第183章  創世の光



 ボアズからザフト艦隊が離れていく。Wフィールドから20ほどの艦艇がSフィールドに向かっており、Eフィールドからは40隻ほどの輸送船と10隻に満たない戦闘艦がSフィールドを目指している。それ以外にもあちこちに移動して右往左往している船もあるが、これは完全にはぐれた物だろうか。
 Wフィールドからの脱出を試みているのはウィリアムスとマーカストに率いられた少数の部隊であった。逃げ出している艦隊の殿を務めるように5隻の艦艇が後退しながら地球軍の追撃に反撃を加えている。

「ウィリアムス、艦隊を撤退させるのにどれだけかかる!?」
「艦隊の指揮系統の建て直しにまだ少しかかる。損傷艦は全て捨てていく事になるぞ」
「仕方が無い、どうせ持って帰っても直している時間は無いからな」
「それはそうだ。よし、できるだけ急いでくれ。こっちはもう少し頑張る」

 マーカストは通信を切ると、今度は共に殿を務めているジュディとの間に回線を開いた。

「アンヌマリー隊長、悪いが最後尾で暫く持ち堪える事になった」
「分かっていますよ。ですが、なんだか様子がおかしくないですか?」
「君もそう思うか」

 マーカストとジュディは何故か追撃を仕掛けてこない地球軍の動きをおかしく思っていた。撤退に入った敵に追撃を加えて戦果を拡大するのは常識であり、本来なら地球軍はこのまま数に物を言わせて押し込み、自分たちの殲滅を試みる筈だ。少なくとも自分たちならそうする。
 だが地球軍は追撃を仕掛けてこようとはせず、なぜか艦隊をボアズから遠ざけるように散開させている。まるで自分たちの存在を無視しているかのようで、追撃してきているのは一部の艦隊だけだ。まあそれでも10隻以上居るし、MSやMAの数は圧倒的なので不利な状況に変わりは無いのだが。
 ジュディは迫るMSやMAを示す光点の数を見てウンザリした顔になった後、副官を振り返ってどれだけ戦えそうかを聞いた。その問いを受けた副官は沈痛な顔で現在の戦力を上官に伝えている。

「ビームエネルギー、ミサイル共に底を尽きかけています。何しろ碌に補給を受けていませんから」
「向こうは交代で攻めれるけど、こちらは常に全力で反撃だったものね。それじゃあMSの方も?」
「弾と推進剤、バッテリーの充電待ちの機体が並んでますよ。MSより船の消耗が早かったんで、母艦を無くした奴が集まっています」
「……踏んだり蹴ったりね。弾薬は足りるの?」
「ビーム兵器はもう無理です。重突撃機銃と機甲突撃銃はまだありますから、ゲイツ系もこれに持ち替えてます。ですが、今度出撃したら再度の補給は……」
「まあその辺は考えなくても良いわ。補給がどうなるかより先にこの船が沈んでるかもしれないから」

 MSが補給に戻ってくる前に船が全部沈んでいる可能性のほうが高い。そういうジュディに、副官は肩を落として仕事に戻っていく。自分たちの運命は既に決まっているという事を悟ったのだろう。
 その背中を見たジュディは小さくため息をついて、辛いのは私も同じだと呟いていた。

「旦那と子供の顔を、もう一度見たかったわね」

 本国に残っている別居中の家族の事を思い出して、ジュディはもう一度小さくため息を漏らした。




 Wフィールドから脱出組が最後の抵抗を続けていた頃、Eフィールドでは虐殺と表現しうるような戦いが続いていた。これまで投入する時期を逸したまま死蔵されていたガルムが全力投入され、そして目標とした敵艦にたどり着くことも出来ずに次々に撃墜されていたのだ。
 第3集団正面に展開していたMSやMAはイザークが率いるMS隊の超人的な活躍で撃破し、ガルム隊が突入する為の突破口を切り開く事に成功している。イザークの指揮下には元々のEフィールド守備隊以外にもクルーゼの部隊の一部やNフィールドを脱出してきた部隊などがおり、数はそこそこに揃っていた。
 イザークはそのままガルム隊の露払いをしようとしたのだが、そこに第3集団のMS隊第2波とNフィールドからEフィールドにやってきた地球軍の艦艇やMSが突入してきてそちらへの対応に部隊を割かれてしまい、勢いを減じる事になっている。特にNフィールドから来た部隊にはあの足付きの部隊と思われるMSの姿も有ったのだが、イザークはあえて部下を伴ってガルム隊の守りに勤めていた。


 だが、突入したガルム隊の前にはまだ敵が残っていた。第3集団周辺には手が空いて敵を探していた第1集団のMA部隊がやってきており、多数のコスモグラスパーが対艦ミサイルを抱えてよたよたと飛んできたガルムに襲い掛かったのだ。
 ガルムのパイロットの大半は機体を横滑りさせて敵弾を回避する術も知らないひよっ子で、敵艦に真っ直ぐ突っ込んでミサイルを叩き込んで逃げてくる事くらいしか出来ない。その指揮を取っているパイロットの中にはアスランの薫陶を受けた第一次練成メンバーも多く、第7任務部隊に攻撃を仕掛けた際の経験を生かして補充兵を引き連れて突入していたのだ。
 だが、彼らも実戦の経験は一度しかない。一度でも有るか無いかでは大きな差が出るのだが、この状況では大きな意味を持たなかった。自分よりも高速で大きな火力を持つコスモグラスパーはMS以上にガルムにとって厄介な相手だったのだから。

