだろうと考えると彼女も女だったのだなと不思議と納得したものだった。
 だが反逆者は反逆者であり、例え死刑を免れても重罪人として長期に渡る軍刑務所での拘留は避けられない。彼女が塀の外に出てくるのは何十年後の話だろうか。まあザフトに手を貸したと言われるよりはマシだったのかもしれないが。後は恩赦に期待するくらいしか出来ないだろう。

「まあ、これが最後の出撃です。ここまで生き延びたんですし、お互いに生きて終戦を祝いましょう」
「そうだな、お互い生き延びて、先に逝っちまった奴の墓の前で悪口を言いまくってやろう」
「シェバリエ大尉、それはちょっと悪趣味が過ぎますよ」
「そうだぜ、どうせなら悪口じゃなくて俺の式を皆で祝ってくれよ」

 フラガが何気ない口調で言ったので、最初彼等はそれが何を意味するのか理解できなかった。暫くしてそれが理解できた時、3人は吃驚した顔でフラガにどういうことかと問い詰めている。それに対してフラガはふっふっふと余裕の笑みを浮かべていた。

「この作戦が終わったらマリューと、って考えてるんだ」
「よく腹を決めましたね。これまでの付き合いは大丈夫なんですか?」
「ああ、こないだやっと全員に話を通してきたから大丈夫。後はマリューに申し込むだけだ」
「フラガ少佐、そういうのはOK貰ってから言った方が良いわよ。断られたら赤恥じゃすまないから」
「はっはっは、こりゃ戦後の楽しみが増えたな」

 フラガの爆弾発言にキースとレナが呆れていたが、モーガンは愉快そうに大笑いしていた。これが既婚者との余裕の差だろうか。この後キースにも彼女が居ると知ったレナが深刻な顔で彼氏作ろうかと考え出したのは年ゆえの焦りだろうか。





 出港準備も終わろうとするアークエンジェルの格納庫でMSベッドに固定されているヴァンガードのコクピットの中で、クローカーは最終調整をするといって1人で篭っていた。だか彼女はコクピットの中で端末を軽く操作しただけで暫く何もせず、そして呆れた声を漏らした。

「HAL、何故封印を解除したの。そろそろ理由を教えてくれないかしら?」

 自分しか居ないコクピットで、クローカーは独り言を呟いている。それはどう見てもおかしな姿であったが、彼女は真面目だった。そして待つ事数分、正面のモニターに文字が流れ始めた。

『申し訳ありません、ですがそれがシン・アスカの意思でした』
「シン君が、ヴァンガードの封印を解けと言ったの?」
『違います。シン・アスカは敵の防御を破ろうと必至でした。私はそれに手を貸しただけです』
「……エリカの作ったシステムも考えものね」

 クローカーがヴァンガードに施したのは封印であったが、彼女は同時にオーブの機密の塊のようなシステムを搭載していた。それはエリカ・シモンズが開発した専用コンピューター・システムで、様々な用途に特化したコンピューターが存在している。その中からクローカーはMSのサポートシステムとして使えるものをエリカから1つ譲ってもらい、ヴァンガードの搭載したのだ。カガリ用だったルージュにも同系統のシステムが搭載されており、素人同然のカガリでも動かせるようになるという優れ物になった。ただ1基作るのにルージュ1機作る以上のコストが掛かるのが難点である。これの量産化を目指した簡易版のような物は技術研究機だったM1Sにも搭載されており、シンが使う際に威力を発揮していた。
 おかげでヴァンガードはシンでも使えるMSになったのだが、ヴァンガードの特徴的な過剰スペックの封印も兼ねていたのだ。HALが許可しなければ封印は解除できないと設定し、シンにもその事実は伏せられている。アークエンジェルで知っているのはマリューとマードックくらいだ。
 だが予想外にもHALが許可してしまった。一度解かれた以上、これからも他の機能が解かれてしまうかもしれない。そうすれば最悪シンがGに耐えられずに死んでしまいかねず、クローカーはHALの設定を変更して封印を解けないようにしようかとさえ考えた。
 だが、HALはシンには自分を使いこなせる力があると答えている。人口知能であるHALが人間のような贔屓目の判断をする筈が無いので、シンにはその力があるということなのだろうか。だが全ての性能を引き出されたヴァンガードは人間に扱える代物ではない筈なのだが。
 そこまで考えて、クローカーは1つの可能性に行き着いた。まさかありえるとは思えないのだが、HALが人工知能だという事を考慮すると絶対にありえないとも言い切れない。