「全機集まれ、防御火力を集中して敵を撃退しろ!」
「無理です、向こうの方が速い!」
「後ろに付かれた、誰か落としてくれ!」

 複数のガルムの編隊が突入してくるコスモグラスパーめがけて重突撃機銃を放っているが、全く役に立っている様子は無い。コスモグラスパーは鰯の群れを襲うカツオドリのように突撃してはガルムにアサルトパックのリニアガンを叩き込み、下部に抱えているガトリングガンの火線に捉えて残骸へと変えていく。
 1機のガルムがスクラップに変わるたびに2人のパイロットの命が失われ、だんだんと数が減っていく。時折運の悪いコスモグラスパーが被弾して離脱していくが、これほど一方的な戦いはこの戦争の全体を見回しても例は少ないだろう。
 ガルムが碌な回避運動も取らずに次々に撃墜されていった為、余りにも簡単な仕事に地球軍のアーマー乗りたちは撃墜数を稼ぐチャンスだと勇んでガルムに襲い掛かっている。後に大西洋連邦のパイロットたちがボアズの七面鳥撃ちと揶揄するほどの一方的な戦いがそこにはあった。


 そんなガルム隊を守ろうと一部のザフトMSが地球軍のMSやMAに攻撃を加えていた。それは焼け石に水よりはマシなようで、驚くべき活躍を見せている。イザークとフィリスのインパルスと、センカのフリーダムを中心とする20機ほどの部隊で、群がってくるオリオンやストライクダガー、M1を蹴散らしている。その姿は往年の強かった頃のザフトを思い出させる姿であったが、離れた所から見ればそれは無数の地球軍MSに囲まれて必至に抵抗しているようにも見えた。

「くっそお、数が多すぎてガルムの援護に入れんじゃないか!」
「無茶ですよ隊長、この数が相手じゃ突破なんて!」
「フィリスの言う通りさ、これじゃ前になんか進めっこない!」
「無茶は百も承知してる、それでも何とかするんだよ!」

 突き出されたオリオンの槍を横に滑るように動いて回避し、エクスカリバーでオリオンの右腕を叩き斬って追い払う。既に撃破した敵機の数は数えてはおらず、とにかく前に現れた敵機の対応に必至になっている。
 イザークとしてはガルム隊の負担を少しでも減らそうという義務感の現れであろうし、実際に被害を減らす効果はあると思われるのだが、同行しているフィリスとセンカにはどう考えても焼け石に水としか思えなかった。ぶっちゃけもう指揮系統も崩壊しているのだし、このままガルム隊と一緒に逃げ出してもだれも文句は言わない気さえする。
 しかし無謀としか思えない突撃を繰り返すイザークの姿にフィリスは静止する事は諦め、独自に退路を考える事にした。あれではイザークは説得を受け入れないだろうが、もしもの際にはイザークのインパルスを引きずってでも逃げなくてはいけないだろう。

「どうしますかセンカさん、このままだと全滅は間違いなさそうですが」
「出来れば逃げ出したいんだけど、イザークはあの様子だしね。それに、ここまで来るともう逃げた方が良いのか、諦めて前に進んだ方が良いのか微妙だよ」
「確かに、後ろも敵だらけですしね」

 レーダーは四方八方に敵機を捉えている。完全に敵中に孤立しているのだ。これではもう戻る事も難しいかもしれない。フィリスは憂鬱そうな顔になると、後方に下がった筈のヴェザリウスの事を考えてしまった。

「ジャックさん、エルフィさん、シホさん、私たちの帰る場所を残しておいて下さいよ」

 ヴェザリウスは無事だろうか。母艦の馴染みの兵たちの顔を思い浮かべて、フィリスは護衛に残っている仲間たちにそっとお願いしていた。しかし、この時脱出を試みている艦隊にも地球軍の追撃の手は伸びていたのだ。
 第3集団の一部は脱出を試みている輸送船団に襲い掛かろうとして、間に立ち塞がる護衛艦艇との間に激しい砲撃戦を演じていたのだ。

「敵をここから通すな、駆逐艦1隻でも通せば輸送船が食われる!」

 ヴェザリウスの艦橋で指揮を取っていたアデスが身振りを交えて部下を叱咤し、ここに留まっている艦隊を鼓舞している。追撃を仕掛けてきているのはいずれも完全に時代遅れの旧式艦であり、本来ならナスカ級やローラシア級の敵ではない筈なのだが、今回は相手の数が多すぎたのだ。それに旧式艦といっても発射するミサイルなどの威力が劣るわけではない。多数の艦が一斉に発射してくるミサイルを複数箇所に直撃されたローラシア級が1隻船体をズタズタにされて大破している。
 そして更に悪い事に、地球軍のMSやMAの一部が壁を作っていた戦闘艦艇を無視して輸送船団に襲い掛かっていった。オルマト号もその攻撃に晒されており、懸命の回避運動と僅かな砲を頼りに必至に抵抗を繰り返していた。

「下方より敵機が来ます、バズーカ装備機2機を含む!」
「対空火力を集中しろ、アンチビーム爆雷はどうした!?」
「もう使い切りましたよ、貨客船改造の船にそんなに積んでるわけ無いじゃないですか!」
「分かったから怒鳴るなユーファ!」

 周囲の輸送船からあるだけの対空砲と主砲が下方から迫るMSに向けて放たれたが、MSはそれらの攻撃を容易く回避しながら距離を詰めてくる。かつてジンに散々にやられた悲哀を今度はザフトが味わう番かと思われた時、先頭を行くストライクダガーの真横からぶつかるようにしてゲイツRが襲い掛かり、ゲイツシールドのビームクローで胸部を刺し貫いて吹き飛ばした。

「そう簡単に抜かせるかよ、まだ俺たちは負けたわけじゃない!」
「まあ、負けそうになってるって処よね」
「エルフィさん、こんな時に冷静に突っ込み入れてないで下さい――!」

 息を合わせて突っ込んできた2機のゲイツRが1機を蜂の巣にして撃破し、もう1機をビームサーベルで頭部を貫いて無力化する。ジャックたちが割り込んできたのだ。この3機は先ほどから輸送船団に迫る敵機をとにかく蹴散らして回っていて、八面六臂の大活躍を続けている。
 その姿はかつてのアスランたちを髣髴とさせるような強さで、彼らがザフトでも指折りのエースの1人に成長している事を示していた。だが彼らの奮戦がどんなに素晴らしくても、全てを防ぎきれるわけではない。ストライクダガーやメビウスは3人のゲイツRを避けて輸送船に迫り、ビームやロケット弾、ミサイルを叩き込んで確実に仕留めていた。
 だんだんと数が減っていく輸送船団にジャックは歯噛みして悔しがっていたが、その時いきなりシホが悲鳴を上げた。

「ジャックさんエルフィさん、ヴェザリウスが!?」
「なんだ、ヴェザリウスがどうしたって!?」
「ジャック、ヴェザリウスが燃えてるわ!」

 そう、それまで地球艦隊を交戦していたヴェザリウスが複数箇所に直撃を受け、ところどころが赤熱化していた。どう見ても爆沈寸前という姿をしている。

「なんだ、何があった、何でヴェザリウスが!?」
「狙われた輸送船の前に飛び出したんです、それで盾になって!」

 輸送船を守ろうと砲撃の前に飛び出してしまったようだ。おそらくはアンチビーム爆雷による防御くらいはしていたのだろうが、集中した火力はこの防御を破ってしまったのだろう。悲鳴を上げているヴェザリウスに止めを刺そうと集まってくるMSを何機か始末したジャックたちだったが、ヴェザリウスから脱出してくる者が居ないのを見て苛立っていた。

「どうした、早く脱出してこい!」
「ジャックさん、格納庫が吹き飛んでます。あれじゃ内火艇も全部!」
「なら脱出ポッドは、あれはあちこちにある筈だぞ!?」
「それが、1基も出てきません。何かあったのかも……」

 格納庫を吹き飛ばされたせいで、脱出したくても出来ないのだ。状況を理解してどうにも出来ない事に焦る3人だったが、艦橋の方に回ったエルフィはそこで窓際で敬礼をしているアデスを見つけてしまった。

「艦長、そんな所に居ないで早く脱出をっ!?」

 エルフィが早くポッドに移ってくれと叫んだが、彼女の見ている前で艦橋は炎に飲まれ、敬礼をしていたアデスも炎の中に消えた。そして艦橋が内側から破裂するようにして爆発し、すぐに船体各所から爆発の光が溢れて飲み込まれていってしまった。

「ヴェ、ヴェザリウスが……」
「エルフィ、他の援護に回るぞ。戦いはまだ終わってないんだ!」

 呆然とするエルフィをジャックが叱咤して他の部隊への援護に回らせようとしたが、エルフィは動きを止めてしまっていた。ショックから立ち直れないでいるのだ。これじゃ仕方が無い、ジャックはエルフィのゲイツRをシホに引きずらせて下がらせ、自分がそれをカバーした。
 だが、ヴェザリウスの撃沈が周囲にもたらした影響は大きかった。それまで旗艦としての役割を引き受けていたヴェザリウスの撃沈は指揮系統の崩壊を意味し、更に歴戦の戦艦が沈んだという現実は他の艦長たちに心理的なショックを与えていたのだ。
 それまでの統率を失ってバラバラになっていく。性能が異なる輸送船なのでどの船も全速を出せば当然バラバラになってしまう。それはそれまで群れで作っていた防御火力の崩壊を意味しており、敵に食われる船が増える事になってしまう。