「HAL、まさか貴方、ヴァンガードに何かしたの?」
『何もしていませんが』
「なら、シン君は何、ロボットか何かだとでも言うの。どうやってGに耐えれるようにするのかしら?」
『私が動きを補正します、私はその為にここにあります』
「それはそうだけど、出来るの。出来なければシン君はパイロットスーツの中でミンチになるわよ?」
『私は出来ない事を提案したりはしません』

 コンピューターが出来ない事を提案する筈は無い。それは分かっているのだが、どうにもクローカーは戸惑いを感じていた。HALの相手をしていると、まるで人間の相手をしているような錯覚に陥ってしまう。
 最初にヴァンガードに搭載した頃はここまで人間臭い反応をしなかった筈なのだが、何処かで経験値を積み上げていたのだろうか。

「ねえHAL、誰か貴方の話し相手でもしてくれてるの?」
『いえ、シン・アスカの独り言を聞いているだけです』
「……何言ってるのあの子は?」
『帰ったらマユと何処に行こうかとか、ステラは元気かなあとか、
そういう事を言っています』
「筋金入りのシスコンね」

 シンの妄想爆発トークを聞きまくっているせいでこうなったのか、と理解できてクローカーは頭を抱えたくなってしまった。一応HALのデータは逐一回収して次世代アヴィオニクスの開発に役立てる事になっているのだが、これで大丈夫なのだろうか。



 やれやれとコクピットから出てきたクローカーはキャットウォークに出たところでいきなり大音量の艦内放送を聞かされて思わず耳を押さえてしまった。そしてすぐに音量が下がっていき、誰かの声が聞こえてくる。

「カズィ、音量調整間違ってるぞ!」
「い、今直しましたよチャンドラさん」
「たく、気をつけてくれよな。ああ、ただいま艦内放送のテスト中なんで、気にせず作業を続けてくれ。さっきのカズィのミスだから文句は向こうにな」

 放送の向こうでカズィが必至に弁解しているが、クローカーは苦笑しただけで気にせずに歩き出した。そしてそこでウィンダムの相手をしているフレイを見つけた。整備兵たちと一緒に何やら話し込んでいるのを見て近付いていくと、気付いたフレイが嬉しそうに声をかけてくる。

「あ、義母さん、良いところに」
「どうしたの、何か問題でもあった?」
「うん、ちょっとこれ見てよ。基地の整備に預けてオーバーホールしたんだけど、不具合がこんなに出てるの!」

 フレイが見せてくれたウィンダムの点検シートには幾つものエラー箇所が書き込まれている。どうやらプトレマイオス基地の工廠ではウィンダムを扱いきれなかったようだ。まあ未だに一部の部隊限定で先行配備されている最新鋭機なのだから仕方が無いとも言えるが、それにしてもこれは酷い。
 だが困った事にクローカーもウィンダムは管轄外なので助けてやる事は出来なかったりする。彼女はあくまでオーブの人間であり、大西洋連邦軍に正式採用された最新鋭機に触れるのは色々と拙いのだ。
 それを言われたフレイはう〜と唸りながらも残念そうに肩を落とし、そして整備兵たちに頭を下げてメンテナンスを頼んでいた。

「悪いけど、もう一度全チェックして」
「分かってるよ、こっちもそれが仕事だからな。しっかし基地の連中はアテにならねえなあ」
「ごめんね、後で飲み物でも奢るから」

 済まなそうに頼み込むフレイに整備兵たちが笑いながら請け負って持ち場に散っていく。もう一度再チェックをするのだ。それにフレイがすまなそうに詫びて自分もコクピットに戻っていく。それを見てクローカーは頑張りなさいよと声をかけてタラップを降りていったが、今度はアークエンジェルの格納庫の前でパイロットや整備兵の乗ったジープと出くわした。その暴走運転と急ブレーキに周囲の者が慌てて逃げている。

「おっし、買出し終了!」
「終了じゃねえクロト、手前の運転は危な過ぎるんだよ!」
「うっさいなあ、文句言うならオルガが運転すりゃ良かったじゃない」
「そんな事より荷物確かめるぞ。滅茶苦茶になってなけりゃ良いけど、どうだサイ?」
「今見てるけど、とりあえずかなり不味い事になってるかな」

 サイが荷台に縛り付けてある箱を開けて中を確かめている。中から雑誌とか日用品とかお菓子とかビールのケースとかが出てくるので、クルーの私物購入を引き受けていたのだろう。が、その中から拉げた紙の箱を取り出して見せた。それを見たトールの顔が引き攣っている。

「ミリィから頼まれてたケーキ、この有様だよ?」
「ま、拙い、ミリィに殺される」
「ついでに、フレイに頼まれた香水もほら」

 見れば割れた香水の瓶が。それを見たオルガとクロトの顔色が変わった。

「あ、あの小娘のもかよ……」
「ぼ、僕のせいじゃないからね。謝っといてよ2人とも!」
「ちょっと待て、運転してたのはお前だろうが!?」
「そうだ、謝るなら一緒に行ってくれ!」

 青い顔をして固まっているオルガを捨てて逃げようとしたクロトにトールとサイが両腕を掴んで逃がすまいとする。それにクロトが焦った声を上げて振り払おうとしているが、2人も必至なようで離れてくれなかった。

「は、離せよ、僕までスコップで殴られたらどうすんだ!?」
「俺たちは良いのかよ!」
「大丈夫、みんなで謝りに行けば拗ねられるくらいで許してもらえるって!」
「キラがボロ雑巾にされたって聞いたよ!」

 どうやらフレイのキラに対する数々の暴挙は周囲にも伝わっているようだ。ギャアギャアとジープの上で揉めている4人にクローカーはおかしそうにくすくすと笑い、港から去っていった。とりあえず一度ユウナに話をしておいた方が良さそうであったから。



 このオルガたちの騒動をドミニオンのウィングからつまらなそうに見下ろしているシャニが居た。彼はここでゲーム仲間となっているクルーと共にボードゲームをしていたのだが、聞き覚えのある騒がしい声にそちらを見て、何やってんだかと呆れていたのだった。

「また馬鹿なことやってるよ」
「どうしたんだシャニ、お前の番だぞ」
「ああ、そう……4か」

 回したルーレットの分だけ駒を進めて、止まったマスの内容を読む。

「……株が大暴落、資産が半減、マジかよ」
「はっはっは、これは俺の勝ちかな。後でジュース奢り忘れるなよ」
「まだ負けた訳じゃない!」

 シャニは向きになってこれから逆転する術を考える為、人生ゲームのボードを睨みつけていた。




 キラは1人で展望室に来ていた。ベンチに腰掛けてのんびりとしている様子は何処か穏やかで、メンデルから戻ってきた時の暗さは見受けられない。その隣にはフレイの所に居ついている浮気者のトリィが居て首を傾げながら鳴いているが、キラにそれが聞こえている様子は無かった。

「キースさん、ユーレクさん、ラウ・ル・クルーゼ、僕の知らない何処かの誰か、随分沢山巻き込んでて、考えると馬鹿らしくなってくるな」

 自嘲気味な笑みを浮かべて、キラは天井を見上げてじっと考え込んだ。この戦いに巻き込まれてからいろんな事を知ってしまったキラは悩む事が多くなったが、メンデルで知った真実は極めつけだった。コーディネイターはただの異分子だというのなら、ブルーコスモスの言い分もあながち間違ってはいなかったのだろうか、とさえ思えてしまう。

「宇宙の化け物ども、か。少なくとも僕たちはそうなんでしょうね、ユーレクさん」

 この世界には自分以外にももう1人の自分が居るとユーレクは言っていた。ならば彼も自分のような化け物なのだろう。最高のコーディネイターという訳の分からない評価も今なら何となく理解できる。自分の身体にどれ程の改造が施されているのかは分からないが、そんなに手を加えられた存在は本当に人間と呼べるのだろうか、と自分でも疑問に思えてしまうくらいなのだから。
 自分は多分コーディネイターという分類からさえも外れた実験動物だ。自分が身に覚えの無い恨みを方々から買っていたのもメンデルに原因があったのだ。確かにあれでは逆恨みだと分かってはいても仕方が無いとさえ思えてくる。それほどあそこは酷かった。あそこで研究をしていた自分の実父とは、狂気に憑かれていたのではないだろうか。
 そして、その狂気が生み出した悲劇は今の世界を蝕み、悲劇を拡大しようとしている。これは人類を蝕むウィルスのような物だ。