 崩れだした船団の中でダナンはどうした物かと顎に手を当てて考えていた。艦橋のクルーが慌てふためいて自分の仕事に没頭しているが、それさえも視界に入っていないようだ。

「所詮は烏合の衆か、アデスが死んだだけでこうも脆いとはな」
「船長、暢気に構えてないでどうするのか決めてください!」
「決まっておるだろう、ガルムの収容予定ポイントに向かうぞ。その辺りに敵の姿は?」
「観測データでは今の所居ません」
「結構だ、そこに向かうぞ」
「ですが船長、地球軍の追撃を受けるかも。それに護衛はどうするんですか!?」

 オペレーターたちが驚いた顔でダナンを見るが、ダナンは落ち着き払って部下たちを見回して、きっぱりと断言した。

「私はガルム隊を待つと約束した。それを反故にする気は無い」
「それはそうですけど、そこまで辿り付けるんですか!?」
「何とかするまでだ。周囲のMSや船にも声をかけ、同行者を募ろう」

 彼らを見捨てるつもりは無い。そう言い切ったダナンにクルーは唖然とし、そして渋々自分の仕事に戻りだした。不満はあるが、船長がそう決めたのならば従おうというのだろう。誰もがダナンに全幅の信頼を置いているのだ。





 Eフィールドを駆け抜ける2機のMS、プロヴィデンスとセンチュリオン。プロヴィデンスは10以上のドラグーンを展開させてセンチュリオンを攻撃し、センチュリオンは7基のフライヤーを伴ってドラグーンを迎撃している。互いに無線誘導端末同士の激しい消耗戦を行いながらのMS戦という、彼らにしか出来ないような戦闘を続けていた。
 1機のMSが多数の砲台と共に移動しながら戦闘を行うという姿は周囲の戦闘とは完全に別世界の物で、MSという兵器の時代が何となく終わりを迎えるんじゃなかろうか、という予感をさせてくれる。
 フラガはフライヤー2基をプロヴィデンスの背後に回りこませようとして、クルーゼがそれをドラグーンで妨害してドッグファイトが起きる。フライヤーは数が少ないが自立能力がある分ドラグーンより有利に戦える。だがドラグーンも数の利点を生かしてプロヴィデンスの防空を完璧に勤め上げており、双方共に決定打を欠いていた。
 ただ、クルーゼやフラガといえどもこれだけの数の端末を同時に操作し、激しいドッグファイトを演じさせるというのはとてつもない消耗を強いることであった。2人は荒い息をつき、額に髪を張り付かせながら大量の汗を流してその辛さに耐えている。
 その激しい動きの中で、クルーゼは愉快そうに笑いながらフラガに話しかけ続けていた。

「どうしたムウ、貴様の力はその程度だったのか?」
「うるせえ、手前だって死にそうな顔してやがるくせに、何強がってやがる!」
「ふふふ、そうだな、確かに私は死にそうかもしれん。だが、ここまで愉快な気分の中で死ねるのなら悪い物ではあるまいよ」
「狂ってやがるぜ。大体、何でお前はいつも俺を付け狙うんだ!?」

 何でそんなに俺に執着するんだ、とフラガは疑問をぶつけたが、それを聞いたクルーゼは心底おかしそうな声を上げて笑い出した。

「あははははははっ、そうか、そうだったな、貴様は知らないんだった」
「何をだ!?」
「そうだな、論より証拠だろう。これを見ればすぐに理解できるだろうさ」

 そう言って、クルーゼはヘルメットを脱いでその仮面を外した。フラガは最初その行為が理解できなかったが、素顔になったクルーゼの顔を見て一瞬考え込み、そして記憶の中にある見覚えのある顔と重なった時、まさかという顔になった。

「おいおい、何の冗談だよこりゃあ?」
「冗談ではないさ、貴様にも見覚えがある男の筈だぞ」

 まさか、そんな馬鹿げた事が。フラガは信じられないという顔で頭を左右に振っているが、クルーゼはおかしくてたまらないという様子だ。フラガの困惑している顔が彼には愉快でたまらないのだろう。

「そうだムウ、私はアル・ダ・フラガなのだよ」
「馬鹿を言うな、親父は死んだ筈だ。それに親父はそんなに若くは無かったぞ!?」
「それは簡単な理由だ、私は奴のクローンなのだよ。つまり私は彼そのものなのだ」
「クローンだあ、あの糞親父そんな事までしてたのか!?」

 自分の父親が人道主義の聖人君子だとは思わないが、まさかそんなトチ狂った犯罪に手を染めていたとは。クローンが禁止されているのは遺伝子操作が普及している現代でも当たり前になっているのだから。
 現実を受け入れらないでいるフラガを無視してクルーゼはなおも話を続けている。

「貴様に会ったのはまだ子供の頃だったな。パーティー会場が炎上した日を覚えているだろう?」
「……ああ、覚えてるさ。お袋が死んだんだからな。だがその時に俺がお前に会っただと?」
「そうだ、その時に私と貴様は会っているのだよ。そして私は貴様を憎んだのだよ。あの時の怒りが今の私を作ったのだ!」

 プロヴィデンスがエネルギーが尽きたビームライフルを捨て、ビームサーベルを抜いてセンチュリオンに斬りかかるが、センチュリオンの展開した光波シールドに阻まれた。そのまま暫く押し合っていたが、プロヴィデンスの方から離れていった。

「分かるかムウ、生まれながらにして未来を奪われた者の絶望が。貴様を見たときの私の怒りが!」
「知るかそんなの、お前の唯の嫉妬だろうが!」
「ああそうだ、嫉妬だよ。だがそれが人類を滅ぼすのだ。私は人類の欲望が生み出した破滅の鍵なのだ!」
「なら、俺がここでお前を殺せば人類救済と腐れ縁が同時に解決って訳だな!」
「子が親を超えられるのか、ムウ!?」

 再びビームサーベルを手に激突するフラガとクルーゼ。残り僅かとなったドラグーンとフライヤーが再びドッグファイトを始め、小型砲台と戦闘機がMSの周囲で激しく動き回りだす。周囲には既にアンテラたちを突破した地球軍のMSの姿も有ったのだが、その余りにも非常識な戦いぶりに近づこうとするものは居なかった。
 いや、1つだけ居た。ルナとレイを追い掛け回しているシンだ。3機は乱戦をしながら遂にこの宙域にまで来てしまったのだ。
 この3機に気付いたアンテラがすぐにルナとレイに他に行けと命令したのだが、2人の相手は余りにも強力だった為にそんな余裕はなかった。アンテラにもそれはすぐに分かったのでヴァンガードを近づけないようにMSを派遣する事にしたのだが、3機に続いて非常に嫌な集団が姿を現したのに気付いた。

「フリーダムにウィンダム、少し遅れてカラミティにレイダー、何でこんな時に!」
「どうした?」
「厄介な敵が来たわ。私はここを動けないからスウェン、貴方が行きなさい」
「了解した。だが、1機ではあれを止めるのは不可能だが?

「分かっている、他にも部隊を回すわ」

 アンテラはスウェンの実力はよく理解しているが、それ以上にあのフリーダムを含む部隊、足付きのMS隊の出鱈目な強さも嫌になるくらいに知っている。今クルーゼと戦っているフラガも、レイやルナを追いまくっているヴァンガードのパイロットもそうだが、とにかく強い。スウェンが弱いとは言わないが、恐らく勝てないだろう。自分でも勝てると言える自信は無い。
 アンテラに言われてスウェンがザクウォーリアを駆ってフリーダムの方に向かっていき、他にも多数のザクやゲイツがそちらに向かう。他が薄くなるがあれを突破させるわけにはいかないと判断したのだ。
 だが、止められるだろうか。戦闘用コーディネイターの中でも優れているガザードでさえ苦戦したあのキラ・ヒビキを。




 Eフィールド戦場にやってきたキラたちは急いでフラガの援護に入ろうとしたのだが、それは割り込んできた新手によって阻まれた。ザクやゲイツといったMSを持つ部隊で、キラたちはまだこんな部隊が残っていたのかと驚いたくらいだ。
 だが数はたいした事は無い。彼らはこのまま振り切ってしまおうとしたのだが、その敵の中から覚えのある気配を感じたフレイが動きを止めてしまった。

「キラ、ステラちゃんを見つけた。やっぱりザクに乗ってるわ!」
「ならシンをそっちに。僕はフラガ少佐の援護に入る!」

 キラはステラを助けるよりもフラガを助けに行く事を優先し、敵機を蹴散らしながら更に前へと進んでいく。しょうがないなとフレイはシンに連絡を入れ、ステラを見つけたことを伝えた。

「シン、ステラちゃんを見つけたわ」
「ちょ、ちょっと、こんな時にいきなり言われても!?」
「じゃあ、今回は見逃す?」
「出来るわけ無いでしょ。ああもう、今行きますよ!」
「そんなに焦らなくても、すぐ近くじゃない。何パニック起こしてるの?」

 シンはフレイたちのすぐ傍でインパルスやフリーダムを追い回していたのだが、どうやらそれに夢中になる余り周囲が全く視界に入っていなかったらしい。言われて初めて気付いたシンはアレっと間抜けな声を漏らし、フレイの表情が少し引きつる。

「シン、戦闘中は常に周囲に気を配れって、教えたわよね?」
「い、いや、勿論気付いてましたよ。すぐに行きますから!」

 フレイの声に殺気を感じたシンは血の気の引いた顔で喘いでいる。フレイを怒らすとどれだけ怖いのか、シンは良く知っていたのだ。慌ててフレイの方にヴァンガードが移動していき、それまで追い詰められていたルナマリアとレイは肩透かしを食らわされながらも、助かったという安堵感に胸を下ろしている。

「た、助かったわね」
「だが、何故あそこまで追い込んでおいて、急に移動したんだ。あのまま行けば俺たちは間違いなく殺されていた」
「そんな事知らないわよ。今は助かっただけめっけものって思って、さっさとミネルバに逃げましょう」
「……いや、俺はもう少し残る。ルナは先に戻っていてくれ」
「何でよ、レイだってもうボロボロでしょ?」
「野暮用だ。気にしないで戻ってくれ」

 レイのフリーダムはヴァンガードを追うように再び戦場へと戻っていく。ルナマリアは自分を放っておいて行ってしまった友人に愚痴を建て並べていたが、仕方なく言われたとおりにミネルバに戻っていった。先のヴァンガードとの交戦でインパルスは中破と呼べる損害を受けており、シルエットの交換が必要な状態になっていたから。