「もう終わらせないとね、こんな事は。メンデルから始まった悲劇には僕が、キラ・ヒビキがケリをつけなくちゃいけないんだ」

 戦争を終わらせてもこれが残っている限り、また同じ事が起こされる。少なくとも2度とメンデルを発端とする悲劇を再発させない為に、キラはこの問題にケリをつける覚悟を固めていた。
 そしてキラが隣にいるトリィの頭を撫でてやり、トリィにフレイの事を頼むよとお願いしていると、展望室に新たな客がやってきた。それが誰かを察したキラは無言でベンチから腰を上げる。

「全く、僕をデートに誘うなんてどういう心境の変化ですか?」
「呼び出してすいません、アズラエルさん。でも頼めるのが貴方しか居なかったんです」

 そう言ってキラは振り返った。コーディネイターにとって最大の敵とも言える人物、軍需産業連合理事ムルタ・アズラエルを。

「貴方にお願いがあるんですよ」
「コーディネイターの君が僕に誰にも言えないお願いを、ですか。聞くと思っているんですか?」
「はい、思っています。貴方は悪人ですが信頼出来る人ですから。これまでも何だかんだ言っても僕たちを助けてくれました。タダじゃなかったですけどね」

 キラの返事にアズラエルは肩を竦めて返し、ベンチに横柄に腰掛けて何をして欲しいのかと続きを促す。そしてキラはアズラエルに1つの頼み事をしたのだが、それはアズラエルをして我が耳を疑わせる物であった。





 この日、地球連合総会でプラントに対する侵攻作戦、エルビスの発動が正式に決定され、連合軍総司令部に艦隊の出撃が命じられた。これはプラントを降伏させる事が狙いであるが、降伏しない場合にはプラントの完全破壊も視野に入れた作戦であり、連合諸国がプラントを失う痛みを容認した事を意味している。ただ、同時に1つの謀略に関する事情が各艦隊司令官に伝えられ、アズラエルの命令があった時点で全軍が即時に停戦する事も通達されている。
 月基地から100隻を超える大艦隊が出撃した。それをザフトの偵察艦であるエターナル級から発進していたジャスティスが発見してボアズに緊急信を送る。この大軍の出撃を地球軍の大攻勢の始まりだと察したザフトは周辺の哨戒艦隊を呼び寄せてボアズの守りを固め、更に本国からも増援を求めようとしたがこれはザフト上層部で意見が割れた。本国の部隊を引き抜けば万が一にも本国が奇襲を受けた際に抵抗出来ずに蹂躙されてしまうかもしれないからだ。
 これは暫く揉める事となったが、すぐに本国の艦隊は動かさないという事になった。プラント周辺に地球軍のヤマト級戦艦と思われる超大型艦が姿を見せて攻撃を加えてきたからだ。これは超遠距離から短時間だけ行われた物であり、ザフトは陽動であろうと判断したが、相手が相手なので無視する事も出来ない。その火力はプラントを直撃すれば一撃で破壊可能と推測されている。それが分かっているのに近付かせる訳にはいかない。
 この為にかなりの戦力が本国に残る事となったが、それでもボアズに集まったザフトは宇宙軍全体の6割にも達する膨大な物であり、まさに総力を結集した布陣だと言える。
 しかし、ボアズに集まったザフトは地球軍をどう迎撃するかで方針が割れてしまった。ウィリアムスやマーカストは艦隊を持って出撃し、機動力を生かして迎撃するべきだと主張し、ボアズ基地司令のオズボーン司令らは戦力分断の具を犯すべきではないと言い、全軍をボアズに集中させて迎え撃つべきだと主張している。

「ザフトの優位はその機動力にある。要塞で迎え撃てば艦艇はただの防塁となり、その特徴を殺されてしまう!」
「だが出撃すれば敵の大軍に飲み込まれるだけだ。要塞砲や駐留のMS隊の支援無しでどうやってあの大軍を押し戻すつもりだ!?」
「ここで穴熊のように篭って包囲されるのを待てというのか!?」
「各個撃破の愚を自ら犯すべきではない!」