 ザフトがボアズから撤退していく。どうやら基地内部に残っている兵員は見捨てられたようだ。全体を確認していたマリューは戦闘はほぼ終息に向かっていると判断していたが、月から送られた緊急通信を受けて地球軍の動きもかなり混乱をきたしている。ハルバートンの第2集団は既に散会しているようだが、第1、第3集団はまだ纏まったままだ。
 未だにザフトの小規模な部隊がE、Wフィールドに残って抵抗を続けながら、主力はSフィールドから脱出を試みている。サザーランドの警告がなければ総力で追撃を行って殲滅してしまいたい所なのだが、そういう訳にもいかない。

「ザフトの動きは鈍いわね、本当にジェネシスとかいうのを使うのかしら。どう思うノイマン?」
「常識で考えれば撃つわけが無いって言いたいんですけどねえ。台湾の時もそうでしたし、連中は追い詰められると正気とは思えない事をしますから」
「可能性は否定しきれない、か」

 台湾の戦いの事を思い出し、マリューの顔にも苦渋の色が浮かぶ。あの戦いにおいてザフトが薬物を使用した兵士にカミカゼをやらせた事は今でも忘れる事は出来ない。特に年少兵たちは暫く使い物にならないほどのショックを受けていた。あんな事をするような連中なら、味方ごと吹き飛ばす可能性はある。

「でも、今更何処に逃げても一緒でしょうね。アークエンジェルはここから動けないし、ボアズが盾になってくれると期待しましょう。それより、ドミニオンとヴァーチャー、パワーはどうなってるの?」

 マリューはCICを見てサイにミネルバとの交戦で損傷した僚艦の状態を尋ねた。

「ドミニオンとヴァーチャーは中破、パワーは小破ですね。ドミニオンとヴァーチャーは工作艦で修理を受ける予定です」
「それで良いわ、もう戦いも終わりだから。理事もよろしいですか?」

 マリューは補助シートに腰掛けてじっと何も言わずに考え込んでいたアズラエルに問いかけた。アークエンジェルの行動はそのままこの男の命運にも直結しており、マリューには彼の意思を尊重するように上層部から命令が出されている。場合によってはアズラエルの安全のために戦場を離脱する事もありえるのだ。
 だが、これまでの所アズラエルはマリューの指揮権には干渉してこなかった。別にマリューの指揮権を尊重しているわけではなく、単に口を挟む必要がなかっただけなのだろうが、それでもありがたい事である。
 今回もアズラエルはマリューに問われるまで一切口を挟んではいない。サザーランドからの警告を受け取って以来ずっとなにかを考え込んでいる。だがマリューに問われたアズラエルは考え込むのを止めると、顔を向けて頷いて見せた。

「良いでしょう。確かに艦長の言う通り、ここが一番安全そうですから」
「……あの、何をお考えなのです。先ほどからずっと黙り込んでいるようですが?」
「ああ、御気になさらないで下さい。こちらの用事でしてね」

 貴女が知る必要が無い情報だという事です。暗にそう言っているように思えてマリューは不快そうに一瞬だけ表情を動かしたが、すぐにそれを収めるとアークエンジェルをEフィールドよりに動かした。艦載機がそちらに敵を追っており、万が一に備えて艦を寄せておこうと考えたのだ。

「カズィ、第10任務部隊に深追いするなと伝えて。ミリアリア、MS隊の状況は?」
「全機健在です、フラガ少佐がEフィールドで敵の新型と交戦していて突出していますが、キラが援護に向かっています」
「そう、無理しなければ良いんだけど」

 フラガの身を案じてマリューはそう呟いた。必ず帰ってくると何度も自分に約束した、あの浮気性の婚約者が今回もちゃんと帰ってくると期待して。




 WフィールドからSフィールドに脱出しようとしている艦隊はウィリアムスの指揮の下、どうにか秩序を取り戻してSフィールドに脱出しようとしていた。ウィリアムスはカトゥーンの艦橋で必至に艦隊を統率し、どうにかボアズから脱出させられるという確信が持てる所まで持ってこれて安堵していた。惨敗だが、生き残りは逃がしてやれるという自信がもてたのだ。

「よし、このままボアズから脱出する。マーカストとアンヌマリーにも撤退しろと伝えるんだ!」

 カトゥーンは最後尾について撤退を援護する体勢をとっている。Eフィールドからも同じように輸送船団が脱出を試みていることは確認されており、これと合流してプラントを目指すのがウィリアムスの目標だ。戦術モニター上のマーカスト隊とアンヌマリー隊を示す光点は交戦を中止して離脱を始めており、任せておけば上手く逃げてくれるだろう。後はこのまま脱出するだけ、そう思っていたのだが、オペレーターの絶叫がウィリアムスの思考を中断させた。

「地球艦隊からミサイルが大量に発射されました。こちらに向かってきます!」
「長距離ミサイルなど恐れるな、当たりはせん!」

 NJ干渉下では誘導兵器の効果は限定される。長距離ミサイルが封じられたからこそMSは艦隊に近づくことが可能になったのだ。最も赤外線や画像、レーザーなどは使えるので近づけばミサイルに襲われるのだが。
 今回もその原則は覆されることなく、長距離から放たれたミサイルはその悉くが空振りに終わるかと思われたのだが、ザフトは徹底的に死神に好かれていたらしい。あるいは戦争の前半で幸運を使い果たしてしまったかだ。
 当たる筈の無い長距離ミサイルがよりにもよってカトゥーンを直撃したのだ。最初の直撃弾が艦首に閃光を生み出し、衝撃にナスカ級の特徴的な鋭角な船体が仰け反り、クルーを衝撃で揉みくちゃにする。艦橋も例外ではなく、ウィリアムすらも突然の衝撃に弾き飛ばされ、壁や天井に叩きつけられている。その激痛に顔を顰めながらも、ウィリアムスは艦長を見た。

「艦長、艦の姿勢を保て、このままでは!」
「直撃、また来ます!」

 オペレーターの悲鳴が艦橋に響き、誰もが恐怖に引き攣った顔で敵艦隊の方を見る。その直後カトゥーンの船体に続けて2つの閃光が走り、3箇所が大きく抉られたカトゥーンは搭載していた可燃物に引火したのか、すぐに炎を噴出してそのまま1つの光へと変わってしまった。
 カトゥーン撃沈、その知らせはたちまちザフト艦隊の中を駆け巡り、脱出中のマーカストからも確認できて、乗艦であるシエラの艦橋で呆然としてしまっていた。

「まさか、ウィリアムスが戦死?」
「提督、どうなさいますか?」
「あ、ああ、そうだな……いや、このまま離脱だ、急げ」

 胸の内に戦友の敵を取ってやりたいという感情が湧き上がっていたが、マーカストはそれを押さえ込むと全軍を撤退させた。今ここで反転しても何ほどの戦果もあげられないことは明白で、彼に出来ることは残存部隊を無事にここから逃がすことだけだ。それこそが戦友に報いる道だと信じて、マーカストは艦隊を脱出させることに全力を挙げることになる。




 カトゥーン撃沈の知らせはメネラオスのハルバートンの元にも届いていた。ホフマン大佐から聞かされたハルバートンは艦隊陣形を広げる為の指揮をする口を止め、黙って逃げていくザフト艦隊に視線を向けている。その顔には何処か寂しげな色が浮かび、心配してホフマンが声をかけた。

「あの、どうかされましたか提督?」
「ああ、いや、なんでもない。そうか、ウィリアムスがな」

 ハルバートンは何やら肩を落とし、何やら残念そうな顔をしている。そしてやはり寂しげな顔で姿勢を正すと、もはや存在しないライバルに向けて敬礼をした。

 だが、次の瞬間異変が起きた。いきなりWフィールドに展開していた艦艇群の一部が瞬間的に生じた光に飲み込まれ、次々に溶解、爆発していってしまう。それが何であるのか、誰も咄嗟には理解できなかった。
 照射時間はほんの僅か、数秒にも満たぬ間であっただろうが、その一瞬で艦隊の一部が丸まる消滅してしまった。MSやMAは言うまでも無い。艦隊の中に一瞬で生まれた空白に地球軍の将兵は誰もが声を無くし、動きを止めてしまっていたのだ。

「な、何が起きたんだ?」
「第7艦隊が、壊滅した?」
「母艦が消えちまった……何がどうなってるんだよ!?」

 第2集団に混乱と恐怖が広がっていく。各部隊の息官たちは必至にそれを静めようとしているが、効果は出ているようには見えない。
 そんな混乱の中で、ハルバートンは何が起きたのかを悟っていた。これがサザーランドが言っていたジェネシスなのだと。

「1個艦隊を一撃で壊滅に追い込むとはな、サザーランドの情報通りというわけか」
「提督、第7艦隊の被害は甚大です。旗艦ワシントンも撃沈の模様!」
「ワシントンもか。それで、第7艦隊の状況は?」
「まだ集計が出ておりませんが、半数は沈んだかと。残りの艦も何らかの被害を受けており、混乱しています。これでは追撃どころではありませんぞ」

 1個艦隊が一撃で使い物にならなくなったという状況にホフマンは顔色を青ざめさせている。元々胆力のある男ではないが、こういう時にそういう焦りを見せられるとどうにも困ってしまう。
 だが今回はハルバートンも彼を笑えなかった。余りの破壊力にハルバートン自身もどうすれば良いのか分からなくなっていたからだ。



 そして少し離れた所からは、ハルバートンとは違う理由で呆然としている男が居た。そう、クルーゼだ。

「どういう事だ、何故ジェネシスがボアズを外した。あれではまるで撤退を援護したかのようではないか!?」

 彼の予定ではボアズはジェネシスの直撃によって内部の守備隊ごと崩壊する筈であった。それによってザフトの将兵の評議会と議長に対する信頼を完全に失わせ、状況をよりめちゃくちゃにしてしまうことが彼の計画であったのに、これでは全く逆の効果となってしまう。地球艦隊はジェネシスの照射によって大きな被害を出し、動きが止まっている。アレならザフトの残存艦隊はどうにかプラントに脱出できてしまうだろう。