 これは艦隊派と本国派のぶつかり合いでもあった。艦隊に乗って戦場を駆け回ってきた提督たちは要塞に貼り付けられてただの防塁となる事が我慢できないが、本国派はこれまでのザフトの敗因が悪戯な戦力の分散に有ると考え、全力を一箇所に集めて運用するべきだと考えている。
 互いに決して間違っている訳ではない。ただ信じる道が違うのだ。だから互いに譲れない、必死になっておのれの意見を主張している。誰もがこの戦いに負ければ後が無いと知っているから中々退く事も出来ない。いつもなら調整役に回る筈のウィリアムスも沈黙しており、場を纏めようとはしていない。

「此方にも80隻の艦艇と500機を超す艦載MSがある。これだけあればやつ等に相当の打撃を与える事も不可能ではない!」
「不可能ではないだろうが、こちらの艦隊も壊滅する。それでその後はどうする気だ。過去にも数十隻の艦隊で地球圏に幾度も挑んだが、悉く大損害を受けてきた事を忘れたのか。しかもそれで敵にまだ余力があれば、ボアズからプラントまで一気に抜かれるのだぞ!」
「敵の総力を相手取るより、各個撃破に望みを繋ぐべきではないか!?」
「いい加減にしろマーカスト、本国の統合作戦本部の決定はボアズでの迎撃なんだぞ!」
「細かい運用にまで口を挟まれる謂れは無いはずだ。それとも敵の全軍をこのまま座して待って勝算が立つと言うのか!?」

 一向に纏まらない意見。マーカストたちが必至に抵抗を続けるのに業を煮やしたオズボーンはとうとう上層部の権威を持ち出して彼等を押さえにかかる。流石に上層部の作戦方針を盾にされるとマーカストも苦しいのかトーンが下がったが、まだ引き下がろうとはしていない。
 だがトーンが下がったことで勢いが落ち、オズボーンたちに押し切られてしまった。艦隊主力はこのままボアズに固定し、前線の基地には偵察能力を残して撤退するように通達が出される。
 しかし、この決定は余りにも遅すぎる物であった。この時周辺の前線基地には陽動を兼ねた遊撃部隊の攻撃が開始されようとしていたのである。
 そして更にザフトに凶報がもたらされた。偵察部隊から月やグランソート要塞から大艦隊が出撃したという報せがもたらされたのである。それはボアズ基地のザフトを絶望させるほどの圧倒的な大軍であった。




後書き

ジム改 遂に最終決戦に向けて突撃。
カガリ 私とアスランの縁はあの空き缶かよ。
ジム改 タイトルがそうなってたじゃない、運命の出会いなのって。
カガリ そんなの誰も覚えとらんわ!
ジム改 地球軍は全力出撃ってわけでは無いのだが、ボアズ守備隊の数倍の大軍です。
カガリ 嫌になるような数だな。
ジム改 マーカストが出撃すれば3群のどれか1つなら潰せたかもな。
カガリ でもマーカストの方もズタボロだろ?
ジム改 まあこれまでの勝負を見れば一方的勝利は望めないな。
カガリ 進んでも退いてもどうにもならんな。
ジム改 まあオーブが攻められた時もそうだっただろ。
カガリ あれってきついんだぞ、私も待ってる間胃が痛かったんだ。
ジム改 そうやって人は成長するのだよ。
カガリ たく。ところでヴァンガードの人工知能ってなんだ?
ジム改 エリカがハチとかいうオーパーツを真似て作ったコンピューターだよ。
カガリ ああ、あのコアファイターのモガモガ!
ジム改 それ以上は検閲事項だ。
カガリ わ、分かったよ。でもルージュにも載ってたんだよな。
ジム改 原作ではな。うちでも載ってたが、カガリは使わなかった。
カガリ 煩い! それでは次回、陽動がてらクリントに襲い掛かる第8任務部隊。各地で蹂躙されるザフト。迫る地球軍の圧倒的な戦力にボアズは震え上がり、イザークたちは悲壮な覚悟をする。そしてクルーゼは1人勝利の笑みを浮かべて出撃するが、その狂気を垣間見てしまった者が。次回「開く扉」でまた会おうな。

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