「エザリアに一体何があったというのだ。ゼムは何をしている、何故ここまで来て予定が崩れる!?」

 一体何が自分の計画を阻んだのだ、誰が妨害したのだ。そういう疑念がクルーゼの中を埋め尽くし、どす黒い感情が支配的になる。そしてこうなった以上一刻も早くプラントに戻り、防衛作戦の主導権を握らなくてはいけないということに気付いて急いでカリオペに戻ろうとしたのだが、その一瞬の隙を突くように繰り出されたセンチュリオンの至近距離からのビームライフルがプロヴィデンスの右腕を肘から吹き飛ばしてしまった。これでビームサーベルも失われてしまう。

「動きが鈍いぜ、クルーゼ。もうビームサーベルは無いぞ!」
「ムウ、何処までも忌々しい男だな貴様は!」

 センチュリオンのビームライフルが更にプラズマビームを発射し、プロヴィデンスの背中にあるドラグーン運用ユニットを半ば抉り取る。これでドラグーンはほとんど使えなくなったろうが、どうせ大半がフライヤーとの交戦で失われているので今更影響は無かった。そしてクルーゼはシールドの最下部から極太のビームサーベルが伸び、センチュリオンの右胸部に突き込まれて装甲が熱量を吸収し、強制冷却システムが機外に熱を吸収したガスを排出していく。だがその抵抗も空しく、ビームサーベルは胸部右側の装甲を貫いて左腕を肩から溶かし落としてしまった。ビームに対しては圧倒的な防御力を持つはずのセンチュリオンのラミネート装甲を容易く破ったことから見ても、このビームサーベルの破壊力が絶大であることが伺える。
 エネルギーリバースでも起きたのかコクピットの中に小さな爆発が発生し、爆ぜたパネルや機器にフラガが顔を顰める。

「手前、その変なビームサーベルは無くなったんじゃなかったのかよ!?」
「使い難かったのでビームサーベルを追加しておいただけさ、使わなかっただけで外した訳ではないよムウ」

 隠し武器は最後まで取っておくものだ、笑いながらそう答えて、頭部の76mm機関砲を発射してセンチュリオンの機体を容赦なく撃ちまくった。幾ら強固な装甲とはいえセンチュリオンの装甲はラミネート装甲であってPS装甲ではない。対弾性能はPS装甲機やTP装甲機に較べて劣るのは否めない。それにどんなMSも完璧に装甲化されている訳ではなく、当然装甲の無い隙間もある。そうで無いと動けない。
 至近距離からの76mm弾の猛襲に各部を抉られ、ボロボロになるセンチュリオン。クルーゼは攻防盾のビームサーベルで止めを刺そうかと考えたが、唐突に鳴り響いた警報に反射的に機体を動かしてその場から移動した。そして機体の真横を荷電粒子の塊が通過していき、粒子を浴びた機体右側の一部が焼け爛れる。
 その威力を見て、やってきた新手がなんであるのかを察したクルーゼは苦笑いを浮かべて新手を見た。

「遅かったね、キラ・ヒビキ君」

 粒子ビーム砲を構えて真っ直ぐ突っ込んでくるデルタフリーダム。プロヴィデンスをセンチュリオンから引き離す為に更に2発発射し、カートリッジを交換してフラガの援護に入ろうとしたが、映像を確認したキラは一瞬声を無くしてしまった。センチュリオンの様子は、どう見ても大破と呼べる状態であったから。
 まさか、もうフラガは。最悪の想像がキラの脳裏を掠め、フラガの名を呼ぶ絶叫がコクピットに響き渡った。



後書き

ジム改 遂にジェネシス発射されました。
カガリ 1個艦隊、少なかったと言えるのか、多かったと言うべきか。
ジム改 まあ原作に較べれば被害は少ない。でも追撃戦の段階だと思えばでかいな。
カガリ でもまあ、これでボアズも終わりだろ。
ジム改 うむ、次はボアズからの撤退戦くらいだな。次はオーブ軍も出てくるぞ。
カガリ つまり、私の死亡フラグはまだ消えてないのか!?
ジム改 この状況では誰が突然死んでも不思議ではないけどな。
カガリ いや、私にはまだやることがある。だからここでは死ねんのだ!
ジム改 やる事?
カガリ 決まっている、次回作とか外伝とか、まだ仕事は残ってるんだ!
ジム改 いや、外伝はともかく次回作なんて予定に無いし。
カガリ 無いのか?
ジム改 ガンカノもあるから。だからここで戦死しても何の問題も……。
カガリ ふざけんなあ!
ジム改 では次回、クルーゼと激突するキラ、ジェネシスに地球軍は大混乱に陥り、統制が取れなくなってしまう。そんな中でカガリはオーブ軍をまとめて追撃に移ることに。イザークたちは迫る大軍を必至に食い止めていたが、数が増える一方の敵に押し込まれ、遂に通信が途絶してしまう。傷付きながらも回収ポイントに到達したオルマト号は、戻らぬガルム隊をただ待ち続けていた。次回「約束の場所」でお会いしましょう。


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